復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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丁度いいので上げます。

シュンVSマリです。

?「勝てるわけが無い…! 逃げるんだ…!!」


漆黒の剣士VS魔法剣士

『中枢にて敵を発見! 二名だ! 同士討ちを行っている! 各員、速やかに漁夫の利を得て排除せよ!!』

 

 シュンとマリの戦いが始まった瞬間、派手にやり過ぎたのか、要塞内のアナウンスが響いた。

 歩兵のみならず、ガンシップやAT部隊、ドローンなどの多数の機甲戦力が投入されたが、双方の眼中には無く、飛んできた魔弾や斬撃に巻き込まれて死ぬか破壊されるだけであった。

 二人の眼中にあるのは互いのみであり、周りが邪魔しようとなら、排除する構えだ。

 現に邪魔をした同盟軍の将兵らは、シュンのプラズマ弾のボウガンで一掃されるか、マリの魔法で振り払われ、屍と化している。

 このスターキラー要塞において、誰も二人の戦いを邪魔することは出来ないだろう。

 

「だ、駄目だ! あいつ等に、グェッ!?」

 

 邪魔をしてあっさりと薙ぎ倒された同盟軍の兵士らは、叶わないと判断して逃げようとしたが、マリの背後に居たのが運の尽きだったのか、シュンが放った大剣による突きでバラバラとなった。

 

「い、嫌だ! 死にたくねぇ!!」

 

 他の生き残りたちも急いで逃げようとするが、マリが放った強力な魔法の攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 周りの敵兵達が吹き飛ばされようが、二人はお構い無しに、互いに剣を打ち合う。

 

「(この女、前とやり合った時よりも早い! あん時は手を抜いてたってことかよ!)」

 

 宙を舞いながらも剣を交えて居たシュンは、マリの剣の振るう速度が前回のワラキアで戦った時よりも早くなっていることに気付き、更にはあの時に手を抜いていることに気付いた。

 今、目前に居る女は自分を全力で殺しに掛かっている。前は自分を単なる雑魚として見ていたのか?

 そう感じ取ったシュンは、目前で恐ろしい速さでバスタードソードを振るうマリに怒りを燃やし、隙を見て大剣を力一杯で押し込む。

 シュンはあの戦いの後、多くの刺客や戦士たちと死闘を繰り広げ、戦士、否、剣士として格段に成長していた。まだマリには適わないかもしれないが、それでも筋力面に置いては彼女を圧倒している。

 

「きゃ!」

 

 シュンの力推しに負けたマリは、声を上げながら怯む。

 怯んだ隙を見逃さず、素早く大剣を振るうシュンであるが、マリは尋常じゃ無い速さで持ち直し、巨大な刀身を飛んで避けた。

 

「っ!?」

 

 余りの速さにシュンは驚いたが、マリは間髪入れずに斬撃を繰り出してくるので、何とか振るわれた剣を避ける。避けた物の、眉間の下に掠り傷を負う。

 

「ちっ、細い腕なのになんで早いんだ」

 

 切り口より出た血を左手で拭った後に悪態を付きつつ、再び斬り掛かって来るマリの斬撃を防ぐ。

 その斬撃は恐ろしいほどの速さであり、ワラキアでの戦いより更に速く思え、シュンは防ぐだけで手一杯だ。一撃の重さは軽いが、繰り出される速度はシュンに取っては経験したことが無い程の物だ。

 マリが使うバスタードソード。突きと斬りが出来る西洋剣であり、片手半剣とも呼ばれる。

 それなりの重量があり、片手剣よりも重く、華奢な女性が簡単に扱えるほどに軽くは無い。

扱いには相当な鍛錬が必要で、それに伴って腕の筋肉が発達して少し太く見えるはずだが、マリの腕は年若い女性のようにやや細い物だ。とてもではないが、そんな腕でバスタードソードは振るえない。前々回のアリアやルリも然りだ。

