「S○X!」
「僕の名はエイジ、地球は狙われている!」
それから後日、第666戦術機中隊、通称シュヴァルツェ・マルケンはゼーロウ要塞陣地の背後にある基地へと向けて車両で移動していた。
幾つもの検問所を抜けて車列が他の部隊と共に目的地へと続く中、車内に居るシュンは、リィズが監視付きの戦闘出撃に同意したのを疑問に抱く。
義兄であるテオドールが説得したと、リィズでは無く彼に聞いて確認したことだが、どうにもシュンは信じられない。二人に何かあったに違いないと、シュンは考察する。
「まぁ、考えてもしょうがねぇ。何かありゃあ、ベルンハルトがやってくれる」
軍用車両が行き交う窓の外の景色を眺めつつ、シュンはリィズが何か不審な行動を起こそうものなら、同じ外見のマリと同じ容姿を持つアイリスディーナが手を打つと判断して任せた。
「さて、ゼーロウ高地か。そう言えば、下士官や士官学校で歴史の教科書で見たな」
自分の頭の中の課題をゼーロウ高地に変えたシュンは、下士官や士官学校で学んだ歴史の教科書の事を思い出す。
ゼーロウ高地とは、ベルリンの東に位置する丘陵地帯だ。かつて第二次世界大戦の終盤において、ベルリン戦の前哨戦で首都最終防衛ラインでもあり、ドイツ軍最後の東部戦線だった。
ここでもBETAに対する最終防衛ラインであり、突破されれば東ドイツの崩壊は確定だ。
この世界でもゼーロウ高地での戦いは行われたのだろうかと、防衛目標であるゼーロウ要塞陣地を見ながら心の中で思う。
暫く揺れる車内で仮眠を取る中、運転手に着いたと起こされる。
「起きろ、ゴリラ。着いたぞ」
運転手に起こされたシュンは、上着を纏って外へ出た。
着いた場所は砲兵陣地が側にある戦術機基地。自分が属する大隊や傘下の第666中隊も含め、他の東ドイツ軍の戦術機部隊もこの基地を駐屯し、整備や補給を受けている。
基地は約二個連隊の戦術機部隊を収容できるのか、連隊付きの整備兵たちが慌しく動いている。その様子からして、横の砲兵基地が昼夜問わず砲撃を続けている限り、かなり切羽詰まった様子だ。
早速、中隊は指定された格納庫へと向かってそこに戦術機を収容してから、いつでも出撃できるように、強化装備に着替えて待機する。
そんな待機している中隊に、装甲師団に属する連隊長が直接アイリスディーナに出撃命令が出してくる。
「第666戦術機中隊だな? 着いて早々に温まっているところ済まないが、出撃命令だ。やって来た西側の連中の航空部隊に近接航空支援を頼んだが、光線級が居ると言う理由で断られた。貴官らにはレーザーヤークトをしてもらう。これはゼーロウ要塞司令部からの命令だ」
「はっ、連隊長殿! 第666戦術機中隊、出撃します!」
やって来た連隊長に対し、アイリスディーナが敬礼して復唱した後、珈琲を飲んでいる全員に出撃命令を下す。
「総員傾注、司令部より出撃命令だ! 内容はいつも通りのレーザーヤークト。今回はいつもと勝手が違う。総員、心して掛かれ!」
『
中隊長である彼女の出撃命令に応じれば、全員は敬礼してから自分の戦術機へと駆け込んだ。
第二次世界大戦末期と同じくベルリンの壁であるゼーロウ要塞陣地においてBETAとの激しい攻防戦が繰り広げられている中、この国家存亡の危機にあるにも関わらず、首都であるベルリンでシュタージによるクーデターが発生した。
前線で戦う将兵らに取って真に腹立たしい事であるが、国家存亡である時期でこそクーデターは成功する物だ。
最初に動いたのはアクスマンが属する西側との連携を第一とするベルリン派だ。彼らはベルリンの警護を担当する衛兵連隊の戦術機大隊を使い、主要施設を武力で抑え始めた。
対峙する親ソビエトであるモスクワ派もベルリン派の動きを呼んでいたのか、配下の戦術機部隊を動員して反撃を開始し、ベルリンで戦術機同士による戦闘が行われた。
西ベルリンにはワルキューレの陸軍の一軍集団本部があり、戦闘が行われたのを確認すれば、即座に防衛体制を取って警戒する。それに随伴している騎士連合軍の本部もあるのだ。
防衛部隊だけで二個旅団相当の機動兵器が西ベルリンに駐屯している。
『上級大将殿! コミー共が市街地で争っている! こちらにも来るのではないか!?』
「落ち着け、騎士ベルファウスト。アクスマンはこちらには来ない。当然、モスクワ派もな」
