復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ウィッチャー3、クリアしました。


スターリングラードはもはや街では無い

 1942年10月半ば。突入前に行われたドイツ空軍のヴォルフラム・フォン。リヒトホーフェン上級大将率いる第4航空師団による絨毯爆撃で、スターリングラードは廃墟と化していた。延べ二千機もの航空機による爆撃だ。総量1000tもの爆弾により街のあらゆる場所は破壊しつくされたが、ソ連赤軍の歩兵たちにとって有利な廃墟と遮蔽物をもたらし、要塞となってしまった。

 その次にB軍集団による総攻撃が開始され、150日間にも渡る激しい攻防戦が始まる。

 十月頃には街の八割か九割以上を占領下に収めたドイツ軍であるが、市内に残った少数の敵の残存兵力による抵抗が続いていた。

 

 雪が降り始めたこの激戦地に着いたシュンは、目の前に広がる絶景と、周囲から響き渡る銃声や爆音、漂う悪臭に呆然とする。今までどのような戦場を這いずり回って来たシュンだが、さすがの彼も、このスターリングラードのような地獄は初めてのようだ。

 

「犬も逃げ出すのも頷けるな、こりゃあ」

 

 周囲に広がる爆撃と激しい市街戦で破壊しつくされた街の様子を見て、シュンは動物が逃げ出す程の戦場であると呟いた。

 事実、このスターリングラードを見た攻撃側であるドイツ軍の将校は、その地獄のような光景を見て、「スターリングラードはもはや街では無い」と手記に記している。

 悲惨たる市街戦へと刻一刻と迫る街の中を、シュンは周囲にドイツ兵が居ないか、身を屈めて双眼鏡で確かめる。

 なぜ、確認するかは、自分がアジア系の大男だからだ。

 ソビエト連邦は社会主義国家で多民族国家であり、その中にはスラブ系のみならず、アジア系の人種も含まれる。日本人を余り見たことが無いドイツ兵がシュンを見れば、モンゴル人の兵士と思って手にしている銃を撃ってくることだろう。

 それにソ連兵にも見付かってはならない。何故なら脱走兵と勘違いされるからだ。故にシュンは、スターリングラードには存在しない人間なのだ。見られれば、目撃者を殺す他ない。

 

「さて、周囲に敵影無し。行くか」

 

 周囲にドイツ兵もソ連兵も居ないことを確認すれば、シュンは双眼鏡を懐に戻し、目立たない都市迷彩を施した迷彩服で、自分の目当ての品である水晶を探し始めた。

 瓦礫に身を隠して狙撃手に警戒しつつ、地を這うようにして、アウトサイダーから貰った水晶の場所を示すコンパスの針を頼りに進む。

 他にもシュンは、アウトサイダーから時間を行き来できるタイムピースと呼ばれるアイテムを貰っている。

 これを使う事で、ドイツ軍が有利だった時期やソ連軍の反攻が始まった冬季に自由に行き来できる。

 中々に便利な物だが、使う所によって敵と遭遇する事もあるので、その時間に行きたければ、使う前に鏡でそこがどうなっているか調べればならない。

 

前進(ロース)! 前進(ロース)!』

 

 老若男女の死体に肉片、瓦礫、銃器、空薬莢などが無数に転がる地面を這い回り続ける中、西の方向からドイツ語の叫び声が聞こえて来る。同時に笛の音も何度も鳴っていたので、おそらく小銃中隊と機関銃中隊で編成された歩兵大隊が迫っているのだろう。

 駆け足で前進して来る大勢のドイツ兵から身を隠す為、シュンは近くで息絶えている大柄のソ連兵の死体を幾つか集め、それで自分の身体を隠し、足音が鳴るのを待つ。

 それから斥候が敵でも発見したのか、ドイツ軍の小銃であるkar98kの銃声が鳴れば、程なくして短機関銃のMP40やMG34やMG42と言った汎用機関銃の銃声が鳴り始める。

 どうやら、ボルガ河からボートで続々と渡河して来るソ連赤軍に攻撃を開始したようだ。

 積み重ねた死体の隙間から伝令が急いで走っていたので、シュンは不味いと思って死体を退け、ドイツ兵達が渡河してくるソ連赤軍の兵士たちを撃つのに夢中になっている間に、即座にその場から脱出する。

