今回は主人公があるまじき行動を取るよ。
なに、タイトルの魔女の婆さん? あぁ、出るよ。
さて、諸君は何故マリ・ヴァセレートが戦争真っただ中の1942年の11月のスターリングラードに来たのか?
この俺、ナハターが語ってしんぜよう。
彼女が忌むべき二度目の世界大戦時のスターリングラードに来たのは、ある占い師の老婆に頼まれたからだ。
マリ・ヴァセレートはフェミニズムの帝国、否、メガミ人、学名では旧約聖書に則ってイブ人、それか乙女戦争と言うチェコの伝説に出て来るリブシェの名を取ってリブシェ人、あるいはチェヴィー人と呼ばれる若くて美しい女性だけの種族の帝国を一代で作り上げた人物だ。俺は響きの良さで、チェヴィー人と呼んでいる。
なに、マリはイブ人かリブシェ人かだって?
あぁ、人間だと思うが、堕天使の子孫や悪魔の子孫と俺は思う。
事実、彼女はチェヴィー人に神格化され、その帝国は彼女らの寿命である五百年は続いた。
その帝国が終わったのは、全く信じられない理由だが。
さて、そんな話は置いておき、彼女が老婆の頼みを聞いて危険な戦場であるスターリングラードに来たかは、赤の広場で戦っているドイツ軍将校の一人がお守り代わりに付けている不気味な模様のメダルだ。
それを身に付けていたドイツ軍将校の名は、ハンス・ヴォルター陸軍大尉。
ドイツが敗戦を迎えた一度目の世界大戦後に生まれ、平民出身なために貧しい少年時代を過ごした。
十八歳の誕生日に食うためにヴァイマル共和国軍に入隊し、それから数年ほどでヒトラーが政権を勝ち取り、ナチスによる独裁政治体制が始まり、再軍備化されて国軍が国防軍となると、ハンスは陸軍の士官学校に入学した。
大戦が始まるまでに士官学校を卒業できなかったが、卒業後の初陣は重要な作戦であるバルバロッサ作戦だ。所属はスターリングラードで悲劇的に壊滅した第6軍だ。ここで彼は数々の戦果を挙げ、順調に大尉まで昇進した。
だが、彼はスターリングラード戦線の赤の広場で命を落とす。二階級特進で中佐だ。
で、メダルの件だが、そのメダルは彼が少年時代に川の近くで見付け、懐に仕舞って何かしていれば、何事もうまく成功するので、戦死するまで大事に持って居た。
して、このメダルの持ち主は誰か、奇妙なことだが、マリがルリを探すために訪れた占い師の老婆なのだ。
数年前、老婆はそのメダルを何処かで無くし、それ以降、人探しの占いは偶然を除いて全くと言って良いほど当たらなくなった。
あのメダルさえあれば、老婆はマリが探している愛しの恋人であるルリを見付けることが出来るが、占いで見つかるとは限らない。
さぁ、話はマリが占い師の老婆の所へ訪れたところに行こう。
惑星同盟軍の勢力下にある惑星。
マリがスターリングラードに訪れる数日前、彼女はスラム街の一角に居る占い師の老婆の元へ訪れていた。
「やぁ、お嬢ちゃん。どんな占いで来たのかな?」
「この娘、何所に居るか分かる?」
自分の店に入って来た金髪碧眼の美しい女に、占い師の老婆は満面の笑みで出迎え、どんな占いで来たのかを問う。
これにマリは、目的であるルリが何所に居るのかを占いで当てて欲しいと告げる。占いで当たる確率は低いが、今の彼女は藁に縋る気持ちだ。事実、この占い師の店を訪ねるまでに何回か騙されたが、その全てを持ち前の頭脳と魔力、経験を駆使して切り抜けた。
マリが懐から出した写真を受け取った占い師は、視力が落ちた両目でしっかりとルリが写った写真を見つめたが、目の前に置いてある水晶を使って探したが、件の美少女は見付からなかった。
「済まんがお嬢さん、この子の場所は見当もつかん。何か、強力な魔法で…」
「あんたも嘘つく気? 嘘ついたらどうなるか、分かるよね?」