複数の機動兵器、それもアガサ騎士団やメイソン騎士団が所有するMS部隊に守られながら、軍集団の指揮官は東と西で壁に遮られたこちら側に来ないと、通信を送って来た騎士団長に答える。
どちらの戦術機もMiG-23チュボラシカであり、肩の所属マークで識別するしかない。
市街地の戦闘映像を見ながら、軍集団の指揮官が安心しきる中、レーダー手よりモスクワ派にMiG-23では無い戦術機と、識別不能な機体が見えたとの報告を受ける。
「閣下、モスクワ派の中にソビエト軍のMiG-27アリゲートルと識別不能な敵機がおります」
「ん? ソビエトからの物? それに識別不能機? 新型か?」
「データにはありません。しかし、これ程の機動、どの国家の戦術機も不可能です」
「なに? 一体どういうことだ? 警備部隊に警戒するように言え」
同じ機体群の中に、ソビエト軍にしか配備されていないはずのMiG-27が居る事が分かったが、残りの機体は機種不明の物だ。しかもどの国家の戦術機には取れない機動をして、ベルリン派を圧倒している。
これに疑問を抱いた軍集団の指揮官は、軍集団本部を警護する部隊に警戒するように告げた。
指揮官の嫌な予感が当たったのか、所属不明機は西側の領域である西ベルリン上空に侵入して来る。
「所属不明機、こちらに向かって来ます!」
「なんだと? 西ベルリンは西側の物だぞ。ここでの戦闘は西側への宣戦布告になるはずだぞ! 威嚇射撃をして追い払え!」
「了解!」
レーダー手からの報告で、指揮官は警備部隊に威嚇射撃をするように命じたが、侵入してきた敵は威嚇射撃に応じることなく、攻撃と判断して警備部隊のアロサウルス型の小型ゾイドであるゴドスやジム寒冷地仕様、騎士連合軍の陸戦用MSのグフに攻撃を仕掛けて来た。
侵入した機種不明の機動兵器は、10mと小型の人型兵器であり、圧倒的な機動力を生かして空中を自由に舞い、手にしているレーザーを発射するライフルで警備部隊を次々と撃破する。
「警備中隊、全滅! 騎士連合のMS部隊も壊滅状態です!」
「そ、そんなはずが!? ファイター形態に変形することなく、バルキリーほどの機動力を持つ機動兵器を持つ勢力は我々以外…!」
次々と撃破される警備部隊の報告を受け、指揮官は顔を青ざめたが、彼は最期まで言い終えることなく、襲って来た謎の部隊に本部を破壊されて建物と部下たちと共に最期を共にした。
やがて騎士連合軍の部隊も壊滅し、近くの空港に居るワルキューレ空軍の輸送機が脱出しようとしたが、上昇する前に滑走路で謎の機動兵器部隊の攻撃を受けて撃破された。
『こちら正義の鉄槌、制圧完了!』
『こちら解放者、やり過ぎだ! この世界に我々の存在は無い! ここの連中にSPTを見せびらかすな!』
『失礼しました!』
『基地へ帰投しろ。アカ共が我が軍の兵器を欲しがるかもしれん』
ベルリンに居るワルキューレの部隊を壊滅させた謎の部隊は、そのまま基地へと帰投した。
一方、ベルリンにてシュタージがクーデターを起こし、ベルリン派やワルキューレの部隊、政府主要施設、政治総本部を制圧していく中、第666戦術機中隊は出撃命令に応じ、前線へと出撃していつものレーザーヤークトを行っていた。
だが、今回は倍以上の数のBETAの壁が築かれており、光線級に辿り着くまでに壁に阻まれて揉み潰されそうだ。
その為に海王星作戦のように全機フル装備で出撃しているが、地を埋め尽くすほどのBETAの前では弾薬が足りないだろう。後方でようやく本領を発揮したグレーテルのおかげで、いつもよりも装備が整っているとは言え、攻め込んで来たBETAを一掃できると保証できない。
「やれやれ、砲兵は何やってんだ」
『砲兵は要塞に迫る梯団の砲撃で手一杯だ。光線級の排除に成功すれば、海王星作戦のように航空支援が得られるかもしれん。兎に角、光線級を排除するのに専念しろ』
「そうですかぃ。やっぱあの時が一番楽な戦闘だったんだな」
目の前に見える嫌と言うくらいの数のBETAを見て悪態を付けば、アイリスディーナはそれを注意する。
いつものようにやれば、必ず生き残れる。
そう思いたいところだが、今回は死を覚悟するしかない上、ネオ・ムガルがいつ仕掛けて来るか分からない。
「畜生。もしもの時は、この棺桶を捨てて暴れ回るか」
