復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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祝、ゴールデンカムイTVアニメ放送開始記念ッッッ!!

また掛かっちったよ…
後一話で終わらせる予定です。


政治犯収容所

 息を引き取った義妹であるリィズの骸を抱え、残骸となったサイコガンダムMk-Ⅱから降り立ったテオドールに、シュンは声を掛けることなくただ見守った。

 周囲に居る女兵士らは、戦友らの仇である義妹の骸を抱えながら何処かへ向かうテオドールにライフルの銃口を向ける。

 そんな兵士らに対し、シュンは一番近い距離に居る兵士のライフルの銃口を手に取って無理やり下げる。

 

「やめとけ。あの嬢ちゃんはもう死んでる」

 

「…証拠品を集めてから撤収!」

 

 シュンに止めるように告げられた彼女らは、銃口を下げてサイコガンダムMk-Ⅱの持ち運べる残骸を拾い始めた。

 足を止めたテオドールに向け、シュンは腰に吊るしてあるスコップを無言で手渡す。

 

「これで妹さんの墓でも掘ってやれ」

 

「…」

 

 シュンが告げれば、渡されたスコップをテオドールは礼を言わずに受け取り、リィズの骸を抱えながら墓に最適な場所へと向かった。

 その後から利き腕の右腕を脱出の衝撃で骨折したカティアが、何所で手に入れたのか、花束を左手で抱えながら続いた。

 あの状態でテオドールの手伝いでもするのだろうかと思い、シュンはカティアに何も言わずに、リィズが最後に告げたアイリスディーナが囚われているカウルスドルフ収容所があるベルリンへと向かおうと、準備のために仮拠点に向かう。

 

「一人で行くつもりかね?」

 

 途中、戦闘後に出て来たアクスマンに呼び止められた。

 

「あぁ、俺一人で大尉を助けに行く。ついでにお前が捕まえた連中もな」

 

「もしかすると、ベルンハルト大尉が囚われているのはカウルスドルフ収容所かな? あそこには私が捕まえたスパイや亡命者、その他諸々の政治犯で一杯だ。まぁ、解放する前に警備部隊の機銃掃射で殆どが死ぬと思うがね。それに私は西側へと亡命する予定だ。安全なアメリカ大陸へ。精々頑張ってくれたまえ」

 

 シュンが一人で助けに行くと答えれば、アクスマンはその後から出たお前が捕まえた連中と言う言葉に、アイリスディーナの囚われている場所が直ぐに自分の捕らえた者達が送られる政治犯収容所であると分かり、不敵な笑みを浮かべながら立ち去ろうとした。

 これにシュンは何か企んでいると判断して、部下らを連れて立ち去るアクスマンに何所へ行くのかを問う。

 

「でっ、お前は何所に行くんだ? 大事な宝物がある場所にでも行くのか?」

 

「宝物? ご明察だよ。モスクワ派に占領されているかもしれない。もしもの時に備えて、幾つかCIAの目に引きそうな情報を持って行かないと。では、モスクワ派との最終勝利(エンドジーク)後に会おう」

 

 シュンの問いに気分よく答えたアクスマンは早々と立ち去った。それに合わせてシュンも仮拠点に向かう。

この時にアクスマンに聞こえないことを良い事に、シュンは悪態を付いた。

 

「ケッ、いけ好かねぇ野郎だ。次会ったらその顔に拳骨でもぶち込んでおくか」

 

 

 

 それから数時間後、ベルリンに潜入するための準備を整えたシュンは、それらを詰め込んだ袋を片手に出て行こうとする際にテオドールに止められた。

 

「おい、お前ひとりで何所に行く気だ?」

 

「ベルリンに行って大尉を助けに行く。反体制派のおっさんの話によれば、現地に潜んでる仲間が居る。そいつ等と合流してからだ」

 

「そうだったな。そうだ、こいつを持っていけ。ファム中尉が俺の知らぬ間に強化装備のベルトに挟んでくれた物だ。あの人には最期まで世話になりっぱなしだな。反体制派のおっさんの言うには、こいつは仲間の印だ」

 

 ベルリンに潜む反体制派と協力してアイリスディーナの奪還を行うと答えれば、テオドールは軍用BDUの尻ポケットから不規則に着られたトランプカードを手渡す。

 それをシュンが受け取れば、ついでに懐より出したある手紙も渡しておく。

 

「それとこれは大尉に渡された物だ。書いてある内容は合言葉になるその手順だ。その同志の証を持ってても、少しでも間違えば仲間を殺して奪ったと判断される。とにかくこれに書いてるようにやれば、バラバラにされてそこらに埋められる心配はない」

 

「物騒な連中だ。まぁ、奴らに仲間だと思ってもらって協力してもらう。そんじゃ、頑張れよ」

 

 手紙を受け取り、中身を確認したシュンは激励の言葉を掛けながらテオドールの肩を軽く叩いた。

 そんなシュンに対し、テオドールは自分等に必要な人間であるアイリスディーナを無事に救出するように告げる。

 

「あぁ、お前こそ、大尉を頼むぞ。あの人は俺たちに必要なんだ。それと俺たちはハイム少将と合流する。次はベルリンで会うことになるだろうな」

 

「任せておけ。お前の思い人は必ず俺が無傷で連れて来てやる」

 

「なっ!? 誰が思い人だ!?」

 

「どうやら図星のようだな。心配すんな。俺は他の女を抱くからな」

 

