ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――てことは本当に中央図書館にあったんだ――肝心の本が燃えちまったらなー
――私、本の内容全部覚えてますけど
――はい??



第16話 誘い

 

 翌日、待ち合わせに選んだ噴水前には、既にリリが来ていた。

 

「オウ。早いな」

「おはようございます、エド様。後はベル様だけですね」

 

 ベルを待つ間、少し気になったことを聞いてみる。

 

「確かリリは、≪ソーマ・ファミリア≫の所属だって話だったな? そこの中ではパーティーから不遇な扱いだったみたいだが、具体的にどうだったんだ?」

「えーっと……リリは種族的にもそこまで強くなれませんし、鈍臭くて皆の足を引っ張ってばかりだったので、パーティー自体入れたがらなかったんですよ」

「…………」

「まあ、リリはサポーターですし、冒険者様のお情け(・・・)で報酬を貰っているので、仕方ありませんね」

 

 ……これだ。昨日から気になっていた、自分を著しく下にするへりくだった言い方。表面上は相手を立てて言っているようだが、内心は真逆だと分かる言い方。コイツは、間違いなく冒険者を軽蔑している。

 

「……まあ、他所のファミリアの方針にはとやかく言わねえが。その点ウチは商業系だから、支払いはきっちり行うつもりだ。何か他に不満や要望があったら言ってくれ」

「いえ、不満なんて! 報酬をきちんとお支払いいただけるだけで、お二人には不満なんてありません!」

「…………」

 

 相変わらず、エドにもベルにもへりくだった言い方。これはつまり、二人も『同じ』だと見ている証拠だろう。そこにどうしようもないしこりを感じて、会話はやがて絶えた。

 

 その後、ベルが合流し、今日は7階層で、時間いっぱいまで粘ってみないかという提案が出た。

 

「別にいいけどな。ただ、敵の湧出(ポップ)が少ないようだったら、8階層まで足を向けることも考えようぜ」

「え! 新階層!? でも、8階層まで足を伸ばしたら、リリの荷物がすごいことにならない?」

「あー、そっか。倒すだけ倒して魔石とかを残していくのは、褒められねえしな」

「それならば大丈夫ですよ、お二人とも。リリは荷物が少しくらいかさばってもへっちゃらですし、大したものではありませんがスキルの恩恵もありますので」

「……………………ナニ?」

 

 何気なく流しそうになったが、今とんでもなく重要な話を聞いた。

 

「ちょっと待ってくれ。それはつまり、荷物を運ぶのを助けるスキルを持ってるってことか?」

「え、ええ……持っているだけマシ、というような情けないスキルですが」

「そんなことはない。そのスキルは――――あ、スマン。他人のステイタスやスキルの詮索はご法度だったな」

「い、いえ…………」

 

 余りのことに、勢い込んで聞いてしまった。だが、正直そういうスキル持ちで、派閥からは不遇なサポーターとなると……。

 

「あ、リリは魔法も発現してるの?」

「……残念ながらリリも魔法は発現していません。一生自分の魔法を拝めない人は多々いると――」

「おい、ベル。魔法の詮索だってご法度だぞ。聞いていいのは、同じファミリア内のメンバーくらいだ」

「あ、そうなんだ。アレ? でもエド、前に僕が錬金術について聞いたとき、普通に答えてくれたよね?」

「ああ。ベルの頭じゃ、三割も理解出来ないだろうからな」

「ひどいよ!?」

 

 そのまま先程聞いたスキルについて考えつつ、探索へと移っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「焼け焦げろぉっ!!」

 

『『ギギ、ギィィィィ!!』』

 

 現在の階層は、8階層。戦闘も魔石回収もスムーズに行くため、話し合った上で全員一致で足を伸ばしてみた。そこは7階層よりは敵が多かったが、昨日毒にやられたパープル・モスを、エドの焔で一気に燃やしてしまう作戦が上手くいった、毒鱗粉など一切気にせず長時間の探索が可能になったのだ。

 

「や、っぱり、いいなあッ! エドのその焔、『これぞ魔法!』って感じなんだもん」

「余所見禁物ですよ、ベル様ぁっ!?」

 

 ……いちいち『焔』に見惚れるベルが非常に危なっかしくもあったが。そのフォローに追われるリリが少しかわいそうだ。

 

「だったら、お前も本読めよ。雑学や叡智を養うだけでも、魔法を覚える確率高まるらしいぜ」

「え゛。う、うーん、考えてみるよ……」

「ちなみに、どんな魔法に憧れてるんだ、お前」

「やっぱり、エドみたいな『焔』がいいなあ! 魔法って言ったらそんな感じがするし! それで、瞬きする間に当たると、なおいいよ!」

「『速さ』を持った『焔』か……覚えられるといいな」

 

