復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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これでマジで串刺し世界編は終わりです。

会話文多めです。


ワルキューレたち

 シュンと一角竜となったショアラとの激闘、更に通過点で行われているチーフとマリの戦闘の影響で、ブラン城は揺れに揺れ、幾つかの部屋が倒壊していた。

 

『予想以上に侵入者と領主様が激闘を繰り広げているようだ! このままでは城が崩壊するかもしれない! 直ぐに脱出の用意だ!!』

 

「母様と侵入者が…あの緑の騎士様は約束を…?」

 

 ルカの部屋も例外では無く、上階で行われている戦闘の影響で一部が倒壊した。外から聞こえて来る怒鳴り声に、ルカはチーフが約束を守っていないことを知る。

 

「でも、あの人は…」

 

 耳にした情報では確かな確証は得られない。

 そう考えるルカは、確証を得るためにこの部屋の出入り口を見た。先ほどの崩落の影響か、ドアが拉げ、いつでも部屋の外へ出られる状態になっていた。

 

「でも…良いのかしら…?」

 

 自分を大切に思う母と、チーフは安全が確保されるまでこの部屋から絶対に出るなと言われている。

 その約束を破って良いのだろうか?

 そう思うルカは迷っていたが、安全と思われた自分の部屋であるが、ここもいつ崩落するか分からない。

 

「安全な…場所なんて無い…!」

 

 自分の決断で、ルカはこの部屋を出ることを決心した。

 拉げたドアは、彼女の小さな体でも易々と通り抜けられるほどのスペースがある。迷い無しに彼女はそこを通り、自分にとっては牢屋のような部屋を出た。

外に出れば、衛兵に止められると思ったが、配置された衛兵らは、落ちて来た天井の瓦礫の下敷きとなり、皆息絶えていた。

 

「ごめんなさい」

 

 瓦礫の下敷きとなって死んでいる衛兵たちに謝りながら、彼女は母が居る領主の間へと進んだ。自分の行く手を阻むものは瓦礫のみであり、母の部下たちはみな落ちて来た瓦礫の下敷きとなって、先ほどの衛兵らのように息絶えている。召使たちも含めてだ。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

不運な者達に対して謝罪の言葉を呟きながら、ルカは瓦礫を避けながら領主の間を目指す。

 

「あの緑の騎士様と誰…?」

 

 通過点近くまで来れば、チーフがマリと激闘を繰り広げており、彼が約束を守っていない事実を知って呆然とする。

 その場でチーフになぜ母を助けないのかを問い掛けようとしたが、自分でも分かるように、ここから飛び出せば、巻き込まれてしまうかもしれない。

 それにチーフはシュンと戦った時よりも衣服が神秘的な物に変わり、武器を剣から槍に持ち替えたマリを相手に苦戦しており、ここで声を掛ければ彼を殺してしまう。

 

「駄目だわ…ここで声を掛けたら…あの人殺されちゃう…」

 

 マリの一方的な攻撃を避け続けるしかないチーフに声を掛ける事も出来ないルカは、二人が戦闘に夢中になっている隙を見計らって、領主の間へと駆け込んだ。

 

「ん…?」

 

 吹き飛ばされて壁に叩き付けられたチーフは、領主の間へと駆ける裸足のルカの姿を見たが、それを追う暇も無く、マリが放った無数の光の槍を避けるのに必死で、見失ってしまう。

 

「気のせいか…!」

 

 それを気のせいだと思い、チーフはライフルを握り、女神とも言える衣装を身に纏い、宙に舞っているマリに向けて銃弾を撃ち込んだ。

 

 

 

『ぐ、ぐぉぉ…奴め…一体何を…!?』

 

 一方、領主の間で激闘を繰り広げていたシュンと一角竜の姿となったショアラは、もはや瀕死の状態である相手が放った予想外の反撃に、自慢の一角が折れ、重傷の身であった。

 直ぐに回復魔法を唱え、何とか出血を抑えることが出来たが、榴弾を至近距離で撃ち込まれ、焼き爛れた顔の右半分に、失った左手と一角は元には戻らなかった。それでも、瀕死の状態のシュンを殺すことは出来る。回復魔法で応急処置を済ませたショアラは、瀕死のシュンを探し始めた。

 

『何所だ…? 何所に居る…? あの傷では、まともに立つことは出来もせんはずだ…』

 

 瀕死の状態となった男は、そう遠くまで行け無いはず。

 そう思っているショアラは、よく目を凝らして瀕死寸前の男を探す。

 

「母様…?」

 

『…!? る、ルカ…!? そんな筈は…』

 

「もしかして…母様なのですか…?」

 

『っ!?』

 

 瀕死の男を探している最中、自分の最愛の娘の声が聞こえた。それを戦闘の疲労で聞こえる幻聴か空耳かと思い、聞き流していたが、自分に取って聞き慣れたその少女の声は、幻聴でも無く空耳でも無い確かな娘の声であった。直ぐに、声がした方向へ振り返り、その正体を確かめた。

 

『る、ルカ…! 何故ここに…!?』

 

「か、母様の声…やっぱり! でもその姿は…!? まるで化け物…!」

 

『こ、これは…!』

 

 竜の姿となった母の姿を見て恐怖を覚えたルカは、口を両手で抑え、後退り始める。

 自分の姿を見て恐怖する娘の姿を見たショアラは、何処かへ姿を消した瀕死のシュンの存在を忘れ、良いわけの言葉を思い付く限り考え、それを口にしようとするが、この姿をルカに見られてかなり動揺しているため、上手く言えず仕舞いだ。

 そんな母と娘の間に、シュンがショアラの前に姿を現し、娘のルカを人質に取り、再装填を終えた擲弾発射器を空いている右手で構え、それを竜となっている人質の母に向けて放つ。

 

『グァァァ!?』

 

「母様ぁ!!」

 

「硫酸弾だ…! じっくりと化粧を落としな…!」

 

 娘を人質に取られて手が出せなかったショアラは、顔面にシュンが放った硫酸を浴び、凄まじい痛覚を感じながら苦しみ悶える。

 

「ひ、卑怯者!」

 

「何とでも言いな。こりゃ戦争なんだ、嬢ちゃんよ。どんな手を使おうが、勝ったもん勝ちなんだよ。世の中の仕組みを良く勉強しな」

 

 人質に取っているルカから非難されたが、シュンは苦しみ悶えるショアラの姿を見ながら、どんな手を使っても勝利した者が正義であると少女に告げる。

 

『お、おのれぇ…我が娘を人質に取るなど…やはり下郎であったか…!!』

 

「下郎で結構だ。俺はどんな手を使っても、辿り着かなきゃならねぇんでな」

 

『グッ…!』

 

 硫酸を回復魔法で振り払ったショアラは、卑怯な手段に出たシュンを娘と同様に非難しながら怒鳴り付けたが、その卑怯な男は依然として娘であるルカを離さず、首元に左手に握られたナイフの刃を突き付けながら、擲弾発射器に次弾を装填し、睨み付ける竜に砲口を向ける。