 自分に期待を寄せるテオドールに対し、シュンは中半に冗談を交え、思い人であるアイリスディーナを必ず助けると約束する。彼の思い人が彼女であることが図星だったのか、テオドールは顔を赤らめて怒りだした。

 まだ二十代にもなっていない青年をからかった大男は、そのまま革命の要であるアイリスディーナを救出しにベルリンへと向かった。

 

 

 

「よし、懐に飛び込んじまえば、こっちのもんだ」

 

 ベルリンの近くまで敵から鹵獲したスノーモービルで向かい、そこからデバイスを纏って厳重な警備態勢を潜り抜けてベルリン市内へと潜入したシュンは、軍用の冬服を脱ぎ払い、民間用の冬服に着替えてから件の反体制派の潜む裏町へと向かった。

 シュタージの準軍事組織であるフェリックス・ジェルジンスキー衛兵連隊の警備兵たちが市内を見回っていたが、シュンの事をただのベトナムの移民だと思い、彼が賄賂となる酒瓶を渡せば身体検査もすることなくあっさりと解放してくれた。

 手紙に書いてある雑貨店へと向かい、裏口に回って手順通りに呼び鈴を鳴らし、数回ほど扉をノックすれば、扉が少し開いてベトナム系の老人がそこから顔を出した。

 その老人に反体制派の同志の証である半分のトランプカードを見せれば、老人は辺りを気にしながら何気なくシュンに声を掛ける。

 

「なんだ? 今日は品薄だ。帰ってくれないか」

 

「いや、今日は良い事に煙草が手に入ったんだ。俺は吸わないから上げるよ」

 

 これにシュンは合わせるように話を合わせ、こっそりと煙草の箱を見せれば、老人は彼を店の奥へと入れた。

 店に入ったシュンに、店主の老人は紙切れを渡す。

 

「(アカってのは、なんでも監視しなきゃ気が済まねぇのか)」

 

 紙切れに書かれた文字は、盗聴されているから話を合わせろと言う物だった。

 それに合わせてシュンは裏口の戸をしっかりと閉め、店の主人の後を追って奥へと入った。奥へと入れば老人はラジオの音を大きくし、シュンに本当に自分等の同志であるかどうかを古いトカレフ自動拳銃を向けながら問う。

 

「お前さんが、第666中隊の使者か?」

 

「あぁ、使者だ。俺が敵なら、ここに入った瞬間にあんたの拳銃を奪ってる」

 

「それもそうじゃな。ここに来た理由は、同志たちと会うためか?」

 

「それもある。そんでもって、手紙は俺が直接渡す」

 

 問い掛けて来た老人に敵でないと答えれば、老人は拳銃を下げ、ここに来た目的を問う。

 これにシュンは反体制派の上層部と直接接触すると答えれば、自分がベルリンに来た目的を伝える。

 

「手紙は、カウルスドルフ収容所の見取り図との交換に使う。理由は分かるよな?」

 

「な、なに? あの収容所に挑むつもりか? 確かに幾人かの同志が捕まっているが、まだそこに挑むのは不味いと思うが…」

 

 老人の反応を見る限り、カウルスドルフ収容所は厳重な警備下にあるようだ。

 そんな老人に向け、シュンは革命の要であるアイリスディーナがそこに囚われていることを伝えた。

 

「あぁ、不味いだろうな。だが、やらなきゃならねぇ。アイリスディーナ・ベルンハルトはそこに捕まっている」

 

「な、なにっ!? ベルンハルト大尉が捕まっているだと!? 一大事じゃないか!」

 

「ハイム将軍の軍隊がベルリンに向かってるんだってな。連中、戦況が悪くなると人質に使うかもしれねぇし、無法者共の恵み物にするかもしれねぇ。とにかく、はやいとこ使いを寄越してくれ」

 

 要であるアイリスディーナが囚われていることを知ると、老人は顔を青ざめさせた。

 当然だ。彼女は自分ら反体制派の中でも最大の手腕の持ち主であり、希望なのだから。

 更に追い込むように催促を掛ければ、老人は直ぐに上層部との連絡に向かおうとする。

 

「分かった。直ぐに上に連絡しよう! しかし判断は上の方に任せる。三時間後、表通りの辺りにでも突っ立ってくれ。使いが来るだろう」

 

「了解だ。それと一回、衛兵連隊の連中に目を付けられた。なんか、着替えるもんあっか?」

 

「あぁ、息子の物を使うと良い。お前と同じ、大男だからな」

 

 そうと聞いて上の使いとの待ち合わせ場所を指定し、連絡しに行こうとする老人に対し、シュンは着替える物が無いか問う。

 要求する着替えに老人は、自分の息子の服を同じアジア系の大男に与えた。

 

 

 

「テレビはプロパガンダばかりか…あんときは、ネオ・ムガルのクソッタレ共が一緒だったんだがな」

 

 三時間後、店主の老人から服を借りたシュンは、貧困層の労働者達が住む街頭テレビで繰り返し放映される数日前の戦闘で撃退したBETAのニュースを見て呆れた言葉を呟いた。

 映像では見事にネオ・ムガルの兵器群は編集で最初からいなかったように消され、このドイツ民主共和国が最強を誇る軍隊である国家人民軍がBETAを一掃する物になっている。

 その場に居たシュンだが、所属する第666戦術機中隊の存在その物が無かったかのように報道され、やるせない気持ちになる。

 自分等が仕留めた重光線級の死骸を映し、国家人民軍、通称NVAの優秀性を宣伝する中、いま起こっているクーデターや内乱の事には一切触れず、代わりに別の険難なニュースが出た。

