復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今回は戦闘はありません。

そんでもってシュタージ来訪。ゆかりん王国の王女様がご来訪だぞ!

王国民よ! 全力を持って出迎えよ!!(※作者は王国民ではありません


シュタージ

 それから翌日、目標を達成するために、アイリスディーナの同志となったシュンは、MiG-21バラライカの機種転換の訓練を受けるカティアの様子を見ていた。

 シミュレーターではなく、実機による訓練だ。前線で物資が足りないはずだが、第666戦術機中隊はかなりの武勲を上げており、補給は政治将校のグレーテルのおかげか、それとも戦意向上のための宣伝として扱われているのか、良質的な補給が優先されていた。もっとも、それが他の部隊に選抜中隊と揶揄されるのが原因であるが。

 話を戻し、カティアは三時間ほどで東側の戦術機をまるで手足のように動かし、鳥のように舞っていた。シュンはあれ程になるまでには、二十八時間以上の時間を要した。

 

「あれなら革命でも起こせるな」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「いや、何にも無いっす」

 

 潜在的な物だろうか。カティアの操縦技量に舌を巻いたシュンは、この国の革命が起こせるかもしれないと思わず口にしてしまう。それを隣に居たグレーテルは、良く聞こえてなかったのか、シュンに問うたが、彼は何でもないと答えてその場を後にした。

 とんでもないことを口にしていたシュンだが、グレーテルは気にも留めず、僅かな時間で機体を物にしたカティアの戦術機の飛行に視線を戻す。

 訓練所を離れたシュンは、近くの壁に寄り掛かり、懐へ忍ばせていたスキットルを取り出して中にあるウォッカを一口飲んで、外の景色を眺めながら体を温める。

 

「おい、新人。グレーテルに見られたら厄介だぞ」

 

「なんだ、赤毛の坊主か」

 

「テオドール・エーベルバッハ少尉だ、バートル曹長」

 

 そんなウォッカを飲んで体を温めるシュンに、テオドールは注意した。

 これにシュンはスキットルを直ぐに隠し、見た目で付けた渾名で呼べば、テオドールは訂正してシュンの偽名で呼ぶ。

 そんなテオドールは、盗聴器まみれの基地内で飲酒をするシュンを注意しに来たのでは無く、この危険な国に誰かを探しに亡命してきたカティアのことをどう思っているのかを問う。

 

「カティア、いや、バルトハイム少尉の事だ。曹長はどう思ってる?」

 

「どうって、ありゃあ天才だな。中隊のトップエースになるんじゃねぇのか?」

 

「それもそうだが、シュタージに目を付けられてないか心配だ。あいつは正直すぎる。このままじゃ危険だ」

 

 戦術機の腕前は優れ、いつかは中隊の頂点に立つだろうとシュンは答えたが、テオドールが心配していることは、カティアがドイツ民主共和国の国家保安局であるシュタージに目を付けられていないか心配であった。

 確かに彼女は衛士としては優秀だが、西側のドイツ連邦共和国の教育を受けた所為か、このドイツ民主共和国の恐ろしさを知らず、思ったことを口にしてしまう正直者だ。社会主義国家において、正直者は一番損をする。この国で育ったテオドールは、一番それを知っていた。

 かつて西ドイツへ、自分を養子として温かく向かい入れてくれた義父に義母、そして義妹と共に自由を求め、亡命を試みたテオドールは、失敗してシュタージに捕まり、地獄のような拷問を受けた。

 義理の両親は恐ろしい拷問の末に息絶え、義妹は行方不明。何とか拷問を生き延び、釈放されたテオドールであったが、何所にも就職できず、結局は国家人民軍にしか就職先は無く、今に至る。

 そんな思い出したくも無い辛い過去を思い出したテオドールは、暗い表情を浮かべながら、目に入れても痛くない程の容姿を持つ義妹の面影にカティアを重ね、尚更に彼女の身を案じる。

 どうするかを、相談しても無駄そうな大男に何か答えが見付かるかもしれないと思って相談してみたが、結局のところ、予想通り出なかったようだ。

 

「悪い。あんたに相談すべきじゃ無かったな。自分で考えるよ」

 

「けっ、最初から聞くなよ」

 

 相談する相手を間違えた。

 少しは謝罪するも、後悔しながら去って行くテオドールに対し、シュンは悪態を付いた後、苛立ちを解消するために再びウォッカを一口飲んだ。

 

「おいおい、共産国家でそいつはヤバいぞ」

 

