復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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何にしようかなと迷ってましたが、スターリングラードにすることに決めました。


スターリングラード編
スターリングラードへ


「とっ! もう宇宙か!?」

 

『当たり前だ! ほら、オータムがネオ・ムガルの艦隊に襲われている! 急いで奴らを殲滅しろ!!』

 

 惑星リーチより一瞬で衛星軌道上へと瞬間移動したシュンは、無重力でいま自分が居る場所が宇宙なのかを問えば、ギルアズはさっさっと動けと言わんばかりに、オータムを狙うネオ・ムガルが所有するMSやSPTに攻撃を始める。

 後の伝説となる場所へと向かうオータムに攻撃を仕掛けているのは、この世界の艦艇や兵器を使っている勢力、ネオ・ムガルだ。

 コヴナント軍の宇宙艦艇も周囲に居るが、ネオ・ムガルの宇宙部隊は見境無しにコヴナント軍も攻撃しているようで、ほぼ三つ巴状態と化している。

 そんな戦場に参入したシュン達は、機動兵器を持たないコヴナント軍を無視してオータムを撃沈しようとするネオ・ムガルの機動兵器に攻撃する。

 

「くそっ、当たらねぇぞ!」

 

『的当てじゃねぇんだぞ! しっかり狙え!!』

 

 ギルアズやソウスキー、T-elosは乗っている機で敵機と交戦し始める中、高機動型ザクに乗るシュンは、オータムを攻撃しているジム改と呼ばれる連邦軍の量産型MSのジムの発展型に、マシンガンで攻撃を仕掛けるが、感付かれて避けられてしまう。

 宇宙では下手くそな同盟軍のパイロット達としか戦ったことが無いシュンは、当たらないことに文句を言えば、ソウスキーにしっかり狙えと怒鳴り散らされる。

 それに苛立って必死に敵機を狙うシュンであるが、照準器に敵機は捉えられず、逆に敵機からの攻撃が来る。

 

「うぉ!?」

 

 即座に敵機より放たれるマシンガンを機体が持つ高い機動力で避けるシュンだが、敵機は尚も猛攻を仕掛け、更に二機の増援を受けて三機一隊となって追い詰めて来る。

 一機が動きを制限し、左右からそれぞれ二機が挟み撃ちにして撃破しようとして来た。

 

「やべぇ! やられる!!」

 

 三方から来る攻撃を避けきれず、思わず死を覚悟したシュンであったが、左右より仕掛けて来た二機のジム改は下から来たビームで爆散し、正面からマシンガンを撃って牽制していたジム改は直ぐに下方を向いて迎撃しようとしたが、撃つ前に恐ろしい速さで日本刀のような刀で切り裂かれて爆散する。

 シュンを助けた正体は、緑色の粒子を排出しているガンダムタイプのMSであり、搭乗者が左利きの為か、左側にビームライフルなどの武器が寄っている。右腰には、左手に握られている日本刀を収めている鞘が付いていた。

 そのガンダムタイプのMSに乗り込むパイロットより、映像通信が流れて来る。

 

『地上では鬼神の如くの狂戦士であるが、宇宙では新兵同然か』

 

「誰だお前?」

 

『失礼した、私はグラハム・エーカー。未来を守るために天に甦らされた守護者だ。そしてこのガンダムはグラハムガンダムスペシャル。私の願望を全て叶えたガンダムだ!』

 

 通信映像に映るパイロットの容姿は、金髪で緑色の瞳を持つ好青年だ。おそらく六人目にこの世界へ送られた者だろう。

 そんな彼の名はグラハム・エーカー。余程ガンダムが好きなのか、自分の機体を自慢して来る。

 確かにグラハムのガンダムは、原型機の姿が無いくらいに自分専用にカスタマイズされており、何処もかしこも自分好みの物ばかりだ。

 自分の機体を自慢して来るグラハムに、シュンはやや引いていたが、自分を助けてくれたことには変わりないので、例の言葉を述べて戦闘を再開しようとする。

 

「あ、ありがとう…そんじゃ、俺は戦闘を…」

 

『そうだったな。今は自慢している場合ではない。あの不届き者達をこの世界より一掃してから、我がガンダムの続きと参ろう』

 

「…」

 