見付からなかったと返した占い師であるが、マリは拳銃を向けながら嘘ではないかと疑う。
拳銃を向けられた老婆は、冷汗を搔きながら嘘じゃないと必死に返す。
「う、嘘では無い! 本当の事じゃ! あ、あのメダルさえあれば、メダルさえあれば妨害魔法も構わずに…」
拳銃を向けられた占い師は、件のメダルの事を口にした。
直ぐにマリは食い付き、それが何所にあるのかを問い質す。
「で、それは何所にあるの? 落としたか、誤って売ったの? 直ぐに取って来て上げるわよ?」
「あぁ…落としたのじゃ…数年前にのぅ。必死に探したんじゃが、何所にも見当たらん…取り敢えず、この水晶なら場所が分かるが…正確な位置は分からん。この写真にわしが首掛けてあるメダルがそうじゃ。古代文明の模様が描かれておる」
死の恐怖を感じている老婆は、水晶を使ってメダルがあるスターリングラードの戦場を浮かび上がらせた。そこにあるのは確かだが、正確な場所は見当もつかない。更に分かりやすいように、占い師は昔の写真を取り出し、自分が掛けているメダルの模様を指差しながら告げた。
良く目を凝らして見てみると、直ぐにそのメダルが分かるような模様が入っていた。
占い師曰く、古代文明の時代に作られたメダルだそうだ。これがあれば、どんな妨害魔法を掛けられた人物でも、直ぐに見付かるらしい。正確な場所まで分からないが、大体の居場所は分かる。
メダルがある場所が、シュンの居るスターリングラードであると分かれば、マリは占い師の店を出ようとした。
「OK、このメダルね。取って来るからここで待って…いや、私について来て」
「な、なんじゃ?」
「あんたを連れて行こうとする連中が来たみたい」
「わ、わしはやましいことなど…」
「今あんたに死なれたら困るから、早く。荷物とかそう言うのは人寄越すから」
探しに出て行こうとする前に、占い師の店を包囲する集団を感知したマリは、老婆の手を取って店を出た。
出入り口から出た為、占い師の店を包囲している銃を持った武装集団と鉢合わせしてしまった。
「おい女! 貴様もその婆の仲間か!?」
武装集団のリーダーであるスキンヘッドの男は、鉢合わせしたマリと占い師を呼び止める。
銃を持った男達は周りを包囲し、手にしている銃口を向ける。下手に動けば、ハチの巣にされることだろう。
マリは包囲されている事も気にせず、強引に抜け出そうとした。
「邪魔!」
「邪魔だと? 俺たちはそこの婆に用がある! とっとと渡せ!」
武将集団がこれを許すはずが無く、一人の男がマリの胸倉を掴んで占い師を渡せと脅した。それが、彼の命取りとなった。
「触るな!!」
「このアマ…あっ、あぁぁぁ!? 助けてくれぇ!!」
自分の服の胸倉を掴んだ男に怒りを燃やしたマリは、その男の顔を燃やした。燃え盛る自分の顔を抑え、男は周囲に助けを求めながら悶え苦しむ。周囲の男達も反応して、直ぐに手にしている銃を撃とうとした。
「魔法だ!」
「魔女だ! あの女は魔女だ!!」
「殺せ! 殺して火炙りにしろ!!」
一人が叫べば、直ぐに手にしている銃を撃とうとしたが、マリは撃たれる前に自分の魔法で時を止め、懐からP228自動拳銃を取り出し、全員の頭に撃ち込んだ。それから老婆の手を引いて、時間の動きを元に戻す。
時間が動けば、マリに銃弾を撃ち込まれた男達は何も分からずに次々と死んだ。
「い、一体…」
「さぁ、勝手に死んだんじゃない?」
自分を捕らえに来た男達がいきなり死んだことに、老婆はマリに問い掛けたが、彼女は何も答えず、自分の仲間との待ち合わせに急ぐ。
街中が死んだ男達を見ようと集まる中、誰が通報したのか、同盟軍の憲兵たちが現れる。
現場へと急行する憲兵が、老婆を連れる若い金髪の女を見過ごすはずが無く、強引な手で呼び止める。