 

「動くんじゃねぇ、あんたの大事な娘の首に、こいつが突き刺さっちまうぜ」

 

『なんと下劣な…』

 

 依然としてルカを人質にするシュンに対し、ショアラは何の手も打つことが出来ず、一方的に嬲殺しにされようとしている。かつて自分が殺して来た敵兵達や罪人たちのように…。

 二発目が直ぐに発射する引き金が引かれ、発射された弾頭が頭部に命中する。今度は硫酸では無く、榴弾だ。着弾したのは至近距離で榴弾を受けた顔の右半分であり、かなりの激痛を感じ、思わず、床に腹を付けてしまう。

 

『くぁぁぁ!!』

 

「母様ぁ!!」

 

 苦しむ母の姿を見て、ルカはシュンを睨み付け、ありとあらゆる抵抗を見せるが、強い力で小柄な身体を抑え付けて動けないようにさせる。

 しかし、ただ嬲り殺していては、ネオ・ムガルとの関係性を聞けないと判断してか、シュンは殺す前に、件の組織と繋がっているかどうかショアラに問い始める。

 

「おい、殺す前に聞いておく。ネオ・ムガルとか言うクソ共を知ってるか? 言わねぇと楽に殺さねぇぞ」

 

 どちらにせよ、殺されるので、ショアラはその問いに答えなかったが、シュンがもう一度放った榴弾を受け、これ以上は嬲殺しにされたくないと思い、ネオ・ムガルの事を喋り始める。

 

『がぁぁぁ!! 分かった、話す! 奴らから近付いてきたのだ! それから定期的に強化剤が送られ続けている!! 連中は我がワラキアを傘下に加え、ワルキューレの領内侵攻の橋頭保としようとしたが、我らはそのような連中の傘下に入るつもりは毛頭も無い! 貴様も知っての通り、連中の小物の一人を公開処刑した! 最初はドクトルやドクターなる人物が居たが、三カ月もしないうちに来なくなった!! それだけしか我は知らん! 知らんのだ!!』

 

 自分の知っていることを全て告げれば、シュンは擲弾発射器を小物袋に戻し、背中の大剣を抜き、ルカを人質にしながら近付こうとする。

 

「そうか。ありがとよ、婆」

 

 余り大した情報は得られなかったため、今までこの星の領主に殺されて来た者達の分や、自分の腹いせも含めて瀕死のショアラを大剣で殺そうとしたが、左腕から鈍い痛覚を感じる。自分の左腕を見てみれば、ルカが必死に自分の腕に噛み付き、必死に拘束を解こうとしていた。

 

「噛み付いて俺が手を離すのを待ってんのか…嬢ちゃんの小さな口じゃ、俺の肉は食い千切られねぇぜ。アンデッドにでもならねぇ限りな」

 

 必死に自分の左腕に噛み付き、拘束を解こうとするルカの姿を見たシュンは、その小さな顎と口では自分の肉を噛み千切れないことを忠告し、脅しのためにナイフを頬に近付けて少し切り付ける。

 

「ぐぅ、ぐぅぅ!」

 

 頬を切り付けられても、自分の左腕の肉を食い千切ろうとする少女に対し、シュンは黙らせるために大剣を床に突き刺して、右手で拳骨を作って頭を殴り付けようとしたが、ショアラの様子がおかしい事に気付く。

 

「おい、あんたも俺の真似か?」

 

『そうだとも…! これ程の屈辱を味わらされて、ただで死ねるものか…!』

 

 メンツがあるのか、ショアラは榴弾の痛みを回復魔法で癒し、シュンの問いに答えながら立ち上がる。どうやら、自分にとっては使いたくない奥の手を使う様子だ。

 

『この手を使いたくは無かったが、もうこのカード一枚しかないだろう…!』

 

「婆、なにをする気だ…!?」

 

『あぁ、そうだとも。貴様の憎きネオ・ムガルが渡して来た強化剤を使うのだ。これを使えば、ワルキューレから反逆罪と捉えられ、ワラキアに粛清部隊が送られることだろう…だが、死なば諸共よ…!』

 

 どうせこの手を使えば、反逆罪でワルキューレから追放、あるいは死刑は免れぬ事は分かっているため、シュンを道連れにする勢いで、ショアラは奥の手を使おうとした。それを分かっているのか、シュンはルカの頬にナイフを突きつけて止めさせようとする。

 

「おい、こいつが見えてねぇのか婆! こっちはあんたの娘を人質に取ってんだぞ!!」

 

 ナイフを突き付けながら言えば、ルカも自分の母親に早まらないように言うと思っていたが、展開はシュンの予想を遥かに上回る物であった。

 

「良いわよ、母様! 私事やってしまって! どうせ母様が邪悪な力を使って反逆罪に掛けられて追放されるか死ぬのなら、私も死んだ方がマシ!! 私もイオアン兄様の仇を取れるなら、それで本望よ!!」

 

「この餓鬼! 何言ってやがる!? どういう教育してんだ婆!!」

 

 なんとルカは、自分ごと母親にシュンを殺してくれと告げているのだ。

 そのとんでもない言葉を聞いたシュンは焦りを見せ、ショアラに娘に対して洗脳に近い教育を施したのではないかと問い詰める。

 流石の母であるショアラも、娘ごと敵を抹殺することになれば、ネオ・ムガルからの貰い受けた秘儀を使うことを躊躇し始める。

 

『る、ルカ…何を言って…!?』

 

「もう一人ぼっちにされるのは嫌! どうせ死ぬなら、母様と一緒が良い!!」

 

『る、ルカ…!』

 

 ルカの言葉に、ショアラはその禁じられた秘儀を使うことに決心がついたようだ。

 

「親子の心中に付き合わされるなんざ、まっぴらごめんだぜ!!」

 

 相手が遂に決心を決めた為、シュンは自分の左腕を強く掴んでいるルカを振り解こうとしたが、彼女は噛み付いてまで離れようとしない。そればかりかここで抑えようと、必死に足を床に付けようともがいている。

 

「離れろぉ! テメェの母親は俺ごとテメェを殺そうとしてんだぞ!!」

 

「母様の敵を倒せるなら、この命は惜しくないわ!」

 

 何とか説得しようとするが、ルカは敵に耳を貸さず、必死にシュンをこの場に縛り付けようと左腕を掴む両手を強める。

 

『ルカ…ごめんなさい…!』

 

 必死に相手を縛り付けようとする娘を見たショアラは、異形の姿となってもその瞳から涙を流し、禁術を解放しようと、術式を唱え始める。

 

『第一封印解放、第二封印解放…第三封印、解放…最終封印…解放…封印されしその禁断なる力よ、我にその力を授けたもれ!!』

 

 詠唱を言い終えたが、自分の身体には何の変化も無かった。

 身構えていたシュンは少し呆然とし、ルカは何が起きたのか理解できず、呆けている。

 

『ば、馬鹿な…!? ちゃんと封印式は解放したはず! なぜ力が湧いてこんのだ!?』

 