BETAや神出鬼没のネオ・ムガルの刺客たちと言う不安要素を考えつつ、シュンは窮地に立たされた場合、デバイスを纏って暴れ回ると決め、自分に課せられた任務に集中した。
無数のBETAをある程度を突撃砲や滑走砲で排除しつつ前進し、光線級の喉元まで徐々に接近する。
この時にシュンは、歩兵として戦場で戦っている時に味わった援護射撃や砲撃、近接航空支援などのありがたみを思い出す。
だが、この世界におけるBETAとの戦争にはそのようなありがたい物は存在しない。自分ら衛士がそれに代わる希望なのだ。
そんなことを考えながらBETAの壁を食い破りつつ進めば、ようやくの所で光線級を射程距離に収めた。即座に突撃砲の照準を光線級に定め、引き金を引いてこちらに向けてレーザーを放たんとする光線級を仕留める。
一分ほど見える光線級を撃っていれば、周囲に居る光線級は全て屍に変わっていた。
残りは自分等を殺そうと迫って来る光線級以外のBETAだけだ。直ちに支援を得るべく、アイリスディーナは信号弾を上空へ向けて放つ。
『この付近の光線級は一掃した。信号弾を上げて航空支援を…なんだ!?』
付近の光線級を一掃した後、アイリスディーナは周囲のBETAの掃討をワルキューレ空軍に任せ、他の光線級の排除に向かおうとしたが、付近を飛んでいた友軍部隊が強力なレーザーによって消滅した。
『あ、あれは!?』
『重金属雲が機能していないだと!? まさか…!?』
「畜生、ネオ・ムガルのクソッタレか?」
強力なレーザーで消滅した味方部隊を見て、シュンは遂にネオ・ムガルが攻めて来たと判断した。
その悪い予感は的中し、恐ろしい報告が無線機から来る。
『そ、総員傾注! 史上最悪の報告だ…重光線級が確認された…! 更には空を飛ぶ巨大戦艦や多数の機種不明の兵器がBETAに随伴して我が軍や友軍部隊を排除しながら迫ってきている…! こ、こんな事があり得るのか…!?』
報告はアイリスディーナより出された。彼女がこれ程までに絶望した口調で告げれば、全員に動揺が走る。
さらに追い打ちをかけるように、空を飛んでいる緑色の巨大戦艦が見えた。
周りには艦載機なのか、多数のポッドのような戦闘機が随伴し、地上で逃げ回っている国家人民軍の陸上部隊を、BETAや地上部隊と共に排除している様子が見える。
重光線級まで操っているのだから、おそらく要塞級まで操って進軍しているのだろう。
『た、助けてくれ! インベーダーがBETAと組んで進軍している! 救援を! 救援を!!』
無線機からは友軍の兵士の悲痛な叫び声が聞こえて来る。第666戦術機中隊の面々の戦意を損失させるには、十分な物だった。
この世界では異界の者である一人の男を除いては。
「ハハハ…! 来やがったな、クソッタレ共! ちょいとこの棺桶じゃ申し分ないが、連中に一泡吹かせることは出来そうだな…!」
予想よりも早くネオ・ムガルが、BETAを何らかの方法で操って攻め込んで来たことに絶望よりも吹っ切れたのか、シュンは単機でネオ・ムガルの部隊に突っ込んだ。
それを止めようと、テオドールは静止の声を無線で告げる。
『お、おい! あんなの倒せるわけがないぞ! やられるだけだ!!』
「坊主はそこで見てろ。ここからは俺の戦争だ!」
テオドールに対してそう答え、シュンは機体の跳躍ユニットを吹かせ、BETAと共に進軍するネオ・ムガルの部隊に単機で突っ込んだ。
最初に獲物としたBETA以外の敵、VTOL系戦闘機に手足を生やしたような敵機だ。密集して飛んでいる。
地上で逃げ回るだけの人民地上軍の戦車や戦術機を、地上部隊と共に追い回すのに夢中で気付いていない。シュンはそこをついて突撃砲を連射して一気に三機を撃墜することに成功した。
続けて四機目を撃墜しようとしたが、流石に気付かれ、BETAの光線級も含める空と地上からの凄まじいレーザー攻撃に晒される。この雨あられのレーザー攻撃を、シュンは機体を無理に回転させる機動で躱しきる。当然ながら、恐ろしいGが身体に襲い掛かる。
「うぅぅ! 重力下でこの機動はやべぇな!」
コックピット内に凄まじい重力が身体に掛かり、シュンは胃の中の物を吐きそうになる。
この無茶な回避機動のおかげか、レーザー弾幕を躱しきることに成功し、陸戦兵器の戦術機が得意とする地上へと降り立つことができた。
