ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――悪党とは等価交換の必要なし!



第42話 冒険者の流儀

 翌日、ミアハ・ファミリアの貸し出されたテント内にて。

 

「………………」

 

 固い地面に正座させられるエドの姿があった。

 

 なぜこうなっているかと言えば、昨夜の風呂での一件から、リリにはこの世界に来るまでの経緯を、そして未だ詳細を告げていないナァーザ団長も含めて、記憶が戻ったことも話すことに決めたのだ。そのため朝食後に泊まったテントを一時借りて、それらの話をしたわけなのだが――。

 

「「……………………」」

 

 転生の経緯を聞いていたのに、記憶が戻ったことを話してくれなかったナァーザ団長と、経緯を一切聞かされていなかったリリの沈黙が痛かった。

 

 余りにも重い沈黙に助けを求めて視線を彷徨わせるが、視線が合ったミアハ様も苦笑するだけで助けてくれる様子がない。万事休すかと思った時、不意にナァーザ団長の方が動いた。そのままツカツカと近づいてきて、左手を高々と振り上げた。悩み事を打ち明けず隠したのは自分だし、素直に殴られようと目を瞑ると、手の平をポンと軽く乗せるような感触があった。

 

「……エドは、馬鹿」

「それには全面的に同意ですね」

 

 ぐりぐりと頭を乱暴に撫でまわしながらのナァーザ団長の言葉に、横のリリまで追従する。馬鹿って。少しばかりひどくないか?

 

「……私たちは、エドが以前に別れた家族と同じになることは出来ない」

「…………」

 

 ……それはそうだろう。人は誰も、他の誰かの代わりにはなれない。そんなこと、前世でヒトを『作ろう』とした時に、身に染みて分かってる。

 

「でもね――――私たちだって、≪ミアハ・ファミリア≫っていう眷族(かぞく)なんだよ……?」

 

 そう言って、頭を片手で抱え込むように抱きしめられる。手は、『左手』。ナァーザ団長が温もりを伝えることができる、生身の手。……ああ、本当に。ミアハ様も、リリも、ナァーザ団長もどうしてこう……。

 

 しばらくそのまま抱き締められていると、テントの入り口が勢いよく開いて、ヴェルフが入って来た。

 

「おい、お前ら! ベルの奴、見なかったか!?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「これは……」

「マジか……」

「厄介ごとだな……」

 

 リリとヴェルフが屈んで覗き込んでいる先には、ヘスティア様が購入していた香水と、回復薬(ポーション)瓶が散乱していた。割れた瓶もあり、この現場の様子からすると、ヘスティア様は浚われて、ベルは呼び出されたというところか。

 

「ランクアップして、中層進出の初日に18階層に来てるからな。装備とかお宝目当てか、単純なやっかみか、色々動機も考えられるな」

「まあ、そんな場合ではなかろう? ナァーザよ、ベルの居所は分からぬか?」

「……分かる」

 

 ここで、ナァーザ団長の種族の説明。彼女は犬人(シアンスロープ)。つまりは犬と同じくらい鼻の利く亜人(デミヒューマン)。ベルは何度も店に足を運んでるし、帰還に備えて手持ちの回復薬(ポーション)も再分配されていた。その中には当然ウチでしか作れない『二属性回復薬(デュアルポーション)』も入っている。アレは香りが特徴的だから、跡を追うのは容易いのだ。

 

「……でも、落ちてた香水の匂いの方角とは、違う方に進んでる。多分ベルはあの大きな一本の水晶の方向。香水を付けてる人は、向こうの森の中」

「誘拐犯は、複数ってことか……」

 

 そうなると、ベルだけ助け出しても駄目だ。その場合、ヘスティア様という人質がある以上、向こうに逆転の一手が残されることになる。ベストは、ヘスティア様を確実に助けて、ベルの救援に向かう。出来ればヘスティア様の救助と、ベルの救援は同時に行いたいが……。

 

 そう考えていると、リリが手を上げる。

 