 全ての封印式を解放し、その力の解放したはずであるが、何の変化も無い事に、ショアラは驚きを隠せず、ここには居ない自分にこの力を授けたネオ・ムガルのドクトルなる人物に、激しい怒りをぶつける。

 

『おのれ! よくも騙したな!! 許さん、絶対に許さんぞ!! 魂魄何百万回生まれ変わっても、必ずやこの恨みを…!』

 

「いえ、貴方はその敵の力を使うことは出来ます」

 

『っ!?』

 

「誰だテメェ!?」

 

 怒りの言葉を聞こえぬ相手に吐き出すショアラに対し、この場に居る三人以外で別の男、それも好青年のような声が聞こえた。その声が聞こえた方向に向け、シュンはまだ撃つことが可能な自動拳銃を引き抜き、銃口をそちらに向ける。

 銃口の先に居たのは、声が似あう容姿をして、神殿に努めるような衣装を身に纏った青年であった。

 

『お、お前は…!?』

 

「ヴァルハラの戦乙女たちと我がワルキューレの幹部たちが、貴方たちをお呼びになっております。突然で失礼しますが、早速ヴァルハラへと行かせて頂きますね!」

 

 ショアラの問いに有無を言わさず、青年は右手の指を鳴らし、シュンとショアラ、そして娘のルカを何処か別の世界へと一瞬で転移させた。

 

 

 

「一体何所だここは!?」

 

 青年のマジックによって、シュンとルカ、竜の姿となっているショアラは、半壊状態の領主の間とは全く違う別世界へと来ていた。その世界の空は金色であり、神々しく輝いている。足元を見れば、まるで絵画に描かれるような神聖的で正確に並べられた床のタイルが見える。周囲を見渡せば、美しい像や支柱が綺麗に並べられている。

 この神聖的にも見える別の世界へと連れてこられたシュンは、自分等をこの世界に連れて来た青年に対して怒鳴るように問い詰める。その成人男性でも怯える険相で問われた青年は、何の恐怖感も抱くことなく、子供のように無邪気に答える。

 

「はい、ここはグランズヘイムにあるヴァルハラです。そして私の名は、神官見習いのギュルヴィと申す者であります」

 

「お前の名前なんて聞いてねぇよ! この訳の分からねぇ世界になんで俺が呼ばれたかを聞いてんだ!」

 

 自分の名まで答えるギュルヴィと名乗る神官見習いに対し、シュンは何故、自分まで呼ばれたかを問う。その問いに対し、ギュルヴィは少し困惑した表情を浮かべながら後ろへ瞳を動かしながら答える。

 

「はぁ、そうおっしゃられましても…勝手に来た方も居ますので…」

 

「あぁ!? 勝手に来ただぁ? あっ!?」

 

 彼に怒鳴りつつ、瞳が向いた方向を見れば、そこに自分にとってはとんでもない人物が居た。

 

「あれ、なんでこんな所にも居るの? この緑も一緒に来るなんて…」

 

 その人物は、チーフが戦っている筈のマリであった。服装はチーフとの戦っていた時の女神的な衣装であり、右手に握られているのはあのバスタードソードでは無く、刀身と柄が光り輝いている槍だ。そして押し付けていたチーフは、強過ぎる相手を負かせたためにボロボロであるが、まだ戦える状態だ。

 

「騎士様!?」

 

 そのボロボロのチーフの姿を見たルカは、驚きの余り声を上げた。当の本人であるチーフは、出来ない約束をしてしまったことを後悔し、頭を抱えながら謝罪する。

 

「あぁ、クソッ…君か…本当に済まない…約束を守れなくて…」

 

「信じてたのに…! やっぱり連邦はみんな…」

 

「女の子泣かすなんて、最低ね、あんた」

 

 信じていた人物が約束を守っていないことを知り、涙するルカを見たマリは、自分と激闘を繰り広げていたチーフに対して、心無い言葉を掛ける。

 そんな三人を他所に、青年は彼らを呼びつけるように命じた者達が来たと告げ、同時にショアラに対する裁判が始まったことを告げる。

 

「お取込み中の所、申し訳ないのですが、貴方たちをこの地に呼ぶよう私に命じた方達がお越しになりました。そして惑星ワラキアの領主であらせられるショアラ・シルヴァニア嬢、貴方の裁判も同時並行で行われますので」

 

『さ、裁判…!? まさかあの禁術の解放を…!?』

 

「どうやらその様子で…あっ、来ましたよ!」

 

 自分の禁術解放が知られたと分かり、ショアラは動揺を覚え、近くに居る娘に視線を向ける。

 これから反逆罪を犯した自分にどのような判決が下されるか、娘のルカは無事なのか、そんな不安がショアラの心境を支配する中、ギュルヴィがシュン達を呼び出した者達が姿を現したことを告げた。

 その者達が姿を現した瞬間、無風であった世界に突風が巻き起こり、シュン達は思わず顔を手で防いでしまう。竜の姿となっているショアラでさえ、巻き起こる風に耐え切れないでいる。

 

「こ、これは…夢か…?」

 

「いや、ちげぇ…こりゃあ…現実だ…!!」

 

 目の前に見える四名の北欧神話に登場する戦乙女、ワルキューレの生の姿を見たチーフは、これは夢なのではないかとシュンに問う。そのシュンは、ショアラとの激闘で感じる痛みから、これが現実であると答える。マリはここに来たことがあるのか、神に裁かれると思って恐れるショアラとルカとは違い、動じることなく四人の戦乙女を見ていた。

 他に十六名の大半が若い男女の姿が見え、シュン達をあざ笑うかのように眺めている。四人の戦乙女とその十六人の姿を見たシュンとチーフは、伝わってくる並々ならぬ気配に絶対に勝てない相手だと思い、黙って彼らを見ているだけだ。

 これから裁判だと思って、何名かは退屈していたが、一人がようやく口を開く。

 

「あー、呼ばれた理由、分かってる?」

 

「は、はい…」

 

 四人のワルキューレの内、一人が竜の姿となっているショアラに向けて問えば、彼女は怯えながら返事をする。余りの軽さにショアラは呆気に取られたが、その戦乙女が彼女の返事を聞けば、早く終わらせようと、判決を下そうとする。

 

「分かってる様子だねー。んじゃ、めんどくさいんで、反逆罪で死刑にしちゃい…」

 

「ルリちゃんは何所?」

 

「ちっ、空気読めないねー。今、判決下そうとしてんのに、KYなの? つか、勝手に来た分際で何言っちゃてるわけ?」

 

 反逆罪の罪で、ショアラを死刑に処そうとしたが、マリが割り込んで来たため、判決を下そうとした戦乙女は舌打ちし、勝手に来て突然自分の探し人であるルリの居場所を聞いてくる彼女にその態度は無いのではないかと機嫌を悪くしながら問う。

 

「こんなデカいトカゲになってる婆の事なんてどうでも良いから。それよりルリちゃんは何所なの?」

 