「っ!? その声は…あんたか」

 

「よぅ、美人の中隊長とはよろしくやってるか? ここで良い話と悪い話を持って来た。まずはどっちから聞く?」

 

 二口目を飲もうとした時、背後より聞き慣れた声がした為、シュンはスキットルを隠して腰に差し込んであるホルスターに手を伸ばす。

 その声の主は、あのガイドルフだ。いつものように姿を現し、冗談を交えながら挨拶してきた彼は、煙草を咥えながら良い話と悪い話を持って来て、先にどちらを聞くかシュンに問う。これにシュンは、冗談を返してから前者の方を選ぶ。

 

「いや、襲ったら殺されそうだからやってねぇよ。兎に角、良い話からしてくれ」

 

「確かに、前の世界じゃ金髪の美女に酷い目に遭わされたからな。そんな気分が吹き飛ぶ話だ。この世界の国連がBETAをハイブ近くまで押し返すための大規模な反攻作戦を開始するそうだ。米軍や国連の加盟国の軍隊がフランスに上陸し、大規模作戦に備えて演習を行っている。作戦の日は近い。お前さんの目当ての物を手に入れるチャンスだ。共産主義陣営の親玉であるソビエト連邦も、新型機をどっさりと東ドイツに駐屯している部隊に配備して、攻勢の準備を行っている。ワルシャワ条約軍のお呼びも掛かってる。お前さんの属するシュヴァルツェ・マルケンも必ず呼び出されるぜ」

 

 先に頼んだ良い話とは、近々、国連と米軍、その他アジア圏の国家群の軍隊が大規模攻勢に備え、フランスに上陸しているとのことだった。

 共産主義陣営の首長国であるソビエト社会主義連邦も西側に威厳を見せるべく、ドイツ民主共和国に駐屯する部隊の兵員を増強させ、新型の戦術機を多数配備して戦力の増強を行っている。

 ワルシャワ条約軍に属するドイツ国家人民軍も参加するので、当然ながら東ドイツ最強の戦術機中隊であるシュヴァルツェ・マルケンも召集される。目当ての水晶がある古城跡に近付けるチャンスだ。

 この話を持って来てくれたガイドルフに、シュンは感謝の言葉を告げる。

 

「あんたにはいつも助かるぜ。この情報を持ってくるのに凄い苦労が掛かったようだな」

 

「まぁ、俺からすればこの程度は朝飯前よ。それと、悪い話だが…この基地にシュタージが来る。後二十分って所ほどだ。ナチスのゲシュタポやソ連のKGBも凌ぐ監視力を持つ秘密警察だ。しかも配下の武装組織も連れてやって来る。あのお嬢ちゃんの尋問するために来たらしい。お前も尋問される可能性がある。基地の奴らに話して何処かに匿って貰え。腕や脚の一本を持ってかれるぞ」

 

 感謝の言葉の後に、ガイドルフは後者の悪い話をした。

 その内容は、二十分後にこの基地にシュタージが自前の武装組織を引き連れてやって来ると言う物だ。どうやら、滅多に現れる事が無い西側からの亡命者であるカティア・ヴァルトハイムの尋問を行うために来たらしい。モンゴル軍の迷子兵であるシュンも怪しまれているので、尋問されることは間違いないだろう。

 それにKGB流の恐ろしい拷問すらあるので、殺される危険性がある。それを知っているガイドルフはシュンに基地の者達に匿ってもらうように頼み込めと言ったが、彼はそれを断る。

 

「別にやましいことはしてねぇんだ。注意されると言えば、こいつ位なもんだろ」

 

「飲酒か。だが、他にもあるだろう。奴らはでっち上げだってすることもある。それに俺はお前さんを助けられないぜ。なんたって情報(タレコミ)屋だからな。あいつ等に目を付けられたら情報を集められない」

 

 シュンは飲酒しかないと言ったが、ガイドルフは他にも覚えがあるだろうと良い、シュタージはでっち上げもすると告げる。更に自分は情報屋なので目を付けられるのはごめんなので、助けられないとここに来るシュタージの部隊が来る方向を見ながら告げる。

 

「少し早いな。では、俺はズラからせて貰う。良いか、何も起こすなよ」

 

「気分によるな。じゃあ、見付かるなよ」

 

「お前こそな」

 

