ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
ランクアップの祝賀会を『豊穣の女主人』で行った翌日、ベルが新しい装備の購入に行くと言うので、迷宮探索は休みとなった。それで手持無沙汰となった、エドとリリは…………翌朝早くから、馬車に揺られていた。
「目的地は『セオロの密林』だったか? どれくらいで着くんだ?」
「オラリオから街道を東へ進むこと、数時間といったところですね。今日中には余裕を持って往復できるはずです」
なぜこんなところにいるかと言うと、事の発端は昨夜全員が帰宅し、翌日の予定を確認した時の事。翌日店に出す分の
「しかし、他のファミリアには無い
「大丈夫……既に材料は半分揃ってる。
「『ブルー・パピリオの翅』ですか……あの時は
「おぬしの錬金術はつくづく便利だな……」
「――――む。見えてきたぞ。あれが『セオロの密林』だ」
御者の近くに座っていたミアハ様の言葉に、前を向く。草原が途切れ、山のふもとにうっそうとしたジャングルが広がっている。オラリオの東部に位置する広大な草原を抜けた先に存在する『アルブ山脈』。その麓に広がるのが『セオロの密林』だ。
「手筈は、決めた通りでいいんだよな?」
「……私たちは、モンスターの巣穴を見つけて、そこにある『卵』をいただけるだけいただく。その間、エドには悪いけど……」
「『囮』だろ? 分かってるさ、ナァーザ団長」
「気を付けるのだぞ、エド」
今回の作戦において、エドは巣穴へ戻るモンスターを引きつける囮役。そしてその間に『卵』を他の三人が背負ったバックパックに詰めるだけ詰めていく。団長と主神は、エドの身の安全を心配していたが、リリは全く違う心配をしていた。
「……エド。まさかとは思いますが、『新兵器』の
「え? 当たり前だろ。いきなり密閉空間のダンジョン内で試し撃ちするほど、度胸ねえぞ」
「…………はあ。まあ、止めたりはしませんが、流れ弾を飛ばさないでくださいね」
エドの『新兵器』をよく知らない主神と団長は、このときの会話がよく分からなかったが、後でこれ以上なく思い知ることとなった。
会話をしながら森の奥へ進むことしばらく。灌木を抜けた先に自然のものではない大きな窪地が見つかった。
「……エド。お願い」
「オウ、了解」
ナァーザの促しに、エドだけが前に出て、窪地から少し離れたところで背中のバックパックの口を開ける。たちまちその中からモンスターを引き寄せる
『グルルルル……』
その姿は、正しく恐竜。名前は『ブラッドサウルス』。本来はダンジョン30階層以降に生息する強力な大型級モンスター。もっとも古代に地上へ進出した後、同種交配を繰り返した結果、体内の力の源である魔石がほとんどなく、力も上層モンスターのレベルまで落ちてしまったモンスターだ。
「オラ、こっちだ、こっち!!」
『『グルォォーーーッ!』』
やって来たブラッドサウルスを挑発し、錬金術で足場を作ったりして派手に逃げていく。その間他の三者は、せっせと卵を集めていた。そして、全員のバックパックがほとんどいっぱいになった頃、ナァーザが肩にかけていた
「すぅ――――、ふぅ――――」
一度大きく深呼吸し、気を落ち着かせる。彼女は以前まで、Lv.2の上級冒険者だったが、中層に進出した頃、モンスターに全身を燃やされ、その上四肢を全て生きたまま喰われるという凄惨な目にあった。左手と両脚については何とか元に戻すことが出来たが、完全に喰い尽くされた右腕は元には戻らず、≪ディアンケヒト・ファミリア≫が作り上げた、『
だが、今この場にいる彼女に、そんなことは起こらない。モンスターから逃げ回っているエドは、ちらちらと彼女の位置を確認し、万が一にも彼女の方にモンスターが行かないように逃げている。主神のミアハ様も、彼女のこともエドのことも心配し、早く済ませようとバックパックにテキパキと卵を詰める。最後にリリは、こちらも卵を詰めているが、その間も周囲に気を配り、不意な方向からモンスターが現れないよう注意している。