「おいおい、それが久しぶりに来て、何の詫びの言葉も無しに掛ける言葉かよ」

 

 ショアラの事などお構いなしにルリの居場所を問い掛けて来るマリに対し、十六人の態度の悪そうな碧い髪の青年が声を掛けて来る。それに対してマリは、殺気に満ちた睨みで返し、黙らせようとする。

 

「あんたには聞いてない」

 

「相変わらず態度も礼儀も弁えていない女だ。貴様の大事な‟人形‟が逃げ出した原因は、その性格の所為なのでは?」

 

 碧い髪の青年に冷たく当たったマリの姿を見た全身を漆黒の衣装で覆っている狼の仮面を着けた女性の一人が、彼女を煽るような言葉を掛ける。

 

「今なんて…?」

 

「ふん、感情も制御できぬゴミめ…お前のお気に入りの人形と表したのだ」

 

「この裏切り婆…!」

 

 狼仮面の挑発に乗ったマリが彼女に向け、攻撃魔法を唱えているのを確認した白い軍服のような衣装で身を包み、貴公子のような風貌を持つ長髪の美青年が四人の戦乙女に発言の許可を求む。

 

「ヴァルキュリャ殿、この二人の小競り合いを抑えるため、発言の許可を頂きたい」

 

「よしなに。これ以上滅茶苦茶にされうのは面倒だから」

 

「畏まりました。ブランシュバイクにヴァセレート、双方とも剣を収めよ。この場は公平な裁判であるぞ!」

 

 戦乙女からの許可が下りれば、存分に青年は腰から抜いたサーベルの剣先を向けながら、マリと狼仮面に武器を下げるよう告げる。この美青年の宣告は、一般の者達なら何の抵抗も無く平伏す程であるが、二人は余り効果が無い様子だ。だが、これを警告と受け取ってか、ブランシュバイクと呼ばれる狼仮面の女性は腰のベルトに差し込んであるサーベルから手を離し、両手を黒いマントの中に隠す。

 マリの方はと言えば、ここで一戦交えようとしていたが、戦えばこの場に居る者達を全員相手にすると判断して、彼女もブランシュバイクと同じく武器を下ろした。

 

「ありがと、ヴァーラス。じゃあ、判決下しちゃおっか」

 

 一戦を起こすこと無く収めたヴァーラスに例の言葉を言えば、ショアラの判決を下そうとしたが、ようやく勇気を振り絞ったのか、ルカが異議を唱えた。

 

「待ってください女神さまたち! なんで母様が反逆罪で罰せらなければならないのですか!? 母様は自分で手に入れた力であの悪党を倒そうとしただけなんですよ!?」

 

 この意義が来ると分かっていたのか、粗暴な風貌の十代後半の青年が後頭部を掻きながら面倒くさそうに、ルカまで連れて来たギュルヴィに苛立ちをぶつける。

 

「へっ、来ると思ったぜ。どうしてこの小娘まで連れて来たんだ? そこのパツキンの女と緑は兎も角、ほんとお前はドジな奴だな、ギュルヴィ。御かげで長引いちまうじゃねぇか」

 

「申し訳ございません、トネリコ様」

 

 ギュルヴィが謝罪したのを確認すれば、ルカに母親がどうして反逆罪の罪に問われた理由を分からせるためか、トネリコと呼ばれる粗暴な青年は、右手で輪を描き始める。

 

「ちょいとその年の餓鬼には刺激が強過ぎるが、こんな茶番劇を早く終わらせるためだ、許せよ。これが、おめぇの母ちゃんが反逆罪に問われた理由だ」

 

 少し幼い少女であるルカに申し訳なさそうに、トネリコは描いた輪に何らかの映像らしき物を映し出し始めた。

 その映像を見たショアラは驚愕し、それを娘のルカに見せようとするトネリコに、どのような経緯で知ったのかを問い始める。

 

『こ、これは…! 一体何所で…!?』

 

「あんたが俺らに反逆罪で問われた理由を知ってもらうためだよ。俺ぁ、色々と記録を映像化できる能力を持ってんだよ。HDリマスターより高画質って自負してるくらい自身あんだよ。ただし、過去に限るがな。嬢ちゃんにはちょいとトラウマ級だが、これも全部母ちゃんのあんたが俺らに黙って訳の分からねぇ連中から力を貰った所為なんだぜ」

 

『お、お止め下さい! この記録は娘にどれほどのショックを与える事か!!』

 

 トネリコが自分の忌まわしき過去を能力によって映し出された映像によって娘に見せようとしているのを知ったショアラは、それを必死に娘に見せまいと、自分よりも遥か上の存在である者達に牙を向ける勢いで止めようとしたが、ヴァーラスによって意図も容易く止められた。

 

「往生際が悪いぞ、反逆者め」

 

『お、お願いです! どうかこの子にその記憶は…!』

 

「もう遅ぇよ、始めちまったもんは仕方ねぇ。さぁ、嬢ちゃん、覚悟して見ときな」

 

 背丈185㎝以上の青年にその巨体を片手だけで止められているショアラは、何としても娘に多大な精神的なショックを与える自分の忌まわしき過去を見せまいと、ルカの元へ向かおうとするが、まるで金縛りにあったかのように全く動けず、ただ娘がそれを見ているのをその場から眺めているだけだ。

 

「こ、これは…何…?」

 

 自身の目の前に出された映像を見て、ルカはショックを受けながら近くに居る人物に問う。

 いつの間にか十六人の席から外れた少女が、ルカの近くに寄り添い、その問いに答えた。

 

「ルカルカのママが悪魔に魂を売った原因だよ」

 

「そう、嬢ちゃんの母ちゃんが悪魔に魂を売っちまった瞬間だ。最初は知っての通り、嬢ちゃんの兄ちゃんの嫁さんと娘が都市同盟とか言う傀儡共に恵み物にされた挙句、娘が死んじまった所だ。ふぅ、胸糞悪いことしやがって、あの場に俺が居れば、全員とっ捕まえて火炙りにしてやるんだがな」

 

 少女が答えれば、トネリコが今映っている映像をルカにも分かり易ように言えば、自分もイオアンの妻子を散々屈辱して死なせた都市同盟に怒りを感じずにはいられなかったことをルカに告げる。

 

「こいつは、兄ちゃんの嫁さんが自殺する瞬間だ。あんなにされちまったんだ、死にたくなる気持ちは分かるぜ。でっ、こっからはトラウマもんだ。覚悟しとけよ」

 

 イオアンの妻が自殺する瞬間の映像が映れば、やや涙を浮かべているトネリコが、次の映像こそルカに取って精神的に多大なダメージを与える物であると警告する。その警告に対し、ルカは黙って映像を見ているだけであった。

 

「で、嬢ちゃんの母ちゃんの前領主である父ちゃんはと言えば、息子の嫁さんが自殺したのにも関わらず、同盟の連中にワラキアを売り込んでそれなりの地位を得るべく、裏切ってやがったんだ。母ちゃんがキレるのも無理がねぇぜ」

