復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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嘘を言うなっ!(銀河万丈ボイスで


ペールゼンファイルズ編
異能生存体キリコ・キュービィー


「何所だここは…?」

 

 ゲラルトより貰った霊薬、春ツバメを飲んで気を失ったシュンは、とある一室で目覚めた。

 上体を起こして周囲を見渡せば、自分はベッドの上に居て、周囲には自分と同じく負傷したと思われる兵士、それも男の士官がベッドの上で寝ている。

 

「目覚めたか。俺は松浦ガイフ。陸軍大尉だ。あんたは?」

 

 目を覚ましたシュンに気付いたのか、一人の日系の将校が自己紹介しつつ、彼に名を問うてくる。

 これにシュンは、東ドイツ軍(NVA)の時に使っていた偽名を使って紹介する。

 

「バートル、バートル・ウガェ陸軍大尉だ」

 

「バートルか。あんた、この陸軍病院に運ばれた時は、衣服が物凄く血塗れだったけど、傷が無かったみたいに塞がってるって軍医が言ってたぞ。あと、すげぇ乳も背も高いゲキマブな女があんたの事を心配してた。まぁ、近くで寝てるから、何分かすれば来るだろう。お前の彼女か?」

 

 偽名を名乗れば、彼は自分がこの陸軍病院に運ばれた経緯を説明してくれ、更にマリエの事も話してくれた。その次に図々しく、マリエの彼女なのかを問い詰める。

 

「あぁ、俺の…あれだ、下の…」

 

「あぁ! セフレか! いやぁ、俺もセフレになろうと願い出たんだが、断られてな。まぁ、腕を怪我してるから、出来ないがな! ヌハハハ!」

 

 その問いに対し、シュンはセフレだと答えれば、この男もマリエの事を狙っていたらしく、断られたことを自慢げに話した後、冗談を言って妙な笑い声を上げる。

 そんな時に看護師の女性が、右腕を包帯で巻いたマリエと共に入って来る。マリエの姿を病室に居る全員が注目する。

 マリエは他の将校たちには目もくれず、直ぐにシュンの元へ向かい、彼の大きな右手を左手で握る。

 

「良かった…最初はもう目覚めないかと思ったけど…」

 

「まぁ、あれが劇薬だったて事よ。死ぬほどにな。約束は守ったぜ」

 

 生きていたことに安堵したマリエが涙を流す中、シュンは笑いながら約束は守ったと告げる。

 そんな二人の仲を見て、ベッドに横たわる男性士官たちはヤキモチを抱き、騒ぎ始める。

 

「ちくしょう! こんなガチムチ体系であんなムチムチ体系の女を物にしたなんて!」

 

「ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「はいはい、士官らしくありませんよ、皆さん!」

 

 騒ぎ始める負傷者の士官らを、看護師がなだめる。一同がそれに従ってベッドに戻る中、マリエはシュンにあることを伝える。

 

「そう言えばシュン君。貴方の事、連隊本部に報告しちゃったけど、連隊長の様子がおかしかったわ。何をやらかしたの?」

 

「なに、報告した…?」

 

「えぇ、私も士官だし、責務を果たさなきゃ」

 

 マリエはシュンがワルキューレに追われることを知らなかったらしく、彼の事を連隊本部に報告したようだ。

 士官として当然の責務であったが、シュンにとっては不味い状況だ。あと数分か数十分ほどで、憲兵たちがこの病室に入って来るだろう。

 

「何所か悪かった?」

 

「いや、立派な士官だ。ありがとな」

 

 それを知ったシュンは、マリエに礼を言った。

 

「じゃあ、俺は復讐に戻るぜ」

 

「えっ? 何言ってるの? まだ安静にしてなきゃ」

 

「プライスラー大尉の言う通り、貴方は…」

 

「あん? 俺はピンピンしてるぜ。下の方も元気だ。それじゃあ、達者でな」

 

 身体は全快なので、直ぐにベッドから起き上がり、窓から出ようとする。

 当然、マリエと看護師に止められたが、シュンは彼女らの言う事を聞かず、窓から外へ飛び降りた。

 シュンが寝ていた病室がある階は二階、訓練を受けた兵士ながら足を痛めずとも降りられる高さだ。

 入院着のまま飛び降りたシュンに、病室に居た一同は驚き、看護師は警報装置を押し、警備員を呼ぶ。

 

「警備兵、脱走です! 患者が脱走しました!!」

 

