ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――金も女も部下も 何もかも俺の所有物なんだよ!みんな俺の物なんだよ!
だから俺は俺の所有物を見捨てねぇ!!
なんせ欲が深いからなぁ!!



第27話 ランクアップ

「……で、これはどういう事?」

 

 ≪ミアハ・ファミリア≫本拠地(ホーム)、『青の薬舗』内にて。主神のミアハ様を始めとして現在の全メンバーが集まっていたが、とんでもなく空気が重かった。それと言うのも、司会進行役となっている団長のナァーザの機嫌が急降下しているせいなのだ。

 

「まー、いいじゃねえか。それより酒は()えのか?」

「……ここは、飲み屋じゃない。それに、今は昼」

「固いこと言うなって。今日は()とそこのチビのお祝いだろ?」

「誰がチビですか、誰が!」

「奔放であるな、おぬし……」

 

 主な『原因』は目の前の男なのだが、その『原因』は一切素知らぬ顔、昼間から酒を飲もうとしていた。

 

 ……目の前の存在、自称(・・)人造人間(ホムンクルス)』のグリードは、何でもエドの身体に同居しているらしい。実際ダンジョン内で見せた、腕の『硬化』もその能力なのだとか。

 

 あのダンジョンで、ミノタウロス、ライガーファング、バグベアーを倒したベル、リリ、エドの三人は、極度の疲労困憊でその場にへたり込んでしまった。その上パーティー内で一番身体が大きいベルに至っては、立ったまま気絶という状態。辛うじて意識のある小人族(パルゥム)二人では、とてもじゃないが地上まで連れ帰ることが出来なかった。

 

 そこで地上までの付き添いを申し出たのが、その場にいた≪ロキ・ファミリア≫の幹部メンバー。『遠征』の途中だと言うのに、地上まで送り届け、ギルドへの簡易的な報告まで行ってくれた。ちなみにドロップアイテムと魔石はちゃんと届けてくれたが、『鎧』は持ち運ぶには荷物になりすぎるため、その場に放置となった。恐らく既に、ダンジョンの修復に巻き込まれてしまっているだろう。

 

「しかし、何だったんですかね、あのモンスター……」

 

 今回の騒動について、リリは訝しんでいた。通常では現れないはずの中層下部のモンスター三体が一気に上層に現れる。はっきり言って異常事態だ。報告を受けたギルドでも、有り得ない事態に危機感を募らせた他の下級冒険者たちの対応に追われている。今しばらくは今回の異常事態の原因究明で騒々しくなるだろう。

 

「……一体だけなら、下層域のモンスターが迷い込むことはある。けれどそれにしても、元の生息域から最大で2階層くらいの幅。今回みたいに5階層以上、上に来るのは有り得ない」

「おまけに三体もいたのであったな。まず間違いなく、何者かの意図によるものであろう」

 

 偶然は、有り得ない。ならば間違いなく『人災』。いや、あるいは『神災』ということになるのだ。

 

「そこは問題じゃねえんじゃねえか?」

「偽エド――いえ、本名はグリードでしたね。問題じゃない訳がないでしょう。中層域のモンスターですよ?」

「問題は、あのモンスターが、『誰を狙って(・・・・・)』持ってきたモンだったかってことだ」

「……!」

 

 言われて気付く。そうだ。あのモンスターを連れてきたのが誰にせよ、その相手には何らかの意図があったはずだ。では一体誰を狙ったのか。簡単だ。

 

「私たちを……ということですか……?」

「恐らくな。おまけに、向こうのチビは相手に心当たり(・・・・)があるみてえだったぜ?」

 

 向こうのチビ。恐らく≪ロキ・ファミリア≫団長のフィン・ディムナのことだとは思うが、都市最強の小人族(パルゥム)にそんな口を利いていいのだろうか?地上に戻るまでの間、何故か紳士的な態度を崩さずにやたら話しかけてくる人だったが。喋る気力も残ってなかったので、お話は丁重にお断りしたら、側にいたティオネ・ヒリュテに睨まれたし、正直本人周りの人間関係を含めると、苦手な相手だ。

 

「――ともかく、しばらくは身辺に気を付けなければいけないですね……」

「ふむ。であれば、近日中に開かれる『神会(デナトゥス)』で何者が行ったのか、出席した神だけでも探ってこよう。幸い、今回は私も出席する予定であるしな」

「……そうだね。リリも、エドも、『ランクアップ』おめでとう……」

 

 地上に着いて、絶賛気絶中のベル様とともに≪ミアハ・ファミリア≫に運び込まれた私たちは、一日がかりで治療され、何とか普段の体調へと戻った。そして、治療の合間に『神の恩恵(ファルナ)』の更新を行ったところ、ランクアップが判明したのだ。ここに来た当初、≪ソーマ・ファミリア≫で半年分の経験値(エクセリア)を貯め込んでも、最大Fの後半程度でしかなかった基本アビリティは、今回の戦闘で最大Cまで伸びた。ミアハ様曰く、グリードがライガーファングにあまりダメージを与えていなかったせいで、丸取りの形になったのだろうとのこと。

 

