復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今年最後の更新です。次の更新は来年からになります。


アンデッドマシーン

 ノィエハーゲン要塞から脱出し、辛くも生き延びたシュン達であったが、第666戦術機中隊、通称シュヴァルツェ・マルケンのナンバー2であるファムは負傷して戦列を外れた。

 またも定員数に満たない八機編成へと戻った中隊であるが、このBETA戦争に対して、国家人民地上軍は彼らに休息は与えず、軍本部があるベルリンへと作戦会議のために、隊長のアイリスディーナと、補佐役のクリューガーを出頭させた。政治将校であるグレーテルも、党本部に報告するためか、同じくベルリンへと出頭を命じられている。

 中隊の幹部である三名だけを呼べば良いが、護衛と言う形なのか、テオドールとカティア、シュンの三名もベルリンへと向かった。

 その前に、ノィエハーゲン要塞で戦死する予定であった臨時小隊の三名が生き残っている件に対し、シュタージの面々が基地へ来て敵前逃亡の疑いで尋問を行おうとしたが、アイリスディーナとグレーテルの手腕で何とか事なきを得た。

 

「やれやれ、なんで俺たちまで呼んだのか。作戦会議に出るって言うなら俺たちは必要ねぇだろう」

 

 当然ながら、一介の少尉二人と下士官は作戦会議には呼ばれていない。グレーテルは党本部に報告に向かい、後の三名は寒い外で待たされている。これにシュンは。壁にもたれながら悪態を付いた。

 

「まぁ、会議が終わるまでに観光でもしてろってことだろ? それに、あんたはベルリンが初めてじゃないのか?」

 

「あぁ、初めてだぜ。それと、整備班長の爺さんからおつかいを頼まれてるんでな。お前らはここでコーヒーでも啜りながら待ってろ」

 

 それに対してテオドールは、待っている間に暇つぶしか情報収集でもしていろと言うアイリスディーナの意味合いであると告げた。

 これにシュンは中隊の整備主任であるオットー・シュトラウス技術中尉に頼まれたおつかいをするべく、渡されたメモを上着の懐から出す。

 何のおつかいをするのか気になったのか、カティアはシュンに問う。

 

「シュトラウス技術中尉のおつかいって、何ですか?」

 

「そりゃあ、お前、ビールに決まってんだろうが。あんだけ俺らのために働いてくれてんだ、おつかいぐらい出来ねぇとな」

 

「あぁ、ビールですか。私、もう十六なんですが、お酒はあんまり…」

 

「ビールか。密告者につけられるなよ!」

 

 この問いに対してシュンは、シュトラウスが頼んだのはビールであると答える。

 無論、これは西ドイツのバイエルン州産の物であるが、ビールと聞いただけで何か分からないカティアは意味を理解できない。テオドールは分かっていた様子で、シュタージの手の物に尾行されないように注意した。

 そのテオドールの気遣いに、手を振って応えつつ、シュンはシュトラウスのメモに書いてある住所まで向かう。

 行く先はテオドールが察した通り、主に西ドイツから密輸された物を売買している秘密の店だ。

 この社会主義国に置いて、そんな店は摘発されてもおかしくはないが、シュタージの職員に賄賂でも渡しているのか、摘発されずに済んでいる。

 

「あぁ、西の方へ行けば、娼館の一つや二つはあるんだろうな」

 

 寒いベルリンの街中を、西の壁の向こうに見えるドイツ共和国連邦領である西ベルリンを見て、そこへ行きたいとうっかり口にしてしまった。

 この発言は疑いを掛けられる可能性があるので、周りを見て誰も聞いていないことを確認すれば、尾行に悟られぬように警戒しつつ、件の店に向かう。

 東ベルリンにも娼館の一つや二つはありそうだが、何らかのハニートラップである可能性があり、中隊によからぬ疑いが掛かるので、シュンは行かない。

 

「ここだな」

 

 尾行されていないことを確認してから、シュンはドイツを東西に隔てる壁の近くにある件の店を見付けて入店した。

 

「いらっしゃい」

 

 店内はいたって普通の雑貨屋だが、シュトラウスが言うには、初老の店主に合言葉を告げれば、秘密の店の入り口を開けてくれるらしい。メモに掛かれず、口頭でシュトラウスから教えられた合言葉を、シュンは店主に向けて放った。

 

「ゲーリングはモルヒネ豚」

 