 

止まれ(ハルト)!!」

 

 なりふり構わず飛び出したため、敵軍の渡河地点に向かっていた四名のドイツ兵に見付かってしまった。

 先頭に立っている班長の兵士が小銃兵の三名と共に短機関銃を向けながら叫ぶ中、シュンは両手を上げて投降する素振りを見せ、四名を油断させた後、近付いたところを特殊部隊の訓練で培った体術で短機関銃持ちを素手で制圧し、その短機関銃MP40を奪い、引き金を引こうとする三名の小銃兵を薙ぎ倒した。

 それから班長を素早く抜いたナイフで喉元を突き刺して息の根を止める。

 

「そこらで銃声が響いているから、大丈夫だろう」

 

 四名のドイツ兵を殺害したシュンは、予備弾倉が詰まっているポーチごと死体から剥ぎ取り、奪った短機関銃を抱えながら、目的の物がある場所へと向かった。

 

「少し、戦車が多いな。時計を進めるか」

 

 目的地への場所へと向かう途中、川かまだ抵抗を続けている工場への攻撃の為か、多数の戦車が待機していた。

 車両数は一個師団の半数ほどあり、殆どがチェコ製の38t軽戦車や火力不足のⅢ号戦車であるが、随伴歩兵が一個連隊分も居る為、ここでシュンは、攻勢を仕掛ける時間まで進めることにした。

 タイムピースの鏡を見て、自分が行く時期の戦況で、周囲にドイツ兵かソ連兵が居ないことを確認すれば、時計の針を進めた。

 彼が針を少しばかり進めるだけで、周りの景色は早送りのように進み、針を止めるだけで、ドイツ軍の装甲師団は何処かへと消え、代わりに歩兵同士による激しい攻防戦へと変わった。

 

「改めて見ると、凄いな」

 

 時間を進めれば、たちまちそこは激戦区へと変わったので、シュンは地面に伏せ、飛んでくる流れ弾から身を守りつつ、タイムピースを懐に隠した。

 双方の兵士達が撃ち合いに夢中になる中、シュンはその隙を狙って水晶がある場所まで行こうとしたが、ソ連赤軍の政治将校や督戦隊に見付かってしまう。

 

「貴様! 逃亡者だな!!」

 

「くそっ!」

 

 自分を見るなり、即座に手にしているPPSh-41短機関銃を撃とうとする督戦隊に対し、シュンは懐より抜いた消音器付きのコルト・ガバメント自動拳銃を引き抜き、将校を撃ち殺した。

 

「死ね!」

 

 残りの督戦隊の者達が倍返しと言わんばかりに、数十発の弾丸が来たので、シュンは身体を転がし、遮蔽物に身を隠した。

 それから撃ち切った拳銃をホルスターに戻し、MP40を取り出して短機関銃やDP28軽機関銃を撃ってくる督戦隊に撃ち返す。

 数名がばら撒いた拳銃弾で倒れる中、シュンの頬をライフル弾が掠れた。

 このままではソ連兵が続々とやって来た袋のネズミにされかねないので、煙幕手榴弾を取り出し、ピンを抜いて煙が充満するのを待った。

 

「煙幕手榴弾だ! 突撃して奴を殺せ!!」

 

 煙幕で隙にここから逃げると思ったのか、煙が充満する前に督戦隊は短機関銃を持った三名を突入させてきた。

 煙が充満するのを待っていたシュンであるが、来られたら困るので、短機関銃を撃ち込んでその三名を撃ち殺し、撃たれる前に遮蔽物へと身を隠した。

 敵は未だに煙が充満したところを向けて撃ち続けているが、こちらが適当に撃ち返せば、怯んで遮蔽物に身を隠したのか、銃弾は止んだ。

 この隙にそこから飛び出し、落ちているPPSh-41を予備弾倉と共に拾い上げ、MP40と予備弾倉をベルトのコアに戻してから持ち替える。

 

「不味いな、始末しねぇと」

 