 まさかこの数日後に、本当に『雷霆の速さ』を持った『焔』の魔法をベルが覚えるとは、夢にも思わなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 夕方いっぱいまで探索し、地上に戻り、魔石・アイテムの換金結果の発表。

 

「「「………………」」」

 

 麻袋いっぱいの金貨に、三人全員が絶句していた。

 

「「「36000ヴァリス……」」」

 

 圧倒的。明らかに一週間くらい前の収入に比べれば、桁が一つ違う。

 

「「「やぁーーーーーーーっ!!!」」」

 

 全員で歓喜の表情でハイタッチ。この収入の増加は、素直に全員嬉しかった。

 

「す、すごいです、エド様、ベル様! Lv.1の五人パーティーの平均的な収支が25000ヴァリスくらいなんですが、それよりはるかに稼いでますよぉっ!!」

「ホラ、兎もおだてりゃ木に登るって言うじゃない? それだよ、それ!」

「まあ便乗しとくぞ! とにかくスゲエ! そんな諺はないけどな!」

「では、リリもです! スゴイです、お二人とも! さらに上を目指せますよ!」

 

 一通り騒ぎに騒いで、喜びまくった後、分配の時間となった。

 

「……では、お二方、そろそろ分け前の方を――――」

「うん、はい」

 

 ベルがリリの前に、12000ヴァリス入った袋を差し出す。ベル、エドのそれぞれの前にも全く同額の袋だ。

 

「……今回も、平等に分けていただけるのですね」

「ああ。ところでベル、今回の高収入を祝ってどっかの酒場で打ち上げしねえか。ホームの神様やナァーザ先輩も誘ってよ」

「いいね! 僕も神様誘ってくるよ!」

「よし、決まりだな。全員一度荷物をホームに置いてから、再集合な。リリもそれでいいか?」

「え? ま、まあいいですけど。ウチの神様は誘えませんよ?」

「いや、オレらはファミリアの構成人数2人以下だから誘うだけだ。流石に中堅のソーマ・ファミリアで誘うのは無理だろ」

「そうだね。僕のところなんか、神様の眷族、僕一人だもん」

「……それならばいいです」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一度ホームへ戻って、改めて集まったのは、『豊穣の女主人』。以前ベルがロキ・ファミリアに揶揄された酒場だった。

 

「それじゃあ、リリ。こちら、ウチの先輩のナァーザ先輩」

 

 ホームに戻ったところ、ミアハ様はヘスティア様と飲みに行ってしまったとのことで、ナァーザ先輩だけしか誘えなかった。

 

「……よろしく」

「リリルカ・アーデといいます。よろしくお願いします」

 

 簡単な自己紹介を終え、打ち上げを開始する。ちなみにベルとナァーザはエールで、エドとリリは、果実水だった。

 

「でも、神様達どこに行ったんだろう?」

「まあ、行先分からないんじゃ合流しようもないだろ。また今度誘えばいいじゃねえか」

「……その通り。ところで、リリに聞きたいことがある」

「はい? なんでしょうか?」

 

 場がある程度あったまったところで、ナァーザからリリへと質問がなされた。

 

「接客に、興味はない……?」

「…………は?」

 

 いささか間の抜けた声で、会話が止まった。

 

「ウチは主に薬を取り扱っているんだけど、愛想の良い店員はいつも募集している……もし興味があったら言って欲しい」

「え? えっと……」

「調合をやってみたければ、教えてもいい。だから……」

「ストップ、先輩」

 

 そこまで言ったところで、隣のエドからストップがかかった。そして、打って変わって真剣な顔でリリを見つめる。

 

「悪かったな、リリ。どうにも話が唐突で」

「いえ……でも、なんなんですか? 何かリリにお話が?」

「まあな…………」

 

 そこで、エドが背筋を伸ばす。そうして、まっすぐに、リリを見据えた。

 

「単刀直入に言うぞ、リリ――リリルカ・アーデ」

 

 エドの言葉とともに、隣のナァーザも佇まいを正す。その瞳の中に期待の色が見えた。

 

「≪ミアハ・ファミリア≫に、入らねえか?」

 




リリ、スカウトされるの回。原作ヘスティア・ファミリアの敏腕会計だった彼女は、改変の嵐です。

リリがこの時点までで明かしているのは運搬補助のスキル。探索系にはあればありがたい程度のスキルかもしれませんが、商業系のミアハ・ファミリアなら、意味が違ってきます。ハガレン原作の本の虫、シェスカと同じく、人間何が役に立つか分かりませんw

このあたりから、原作の原型が無くなり始めている……!

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