 合言葉は、ナチス政権時代の空軍大臣であったヘルマン・ゲーリングに対する蔑称だ。

 それを聞いた初老の店主は、無言で秘密の店の入り口を開け、外の様子を見ながら早くそこへ入るように無言で急かす。

 店主に急かされるまま秘密の店の入り口へと続く地下へと降りれば、西側諸国から密輸された商品を扱う違法な店が姿を発見した。

 

「あの爺さん、密告されても仕方ねぇぞ」

 

 今の東ドイツには違法すぎる店に、シュンはこの店を知っているシュトラウスは密告されても仕方ないと告げ、おつかいの物であるバイエルン州産のビールをある程度の数を手に取り、レジへ向かおうとしたが、ある物が目に入った。

 

「カセットレコーダーか…」

 

 おそらく日本製品とされるカセットレコーダーだ。カティアに買ってやろうかと思ったシュンは、それも手に取ってレジへと運んだ。

 ビール代はシュトラウスの分で足りたが、ラジオは自分の給料をほぼ使い果たしそうな値段であったが、なんとかおつかいは済ますことができた。

 それ等を外側から見えないような袋に詰めて貰い、店の場所を悟られぬように元の雑貨店から出た後、尾行されていないか確認しつつ、国家人民地上軍の本部へと戻る。

 

「おつかいは済んだか?」

 

「あぁ、済んだよ」

 

「何を買ったんですか?」

 

 本部前に戻れば、近くの屋台で購入したソーセージを食べていたテオドールに声を掛けられた。カティアは洋菓子を食べており、何を買ったのか問うてくる。

 

「なに、爺さんのみあげ物よ。お前にもなんか買ってある。基地に戻った後にくれてやる」

 

「珍しいな。お前が鬱陶しく思ってるカティアに」

 

「なに、いつも助けられてるからな。そのお礼だ」

 

 テオドールはシュンの事を自分が生き残る為なら他人を切り捨てる卑劣漢だと思っていたのに、カティアに物を買ったことに、驚きを隠せなかった。これにシュンはいつも助けられていると答え、軍本部を見た。

 丁度その時に会議が終わったのか、アイリスディーナが出て来る。クリューガーは情報収集に向かったようだ。

 

「寒い外に待たせて済まなかったな。では、少し羽を伸ばしに行くか」

 

 本部より出て来たアイリスディーナは、休暇代わりとしてか、ベルリンを観光しようかと持ち出す。

 これにカティアは、党本部に報告に行ったグレーテルはどうするのかを問う。

 

「イェッケルン中尉はどうしますか」

 

「そうだな。政治将校殿はまだ時間が掛かる。我々だけで行くか」

 

 その問いに放っておくと、アイリスディーナが告げれば、次にシュンの方を振り向く。

 

「同志曹長、お前はどうする?」

 

「まぁ、後はこいつを整備班長殿に渡せばいいが、予定なんぞ無いしな。それに、何かあった時にこの街の地形を知っておきたい。付き合うぜ」

 

「よし、行くか」

 

 アイリスディーナに誘われたシュンは、これに応じて共にベルリンの街を観光する事となった。

 

 

 

 半日ほどの休暇の後、再び前線基地へと戻ったアイリスディーナ達の第666戦術機中隊、通称シュヴァルツェ・マルケンに、負傷して戦列を離れたファムに代わる新たな補充員である衛士が来た。

 

「リィズ・ホーエンシュタイン少尉です。ただ今本日をもって、第666戦術機中隊に着任しました! よろしくお願いします!」

 

 新しい補充兵は、リィズ・ホーエンシュタインと言う金髪を白と水色のストラップのリボンで止めた幼い顔立ちの元気な少女一人だ。後三名ほどの補充兵が必要であるが、この死神中隊と揶揄される部隊に誰も配属などされたくないのか、彼女一人しか居ないようだ。

 彼女の姿を見たテオドールはかなり驚いた表情を浮かべ、リィズは彼に向けて微笑みかけている。

 

「なんだ、一人だけか。他に三名とは来ないんですかい?」

 

「同志曹長、何所も人手不足だ。お前とクシャシスカ少尉のような迷子兵の補充は居ないようだ」

 

 一人しか補充兵が来なかったことに、シュンはアイリスディーナに問うが、彼女はリィズ以外居ないと告げた。

 それから少しばかり、次の作戦行動のブリーフィングを終えれば、なんとリィズはテオドールに抱き着いた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃんだぁ? おい坊主、どういう関係だ?」

 

 更にはテオドールの事をお兄ちゃんと呼んだので、これには流石のシュンも驚きを隠せず、彼に問い詰める。

 この問いにテオドールは、抱き着いてくるリィズに困惑しながら答えた。

 