「止まれ! そこの女! 付近で殺人事件があった。監視カメラの映像では、お前たちが現場に映っていた。何をやっていた? 答えろ。おい! 聞こえんのか!?」
「何も見なかった」
この憲兵に対し、マリはある魔法を掛けた。
「俺は、何も見なかった…配置に戻る…」
魔法をもろに受けた憲兵は、マリが言った言葉に従い、虚ろな目を浮かべ、警備シフトに沿ったルートに戻る。
「これも魔法」
問い掛けようとする老婆に、マリはその答えを直ぐに告げ、合流地点まで急ぐ。
合流地点へと来れば、トレーラーやバイクに乗った柄の悪い男女がマリを待っていた。如何にも暴走族と言う風貌だ。
何所で彼らを恐怖で従えさせたのだろうか、現に暴走族のリーダーをしている女がマリに声を掛けて来る。
「は、早くしな! グズグズしてたら、同盟軍の奴らに殺されちまう!」
「お、お嬢ちゃん…あんた一体…」
「この御婆ちゃん、お願い。私は奴らを引き付けるから」
占い師を預けた後、マリは一人で追跡して来るホバーバイクで憲兵隊に向け、両手に召喚したベレッタM92F自動拳銃とCZ75自動拳銃を撃ち込む。
「のぁ!」
「さ、散開しろ!」
まるでフルオートのように放たれる無数の拳銃弾を、避けきれずに次々と憲兵は死んでいく。
散会して反撃を行うが、マリは魔法で再装填した弾倉全弾に追尾機能を魔法で備えさせ、全ての同盟軍憲兵に撃ち込んで全滅に一歩近い状態にする。
「だ、駄目だ! 俺たちでは魔女には適わん! 戦闘部隊だ! 戦闘部隊を、ぐぁ!」
「た、隊長!? うわぁ!」
「うぇ!」
自分等ではマリには適わないと判断し、戦闘部隊を要請したが、要請し終えたところで全滅した。
戦闘部隊が来る前に、マリは何所からともなくバイクを召喚させ、それに乗って少しでも敵を引き付けるため、わざと目立つように走り回る。
物の数分辺りで、斥候であるVTOL式の偵察ヘリが上空に現れ、機銃を掃射しつつ、マリの位置を戦闘部隊に逐一報告する。
『例の女は東ブロックへ逃走中』
『よし、第五班、第六班、先回りして潰せ! 魔女狩りだ!!』
報告を受けた部隊司令官は、配下の部隊を先回りさせた。
投入された戦力は一個中隊であり、たった一人相手には過剰であるが、マリを相手には少な過ぎる。本気で掛かるなら、一個師団規模は必要だろう。もっとも、それが彼女の狙いであるが。
街中をバイクで逃げ回る彼女は、同盟軍が避難警報を出していないことに驚きを隠せないでいる。
「連邦と同じなんだ…同盟も馬鹿ね」
民間人を巻き込んでも自分を仕留めようとする同盟軍に対し、数カ月前の連邦の勢力下にあった街の事を思い出した。
普通なら避難命令を出すはずだが、連邦軍と同じく同盟軍も出していなかった。
数カ月前の事と今の同盟軍の信じられない行動に、マリはどちらの軍隊も馬鹿だと表した。事実、これ程までに民間人に配慮せず、目標をなりふり構わず全力で殺そうとする軍隊は連邦か同盟くらいしか居ない。この後、民間人によるデモか反乱が起きる事だろう。
そんな肝心なことを忘れた軍隊に対し、マリは上空を飛んでいるヘリに向け、魔法で取り出したMP5A5短機関銃を撃ち込む。
『攻撃してきた! 短機関銃の模様! 追跡を続行…』
拳銃弾を撃たれた偵察ヘリのパイロットは報告するが、その拳銃弾は数秒後に爆発し、偵察ヘリは墜落した。
ヘリを撃墜したところで、今度は戦闘ヘリ型のVTOLが来るだけであった。
マリを見付けるなり、搭載している機銃を逃げ回っている民間人に構わず発射する。
凄まじい連射力であるが、マリは放たれる全ての弾丸が見えているのか、それを軽やかに躱し、更には短機関銃による反撃まで行う。
流石に戦闘ヘリの装甲は厚いのか、爆発する魔弾は効かなかった。更に同盟軍はギラ・ドーガと呼ばれるMSまで投入して来る。
