ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――どう?ヒューズ中佐。この人、職探してんだけど
――マジ!?このコ、そんなスゴイ特技持ってんのかよ!よし、採用だ!すぐ採用!


第17話 揺れる思い

 

「≪ミアハ・ファミリア≫に、入らねえか?」

 

 その言葉を受け、リリはしばし呆然とした様子だった。

 

「………………あの、何を言っているのですか?」

「言葉の通りだ。リリを、ウチのファミリアに入れたい。つまりは改宗(コンバージョン)だな」

「待ってください! おかしいです! リリは何のとりえもないサポーターですよ! わざわざ、そんな者を改宗(コンバージョン)させたって……!」

「……そんなこと、無い」

 

 リリの言葉を遮ったのはナァーザだった。

 

「……まず、≪ミアハ・ファミリア(うち)≫は商業系ファミリア。主な収入源は、施薬院だからそこまで強さは必要ない」

「まあ零細だから、半分商業半分探索になってはいるが、メインはあくまで薬の販売なんだ。ここまではいいな?」

 

 ナァーザの説明に、隣にいたエドが補足する。その説明にリリが頷いた。

 

「ウチはさっきも言ったように、接客に出てくれる人員は常に募集中……お給金はあまり出せないから、同じ眷族としてファミリアを支えてくれる、かけがえのない仲間になってくれると嬉しい」

「オレも実は、休みの時は店の手伝いをしてるんだ。ただ出来れば、もう少し女性の売り子がいてくれると、なおいい」

「……つまり売り子になるために、ミアハ・ファミリアに入れと?」

「……それだけじゃない。エドから君が持っているスキルについても聞いた」

 

 そう言って、ナァーザが自分の右腕をテーブルの上に乗せ、袖をまくる。出てきたのは、銀の義手(・・・・)。隣ではエドもまた、自分の右腕の袖をまくっていた。

 

「これは……!」

「ナァーザさんも義手だったんですか!?」

「私もエドも、作り物の手で何とか店を回している。だけど、大量の薬瓶を一度に扱ったり、材料を大量に運んだりするのは、困難を極める……」

「主神のミアハ様も手伝ってはくれているが、出来ればオレはお前に手伝ってほしい、と思っている」

 

 ナァーザの『銀の義手(アガートラム)』を初めて見たベルも驚いていたが、二人の義手を見たリリは、一通り驚いた後、俯いてしまった。改宗(コンバージョン)には様々な問題を孕んでいるのだ。

 

「……仮に、私がその話に応じたとして、改宗(コンバージョン)にかかる代価はどうされるんですか? 恐らく、≪ソーマ・ファミリア≫は中堅ですから、金銭だとしても、多額の賠償金を要求されると思いますが……」

「……心配しなくていい」

「今、オレとナァーザさんで、何とか金のかからない解決方法を模索中だ。何とか糸口を見つけ出してやるさ」

 

 そこまで聞いて、リリは力を抜いた。なぁんだ。――ありもしない(・・・・・・)希望(・・)じゃないか。

 

「……少し考える時間をいただけますか」

 

 リリは顔を俯かせたまま、表情を読み取らせないように、それだけを呟いた。

 

「……わかった。返事は今すぐじゃなくてもいい」

「まあ、任せとけ。必ず改宗(コンバージョン)の糸口は見つけてやるさ」

 

 目の前の二人の楽観的な言葉を聞いて、リリは内心では二人の考えを鼻で笑っていた。糸口?そんなもの、あるわけないだろう。この世界で、リリに救いなんて訪れないんだ。自分で動くしかないんだ。こんな風に生まれてしまったリリは――――結局、目の前の『獲物』から奪い取るしかないんだ。

 

 世界を憎み、自分すら憎んでいる少女は、垂らされた蜘蛛の糸から目を逸らし、自ら奪う決意を固めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その後、宴の途中で、リリが「明日の準備があるから」と中座し、ミアハ・ファミリアの二人とベルだけが席に残った。リリは、家まで送るという申し出を頑ななまでに固辞した。

 

「……強引すぎたかねぇ」

「……ん。あれくらい強引じゃないと、改宗(コンバージョン)の決心なんて起こせない」

「それにしても、びっくりしたよ。エドとナァーザさんがそんなこと考えてたなんて」

 

 心底驚いた、という様子のベルに向かって、身を乗り出す。

 

「オレとしては、ベルが≪ヘスティア・ファミリア≫に誘うんじゃないか、と思って急いだんだけどな。お前にしても、後輩は欲しいだろ?」

「あー、そっか、後輩になるんだよね……確かに誘えば良かったかも」

「……ベル。今からあの子を引き抜くようなら、今日から敵同士……」

「いや、そんなことしませんよ!」

 

 この時点で二人がかりで言質をとり、もし万が一、ミアハ・ファミリアよりもヘスティア・ファミリアに入りたい、とリリ本人が言いださない限り、ベルがリリと交渉出来ないようにした。

 

「あ、でも、ちなみに≪ソーマ・ファミリア≫からの改宗(コンバージョン)の糸口って、具体的にはどうするの?」

「……既に、手は打ってある」

「≪ソーマ・ファミリア≫って、実はしょっちゅう金銭トラブルを引き起こす曰くつきの派閥でなぁ。リリがパーティーに加わったときに、保険代わりにナァーザ先輩に情報を集めるように頼んでおいたんだ」

「へー。それで?」

「もう少しで『交渉材料』も手に入るさ。ククククク……」

「……エド。中々やる」

「黒い! 二人とも黒いよ!」

 

 酒場の一角で、しばし黒い笑い声が響いていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 打ち上げも無事終わり、ナァーザ先輩と一緒にホームに帰ったしばらく後、ミアハ様が何故か疲れた様子で帰ってきた。

 

「……どうかしましたか?」

「うむ……ヘスティアの奴めが、酒に呑まれてしまってな……」

 

 聞いてみると、ヘスティア様は完全に悪酔いされて、店で寝込んでしまったので、今さっき荷台に乗せてホームへ送り届けてきたとのことだった。

 

「…………」

「お疲れ様っす……」

「うむ……」

 

 そこからは言葉少なく、それぞれの自室に戻り、就寝となった。エドが寝台の上で考えるのは、リリに対して感じた、冒険者に対する、憎悪に等しい軽蔑。

 

(……例えウチが商業系だって言っても、アイツの中に悪感情が残ってたら、ウチの勧誘に乗るわきゃねえか…………)

 

 最悪、彼女を取り巻いてきた、『環境』そのものと敵対する必要すらあるだろう。それはともすれば、中堅の≪ソーマ・ファミリア≫と敵対することにもなりかねない。

 

(……ま、もう決めちまったんだけどな)

 

 そう思い、寝台の脇に転がっていた研究ノートを取り上げる。パラパラとめくり、やがて目当てのページを探し当てた。

 

「――――この人の錬金術なら、助けてくれるかもな」

 

 エドの開いた研究ノートのページに載っていたのは、一つの錬成陣と、それを刻むべき一揃いの武具。拳の前面をトゲ付きの金具が覆い、手の甲に錬成陣を刻む、『手甲(ガントレット)』。

 

 ――それは、誰よりも力強く、心優しい『豪腕』の錬成陣……。

 




リリは決意を固めてしまい、そして、この章を締めくくる錬金術が姿を現しました。もっともさすがに「これぞ我がアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬・金・術!!」とかやりませんけどねwやったら、完全にギャグですしww

果たして『豪腕』に殴り飛ばされるのは、『誰』か……

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