「俺の義理の妹だ…! まさか、本当にリィズなのか…?」

 

「そうだよ、やっと会えたね、お兄ちゃん!」

 

 行方知れずの義妹と偶然の再会、実に感動的な物であるが、シュンはリィズの行動に疑問を抱かずにはいられなかった。アイリスディーナやクリューガー、グレーテルも同様である。

 他の数名は、シルヴィアを除いて驚いた表情を浮かべたままだ。

 

「(この嬢ちゃん、完璧な演技だな。こういうのは古巣のワルキューレに長居し過ぎた所為か、見分けがついちまう)」

 

 直ぐにリィズのテオドールに対する変わった行動を、演技だと古巣の嫌な経験で見抜いたシュンは、即座に彼女を国家保安局(シュタージ)の手の者の可能性があると判断した。

 しかし、リィズがシュタージのスパイであるとの確証は取れない。彼女の行動を見ている者達は、正体を見極めるために泳がすつもりでいる気だ。

 

「感動の再会で悪いが、じゃれ合うのは後にしろ。ここは軍隊だ、お前も兵隊だろ? 兄ちゃんが妹かなんだか知らねぇが、いちゃつく場所じゃねぇ」

 

「あぁ、そうだな。曹長。リィズ、話はまた後で…」

 

「…っ!」

 

 だが、このまま目の前でテオドールといちゃつかせるのは目に余るのか、隊長に代わって二人を引き離そうとする。

 それに応じ、テオドールはリィズを引き離して話は後にすると告げたが、彼女は兄との感動の再会に水を差された所為か、それともシュタージに引き込もうとする邪魔をされたことに怒ったのか、凄まじい殺気を込めてシュンを睨み付けた。

 テオドールを含め、他の隊員や標的のアイリスディーナの目もあるので、直ぐに元気な少女へ戻ったが、その憎悪に満ちた瞳は、シュンには通じず、逆に自分の手の内を明かしてしまった。

 

「けっ、小娘がいっちょ前に。良く仕込まれたもんだぜ」

 

「何か言ったか?」

 

「いや、なんにもねぇ。独り言さ」

 

 それを思わず口にしてしまったシュンだが、テオドールの問いにそう答え、昼食を済ませるために食堂へと向かった。

 食堂へと続く廊下へと進む中、盗聴器が仕掛けられていない場所へと来れば、近くの壁に寄り掛かり、煙草を吹かしているガイドルフが声を掛けて来た。

 

「よぅ、シュタージのお嬢ちゃんに睨まれたようだな」

 

「全く、あんたは何所にでも現れるな。でっ、あの嬢ちゃんはシュタージの回し者ってか?」

 

「この程度の事は朝飯前だ。もっとも、調べる間もなく、見れば直ぐに見分けられるんだがな」

 

 いきなり現れ、直ぐに自分が欲しい情報を出すガイドルフに、シュンはアウトサイダーの言う通りに警戒した。

 尚、ガイドルフはリィズを見るだけで、調べることも無く、一目見るだけで見抜けると豪語する。

 

「そんだけを告げるために、わざわざここに来たのか? 何が欲しいんだ?」

 

「あぁ、そうだな。シュナップスが欲しい。もちろん、くれるよな?」

 

 提供される情報が無償とは限らないので、シュンは何が欲しいのかを問えば、ガイドルフはシュナップスが欲しいと答えた。

 これにシュンは、ベルリンの将校クラブでくすねて来たシュナップスの瓶をベルトから出し、それをガイドルフに手渡した。

 

「ふむ、こいつは上質なシュナップスだな? 将校の物を盗んだか?」

 

「その通りだ。一口飲んだが、中々の味だ」

 

「後で飲んでおこう。取り敢えず、ラジオは人目の無い場所で渡せ」

 

 シュナップスを受け取り、品定めをして将校クラブから盗んだ物なのかを問うガイドルフに、そうだと答えれば、彼はシュンがラジオを買ったことが分かっていたのか、人目の付かない場所で渡せと告げてから何処かへと去って行った。

 

「なんで知ってんだよ。たくっ、黒目の野郎の言う通り、怪し過ぎるぜ」

 

 細心の注意を払ったはずだが、見られていたことにシュンは、アウトサイダーの言う通り、ガイドルフを余り信用せず、逆に利用することを心掛けた。

 

 

 