 

 次に映る映像は、妻子を失ったイオアンが泣き崩れ、それを慰めているショアラとルカを他所に、同盟軍のスパイらしき人物と会談を行う彼女の父の姿が映っていた。

 これを見たルカは少なからずショックを受け、思わず口を塞いでしまう。彼女にとってワラキアの前領主である父は、優しくてたくましく、偉大な父であったが、まさか一家が大変な時期に、敵方と通じていたと知り、この映像が事実でないとトネリコに告げる。

 

「嘘よ…こんなの…作り話だわ…! 父は裏切り者じゃない…視察中に、都市同盟に襲われて死んだって母様が…!」

 

「それはルカルカのための母ちゃんの優しい嘘だよ。だって、本当の事言うと、心が壊れちゃうもん」

 

 今、自分が見ている映像が事実であると信じられないルカはそうこれを見せているトネリコに絶望感溢れる表情で嘘であると訴えたが、トネリコは無言で首を横に振り、近くに居る好奇心旺盛な少女は、まるで他人事のように事実であることを告げる。

 これを聴いたルカは心に大きなダメージを負い、現実から目を背け始める。

 

「嘘よ…こんなの…父さまが裏切り者と繋がっていたなんて…」

 

「恨むなら俺たちを恨むなよ。原因を作ったのは同盟で、母ちゃんが悪魔の果実を貰っちまったのは、ネオ・ムガルとか言ういきなりしゃしゃり出て来た連中の所為だからな。ちょうど、母ちゃんが悪魔に魂を売っちまった瞬間だ」

 

 そんな愛する父の裏切りに、精神的に参っているルカにさらに追い詰めるように、母のショアラが夫に向けて剣先を向ける映像に切り替わったことを、トネリコは真剣な表情を浮かべながら告げた。ルカの近くに居る少女はと言えば、ただ無表情でその映像を見ているだけだ。

 

「裏切り者と通じていた父ちゃんを見ちまった母ちゃんは、自分の夫をぶっ殺そうとした。だが、情が邪魔して出来ねぇ。母ちゃんもこれにはショックだったようだ。残酷な現実から逃れるために、自殺しようとしたが、ここで狙ったかの如く、奴らの登場だ」

 

 夫に手を掛けられず、自分の喉元に剣先を突き付けるショアラの元に、ネオ・ムガルのドクトルと思しき人物と、あのドクターの二人が現れ、彼女に何かを差し出した映像が流れたと同時に、トネリコは悔しかったのか、握り拳を作りながらルカに知らせる。

 

「奴らは嬢ちゃんの母ちゃんに、悪魔の力が欲しいかどうか聞いてきた。んで、自暴自棄になってた母ちゃんは、それをあっさり了承した。でも、この力は生贄によって手に入るもんだ。だから、母ちゃんは裏切り者の父ちゃんを生贄に捧げたわけよ」

 

 父が死んだ理由が都市同盟による襲撃では無く、母が悪魔のような力を手に入れるために、生贄に捧げたことを知ったルカは、信じられない余り声も出せず、ただ呆然としていた。

 それから次の映像は、ショアラはワラキアを恐怖政治で抑え込んでいる場面へと変わる。

 ここからは、竜の姿となっているショアラを抑え込んでいるヴァーラスが代わりにルカに語り始める。

 

「悪魔に魂を売ったお前の母は、二度の轍を踏まぬよう、串刺し刑による恐怖で惑星ワラキアを統治した。自分の息子にもその悪魔のような力を与え、最前線に派遣されると聞けば、各戦線でその残虐の限りを尽くすよう命じ、自信も領内に攻め込んで来た侵略軍に対しても残虐の限りを尽くし、その圧倒的な強さを周囲に見せつけた」

 

 ヴァーラスが力を手に入れたショアラが、息子共々その残虐性を発揮していたことをルカに告げれば、碧い髪の青年が自分等ワルキューレに対して、母が離反しようとしていたことも告げる。

 

「それで自分等が強いと思い込んで、俺たちの傘下から抜け出そうとすることや、ネオ・ムガルやらの色んなデカい勢力の傘下に入らず、自分等もデカい勢力になろうと、独立も考えて来たわけだが…」

 

「最近、傘下に入れた統制機関の情報部の…ハザマって言うなんか狐みたいな奴が実績上げるために、大剣の君と、悪魔って言われてるそこの緑のアーマー君に、消させようとしたんだよね、これが。まぁ、シュン君とマスターチーフ君だっけかな? 君たち二人が来た所為でショアラ・シルヴァニアの野望は吐かなく散ったってことになるね」

 

 碧い髪の青年が言い終えれば、十六人の中の一人である小柄な少年が、ショアラの離反がシュンとチーフはワラキアに偶然にも来たおかげで阻止されたことを告げる。

 

「俺が来たから…だと…!?」

 

「その根拠は何所にある?」

 

 自分らが来たからショアラの離反が無き物になった。

 そう聞いてシュンとチーフは、神にも匹敵、否、神その物かもしれない存在に、なぜ自分等の存在があっての事なのかを問う。

 

「まぁ、運命って奴かな。どっちか分かんないや。それとシュン君。君、ワルキューレに戻ってみない? その凄い大剣持ってることだし」

 

「はぁ?」

 

 二人からの問いに、運命だと答えた少年は、シュンが背中に背負っている大剣を目にしながら、ワルキューレに復員しないかどうかを問う。何故ここで復員を命令されるか理解できないシュンは、余りの驚きに声を上げる。その疑問に対し、戦乙女にも劣らない容姿を持つ黒髪の美女が、理由をシュンに告げる。

 

「その大剣は、数百年間も持ち主を殺して来た魔の大剣。それを手にした者は、特別な力を持つ者以外、一日として持ちはしない。だが、そなたはそれを我が体のように扱っている。何れは幹部の領域に行くそなたのような者を、我が陣営に迎え入れる他の理由はあるまい」

 

 やや古風な口調で理由を告げる麗しい女性に対し、シュンはそれを鼻で笑って復員を辞退する。

 

「へっ、俺をあんた等のお友達にするために、戻って来いってか? お断りだ、俺にはやらなきゃならねぇことがある。その用事を済ませたとしても、俺はこんなお遊び半分で戦争やってるわけの分からねぇ連中の元には戻らねぇよ!」

 

「ほぅ、思い切ったことを申すな。気に入ったぞ、ますます引き入れたくなった。今は見逃すが、必ずそなたを物にしてみようぞ」

 

 この思い切った返答を聞いた美女は、シュンが気に入ったのか、まるで恋をする乙女のようにその男を見つめ、必ず物にしてみせると宣言した。

 

「けっ、告白かよ。あんたみたいな美人の告白は、用事してなきゃ受け取ってやるが、生憎と復讐旅行の真っ最中でな、断らせてもらうぜ」

 