地上からはレーザー攻撃に代わり、無数の戦車級や要撃級、実弾やロケット、ミサイルなどの攻撃が来る。
最初に襲ってくるのはいつもの戦車級や要撃級に突撃級だ。違いと言えば、フォーメーションが滅茶苦茶であり、大型のBETAは小型級のBETAを踏み潰している。味方を巻き込まないはずのBETAが味方を巻き込むなど、ネオ・ムガルは無茶な洗脳を施したようだ。その証拠に身体に杭らしき物を突き刺している。
自分に取って嬉しい物だが、目前には意思を持った無法者が乗る機動兵器が居る。BETAよりも厄介な相手だ。光線級がマシとも思える程の弾幕を浴びせて来る。BETAを誤射してくれることには感謝だが、空からの攻撃もあり、それに戦術機は大きいため、避け切れずに被弾してしまう。
「クソッ、避け切れねぇ! 何機居やがるんだ!?」
ネオ・ムガルが誤射して殺した突撃級の死骸に隠れ、シュンは自分が挑んだ敵軍の機体の数を見て悪態を付いた。
最初に遠目に見えた二足歩行の戦闘ポッドにATのスコープドックやスタンディングトータス、バルキリーサイズの人型兵器である10m級の機動兵器も見え、更にはネオ・ジオン系統の地上戦用MSも見える。合わせて一個大隊ほどは居そうだ。
凄まじい弾幕で遮蔽物にしている死骸が消えて行く中、シュンは撃破された味方の戦術機から突撃砲を拝借して隙を窺う。
「クソッ!」
敵は空を埋め尽くすほど居るので空からも来る。あの大量に飛んでいた戦闘機に手足が生えたような外見の機動兵器だ。こちらに向けてレーザーを浴びせようとして来る。
それに対応するためにシュンは機体の両手に握られた二門の突撃砲を向けたが、自分にレーザーを浴びせようとしていた敵機は全て後方からの攻撃で撃墜された。
「どうした、逃げなかったのか?」
『少し神に祈りをささげてから来た。社会主義者なのにな。安心しろ、私は死ぬつもりも無いし、逃げるつもりも無い。あのインベーダー共を追い返す。勝算はあるか?』
それらを撃墜したのは、第666戦術機中隊だ。どうやらアイリスディーナは覚悟を決めたらしい。部下たちもそれに伴って、BETAと共に進軍して来るネオ・ムガルの部隊を攻撃し始める。腕の差はこちらが有利で、無法者たちが駆る機動兵器は次々と撃破されていくが、数の差は不利と言う言葉以外に無い。
アイリスディーナからの勝機はあるのかと言う問いにシュンは、突撃砲である程度の敵機とBETAを排除してから答える。
「大尉が神様にお祈りか。取り敢えず、戦で自分等より数が多い敵に対しての手本を使う」
『指揮官機を叩けと言う事か? だが、BETA共を伴っているからして、かなり後方に居るんじゃないのか?』
「だろうな。ここで飛んでも空や地上からハチの巣だ。悪党共が来てんだから、英霊様たちが来てくれりゃあ助かるんだが…」
『いや、待て。BETAに突き刺さっているのは?』
指揮官機を撃破して敵の指揮系統を混乱させる手を使うシュンだが、アイリスディーナはかなりの後方に居ると言ってあまり手は無いと告げる。
それにシュンは当然ながら納得して、ネオ・ムガルの咎人が大挙して来ているのだから、英霊たちも来て欲しいと願うが、彼女はBETAの身体に突き刺さっている杭に気付き、試しに杭だけを撃った。
狙ったのは向かって来る要撃級の杭だ。突き刺さっている杭に命中すれば、杭は抜けて雪原の上に落ち、洗脳から解かれたのだろうか、要撃級は暴れ出して周囲のBETAやネオ・ムガルの機動兵器部隊に形振り構わず攻撃し始める。
あの杭がBETAを操っている物だと、アイリスディーナは見破り、光線級の身体に突き刺さっている杭を狙撃して洗脳から解き、レーザーを乱射させる。
『なるほど、あの杭がBETAを操っていることか』
『まさかBETAに助けられるなんてね。敵の敵は味方かしら』
『総員傾注、BETAに突き刺さっている杭らしき物を狙撃しろ。猛獣の鎖を切れ! 他の部隊にも伝達しろ! 杭を狙撃しろとな! 3は5と7と共に対空射撃だ!』
ファムが自分等を全滅に追い込もうとしている敵に助けられたことに皮肉を交えて言えば、アイリスディーナは中隊全機に指示を出し、忘れずに他の部隊への報告も出しておくように告げる。
クリューガーを長機とする三機編成の小隊に対空射撃を任せ、残りはBETAに突き刺さっている杭の狙撃をさせる。シュンは杭の狙撃を担当する班だ。