『目標視認!』
『踏み潰せ!!』
指揮官の指示で、ギラ・ドーガに乗るパイロットはバイクに乗ったマリを踏み潰そうとしたが、上から現れた巨大な白い虎に乗り掛かられ、コックピットを鋭利な牙抉られて沈黙する。
『あ、あれは!? ライガー・ゼロです! ライガー・ゼロが何所からともなく、ぐわっ!?』
戦闘ヘリに乗るパイロットは、直ぐに友軍機を無力化した大型ゾイドの機種名を知らせたが、撃墜された。
ギラ・ドーガの胴体を抉り、戦闘ヘリを撃墜した白いライオン型ゾイドの名は、ライガー・ゼロ。ライオン型ゾイドの中でも希少種の大型ゾイドだ。希少種であってか、戦闘力は高い。
そのゾイドを手懐けたマリは、ライガー・ゼロが自ら開いたコックピットへ乗り込み、増援としてやって来たイグアノドン型の小型ゾイドであるイグアンやカブトムシ型の小型ゾイドであるサイカーチスの大部隊を次々と撃破していく。
小型のゾイドでは敵わないのか、中型ゾイドやMSを増員したが、マリが駆るライガー・ゼロを止められる機動兵器は無かった。
「ダークホーンですからこの様なのか!?」
「こ、こちらに来ます!」
「う、うわぁぁぁ!!」
本部として使われていた陸上戦艦の元へ、マリのライガー・ゼロが迫った。
対空砲やミサイルなどで迎撃を行う陸上戦艦であるが、彼女の人間離れした操縦センスとライガー・ゼロの機体性能の高さで全て避けられ、右前足の爪で艦橋を抉られて沈黙する。
『第1283装甲連隊本部が沈黙した! 我が第981装甲師団の総力を挙げて奴を叩き潰せ!!』
空からは多数の空戦MSや空戦ゾイド、地上からは陸戦MSやゾイド、ATを含める付近の基地に駐屯している一個師団相当の機動兵器が、面目を守るためにたった一機のライガー・ゼロを破壊するために動員した。
だが、師団に所属しているパイロットは誰もが性能頼りであり、マリにとって的同然で全く相手にもならなかった。
「ほんと、こいつ等も雑魚ばっかり」
爪や牙で抉られて撃破される敵機を見たマリは、飽き飽きしていた。唯一彼女を苛立たせるのは、一々近付かねばならないと言う事だ。
ライガー・ゼロは汎用性が高く、四つの形態に換装できる。唯一の射撃主体装備はパンツァーと呼ばれる遠距離戦使用である。
しかし、ここには換装を行う設備が無いので、マリは占い師を連れた配下の暴走族が逃げる時間を稼ぐため、大多数の敵機を相手にひたすら暴れ続けた。
『被害甚大! 撤退だ! 撤退しろ!!』
「あぁ、無駄に疲れた…こいつら数多過ぎ」
それから数時間、機動兵器六百機編成の同盟軍機甲師団はたった一機のライガー・ゼロ相手に大損害を被り、師団本部がある基地へと撤退した。
流石に一個師団相手では疲れたのか、マリは息を切らしていた。ライガー・ゼロの牙と爪にも亀裂が入っており、これ以上の戦闘継続は困難だろう。
敵が再編して攻撃を再開してこないうちに、マリは暴走族との合流地点へと急いだ。
同盟軍の追跡設けることなく、占い師と暴走族らと合流したマリは、仲間であるはずのミカルやリンダを待たず、占い師よりメダルがある世界のスターリングラードを特定すれば、協力者達に安全なシェルターを提供してからその過去の戦場へと旅立つため、タイムマシーンがある世界へと向かった。
マリは絶世の美女であるが、簡単にタイムマシーンを渡す組織は居ない。
そこで彼女は実力行使に出た。皆さんのご想像通り、盗んのだ。
タイムトラベルした彼女は盗んだタイムマシーンを魔法で決して見付からないようにしてから、戦争真っただ中のスターリングラードへと向かった。
来た時刻はソ連赤軍が本格的な反攻を開始し、ドイツ陸軍第6軍の補給路を守っていた枢軸国軍を撃破してスターリングラードを包囲した時期だ。