 

「BETAの大攻勢か。大丈夫か、この国は」

 

 そのニュースは、オーデル・ナイセ流域絶対防衛戦に再びBETAが大挙して押し寄せて来た。

 内戦中でありながら対BETA戦線の方はまだ健在で迎撃準備を始めたが、戦力をシュタージと組みするネオ・ムガルの軍勢によってズタズタにされた人民軍がどれほど持ち堪えられるか疑問だ。

 西ドイツのドイツ連邦軍やワルキューレの部隊も駆け付けている筈だが、重光線級が出て来れば、内戦で第666中隊が居ないこの国は終わるだろう。

 早く内乱を終わらせても、到底、間に合いそうも無い。

 まさにこのドイツ民主共和国は風前の灯火だ。

 

「あぁ、あん時に逃げ出せばよかったぜ」

 

 それらのニュースを見て、シュンは今さらアイリスディーナの革命に付き合ったことを後悔した。

 だが、既に東西統一と言う船に乗ってしまった。降りれば確実に死と言う波に呑まれて溺れ死ぬことだろう。左手で頭を掻きつつ反体制派の使者を待っていれば、それらしき人物の声が後ろから来た。

 

「お、お前が件の男か…?」

 

「ん、こんな寒い中で待たせやがって、風邪でもひいたらどうすん…!?」

 

 声の正体は女性であったが、その声はシュンに聞き覚えのある物だった。

 思わず後ろを振り返ってみれば、年齢に似合う大学生が着るふんわりとしたコートに、髪型をポニーテールに変え、眼鏡を外していつもと違う化粧をしたグレーテル・イェッケルン中尉が立っていた。

 この大人びた格好をした彼女の姿を見たシュンは、ベルリンで事が起きたことを知った時に死んでいるかと思って忘れていたが、思わぬ形で再会したグレーテルに思わず吹き出してしまう。

 

「ぶふっ、あ、あんた中尉か…? そ、その格好、似合ってんぞ…! ヒヒッ…!!」

 

「う、煩い! それよりもだ。政治総本部に、シュタージのクーデター部隊が踏み込んで来たのだ。襲撃したのはベルリン派だが、後から来たモスクワ派がベルリン派を謎の兵器を擁する軍隊と共に駆逐し、本部を抑えてしまった。本部に居る政治将校を全て拘束しようとしたので、私は格好を変えて逃げている最中と言う訳だ」

 

「ほぅ、あんたが良く無事で済んだな。まっ、何よりだ。同志中尉殿」

 

 笑いを堪えるシュンに向け、グレーテルは顔を赤らめながらベルリンで起こったクーデターにおける自分の経緯を語った。

 意外な形で再会した彼女に、シュンはまだ政治将校だと思って反体制派の人間が近くに居ないか辺りを見渡す。

 

「どうした、顔色が悪いぞ。そちらの状況も芳しくないのか?」

 

「いや、こっちは何とかやってるさ。人がもう少しいれば…」

 

「第666戦術機中隊のバートル曹長。間違いないか?」

 

「オイコラ! なに話しかけて…」

 

 近くに政治将校である少女が立っているにも関わらず、話しかけて来た反体制派の構成員を追い払おうとしたシュンだが、グレーテルが宥めた。

 

「落ち着け、彼は私の仲間だ」

 

「どういうことだ? いつの間に反体制派にくら替えしたんだ?」

 

「それは後で話す。ここで集まっているとシュタージの衛兵共に見られる。行くぞ」

 

 なぜ政治将校であるにも関わらず、反体制派のメンバーになっているのかをシュンが問えば、グレーテルは辺りを見ながらジェルジンスキー連隊の衛兵が居ないことを確認しつつ、ついてくるように言った。

 それに合わせ、シュンは何気ない表情を浮かべながらグレーテルと反体制派の構成員と共にこの場を離れた。

 尾行に細心の注意を払いつつ、いつもの路地を潜ったり横切ったりする中、シュンは小声でなぜ反体制派の同志になっているのかを問う。

 

「反体制派の連中に匿ってくれと泣き付いたか?」

 

「そうではない。武装警察軍の傘下に加わったジェルジンスキー連隊の衛兵たちに追われている所を救われた。どうやら同志大尉が手を回してくれたらしい。それで仲間になった。理由はお前が言うように泣き付いたのではなく、シュタージにこのドイツ民主共和国を支配されてしまうのを阻止することにあるが、私自身の考えが変わったことも大きい。海王星作戦時に西側の戦力を見ていた時に考えていたが、これからのドイツは社会主義の理念に拘るより、西側諸国と手を組まねばならん。故に、ドイツの状況を変えるために彼らと行動を共にすると決めたのだ」

 

 自分が思ったのと違う返答が来たことに、シュンは茫然としていた。

 アイリスディーナは、政治将校であるグレーテルの思想を既に変えることに成功していた。

 変わらなければ、アイリスディーナに代わりシュンかテオドールが始末していたところだが、こうして変わってくれたおかげで無用な殺生をせずに済んだ。

 そんな話をしていく内に、反体制派のアジトらしき廃屋に案内された。

 地下まで案内されれば、顔の半分を髪で隠したリーダーらしき若い女性がシュンに握手を求める。

 

「ようこそ、バートル曹長。私はここの代表のズーズィ・ツァプ」

 