 自分の姿を見られたからには、時系列に何らかの影響がみられるので、シュンはベルトのコアから銃身に消音器が付き、低倍率スコープZF41が付いたkar98k小銃を取り出し、安全装置を外して政治将校や督戦隊の面々が居る方向を見た。

 周りの赤軍将兵らが前線へと銃を持って進む中、政治将校と督戦隊の兵士たちはシュンを探していた。

 三人ほどに自分の姿を見られたので、直ぐにシュンは照準器を覗いて狙撃を試みた。

 ZF41は狙撃用のスコープで無いため、狙撃には向かないが、この距離なら十分なので、直ぐにシュンは、自分を探し回る督戦隊の兵士の胸に向けて撃ち込んだ。

 周囲に銃声が響き渡り、爆音が響き、それに銃声は大きな消音器で抑えられ、彼が狙った敵兵は撃たれて悶え苦しみ始めた。

 そんな兵士に周囲は目もくれず、続々と前線に向かっていく。

 次に前線へと向かわず、自分を探す兵士を見付ければ、即座にボルトを引いて空薬莢を排出し、ボルトを押し込んで次弾を薬室に装填すれば、直ぐに引き金を引いて息の根を止める。

 

「後は、あの青帽子だ」

 

 二人の兵士を物陰より仕留めたシュンは、青い帽子を被った政治将校に照準を向け、致命傷となる首へ照準を合わせれば、引き金を引いた。

 首に銃弾が命中した政治将校は、自分の首を抑えながら息絶える。先の督戦隊の動揺、周りの赤軍将兵らは前線へと向かうのに必死だ。銃を持って居ない平服同然の男達と一緒に。

 自分の姿を見た全員を始末したシュンは、周りに誰も自分を見ていないことを確認すれば、その場より一目散に去る。

 このまま敵に姿を見られることなく水晶の元へ行けるだろうと思ったシュンであったが、事はそう簡単に運ばなかった。

 

「っ!?」

 

 ドイツ空軍の急降下爆撃機、スツーカが投下した爆弾がシュンの隣に着弾したのだ。

 運悪くシュンが身を潜めている場所の近くには、ソ連赤軍の反撃を象徴するT-34中戦車と一個分隊程の随伴歩兵が前線へと向かっている途中だった。

 死のサイレンを鳴らす急降下爆撃機より投下された500kg爆弾は、T-34中戦車後部のエンジンに正確に命中し大爆発を起こした。

 爆弾の爆風は近くで身を隠していたシュンをも吹き飛ばし、彼は近くの廃墟の壁に身体を打ち付けて気絶した。その衝撃か、彼の懐に仕舞っていたタイムピースが飛び出してしまう。

 

「…くそっ、迂闊だったぜ」

 

 意識が混沌して視界がぼやける中、激痛に耐えながら左手でタイムピースを取ろうとしたが、そのタイムピースは何処かに隠れていた少年に取られた。

 タイムピースを手に取った少年はそれを興味津々で弄くり回すが、シュン以外には動かせない仕様になっている。直ぐにシュンは、タイムピースを返すようにまだ動く口で伝える。

 

「坊主、そいつを…」

 

 手を伸ばしながら少年に返すように告げるが、少年はまだ息のあるシュンに驚き、タイムピースを持ったまま何処かへ逃げてしまう。

 

「おいおい、そんなの無いぞ…!」

 

 貴重なタイムピースを持って逃げてしまった少年に、シュンは何とか立ち上がろうとしたが、壁に身体をぶつけた衝撃が凄まじかったのか、ここに来て意識を失ってしまった。

 

 

 

【おい、モンゴル人! 起きてるか!? 督戦隊に殺されるぞ!】

 

 意識を失っている最中、シュンは軍用コートを着たソ連兵に起こされた。

 アルメニア系の彼は、目の前のアジア系の男が哀れにソビエト連邦に強制徴兵されたモンゴル人だと思っており、敵前逃亡罪として督戦隊に殺されるかと思ってシュンを助けたのだ。

 アルメニア系の彼も強制徴兵された身であり、同じ哀れな男として助けた訳だ。もちろんソビエトの共通言語であるロシア語は喋れない。

 その後行為をありがたく受け取ったシュンは、差し出された彼の手を取り、自分のベルトがあるかどうか確認した。

 