 訓練を終え、リィズを加えた再編も終えた第666中隊の面々は、それぞれの一夜を過ごす為、兵舎に戻るか、盗聴器の無い場所で情報交換を行うかしていた。

 テオドールは一人基地の屋上で、雪が降りしきる暗い空を眺めている。

 

「よぅ、坊主。風邪ひくぞ」

 

「なんだよ、あんたか」

 

 そんなテオドールに対し偶然を装ってか、シュンが酒の入ったスキットルを片手に現れた。

 声を掛けられたテオドールは一瞬驚いたが、味方であるシュンだと分かり、再び視線を暗い夜空へ向ける。

 

「でっ、こんな寒い中で飲酒か?」

 

「いや、違う。お前に伝えたいことがあってな。お前の妹が…」

 

「あんたの言いたいことは分かる。リィズが国家保安局の犬かもしれないことは承知だ。万が一そうだとしても、俺は揺るがない」

 

 問い掛けて来たテオドールに、シュンはリィズの件を持ち込めば、自分の義妹が国家保安局の手の者であっても、揺るがないと答えた。

 

 だが、ガイドルフより真実を知ったシュンは、リィズがシュタージの手の者であることは、冷酷にも確実だと告げる。

 

「いや、あの嬢ちゃんは確実だ。俺の経験から言わせれば…」

 

「まだ決まってない!」

 

 これに怒りを覚えてか、テオドールはこの場を後にしようとしたが、シュンは彼の事を思ってか、リィズには注意するように告げる。

 

「おいおい、俺はお前のためを思って言ってやってんだぜ。あの嬢ちゃんは半分本気かご主人様に言われての事かだが、裸でお前に迫って来るだろうな。まぁ、ハニートラップって奴で、女のスパイの常套手段だ」

 

 この自分の義妹であるリィズを貶めるシュンの発言に更に怒りを覚えてか、テオドールは体格差のある彼の胸倉を掴み、険悪な表情で詰め寄る。

 

「ふざけるのも大概にしろ! リィズが俺にハニートラップだと!? お前、リィズをなんだと…」

 

 最後まで言い切る前に、シュンはテオドールを払い除け、少し落ち着かせてから続ける。

 

「全く、これだから餓鬼は。普通なら強制収容所で廃人みてぇになってるはずが、あんなお兄ちゃんとか言うくらいな元気、普通に考えればありえねぇ。あの恐怖の国家保安局様が可愛そうだから釈放するなんてのもありえねぇ。ありゃあ、洗脳されてるって証拠だ。ともかく、誘いは受けるな。義妹とはいえ、お前の妹だ。分かったな?」

 

 払い除けてから着ている作業服の襟を戻し、シュンはテオドールに向け、リィズに警戒しておくように忠告してから去った。

 

「知ったような口を…! あのゴリラめ!」

 

 これにテオドールはシュンに対する悪態を付きつつ、自分の義妹であるリィズが、国家保安局の手先である事を否定するも、その可能性があることを考慮し、気を紛らわせるために再び夜空を見上げた。

 

 

 

『総員傾注! 今回もまたレーザーヤークトだが、既に西ドイツの戦術機中隊が敢行している。だが、撃ち漏らしが幾つかあるらしい。我がシュヴァルツェ・マルケンはその残りを叩く。いつもよりかなり楽な任務だ』

 

了解(ヤヴォール)!』

 

『はい!』

 

 それから翌日、シュンが属する第666戦術機中隊は、ドイツ連邦陸軍の戦術機中隊は撃ち漏らした光線級の掃討任務に就いた。数は殆どが掃討されて少なく、いつもよりはかなり楽な物であった。

 隊長のアイリスディーナより告げられた一同は、各自返答を行ったが、リィズだけは了解とは言わず、元気よくはいとだけ答えた。

 リィズのことをアイリスディーナは気にせず、編隊より少し遅れているシュンのバラライカに大丈夫かどうかを問う。彼の機体だけ、アネット機よりも大き目な長刀を装備しており、その重量の所為で機体の速度が落ち、中隊に一歩遅れている。

 長刀はシュンが持つスレイブと同じデザイン、それも戦術機サイズの大きさにした大剣だ。

 国家人民地上軍がこれを装備して出撃しろと命じるなど、ありえないことだが、シュンに対する気休めとして、アウトサイダーが送ったようだ。

 

『そんなデカいの、早く棄てたらどうだ? レーザーヤークトには向かないぞ』

 

「なぁに、推進剤を節約しながらあんた等について行くとも。心配はご無用だ」

 

