ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
だから俺は俺の所有物を見捨てねぇ!!
なんせ欲が深いからなぁ!!
「……で、これはどういう事?」
≪ミアハ・ファミリア≫
「まー、いいじゃねえか。それより酒は
「……ここは、飲み屋じゃない。それに、今は昼」
「固いこと言うなって。今日は
「誰がチビですか、誰が!」
「奔放であるな、おぬし……」
主な『原因』は目の前の男なのだが、その『原因』は一切素知らぬ顔、昼間から酒を飲もうとしていた。
……目の前の存在、
あのダンジョンで、ミノタウロス、ライガーファング、バグベアーを倒したベル、リリ、エドの三人は、極度の疲労困憊でその場にへたり込んでしまった。その上パーティー内で一番身体が大きいベルに至っては、立ったまま気絶という状態。辛うじて意識のある
そこで地上までの付き添いを申し出たのが、その場にいた≪ロキ・ファミリア≫の幹部メンバー。『遠征』の途中だと言うのに、地上まで送り届け、ギルドへの簡易的な報告まで行ってくれた。ちなみにドロップアイテムと魔石はちゃんと届けてくれたが、『鎧』は持ち運ぶには荷物になりすぎるため、その場に放置となった。恐らく既に、ダンジョンの修復に巻き込まれてしまっているだろう。
「しかし、何だったんですかね、あのモンスター……」
今回の騒動について、リリは訝しんでいた。通常では現れないはずの中層下部のモンスター三体が一気に上層に現れる。はっきり言って異常事態だ。報告を受けたギルドでも、有り得ない事態に危機感を募らせた他の下級冒険者たちの対応に追われている。今しばらくは今回の異常事態の原因究明で騒々しくなるだろう。
「……一体だけなら、下層域のモンスターが迷い込むことはある。けれどそれにしても、元の生息域から最大で2階層くらいの幅。今回みたいに5階層以上、上に来るのは有り得ない」
「おまけに三体もいたのであったな。まず間違いなく、何者かの意図によるものであろう」
偶然は、有り得ない。ならば間違いなく『人災』。いや、あるいは『神災』ということになるのだ。
「そこは問題じゃねえんじゃねえか?」
「偽エド――いえ、本名はグリードでしたね。問題じゃない訳がないでしょう。中層域のモンスターですよ?」
「問題は、あのモンスターが、『
「……!」
言われて気付く。そうだ。あのモンスターを連れてきたのが誰にせよ、その相手には何らかの意図があったはずだ。では一体誰を狙ったのか。簡単だ。
「私たちを……ということですか……?」
「恐らくな。おまけに、向こうのチビは相手に
向こうのチビ。恐らく≪ロキ・ファミリア≫団長のフィン・ディムナのことだとは思うが、都市最強の
「――ともかく、しばらくは身辺に気を付けなければいけないですね……」
「ふむ。であれば、近日中に開かれる『
「……そうだね。リリも、エドも、『ランクアップ』おめでとう……」
地上に着いて、絶賛気絶中のベル様とともに≪ミアハ・ファミリア≫に運び込まれた私たちは、一日がかりで治療され、何とか普段の体調へと戻った。そして、治療の合間に『
「……でも、良かったの? リリは発展アビリティを『あれ』にして……」
「そうだな。リリがどんな道を選ぼうとも、お前は我がファミリアの愛しい
「何を言っているのですか、ナァーザ団長も、ミアハ様も。リリは『青の薬舗』の『薬師見習い』ですよ?」
二人が心配そうに見つめるのには理由がある。エドとともにランクアップした際、二人とも専門職ともいえる発展アビリティ候補が、複数発現したのだ。リリに発現したうち、一つは『調合』。自身で調合した薬剤やアイテムの効果を上げる、薬師垂涎のスキルだ。エドに発現したうちの一つは『技師』。エドに発現したものは聞いたことも無かったが、ミアハ様は、
そして、二人に同時に発現した発展アビリティ候補が悩みの種となった。それは、『錬成』。
明らかに錬金術関係と分かるそのアビリティに、本気で取得も考えたが、『調合』そのものが主にLv.2へのランクアップで現れるもので、Lv.3ではあまり見ないというナァーザ団長の言葉に、泣く泣く取得をあきらめ、『調合』を取得することにした。ちなみにエドは特に悩む様子もなく、『錬成』を取得した。
「それに……冒険者として生きることを半ば諦めていたリリにとっては、ランクアップ出来たこと自体夢のようで……皆さんの派閥に来ることが出来て、本当によかったです……」
「あんましんみりするのは、好きじゃねえな。俺は欲
「…………いつ、私が貴方の部下になりましたか?」
本来お祝いムードなのに、空気が重いままなのは、実はこのせいもある。全員が目覚めた後、エドを押しのけてグリードが出てきて、自己紹介をしたかと思えば、出会い頭に私とベル様を自分の部下、というか子分に任命したのだ。その上ナァーザ団長にはいきなり、「俺の女にしてやる」とのたまった。今もナァーザ団長の手元に愛用の弓が置かれていて、グリードの後ろの薬棚に矢が何本か突き刺さったままなのは、そのせいだ。
「……あまりからかうものでないぞ、グリードよ。――――それよりおぬしに、聞きたいことがあるのだがな」
「オウ、神様からの質問とはな。いいぜ、何でも聞きな」
「――――――おぬしの目的は、なんだ?」
瞬間、部屋に流れる空気が変わった。すぐ近くにいたはずのミアハ様が、一般的な
「……がっはっは。神ってのも、あながち嘘じゃねえか。だが、その質問は、ちいと無粋ってもんだぜ?」
「…………ふむ、無粋とは?」
「言うまでもねえってことさ――――俺は『強欲』! 目的なんざ、
その、あまりの目的の有り様に、私もナァーザ団長も言葉を失った。これが、『強欲』。だが、あまりにも冒険者らしい目的でもあった。
「……それをこの街、いや世界で手に入れるためには、当然『力』が必要であろう。ならば、おぬしの当面の目的は……」
「おうよ! しばらくは『同居人』と一緒に、レベル上げだな。こんな近くに、『力』を手に入れる最高の環境があるんだ。ほっとく手は無えな!」
その言葉を聞いて、ミアハ様がようやく『神威』を収める。その後は平和的な話し合いが行われ、グリードも≪ミアハ・ファミリア≫の一員として受け入れることに決まった。エドがグリードごとファミリアから追放される事態にならなかったことに、内心ほっとする。
「そんじゃまぁ、祝いに戻ろうぜ。まあ今回は主役は俺じゃねえから、『同居人』の方に譲るか」
「そうしてください。ホラ、とっとと替わる」
「がっはっは、気の強えチビだ――――はー……ようやくか」
「エド、お帰り……ホラ、グラス持って」
「うむ、ただの『水』なのが侘しいところではあるがな」
「それがイヤで逃げたんじゃないですか、アイツ……?」
揃った四人が水の入ったグラスを持ち、ナァーザ団長の音頭を待つ。
「…………それでは、エドとリリのランクアップを祝して……乾杯」
「「「乾杯!」」」
グラスが合わさり、神様
今回はランクアップと考察回。明日の更新は、Lv.1の最終ステイタスと登場人物紹介になります。
ロキ・ファミリアは原作通り地上まで送ってくれましたが、ティオネの件でリリはフィンに苦手意識を持ちました……あの人、外伝でもとんでもなかったしなぁw
リリの発展アビリティは『調合』。エドは『錬成』。詳しい能力などは明日です。