杭を狙撃してBETAを暴走させ、敵部隊を混乱させる中、カティア機が暴走した光線級のレーザー攻撃に晒されている空戦ポッドを撃墜した後にシュンの機体に近付いて無線機で問うてくる。
『あの、今戦っているインベーダーは人なんですか?』
「インベーダーが人かって? あぁ、人だ。それがどうした?」
『私は人を余り…』
そのシュンの答えに、カティアは敵機に乗るパイロット達が人だと知り、人を撃つことに躊躇し始めた。
そんな躊躇を覚えたカティアに対し、シュンは目前に居る敵機に乗る者達はネオ・ムガルの生前に大罪を犯した咎人であると返して気にしないように告げる。
「おいおい、あんなクズ共に同情するのか? あいつ等は地獄から逃げ出して来たクソ共だ。俺たちがやっていることは地獄へ送り返しているだけだ。気にすることは無い。お前はただ、自分の目的のために生き残ることに専念しろ。こんな所で死ねないだろ?」
「分かりました…」
カティアはその答えに納得いかない様子だったが、ここで死ぬわけには行かず、ただアイリスディーナの指示に従い、こちらに向かって来る敵機の進路妨害に専念する。
それからは要塞級の杭を狙撃し、尚もネオ・ムガルの部隊を混乱させる中、遂に敵は業を煮やしたのか、重光線級の照準をこちらに向け、味方諸とも掃射しようとして来る。
『重光線級がこちらに照準を!』
『あいつ等め、味方ごとやる気か!?』
『直ちに退避だ!』
遠い場所から見えたので、報告を受けたアイリスディーナは直ちに退避を命じる。
それに合わせ、全機が射程内より退避すれば、物の数秒後でレーザーが掃射され、暴走したBETAに襲われていたネオ・ムガルの部隊は消滅した。
『あの重光線級の杭を狙撃すれば、上空の巨大戦艦をやれるな』
重光線級の強力なレーザー攻撃を見て、アイリスディーナは上空を飛んでいる戦艦を撃沈できると推測した。
有言実行、直ちに彼女はBETAの杭狙撃を止め、重光線級に対するレーザーヤークトを敢行する指示を出す。
『総員傾注、重光線級に対するレーザーヤークトを行う。まぁ、杭を狙撃するだけだがな。随伴機も居るだろう。雑魚には構わず、杭だけを狙え』
「ほぅ、そう来るか。俺も考えていたところだ」
この指示に誰も反対せず、皆が彼女を信じて後へ続いた。シュンも後へ続き、自分等を撃墜しようと群がって来る敵機を蹴散らしながら進む。
『退けぃ! 雑兵共め!! BETAなどと言う意思の無い怪物どもを使役するなど以ての外だ! この私のゾックで瀬戸シュン諸とも皆殺しにしてくれるわ!!』
だが、そう簡単に通せない壁が出て来る。
ジオン公国の水陸両用大型MS、ゾックが第666中隊の前に立ちはだかった。
この大型MSはその巨体の通りに戦術機の突撃砲や滑走砲などを弾いてしまう装甲を持っている。更にはジェネレーターを内蔵しているので、強力なビームを連射可能だ。頭部にも対空砲用のビーム砲が付いている。
水中戦に特化した機体だが、水陸両用なので、海から遠いこの地域でも脅威の火力を誇る。
味方機を巻き添えにしつつ、ゾックに乗るパイロットは第666中隊に向けて強力なビーム砲を雨あられに浴びせる。
『くっ! 被弾した!』
『5!? 全く、お前の言う無法者とやらは何でもありだな! いつもこうなのか?』
「あぁ、連中は何でもありだ! だからこうして変な機械に乗って乱入して来る!」
流石に避けきれず、シルヴィアの乗る機が左腕を撃ち抜かれる。
自分等に取って奇天烈的な兵器を持ち出すネオ・ムガルに対し、アイリスディーナは飛んでくるビームを回避しながらシュンに問う。
その件の組織と僅かな味方だけで戦っているシュンは、いつもそんな物と戦っていると答え、側面より襲って来る敵集団に向けて突撃砲の連射を浴びせる。
狙った敵集団は10m級の人型兵器であり、ATのようにローラーダッシュをしている陸戦兵器だ。
頭部がコックピットになっているのか、盾を持たないその敵機は頭部に105mm機関砲並の砲弾を受けて雪原の上に倒れる。
ATは装甲車ほどの防御力しかないので、他の中隊機に撃たれるか、蹴り飛ばされるだけだ。異星人の二脚の戦闘ポッドも防御力は紙くず同然のようだ。
『上方よりアンノウン!』
『また奴らか!?』