 シュンがその美女の告白を跳ね除けたのを確認したヴァーラスは、戦乙女たちの代わりにショアラに処分を下そうとする。

 自分に処分が下されると思ったショアラは、真実を知って呆然としているルカを、心配の眼差しで見ながら、覚悟を決める。

 

「そちらの要件は済んだな。では、ショアラ・シルヴァニア。貴様に判決を下す、反逆の罪として…」

 

「あっ、ちょっと待って。面白いこと思い付いちゃった」

 

「はっ?」

 

「だから、面白いこと思い付いちゃったて」

 

 いざ判決を下そうとした時、突如ヴァルキュリャの一人が面白いことを思い付いたと言いだし、判決を中断させた。流石の幹部でも、ヴァルキュリャに逆らうことは出来ないらしく、ヴァーラスは彼女の好きにやらせることにする。

 どんな判決でも覚悟しているショアラに対し、何かよからぬことを思い付いたヴァルキュリャは、それを子供のような無邪気な笑みを浮かべながら告げた。

 

「ショアラだっけ? 生きたい? ねぇ、生きたい?」

 

『はぁ…? 一体何を…?』

 

 突然、生きたいかと告げられたショアラは、呆気に取られた。

 何を考えているか分からない目前の戦乙女に対し、ショアラは何を考えているのかを問う。

 

「だから、生きたいって聞いてるの? これからも、あの恐怖政治続けたいでしょ? 美しい自然守りたいわけでしょ? だから、選択次第じゃ存続しても良いって言ってるの。分かる? ねぇ、分かる?」

 

 機関銃のように現状の維持が出来ると何度も告げる彼女に対し、ショアラはその欲と生への執着があったのか、返事を告げた。

 

『できれば…ワラキアをこのまま維持し…生きたいです…』

 

「にゃは! 今のままで、生きたいんだね! そんじゃ、あの娘生贄に捧げて」

 

『っ!?』

 

 今、この女は何を言った? 

 今までのままで生を望むのであれば、娘を生贄に捧げろと?

 その等価交換の条件を聞いたショアラは、聞き間違いであってほしいと、やや不機嫌な戦乙女に、等価交換の条件を聞いた。

 

『今、なんと…?』

 

「だーかーら、貴方の大事な娘を生贄に捧げろって言ってんの。分かる? ねぇ、分かってる? 私らが、何の条件もなしで好き勝手させると思ってんの? なんか犠牲にしないと、叶う願いも叶うってことだよん」

 

 不機嫌そうに答えた戦乙女の言葉に、ショアラは娘のルカの方へ視線をやった。

 自分を抑えていたヴァーラスの姿は、他の十五人の元へ戻っている。

 

「か、母様…!」

 

 娘は最悪な決断を下そうとしている自分の事を恐れ、恐怖の眼差しでショアラの事を見ている。それもその筈、恐怖政治による統治の維持のために、娘を生贄に捧げようと言うのだ。そんな眼差しで見られるのは当然の事だ。

 誤った決断を下すことを阻止するため、現場に見合わせていたチーフは止めようと、ショアラの説得を始める。

 

「奥さん、早まってはいけない! 自分の権威のために、大事な一人娘を生贄に捧げるなんて…!」

 

 このチーフの説得に賛同したのか、マリは光の槍を強く握り、ショアラの方へ視線を向け、いつでもその槍を投げられる姿勢を取っている。シュンの方はと言えば、無関心なのか、ずっと腕を組んだままどのような結果に終わるか眺めているだけだ。

 これがショアラに残酷な決断をさせようとしている戦乙女の気に触れたのか、説得を試みようとしているチーフに向け、右手から衝撃波を放った。

 

「ねぇ、邪魔しないでくれるかな。今、そこのトカゲおばさんとあたしが話してんの! また邪魔したら、空気読めないあんたから始末すっからね! それとマリちゃんも手を出さない!」

 

 割って入ってショアラに娘を生贄に捧げないように説得するチーフを吹き飛ばした後、彼女は次に邪魔をするようであれば殺害すると忠告した後、生贄の決断をした場合に備えて攻撃の準備をしているマリにも向け、背後に衛兵らを差し向けてから忠告を行う。

 

「ちっ」

 

「そうそう、それで良し。で、どうすんの? 生贄にすんの? しないの? 生贄にしなかったら、あんた死ぬことになっけど」

 

 流石のマリも、この世界の衛兵と一戦交えるのは御免なのか、光の槍を仕舞って困惑しているショアラがどのような決断を下すか、見守る事にする。

 チーフは再び説得しようと立ち上がったが、ヴァルハラの衛兵たちが複数の槍を向けていることに気付き、大人しく手を挙げて説得を止め、ショアラが誤った判断を下さぬように祈るしか出来なくなる。

 

『わ、私は…』

 

「母様…」

 

 生贄にされるのではないかと思い、涙を浮かべる娘のルカの姿を見ながら、ショアラは内から来るプレッシャーで戸惑っている。

 本当に娘を生贄に捧げ、ワラキアで恐怖政治を維持して良いのか?

 しかし、娘を生贄に捧げたとしても、反逆罪を犯した自分を目前に居る神に近い存在の者達が生かすとは思えない。

 生贄に捧げられた娘は、今の力を手に入れた際に生贄に捧げた夫と同じ魔の世界へ送られるのではないか?

 そんな考えがショアラの思考を支配する中、改めて彼女は娘であるルカを見た。

 

「母様ぁ…私…」

 

『ルカ…』

 

 泣きじゃくる娘の姿を見て、哀れな気持ちを抱き、自分が行って来た串刺し刑による恐怖政治を続けても、ワラキアに住まう者達に恐怖心だけを与えるだけで強い人間は育たないと知り、ショアラは一切の迷いを捨てて決断を下す。

 

『残った一人娘であるルカを…生贄に捧げることは出来ません…!』

 

「ほぅ、予想外な展開じゃな…」

 

「こ、これは、まさしく愛! それも親子愛だ!! 娘を思う母の気持ちが、権威に勝利した瞬間だ!!」

 

 シュンと同じく、事の結末を見ているだけの十六人の何名かが、ショアラが見せた娘を思う気持ちの決断に驚いて声を上げる。

 彼らの予想では、今までの経験で一人娘ですら自らが狂信している串刺し刑による恐怖政治の維持のため、生贄に捧げる醜い母の姿だと思っていたようだが、予想を上回る決断を下したので驚いているのだ。

 その中のナルシストのような白衣に身を包んだ男性が、素晴らしい親子愛を見て感動を覚えて声を高らかに上げている。

 

「はいはい、煩いよフレイ。で、生贄に捧げずに、裁きを下されちゃっても良いだよね?」

 

 ナルシストなフレイと呼ばれる男性を黙らせた戦乙女は、改めてその決断で良いのかをショアラに問う。その問いに対し、ショアラは決断に迷いが無い事を告げる。

 

『迷いはありません…娘を生贄に捧げて、恐怖政治を続けたとしても、ワラキアは一向に良くなりません上に、娘をずっとあの籠に閉じ込めるばかりですから…』

 

