ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
ベルの今までにない魔法がインファント・ドラゴンを倒した後、パーティーは一度仕切りなおすために地上へ出た。正直もう少し稼いでも良かったかも知れないが、ベル本人も魔法の有り得ない威力に驚いていたし、不測の事態に陥る前に、どうしてそうなったか原因の究明を優先させることにした。
「……それじゃ、どうしてああなったかは、ヘスティア様にちゃんと確認しろよー?」
「派閥の機密にかかわることですし、私たちには情報は秘密にしてくださって結構ですから」
「え、でも、仲間なんだし……」
「そう言ってくれるのは嬉しいがな。それでもダメだ。明らかにスキルや魔法の特性に関わることなんだから、秘密にしとけ」
本来スキルや魔法の能力について、明かすのは精々同じ派閥の中だけだ。≪ヘスティア・ファミリア≫と≪ミアハ・ファミリア≫は主神同士が
そう言い含めて、ベルを早々にホームの教会へと帰らせる。離れたところで、改めて隣へと向き直った。
「しかし、悪かったな。せっかく11階層へ進出したのに、こっちの都合でさっさと帰ることになっちまって」
「いや、気にしてない。魔法やスキルの性能を把握するのは重要だからな」
「ヴェルフ様も、なにかご経験が?」
「ああ。俺の魔法は、的とかじゃなくて人間やモンスターにしか通用しないもんでな。一度同じ派閥の同僚に『的』を頼んだことがある」
「「…………」」
……ひどいことするやつだ。それならそれで、1階層や2階層あたりのゴブリンやコボルドで試せばいいのに、わざわざ人で試すとは。そんな感じで白い目で見ていると、何故か慌てた様子のヴェルフがさらに言い募る。
「いや、勘違いすんなよ!? ちゃんとどういう効果が出るかは、予め説明した! その上で進んで実験台になってくれたんだからな!」
「それでもなぁ……」
「第一、事情があるんだよ。上の階層のモンスターでも効果がない代物でな……」
「随分、変わり種ですね……?」
その情報だけでいくつか見当がつくものもあるが、あまり詮索するのも褒められたものではないので、その日はそれ以上追及せず、お互いの帰路へとついた。
◇ ◇ ◇
それから数日、臨時パーティーメンバーのヴェルフを加え、11階層の攻略は順調に進み、12階層へと進出した、そんなある日のこと。
「え? 明日一日ダンジョンに入れないの?」
「ええ。前のファミリアにいた頃にお世話になっていた万屋を久しぶりに訪ねたのですが、そうしたら店主が体調を崩しておりまして」
「聞いたらリリが持ち込む色んな物品を、快く買い取ってくれた経緯があるらしくてな。ミアハ様にも相談したら、ウチ特製の薬湯を持って行けと言われたんだ」
「てことは、明日一日看病か? 二人がかりで?」
ヴェルフの当然の疑問に、少し考え、答える。
「いや、オレはその万屋まで薬の材料の搬入だ。現地で薬を調合して看病するのはリリの役目だよ」
「これでもナァーザ団長から、日々難しい
「で、オレはその材料の搬入が終わったら、ずっと前にゴブニュ・ファミリアに頼んでいた装備を取りに行く予定だ。……ヴェルフには少し悪いけどな」
「申し訳ありません、ヴェルフ様。臨時パーティーを組む前々日には既に発注していたものですから……」
「そんなことか。気にしないでくれ。ベルの奴が俺の腕に惚れこんでくれているだけでも充分さ」
「……今後何か、追加で装備が必要になったときにはお願いするからよ」
「そうですね。私からも頼みます」
そう言ってその日は二人と別れ、翌日リリが以前利用していた『ノームの万屋』を訪れた。薬湯の材料を運び込み、リリが看病する旨を伝え、その場を出る。
そのまま足を向けたのは、≪ゴブニュ・ファミリア≫。工房へと向かい、主神のゴブニュ様に声をかける。