上空よりまた所属不明機の接近をカティアが告げれば、テオドールはネオ・ムガルの敵機だと思ったが、その機はワルキューレでは無く、アメリカ海軍の海賊旗のようなエンブレムやカラーリングの戦闘機、否、ファイター形態のVF-1バルキリーであり、ネオ・ムガルの空戦ポッドや敵機を次々と撃ち落としていた。
その正体を知っているシュンは、遂に英霊たちが来たと判断して、中隊各機に知らせる。
「いや、あの滅茶苦茶な連中は英霊様だ。良かったな、神様にお祈りしておいて」
『あれが英霊…!? 一体なんだ…?』
シュンの知らせに、アイリスディーナは冷静さを失い、動揺を覚えるばかりだ。
更に英霊たちが駆るマシーンが次々と現れる。
ネオ・ムガルが運用している空を自在に飛び回る10m級の機体と同じ種類なのか、青い機体が現れ、次々と手にしているレーザーライフルで同一機を撃破していく。まさに流星と言わんばかりの機動だ。ネオ・ムガルの機動兵器部隊は的にしかならない。
次に地上からは重武装のスコープドックが現れ、BETAと共に行動しているネオ・ムガルの陸戦部隊を蹴散らしながら来る。たった一機で戦術機二個大隊も活躍をしている。
『こいつ等なんだ!? 一人一人がとんでも無い強さだぞ!?』
「言わなかったか? 英霊だよ。お前らの隊長様が神様にいのったおかげで来たのさ」
『神様にお祈りで来た…みんなを助けに…!』
自分等がまるで必要ないように、敵部隊を少数で圧倒する英霊たちに驚きを隠せないテオドール。そんな彼にシュンは英霊が来たと改めて答えれば、カティアはまるで神様が来たと言わんばかりに一人一人が圧倒的な強さの英霊たちの活躍に目を奪われていた。
そんな彼らに向けて、英霊たちより映像の無い無線連絡が入る。
『聞こえるか、コミー共。こちらはエルンスト・フォン・バウアーだ! これより貴官らを援護する!!』
「おっ、あんたはバウアー大尉じゃねぇか! あんたもこの世界に来たのか!?」
無線連絡より聞き慣れた声、それもなのはを助けるために共に戦った戦友であるバウアーであった為、シュンは驚きの声を上げた。
『ン? お前、シュンか。なんでこの世界に居るかは知らんが、目の前に居る地獄から蘇って来たクソッタレ共を叩き戻すために来ているんだな? 良かろう、我々も協力するぞ!』
『何がどうなってるんだ!?』
『もう何が何だか分からないわ!』
状況を理解できないテオドールは、更に混乱する。他の中隊も隊員等も混乱する。アイリスディーナも理解できないようだ。
そんな彼女らに向け、ゾックに乗るパイロットは攻撃しようとする。
『おのれ、悪霊共めぇ!! せめて瀬戸シュンだけでも!!』
照準をシュンが乗るMiG-21にビーム砲の照準を向け、ビームを発射しようとしたが、撃つ前にライフルクラスのビーム砲を撃ち込まれて爆散した。
そのビームライフルを撃ち込んだ機体のパイロットは、戦車に乗っていると思われるバウアーとは違い、ワルキューレのMSのように映像通信で退避するように告げる。
『こちらはカミーユ・ビダンです! 退避してください! あなた方の機体では彼らと戦うのは無理です!』
お前たちは足手まといだから下がれ。
そのままでは言わなかったが、いきなりやって来て下がってろと言われたので、アイリスディーナは怒りを覚える。
そんな彼女に対し、下がるかどうかをシュンは問う。
「どうする? あの小僧の言う通りに下がるか?」
『いや、ここは私たちの国だ。いきなりやって来て足手まといだから下がれなど言われて、はいそうですかと下がれるか。総員、雑魚は彼らが担当してくれるようだ。我々はレーザーヤークトを行おう!』
『そうね。いきなりやって来て偉そうなことを言うなんて! 隊長と同意見ですよ!』
『ここは私たちの世界だ。余所者は余所者同士で戦ってれば良い!』
「だろうな。俺もそう思ってたところだ!」
シュンの問いに対し、アイリスディーナは期待通りの答えを出せば、一同は続いてレーザーヤークトを再開した。
英霊たちがやって来たおかげか、ネオ・ムガルは大混乱に陥っており、重光線級の道が開いていた。その隙を逃さず、中隊は一気に潜り抜けて重光線級まで一気に接近する。
『射程距離に捉えた! 全機、杭を狙え!!』
今までより遥かに楽に重光線級まで接近することができた。