 病院内で警報が鳴り響く中、警備員とシュンがワルキューレの領内に現れたとの報告を聞いて捕らえに来た憲兵たちが、慌しく動き始める。

 

「居たぞ! あっちだ!!」

 

 もう既に一個小隊規模の憲兵が病院の敷地内に入っていたのか、シュンを見るなり全力で捕らえに掛かって来る。

 憲兵らは足を撃ってでも捕らえろと命令でもされており、自動拳銃を抜いて止めようとしたが、入院患者に当たると判断してか、迂闊には発砲せず、安全装置を掛けたままシュンを追い掛ける。

 

「止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

 

「止まる馬鹿が居るか!」

 

 止まれと警告する憲兵に対し、シュンは無視して敷地内を裸足で逃げ続ける。

 敷地内へ出て、人が居ない平地へと出れば、誰も居ないと判断してか、憲兵たちは拳銃の安全装置を外して追いながら発砲して来る。

 どうやら重傷を負わせてでも捕まえようとしているらしい。拳銃を撃ってくる憲兵たちに対し、シュンは全速力で逃げる。

 そんなシュンをアウトサイダーが見付けてか、虚無の世界へと繋がる空間を足元に生み出し、彼を自分の世界へと連れて行った。

 

「っ!? 消えたぞ!」

 

 突然、追っていた大男が消えて混乱した憲兵らは周囲を探索し、地面に隠し通路があるのではと探し回るが、何所にもない。

 

「くそっ、一体どこへ消えた?」

 

「何か落とし穴に落ちた様子だったぞ」

 

「落とし穴? そんなの、掘ってないぞ」

 

 憲兵らは必死になってシュンを探したが、彼の姿はまるで霧のように消えていた。

 

「何所にも居ません!」

 

「クソッタレめ。取り逃がしたと報告するしかないな。撤収だ!」

 

 暫く探し回った後、憲兵たちは撤収を開始した。

 

 

 

「これで落とされたのは二度目だな」

 

 アウトサイダーの手により、憲兵たちから逃げ出すことに成功したシュンは、起き上がって周囲を見渡し、ここが虚無の世界であると認識する。

 直ぐにアウトサイダーが現れそうな場所へ向かい、彼を大声で呼び出す。

 

「アウトサイダー! 俺に用があってここに呼び出したんだろ!? 出てこい!!」

 

 大声で叫べば、アウトサイダーはシュンの目の前に何所からともなく姿を現す。

 

「来たぞ、シュン。もちろん、お前にやって貰いたいことがあってこの虚無の世界へと呼んだ。それと聞きたいことがある。ネオ・ムガルの幹部の一人を殺したとはいえ、何故、何も無いあの世界へと行った?」

 

 虚無の世界へ呼んだのは、シュンにやって貰いたいことがあってのことだが、アウトサイダーは何故シュンが水晶も無く、狙われている英雄も居ない世界へ行った理由を問う。

 ネオ・ムガルの幹部の一人、バビルスを倒したことは褒めているようだ。

 神と悪魔が入り混じった存在であるアウトサイダーに問われたシュンは、直ぐに理由を話す。

 

「俺が孤児院を経営してた時、金と下…かな? 世話になってた女を助けに行った。ついでに、バビルスを殺すのには苦労したぜ」

 

「ふむ、人助けか。復讐の最中なのに人助けとは。コルヴォとダウトと同類だな、お前は」

 

 理由を聞けば、アウトサイダーは前例のある人物を引き合いに出し、その人物たちと同類であると口にする。

 

「あんたが言うと、褒めてんのか、貶してんのかどっちか分からねぇな。そんで、用ってのはなんだ?」

 

 話を変えてシュンは、自分をここへ呼び出した用件を問う。

 この問いに、アウトサイダーは隠すことなく答える。

 

「用件は英霊の一人、キリコ・キュービィーの暗殺の阻止だ。また過去へ行き、救ってもらわねばならないが…念のためだ」

 

「これで五回目、いや、六回目だな。でっ、最後の念のためはどういう意味だ?」

 