 下手な行動は起こさないように注意すれば、シュンは気分によると答え、再び真面目に警告してから逃げるガイドルフに手を振った。

 それから予想より五分も早く、シュタージの職員を載せたヘリと、武装組織が保有する一個大隊分の戦術機が、第666戦術機中隊を傘下に入れている臨時戦術機大隊の基地へと降り立った。

 

 

 

「なんだありゃあ。自慢か?」

 

 基地へと降り立った自分の隊の戦術機とは違う型の戦術機を見たシュンは、東ドイツ最強の戦術機中隊に新しい装備を自慢しにやって来たのかと呟いた。

 

「自慢ならベルリンでやってるさ。どうやら、カティアの事を聞きに来たようだな。あの隊はシュタージの武装警察部隊だ。戦術機を装備した大隊が編成されていたとは…」

 

「シュタージって奴か」

 

 ヘリを護衛する陣形を取るMiG-21とは違う戦術機を見て鼻で笑うシュンに対し、アイリスディーナは隣に立ち、あの部隊はシュタージの武装警察であると告げたが、戦術機大隊を保有していることを知らなかったようだ。

 出迎えたハンニバルと顔を合わせているのは、シュタージの職員である赤毛の俳優のような男と、戦術機大隊の大隊長である若い黒髪の女性の二人だ。後は小姓のような付き人の少年と突撃銃を持った兵士数名だ。

 赤毛の甘いマスクの職員が気に入らないシュンであったが、隣に立っている黒髪の若い女性、それもマリやアイリスディーナにも負けないスタイルを持つ妖艶な美女に興味が湧いた。

 

「あの空かした赤毛は気に入らねぇが、あの黒髪の姉ちゃんは気に入ったぜ。やってみたいな」

 

「ベアトリクスの事か? 良からぬことを考えているなら止めておけ。あの女は危険だ」

 

「食い千切られるって事ですかい」

 

 平然と下品なことを言うシュンに対し、アイリスディーナは顔を引き付けず、その美女とは関わらないように告げる。

 これにシュンは両手を組みながら視線をハンニバルとやり取りをするシュタージの面々に戻し、ベアトリクスと言うシュタージの戦術機部隊の隊長は恐ろしい女であると認知する。

 どうやらアイリスディーナは、ベアトリクスのことを知っているらしい。妖艶な黒髪の美女を聞きながら、彼女に付いてのことを詳しく聞いた。

 

「友達なんで?」

 

「あぁ、士官学校で同じだった。ライバルと言うべきかな」

 

「なるほど。そいつはお目が高い」

 

 士官学校での顔馴染で成績を争っていた関係と、アイリスディーナより聞いたシュンは、自分が士官学校に居た時のことを思い出し、卒業できたのが奇跡とも言うべき成績で卒業した時のことを思い出す。

 そんな最中に、シュタージに目を付けられている件のカティアが彼らに呼び出された。

 

「不味いな。カティアが連行される」

 

「そうらしいすっな。行きますか」

 

 将来有望な666中隊のエースであるカティアがシュタージに連行される可能性が高いので、アイリスディーナとシュンは、彼女を助けるべく、その場へと急行した。

 部下たちも可愛い後輩を救おうと集まってきているが、一度シュタージに捕まった経験のあるテオドールはかなり震えていた。どうやら、あの男から拷問を受けた様子だ。

 現場へと辿り着いたアイリスディーナは、カティアに何の用かを問う。

 

「同志中佐、カティア・ヴァルトハイム少尉に何の用で?」

 

「これは、これは、ベルンハルト大尉。少し貴女の部下に聞きたい事があってね。彼女にはスパイの疑いがある。貴官らに救出された資本主義陣営の西ドイツの衛士が、この社会主義国家のドイツ民主共和国への亡命、実に都合が良過ぎる。何か、企んでいるのでないかな? 大尉殿(ハオプトマン)?」

 

 どうやら、救出したカティアがいきなりこの東ドイツへ亡命したことに、彼女がスパイである可能性と疑っているようだ。

 そんな西ドイツのスパイかもしれない可能性があるカティアを自分の隊に招き入れたアイリスディーナに、何か企んでいるのではと、不敵な笑みを浮かべながらシュタージの中佐は問い掛けて来る。

 これにアイリスディーナは、やましい事は無いと答えた。

 

「私はこのドイツ民主共和国に対して、何の不満もございません。ヴァルトハイム少尉は我々に対するお礼として我が隊に入っただけです。同志中佐」

 