 テオドールに心配を掛けられたシュンは、自分の事は気にするなと無線越しで告げ、一度地に足を着け、それからまた一度スラスターを吹かせ、何とか八機について行く。

 今回で部隊として初めて行動するリィズも一緒だが、足を引っ張らないように訓練されているのか、しっかりと編隊を維持していた。

 

『各機、戦闘空域に到達した。気を引き締めて…なんだこの霧は…!?』

 

『気象情報じゃ、こんな霧なんて出ないって言ってたじゃない!』

 

『機体を地上に降ろせ! カメラを熱源センサーに切り替え、警戒しながら前進しろ!』

 

 もう少しで光線級の射程内に入った所で、視界が遮られるような濃い霧が急に発生し始めた。

 これにアイリスディーナは少し驚き、アネットは少々混乱したが、直ぐに彼女は的確な指示を出し、飛ぶのを止めて機体を雪原の上に立たせ、熱源センサーにまで切り替えるように指示を出す。

 

「流石は前線指揮官って言った所か。慣れてるな」

 

 予想外の出来事にも、冷静な判断を出したアイリスディーナの指示に従い、隊員等は指示通りの行動に移り、周囲警戒をしながら機体の足だけで濃い霧の中を進む。

 このアイリスディーナの的確な判断を、歴戦練磨のシュンは高く評価して彼女の指示に従い、モニターを熱源センサーモードに切り替える。

 

『大隊本部、こちら第666中隊。予想外の霧の発生で誤射の危険性あり。戦闘継続は困難を要する。ここはレーザーヤークトを中止し、基地への帰投を…』

 

『こんな霧程度で任務を中止して引き上げるだと!? そんなことは政治将校として許さんぞ!』

 

「ここに来て任務優先かよ」

 

 濃すぎる霧のため、BETAとの戦闘になれば誤射の危険性を感じてか、アイリスディーナは大隊本部のハンニバルに連絡を取り、任務の中止を提案したが、政治将校であるグレーテルは反対意見を述べ、戦闘を継続するよう怒鳴り散らし始める。

 確かにこの霧では、レーダーが正常に機能していても、いざBETAとの戦闘になれば誤射の危険性がある。それに他の戦術機部隊との誤射だってあり得る。

 その危険性を考えての任務中止だが、グレーテルにとってはたかが霧程度で引き下がるなど以ての外であるようだ。

 

「こんな視界でBETAとやり合えって言うのかよ」

 

 政治将校の立場として、勝つまで戦うべしと言うグレーテルに対し、シュンは悪態を付いて辺りを警戒した。

 

『十一時方向より、西ドイツ機が接近!』

 

『確認した! 各機撃たないように! ん、損傷している…?』

 

 政治将校の無茶な戦闘継続命令に従い、地に足を着けながら前進する中、前方より損傷を受けたドイツ連邦軍の戦術機であるF-4が現れた。数は五機ほどで、この濃い霧の中を飛んで、何かから逃げるように後方へと下がろうとしている。

 

『待て、貴官らは何と戦っていた!?』

 

 逃げる西ドイツ軍機に対し、アイリスディーナは何と戦っていたのかを問う。

 グレーテルも流石に西側諸国の部隊に言うのは不味いのか、彼らが問いに答えるまで黙っていた。

 問われた西ドイツの衛士は、声を震わせながら答えた。

 

『ら、死体(ライヒェ)、ライヒェが襲ってきている…! アンタ等も早くこの場から逃げろ!』

 

 アイリスディーナの問いにそう答えた西ドイツの衛士は、損傷した友軍機と共に戦場を離脱した。

 この報告を聞いたグレーテルは、西側部隊の情けなさを鼻で笑う。

 

死体(ライヒェ)だと? 何を馬鹿なことを言っているんだ、あいつ等は? 全く情けない。ベルンハルト大尉、このまま前進せよ。奴らが怯えて逃げた物の正体を確かめてやる』

 

『いや、あの怯えようは異常だ。もしかすれば、新種のBETAかもしれん』

 

『新種であろうと、我が共産主義のハンマーで撃ち潰すのみだ! 全機、私に続け!』

 

 怯えて逃げる西ドイツの部隊を嘲笑うグレーテルに対し、クリューガーは新種のBETAの可能性があると意見を出したが、これに彼女は何であろうと潰すのみと答え、自分だけスラスターを吹かせて前に出た。

 

『全く、政治将校と言うのは! 各機、04を追え! 単独での行動は危険だ!』

 

『了解!』

 