随伴している敵機はMSのガルスJと呼ばれる戦術機よりも遥かに性能が高いネオ・ジオンのMSであるが、滑走砲の攻撃を受けて瞬く間に排除され、重光線級を解放される。
杭を狙撃されて解放された重光線級は、優先目標を上空の異星人の戦艦に向け、強力なレーザーを発射する。
『全機、迂闊に飛ぶなよ。重光線級の標的にされるぞ』
杭を撃って洗脳を解いた重光線級が上空の戦艦に向けてレーザーを掃射している最中に、アイリスディーナは標的が変わらないよう、中隊各機に飛ばないように告げる。
その間にも重光線級の杭を狙撃し続け、解放して戦艦を撃沈するように仕向ける。
『敵戦艦、撃沈を確認!』
『よし、その化け物は用済みだ。始末しろ』
「了解だ、大尉。さて、こいつはどんな料理だ…?」
やがてハイブよりネオ・ムガルの手により無理に連れて来られた重光線級は、上空の敵戦艦を撃沈した。
ファムよりその報告を受けたアイリスディーナは、用済みとなった重光線級を始末するように命じた。
これに応じ、中隊各機は未だに空へ向けてレーザーを掃射しようとしている重光線級に向けて突撃砲を撃ち、シュンは背中の戦術機サイズの大剣を抜き、重光線級の掃討を始める。
一体、また一体と護衛の居ない重光線級は次々と定数にも満たない戦術機中隊に掃討されていき、白い雪原を血で真っ赤に染め上げる。
やがて全ての重光線級を始末した後には、英霊たちの介入で上空からの戦艦の援護を失い、BETAの制御化を失ったネオ・ムガルが敗走している頃であった。
『敵部隊、撤退して行きます』
『ようやく撤退したか…またあんな連中に来られれば、今度こそドイツ民主共和国は滅亡だ』
「また来るだろうが、これだけの損害を受ければ暫くは来ないだろうな」
ファムの報告でアイリスディーナが一息つけば、シュンはこれ程の損害を与えたので、暫くは攻めてこないと判断して隠し持っていた酒を一口飲んだ。
戦闘後の中隊各機のMiG-23はボロボロであり、一部は左腕を損失や頭部が欠けた機体もあり、機体全身にはBETAの返り血で真っ赤に染まり、もう一度攻撃されれば粉々に崩れ去りそうな機もある。
中隊にこれ以上の戦闘は不可能だろう。
そんなボロボロの
「おーい! 生きているか!?」
「生きてるぜ! あんたが来なかったら死んでいたところだ!」
最初に声を掛けたのは、戦車のキューボラから身を乗り出していたバウアーだ。
別世界であるが、彼はこのドイツ東部で祖国へ復讐のために侵攻して来るソビエト赤軍を食い止める東部戦線に属していた。
結局、ナチス・ドイツは敗戦し、バウアーは戦死してしまったが、咎人達を蘇らせ、何所でも見境なく暴れ回るネオ・ムガルを止めるために、この地へと再び戻って来た。
そんなまさしく騎士のような男に、シュンは酒が入ったスキットルを片手に感謝の言葉を述べる。
やって来た四十年以上前の戦争に使われていた戦車に乗っている男と挨拶を交わすシュンに対し、テオドールは知り合いなのかと問う。
『バートル、なんで四十年以上前の戦車に乗ってるおっさんと知り合いなんだ?』
「おっ、そうだな。実は俺はこの世界の人間じゃねぇんだ。それにモンゴル人じゃ無くて、瀬戸シュンって名前だ。話せば長くなるから、後で話してやる」
『クソッ、俺は疲れてんのか…? なんだよ、いきなりモンゴル人じゃないとか、訳の分からねぇ連中の仲間だなんて…』
その問いにシュンは、自分の正体と本名を明かせば、テオドールは頭を抱え始めた。
無理も無い。この絶望的な戦場の中で、敵に宇宙戦艦と共に見たことが無い戦術機のような人型兵器がいきなり現れた第三勢力として多数登場し、BETAまで操って国家人民軍の防衛線を崩壊させた。
更には自分等を助けるために、何処かの英霊たちが駆け付け、第三勢力をBETAと共に敗走させる。
それらの問題もあり、戦闘後の疲れからか、テオドールはコックピット内でふら付き始める。
再会を祝してシュンとバウアーは持って来た互いの酒で祝杯をしようかと思ったが、空から地面に着地した小型の人型兵器の頭部にあるコックピットより英霊らしい青年が現れ、ヘルメットを脱いで素顔を晒す。
顔立ちが整った好青年であり、その目付きは幾多の困難を潜り抜けて来た眼差しだ。身長も高く、手足も長くて屈強な肉体だ。