 戦闘に戻ると言えば、グラハムも戦闘中であったことを思い出し、自分のガンダムの自慢は終わってからにして目に映る敵機を撃墜し続けた。

 

「こんな中で一番弱いのは、俺ってことか…」

 

 周囲を見れば、仲間たちは次々と敵機を落としている。

 特にグラハムは異常過ぎたが、彼程とはいかなくとも、T-elosが乗るヒュッケバインは踊るように敵機からの攻撃を避け、更には撃墜していた。ギルアズやソウスキーとは比べ物にならない程に。

 これを見ていたシュンは、オータムの周辺に向かい、そこで向かって来る敵機の迎撃に当たる。

 周囲のUNSC海軍の艦艇の残骸を盾として利用し、それを活用しながら敵機の迎撃を行えば、ようやく一機を撃墜することができた。

 

「一機撃破! ようやくか…」

 

 やっとのことで撃墜できたのは、リーオーと呼ばれる量産型MSだ。

 他にも様々な機動兵器がこの世界へと来ているが、どれもが圧倒的に強過ぎるT-elosやグラハムによって次々と撃破されていき、自分の出番はないのではと思ってしまう。

 ギルアズのマック・ナイフと、ソウスキーのドム・トルーパーはそれなりの活躍をしており、オータムに近付けまいと頑張っている。

 対してシュンは、MSでの宇宙戦闘の経験が浅い所為で、単なる迎撃役となっている。シュンにとっては歯痒い事だろう。

 

「二機目だ! やったぜ!」

 

 そんなシュンはオータムに向かって来る敵機を迎撃し続ける中、二機目の撃墜に成功した。

 無数の大口径弾を受けて爆散するリオンを見て歓喜する中、T-elosとグラハムは全ての敵機を撃墜して戦闘を終わらせていた。

 安全が確保されたオータムは、そのまま時間の流れに沿ってワープ航法を行い、伝説の地へと向かっていく。それを追撃するべく、数隻のコヴナント艦がオータムを追うためにワープ航法を行って追跡する。

 

『周囲に機動兵器の反応は我々だけか』

 

『ふん、歯応えが無いな。連中はこの程度か?』

 

 シュンが苦戦していたにも関わらず、グラハムは息一つ乱さず、T-elosは物足りなさを感じていた。

 この好戦的で圧倒的な強さを持つ二人とは違い、ギルアズとソウスキーはシュンと同じく必死に戦っていたようで、彼女に文句をつけて来る。

 

『歯応えが無いだと? お前たちはどうしてそんなことが言えるんだ? こっちは命懸けだぞ!』

 

『そのボヤキ野郎の言う通り、どうかしてるぜ! なんでテメェ等だけ高性能機なんだ!?』

 

『簡単に言ってやろう。お前たちの技量が低いからだ。どうする? コヴナントの艦隊に攻撃を仕掛けるか? こいつのブラックフォール砲とか言うので半数は消し飛ばすことができるが』

 

 やや強い程度の二人にT-elosは反論する中、彼女はこちらに向かって来るコヴナントの艦隊と交戦するかどうかをグラハムに問うた。

 無論、機動兵器を持たないとはいえ、コヴナント艦隊は大艦隊だ。

 リーチのUNSC海軍百五十隻以上の大規模な艦隊戦で三百隻の内、半数以上が沈んでいるが、こちらを十分に圧倒する戦力を有している。そんな大艦隊と交戦するだけ無駄なので、グラハムはこの世界より撤退すると返答する。

 

『まだ戦い足りないように見えるが、次の戦いに取っておけ、黒き戦乙女よ。我々は彼らと戦う理由は無い。それに三名はこの場からの撤退を所望している。撤退すべきだ』

 

『ふん、ストーム・コヴナントとか言う連中が一人でも減らせて好都合だと言うのにな。まぁ良い、私は相転移砲を三発も撃って少し消耗している。流石にこの数の相手は死ねるな』

 

『結構! では、撤退する! 全機、続け!!』

 

 グラハムの撤退指示に、T-elosを除く三名は安心した。

 特にシュンは全盛期のコヴナントの宇宙艦隊を相手に生き残れる自信が無かったので、彼のガンダムに続き、他の仲間たちと共に元の世界への帰り道である次元の裂け目を通る。

 後衛はソウスキーのドム・トルーパーだが、艦載機との接触距離はまだ遠かったので、交戦せずに全員がこの惑星リーチ周辺より撤退することに成功した。

 