「なるほど、救出された礼として貴官の隊に入ったと。所でカティア・ヴァルトハイム少尉、亡命理由はマルクス・レーニン主義に影響されたと、受付の記録書には書いてあるが、一体何所の項目の影響を受けて亡命を希望したのかな?」

 

「そ、それは…」

 

 アイリスディーナの答えを聞いた中佐は、今度はカティアの方を振り向き、マルクス・レーニン主義の何所の項目に影響されたのかを問うた。

 無論、彼女はドイツ連邦共和国に居た時、教師に過激な文章だとその主義の書籍版を紹介されて少しだけ読んだに過ぎない。亡命理由をでっち上げるためにそれを利用したのだが、肝心の内容はあまり読まなかった所為で思い付かなかった。

 どうするか焦ってテオドールの方を向いたが、彼は完全に目前のシュタージの中佐にトラウマを植え付けられたのか、冷汗を搔いて怯えるだけであった。

 それをテオドールの様子で察したカティアは、何か言おうとしたが、西ドイツにまで響くシュタージの恐ろしい噂に恐怖し、震えて言葉も出ない。

 どうするか迷っている内に、マルクス・レーニン主義の本がベアトリクスより出された。

 

「あ、あの…」

 

「読んでおきなさい。どうせ、赤軍が適当にばら撒いたビラを読んだ程度でしょ?」

 

「だ、ダンケ…」

 

 神の救いか。

 カティアはベアトリクスから出された本を受け取り、感謝の言葉を述べた。

 これにはシュタージの中佐は驚きを隠せなかったのか、意外と思って彼女に声を掛ける。

 

「おやおや、これは珍しい。あのブレーメ少佐がこんな施しを。少尉、その本はこのドイツ民主共和国で生きて行くには必要不可欠な物だ。それを読み終えれば、次の物を読んでおくように。これで晴れて君も同志だ」

 

 ベアトリクスから渡された本を見るカティアに、中佐はしっかりと読んでおくように注意し、少し区切ってから彼女に近付き、耳元で忠告する。

 

「それと不必要なことは言わないことだ。党への疑念も抱かないように。助かりたければな」

 

 それを忠告した後、震える彼女を置いてシュンの方へ向かって挨拶を行う。

 

「やぁ、君がバートル同志曹長か。遠渡遥々、モンゴルからドイツ民主共和国へようこそ。申し遅れたが、私はハインツ・アクスマン中佐だ。シュタージの職員をしている。そちらの女性はベアトリクス・ブレーメ同志少佐。我がシュタージの武装警察の戦術機大隊、人狼(ヴェアヴォルフ)の隊長を務めている」

 

 名乗り上げて握手を求めるハインツと言う俳優のような容姿を持つ職員に対し、シュンは挑発を交えた挨拶で返す。

 

「あぁ、どうも親衛隊中佐(オーベルシュトルムパンフィーラー)殿」

 

「オーベルシュトルムパンフィーラー? ははは、少し悪い冗談が好きなようだな、同志曹長。これからは我がドイツ民主共和国のためにBETAと戦ってくれたまえ」

 

 つまらない挑発と捉えたハインツはそれには乗らず、同じく笑みを浮かべるベアトリクスに一度視線を向けてから笑い始め、ねぎらいの言葉を掛けてからその場を後にしようとする。

 そんなシュタージに対し、アイリスディーナは何の用件でこの基地に来たのかを問う。

 

「尋問に来たにしては多過ぎますね。一体何の用で前線まで?」

 

「あぁ、そうだったな。ハンニバル少佐にも話したが、実はヴェアヴォルフは編成されて日が浅い。それに脱走兵が戦術機を持っての西側への亡命もありうる。そこで実戦がどんな物を感じてもらうため、こうして予備戦力としてやって来たわけだよ」

 

「予備戦力として、ですか。使えると良いですね」

 

「まぁ、期待はしなくてくれたまえ。何せ出番は無いようだしな。我々は後方から君たちの戦いぶりを見学するとしよう」

 

「…督戦隊かよ、全く」

 

 何の用件で来たのかと問われれば、前線の見学と予備戦力として来たとハインツは答えた。

 だが、理由は逃げようとする敵前逃亡者を裁判無しでの処罰を与えるためかと思われる。

 シュンは相手に聞こえないように呟けば、冷えた体を温めるために他の者達と共に宿舎へと戻る。

 

「さて、質問は良いかな。では、我々も健康のために屋内へ入らせて貰おう。外は寒いのでな」

 