「世話の掛かる将校だこって」

 

 独断先行したグレーテルを負うため、隊長であるアイリスディーナは直ちに彼女の後を追う。これにシュンは悪態を付きつつも、グレーテルを追うために隊に続いた。

 

『なんだ、友軍機か…? それに西ドイツの物まで。凄まじい損傷だぞ。どうして動いている?』

 

『独断専行は駄目だぞ、4。これはどういうことだ…?』

 

 直ぐにグレーテルの機体に追い付いた第666中隊であったが、先行した彼女が見た者は、東西を合わせた戦術機であった。しかし、そのどれもが戦闘不能なほどの損傷であり、動いているのが奇跡としか言いようがない。否、動いている事態があり得ない。

 それに、亀裂から不気味に紫色に光っている。何かを埋め込まれたようだ。無線連絡で呼び掛けるも、それらに乗っている衛士は死んでいるので答えない。

 

「機体に穴が開いている…? パイロットが生きてねぇ…! やべぇぞ、こいつは!」

 

『…どういうことだ!? 死んでるはずのBETAが動いている!』

 

『8! 何を言っている!?』

 

『BETAが戦術機を攻撃していない!?』

 

 これを赤外線越しで見ていたシュンは、破壊された機械が動くなど経験が無かったため、同じ小隊を含め、中隊全員に無線で知らせたが、テオドールが死んでいる筈のBETAが動き始めたと叫び始める。

 この報告にアイリスディーナは、自分の中隊を囲む集団に警戒しつつ、テオドールに気が確かであるかどうか問うが、死んだ生物を蘇らせて操る術を知るシュンは、この世界にその類の術を使う術者が来ていると察した。

 

『こんな物、何かの…いや、BETAが兵器を使うはずが…!』

 

『お兄ちゃん、本当に死んでるBETAが…! これって夢じゃないよね!? ねぇ!?』

 

 予想を遥かに上回る事態に、シュン以外の者達はやや動揺を覚え、この手の類を政治教育で信じないグレーテルと、新兵同然のリィズは完全に混乱していた。

 

「(おいおい、ここにもネオ・ムガルの刺客かよ! たくっ、冗談じゃねぇぜ!)」

 

 破壊された戦術機をどう動かしているかは分からないが、死した生命体を蘇らせ、操っている術を知っているシュンは、この世界にネオ・ムガルの刺客が居ると判断して、手近に居る死体BETAの足を突撃砲で撃ち抜いた。

 

「とにかく、足を撃って動きを止めりゃあ良い。それが化け物との基本的な戦い方だ」

 

 そう無線で言って、シュンは近付いてくる壊れた戦術機とBETAに突撃砲の弾丸を浴びせ続けた。

 

『効いているようには見えないが、何もしないよりはマシだ。各機、10はこの手の類に詳しいようだ。大本が分かるまで足を撃って止めろ!』

 

『奴がこれを…』

 

『シュヴァルツェ4、この科学的には証明できん現象を解決するには、奴に任せるしかない。今は黙って指示に従え』

 

『クッ、今回だけだぞ!』

 

 このシュンの行動に、アイリスディーナは今起きている超常現象を解決するには彼に任せるしかないと判断したが、グレーテルはシュンが引き起こした物と言おうとしたが、黙らされた。

 それにグレーテルは泣く泣く従い、壊れているはずの戦術機や死んでいるのに向かって来るBETAの足を撃ち始めた。

 

「(理解が早くて助かるな。さて、大本は何所だ?)」

 

 アイリスディーナの理解の早さと、彼女の指示に一人を除いて疑いを持たずに従った部下たちに舌を巻いたシュンは、大本が何所に居るか赤外線センサー越しのモニターで探した。

 

「(こういうくたばった化け物やメカを操ってる奴は、枠の外に居る。その居場所は、安全な後方の霧の外だ)」

 

 壊れた戦術機や死んだBETAを操る大本は、後方、それも霧の外に居ると判断したシュンは、アイリスディーナに無線連絡で周囲の化け物たちを引き付けてくれるように頼んだ。

 

「隊長、このスクラップや死骸を操ってるのはおそらく霧の外だ。俺はそれからぶっ潰して来る。隊長たちは敵を引き付けてくれ」

 

『単機でやる気か? 逃亡しないと言う確証は持てない。監視、いや、支援のために7と8を付ける』

 

『なんだと!?』

 

『はい! 10を援護します!』

 

『お兄ちゃんをあんなゴリラの監視に!?』

 

『おいおい、化け物退治に付き合えと?』

 