 

「(魔法か?)」

 

 剣を振るうマリがどうして片手剣よりも重い片手半剣を振り回せる謎を、シュンは魔法を使って剣を軽くしていると思った。

 数秒ほど膠着状態が続いていたが、シュンはこのままではマリに負けると判断し、もう一度力推しをして状態を変えた。

 今度は相手も警戒しているので、敢えて斬り込まず、一旦距離を置いてから左手でホルスターに収まっているソーコムピストルを素早く引き抜き、追撃を掛けようとしたマリに向けて数発ほど撃ち込んだ。

 

「クソッ!」

 

 マリは相手が銃を撃つ瞬間に遮蔽物となる物資へと飛び込み、銃弾を回避した。

 これにシュンは苛立ちを覚え、怒り任せに彼女が身を隠している場所へ撃ち込もうとしたが、弾切れを起こしてしまう。直ぐに再装填を済ませ、マリが反撃しようと頭を出すまで待とうとすると、腹立たしい事にここに来て同盟軍の追加部隊が来る。部隊はマリが身を隠している方向より来た。

 

「あそこに居るぞ!」

 

「ちっ、しつこい野郎共だ!」

 

 同盟軍の将兵らはシュンを見るなり銃弾の雨を浴びせて来る。プラズマ弾を発射して来る将兵らに対し、シュンはAK-74突撃銃を出さず、手元にある再装填し終えたばかりのソーコムピストルで反撃する。

 一名、二名と立て続けに排除して行くシュンであるが、拳銃とは違う連続した銃声が鳴り響き、向かって来た追加部隊はバタバタと薙ぎ倒されていく。これにシュンは驚きの表情を浮かべる。

 

「まさかな…」

 

 全滅した同盟軍の将兵らを見て、シュンは悪い予感を覚えた。

 その予感は見事に的中し、両手にMP7短機関銃を持ったマリが身を隠している場所から現れる。

 

「やべっ!」

 

 両手にある短機関銃を向けていることに気付いたシュンは、バリアジャケットを着ているにも関わらず、反射的に逃げてしまう。

 その瞬間に二挺の短機関銃が火を噴き、MP7で使われている薬莢を必要としない弾丸が逃げるシュンに向けて放たれる。

 近くの物資へと逃げ込んだシュンは、大剣を背中のラックに固定させてからコアよりAK-74を取り出し、銃だけを外に出してマリが居る方向へ向けて撃ち始める。

 かくして、シュンとマリの戦いは剣戟から銃撃戦へと切り替わる。たった二人だけの銃撃戦であるが、それでも命を懸けた戦いと言うことだけは変わりない。

 

「この距離ならこいつだ」

 

 ライフルでは距離的に余り効果が無いと判断してか、シュンはベルトのコアよりM1912散弾銃を取り出し、二挺の短機関銃を乱射しながら近付いてくるマリに向けて放った。放たれた散弾は無数の球を撒き散らし、マリに命中する。

 

「やったか?」

 

 ポンプを引いて空薬莢を排出すれば、倒れたマリが死んでいるかどうかを確認しようとする。だが、その瞬間にマリは起き上がり、弾が残って居るMP7を撃ってくる。

 頬を掠める程度の軽傷で寸での所で回避したシュンは、遮蔽物へと逃げ込み、相手の弾が切れるのを待った。

 

「クソッ、無限かよ!」

 

 弾が切れて再装填するかと思いきや、代わりにMP5A5短機関銃を取り出して撃って来た。一定の距離まで近付いたがため、放たれた9mmパラベラム弾を浴びてしまうが、バリアジャケットのおかげで貫かれずに済んだ。

 再び散弾銃を撃とうとするが、今度は何所からともなく剣を抜いて斬り掛かって来た。

 大剣を抜こうにも間に合わず、その場であった散弾銃で防いだ。

 その結果、散弾銃は二度と使用不可能な程になったが、大剣を抜く隙は出来た。即座に背中の大剣を抜き、自分から見れば華奢なマリに向けて巨大な刀身を振り下ろした。

 

