ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――来たよ。怖いもの
――ちょいと邪魔するよー


第18話 罰

 

 リリを≪ミアハ・ファミリア≫に誘ってから数日。リリは相変わらず答えを保留中ではあったが、普段の探索はリリの加入と『もう一つの要因』によって、一段と効率を上げた。

 

 そして、『もう一つの要因』が。

 

「【ファイアボルト】ォッ!」

 

 ベルの放った稲妻状の焔が、目の前の空間を焼く。あれからすぐに、ベルは魔法を手に入れたのだ。

 

 どうやって身に着けたのかと思いきや、何でも行きつけの酒場から暇つぶしに渡された本が、たまたま魔法の強制発現書、『魔導書(グリモア)』だったというのだ。……まるで『神の采配』のような偶然だった。経緯を知ったときに、くれぐれも身辺に気を付けるよう言っておいた。

 

 威力はそれほどでもないものの、発動が即時で、速射性に優れた魔法……対人と高速戦闘にはかなりのアドバンテージを生み出す可能性がある。

 

 もっとも、使い手のベルが、少しばかり冷静さを欠いているため、注意すべきことも多かった。

 

「――ベル。イラつくのも分かるけど、ダンジョン内では、あまり余計なこと考えんなよ」

「…………うん。分かってる」

 

 一応納得したベルから、傍らのリリへと視線を移す。

 

「リリもだ。しばらくの間、周辺への警戒は絶えず行ってくれ」

「……はい。エド様」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 朝ベルと合流し、リリを待ち合わせ場所で待っている時、たまたま茂みで揉めているリリを見つけたのだ。相手は三人、恐らくは≪ソーマ・ファミリア≫。

 

『…………寄こせっ……!』

『……ない……ですっ! 本当に……』

 

 どう見ても、恐喝か強盗の現場にしか見えなかった。怒りをあらわにしたベルと一緒に茂みの中に突入しようとしたとき、後ろから声がかかった。

 

「おい」

 

 そこにいたのは、先日リリを追い掛け回していた黒髪の目つきが悪い冒険者。

 

「お前ら、あのチビとつるんでるのか?」

「……だったら、なんだ?」

 

 こっちもある程度殺気を伴って聞いてみたが、相手は不敵な笑みを浮かべ、自分の言いたいことだけを言ってきた。

 

「お前ら、俺に協力しろ。……あのチビをはめて、金を巻き上げるのをな」

「……あ゛?」

 

 ……本当にふざけた提案だった。

 

「別に無料(タダ)とはいわねえよ。ちゃんと報酬は――」

「黙ってろ」

 

 提案を、最後まで聞かずに切り捨てる。

 

「悪党と取引の必要は無えんだよ」

「僕だって、嫌だ……!」

「っ、クソガキどもが……!」

 

 その後、その男は舌打ちとともに、去っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 リリと待ち合わせ場所で合流した後、リリには以前の冒険者から罠にはめる算段を持ち掛けられ、協力を求められたと話しておいた。

 

「……あの野郎は、リリを『はめる』って言っていた。一番可能性が高いのは、ダンジョン内だ」

「一番単純に、『襲撃』をかけてくる可能性が高い、と言うことですね?」

「そ、そこまでするの? 同じ冒険者同士なんだし……」

 

 ベルはどうにも、人の悪意について疎い。むしろ冒険者『同士』だから襲われるんだっつの。

 

「……まあ、最悪、襲撃かけてくるまで待つって手もあるけどな」

「…………あの、それで何をされるのですか?」

「……………………」

「黙らないで! すごく不吉だよ!?」

 

 そんなこんなでその日の探索も終了した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「今日は、10階層まで行ってみませんか?」

 

 翌日、妙に上機嫌な様子のリリに、今まで行ったことのない階層へと誘われた。10階層――ところどころに霧が立ち込め、大型のモンスターが出現し始める階層。

 

(………………)

 

 その提案を受ける前から、エドにはある懸念があった。それは、≪ミアハ・ファミリア≫への誘いを保留のままにしているリリと、先日見た≪ソーマ・ファミリア≫とのトラブル。あれが同じファミリアの人間だとしたら、扱いは最悪の部類だ。それなのに、改宗(コンバージョン)を願い出ないのは不自然すぎる。

 

 コートの中で、一組の『手甲(ガントレット)』を握り締める。何かが、起きる。そんな予感に満ちていた。

 

 その予感は、数時間後、リリがベルのナイフを盗み、姿を消した時に、現実のものとなった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ハッ、ハッ、ハッ…………」

 

 ひと財産は軽くする≪ヘファイストス・ファミリア≫のナイフを握り締め、少女、リリルカ・アーデは来た道を駆け戻っていた。

 

(これさえあれば、これさえあれば…………)

 

 手の中のナイフは、自分の目標額を軽く超えるだろう。≪ソーマ・ファミリア≫からの脱退金にも、充分届くはずだ。

 

 もう、冒険者たちから、お荷物扱いをされなくていい。もう、ファミリアに膨大な額の上納金を納めなくてもいい。もう、お金を死ぬ思いで稼がなくていい。もう、盗みを働かなくてもいい。

 

 

 ……もう、誰も傷つけなくてもいい。

 

 

 そこまで考えたところで、数日前、こんな自分を同じファミリアに誘ってくれた二人の顔が浮かんだ。あの二人は……自分のスキル目当てとはいえ、自分を必要としてくれていたのだろうか?少なくとも表面上は、そんな風に見えた。けれど――――淡い希望にすがるには、自分は絶望し過ぎていた。

 

「………………」

 

 今まで、どんな冒険者を裏切っても、罪の意識なんて感じなかったのに、今回ばかりは相当応えた。少なくともあの二人と、お人好しの兎の少年は、自分のことを心の底から心配してくれたように思えて、それを裏切ってしまったのだという思いが強かった。

 

 惨憺たる気持ちを抱いていたからこそ、近くにいたあの冒険者にも気が付かなかった。

 

 足を引っかけられ、地面に転がされる。顔を、腹を、背を、何度も何度も蹴られた。懐の魔剣を奪われた、背中のバックパックもはがされた。それでも最後に、あの兎の少年のナイフだけは必死になって隠し通した。

 

 ――――――これは、罰だ。

 

 彼女の胸中にあったのは、その思い。だからこそ、同じソーマ・ファミリアの人間が裏で糸を引いていたと知った時も、特に抵抗しなかった。

 

「申し訳ありませんがね、ゲドの旦那。ソイツが持ってたアイテムも金も、根こそぎ置いてってもらいやす」

 

 そう言ってソーマ・ファミリアの冒険者カヌゥと、その仲間二人が地面に投げ捨てたのは、無理やり瀕死にしたキラーアント。たちまち仲間の危機を察した蟻たちが彼ら全員を取り囲み始める。

 

「くそったれがぁっ!」

 

 そのモンスターの動きを察し、ゲドと呼ばれた黒髪の冒険者が出口へ向かい――――

 

 

「くそったれは、てめえだああああっ!!」

 

 

 『手甲(ガントレット)』を着けた拳に殴り飛ばされ、部屋へと舞い戻って来た。赤いコートに両手に付けた『手甲(ガントレット)』。エド・エルリックがそこにいた。

 




今回、原作から変えようも無かったので、ほとんどただのダイジェストですねwただし、エドが介入したせいで、ゲドと言う名前のあの目つき悪い冒険者、助かってます。何せこの後、『利用価値』が出てくるので……

次回こそ、錬金術無双です!

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