「ゴブニュ様。前に頼んだ装備が出来たと聞いたんですが」
「おう、エド坊主。こっちへ来い」
そう言って通されたのは、奥の作業台。倉庫から持ってきて広げられたのが、今回依頼した装備だった。
「こっちの赤のフードコートが『フラメル・ベアコート』。お嬢ちゃんのインナーが『ベアインナー』じゃ。で、問題はコレだ」
そう言って取り出されたのは、一丁のボウガン。それは、明らかに今リリが使っているものよりも銃身ががっしりと固そうで、それでいて全体的に機構を見直したのか、以前よりも軽そうな印象を受けた。
「名前は『ファング・バリスタ』でのう……あの大腿骨の硬度と軽さがとんでもなくてな。作ったはいいが、明らかにLv.3以上でも通用する武器が完成した」
……そんな大層なもの、一体いくらになるのか、聞くのが怖かった。
「…………支払いはきちんとするが、一応いくらくらいに……」
「ん? おお、その点は心配せんでもええ。元々Lv.2の冒険者を想定して作ったが、材料の質が良くて、偶々より上の武器になっただけだからのう。当初予定の見積もり内で収まるわい」
「そうか、良かった」
そうして、完成品の金額を確認した後、持参した金銭で支払いを済ませ、ホームへと帰ることにした。コート一着、インナー一セット、ボウガンとおまけの矢を全て布の袋に入れて背負っているため、地味に重い。少しフラフラとしながら工房の出入り口に向かうと、それが目についた。
「ん――
入口近くに置かれていたのは、一揃いの
「おう、そりゃ、この間11階層でインファント・ドラゴンの素材を手に入れた奴がいたらしくてな。その端切れで、作ったもんよ。何せ端切れだったから、
「へー……」
生返事で返すが、ふとそのドラゴンに心当たりがあった。あの時はベルの魔法を悟られないように急いで帰ることを優先したが、もしかして放置されたドラゴンを採取したプレイヤーがいたのではないだろうか。それが巡り巡ってこのファミリアに来たとか。
「…………」
その
そう考え、その
◇ ◇ ◇
それからさらに数日後。12階層奥地の下へと下る階段の前で、エド、リリ、ベル、ヴェルフの4人パーティーは、最終ミーティングを行っていた。
その中でエドは『フラメル・ベアコート』を纏い、さらにその上に『サラマンダー・ウール』を巻き付けていた。リリは先日の『ベアインナー』を身に着け、外套の上に同じく『サラマンダー・ウール』。そして、腰には
二人だけではなく、ベルはその腰にミノタウロスの赤角から作られた『牛若丸』を下げ、ヴェルフとともに『サラマンダー・ウール』を外套として纏っていた。
「――――さて! これで打ち合わせは終了ですね! 後は向こうに着いてから臨機応変に、です!!」
「「「おう!」」」
リリの言葉でその場を占め、前衛の扱いになっているベルとヴェルフから先に階段を下りていく。そうしてわずかな間、二人きりになったとき、リリがエドの方へ顔を寄せてきた。
「この靴、いいですね。不安定な岩場でも滑りませんし」
「おう、そうか?」
「…………」
すっと、ほんのわずか何時もより一歩分だけ近づかれた。
「大切に、します」
「……!?」
「さあ! 行きますよ、エド!」
「あ、おい?!」
ドタドタと駆け下りた先、そこに待っていたのは、全く新たな冒険の舞台。『中層』と呼ばれる、苛酷な現実だった。
全員の装備アップグレード!特にリリの原作との違いがヒドイw
リリは当初、インナーとボウガンだけの予定でしたが、彼女のモチーフがシンデレラだと思い出して、『ガラスの靴』がない!と思って、そこも更新になりました。ウチのシンデレラは、ドラゴンと熊の皮で作った靴とドレスを纏い、虎のボウガンでヘッドショットを狙うんですww
最後のほんのわずかな一言での2828展開、少し悩みました。