「っ!?」

 

 この距離なら確実に彼女を肉塊に出来るだろう。

 そう思ったシュンであるが、マリはそれを寸での所で回避し、回しづらい右手の剣は使わず、左手の袖からナイフを出して突き刺そうとする。

 彼女がナイフを突き刺そうとした瞬間、シュンの視界は時間がゆっくりと動いているかのように見えた。ナイフを握る左手がゆっくりと動いているので、柄より離した右手でナイフの刀身を掴み取る。マリの腕力はそれほど無いのか、止めることが出来た。

 

「…? っ!」

 

 自分より遥かに劣る大男に攻撃が止められたことと、一瞬で動いたことに、マリは驚いた表情を浮かべて引き抜こうとしたが、ワラキアの時と同じように抜けない。

 

「前にも言っただろう。俺の手の皮は分厚いって」

 

 ワラキアで彼女の剣を掴み取った際に発した台詞を叩き付け、左手で持ち上げた大剣でマリを肉塊にしようとする。

 シュンはマリが不老不死であることには気付かなかったが、当の彼女はそのことを服が破れると言う理由で明かさなかったのか、自分の魔法を発動させて男の目を晦ませた。

 

「何っ!?」

 

 これにシュンは空いている左手で目を守る。

 光が収まった瞬間に、シュンは大剣を叩き込もうとしたが、マリの姿を見て剣を止める。

 シュンの目に映ったマリの姿は、やや露出度の高い巫女のような服装となり、容姿の美しさも相まって天使か女神のような物であった。その美しさの余り、シュンは攻撃を止めてしまう。

 目前に居る麗しい美女が、死の天使だと知らずに。

 

「さようなら」

 

自分の外見に見惚れているシュンに対し、マリは右手に握る神聖的なデザインの槍の矛を突き刺そうとする。

 

「…っ!?」

 

 首元までもう少しとなった所で、シュンは美しさから伝わる殺気を感じ取ったのか、床を蹴って一定の距離を取り、自分の攻撃を避けたマリに向けて大剣を構える。

 

「危ねぇ、危ねぇ。まさか、色仕掛けを仕掛けて来るとぁな」

 

「ちっ」

 

 間一髪に避けた今の攻撃を、色香と表したシュンに対し、マリは舌打ちをして槍の矛を下へ向ける構えをした。

 マリの武器が剣より槍へと変わったことに、シュンは剣では自分に勝てないと思って同じ長物である槍を選んだ物と判断する。

 

「(槍なら勝てると思ってか? だが、槍の相手は飽きるほどにやって来たんでな)」

 

 大剣と槍、どちらかと言えば、大剣の方が有利に見えるが、現実的には槍の方が有利だ。

 だが、シュンは初陣より槍の相手を飽きるほど経験しており、その対策は身体が覚えており、槍の盟主で無ければ勝つことは出来ないくらいの剣士となっている。

 そんな剣から槍へと変えたマリが先に仕掛けるまで、シュンは大剣を構えながら身構えた。

 

「っ! 消えた!?」

 

 相手が仕掛けて来るまで待っていると、目前に居たはずのマリが突然と姿を消した。

 何所へ行った!?