「その決断、後悔とかしないよね?」

 

『はい…』

 

 竜の姿となろうとも、一惑星の領主としての風格を現しながら告げれば、戦乙女はその決断に後悔しないかどうかを問うが、ショアラは後悔していないことを、娘の姿を見ながら答えた。それを聞いてか、戦乙女は無邪気な口調から、風貌に合う口調に切り替え、反逆の罪を犯したショアラに対して判決を下す。

 

「このゲルがショアラ・シルヴァニアに判決を下す! この者は我がワルキューレに属しておきながら、我らの認定を得ない力を使った挙句、離反まで企てた! まさしく我らに対しての反逆である! よってこの者を反逆罪と認定し、雷の刑に処す!! 各員、異論はないな?」

 

 死刑法まで目前の罪人である竜に告げた後、この刑に異論はないか周囲の者達に向けて問う。誰も無言のままのため、異論はないと判断して判決を下す。

 

「異論無いな。では、ショアラ・シルヴァニア、貴様を雷の刑に処す!!」

 

「母様!」

 

 ゲルと呼ばれる戦乙女が、反逆罪で雷による死刑を行うと宣告すれば、ショアラはいつでも雷を落とされても良いように覚悟した。これに娘のルカが母の処刑を止めようと割って入ろうとするが、隣にやって来た少女に肩を掴まれて止められる。

 

「離して! 母様が、母様が…!!」

 

「駄目、もう貴方のお母さんは死んだも同然。今向かって盾になっても、落とされたら雷は貴方を避け、必ず標的のお母さんに落ちる。故に向かっても無駄」

 

 自分の肩を掴んでいる少女の手を振り払おうとするルカであるが、少女は向かって母の盾になっても無駄であることを告げる。

 

「そんな…母様が助かる方法も無いの…?」

 

「無い。一度落とされた雷は、目的に落ちるまで目的を追跡し続ける。貴方の行動は、無に帰す」

 

 次に助かる方法も問うも、少女から返ってくる答えは無慈悲な物ばかりであった。

 雷が自分の母親に落ちる瞬間、母のショアラは自分に向けて竜の姿となりながらも、愛に満ちた笑みを送る。これを見たルカはなんとしても止めようとするが、少女の片手に強く引っ張られ、その場から動けないようにされた。

 そして、雷は竜の姿となっているショアラに落ち、彼女は一度人間の姿に戻り、数秒後に灰の姿となって消えた。

 罪人が雷によって灰となったのを確認すれば、四人の戦乙女と十六人は、ようやく終わったと思ってか、それぞれの場所へ帰り始めようとしていた。

 

「ふぅー、終わった、終わった」

 

「帰って続きでもしてくっか」

 

「ごめん、待った? 今終わったから」

 

 各々はここに呼び出される前は何かの用事をしていたのか、トネリコは少し体を慣らしてから自分の居場所のような所へ帰り、少女は懐からスマートフォンを取り出し、友人と連絡を取っている。雷に撃たれて灰となってしまった母を見て、泣きじゃくっているルカの姿があるにも関わらずに。

 彼らのこの裁判に対する印象を見たシュンは、床に向けて唾を吐き捨てる。

 

「ちっ、こいつ等…なんとも思わねぇのか…?」

 

「それがこの世界の連中だから」

 

「あっ? アンタ、こいつ等の事…」

 

 唾を吐き捨てた後に舌打ちをし、各々の場所へ帰って行く戦乙女やワルキューレの幹部たちを見ながら苛立ちを吐いたシュンに、ルリを探す旅に戻ろうとするマリが、去り際に彼に向けて告げた。

 それが気になったシュンは、マリが自分の古巣のボスたちの事を知っていると思い、問いただそうとしたが、既に彼女の姿は無かった。どうやら、彼女はこの世界を抜け出すことが出来る魔法か能力を持ち合わせているようだ。

 周囲の槍を下げられたチーフは視線を上げ、ルカの元へ向かおうとしたが、フレイが瞬時に目の前に現れ、肩を掴まれて止められる。

 

「なんだ?」

 

「君、ある者に…人ならざる意思を持つ者、それも女性に恋心を抱いているね…? その名は…」

 

 触れられた手を退かそうとするチーフを無理やり止めつつ、フレイは彼が恋心と言うか、それに近い感情を抱いている女性の名を、ねっとりとした口調で告げた。

 

「コ・ル・タ・ナ…そうだろ、マスターチーフ。彼女は…生きているよ…?」

 

「何故その名を知っている…?」

 

 自分が軍務で探すこともできない人物の名を口にしたフレイに対し、チーフは何故その名を知っているのかを、何故生存していることが分かるのかを、彼の胸倉を右手で掴みながら問い詰める。

 

「おっと、図星のようだね。いやー、素晴らしい。その彼女を思う気持ちはまさしく愛だ…! だが、君はこのままで良いのかい? このまま軍務に就いていても、一生彼女を探せないまま、何処かで死んでしまうかもしれないよ…? 君はそれでも良いのかなぁ~?」

 

 戦闘用アーマーに身を包んだ大男に胸倉を掴まれているにも関わらず、そのナルシストな青年は、チーフに対してまるで軍でも抜けて、コルタナを探しに行けと言わんばかりに告げる。

 そんなフレイの言葉を、シュンは聞かないようにチーフに告げる。

 

「おい、そのナルシスト野郎の言う事を聞くんじゃねぇ。あいつの言う事は…」

 

 言い終える前に、自分の首が占められている感覚がし、物の数秒後で息が苦しくなる。

 どうやら、フレイの怒りを買ってしまったようだ。大将の人物を弄ぶのを邪魔された彼は、シュンに向けて先ほどの表情とは違う、まるで養豚所の豚を見るような目付きで睨みながら邪魔をしないように告げる。

 

「おっと、シュン君。邪魔をしないでもらえないかな? 僕と、マスターチーフ君との会話なんだ。君は華凛が気に入っているようだから殺さないけど、今度邪魔をしたら…確実に殺しちゃうよ?」

 

 そうシュンに向けて忠告を行ったフレイは、彼の首に掛けている力を解いて自由にした後、再びチーフに視線を向けて続ける。

 

「決めるのは君だよ…? まぁ、いずれその時は来るだろうけど。じゃあ、また会う時まで。それまでにコルタナに会えると良いね!」

 

 コルタナを探しに行くのは自分次第であると、チーフに告げれば、フレイはチーフのヘルメットのメモリの差し込み口に、ある物を彼に気付かれずに瞬時に入れてから、別れの言葉を呟いて何処かへと去って行った。

 

「コルタナが生きている…?」

 

 自分の守護天使と言うべき存在が、生きていることが分かったチーフは、フレイが去った方向を見ながら呟いた。

 一方で解放されたシュンは、この世界から抜け出す出口が無いかどうかを周囲を見て探し始める。

 そんな彼らの元に、ギュルヴィが近付いてくる。どうやら元の世界へと帰れるようだ。

 