(なんか……嬉しいな……)
ほんのわずか、口を綻ばせると、ナァーザはエドに襲い掛かるブラッドサウルスを撃ち貫くため、矢を力強く放った。
◇ ◇ ◇
卵の回収が終わり、帰りの馬車の中。
「色々大変だったなー」
「そうですね。ナァーザ団長の弓、お見事でした」
「……大したことない。トドメはエドのとんでもない兵器だったし」
「まったくだな。――エドよ。あの兵器は、くれぐれも取り扱いに気を付けるのだぞ?」
「分かってますよ、ミアハ様」
彼らから離れた森の奥。首から上が
◇ ◇ ◇
明けること翌日。いつもの待ち合わせ場所の噴水前に、見慣れたベルと、見たことのない赤毛で着流しを着た
「オッス、ベル。そっちの人は誰だ?」
「おはようございます、ベル様」
「おはよう、二人とも! この人はヴェルフさんって言って、一昨日話してた新しいパーティーのメンバーだよ!」
「「は?」」
一切合切、何も聞いていない。仮にもパーティーを組んでいる以上、新しくメンバーを増やすなら、先に相談すべきじゃないか?というようなことを、二人がかりで主張したところ。
「ごめんなさい…………」
そこには立ち直れない程に沈み切った兎の姿が。
「あー、すまん。言いすぎた……」
「そ、そうですね、ベル様。流石に言いすぎました」
「あー、その、なんだ。俺が無理に頼んだんだ。悪かったな」
そこで話に入ってきたのは、その場にいたヴェルフという男。とりあえず、どういう経緯でこうなったのか確かめておかなきゃならない。
「……とりあえず今日はアンタも交えて探索に行こう。道すがら、どうしてこうなったのか話してくれるか」
「おう、いいぜ」
「はあ……あ、そうだ、ベル様。少し今お持ちのポーション用ポーチを取っていただけますか?」
リリの言葉に、ベルが腰のポーチを外して寄越してくる。ソレをリリが受け取り、代わりにベルの腰に真新しい革製のポーション用ポーチを取り付けた。
「え? これって?」
「ウチの団長から、中層進出のお祝いです。中身は今までの
「新型の
ベルが中身を確認し、取り出したのは、今までにない
「それでな、ベル。代わりと言っても何だが、今までお前が購入した分で、まだ使っていない分は、リリに全部戻してやってくれるか? そろそろ、中身の成分の劣化が心配なんだと」
「ポーチに入れた分で本数が足りないようでしたら、改めて新しく調合した奴をお渡ししますから」
「い、いいよ、いいよ! 残ってるのなんて、ポーチ以外だとこっちのホルスターに入ってた二本だけだから。むしろ多いくらいだし!」
そう言ってベルが、ホルスターに分けていた
「(うまくいきましたね、エド。ベル様、気付いてないようです)」
「(ああ。流石に中層まで『薄味』
……さて、今の一連のポーション用ポーチの交換。実はナァーザ団長がベルに渡していた『薄味』
それでも今では、ポーション購入のお得意さまだし、派閥の後輩と一緒に中層へ行くパーティーメンバーなので、万が一が無いように、バレないうちに回収しておくように言われたのだ。ちなみに新しいポーション用ポーチは、ベル本人は気付いていないが今までのお詫びの慰謝料代わりだったりする。
「さて! とりあえずベルの新装備と、オレの新しい
「今日の予定は11階層ですが、そちらの方は大丈夫ですか?」
「おう、任せとけ!」
「よし、それじゃ行こっか!」
新たなメンバー、新たな装備を得て、一同はダンジョンへと足を進めた。
『クエスト×クエスト』終了。何故かこの話、二次創作で取り込んでる人少ないんですよねw少なくとも、お気に入りにしてる奴では見たことない。
この話を読んだ人は、ナァーザさんの原作との微妙な変化に気づくと思います。原作では「全部自分のせいだ」と自己嫌悪の嵐でしたが、周囲を、信じて支えてくれる後輩と敬愛する主神に囲まれてるせいで、この作品ではそこまでではありません。この変化、後々のフラグになりますw
そして、ベル君は、やっぱりぼったくられてましたww