「……でも、良かったの? リリは発展アビリティを『あれ』にして……」

「そうだな。リリがどんな道を選ぼうとも、お前は我がファミリアの愛しい眷族()だ。無理に選ぶ必要などないのだぞ?」

「何を言っているのですか、ナァーザ団長も、ミアハ様も。リリは『青の薬舗』の『薬師見習い』ですよ?」

 

 二人が心配そうに見つめるのには理由がある。エドとともにランクアップした際、二人とも専門職ともいえる発展アビリティ候補が、複数発現したのだ。リリに発現したうち、一つは『調合』。自身で調合した薬剤やアイテムの効果を上げる、薬師垂涎のスキルだ。エドに発現したうちの一つは『技師』。エドに発現したものは聞いたことも無かったが、ミアハ様は、機械鎧(オートメイル)関係だろうと言っていた。

 

 そして、二人に同時に発現した発展アビリティ候補が悩みの種となった。それは、『錬成』。

明らかに錬金術関係と分かるそのアビリティに、本気で取得も考えたが、『調合』そのものが主にLv.2へのランクアップで現れるもので、Lv.3ではあまり見ないというナァーザ団長の言葉に、泣く泣く取得をあきらめ、『調合』を取得することにした。ちなみにエドは特に悩む様子もなく、『錬成』を取得した。

 

「それに……冒険者として生きることを半ば諦めていたリリにとっては、ランクアップ出来たこと自体夢のようで……皆さんの派閥に来ることが出来て、本当によかったです……」

「あんましんみりするのは、好きじゃねえな。俺は欲(ぶけ)えから、別に力が弱いままでも、部下(・・)を見捨てる気はねえぜ」

「…………いつ、私が貴方の部下になりましたか?」

 

 本来お祝いムードなのに、空気が重いままなのは、実はこのせいもある。全員が目覚めた後、エドを押しのけてグリードが出てきて、自己紹介をしたかと思えば、出会い頭に私とベル様を自分の部下、というか子分に任命したのだ。その上ナァーザ団長にはいきなり、「俺の女にしてやる」とのたまった。今もナァーザ団長の手元に愛用の弓が置かれていて、グリードの後ろの薬棚に矢が何本か突き刺さったままなのは、そのせいだ。

 

「……あまりからかうものでないぞ、グリードよ。――――それよりおぬしに、聞きたいことがあるのだがな」

「オウ、神様からの質問とはな。いいぜ、何でも聞きな」

 

「――――――おぬしの目的は、なんだ?」

 

 瞬間、部屋に流れる空気が変わった。すぐ近くにいたはずのミアハ様が、一般的な人間(ヒューマン)とそんなに変わらないミアハ様が、この時ばかりは限りなく遠く、とてつもなく大きく見えた。『神威』。超越存在(デウスデア)としての神の威圧。今すぐに席から離れ、ひれ伏したい威圧を受け、ただ一人正面から受けたはずのグリードだけが、飄々としていた。

 

「……がっはっは。神ってのも、あながち嘘じゃねえか。だが、その質問は、ちいと無粋ってもんだぜ?」

「…………ふむ、無粋とは?」

「言うまでもねえってことさ――――俺は『強欲』! 目的なんざ、最初(ハナ)から『全て』だ! 金も欲しい! 女も欲しい! 地位も! 名誉も! この世の全てが欲しい! ――それら『全て』を手に入れるために行動する。な、分かりやすいだろ?」

 

 その、あまりの目的の有り様に、私もナァーザ団長も言葉を失った。これが、『強欲』。だが、あまりにも冒険者らしい目的でもあった。

 

「……それをこの街、いや世界で手に入れるためには、当然『力』が必要であろう。ならば、おぬしの当面の目的は……」

「おうよ! しばらくは『同居人』と一緒に、レベル上げだな。こんな近くに、『力』を手に入れる最高の環境があるんだ。ほっとく手は無えな!」

 

 その言葉を聞いて、ミアハ様がようやく『神威』を収める。その後は平和的な話し合いが行われ、グリードも≪ミアハ・ファミリア≫の一員として受け入れることに決まった。エドがグリードごとファミリアから追放される事態にならなかったことに、内心ほっとする。

 

「そんじゃまぁ、祝いに戻ろうぜ。まあ今回は主役は俺じゃねえから、『同居人』の方に譲るか」

「そうしてください。ホラ、とっとと替わる」

「がっはっは、気の強えチビだ――――はー……ようやくか」

「エド、お帰り……ホラ、グラス持って」

「うむ、ただの『水』なのが侘しいところではあるがな」

「それがイヤで逃げたんじゃないですか、アイツ……?」

 

 揃った四人が水の入ったグラスを持ち、ナァーザ団長の音頭を待つ。

 

「…………それでは、エドとリリのランクアップを祝して……乾杯」

「「「乾杯!」」」

 

 グラスが合わさり、神様一柱(ひとり)眷族(こども)『四人』。≪ミアハ・ファミリア≫は、こうして新たな門出を迎えた。

 




今回はランクアップと考察回。明日の更新は、Lv.1の最終ステイタスと登場人物紹介になります。

ロキ・ファミリアは原作通り地上まで送ってくれましたが、ティオネの件でリリはフィンに苦手意識を持ちました……あの人、外伝でもとんでもなかったしなぁw

リリの発展アビリティは『調合』。エドは『錬成』。詳しい能力などは明日です。

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