ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――――食べていい?


第23話 遭遇

 

 それぞれの訓練と勉強を終え、久々に一日いっぱいを使ったダンジョン探索に出かけることになった。ベルのコーチだった『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインは、≪ロキ・ファミリア≫の『遠征』に出かけ、以前と変わらないダンジョン探索の日々が戻ってくるはずだった。

 

 その日、真っ先に異変に気付いたのは、ベルだった。

 

「――なにか、おかしくない?」

 

 そう言われ、辺りを見回してみる。現在の階層は9階層。目的とする階層からは上とはいえ、それでも駆け出しの冒険者には危険な階層。だが、言われて気付いたが、確かに異常な状況だった。

 

「……モンスターが、いねえ」

「……この階層に入ってから、戦闘の痕跡もありませんね」

 

 他の冒険者がモンスターを狩り尽くして、一時的にダンジョンの湧出(ポップ)が追いつかなくなるということはある。だが、それでもモンスターは、倒された後『灰』を残す。それすらも無いということは、戦闘が行われたのではないということだ。

 

「…………二人とも、戦闘準備しとけ」

 

 言いながら、両手を合わせ、右手の機械鎧(オートメイル)を刃に変える。ベルは懐から神様のナイフ(ヘスティア・ナイフ)とバゼラートを取り出し、油断なく暗闇を見据える。リリはボウガンに矢を番え、援護の態勢を整える。そうして、少しずつ移動し、10階層を目指そうとした、その時――――

 

『ヴォオォォ――――――』

『ゴルルルル……』

『グルル…………』

 

 三種類の、異なる獣の声がした。全員がその声に身を硬くし、声の聞こえた暗闇を見やる。ズシズシ、という重たげな足音のあと、その獣たちは現れた。

 

「――――――あ」

 

 ベルが、現れた異形に息をのむ。その姿は、かつて見たもの。ぬぐえぬ恐怖。牛頭人身の怪物、『ミノタウロス』。

 

「オイ、フザケんなよ……」

「な、何でこの9階層に……?」

 

 続いて現れた二体も、下級冒険者には絶望的な怪物だった。

 

 一体の名は、『ライガーファング』。ミノタウロスとともに、15階層以降に生息する鋭い牙を持つ虎のモンスター。ミノタウロスにも劣らない≪咆哮(ハウル)≫を放つ、獰猛な肉食獣。

 

 もう一体は『バグベアー』。同じく18階層近くに生息する、巨大な熊のモンスター。圧倒的で純粋な膂力(パワー)を誇る、危険な猛獣。

 

 三体のうちどれか一体でも致命的な相手。それが三体。いっそ笑い出したいくらいの絶望だった。

 

「……おい、ベル。オレが隙を見て、錬金術で防壁を張る。そうしたら全力で逃げて、10階層へ行くぞ。霧の中なら上手く撒けるかもしれねえ」

 

 鼻が良く、脚も速い『虎』が混じっている時点で望み薄だが、見通しの良い9階層ではそれこそ全滅以外有り得ない。だから、それは最良の判断。

 

 ……だと言うのに。

 

「――――ベル様?」

 

 リリの呼びかけに不審に思い、視線を向ける。すると、ベルは青白い顔をして、ミノタウロスだけを見つめ、他の二体に目も向けない。その顔に浮かんでいる感情は、ただ『恐怖』のみ。完全に心が折れたのだと悟った。

 

『ヴモォォォォォォォッ!』

 

 ミノタウロスがそんなこっちの事情を知らぬとばかり突撃する。その手にあるのは、天然武器(ネイチャーウェポン)ではない金属の大剣。

 

「くそぉッ!」

「しっかりしてください!」

 

 とっさにベルとミノタウロスの間に、岩壁を錬成する。その間にリリが呆けていたベルを突き飛ばし、覆いかぶさるように身を庇う。

 

 岩壁は拮抗することも無く、あっさりと砕け、飛礫となって全員に降り注いだ。

 

「うわああああああっ!?」

「…………!」

「ぐぅっ!」

 

 右腕の機械鎧(オートメイル)で必死に身を庇ったが、それでも大小さまざまな破片が当たり、額が裂けた。だが一番被害がひどかったのが、リリ。大剣がベルのいた辺りを通り抜けて、リリのバックパックを斬り飛ばし、降り注いだ岩の破片がリリの頭部に当たり、リリはぐったりとその身を横たえていた。

 

