ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――久しぶりですね、グリード。食べていいですか?


第51話 戦争に向けて

「――さて、準備は出来たかな?」

 

 愛用の槍を持ち目の前に立つのは、都市最強の小人族(パルゥム)、≪ロキ・ファミリア≫団長フィン・ディムナ。対するは左手に同じく槍を一本持ち、右手と両脚に仕込んだカルバリン砲以外の武装を全て解放したエド。リリは両手にボクシンググローブを付けている。

 

「それなら…………来たまえ」

「「!」」

 

 フィンさんからの言葉に応じ、二人が縦横に駆け巡る。Lv.2の身体能力に任せたデタラメの加速。しかし、目の前の相手はその速度で行われるフェイントにもしっかりついてくる。

 

「らぁっ!」

 

 気合一閃、エドがまず槍での最速の突きを放つ。フィンさんは大きく動くことも無く、首をかしげるだけで躱した。そこに回し蹴りを追撃で放ち、脚に取り付けた仕込みナイフで首を刈りに行く。それすら少ししゃがんだだけで避けられ、残った足にフィンさんの攻撃が迫る。

 

「足元がお留守だ!」

「が?!」

 

 柄の部分で軸足を払われ、体勢を崩して転倒する。慌てて起き上がった視界には、槍の石突きが迫っていた。

 

「エド!」

 

 そこに横合いから、リリのグローブが迫る。リリがボクシンググローブを付けているのは、あの『分解』の錬成陣を想定した攻撃だから。触れれば終わりという脅威の攻撃を模擬戦で再現するために、触れたのが分かりやすいグローブをはめたのだ。

 

「そんな闇雲じゃ、当たらないよ」

 

 フィンさんは横からの奇襲にも慌てることなく、身を躱してまたもや柄で腕の部分を弾き飛ばし、リリの脚も払った上で石突きを突き付けた。

 

「……何というか、君たちは戦闘方法が力任せで直線的だね。常に自分の最大の武器を、相手に当てるための行動を一直線に行う。おかげでフェイントや駆け引きがないから、非常に読みやすい」

「まあ、錬金術頼りの戦いだったからな……」

「私はサポーターですから……」

 

 二人とも、それぞれの『術』という最大の武器を、活かすために行動しているのだ。モンスター相手ならそれが一番効率が良いが、対人戦なら読み易くなるのは当たり前である。

 

「じゃあ、続けようか。リリルカ君の方は、出発前に何か用事があるそうだけど、エド君の方はギリギリまで鍛えてあげよう」

「ええ。ヘスティア様から、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)に向けて作戦の提案がありまして。敵が集団戦闘を挑んできた場合に限り、私の使える『魔法』で勝利を導いて欲しいと。その関係で、エドやナァーザ団長より先に出発することになります」

「ま、敵が集団戦闘じゃなく、一騎打ちかコンビ戦を挑んできたなら、作戦を遂行する必要もないんだけどな……」

 

 口ではそう言いながらも、エドは間違いなく集団戦闘になると感じていた。こちらは全員合わせてたったの四人。対して向こうは百人規模の派閥二つ分の同盟。間違いなく集団戦闘を挑んでくるだろう。

 

「そうなるとあまり時間は無い。さあ、休んでいる暇があるなら、立ち上がって挑んでくるんだ」

「「望むところだ(です)!」」

 

 その日は結局遅くまで槍で相手を吹き飛ばす打撃音が止むことは無かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、ゴブニュ・ファミリアの一室では、ファミリアの団長であるナァーザが、慎重に慎重を重ね、ある『調合』を行っていた。

 

(ここを貸して下さったゴブニュ様には、感謝してもし足りない……)

 

 彼女がここにいるのは、『青の薬舗』が崩壊したせいで、調合室が使えなくなってしまったから。そのため、エドが急場の調合室としてゴブニュ様に頼み込んだのだ。そして、大規模戦闘の際の『切り札』を調合するべく、初めて行う作製に挑んでいる。

 

「……それにしても、材料も≪ゴブニュ・ファミリア≫に発注済みだったことといい、エドは用意が良すぎる…………『硝石』、『硫黄』、『木炭』……これが『薬品』とはとても思えないけど」

 

 エドがカルバリン砲にも使っていたと言う奇妙な材料を、『調合』アビリティで底上げすべく、彼女は慎重に混ぜ合わせていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)開催決定から三日後、仮病を使い再三の神会(デナトゥス)出席の要請を断っていたヘスティアが摩天楼施設(バベル)を訪れ、ここに戦争遊戯(ウォーゲーム)の方式について話し合われることとなった。