 だが、ここでシュンが逃げる可能性が捨てきれないのか、アイリスディーナはテオドールとカティアを随伴機、否、監視を命じた。

 これにグレーテルは怒り、カティアは承諾したが、テオドールとリィズは異議を唱えたが、四の五の言っている場合では無いので、シュンは随伴に指定された二人についてこいと怒鳴り付ける。

 

「良いから黙ってついてこい! 指示が聞けねぇならこいつ等の餌にするぞ!」

 

『ちっ、分かったよ! こちら8、10に随伴する!』

 

『はい、シュヴァルツェ10!』

 

 大男に怒鳴り付けられたテオドールは、中半やけくそになりながらも、カティアと共にシュンの後へと続いた。

 

「よし、一点突破だ! こいつの出番だな!」

 

 指定された二機が随伴しているのを確認すれば、シュンは自分の機体の背部に装着された大き過ぎる戦術機用の長刀に武器を切り替え、高速移動をしながら道を遮る死骸とスクラップの集団に向けてその巨大な大剣を振り下ろした。

 結果はシュンが振るう得物である大剣(スレイブ)の通り、障壁となって立ち塞がった敵は肉片や部品を撒き散らしながら散った。まだ動いているのも居るが、進路は開いたので、突破は可能だ。

 

『っ!? まるで西側のファンタジー映画だな…!』

 

『まるで魔法みたい…!』

 

 その光景を目にしたテオドールは、幾度か昔に隠れて見た西側のファンタジー映画を思い出し、それに例えた。表現が自由な西側諸国で育ったカティアも、テオドールとは違うもファンタジー系統の作品に例える。

 大剣を振るって屍やスクラップの壁を崩し、道を開きながら進む中、必死について来ようとしていたテオドール機が、飛び掛かって来た複数のスクラップの戦術機に捕まった。

 

『うぉ!? このぉ!!』

 

 これにテオドールは何とか平静を保ちつつ、掴み掛って潰そうとして来る一機の戦術機に向け、短刀を振るって引き離し、もう一機のコックピットの辺りに突き刺して引き剥がした。

 

『離れろ!』

 

『テオドールさん、危ない!!』

 

『っ!? あぁ…!』

 

 足を止め、援護に回ったカティアであるが、既に背後から惨たらしい死に方をした無数のBETAが近付いており、その光景を目にしたテオドールは、今まで殺して来たBETAを思い出し、蘇って自分を殺しに来たと思って恐怖して強張ってしまった。

 そんなテオドールを助けようと、カティアは自分に向かって来る死骸BETAを放置して、突撃砲の銃口を向けたが、そんなことをせずともリィズや、戻って来たシュンが仕留めてくれた。

 

『お兄ちゃん! 大丈夫!?』

 

「たくっ、世話の掛かる坊ちゃんだ!」

 

『ありがとう、リィズ。それと俺を坊主扱いすんな! ゴリラ!!』

 

『テオドールさん…!』

 

 義妹のリィズには礼を言うテオドールだが、シュンに対しては悪態で返した。

 これにカティアは一息ついて止まってしまったが、彼女もシュンに助けられる。

 

「ぼさっとすんじゃねぇ! 今度は助けねぇぞ!!」

 

 その怒鳴り声に、また足を引っ張らないように、突撃砲から大剣に切り替え、それでで道を開けるシュンの後へと続いた。

 

「抜けたぞ!」

 

 深い霧の中を、蘇った戦術機やBETAを倒しながら進む中、ようやく霧の外へと抜け出した。

 霧を抜ければ即座に赤外線センサーから通常のカメラに切り替え、術者らしき人物がこの銀世界の中に居ないか見渡す。

 

「(何所だ? 何所に居る?)」

 

 後方を随伴してきた二名に任せ、機体のカメラを周囲に回して探し回る中、カティアからの無線連絡が入った。

 

『あそこに変に浮いている人が!』

 

「何所だ!?」

 

『データを送ります!』

 

「そこか!!」

 

 カティアが見付けたと言ったので、シュンは何所に居るのかを凄まじい剣幕で問えば、彼女は即座に詳しい位置座標データを送った。それを受け取ったシュンは、即座にその位置に向け、大剣を雪原の上に突き刺し、突撃砲を撃ち込む。

 

「クソッ、こんな時に外すなんざ!」

 

 余りにも照準もせずに撃った所為か、座禅を組んで何かを唱えている術者の老人には当たらなかった。直ぐに二発目を撃とうとしたが、ここに来て突撃砲は弾詰まり(ジャム)を起こす。普通ならありえない事態だ。これには流石のシュンも驚かずにはいられなかった。