「あった…」

 

【お前のその変なベルト、故郷の奴が付けてくれた魔除けか? まぁ良い、早く督戦隊の元へ戻ろう。ここにいたら奴らに殺される】

 

 ベルトがある事を確認すれば、分からないアルメニア語を喋る彼に続いて強制徴収されたソ連人民たちの元へ向かう。そこは、かの有名な赤の広場であった。

 大勢の強制的に徴兵された殆どの男達の手に銃は無かった。この時期でのソ連赤軍は武器が不足し、銃は二人に一丁と言うありさまだ。もしくは、補給線が伸びきったドイツ軍の弾薬を消費させようと言うのが狙いだろう。

 尚、殆どの装備は訓練を受けて来たるべき反撃に備えている部隊に送られたらしく、ここで自殺行為とも言える突撃を強制される彼らに、武器や装備を与えることは勿体ないと思われたようだ。

 

「(不味いな、隙を見て何処かへ逃げないと。督戦隊かドイツ兵に殺される)」

 

 自分の手にはモシン・ナガン小銃は無いので、目の前で手にしている男を見ながら、シュンはこの場から抜け出せる機会を伺った。

 その機会を待つ中、遂に敵の弾薬を消耗させる突撃を敢行するのか、政治将校は拡声器を使って殆ど銃を持たない強制徴兵された彼らに敵陣への突撃命令を出そうとする。

 

『同志諸君! 一歩も退くな! この先に勝利か死があるのみ! 退却する者は容赦なく射殺する! 臆病者と裏切り者には情けは掛けぬ! 下がることなくファシスト共を殺せ!!』

 

 シュンに取っては喧しい政治将校の突撃前の演説を無視しつつ、敵陣の方を見れば、多数のドイツ兵が小銃の安全装置を外し、こちらに構えていた。他にもMG42機関銃などが三脚付きで立てられ、更にⅢ号戦車に装甲車もあり、いつでもこちらの攻撃に備えている。

 似たような突撃をさせられたこともあるシュンだが、その時は十分な装備があった。しかしこの過去のスターリングラードでは、ライフルどころか拳銃も、予備弾薬も無い。死ぬために行かされているような物だ。

 ここでバリアジャケットを身に纏い、逃げるのも手の内だが、アウトサイダーより歴史を変えるような真似をすることは控えろと言われているので、バリアジャケットは纏わず、突撃命令が出るまで待つ。

 

「偉大な同志スターリンの為に! ウラー!!」

 

『ウラー!!』

 

 前の列が持つ銃を見る中、遂に突撃命令が出された。

 雄叫びと共に大勢の強制的に徴兵された若者や農民たちが、防備を固められた赤の広場へと突撃していく。

 そんな彼らを支援するためのPM1910重機関銃やDP28軽機関銃があったが、その使用法は逃げ帰ろうとする者達を射殺するための物だ。

 前にも敵、後ろにも敵と挟まれた哀れな者達は、自暴自棄となって敵陣へと突撃していく。

 この哀れな集団に加えられたシュンは、ただ目の前で走るライフルを持った男が機銃掃射で死んで落とすのを窺いながら集団と共に走る。

 

撃て(ファイアー)!!』

 

 kar98kやMG42の射程距離に入ったのか、ドイツ軍将校の怒号が聞こえ、一斉に発砲が開始される。戦車による砲撃も開始され、目の前を走っていた集団がバタバタと薙ぎ倒されるか、吹き飛ばされた。

 血と肉片が飛び散る中、シュンは目前の男が破片に当たって倒れた瞬間に、死んだ男の手から落ちた小銃を拾い上げようとしたが、その銃は別の男に奪われる。

 別の男が持つ銃を探すも、シュンが手を伸ばす前に小銃は別の者に取られてしまう。

 自殺的な突撃するソ連兵らをドイツ兵等が虐殺する中、シュンは落ちている小銃を探し続けていたが、遂にソ連兵たちの戦意を損失し、敗走し始めた。

 

「もう駄目だ! 退却だ! 退却しろ!!」

 