 用件を伝えたハインツも身体を冷やすのは健康に悪いと言って、屋内へと部下を引き連れて入った。

 

 

 

 それから翌日、カティアの第666戦術機中隊としての初の任務、防衛線を終えた前線基地でのBETAの死骸撤去作業が行われた。

 

「俺たちはレーザーヤークトが仕事じゃ無かったのか? なんで死骸掃除なんかやらされんだ」

 

『文句を言わない。シュヴァルツェ(ノイン)。黙って掃除に集中!』

 

「へいへい」

 

 レーザーヤークトを主任務とする戦術機中隊に死骸掃除、それも従来の動物とは比べ物にならない突撃級や要撃級の死骸掃除をやらせる上層部に悪態を付いたシュンであったが、部隊のナンバー2であり、同じアジア系であるファムに注意され、増加装甲(シュルツェン)を付けた両腕で突撃級の死骸を滑走路の脇へと退かした。

 死骸掃除に参加している中隊メンバーは、療養のために隊を離れたアネットを除いての八機での出撃だ。もし何かあった時のために、突撃砲は腰に装着しての出撃している。

 カティアは戦死したイングヒルトよりシュヴァルツェ(ズィーベン)のコールサインを受け継ぎ、シュンは11(エルフ)から(ノイン)へと昇格した。

 

『おい! 気を付けろ!!』

 

 戦闘以外での任務、それも工兵部隊がやるような作業任務の出撃で少し苛立ったのか、シュンは乱雑にBETAの死骸を滑走路の脇へと投げ込んだ。

この任務には他の国家人民地上軍の部隊も参加しているので、足元に居る工兵らは、乱雑に死骸を片付けるシュンのバラライカに向けて無線機で注意する。

 その無線は当然ながら上官のアイリスディーナや政治将校のグレーテルにも聞こえており、二人からのお叱りの無線連絡が直ぐに飛んでくる。

 

『シュヴァルツェ9、出撃前に足元には注意しろと言ったはずだが?』

 

『貴様! 飲酒だけでなく同志まで殺す気か!?』

 

「けっ、うるせぇアマ共だ。悪かったな、スマン!」

 

『今度死体を投げやがったら、お前の棺桶にRPGをぶち込んでやる!』

 

 隊長と政治将校よりお叱りの言葉を受けたシュンは、工兵隊に向けて謝罪したが、怒りに燃えている工兵は次に投げ込んだら殺すと脅し、作業に戻った。

 シュンもまた滑走路での死骸掃除に戻る。今度は投げないように、足元に居る工兵や車両に注意しつつ、死骸を脇へと運びながら片付ける。

 部隊での初の作業任務となるカティアのバラライカの方へ視線を向ければ、先日見た実機訓練のように作業していた。

 

「あの嬢ちゃん、すげぇな。もうこんなに動かせるのか」

 

 自分より遥かに速いペースで機体を手足のように動かすカティアに感心の声を上げつつ、死骸掃除を続ける。

その間にアイリスディーナとテオドール、カティアが何か無線で連絡を取り合っていた様子だが、シュンの機体には連絡は届いていなかった。

 

『ふむ、滑走路の掃除が済んだな』

 

 それから数十分当たりで、滑走路に転がっていたBETAの全ての死骸の撤去に成功した。後はそれらの死骸を掘った大穴の中へ放り込み、穴を埋めるだけだ。だが、それだけでもかなりの労力、それも戦術機を使うしかない。

 

「さて、今度はお穴へ死骸を落とすか」

 

 また面倒な作業をしなければならないと思って、シュンはBETAの死骸を持ち運ぼうとしたが、隊長のアイリスディーナが中隊全機に緊急事態を報告する。

 

『総員傾注! 五分後に、この基地の滑走路に戦略爆撃機が二機、損壊した状態で着陸して来る。爆撃任務からの帰還中に、BETAの支配地域へ入ってしまい、レーザー級の対空攻撃を受けて損傷したようだ。ここに降りて来るのはかなり被弾している。それにこの悪天候だ。中隊は事故に備え、待機する』

 

『まじかよ…!』

 

「やれやれだ。爆弾は全てばら撒いた後だろうな?」

 

 その緊急事態とは、爆撃任務を終えて帰投中の東側最大の戦略爆撃機、ツポレフ設計局のTu-95がこの基地に緊急着陸を行うとのことだった。無論ながら交戦級の対空攻撃を受けて損壊しているので、いつ事故が起きてもおかしくない。これにテオドールは悪態を付いた。