 原因は酷使であろう。シュンが使用する突撃砲は、長い間に前線で使用し続けられた中古品であり、何度かオーバーホールを繰り返しているが、限界が来たようだ。

 

「ジャムっただと!? どうなってんだこりゃあ!?」

 

 即座に下部にある滑走砲を撃とうとしたが、術者は三人に気付いたのか、そちらに自らが操る死骸BETAを向かわせようとするも、視線を向けた瞬間にその術者は何者かが放った突撃砲の弾頭で下半身を残して挽き肉と化した。

 術者が下半身だけとなって雪原の上に落ちた瞬間に霧は晴れ、術によって動いていたBETAの死骸は次々と倒れ始める。

 残りは何らかの物で動いている戦術機の残骸だけだが、それほど数が居なかったのか、残らず全て第666戦術機中隊(シュヴァルツェ・マルケン)に元のスクラップへと戻された。

 さて、ここに来て術者を撃ったのは誰かであるが、シュンが引き金を引いた者の方へカメラを向ければ、テオドール機の突撃砲の砲口から砲煙が出ているのが見えた。

 

「坊主、お前か…!」

 

『あぁ、まさか突撃砲で人を撃つことになるなんてな…しかも初めてだ…!』

 

 撃ったのはテオドールだ。カティアと同じく後方警戒をしていたが、シュンの突撃砲が故障を起こして撃てなくなったのを見ていられなかったのか、その方向へ向けて撃ったようだ。

 もちろん、戦術機は対BETA兵器だ。対人戦など想定していない。故に、訓練も対人戦などしていない。

 テオドールはここで初めて人を殺した。

 そんなテオドールに対し、シュンは気にしないように告げる。カティアは心配して何か言おうとしたが、言葉が見つからず、何も言わなかった。

 

「気にするな。この世界で人が死ぬのは当たり前だ。ましてやあの爺は俺たちを殺そうとしやがった。お前はみんなを守ったんだ」

 

『分かってる…! 軍人なら、当然の事だよな…! こちら8、大本は叩きました』

 

 みんなを助けたと勇気づければ、テオドールは落ち着いたのか、突撃砲の砲口を下げ、アイリスディーナに報告した。

 この時にシュンは、術者の屍をカメラで調べたが、テオドールの放った弾頭で証拠も残らず消し飛んだのか、ネオ・ムガルの刺客である証拠が得られなかった。

 

『良くやった7、8、10。もう我々に戦闘は継続できない。基地へと帰投する。この戦闘の報告はするな。戦闘記録からも抹消しろ。分かっているな?』

 

 報告を聞いたアイリスディーナは、この戦闘の事は報告も記憶も一切しないように全機に告げた。

 シュンやテオドール、他の隊員達は理由を分かっていたが、カティアとリィズは理解できず、その理由を上官に問う。

 

『何故ですか? 敵はBETA以外にも』

 

『そうですよ! BETA以外の第三勢力が!』

 

『第三勢力の出現は、この戦争において悪い影響を及ぼすだろう。だが、その話をしたところでこの国に信じる者など居ない。異常者と思われ、我々は強制収容所へ送られる。それにこんな所で我々が終わっては、この国はお終りだ。それが分かれば、命令通りにしろ』

 

『は、はい…』

 

 その理由に対し、アイリスディーナは自分の国は社会主義国家であり、この異常な状況と敵と遭遇したことを報告すれば、シュタージよりも先に国家に潰されることになると告げる。

 それを理解した二人は、これ以上はなにも問わず、彼女に言われた通り、この戦闘における戦闘記録を消去し、いつも通りのBETAとの交戦にすり替える。

 基地へと帰投しても、言われた通りに死骸BETAや何らかのエネルギーの影響を受けて動いていた壊れた戦術機と交戦したとは報告せず、いつもの生きているBETAとの戦闘を行って弾薬や推進剤を消耗したとだけ、大隊長のハンニバルに報告した。




死骸操ってる奴は、確実にネオ・ムガルの刺客です。テロドール君が証拠を吹き飛ばしてしまいましたが。

次回からは海王星作戦です。八十年代のロボットや、ゾイド。マクロスのイサムが参戦します。
SWのアニメのクローン大戦のように、ガンダムがレーザーをライトセーバーよろしくビームサーベルで弾き返しつつ無双するかも?

では、来年もよろしく
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