 振り返って味方の陣営に撤退し始めた哀れなソ連兵たちであったが、督戦隊は敵を前にして逃げる彼らに戻るように告げる。

 

『下がるな! 前進しろ!!』

 

『退却は敵前逃亡罪だ! 戻って戦え!!』

 

『聞こえんのか!? 戻れ!!』

 

 後方に居る督戦隊は逃げ帰って来る彼らを戻る様に怒鳴り散らすが、誰も耳を貸さず、味方の陣営へと戻って来ようとする。

 命令を聞かない彼らに督戦隊は容赦せず、逃げ帰って来る集団を全て敵前逃亡罪と認定し、手にしている銃や軽機関銃を撃ち始めた。

 

『この臆病者共め! 貴様らは敵前逃亡者だ! 国家反逆罪だ! 撃ち方始め!!』

 

 辛くもドイツ軍の集中砲火から逃れたソ連兵たちであったが、今度は味方からの機銃掃射を浴びせられた。

 味方からも撃たれる。何所へ逃げれば良いのか?

 そんな疑問が彼らの脳内に浮かんでいたが、何所へ逃げようかと考える間もなく味方の機銃掃射で撃ち殺されていく。

 機関銃の銃声が鳴り止む頃には、突撃を強制された哀れな彼らは誰一人立っておらず、辺り周囲に転がる死体の仲間入りをしていた。もう誰も生きてはいない。あのシュンを助けたアルメニア系の男も、物言わぬ死体となって赤の広場で倒れている。

 赤の広場で動いているのは、塹壕で敵襲に備えていたドイツ兵だけであった。

 こうしてソビエト連邦に強制的に徴兵された彼らは、敵の弾薬を消耗させるために全滅したが、ただ未来より来た男であるシュンは、無数の死体に紛れ込んで生き残っていた。

 

 

 

「やれやれ、全員くたばった後にこれか。もういらないがな」

 

 地面を這いずり、周囲に転がっている死体に紛れて生き延びていたシュンは、モシン・ナガン小銃をようやく手に入れることができた。だが、もう督戦隊の監視も無いので、無用の長物であるが。

 もうドイツ兵以外にこの場で生きている者は居らず、ただ倒れたフリをしていた自分だけが生き残っていた。

 しかし、何かの役に立つかもしれないと思って手元に残して置き、ボルトを引いて死体から手に入れた五発入りクリップを装填し、ボルトを押し込んで薬室に弾丸を送り込んだ後、安全装置を掛けてコアの中に入れた。

 

「っ!? 敗残兵狩りか。弾は貴重じゃないのか?」

 

 周囲から銃声が聞こえたので、シュンは直ぐに赤の広場の中心にある噴水に隠れ、周囲から聞こえて来る銃声がドイツ兵の物による物だと断定した。

 シュンの言う通り、MP28やMP40、その両方が組み合わさったMP41などの短機関銃を持つドイツ兵等が、まだ息のあるソ連兵たちを殺していた。

 他にもソ連兵から鹵獲したPPSh-41を持ったドイツ兵も居り、重傷で動けないソ連兵たちを殺している。

 

「そう言えば、捕虜なんぞ取ってる暇はないんだよな」

 

 士官学校の教科書で、独ソ戦のドイツ軍が補給問題で捕虜を取っている余裕がない事を思い出し、シュンは死体から流れる血を自分の顔に塗り付け、必死に死体を装った。

 近くをドイツ兵、ではなくオーストリア人かその他の枢軸国の兵士達が来たが、地面に倒れているモンゴル人の大男を死体と思って銃を撃つことなく通り過ぎた。

 付近にドイツ兵か第6軍に加えられた他の枢軸国軍の兵士達が居ないことを確認すれば、シュンは匍匐前進しながら赤の広場を脱出するルートを確認した。

 早くタイムピースを盗んだ少年を見付け、それを取り返さないとならない。

 

「さて、あの小僧は何所へ行った?」

 

 シュンは自分が少年ならどこへ逃げるか。

 そのことを考えつつ、生き残りの虐殺を終えて原隊へと戻って行くドイツ兵たちに警戒しながら赤の広場を抜けた。

 