「いや、バートルは止せ。俺の本名は瀬戸シュンだ。瀬戸やらシュンとか呼びやすい方で呼べば良い」

 

「それは初耳だぞ、同志曹長! 今まで騙していたのか!?」

 

 この場での反体制派の代表であるズーズィが挨拶をすれば、シュンは自分の本名を明かした。

 今まで聞かされていなかったグレーテルは、ここに来るまで黙っていたシュンに対し、本名を伏せて第666中隊に居たのかを問い詰める。

 

「そりゃあ、本名で入ったら疑われるだろうが。ここでの日本は西側なんだろ? スパイとしてしょっ引かれるぜ」

 

「まぁ、お前のことなどどうでも良い。今はBETA襲撃の最中にクーデターを起こし、国家を私物化せんとする我が国の病巣シュタージの打倒が先決。奴らを倒さん限り、この国に未来は無い!」

 

 第666中隊に入った理由がスパイの疑いを避けるためだとシュンが説明したが、今は謎の大柄な日本人の男などどうでも良いのか、シュタージ打倒が優先順位だと力説した。

 

「だが、貴様たちが我が国の社会主義体制を潰すような物なら、容赦はしない。私の攻撃目標はあくまでこの国の恐怖政治と監視システム、それを握るシュタージだ!!」

 

「(後でアイリスディーナにこの嬢ちゃんを殺すように言っておくか)」

 

 だが、政治将校として社会主義体制を破壊することは許さないようだ。

 これを聞いたシュンは革命が成功した後、革命後の事を考えてアイリスディーナにグレーテルを殺すように進言しておかなくてはと心の中で思った。

 

「結構よ。では、イェッケルン中尉の意思も確認できたことだし、貴方の本題に入りましょうか、バートル曹長、いや、瀬戸シュン。貴方が私たちに会う目的は?」

 

「おっと、まずはこっちの状況をどれだけ掴んでるか聞くぜ。ここまで来るのに命懸けだったんだ。まさか知らねぇとは言わせねぇな?」

 

 シュンは手紙を出す前に、ズーズィに第666中隊の現状を知っているか問うた。

 今の状況を知っているなら、アイリスディーナが囚われていることも知っている筈だ。

 知らなければ、手紙を条件にカウルスドルフ収容所の見取り図と交換するつもりだ。

 

「あなた達は二日前、基地へ帰投した直後にシュタージのモスクワ派の襲撃を受けた。奇襲攻撃のために部隊は多大なダメージを受けて戦力は半減。しかも我らの同志であるベルンハルト大尉がさらわれた。でもあなた達は奪還のために攻撃、隊員等を救出するも、ベルンハルト大尉は既にベルリンへ護送済み。更にはファム中尉が戦死。その後に我々の構成ンを含める西側の…連中に合流。ラーテノー市でシュタージと無法者たちと交戦して勝ったのね」

 

「うぇ、もう良い。これじゃあ俺が隠れて酒を一杯やってた所や女とやってた所まで見られてそうじゃねぇか」

 

「貴様、そんなことを…! 銃殺刑では済まされんぞ!」

 

 ズーズィから語られる第666中隊の現状を聞いたシュンは、モスクワ派に攻撃される前の自分の痴態まで彼らに知られていることを知り、冷汗を搔いた。

 政治将校である自分の監視に隠れ、禁じられている飲酒や性交を行っていたシュンに、グレーテルが激怒する。

 

「俺には関係無いね。そんで、こっちの目標はもちろん分かってるな? 俺たちの筆頭、大尉を早いとこ助け出さねぇと、この国の革命が遅れる。そっちに大尉がぶち込まれてる収容所の細かい見取り図があるって連絡員の爺さんに聞いた。その写しを俺にくれ。俺が大尉をアカ共から助ける。ここにファム中尉の信任の手紙がある。俺はこの国がどうなろうが知ったこっちゃねぇが、アカのゲシュタポ共とつるんでるあのクソッタレ共をぶっ殺せるなら協力するつもりだぜ」

 

「なっ、ぐぬぬ…!」

 

 グレーテルを軽くあしらい、シュンはズーズィに手紙を渡した。

 封を開けて中身を良く読んで確認した後、手紙をテーブルの端に置き、シュンの方へ視線を向けて口を開いた。

 

「話は分かったわ。ファム・ティ・ラン中尉の意思も確認した。でも、ベルンハルト大尉をどう救出するつもり? カウルスドルフ収容所は重要な政治犯を集めて収監しているだけであって、警備は厳重な物よ。捕まってる同志を助け出そうとしてる私たちでさえ手が出せないわ」

 

「なに、その手の場所に忍び込んだ経験は幾つかある。そんでお縄になった時は、騒ぎを起こして脱獄した事もある。なに、女に秘密で呼び出された家に忍び込むようなもんだ。大船に乗ったつもりでいろ」

 

「本当に任せられるかどうか怪しいな…」

 

 手紙を読み終えた後にどう警備が厳重な収容所へ潜入し、アイリスディーナを救い出すのかを問えば、シュンは自分の経験談と奇妙な例えを出して余裕であると意気揚々に答えた。

 それを聞いたグレーテルは、この大男にアイリスディーナを任せて良いかどうか疑問を抱き始める。

 だが、ズーズィはシュンを信用したらしく、件の収容所の見取り図をテーブルの上に広げて出す。

 