「ヘスティア様は、私が助け出します。皆は、ベル様の救援に向かってください」

 

 この発言に驚いたのは、ヴェルフだ。

 

「いや、お前ひとりでどうやって助け出す?! 相手にはお前と同じ上級冒険者がいるんだぞ!」

「策を巡らせて、ヘスティア様の近くから冒険者を釣り出します。任せてください。こう見えて、逃げるだけなら自信があります」

 

 多分、冒険者相手に荒稼ぎしてた頃に、身に着けたんだろうな、とは思う。それでも非情に役立つ以上文句は言わないけど。

 

「それに、私じゃなきゃ、ヘスティア様を探せません。――【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】――【シンダー・エラ】」

 

 詠唱の完成とともに、リリの頭にナァーザ団長とお揃いの犬耳が生える。よく考えると、改宗(コンバージョン)以降は初めてこの魔法を見た。

 

「私の魔法は『変身魔法』なんですが、ステイタス以外の種族特性は、変身している対象に準じます。つまり、ナァーザ団長以外に、ベル様とヘスティア様の匂いを追えるのは、私しかいません」

 

 ……この魔法、本当に便利だ。つまり、犬系統の亜人以外にも、兎系統になれば、耳が良くなることになる。一撃必殺の攻撃力こそ持っていないが、環境への適応能力なら、随一ではないだろうか。

 

 結局魔法の特性を聞いたヴェルフが折れ、リリはヘスティア様の救出。他全員でベルの救援に向かうことになった。途中で桜花たちや、リューさんと合流し、ベルの許にたどり着いたが、そこで見たのは、、全く視認できない敵に、良い様になぶられるベルの姿だった。

 

「……ッ! こんなんが、冒険者の流儀とでも言う気かよ!」

 

 どこからどう見ても、ただの私刑(リンチ)。やっかみなのか、金銭目的なのか、そんなこともどうでも良くなった。

 

「【ホーエンハイム】!」

 

 豪腕の錬成陣で、地面から大量に握り拳を生み出し、へらへら観客に回っていた冒険者を空へと打ち上げる。

 

「「「ぎゃあああああああ!!」」」

 

 打ち上げられた冒険者が地面に落ちてきた音、それが開戦の合図となった。目の前の冒険者集団と衝突するが、どうも最大でもLv.2程度らしく、桜花やオレと互角に打ち合える程度だった。そんな中を明らかにレベルの違う動きで、瞬時に制圧していく一つの影。木刀一本で何とかしてしまえるリューさんは、本当に何者なんだ?

 

 こっちのそんな疑問を余所に、リリがヘスティア様を連れてこちらに合流。ヘスティア様の一喝によって、争乱は終止符を打たれることになった。

 

 ……正直、オレは、ヘスティア様という神を見縊っていたかも知れない。ミアハ様は、グリードとの初対面の時に威圧を発していたから、神様だと納得していたが、先程見た彼女は、いつもじゃが丸君を売り歩いてる貧乏神とは比べ物にならなかった。

 

『――やめるんだ』

 

 その一言で、世界を震わせてしまう超越存在(デウスデア)。確かに彼女がそう(・・)なのだと信じさせる瞬間だった。

 

 そして、一行が団らんムードとなり、空気が緩んでいた時――――ダンジョンが震えた。

 

「これは……嫌な、揺れだ」

 

 リューさんの言葉が全てを示すように、階層全体を照らす天井の水晶、その内部で余りにも大きい体躯が、蠢くのが見えた。

 

 

「嘘だろ……あれぽっちの神威で…………バレた?」

 

 

 差し迫ってるであろう危機の中、ヘスティア様の言葉だけが虚しく響いた。

 




さあ、次回いよいよ黒ゴライアス戦!正直一般冒険者相手にエドを戦闘させても長くなりますので、一気に飛ばしました。前回入れられなかった、ナァーザさんとのイベントも前半に入ってます。

黒ゴライアス、問題はどこまで貢献すれば経験値入るかですねぇw

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