 

 

 コヴナントのガラス化攻撃を受け、陥落した惑星リーチより脱出したシュンは、アウトサイダーが住まう虚無の世界へと来ていた。

 幼少期に自分が過ごしていた街が細切れのような光景に、慣れずにいたシュンだが、近くのベンチに腰を下ろしているアウトサイダーを見付け、直ぐに彼の近付き、マスターチーフを守ったことを伝える。

 

「よう、黒目野郎。ちゃんとマスターチーフを守ったぞ。それと、前と同じく助っ人が四人くらい居たが、俺とあの技術屋だけじゃ流石に不安か?」

 

「ご苦労。まぁ、一人で守れる範囲は限られている。それにオータムの乗員や他の者達も守る必要もあった。リーチの惨劇後に始まる伝説(サーガ)を守る為にな」

 

 報告ついでに自分以外に四名の戦士を派遣したことを問えば、アウトサイダーはチーフ以外に守る者の存在があったと答え、シュンとギルアズの二名では守り切れないと判断し、新たに四名の追加をする必要があったと答えた。

 

「まっ、助かったな。正直、俺とあの技術屋だけじゃ、チーフ以外の全員を守り切れるとは思えなかった。感謝するぜ」

 

 アウトサイダーの答えにシュンは自分の力に期待していなかった怒りの矛先を向けず、その支援に感謝し、例の言葉を述べた。

 この次に、アーマーを脱ぎ終わったシュンは、自分のデバイスの強化する決勝が何所にあるのかを問う。

 

「まぁ、あんたの命令をちょっとした手助けで成したが、次の水晶が何所にあんのか教えてくれねぇか?」

 

「ふむ、そうだったな。次なる魔法の水晶は、ロシアのヴォルゴグラード、否、ソビエト連邦、それも二度目の世界大戦時のスターリングラードだ」

 

「スターリングラード…教科書で見たな。確か、大戦中最も激しい市街戦だ。まさか、その市街戦真っただ中にあんのか?」

 

「左様、水晶はその激しい攻防戦の中でしか存在しない。戦闘が終わった時期はただのガラス玉となっている」

 

 デバイスの強化に必要な能力を秘めた水晶があるのは、現ヴォルゴグラード、旧名スターリングラード、それも第二次世界大戦中でもっとも激戦で悲惨な市街戦で知られたスターリングラードだ。

 それを知ったシュンは、また危険な場所に行かなくてはならないと知り、頭を抱える。

 

「くそっ、いつも危険な場所にあるな。安全な場所には無いのか?」

 

「安全な場所か。お前の求める物は、全て危険な物が付いて回っている。何所もかしこもだ、安全と言う物が無いくらいに。これは私でもどうすることもできんな」

 

「あぁ、神か悪魔か分からねぇあんたでもどうしようも出来ねぇ問題か…くそっ、リガンの野郎を叩き斬る前に死にそうだ」

 

 安全な場所に水晶は無いのかと問うシュンに対し、アウトサイダーは自分が知る限りの安全な場所を一瞬のうちに見たが、水晶がある場所はどれも危険な場所であり、違いと言えば、戦場か厳重な警備が敷かれた要塞内部、魔物が巣食う洞窟か廃墟、放射能に汚染された地域、安全な場所など無かった。

 それ見たアウトサイダーがありのままの事を告げれば、シュンはこの先が心配になり、頭を抱えて嘆き始める。

 

「この瀬戸シュン、装備の準備と点検が終え次第、スターリングラード戦線へ行って参ります」

 

「不運に塗れたお前に配慮して、これまで通りに装備の類は提供しよう。ただし、その時代の武器限定だが。不満であれば、高度な科学力で作られた武器も用意するが。その代り、歴史を守る者達が来る可能性が高いぞ」

 

「未来の武器か。俺は火薬を使う実弾が好みでな、レーザーとかそう言うのはちょっとな。それとレーザーの剣はいらんぞ。剣は実体しているのに限る。幽霊の類は、オイルを塗れば通じる。」

 