 

「我々が勝ったら、ベル・クラネルをもらう」

 

 まず最初にアポロンが提示したのは自らの要求。そしてソーマ側が提示する条件についても自らが代理人を務めると言い、その提示する条件を告げた。

 

「リリルカ・アーデ、エド・エルリック、ナァーザ・エリスイス、以上三名の≪ソーマ・ファミリア≫への移籍、およびミアハの『処刑』が条件だそうだ」

 

 その言葉に、司会進行役を買って出ていたロキの瞳が細まる。ソーマが無関心なのは今に始まったことではなく、この条件は明らかに派閥の団長が言い出したことだとは容易に察せられた。『改宗(コンバージョン)』の冷却期間の穴をつくためとは言え、超越存在(デウスデア)の死を望むその団長への不快感が募る。もっとも、そのあたりはおくびに出さないが。

 

「そちらが勝者になった暁には、要求は何でも呑もう。まあ勝てたらだがね」

 

 鼻で笑うアポロンは、もう勝った気でいるようだ。ヘスティアはそんな様子にむっとするが、先にミアハが口を開いた。

 

「アポロンよ。それはソーマ側も同じと考えて良いのだな?」

「ああ、もちろんだとも、ミアハ。私はソーマから全権を委任されている」

「ならば、この書面の内容が≪ミアハ・ファミリア≫の求める内容だ。良く目を通し、確実にソーマの了承を得ておいてくれ」

 

 そう言って神全員に回されたのは一枚の羊皮紙。その内容に目を通し、アポロンが瞠目する。

 

「ソーマ・ファミリアの保有する施設・財産全ての没収だと!? おまけに現在ソーマが保有している『神酒(ソーマ)』の成功作・失敗作の全ても没収、更にはソーマ・ファミリアの一時的完全解散とは……!」

「委任されておるのだろう? 確とソーマに伝えよ」

「む……」

 

 この条件が実行されれば、ソーマ・ファミリアという派閥は一度完全に消えて無くなる。そうなれば酒造りができないソーマが、鬱に入って自害しかねない。流石に委任されているとは言え、そんな条件をこの場だけで呑むのは如何にも憚られた。

 

「……ソーマ・ファミリアに確認を取る。返事は待って貰ってもよいな?」

「よかろう。ヘスティアよ、そなたもこの場で予め条件を提示しておくのだ。この場の全ての神が証言者となってくれる」

「わ、わかったよ。それじゃあ……」

 

 ヘスティアの提示した条件は、ホームを含めアポロン・ファミリアの保有する全財産の没収、派閥の解散、そして主神アポロンの都市外への永久追放だった。これには負けると思っていないアポロンが二つ返事で了承した。

 

「それじゃ後は、戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝負形式やな。当人同士の希望はなんや?」

 

 ヘスティアが希望したのは派閥の代表者同士による『一騎打ち』。二対二のコンビ戦にはなるがこれが一番盛り上がると。それに対してアポロンが異を唱える。派閥の拡充を図らなかったへスティア達に合わせる理由はないと言うのが言い分だった。

 

 このやり取りに対して……ミアハは何も語らなかった。ただ腕を組み、瞑目している。さすがにその様子にロキが不審を抱いた。

 

「あー、ミアハ? 黙っとるとこ悪いんやけど、アンタからは勝負形式に提案は無いんか?」

「……勝負形式は、なんであろうと構わん。あえて挙げるとしたら、当事者双方に一つの条件を呑んで貰いたい」

「なに?」

「へ?」

 

 アポロンの聞き返す声に、ヘスティアの素っ頓狂な声が重なる。どうやら彼女も聞いていなかったようだ。

 

「――――勝負の中で、生命にかかわる重篤な傷害を負ったり、あるいは死亡したとしても、相手の派閥に一切文句を言わぬ。これが、条件だ」

 

 その言葉に、その場にいた全員が絶句した。常に優しげで、子供たちの安寧を願っていたはずのミアハから出るとは、思ってもみなかった言葉。どうやらソーマ・アポロンの両派閥は、目の前の医神の逆鱗に触れたのだと察した。

 

「よ、よかろう。その条件……呑もうじゃないか。もちろんソーマにも伝える」

「うむ。これで我が眷族()らも全力を奮えよう」

「って、ミアハ?! どうしたんだい、おかしいよ、今日の君!」

 

 隣にいたヘスティアが、流石にミアハに尋ねる。その問い掛けにようやくミアハは緊張を僅かに緩め話し始めた。

 