「多少、荒い口調だけど、前大戦時で生き延びた老人たちと同じように真実味があるわ。あのアイリスディーナが目を掛けることはある。用事は済んだわね? 彼女の事は頼んだわよ」

 

「ついでにあんた等の仲間を救出してやるぜ。その場合、強姦魔や殺人鬼、イカレタ狂信者共がおまけについちまうが」

 

 これで終わりかと思われていたが、グレーテルが口を挟んだ。

 

「これで良いのか、お前たちは? こんな下品で乱暴な男に同志大尉など任せるなど。思想なんて欠片も持ち合わせても居ない上、自分の欲望に忠実な自分勝手な奴だぞ。そんな奴一人に任せるなど…」

 

「その下品で自分勝手な奴が言ってるのよ。忍び込んだことや脱獄の経験もあるから何とかするでしょう」

 

 確かにグレーテルの疑問は尤もだが、これにシュンは多少の苛立ちを感じた。

 流石にここで信用されないと言う理由で降りれば筋が通らないので、件の収容所に潜入するためにアジトを後にしようとする。

 

「たくっ、これだから愛国者ってのは。安心しろ、大勢の仲間が来ると思って待ってろ」

 

「ぬぅ…同志大尉に…欲情…するなよ…!」

 

「大丈夫だ、暫くは金髪の女は抱きたくねぇからよ」

 

 ズーズィに何も言い返せないグレーテルに頼まれれば、シュンは自分の手荷物を持ってその場から出た。

 

 

 

 それから数時間後、夜になった時を見計らい、シュンは全身を真っ白なありあわせの物で作った冬季戦闘装備で纏ってカウルスドルフ収容所へと潜入した。

 監視塔などが幾つか立っているが、それらの施設への奇襲攻撃を何度も経験しているシュンはサーチライトを避け、降り積もった雪に融け込んで歩哨の目を掻い潜る。

 歩哨をやり過ごせば、素早く出入り口へ駆け込み、消音器付きのスチェキンAPS自動拳銃を握りながら出入り口のドアをそっと開け、痕跡を残さないために雪を払ってから収容所内部へと潜入する。

 通路や角などに監視カメラが幾つか設置しており、それらに映らないようにシュンは身を屈めながら収容施設へと向かう。

 

「ハル…」

 

 目が合った警備兵に対しては、突撃銃を構える前に俊足の如く近付き、同時に腹と顎に強力な一撃を食らわせ、気を失わせてから人目や監視カメラに映らない場所へ隠しておく。

 それからも同じように監視の目を避けつつ、監視システムを無力化するためにモニター室を目指す。

 屋外は厳重でも、屋内の監視は監視カメラか数人の警備兵のみであり、容易にモニタールームまで入り込むことが出来た。

 

「早いな。交代か?」

 

 外や内部の監視を行っていた二名の警備兵が、シュンがドアを開けた瞬間、腕時計に視線を向け、シフト変更と思って出入り口のドアの方を振り向いた。

 そこには全身真っ白な戦闘服を着て、白いバラクラバを纏ったシュンが立っていたので、即座に一人の警備兵は警報装置を押そうとする。もう一人は時間稼ぎのために、机の上に置いてあるPM-63RAK短機関銃を手に取り、安全装置を外してからシュンに向ける。

 もう一人が銃の引き金を引く前に、シュンは素早く拳銃を引き抜いて銃を握っている右手を撃ち、続けて警報装置を押そうとする警備兵の背中や頭に数発ほど撃ち込んで無力化した。

 右手を撃たれて銃を手放したもう一人の警備兵は、警報装置を押そうとするが、素早く近付いたシュンに額に消音器の銃口を押し付けられ、アイリスディーナが囚われている場所を問われる。

 

「おっと、ベルンハルト大尉が囚われてる場所を教えて貰おうか?」

 

「ぐ…こ、ころ…」

 

 囚われている場所を教えまいとする警備兵だが、シュンに左足を撃たれ、今度は股間に銃口を押し付けられる。

 

「今度はテメェのアレが吹っ飛ぶぞ。言え」

 

「地下の特別牢だ…」

 

「ありがとよ」

 

「ぶぇ!?」

 

 囚われている場所が分かれば、シュンは警備兵の股間を思いっ切り蹴り上げ、更に追い打ちに後頭部に拳銃のクリップを叩き込んで気絶させた。

 それからモニタールームを持って来たレンチで徹底的に破壊し、それからモニタールームを後にしてマスターキーが保管してある看守室まで向かう。

 監視カメラを無効化したが、警備兵の目は流石に無力化できないので、彼らの目に気を付けつつ、収容所の看守室へと到着し、それから中で居眠りをしている看守を気絶させ、収容所の牢の鍵を全て開けられるマスターキーを調達する。

 

「よし、集団解放日だ」

 

 マスターキーを手に入れたシュンは子供のような笑みを浮かべ、政治犯たちが囚われている収監施設へと向かった。

 

 

 

『警報! 暴動だ!! 鎮圧部隊、直ちに出動せよ!』

 

 それから数分後、シュンによって平等に解放された政治犯たちは、看守や警備兵らから奪った銃で暴動を起こし、収容所を大規模な混乱を引き起こしていた。

 他にも棟があるが、ここに収容されている政治犯は多いので、他の棟を数の多さを生かして解放してくれるだろう。

 大暴動を引き起こした張本人であるシュンは、マスターキーを左手の人差し指で回しつつ、近くを通りかかった政治犯に、アイリスディーナが囚われている場所を問う。

 先ほどのモニタールームに居る警備兵が吐いたはずだが、嘘をついている可能性があるので、目撃したと思われる人物から正確な情報を得ることにする。

 