彼は同じくコックピットから出ていたアイリスディーナ達に向け、自分の名を名乗ってから、早くこのドイツ民主共和国こと東ドイツから逃げるように告げた。
「俺の名はアルバトロ・ナル・エイジ・アスカ。SPTレイズナーのパイロットだ。貴方たち東ドイツのパイロット達に告げる。この東ドイツは既に異世界より侵略に来たネオ・ムガルの主柱の中だ。早くオーストリアか西ドイツへ逃げろ。貴方がたでは彼らには勝てない」
この回で登場した兵器一覧。
グフ
ジオンの格闘戦用MS。
ランバ・ラルが乗った男のMSとも言える機体。
ここではアガサ騎士団のMSとして登場したが、ネオ・ムガルのSPT部隊にやられた。
ゾック
ジオン水泳部のデカい変な奴。
ちなみに、ジェネレーターはオバケレベルで、ビームを連発できる。頭にもビーム砲が付いてる。
ジャブロー編で登場し、アッガイに次ぐ萌えキャラになったが、結局ガンダムにやられた。
劇場版でも登場してやられる。当然ここでも馬鹿が乗って居た所為でやられた(笑)。
Zガンダム
ガンダム史上エキセントリックな主人公が乗る変形するガンダム。
UC120年まで使えると言うトンデモ性能なガンダム。
スカイバーで精神崩壊を回避するには、先端のシールドをパージしなければならない。
ここではカミーユが乗って出て来る。「S○X!」
ガルスJ
ネオ・ジオンの量産型MS。
最初はギャグ時代のマシュマー・セロがタキシードを着たまま登場し、コックピット・ハッチをつけ忘れてジュドーが乗るZガンダムと交戦してやられる。それも何回も。
モブ機としても登場してやられた。ここでは重光線級の随伴機として登場。だが、性能が遥かに劣る戦術機に倒される。
ジム寒冷地仕様
海王星作戦編に引き続き登場。警備部隊として出ていたが、完全なるやられ役だった。
VF-1S ロイ・フォッカースペシャル
アメリカ海軍のジョリーロジャースカラーなロイ・フォッカー専用のバルキリー。
ここでは英霊となった本人が乗って登場し、ネオ・ムガルの空戦部隊を無双する。
リガート
ゼントラーディ軍の戦闘用ポッド。デザイン元はスターウォーズのAT-ST。
ここでは咎人として蘇ったゼントラーディ人か、巨人化した悪党が登場。
ウジャウジャと出て来るが、装甲は異常に脆いのでやられまくる。
空戦ポッド
ゼントラーディ軍の戦闘機。
ここでもリガートと同じ扱いで登場。蠅のように叩き落とされる。
2000m標準戦艦
ゼントラーディ軍の主力戦艦。本編でもやられ役であり、ここでは重光線級のレーザーで撃沈される。
実は、意外と後のシリーズに一回だけ出てる。
スコープドック
装甲騎兵ボトムズの主人公機であり、幾多もの無名の最低野郎共に愛されたAT。
幾つもの派生があり、ここで登場するのは雪原用アバランチドック。
英霊として参戦したキリコ・キュービィーが同じアバランチドックに乗り、咎人達を片っ端から殺し回る。
スタンティングトータス
ヘビィ級のAT。ギルガメス軍の所属なのに、秘密結社のATとして出て来る。
ここでもネオ・ムガルのATとして登場するが、結局やられる。
強化型レイズナー
蒼き流星SPTレイズナーの主人公機であり、OVAに登場した地球の技術で修復されたレイズナー。
英霊となったエイジが乗り、グラドス軍の兵器を投入するネオ・ムガルをV-MAXを使わずに一掃する。
ブレイバー
グラドス軍の一般兵士用の標準型SPT。
量産型の敵メカでやられ役のはずだが、味方にやられることが多い。
ここではネオ・ムガルの兵士たちが乗り、ワルキューレの機動兵器部隊を圧倒する。
ドトール
グラドス軍の地上戦用SPT。ATのようにローラーダッシュを行う。
やられメカであり、地上戦用なのに、宇宙にしゃしゃり出て来る。
ここでもやられ役で、パイロットの情けなさもあって戦術機にもやられた。
ソロムコ
グラドス軍の空戦用MF。航空機に手足が生えた外見をしている。胴体に機関砲を搭載し、ミサイルも搭載している。やられメカ。
ここでは空を覆い尽くす位に空戦ポッドと共に現れるが、戦術機に撃ち落とされたり、英霊たちに無双される。
ゴドス
共和国軍の主力小型ゾイド。アロサウルス型。
ここではワルキューレの警備部隊に運用されていたが、SPTを投入したネオ・ムガルの部隊に全滅させられる。
カラーは旧機械生命体ゾイド。