 そう目で探している間に、背後より人とは思えない殺気を感じて振り返る。

 振り返った先に居たのは、今にも自分に槍を突き刺そうとして来るマリの姿があった。

 もう既に回避は不可能であり、受け止めるか、力を利用して受け流すしかない。

 二択の選択肢の内、シュンは前者の方を選び、突き出された矛を大剣の分厚い刀身で防いだ。

 

「クッ!?」

 

 刀身で矛を防いだ瞬間、凄まじい衝撃が身体を襲う。

 先の華奢な女性の力とは違う物にシュンは驚き、怯みそうになったが、何とか堪えて槍を突き刺した相手に視線を向ける。

 だが、またしてもマリの姿はそこへは無く、今度は目前に現れ、槍を高速で振るって来る。

 彼女が求めるルリが居た世界で戦った槍を武器とする女騎士であるドミニクよりも、振りも突きも段違いで早く、剣と同様に素早い攻撃に翻弄されるばかりだ。

 

「(またやってみるか?)」

 

 力推しの三度目を試してみようかと思ったシュンであるが、その隙すら見えず、断念させられる。

 そればかりか強力な攻撃をもろに受け、壁を突き破って大量の敵がいる場所へと吹き飛ばされた。敵は壁を突き破って吹き飛ばされて来たシュンを見るなり、手にしている銃を撃ってくる。

 

『あそこだ!』

 

「クソッ! こんな所に吹き飛ばしやがって!」

 

 衝撃で吐血しているシュンは、左手で血を拭ってから手近に居る敵兵等を大剣で一掃してから左腕にボウガンを付け、狭い場所に居て銃を撃ってくる敵兵等を一掃する。

 周囲に居た敵兵等が全滅したことを確認すれば、ボウガンを元の位置に戻し、壁を背にして死角を防ぎ、何所からともなく来るマリに警戒した。

 

「ちっ、こいつ等か」

 

 だが、やって来たのは八体のハンター族であった。退路を塞ぐ形で、左右に四体ずつ出て来る。

 そんなハンター達に対し、シュンは舌打ちをしつつ最初の攻撃を避け、背後の弱点部を大剣で切り裂き、二体同時に倒した。

 

「そう言えば後ろに回り込まなくてもぶった切れたな!」

 

 目前に見えるハンター二体を見て、シュンはわざわざ背後に回り込まなくとも、スレイブなら硬い甲羅を丸ごと切れることを思い出し、一気にレーザーを撃ってくる二体を叩き斬った。

 返り血を浴びながら二体とも倒せば、背後よりプラズマ弾を撃ちながら向かって来る四体の元へ向かい、次々と大剣で切り裂いていく。

 途中、邪魔なグラントやジャッカル、ローカストにキメラが出て来たが、シュンの敵では無く、大剣で無残な死体へと変わるか、左腕のボウガンで一掃される。

 

「ア、 悪魔ダ~!」

 

「よし、これで少しは休憩できるだろう」

 

 残りのハンターを一掃し、残った敵兵(グラントにジャッカル)等の戦意を損失させて撤退に追い込んだシュンは、マリとの戦いで消耗した体力を回復すべく、大剣を床に突き刺してその場へ座り込む。

 敵はまだ戻って来るだろうが、マリの存在もあるので、暫くはここへは来ないだろう。

 銃声が聞こえて来る中、シュンはベルトのコアより軍用の携帯食を取り出し、蓋を開けて中身を貪り食い始める。

 

「あの女の方にも兵隊共が来ているらしいが、全滅するのは時間の問題だな」

 

 一つの携帯食を平らげ、容器をそこらへ捨てた後に、マリが居た方向より聞こえる銃声や断末魔の叫びが徐々に減って来る様子で、全滅は時間の問題と悟る。

 水筒の水も飲み干した所で、彼女が敵と交戦している間に自分のデバイスの強化となりえる水晶を先に手に入れようかと思い、大剣を背中のラックへ固定させてから、再びそこへと向かった。

 

『あの女は一体何者だ!?』

 

『分からん! 兎に角、もっと火力と人員が必要だ! 大剣の男は後回しにしてそっちへ回れ!!』

 

「あっちは派手に目立つからな」

 

 再び中枢部がある区画へと向かう中、敵兵達の声が聞こえて来た。

 内容は全てマリの事で、次々と彼女が居る方へと増援部隊が送られている。

 シュンに取っては好機であり、易々と中枢部へと潜入することが出来た。

 