 安全な場所を探すのは止め、敢えて地獄へ飛び込むことを決意したシュンは、冗談交じりにアウトサイダーに向けて敬礼する。

 不運に塗れたシュンにせめてもの情けか、アウトサイダーは装備の提供を約束した。

 他に未来で使われるレーザー銃などを進めたが、シュンは火薬を使う武器と実体の剣の方が好みだと言って断る。

 

「なんとも古典的な男だ。若いと思って遠い未来の物を好むかと思ったが」

 

「人間ってもんは色々なのさ。俺はあんたの言う古い類に入るけどな。女はどれも好きだが」

 

「ふむ、なるほど…」

 

 シュンは若い男だが、未来の物に興味が殆どない。彼の答えを聞いたアウトサイダーはその意外な好みに驚く。

 

「では、暫しの休憩を取るが良い。ここは私の世界だ。私が望めば、生物以外の物、一部を除けば幾らでも召喚できる。お前は何を欲するのだ?」

 

「そうだな。時間とか遡れる奴とか、冬季用の装備とかが欲しい」

 

 アウトサイダーが装備を用意するから休息を取れと言うので、シュンはその御言葉に甘え、近くのテーブルに腰を下ろし、第二次世界大戦史上最大の市街戦であるスターリングラードに必要な装備を要求した。

 

「お安い御用だ。時を遡れる物は、少し時間が掛かる。お前が休息を終えるまでに持って来よう」

 

 シュンの要望を受けたアウトサイダーは、それらの装備を用意する為、姿を消した。

 

 

 

 スターリングラード。

 現在はソビエトの赤い皇帝スターリンの死後、1961年にヴォルゴグラードと改名された巨大な都市だ。

 最初はハザールと呼ばれ、13世紀になるとモンゴル帝国の侵攻を受け、ジョチ・ウルスの治世にベルケ・サライと改名された。この時からその都市は戦争と血に塗れていた。近くのヴォルガ川を赤く染め上げる程に。

 ロシア帝国の建国の際に、ロシア語で「女帝の物」と意味するツァリーツィンと呼ばれてからは、カルムイク人の占領と二度のコサックによる支配を受け、ロシア革命では赤軍と白軍との激戦地となる。

 そしてソビエト連邦の時代、1925年に当時の最高指導者であるヨシフ・スターリンにちなんでスターリングラードと改名され、南ロシア南部の重要工業地帯として発展する。

 第二次世界大戦が勃発し、その三年後の1942年夏にドイツ軍が再度の攻勢であるブラウ作戦でスターリングラードを包囲すれば、スターリングラードの攻防戦が開始される。

 攻防戦は激しさを増し、都市のあらゆる場所は破壊尽された。ソ連赤軍の反攻でスターリングラードのドイツ陸軍第6軍を包囲して補給線を断ち、降伏させた頃には、都市は荒廃しきっていた。

 しかし、侵略者を打倒した都市として戦後は英雄都市となる。現在でも市の紋章には金星章が描かれている。それに余りにも多大な犠牲者を出したため、都市のあちこちには記念碑が立っている。

 スターリンの死後、後任として最高指導者になったニキータ・フルシチョフのスターリン批判でヴォルゴグラードに改名された。

 それから暫く事故やテロ、戦争に見舞われることなく元の姿を取り戻し、ソビエト連邦が崩壊する中、ロシアの都市として今なおも存続して、市民の署名運動で数日だけスターリングラードの名称に戻ったりしている。

 

 だが、血に塗れた運命からは逃れることは出来なかったようだ。

 21世紀に入って四年目の八月にテロ攻撃を受けたのだ。自爆攻撃で旅客機が爆破され、パイロットを含めた乗員全員が死んだ。

 2013年の10月にはバスが自爆攻撃を受けて複数の死傷者を出し、12月の連日にはテロが二回も起こり、十数人もが犠牲になった。

 

 そんな血に塗れた都市へとシュンは赴く。

 どの時代と言えば、第二次世界大戦の激戦区と一つとして知られたヨシフ・スターリン時代のスターリングラードだ。

 彼は自分のベルト型デバイスの強化に必要な水晶を、その激戦区であるスターリングラードの中で探す。

 ドイツ軍、ソ連赤軍の将兵が死に物狂いで争い合う戦場だ。見付けるのは容易ではないだろう。


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