「おい、アイリスディーナ・ベルンハルトが囚われている場所は何所だ?」

 

「ここの地下だ。キリスト教やら、カルト教祖のような連中が囚われてる場所だ! 急がないと、殺される可能性があるぞ!」

 

「ありがとよ! これで他のを解放していけ!」

 

 直ぐに正確な場所が分かれば、マスターキーをその政治犯に渡し、シュンは全力疾走で地下へ雪崩れ込もうとする政治犯らを弾き飛ばしながら地下へと続く階段を下り、自分の得物であるスレイブを元の巨大な鉄塊のような大剣に戻し、それで壁を粉砕しつつアイリスディーナの元へ急ぐ。

 これほど大雑把で大胆と言うか、倒壊しかねない程に潰しながら向かっているので、尋問官らが殺すか人質にする可能性がある。

 強引な方法のおかげか、アイリスディーナが囚われている地下独房まで辿り着いた。

 壁を粉砕しながらやって来たシュンに驚いた尋問官と二名の部下たちは、全裸のアイリスディーナに拳銃を向けながら警告する。

 

「そ、それ以上近付くな! 近付けばこの女を…」

 

 殺すと脅す尋問官らに対し、シュンは大剣を手放して諦めたかに見せた。

 大剣が硬い床へと落ちた瞬間にシュンは投げナイフを両手に取り、それを左右に立っている尋問官の部下二名に向けて投げ付けて無力化した。

 それから二名の部下が投げナイフを突き刺されて無力化されて動揺している尋問官に、床を蹴って一気に近付き、驚愕した表情を浮かべている顔に強力な拳を打ち付ける。

 

「ぐばっ!?」

 

 身長190㎝の大男の強力な右拳を受けた尋問官の鼻は潰れ、前歯が数本ほど衝撃で抜け、壁まで吹き飛ばされる。

 更に追い打ちをかけるように、壁に叩き付けられた尋問官の頭部に何所からか調達した消防斧を叩き込んで頭を割った。

 投げナイフを突き刺された二名がまだ動いているが、トドメの投げナイフを頭部に突き刺され、二人とも仲良くあの世へと送られる。

 

「テオドール、お前のおかげで投げナイフが上手くなったぜ」

 

「バートル…お前か…?」

 

 全身に返り血を浴びている大男に、アイリスディーナは恥部を隠しながら問えば、シュンは死んでいる尋問官からコートを剥ぎ取り、それを彼女に渡してから答えた。

 

「バートルだが、本名は瀬戸シュンだ。それより服を着ろ。強姦魔や連続殺人鬼が来る」

 

「やはり偽名だったか…中国人だと思っていたが、まさか日本人だったとは…驚きだ」

 

 コートを渡した際に本名を明かせば、アイリスディーナはバートルを偽名だと分かっていたのか、特に驚くことなくコートを受け取り、自分の着替えが手に入るまでそれを羽織った。

 シュンは大剣を取り、自分が壁を破壊して通ってきた場所から囚人たちが来る。

 その者達の目は異常であり、アイリスディーナの姿を見て涎を垂らしている者や興奮している物まで居る。

 そんな彼らの正体を明かすかの如く、まだ解放されている独房に居る男が口を開く。

 

「彼らは異常者だ。連続殺人鬼、連続強姦魔たちだ。彼らに愛国心など無い、あるのは自分等の欲求を満たすための本能だ…」

 

「んなもん、見りゃあ分かる。全員ぶっ殺すつもりだ」

 

 そんな男にシュンは大剣を抱えながら答えれば、瓦礫を持って殴り掛かって来る男を、大剣で肉塊へと変えた。

 ここは狭いので、横振りで襲い掛かる男達を次々と惨殺していく。一瞬にしてこの独房が血や臓物で真っ赤に染め上がる。

 

「この! は、離せ…!!」

 

 一人取りこぼしたのか、強姦魔の男が裸になり、アイリスディーナに飛び掛かっていた。

 彼女は抵抗しているが、首を絞められているのか余り両手に力が入っていない。

 全員を殺し終えたシュンは、空いている手でその男の頭を鷲掴みにし、鉄格子に向けて思いっ切り頭を叩き込む。

 

「ぶごっ!?」

 

 流石に一度では死なないが、シュンは動かなくなるまで素早く何度も打ち付ける。

 その時間は僅か数秒。強姦魔の頭が固い鉄格子に何度も撃ち続けた所為で砕け、脳味噌が辺り一面に散乱する。これにはアイリスディーナも恐怖を覚え、右手で口を抑える。

 

「よし、片付いたな」

 

 ここに居る敵を全て倒せば、シュンは牢を大剣で破壊し、アイリスディーナと共に独房を出た。

 

「待て」

 

 地上へと上がる階段へと向かおうとした瞬間に、隣の独房に囚われているカルト教祖から呼び止められる。

アイリスディーナも反応して足を止めたが、先に出るようにシュンが言えば、彼女はそれに従って自分の服がある場所へと向かった。

 

「私を解放してくれ。さすればっ…!?」

 

「付き合ってられるか」

 

 シュンは彼の言い分を聞くことなく、大剣をそのカルト教祖目掛けて突き刺し、素早く引き抜いてから彼女の後を追った。

 