完全に抜け出せないように、厳重な包囲であったが、マリはそこを魔法で時間を止め、楽々とスターリングラードへと入ったのだ。
時を止める魔法を使うのは例え熟練の魔術師や大魔導士でも至難の業であり、習得して完全に使い熟すまでに自分の寿命が迎えてしまう。
だがマリは不老不死だ。時間は幾らでもある。百年以上の月日を掛けて彼女は時間を止めることに成功した。
止められる時間は最大五分で、続けて時を止めようとするならば、身体が負担に耐えられずに生き地獄を味わうことになる。このためにマリは、時間停止を連続して使わない。使うなら三時間おきにしている。
時間を止めてスターリングラードへと入ったマリは、三時間過ぎるのを待ち、赤の広場に居る持ち主からメダルを取った。メダルを取って帰ろうとした時、シュンと思わぬ再会を果たすことになったのだ。
「あいつ、なんでこんな所に…死んだんじゃなかったの?」
撃たれた個所の銃弾を取り除きつつ、マリはシュンが生きていることに驚いた。
スターキラー要塞で完全に死んだと思って忘れていたが、シュンは自分よりも不死身なのか、自分以外は来られないと思っていたスターリングラードに現れた。
一体どうやって生き延びたのか?
その事を新しい防寒着に着替えながらマリは考えていたが、ここでの目的は果たしている。この第二次世界大戦史上最大の市街戦であるスターリングラードに長居する必要も無い。
「まっ、どうでも良いや。邪魔すれば殺せばいいだけだし」
マリに取って、シュンはありふれる悪漢に過ぎず、邪魔をするようなら殺せば良いと考え、タイムマシーンがある位置へと瞬間移動する為、魔法を唱えようとした。
「あれ? どうして…?」
だが、何者かによってその魔法は妨害される。
もう一度、唱えようとした瞬間に、魔法を妨害した正体が、マリの背後から襲い掛かった。
「だっ…!?」
背後から迫る正体に、マリは即座に拳銃を向けたが、襲って来た人間は並の人間では無く、口を塞がれ、白い首元に麻酔薬を打ち込まれた。
「あんた…だれ…?」
このような時に魔法で麻酔対策はしているマリだが、打ち込まれた麻酔は強力な物であり、魔法の抗体は意味をなさない。
意識が遠退いて行く中、マリは自分を眠らせた正体の顔を見ようとしたが、その顔はフードで見えず、強力な睡魔に襲われ、眠ってしまった。
「針はこの先か…行くか」
一方で、ドイツ軍の支配下にある都市部へと着いたシュンは、交差点を進んだ。
市街地の各所に潜む両軍の狙撃手や機関銃手に見付からぬように、脇を進もうとしたシュンだが、何所からともなく銃弾が飛んできて、足に被弾して遮蔽物に身を隠さねばならなくなる。
「クソッタレ、
負傷した右足を治療しつつ、シュンは周囲を見渡して狙撃手を探した。
スターリングラードの狙撃手達は、両軍とも訓練を受けた狙撃兵であるらしく、一発撃てば、次の狙撃地点へ移動し、そこから取り逃がした獲物を狙撃する。
まるで幽霊のような存在だ。
建物から目的の場所へ移動すれば良いが、屋内にも敵が潜み、罠を張っている可能性がある。
ここでシュンは、禁じ手であるタイムピースを使ってこの地区が狙撃兵らの居ないとされる時期まで時間を戻した。
「さて、外はどうなって…」
時間を九月辺りに戻した所で、冬服を脱いで外に出ようとしたが、また狙撃されて遮蔽物まで戻る。
「ちっ、ソ連の狙撃兵か。戦闘が終わった時期まで戻すか?」
この時期にも狙撃兵が潜み、動く物に手当たり次第に狙撃してくるので、シュンはタイムピースの鏡を見て、いつの時期が安全なのかを探した。
どれも危険であり、違いと言えば、完全にどちらかの勢力下にあるか、狙撃地帯となっていることだ。
「クソ、この時期が一番マシか」