 直ぐに滑走路から全機が退避すれば、シュンは搭載している爆弾は全て投げ落としたのかどうかを疑問に思って口にする。

 

『安心しろ、シュヴァルツェ9。爆弾は全て投下済みだ。十二機の編隊だが、半数は落とされ、残り六機だ。損傷しているのは先ほど言った通り二機だが、その二機はこちらへ着陸して来る。油断するなよ』

 

「ヤヴォール、ヘル・コマンダ」

 

 これにアイリスディーナが答えれば、シュンは油断せずに、編隊を離れてこちらに着陸して来る二機の損壊具合を機体のカメラで確認した。

 一機は不安定な状態であり、稼働しているエンジンは左右合わせて二基だけで飛んでいた。停止したエンジンからは火が噴き出ており、このまま飛んでいればいずれ爆発する事だろう。

 そんな酷い損傷を受けた戦略爆撃機は、何とか着陸用の車輪を出し、着陸態勢を取ったが、巨体を飛ばしている四つあるエンジンの内、二基しか稼働していないので、不安定な体勢を取りつつ燃料を投棄しながら滑走路へと着陸した。

 そのまま幾度かバウンドしつつ、数m進んだところで巨体は止まった。それから物の数秒後で緊急車両や消防車が機体の周りを取り囲み、消火活動に入る。

 乗っている乗員たちは直ぐに機体から降り、負傷しながらも一目散に機体から逃げて行く。

 

「爆弾を積んでたらエライ騒ぎになってたな」

 

 強行着陸した爆撃機を見ていたシュンは、爆弾を全て投下していたことに感謝しつつ、もう一機が着陸してくるのを待ったが、直ぐにその機は着陸しようとコースに進入してきた。機体は動きが正常では無く、様子がおかしい。

 

「おい、まだ滑走路に居るぞ。なんで着陸しようとしてんだ。気でも狂ったか?」

 

 管制官からの指示を待たず、正常でない体制で入ってくる戦略爆撃機の様子を確かめようと、カメラを最大にして機体を見れば、正常でない理由が分かる。

 光線級の対空攻撃がコックピットに命中したのか、機長や副操縦士も含め、この大型機を操縦できる者は全て死んだか息絶えていた。残りの者は対空攻撃で死んだか、パラシュートで機体から飛び降りている。

 

「くそっ、パイロットが死んでら!」

 

『おい、死んでるってどういうことだよ!?』

 

「コックピットの方を見て見ろ!」

 

『そんな…!』

 

 爆撃機のパイロットの死を知らせれば、テオドールはどういう事だと説明を請えば、シュンはカメラを見て見ろと怒鳴り返した。それを聞いてファムが爆撃機の様子を見れば、既にパイロットが息絶えていることにショックを受ける。

 

『持たなかったか…! 他の生存者は!?』

 

「みんな機体を放り出して逃げ出した! どうすんだ大尉?」

 

『我々は管制官からの指示を待つ! 既に工兵や作業車両には退避を命じてある! 指示があるまで待て!』

 

「指示待ちか! クソッタレ!」

 

 どう対処すればいいかをアイリスディーナに聞いたが、彼女は管制官からの指示が無ければ出来ないと答える。それと同時に作業部隊の退避は行われていたが、指示を待っている余裕はないため、シュンは独断で行動に出る。

 こちらに墜落して来る爆撃機を、護身用に持っていた突撃砲で撃墜するのだ。

 流石に容認されるはずが無く、静止の声の無線が掛かって来る。

 

『撃墜するだと!?』

 

『止めろ! 帰って被害が大きくなったらどうする!?』

 

「それでも、ただ黙って指示を待ってるよりはマシですぜ。兎に角、隊長たちは工兵たちの盾に。残骸が落ちて来るかもしれねぇ」

 

『バートルさん…! 分かりました、工兵の皆さんは私達が守ります!』

 

『おい勝手に…! クソッ! 失敗するなよ!!』

 

 まずはグレーテルから次に隊長のアイリスディーナだ。空中での撃墜は、更に被害を大きくする可能性がある。それを注意したが、シュンは承知の上であり、守れる術を持たない工兵らの盾になってくれるように頼む。

 これに応じ、カティアはまだ退避していない工兵の盾となり、テオドールも嫌々ながらもシュンに必ず成功させるように言ってから、彼女と同じく工兵たちを庇うように機体の姿勢を屈めた。アイリスディーナも折れたのか、テオドールと同じく必ず成功させるように告げる。