「さて、今の状態じゃあの女に敵わないが、こいつを手に入れれば、少しは勝率が上がるはずだ」

 

 中枢部への入り口まで辿り着けば、シュンはデバイスを強化すれば、マリに対する勝率が上がると思い、そこへ入ろうとした。

 だが、背後より獣のような殺気を感じ、その物の数秒後に来た巨大な物体に阻まれる。

 

「クソッ、こんな奴まで居るのか…!」

 

 寸での所でそれを回避したシュンは、中枢部への入り口を阻む門番の正体を見て驚きの声を上げた。

 シュンの目先に映っていたのは、鉱物のような皮膚を持つ二足歩行の怪物であった。

 その怪物はシュンを見るなり、巨大な肉体を生かしての突進を仕掛けて来る。

 

「おっと!」

 

 突進を避けたシュンは、すれ違い様に大剣を背中に叩き付けたが、軽い一撃では効果が無いのか、弾かれる。

 

「もっと重いのを打ち込まないとな」

 

 背後を振り返って振り払いをしてくる化け物の攻撃を何とか防いだシュンは、強い一撃を打ち込む必要があると判断して、再び攻撃して来る化け物の攻撃を避けながら隙を窺う。

 相手はマリよりも更に格下な化け物に見えるが、初めて戦うタイプの敵であるがため、油断は出来ない。

 

「グッ…! パワーもあるな」

 

 防御を凄まじい力で崩され、腹に一撃を受けて吹き飛ばされたシュンは、体勢を立て直して怪力はマリを超える物と判断する。バリアジャケットを着ていなければ、バラバラにされていた事だろう。

 

『もう限界だ。早く解除してくれ』

 

「ここに来て限界って所か。これ以上は受け切れないな」

 

 デバイスの耐久限界が迫っているとの報告で、シュンはこれ以上は攻撃を受け切れないと判断し、吐いた血を左手で拭ってから、こちらへ向かって来る化け物に対して大剣を構えた。

 

「あそこだ! 撃て! 撃て!!」

 

 そんな時に同盟軍の増援が来たのか、シュンに向けて銃を撃ってくる。

 

「ちっ、余計な奴らが!」

 

 シュンは思わず舌打ちし、遮蔽物へと逃げ込む。自分が身を隠している場所に銃弾が当たる中、こちらへ来る筈の化け物が、銃を撃っている味方の方へと向かっている。

 

『うわっ!? こっちに来たぞ!!』

 

「銃声がする方へ向かっている?」

 

 化け物が銃声のする方へと向かったので、シュンは化け物の特徴を考えた。

 銃を撃っている将兵らが化け物に惨殺されている間、シュンは化け物が音で反応していることに気付く。

 

「そうか。奴は目が見えてない。そんで音で反応する。ヒント、ありがとよ」

 

 化け物は目が見えず、音に反応して攻撃していると分かれば、シュンは飛んできた敵兵の首に向けて礼を言った。

 それからその首を持ち、石の代わりと言わんばかりに音が鳴る方へと首を投げる。

 

「…よし」

 

 投げた首が箱に命中し、音が鳴ってそこへ化け物がつられるように向かったのを確認すれば、シュンは音を立てずに化け物の背後へ近付いた。

 早歩きで装備の音が鳴らないように化け物の背後へ近付けば、強烈な一撃を足へ向けて振り下ろす。

 機動兵器の装甲すら容易く切り裂く大剣は、強烈な力を込めて振るわれたため、化け物の足を切り裂く。

 

「トドメだ!」

 

 片足が無くなってバランスを崩した化け物に対してシュンは、弱点となる頭部へ向けて大剣を振り下ろし、化け物の息の根を止めた。

 飛び散った血を浴びながらシュンは、大剣を直ぐに引き抜き、それを背中に戻してから目当ての物がある中枢へと向かう。

 シュンは知らないことだが、この化け物の名はベルセルク。日本語で言えば、狂戦士と言う意味だ。

 惑星同盟軍に参加しているローカストと呼ばれる地底人勢力の最強の兵士であり、雄ばかりしか確認されていないローカストの中で、指導者であるミラと同じ雌のローカストである。