「かなりの大暴動だな…これは全てお前の仕業か?」

 

「あぁ、俺が手当たり次第に解放した。それに、反体制派の襲撃をあったようだ」

 

 先に向かい、衣服を身に着けたアイリスディーナは、目前で起きている大規模な暴動がシュンの仕業であるのかを問えば、当の本人である彼は答え、更に反体制派による襲撃も重なっていることに舌を巻く。

 収容所内での暴動で外周の警備部隊が内部への応援と向かう中、これを好機と捉え、外の反体制派等が収容所に一斉攻撃を行ったのだろう。

 あちらこちらに銃声が響き渡り、更には戦術機の突撃砲による砲声が聞こえるからして、遂にベルリンへとハイム少将と第666中隊の部隊が守備隊を突破したようだ。

 

「おぉ、街の方から戦術機の鉄砲の銃声まで聞こえるな。ハイム将軍と小僧共がベルリンに攻め入ったようだな。今日中にシュタージをぶっ潰して国崩しができそうだ」

 

「国崩し? まさか、今日中に革命を成し遂げるつもりか? まぁ、今の状況を利用できれば出来そうだが…」

 

「今しかねぇだろうが。ここで退けば、ネオ・ムガルのクソッタレ共が街を吹き飛ばしちまう」

 

「そうだな…この好機を逃すほかは無い!」

 

 目前で起きる暴動や西方に見える戦術機同士の戦闘を見て、シュンは今日中に東ドイツでの革命を成し遂げ、国家そのものを潰せると口にする。

 今日で自分等が成し遂げようとしていた革命が成功するかもしれないと聞き、アイリスディーナは疑問を抱いたが、シュンに促され、今は亡き兄が抱いていた目標を果たす為、右拳を握って奮起した。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「汚物は、消毒だァ~ッ!!」

 

「おい、あれは!?」

 

「ほぅ、アカ共め。無法者共を投入してきやがったか。あいつ等は俺が言ってた奴らだ。皆殺しにして来る」

 

 その最中に、ネオ・ムガルも暴動の制圧に参加していたのか、バイクやバギーに乗り、火炎放射器や様々な凶器を手にした無法者達が暴動を起こした政治犯や他の収監されている者達を殺し回っていた。

 アイリスディーナに問われたシュンは、大剣を地面に突き刺しながら答え、ベルトよりPTRS1941対戦車銃を召喚し、安全装置を外して同じく召還した大口径弾五発を装填する。

 それから左手でMP5A3短機関銃を召喚し、それをアイリスディーナに渡す。

 

「これは、西側の短機関銃か?」

 

「使え。扱い方は西のG3自動小銃と同じだ。かなりの精度があるぞ」

 

 MP5はG3A3自動小銃を短機関銃化した銃なので、アイリスディーナは扱い方を駐留していたドイツ連邦軍の兵士から教わっており、難なく扱って火炎放射器の燃料タンクを背負うモヒカン頭のタンクを狙撃した。

 

「あち、あちちち! あわば!!」

 

 射程距離は確実に単発で命中する100m内であり、弾がタンクに命中した火炎放射男は、全身火達磨になりながらやがて爆発する。

 

「ほぅ、銃に関しても西側が勝っているのか」

 

「安心しろ。東側にはAKと言う傑作突撃銃がある」

 

 短機関銃なのに驚くべき制度に、アイリスディーナが舌を巻く中、シュンは対戦車ライフルで制圧に参加した警備仕様のスコープドックの胴体に対戦車弾を撃ち込んで無力化してから、東側のAK系統のライフルの方が勝ると答え、引き続き巨大なライフルで敵ATを撃破し続ける。

 

「所で聞くが。私は放送局に行き、市民に呼び掛けをするのか?」

 

「いや、ハイム将軍やらがベルリンに突っ込んできた当たり、代行者でも居るんだろう。俺は知らんがな」

 

「代行者…? そうか。カティア、いや、ウルスラ。遂に決心を決めたか」

 

 暴動を起こす政治犯らを援護する中、アイリスディーナは弾切れになった弾倉を外し、近くに置いてあるポーチベストから新しい弾倉を取り出して再装填をしながら対戦車ライフルを撃つシュンに問う。

 これにシュンは代行者でも見付けたと適当に答え、敵の軽装甲車やATの撃破を続けた。

 その自分の代行者を知る彼女は、遂にカティアが立ち上がったと思い、背後よりAK47か56式自動歩槍を乱射しながら近付いて来た無法者らを正確な射撃で撃ち殺してから笑みを浮かべる。

 

「なに、あんたが強引に入れた嬢ちゃんが代行者か? 初耳だぜ!」

 

 代行者の正体があのカティア・ヴァルトハイムと知り、シュンは飛び掛かって来た無数の鉤爪男達を近くに刺してある大剣を引き抜き、纏めて叩き切ってから驚きの声を上げる。

 

「一目見た時に分かった。私に何かあった場合に備え、代行を頼んでいた。重荷を背負わせてしまうが、それでも彼女は引き受けてくれた」

 

「たくっ、本当に愛国者ってのはろくでなしだぜ! 嬢ちゃんが英雄の娘だからって、担ぎ上げるとはな!」

 

「お前にそんな情があったとは…」

 

 もしも自分に何かあった場合に備え、アイリスディーナは兄の上官であり、クーデター計画の疑いでシュタージに捕まった消された英雄であるアルフレート・シュトラハヴィッツ陸軍中将の娘であるウルスラ・シュトラハヴィッツことカティア・ヴァルトハイムに自分の代行を頼んだと、彼女のことを知らないシュンに答えた。