 用件とは、英雄と言うか、英霊の一人であるキリコ・キュービィーを暗殺しようとするネオ・ムガルの企みを阻止する事だった。

 彼が生きている頃と言えば、過去の世界だ。

 一度目は独ソ戦のタイフーン作戦のモスクワ郊外の戦場、二度目はまだ魔法少女としてなったばかりの高町なのはの暗殺阻止、三度目はBETAと言う宇宙の怪物に滅亡の危機に晒されている1983年の欧州、四度目はまだ眠っている最中のマスターチーフの暗殺阻止で、陥落寸前の惑星リーチ、五度目は能力を手に入れるために向かった戦場だったスターリングラード。シュンは五回も過去の世界へ行っている。

 またかと思うシュンであったが、アウトサイダーが自分を保険としてその英霊が生きていた時代の過去の世界へ行かせようとしていたので、その理由を問う。

 

「あぁ、キリコ・キュービィーは触れ得ざる者と呼ばれている。いや、誰も、事故や病気でさえ殺すことが出来ない異能生存体と言った方が良いな。彼を敵に回した者は、一人を除いて生きてはいない」

 

「なんだよ、行く理由がねぇじゃねぇか」

 

「いや、ネオ・ムガルは魔術を扱う。あるいは神をも殺す武器を使うか。おそらく、何らかの方法で彼を殺そうとするだろう。お前は保険として彼を守るのだ」

 

「まぁ、あんたが言うならな」

 

 キリコを殺すことは誰にも出来ない。

 そう聞いたシュンは、自分が行く必要はないと思ったが、アウトサイダーは念のためと言っているので、混沌の存在が心配するので、その言葉に従い、キリコの世界へと行くことにした。

 余り乗る気がしないシュンに、アウトサイダーはやる気を出させるためか、水晶がある事を明かす。

 

「余り乗る気では無いようだな。では、やる気を出させよう。キリコが向かう惑星モナド、惑星破壊兵器スターキラーと同じく惑星その物を宇宙要塞へ改造した場所に、お前のデバイスを強化させる水晶がある。どんな能力かは知らんが」

 

「なら、行くしかないな。宇宙要塞に改造された惑星にあるんだから、良い物に違いない。あんたの思惑に乗ってやるぜ」

 

 水晶のことを知れば、シュンはアウトサイダーの思惑に乗ってやることにした。

 

「あぁ、是非ともそうしてほしい。お前が行く世界の時代は、惑星モナド攻略戦だ。一億二千万人と言う大兵力を総員し、惑星モナドを奪還すると言う大規模作戦だ。死ぬ確率は高いぞ」

 

「トンデモねぇ大規模戦闘にまた地獄か。もう慣れっこだよ」

 

「なら問題はあるまい。戦場で鍛え抜かれた技術と悪運でキリコ・キュービィーを守ってくれ。守り易いように、私が彼の属している部隊と同じにしよう。小隊長は経験済みだろう?」

 

「それで頼む。その方が守り易い。それで、奴の世界はどんな世界だ?」

 

 アウトサイダーの計らいに感謝しつつ、シュンはキリコが居た世界の事を問う。

 

「ATを知っているな? その兵器が生まれた世界だ。銀河を二分し、戦う理由さえ忘れ、百年以上も戦争を続けている銀河の世界だ。規模は連邦や同盟との戦争と同等だろう。お前が飽きるほどに慣れた人が死ぬことが日常茶飯事な世界と言っておこう」

 

 この問いに、アウトサイダーは連邦軍や同盟軍を初め、様々な勢力が使う機動兵器の一つであるアーマードトルーパーが生まれた世界であると語った。

 その世界はアストラギウス銀河と呼ばれ、今は連邦の傘下に居るギルガメス連合と、惑星同盟の傘下のバララント同盟が銀河を二分し、理由も定かでも無い戦争を百年も続けていた。

 次元震動で様々な世界が融合した際、アストラギウス銀河も巻き込まれ、連邦と同盟に別れ、今も戦い続けている。

 

「やれやれ、理由なんて分からねぇ戦争を百年もするとは、良く飽きねぇな」

 

「人類史に幾度か戦争があった。紛争を含めれば、十年に一度と言う単位で起きている。人は常に競争したがる物だ。それで科学や産業が発展してきた。戦争を起こさないために、スポーツと言うルールのある競争を作ったが、あまり意味が無い」

 

「まぁ、良くも滅びねぇもんだな。やっぱり、人間が居なくなれば、世界は平和になんのかな?」

 

「ふむ、一理ある。確かに人間が居無くなれば、どれほど平和であろうか。まぁ、そのことについては後で議論しよう」

 