 身体全体は鉱物のような硬い資質で守られ、通常兵器では聞かず、ドーンハンマーと呼ばれるレーザーを掃射する衛星兵器を使う以外に倒す術がないのだ。

 今は強力な艦砲やミサイル、爆撃、それに機動兵器のビーム兵器で倒せる程の物であるが、小火器しか持たない歩兵にとっては脅威に変わりない。

 そんな化け物を大剣のみで倒したシュンは、最強とも言えるが、スレイブの切れ味が大きい事だろう。

 かくして、ベルセルクを倒したシュンは中枢へと入り、目当ての水晶を手に取ってそれを豪快に片手のみで割り、中に入っている紫の煙を全体に纏った。

 その紫色の煙を、ベルト型のデバイスは全て吸い込み、新しい機能が追加されたことを音声で知らせる。

 

『機能回復、全体修復完了。魔力が自然に溜まるようになった』

 

「これで準備満タンだな」

 

 紫の煙を全て吸い取り、魔力が自然に回復するようになったと知らせれば、シュンは万全な状態となったと判断してこの要塞より脱出しようとした。

 

「っ!? 逃げられねぇようだな…」

 

 だが、ここまで飛んできた敵兵の死体で、シュンはマリの目からそう簡単に逃げられないと判断して、背中の大剣を抜いて外へ出た。

 

 

 

「どうなってんだこりゃあ…?」

 

 中枢部より外へ出たシュンは、目前に広がる地獄絵図のような光景を見て声を上げる。

 それは死屍累々とした同盟軍の将兵の死体や、無残に破壊された兵器群の残骸が広がっている。幾つかの生き残りの部隊が宙を飛んでいるマリに攻撃を続けているが、彼女の背後に映る空間から吐き出される無数の武器によって蹴散らされるばかりだ。

 

「駄目だ! 撤退しろ! 撤退…うわっ!? わぁぁぁ!!」

 

 敵わないと判断した同盟軍の部隊は撤退を始めるが、ポーチに収めてある手榴弾が謎の力により起動し、爆発してあっさりと全滅した。

 

「あのフザケタ技か…!」

 

 マリの背後に見える空間より吐き出されている武器を見て、シュンはワラキア戦の時を思い出し、左腕に装着したボウガンを向ける。

 そんな無謀にも自分にボウガンを向けるシュンに対し、マリは空いている左手でそこら中に落ちている銃火器を浮かせ、銃口を彼に向ければ、魔法を使って引き金を引く。

 

「おわっ!? なんでもありかよ!」

 

 実弾も含めるプラズマ弾やビームの嵐を受けたシュンは、近くの遮蔽物へと身を隠して、コアよりMAC11短機関銃を出し、左手に握って背後から来る小火器に向けて撃ち込む。

 背後を回って来た全ての銃火器を撃ち落とした後、短機関銃を捨ててRPG-7対戦車発射火器をコアから出して、別の場所へと移動してからマリに向けて撃ち込んだ。

 だが、発射されたロケットはマリの直前で何かに阻まれて爆発し、倍返しと言わんばかりに背後の空間より召喚されたロケット弾で撃ち返される。

 それを回避する間もなく、大剣で防御して受けたシュンは吹き飛ばされるが、宙を舞った直後で力を込めて踏ん張り、左腕に付けたボウガンでマリの周囲にある武器に向けて掃射する。

 

「クッ…」

 

 爆発物も含まれていたのか、マリは思わず爆風から顔を守るためにシュンから一瞬だけ視界を外した。その隙を逃さず、シュンは全速力で一気にマリに近付く。

 高速で近付き、大剣を振り下ろさんとする大男に気付いたマリは、振るわれた大剣を槍の柄で防いだが、それはシュンの狙いであることに気付けなかった。

 