「……過日、ソーマ・ファミリアが我らの本拠地(ホーム)『青の薬舗』を襲撃し、破壊し尽くしたことは良い。形ある物はいつかは壊れるのだからな。だが、あ奴らは、その口でリリの身柄を真っ先に要求した」

「う、うん……タケから聞いてるよ」

「ソーマ・ファミリアの中で……顧みられることもなく、それでも懸命に生き抜いてきたのだ。我が眷族()となって、ようやく幸せを掴もうとしていたあの子を、恐らくはあの団長の私的な欲望のため、無理やりに引きずり戻そうとしたのだ。許すことなど出来ぬ」

 

 あくまで第一は、己が愛しの子のため。ミアハの変わらぬ芯が見えた気がして安堵したヘスティアは、自身もその条件を呑んだ。

 

 その後勝負形式は厳正なくじ引きの結果、『攻城戦』に決定。ヘスティア・ミアハの陣営が攻撃側となった。

 

 なお、ヘルメスが勝負を公正にするため、助っ人制度を導入してはどうかと提案したが、当事者であるミアハが、敗北した際に相手が、「助っ人がいたから負けた」などと言ってくる可能性があると指摘。助っ人制度はあえなく却下となった。

 

 この数日後、舞台となる城の選定と、ソーマ側が条件を全て呑んだ旨の連絡を受け、いよいよ戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、ある月明かりの無い夜、とある路地裏にて。

 

「団長。この間の酒場の件で、以前とっ捕まった分のペナルティは帳消しですよね?」

「ああ、その通りだ。良くやってくれたな、カヌゥ」

 

 話をしているのはソーマ・ファミリアの団長ザニス。そして周りにいるのはカヌゥと、以前リリの退団の時に捕まったカヌゥの仲間たちだ。

 

「――さて。早速だが、お前たちに特別に頼みたい仕事がある。引き受けてもらえるなら、今後お前たちにはノルマを課さないと約束しよう」

「本当かよ?!」

「よっしゃあ!」

 

 その提案に全員が狂喜乱舞する。それほどまでにファミリアのノルマは重く、厳しいものだったのだ。

 

「それでやって貰いたい仕事なんだが……今回アーデの魔法を使った『取引』を行うに当たり、取引の相手先を案内することになった。お前たちには『命がけで』その案内に当たって欲しい」

 

 そう言って示された路地の先。まるで暗闇に溶け込むように、真っ黒のローブを纏った人物が立っていた。その手に何か、赤ん坊くらいの布包みを抱えていた。

 

 一体こんな人物が何時からそこにいたのか、カヌゥたちは不審に思ったが、報酬の高さからせいぜい失礼の無いように揉み手しながら近づいた。

 

 

 ……次の瞬間、全員の胴体を、布包みから伸びた『触手』が捉えた。

 

 

「……あ? なんだ? なんだよ、こりゃぁああああ?!」

 

 全員碌な抵抗も出来ず、ずるずると引っ張られていく。振動で布包みが地面に落ち、黒いローブを着た人物が倒れ込んだ。ローブから出てきたその顔は、干からびたミイラだった。

 

「ひッ……!」

「おやおや、言ったじゃないか、カヌゥ? 『命がけ』で、その方を案内しろと」

「ふざけンな……! ふざけんなぁああああああッ!!」

 

 全員、手足の爪痕を地面に刻み込みながら、暗闇の中へと引きずり込まれ、余りに醜悪な断末魔の声が響いた。

 

 ……残ったのは、何時もと変わらない、全てを覆い隠す迷宮都市の暗闇だけだった。

 




戦争前夜、終了。ラスボスがアップを始めました。『背中に恩恵が刻まれている眷族なら戦争参加可能』という前提条件を、逆手に取ることになります。背中さえ残っていればいいため、カヌゥさんはある意味原作以上に悲惨なことに。ちなみにザニスの『取引先』は、原作でも不明なのであくまでもオリジナル。まあ、一番可能性が高いところです。

そして、特訓の裏で黙々と調合を続けるナァーザさん。弓使いと言う時点で、この攻撃はやらせて見たかったんですよ。調合持ちだからさらに酷いことにw
『便所と土間の土(安土桃山の硝石の代わり)、オッパイーヌの硫黄、木炭。三役揃えば、『――』である!』(byのぶのぶ)分からない人は、『ドリフターズ』と言う漫画を読んでください♪

激おこのミアハ様、条件はいいんですが助っ人のリューさん断っちゃいました。リューさんのファンの方、誠に申し訳ないです!
ミアハ・ファミリアの全員参加によって、彼女の見せ場はほぼ無くなってしまいましたから……

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