「リリ! リリ!?」

「……目ぇ覚めたか、ベル。そんなら逃げるぞ。お前、リリ抱えろ」

「う、うん……でも…………」

 

 ミノタウロスが無造作に、地面から突き出た障害物をガンガンと砕く中、状況はさらに最悪へとシフトしていた。ミノタウロスに出遅れたライガーファングとバグベアーが、8階層へと戻る階段側へと移動していたのだ。そして、ミノタウロスが目の前の邪魔な壁を回り込んだ先は、10階層への階段側。つまり進むも戻るも出来なくなったのだ。

 

 ……その上、さっきから虎と熊の視線が、こっちから離れない。どうも『右腕』を注視しているようなのだ。

 

「ちっ。ベル、リリは地面に寝かせろ。オレはあの虎と熊を、何とか錬金術で捌いて突破口を作る。お前は、牛の攻撃を出来る限り凌いでてくれ」

「…………わかった」

 

 ベルがリリの小柄な体を地面に寝かせ、再び立ち上がって構える。それでも恐怖がぬぐえないのか、手も、足も、見るからに震えている。

 

 ……その背中を、思い切りひっぱたいた。

 

「!!?」

「――――絶対、生きて帰るぞ」

 

 死んでたまるか。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「「…………」」

 

 そんな光景を、陰から見つめる存在があった。言うまでもなく、この襲撃を仕掛けた≪フレイヤ・ファミリア≫のヘグニ、ヘディンの二者である。

 

「……戦闘娼婦(バーベラ)どもの横槍で、どうなることかと思ったが」

「結果的には、こちらの意図した通りとなったか」

 

 そうヘグニとヘディンが呟く後ろには、壊されたカーゴが散乱していた。先程まで、ここには屈強なアマゾネスが押し寄せ、こちらが運んでいた荷物を優先的に壊していったのだ。もっとも中身が深層の依頼物の類でないと分かると、潮が引くように去っていったが。

 

しつけ(・・・)も『強化』も、上手くいっているな」

「『金属の腕』にじゃれ付く――体のいい『猫じゃらし』だがな。それが、群れ一つ分の『魔石』を無理やり口に詰められた『強化種』なのだから、素直に笑えん話だ」

 

 そう言って足元を見る。カーゴと一緒に散乱していたのは、エドの機械鎧(オートメイル)とは比べられないほど拙いものではあったが、確かに『腕』の形をしていた。

 

「後、懸念となるのは、先程あの三体を目撃し、即座に逃げ出した冒険者だけか。こちらには気づいていなかったようだが」

「それこそ問題なかろう。あちらはしばらくの間、『通行止め』だ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「…………ッ!」

 

 少女アイズ・ヴァレンシュタインは、疾走(はし)っていた。先程、遠征途中だった自分たちのパーティーへと辿り着いた下級冒険者がもたらした一報。

 

『9階層で、ミノタウロスやライガーファングに、下級冒険者が襲われている』

 

 そして、その中に確かに白髪・赤眼の冒険者がいたというのだ。話に聞いたモンスターは15階層以降に住む、中層下部の3体。間違っても、あの少年が勝てる相手ではない。焦燥に駆られ、制止の声も振り切って、上層へと駆け上がってしまったのだ。

 

 ――そうして、その男に出会った。

 

「…………!」

 

 疾走に急制動をかけ、その場に留まる。もし駆け抜けていたなら、自分は死んでいた。そう確信を持って言えるほどの存在が、目の前に現れた。

 

「……手合せ願おう」

 

 ≪フレイヤ・ファミリア≫所属、Lv.7冒険者。迷宮都市オラリオの頂点、『猛者(おうじゃ)』オッタルがそこにいた。

 




牛に加えて、虎と熊が登場。しかも虎も熊も、人為的な『強化種』という最悪なもの。牛はオッタルが稽古つけましたが、虎と熊は強化のみ。それでも脅威ですね。

――さて、アニメ見た方も気付くかもしれませんが、あの狸オヤジなカヌゥが、『死んでいません』!これは前の章で、一回取っ捕まってるせいもあります。まあ、今回死ななかった分、後の章でイベントに使うんですがw

最後のシーンのアイズVSオッタルは『外伝ソード・オラトリア4』のそのままですねw

ベルはミノ戦、エドは虎熊戦、リリは気絶中と言う絶望的な状況。戦況をひっくり返す『切り札』は、どこなのか?明日をお楽しみに♪

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