「こう近付けば、長物は振り回せねぇな!」

 

 槍の弱点を付いたシュンは柄から左手を離し、左腕のボウガンをマリの腹に付けて撃ち込む。

 この時にマリは魔法で操る銃火器をシュンの背後へ向けていたが、もうボウガンの引き金を引いた後で間に合わなかった。

 

「かはっ…!?」

 

 この距離で一発だけでは無理であるが、何発も撃ち込めば彼女が張っている魔法障壁を貫通することが出来る。それを何発も、それも露出している腹の部分に撃ち込まれたマリは吐血し、槍の柄を握る両手を鈍らせる。

 

「こいつで、終いだ! 死ねおやぁぁぁ!!」

 

 腹に何発ものプラズマ弾を受けたマリに、シュンは容赦なしに大剣を心臓に向けて止めの突きを放った。

 

「がっ…!? あぁ…あ…」

 

 巨大な刀身で胸を貫かれたマリは、瞳を虚ろにしながら息絶える。

 

「はぁ、はぁ…死んだか?」

 

 殺したマリより噴き出た血を浴びながらシュンは、ようやく相手が息絶えたことを生気の無い彼女の顔を見ながら判断した後、大剣をその身体から引き抜き、刀身に大量に付いた血を振り払ってから背中のラックへと戻した。

 それから硬い床へと落ちて横たわり、血を流し続けているマリの遺体の近くへ降り立ち、冷たくなった彼女を拾い上げる。

 

「こんな美人は死姦されるからな。何処かに埋葬してやるか」

 

 虚ろな目を浮かべている瞳を両手で閉じてから、スターキラー要塞から出るために抱えたまま出ようとする。

 

「…?」

 

 ここで死体から流れている血が止まっていることに気付き、シュンは思わず足を止めて抱えているマリの遺体を見た。

 

「再生している…だと…!?」

 

 自分の大剣が付けた大きな切り口がみるみるうちに塞がっていることに気付き、驚いてマリの遺体を手放してしまう。

 腹の銃創も同様であり、物の数秒ほどで完全に治り切り、胸の辺りの無残な切り口も元通りへと戻った。身に着けている衣服は再生しないのか、血色の良い雪のように白い肌が見え、更に豊満な乳房も見えているが、今のシュンはそれどころでは無い。

 それを目前で見ていたシュンは、思わずソーコムピストルに手を伸ばし、反射的に生き返ったマリの頭と胸に向けて撃ち込んだ。

 

「こいつ、不死身か!?」

 

 不死身、それも不老不死の人間と幾度か出会った経験のあるシュンだが、銃弾を当たる寸前で魔法で止めて無効化した目前の女が不死身であることに驚き、拳銃を仕舞って素早く大剣の柄に利き手を伸ばすも、既にマリはある魔法の詠唱に入っており、それを終える頃だった。

 終わる寸前にマリの血塗れの衣服は、何やら邪悪な雰囲気を感じる黒い魔導士のような衣装へと変わる。この衣装もやや露出度が高く、妖艶さを感じるが、前者の危険さの方が増している。

 

「一体こいつは…!?」

 

 彼女が詠唱を終えた直後、周囲をおぞましく蠢く不気味な物体が覆い尽くし始める。

 それをただ止める術も無く見ているしかないシュンは、大剣を抜いてマリに向けて構えるだけであった。

 

「っ!?」

 

 周囲が暗黒に呑み込まれた直後、マリは恐ろしく早い攻撃を仕掛けた。

 これには流石のシュンも避けきれず、気付いた時は宙を舞っており、そのまま硬い床へと叩き付けられ、気を失ってしまった。




キートン山田「後半へ続く」

後半と言っても…全く別の物です。

ホラー回になるかも…?

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