一番危険が少ないのが、ソ連の狙撃兵が建物の周囲に潜み、ドイツ軍の将校や下士官、熟練兵を狙撃しているこの時期である。
これにシュンは腹を立てつつ、どうやって狙撃を避けて進むかを考えた。
「おっ、あいつだ」
暫し考えると、いいアイデアを直ぐに思い付いた。
そのアイデアは、あの派手な格好をしている語り部であるナハターを囮に使うと言う悪魔の発想だ。
何処かで自分を見ているナハターを、シュンは大声で呼び出した。
「おーい! ナハター!! お前に頼みたい用事がある!」
大声で呼び出した瞬間、自分が隠れている場所に数発ほどの狙撃があったが、シュンには当たらなかった。
呼び出されたナハターは、意気揚々とシュンの前に姿を現す。
「なんだ、今更になって…」
狙撃兵に見られる位置に堂々と派手な格好で現したため、直ぐにシュンを狙っている狙撃兵らに狙われたが、寸での所で大男に足を引っ張られて床に叩き付けられ、九死に一生を得る。
自分が狙撃されたことで、ナハターは身の危険を感じ、シュンにどうしてこんな危険な場所へ自分を呼び出したのかを問う。
「なんて所に呼んだんだ!? 危うく俺の眉間に穴が開くところだったぞ!!」
「お前、そんな覚悟も無く英雄物語を書いてやがったのか? 取り敢えず、運試しだ。あの戦車の残骸まで走れ。俺が狙撃手をこいつで吹っ飛ばす」
怒鳴り散らしながら問うナハターに対し、シュンは拳銃の銃口を眉間に突き付けつつ、交差点にある戦車の残骸まで走る様に脅す。
シュンは語り部のナハターを囮にしようと言うのだ。
彼を自分が指差した戦車まで走らせ、全力疾走で走る派手な格好の男に気を取られた狙撃手を、コアより出したM1A1バズーカで吹き飛ばす算段だ。
発射時の燃えカスから守るための防護マスクを着け、バズーカにロケット弾を装填し、準備が出来たら、ナハターに拳銃を突き付け、走るように告げた。
「よし、走れ!」
シュンの命令に従い、ナハターはⅢ号戦車の残骸まで全力疾走した。
物陰から飛び出した派手な格好の男に対し、狙撃兵たちは一斉に狙撃を始めたが、相手が動いているために全く当たらない。仕方なしに一人が持ち合わせていたDP28軽機関銃で撃ち殺そうとしたが、狙撃手の位置を把握したシュンにロケット弾を撃ち込まれて吹き飛ばされた。
「良くやった!」
直ぐに再装填を終え、シュンは戦車の残骸に隠れて失禁して震えるナハターに労いの言葉を掛ければ、煙幕手榴弾を辺りにばら撒き、狙撃兵らを混乱させる。
煙が十分に広がれば、一気にナハターの居る戦車の残骸まで来て、次の狙撃地点に向けてロケット弾を発射する。
無論、その狙撃地点には誰も居なかったが、自分等の狙撃地点がばれていることに気付き、そこから離れ始める。
この隙に、シュンは次の狙撃地点にロケット弾を撃ち込み、ナハターと共に狙撃地帯を抜け出そうと走った。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
狙撃地帯を抜けたシュンは、証拠を残さないため、バズーカをベルトのコアに戻し、代わりにウォッカを取り出して囮役にしたナハターに差し出した。
差し出された瓶をナハターは受け取り、蓋を開けて飲み始める。
「全く何て男だ! 俺を囮に使う奴はお前が始めてだ!!」
半分以上を飲み干した後、ナハターは自分を囮に使ったシュンに怒りをぶつけた。
「ご苦労さん。良い経験になっただろう。続きを書いて良いぞ」
「あぁ、良い経験になったとも! そして是非とも書かせて貰う。もうこんな経験は二度とごめんだ。呼ばれても絶対に出ないぞ。だが、物語は書かせて貰うぞ。途中で放棄するのは、作家魂に反する。お前が死ねば、そこで済むんだがな」
そんなナハターに対し、シュンは労いの言葉を掛けるだけで済ました。