 

『シュヴァルツェ8と同じだ。今回は見逃してやる。必ず成功させろ』

 

「たくっ、余計に失敗できねぇな」

 

 テオドールやアイリスディーナからも言われ、シュンは目前にぶら下がっているスキットルには手を伸ばさず、両手から操縦桿を離さず、視線を落ちて来る爆撃機に集中させた。

 使うのは突撃砲の下部に付いてある滑走砲だ。主な使い道は大型のBETAを一撃で倒すことだが、ここでの使いようは落ちて来る戦略爆撃機の撃墜だ。弾道を計算し、正確に中央に命中させなければならない。

 

「(集中だ、集中)」

 

 弾道を計算しつつ、ただ落ちて来る爆撃機を撃墜する事だけに視線を集中させる。中隊メンバーを守る為と、己の目標を達成するために。その為に一切の恐怖心と疑問を捨て、必ずやり遂げると言う思いだけを抱き、照準をこちらに向かって落ちて来る爆撃機に向ける。

 意識を集中させる中、画面の照準が爆撃機の中央に重なった瞬間を見逃さず、直ぐにシュンは滑走砲を発射するトリガーを押した。

 滑走砲を発射した瞬間、特訓や実戦での発射した時と同じく振動がコックピット内へと響いてくる。画面上には、計算通りに弾が爆撃機の中央へと吸い込まれるように飛んで行くのが見えた。

 その物の数秒後に、弾頭は爆撃機の中央に命中し、飛び散った破片が燃料タンクにまで届いたのか、狙撃を受けた爆撃機は空中爆発を起す。見事に命中だ。

 

「全員伏せろ!!」

 

 だが油断は出来ない。基地への大惨事は退けたが、爆撃機は爆散して周囲に破片を撒き散らしている。その無数の破片が、基地へと降り注ごうとしている。それが分かっているシュンは、無線で基地に居る全ての者に伏せるように叫んだ。

 これに応じ、工兵らと基地の将兵らは屋内か塹壕内へと飛び込み、戦術機らは退避が間に合わない者達の盾となる。シュンも操縦桿を動かし、機体を滑走路の上に伏せさせた。

 シュンが撃墜した爆撃機の破片は雨のように基地へ振り注ぎ、ありとあらゆる場所へと突き刺さる。燃料貯蔵所に落ちてこなかったことが幸であったが、少しばかりの被害が出た。

 伏せ続ける事、数分余り、ようやく破片の雨が止み、代わりに雪が降って来た。

 

『全員、起き上がれ。雨は止んだぞ』

 

「ふぅ、久しぶりにちびったぜ」

 

 アイリスディーナの無線で、機体を起き上がらせたシュンは、一息ついて吊るされているスキットルを手に取り、中にあるウォッカを飲んだ。

 

「うぉ!? マジかよ」

 

 飲んでいる最中、自分の脇腹に何かが当たる感覚を覚えたで、その方へ視線を向けると、爆撃機の破片が寸での所で鋭利な破片が背中を貫いてコックピットまで迫っていた。後少しずれていれば、死んでいたか、野戦病院へと運ばれていたところだろう。そんなシュンの元に、カティアから無事を問う無線が入る。

 

『バートルさん、大丈夫ですか?』

 

「あぁ、大丈夫だ。ちびったが、寸での所で横っ腹に穴が開かなくて済んだ」

 

『良かった…! 本当に無事で…』

 

『運の良い奴だな。殺しても死ななさそうだぜ、あんたは』

 

「褒め言葉か、そいつは」

 

 カティアからの無線に、シュンはウォッカを飲みながら答えた。これに続き、テオドールは笑みを浮かべつつ冗談を言えば、シュンもまた冗談で返す。

 

『なんとか危機は去ったようだな。だが、仕事は増えたぞ。さて、命令違反の罰として存分に働いて貰おうか? シュヴァルツェ9』

 

「クソッ! そりゃあねぇだろ! 俺の機体には穴が開いてるんだぜ!? たくっ、流石は選抜中隊と言った所だぜ!」

 

『冗談だ。シュヴァルツェ9は機体から降り、工兵らと共に残骸の撤去に当たれ』

 

「そんな殺生な! クソッ、こんな薄っぺらいもんで極寒の中を! 畜生が!」

 