「かくれんぼと行こうか。こっちは、インチキな鬼だがな」

 

 赤の広場を抜け、建造物内へと入ったシュンは、タイムピースを盗んだ少年を探し始めた。

 コアから禁じ手ではあるが、対人レーダーを取り出した。重要なタイムピースを取り返さなければならず、背に腹は代えられない。

 心臓の大きさで大人か子供の判別ができる代物で、大人なら大きく反応し、子供なら小さく反応するレーダーだ。これを使ってあの少年を見付けだすことにする。

 巡回中のドイツ兵やゲリラ活動をするソ連兵を警戒しつつ、シュンは激戦場となった街の中を進んだ。

 

「レーダーには大人以外の反応はなし。このレーダーがロリコンや幼児愛好者の手に渡らなくて良かった」

 

 レーダーの反応を見て兵士の反応しか無いことに落胆したが、そのレーダーが幼児愛好者の手に渡らなくて良かったと安心して少年を探した。

 巡回のドイツ兵の雑談が聞こえて来た。シュンはドイツ語を分かっていたが、その雑談は「故郷に帰りたい」や「ここはうんざりだ」と言う内容で、戦略的にもタイムピースを盗んだ少年とは関係ない物ばかりだ。

 当ても無く探し続ける中、レーダーが反応し、物陰にタイムピースを盗んだ少年と思われる人影を見付けた。

 

「待て!」

 

 周囲に構わずロシア語で叫べば、立ち去ろうとする少年らしき人影を追い始める。

 アジア系の大男の声に驚いた少年らしき人影は逃げるが、子供と大人の走り速度は後者の方が早く、追い付いた。

 

「くそっ、違うか」

 

「離して!」

 

 直ぐに捕まえたが、その少年の手にはタイムピースは無かった。

 解放してレーダーを確認して、別の少年を探す。

 しかし、ロシア語で叫んだため、周囲からドイツ語の怒号が聞こえて来る。

 

『こっちに露助が居るぞ!』

 

「不味いな、早くここを離れないと」

 

 ドイツ兵が来るので、シュンは一目散にその場から離れた。

 これでまた振り出しに戻ったわけだが、見るに堪えなかったのか、アウトサイダーはいつものように何所からともなく現れる。

 

「少年にタイムピースを盗まれ、困っているようだな」

 

「あんた、何所からでも現れるんだな。全く、これじゃあトイレもできやしねぇ」

 

 何所からともなく現れるアウトサイダーに、シュンは自分のプライベートも覗かれているのではないかと不安を口にする中、神と悪魔が混じり合った存在は、そこまで興味はないと答えてから、少年が居る場所のヒントや、この戦時下で誰もが求める物を告げる。

 

「そこまでは見る趣味は無い。あのタイムピースは貴重な物だ。何としても取り返すべきだ。流石に正確な居場所は分からないが、自分が子供なら何所へ隠れると思う? それに戦時下で最も貴重な物は? それを理解しているお前なら、自ずと答えは分かるはずだ」

 

「俺が餓鬼なら何所に隠れるか。それに戦時下に貴重な物。貴重な物は分かる、食料だ。特にこの戦時下の市街地、それも戦場となった街では食料を調達するのが難しい。餓鬼が何所へ隠れるかが問題だが…」

 

 食料の事は分かったが、少年の潜伏地については、考えなければ分からない。

 戦場となった街で銃撃戦や砲撃、空襲から身を隠せる場所。それらの思い付く場所を考えれば、答えは見付かった。

 

「地下水路か。あそこなら砲撃や空襲に巻き込まれることは無い。臭いは別だが」

 

「ご名答。だが、そこに居ると言う確証はない。しかし、外はこのような状況だ。居る可能性はあるだろう」

 

「ヒント、ありがとよ。そんじゃ、行ってくるぜ」

 

「あぁ、見付けられることを祈っている」

 

 正解を導き出したシュンに、アウトサイダーは称賛した。

 直ぐに地下水路に向かおうとするシュンに向け、アウトサイダーは成功を祈ると告げてから姿を消す。

 アウトサイダーが消えた後、シュンはマンホールがある場所を探しに街路に向かった。

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