「さて、要件は済みましたし。貴方たちを元の世界へ送り返します。そちらのお嬢さんと一緒に」

 

「おい、待て。俺はまだ…」

 

 先ほどまで母が居た場所で泣いているルカを見つつ、ギュルヴィはシュン等に有無を言わさず、彼らを元の世界へ送り返した。

 

 

 

 ヴァルハラから元の世界であるワラキアには、わずか数秒ほどで到着し、シュン達は激闘の末に損傷した床の上に倒れ込んだ。

 

「無事か…?」

 

「なんとかな…」

 

 乱暴に床に叩き付けられたチーフは、同じく叩き付けられて骨折していないかどうかを確認しているシュンに無事を問えば、彼は無事であると返した。

 非戦闘員であるルカがどうなっているのか、チーフは気になったのか、彼女が居た方向へ視線を向ければ、落ちたショックで腕に多少の痣が出来ている彼女が、竜の姿から元の母親の姿に戻ったショアラの前で、すすり泣いている姿が見えた。

 

「母様…母様…!」

 

「彼女も無事なようだが…」

 

「そうか。なら、俺がここに居る理由はねぇな…」

 

 母の骸の前で泣いている彼女を見て、無事であった事をチーフが告げれば、シュンはこれ以上この場に居る意味は無いと判断し、瓦礫と竜となっていたショアラの体当たりで死んでいるアントネスクの死体から、自分の黒マントを剥ぎ取り、それを身に着けた。

 

「っ? 拳銃か…良く壊れずにいたな」

 

 アントネスクの屍から見えているルガーP08自動拳銃を見付けたシュンはそれを手に取り、弾倉を引き抜いてから上のトグルを後ろに引き下げて初弾を排出し、安全装置を外して引き金を引けば、すんなり奥まで引けたため、壊れていないことを確認した後、弾倉を刺し込んでトグルを再び引いて薬室に弾丸を送り込み、安全装置を掛けてから壊れた拳銃の代わりにその拳銃を仕舞う。

 それから立ち去ろうとした時、ショアラの亡骸の前で泣いているルカの声が、自分の耳に入った。

 

「お前の所為だ…お前さえ来なければ、母様やイオアン兄様は死なずに済んだ…お前が来たから…!!」

 

 その自分に向けられた怒りに反応したシュンは、ルカが居る方向へ振り返り、怒りの眼差しを向ける彼女を見る。

 

「お前が来たから母様や兄様が死んだんだ! お前が来た所為で!!」

 

「けっ、俺の所為かよ…」

 

 お前が来たから母と兄が死んだ!

 そう自分が来たから大切な二人が死んだと言いがかりを付けられたシュンは、少々イラつきながらも、それで気が晴れるならと思い、最後まで聞いてやることにする。

 

「もう私を守ってくれる人は居なくなっちゃった…どうやってこの世界を生きればいいの? 教えてよ…」

 

 母も兄も居なくなった世界で、誰を頼りに生きれば良い?

 この問いにシュンの気に触れたのか、ルガーの弾倉を引き抜き、安全装置が掛かったまま床に置き、それをルカが居る方向へ向けて蹴った。

 

「だったら死ねばいい。簡単だ、そいつの銃口を頭の横に突き付けて引き金を引けば、一瞬であの世に行けるぜ」

 

 挑発するような笑みを浮かべ、シュンは自分の蟀谷を人差し指で突きながら、一瞬で自決できる方法をルカに教える。

 これにチーフは、シュンに対してそれは無いと注意する。

 

「おい、それは無いぞ。子供に拳銃自殺をさせようとするんじゃない!」

 

 注意するチーフであるが、シュンは信じろと言うメッセージを込めたのか、彼に向けてウィンクを送る。このメッセージを訓練時代で同僚たちに教わったチーフはその意味を理解し、自分も拳銃を抜いて、シュンを止めるふりをルカの前で続ける。

 一方でルカは、前に出された古めかしい拳銃を見て、それを躊躇いながらも手に取り、銃口を自分の蟀谷に突き付け、引き金に指を掛ける。その様子をシュンは眺め、チーフはルガーを弾き飛ばすため、ルカが持つルガーに拳銃の照準を向けた。

 

「どうした? お前は親の手を借りなかきゃ自殺も出来ねぇのか?」

 

 銃口を蟀谷に付き付けたまま、ルカは一向に引き金を引けず、クリップを握る手を震わせていた。そんな彼女に対し、シュンは挑発するような言葉を投げ掛ける。

 それから暫く、彼女は自殺するのを止めたのか、自分の母と兄を殺した男に対し、憎しみを込めながらルガーP08の銃口をシュンに向けた。

 

「お前を殺してやる…! 絶対に殺してやる…!!」

 

「へっ、ネオ・ムガルの連中を皆殺しにしたら、いつでも相手してやるよ」

 

 銃口を向けながらルカが憎しみの言葉を吐けば、シュンは彼女が新たに生きる目的を見付けたと察し、弾倉を捨ててその場を立ち去った。

 

「待て! 動いたら、あれ?」

 

「子供には危険な物だ。それと生きる目的を見付けたのは感心するが、復讐だけは止めておけ」

 

 立ち去ろうとするシュンに対し、ルカは拳銃の引き金を引いたが、安全装置が掛かっていて引き金が引けず、銃声が鳴らなかった。その危険な拳銃を回収するべく、チーフはルカに近付いてルガーP08を取り上げ、短い説教をしてから、出入り口へ向かうシュンの後へ続いた。

 

「瀬戸、あのやり方は良くないぞ」

 

 流石のチーフでも、シュンの荒療治が問題であると思って注意する。

 この注意に対し、シュンはショアラに甘やかされたルカが生きる目的を見付けるには、荒っぽいやり方が一番であると答え、更に侮辱するような言葉を投げ掛けた。

 

「親に散々甘やかされた嬢ちゃんには、あれくらいの教育が必要なんだよ。あんたも案外甘いな。あんた等は戦争するために教育されたんだろ? スパルタンさんよ」

 

 この全てのスパルタンに対して侮辱に似た言葉に、チーフはやや怒りを覚えたが、手を出さずに怒りの言葉をシュンにぶつける。

 

「俺はウォーマシーンなんかがじゃない…!」

 

「あぁ、そうかい。そんじゃあ、また会う日までな」

 

 チーフの怒りの言葉に反応せず、シュンは復讐の旅を再開するべく、城の外へ出ようと通過点を通ろうとした。

 

「ん?」

 

 床にルカの物では無い涙の痕を見付けたチーフは、立ち去って行くシュンから、数滴の水分、それも目元の辺りから涙が零れているのを見て、彼も自分が思うような酷い人間で無い事を理解する。

 

「お前もそれ程の人間じゃないな」

 

 シュンもまだ人間性が残っていることを理解すれば、自分もうちへ帰るべく、城の外へ出ようと、出入り口へ向かった。




次回からは、緋アリ編に突入。

ようやく版権作品に参加できる…

あっ、ちなみにシュンは何所にも属さず、暴れ回るからね。
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