 大惨事は免れたが、仕事は余計に増えてしまった。二人に動じてアイリスディーナも笑みを浮かべながらシュンに機体から降りて工兵らと共に残骸の撤去を命じた。これにシュンは先ほどの行動を後悔しつつ、命令に応じて上着を羽織った衛士強化装備で滑走路に突き刺さった残骸の撤去を工兵らと共に当たった。

 

 

 

 シュンが墜落して来る爆撃機を撃墜し、基地の惨事を退けた同時刻。BETAとの最前線の一つとなっているチェコスロバキア社会主義共和国に、大規模な部隊が来ていた。

 その軍集団規模の部隊は、この世界の多国籍軍の物では無い。戦術機以外の見慣れない機動兵器を多数持っている。編成は四個軍と言うかなりの大兵力であり、機動兵器の数は二個軍規模で、半数が機動兵器で編成されていた。残りの二個軍は車両や歩兵、火砲などで編成された部隊だ。管轄が陸軍であるためか、航空機は含まれていない。

 

「凄い数の戦術機だな。なんかすんなりしてるのが多いが」

 

「簡略化されたんじゃねぇのか? 資源不足で」

 

「あんな細いの、突撃級の体当たりを受けたら一撃で潰れそうだな」

 

 自国で大規模な部隊が駐屯し、ガイドルフの言っていた大規模反攻作戦に備えて待機しているその陸戦部隊を見て、チェコスロバキア兵等は驚きの声を上げる。

 特に機動兵器、自分等の知る戦術機では無い飛躍ユニットが小さいスリムな機動兵器が多数いるので、あれではBETAには勝てないと口にする兵士も居た。

 そんな兵士らに見られたら危険なのか、銃を持った憲兵らが彼らを追い出す。

 

「お前ら! 持ち場へ戻れ! ここはたった今から立ち入り禁止区画だ!!」

 

「いきなり来てそれか…クソッタレめ!」

 

「相手は化け物なんだろ。なんで秘密にする必要があるんだ」

 

「良いから持ち場へ戻れ! 命令に従わぬ場合は、裁判無しの銃殺刑に処する!!」

 

 突然現れては、ここを何の理由もなしに占拠した余所者たちに、悪態を付きながら現地軍の兵士らは去って行った。

 その後、兵士らが着るコートとは違い、高品質なコートを羽織った女性が来る。長い髪は出さず、バラクラバを被っている。年齢的には少尉階級の将校のはずだが、憲兵らは将校も含めて彼女に向けて敬礼した。

 

「ふむ、少し目立つな」

 

「閣下! ご散歩でありますか?」

 

 どうやら彼女は軍集団に属する将軍の一人のようだ。憲兵隊の将校は敬礼しながら、散歩でここを訪れたかどうかを問う。

 

「いや、視察だ。軍集団の幹部連中はここを立ち入り禁止区画にしたようだが、この世界では異質な兵器は目立つぞ。上手くカモフラージュしろ」

 

「この辺を飛ぶ航空機は居ないはずですが…上官に報告いたします」

 

「そうしろ。ネプチューン・デイまで我々は不測の事態以外に動けん。騎士連合も含めてな」

 

「はっ! 閣下、ご苦労様です。お体にはお気を付けて!」

 

 この問いに女将軍は、視察であると答え、ここでは目立つ兵器は隠しておくように命令した。命令に応じた憲兵隊の将校は無線機を取り出し、女将軍が命じたことを上官へ告げた。

 それを見届けた女将軍は、大規模反攻作戦まで動けないと口にしてから、労いの言葉を将校から受けつつ部下を引き連れて去って行った。

 女将軍が口にしたネプチューン・デイ。

 ガイドルフの言っていた大規模反攻作戦名のことだろう。ネプチューン、海王星の英語読みだ。つまり作戦名は、海王星作戦と言う事となる。

 彼らが本格的に動き出すのは、海王星作戦までだ。それまでに、彼らは作戦に備えている米軍やソ連軍と同じく前線に一切出てこないだろう。

 他にもあった騎士連合と言う部隊も含めて。

 そんな大規模な部隊の存在を知らず、シュンは終わりの見えないBETAとの戦争に明け暮れていた。




ハインツ相手に危ないネタを出して駄々スベリする主人公。

なんかあいつの顔、どっかの映画で見たことあんだよな…何所の映画だっけ?

それより次回はノィエンハーゲン要塞かな。ぶっちゃけファムと同じアジア人だから、シュンは捨て駒にされた要塞へと100%で送り込まれるな。白人なマリならまだしも。

では、この辺で失礼を。
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