 当初は強引に引き込んだ所為でシュタージに怪しまれたが、シュンが馬鹿の一つ覚えに注意を引くような真似をしてくれたおかげか、シュタージの注意がカティアから逸れた。

 当のシュンも自分の気を害さないために戦闘でカティアを守るために奮闘したが、まさか自分の軽率な行動も彼女を守る行為になっていたことに驚いた。

 しかし、まだ年端の行かない少女を革命の象徴として祀り上げるのは、シュンに取って納得がいかず、アイリスディーナもろくでなしの一員に格下げする。

 

「瀬戸シュンだぁ~! ぶっ殺して昇格だ!!」

 

 そんなシュンの元へ、ネオ・ムガルが蘇らせた咎人達が襲って来た。

 

「丁度いい、憂さ晴らしだ。ここのクソ共を地獄に叩き戻してからシュタージをぶっ潰しに行くぜ」

 

 アイリスディーナのことを似たような容姿のマリと同格にしたシュンは、憂さ晴らしをするべく向かって来た咎人達に向かった。

 最初は大男の自分で出来る左手に持った対戦車銃を片手で撃ち込み、狙った大男の腹に大穴を開け、斧で斬り掛かって来る男達に対しては右手の大剣で惨殺していく。

 弾切れになった対戦車銃を捨て、両手で柄を握って振り回し、敵を惨殺しながら大剣を振るう感覚を思い出す。

 

「反共主義者共め! この俺が殺しぶっ!?」

 

 向かって来た咎人を全員肉塊へと変えれば、こちらに背中を向けてPPSh-41短機関銃を乱射するパルチザンのような男を見付けた。

 シュンは直ぐに大剣をこちらに背中を向ける男に目掛けて振り下ろし、咎人として蘇った彼を見るも無残な死体に変える。

 他にもこの国が社会主義であるのか、何処かのパルチザンや赤軍兵士たちが政治犯らの制圧に加わっていたが、シュンはパルチザンが落とした機関銃を拾い上げ、全員を容赦なく殺していく。近い距離に居る者に対しては、手にしている大剣で鬱憤を晴らすように惨たらしく殺す。

 

「ここら一帯は全滅だな。さて、大尉を連れて街へと繰り出し、アカやクソッタレ共を殺しに行くか」

 

 全ての咎人や警備兵らを一掃すれば、収容所に居る敵は全滅した。政治犯らは、死んでいる敵兵から武器や装備を奪い、救出に来た反体制派等を合流し、ドイツ社会主義統一党やシュタージを打倒すべく、街へと繰り出す。

 大剣を待機状態にして、シュンもシュタージとネオ・ムガルを潰す為、拾った戦利品を持ちながらアイリスディーナと合流するために彼女の元へ向かう。

 

「おい、譲ちゃんの援護に行くぞ。支度し…」

 

 戦利品を自慢するように見せびらかしながらアイリスディーナの元へ向かったが、そこにはあのアクスマンとその部下たちが立っており、彼女を拘束していた。

 

「あぁ、ご苦労さん。後は任せたまえ」

 

 アクスマンの謝礼の言葉の後に、古いソ連製の機関銃を撃とうとしたシュンだが、胸に矢を射られて雪原の上に倒れた。シュンは何度か矢を射られたことはあるが、鏃に塗ってあるのが毒であったのか、身体が動かない。

 雪の上に倒れ込み、矢を射られて動かないシュンの元へ、アクスマンは部下が持っていたボウガンの矢を手にしながら倒れている彼に近付き、その矢が何なのかを睨み付ける大男に向けて自慢げに語り始める。

 

「この矢は強力な毒矢だ。その様子からして、口も満足に聞けないようだな。ヨーロッパには毒矢を使う風習は無くてね、専門家の話によれば、アフリカの狩猟に用要られる毒らしい。我が国にも狩猟文化があるが、我々ドイツ人はこんな毒矢は使わない」

 

 矢を捨ててからアクスマンは、シュンが毒で動けないことを良い事にアイリスディーナを捕らえた理由まで明かす。

 

「ベルンハルト大尉を捕らえた理由は、前にも話した通りアメリカへ亡命するためだ。先方はシュタージファイルだけではご不満らしくてね。彼女も必要らしい。何に使うかは分からないがね。では、私は行くよ。君は精々そこで毒が全身に回って死ぬのを待っていたまえ。これで永遠に君とはさよならだ」

 

 恐ろしい剣幕で睨みつけてくるシュンに向け、アクスマンはアメリカへの亡命の条件を明かした後、別れの言葉を告げてから部下たちと捉えたアイリスディーナを連れて何処かへと去って行った。

 どうやら収容所が制圧され、政治犯や反体制派等がベルリンへと出て行くのを見計らってアイリスディーナを捉えに来たようだ。

 漁夫の利を狙ったアクスマンの手によって毒矢を射られたシュンは、過ぎ去って行く彼らをただまだ動く目で睨みつける他なかった。




勝った! シュヴァルツェスマーケン編完ッ!!

と、思っているのか!?

後一話で纏めて柴犬編を終わらせる予定です。
そんで次はどの世界に主人公の脳筋ゴリラを送るか迷っています。
柴犬編終わったらアンケートやるんで、読者の皆様、よろしこ。

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