ナハターはウォッカを飲んで酔っているのか、怒り心頭に言いながらシュンの物語の続きを書くため、誰にも見えない場所へ向かった。
「もう一度、呼んだりでもしたら、敵を呼ばれそうだな」
呼び出しても先ほどと同じような危険な真似をやらせると思って、ナハターは出てこないと判断し、シュンは周囲を警戒しつつコンパスの針が差す方向へと進んだ。
狙撃兵部隊はシュンがロケット弾を発射する無反動砲を持って居ることに驚き、三名をやられたところで、この狙撃スポットより撤退したようだ。
シュンが物陰に隠れて交差点を見れば、ドイツ軍の歩兵一個中隊が現れ、分隊ごとに散らばって建造物内に入り、敵を探索している。
こちらにドイツ兵の目が届かないのを確認すれば、シュンは水晶があるとされる方向へ進んだ。
麻酔薬で眠らされ、何処かへ連れ去られたマリは、麻酔が切れたのか、目を覚ました。
「ここは…? はっ!?」
直ぐに目を覚ましたマリは、何所からともなくワルサーPP自動拳銃を出し、周囲を経過した。敵が居ないことを確認すれば、銃口を下ろして周囲を見渡す。
「何よ、ここ…?」
おそらくスターリングラードには居るが、監禁されている場所がどの建物であるかは不明だ。壁で木造の建造物であるからして、郊外にある物とされる。
自分の身体を摩って何もされていないと確認すれば、衣服も調べた。下着しか身に付けてないと分かれば、自分の魔法を使って動き易い防寒着を纏う。
衣服を身に着けた後、回収したはずのメダルを探したが、何所にもなかった。おそらく自分を連れ去った者が盗んだのだろう。
「誰がこんな所に」
自分をここに連れて行き、良からぬことを企む人物からメダルを取り戻してから殺そうと、マリはドアを開けて部屋を出る。
周囲を警戒しながら進んでいると、右手の部屋のドアの隙間から何か光が見えていた。
恐る恐る調べてみると、何か入っている鍋を棒でかき混ぜている黒衣の人物を見付けた。
直ぐにマリは黒衣の人物を無力化する為、銃の安全装置を外し、ドアを開けて銃口を向ける。
「動かないで。殺す前に幾つか聞きたいことがあるんだけど、こんな所で何するつもり? 答えないと、長く苦しんで死ぬことになるけど」
銃を向けてメダルや正体を問うマリだが、黒衣の人物は何も答えることなく、彼女が居る方向へ振り向いた。
「っ!? この時代の人間じゃない…! 魔女!?」
自分を監禁した正体が、不気味な老婆の姿をしたロシアの民謡に伝わる魔女であるバーバ・ヤガーであると分かれば、直ぐに銃弾を撃ち込んだ。
銃弾を撃たれたバーバ・ヤガーは、不気味な笑い声を上げながら姿を消した。
また何処かで襲撃してくるだろうが、メダルを探さなくてはならない。それに何をかき混ぜていたのか気になったので、ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中を恐る恐る覗いてみると、とても1940年代とは思えぬ物が鍋の中に入っていた。
「これはヤバいわね」
彼女はその恐るべきものを見慣れていたのか、吐き気も覚えずに部屋を出た。
鍋の中に入っていたのは、人肉シチュー、つまり具は人間の頭に腕や脚だ。戦死者から切り取った物では無く、生きた人間から切り取った物である。侵略側のドイツ兵のみならず、多種多彩のソ連兵の遺体まで混じっていた。
それを見たマリは、自分を食べようとしたと思って気分が悪くなったのか、バーバ・ヤガーを探し回る。
「私のメダルを盗んだ挙句、食べようとするなんて、あの婆、絶対に殺す」
バーバ・ヤガーを殺すと自分に誓ったマリは、怒り心頭に魔導士相手の装備を魔法で一瞬にして身に纏い、標的を探した。
今回は前半にライガー・ゼロを出してみた。
次回は、共闘すっかな…