 百年戦争と聞いたシュンは、飽きもせずに戦争をする人類に対する持論をアウトサイダーに言えば、混沌の存在は納得する。

 しかし、そんなことを議論するためにアストラギウス銀河の事を離したわけでは無いので、次の機会にすることにし、ATの操縦の仕方は分かるかと問う。

 

「シュン、ATの動かし方は分かるか?」

 

「あぁ、そう言えば陸軍でその棺桶の訓練を受けたな。生きた心地がしなかったぜ」

 

「あれに乗って貰うことになるが、お前が乗るのは特殊作戦に使われる仕様だ。十分に生き残れるはずだ」

 

「そんなのに乗っても、上手く扱わなきゃ棺桶だろ」

 

 操縦の仕方はワルキューレに属していた頃に学んだが、それ以降は乗ってないので自身は無かった。

 あるにはあるが、自身は無いと答えるシュンに、アウトサイダーは気休め程度の高性能のATに乗れると告げる。

 だが、高性能機であっても、シュンにとっては棺桶なのは変わりない。なんたって装甲は気休め程度にしか無いのだから。

 

「確かに優れた技量を持つ者が扱えば、最強の兵器となれるだろう。では、これは書類だ。何が何でも生き残れ。キリコの異能に頼っても良い」

 

「まぁ、頑張ってみるよ。そんじゃ、行ってくるぜ」

 

 シュンのATに対する考えに賛同しつつ、アウトサイダーがこれから送る世界の書類を渡せば、彼はアストラギウス銀河の世界へと旅立った。

 

 

 

 それから数十分後、シュンはアストラギウス銀河にある多数の星の一つ、惑星メルキアの情報省の前に現れた。

 着いて早々、彼はギルガメス軍の中尉階級の軍服に着替え、アタッシュケースを持って情報省の本棟に入り、受付に書類を渡す。

 

「バートル・ウガェ中尉、第二機甲師団からの転属ですね。今日からメルキア情報省特殊部隊ISSの第二中隊の第七小隊の小隊長です。向こう側へお進み、機種転換訓練を受けてください」

 

「ありがとう」

 

 受付が手を翳した方へと、シュンは礼を言ってから向かった。

 その通路へと入り、ATを装備した特殊部隊の訓練所へと向かう中、シュンはガイドルフと瓜二つの男を見掛けた。

 

「ガイドルフか? なんでここに?」

 

「ん? 誰かと勘違いしてるようだが、俺の知り合いにお前さんなんかいないぞ」

 

「?」

 

 ガイドルフは何所にでも現れる謎多き男であり、ここ最近は姿を見ていないが、過去の世界でも出て来るような男なので、アストラギウス銀河の世界にも現れると、シュンは思っていた。

 金髪に浅黒い肌、長身、口調とガイドルフに似ているが、どうやら別人のようだ。

 彼がガイドルフでないと分かれば、シュンは男に謝罪してから立ち去る。

 

「すまねぇ、人違いだ」

 

「全く、どれくらい俺に似てるのかね。あんたの知り合いってのは」

 

 訓練所へと向かうシュンの背中を見つつ、男は苦言を漏らし、懐より煙草の箱とライターを取り出し、一本出してからそれを口に咥え、煙草の先に火を点けて一服する。

 そんな男の苦言は聞こえず、シュンは訓練所へと足を進めた。

 

 この男の名はキーク・キャラダイン。ギルガメス軍の情報将校であり、階級は中尉だ。9mm拳銃弾を使うモーゼルC96に似た自動拳銃を愛銃としている。

 シュンとはこれから会うことは一生無いが、後に自軍の捨て駒にされ、生き残った少年兵の復讐に対し、まるでガイドルフのように自分の目的のために手を貸す。

 

 無論、シュンはキークの事を知る由も無い。

 準備中であるモナド攻略作戦に備え、訓練所で腕を磨いた。




次回より装甲騎兵ボトムズのペールゼンファイルズに突入。

いきなり最終局面のモナド攻略戦。シュンはキリコが居るバーコフ分隊が属する小隊の長になります。
ペールゼンファイルズ編には原作同様に女性キャラの登場は一切無し。ただ最低野郎(ボトムズ)共しか出てきません。

それと今回はガイドルフの外見の元である装甲猟兵メロウリンクに登場するキーク・キャラダインが登場。
外見の元ネタと出会った反応が見たくて、登場させました。
キークとは絡ませる予定は無いので、彼の登場はここまでです。

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