IS The harlequinade/leading role 作:サヴァヴァヴァ
そして短い話
連日あの一件で慌ただしかった社内は今は静まり返っている。
おそらく警備員は整備室で寝ている社員にタオルケットをかけてやっている頃だろう。
今日の内にサインを書かなくてはならない書類にサインを書き終えた。
今日もまた仕事が終わる。
終わってしまう。
仕事が終わったなら家に帰らなければいけない。
帰らなければいけないのだ。
あの家に、私達の人生をぶち壊した悪魔がいる家に。
社を出て駐車場に向かい、車の鍵を開けた。
するとポケットの中にある携帯が震えた。
携帯の画面を見るとそこにはあの悪魔の名前が表示されていた。
私は大きくため息を吐き、携帯の応答をタッチした。
『もう仕事が終わったの?』
この悪魔の声を聴くたびに反吐が出る。
「ああ。これから家に帰る」
すると悪魔はそれがどうやら不服なようだ。
『できたらあと一時間ぐらいどこかで時間をつぶしてくれないかしら?』
どうやら今日も男を連れ込んでいるようだ。
「…………わかった」
『それよりも聞いてよ。あの子ったら可笑しいのよ。私があの子に「泥棒猫の娘が!」って言って殴ったらそれがもう可笑しくて!ありもしないことで困惑してるのを見てたら笑いそうになるのを堪えるのがもう大変だったのよ!』
悪魔が上機嫌で笑いながらそう言った。
地面から何か液体が落ちるような音が聞こえた。
見ると携帯を掴んでない方の握り拳から血が垂れていた。
もう我慢の限界だ。
早く終わってくれ。
このままでは何を言ってしまうかわからない。
『……分かってると思うけど』
悪魔の上機嫌は突然鳴りを潜めた。
『妙な真似をしたら二人がどうなるかわかってるわよね?』
「……ああ、わかっているとも………」
そんなのは貴様と結婚してから嫌というほど理解している。
『ならいいわ。あっ、あと帰ってくるときに適当なカルヴァドスも買ってきてね。それじゃあね、あ・な・た?』
そしてたった一分だけの苦痛の時間が終わった。
私は車に乗ると言葉ではない大声を出した。
あれから車を走らせ、私は自宅の近くのレストランに入った。
そこで適当に料理を頼み、私は席に座った。
私はほとんど吸わない煙草に火をつけ、煙を吐き出した。
最近ではこのように分煙がされているレストランは珍しくなく、私の他にも二、三人の客が同じように煙草を吸っている。
しばらく煙草を吸っていると料理が私の前に並んだ。
私は煙草を灰皿に押し付け料理を食べ始めた。
ここのレストランは可もなく不可もなくといった味だが、それでも客が多いのはこんな深夜まで開店しているからだろう。
あの悪魔と結婚してからこの店の常連となった私が言っているからには間違いないだろう。
料理を食べ終え、店を出ると雨が降っていた。
私は傘を持っていないので足早に駐車場に向かった。
自宅に帰る途中馴染みの酒屋によりカルヴァドスを買い、私は自宅に着いた。
鍵を開け家に入ると電気はついておらず、暗く静かだった。
私は足音を立てずに二階に向かった。
部屋に入る前に悪魔の寝室へと聞き耳を立てた。
すると僅かながらに嬌声が聞こえた。
どうやら悪魔はまだ連れ込んだ男と楽しんでいたようだ。
私は静かにドアを開け、ネクタイを緩めた。
疲れた…
スーツを脱ぐ気力もなく私はベッドに倒れた。
眠る直前に私は今私よりも最悪な状況下にいる妻と娘のことを思った。
すまない……ミシェル…………シャルロット…
どこかの国の某所
この部屋は暗く、パソコンの画面の光しかその部屋には光源がなかった。
パソコンの前には一人の男がいた。
その男は一心不乱にキーボードを叩いていた。
男の目の下には濃い隈があり、ひどく疲れていた。
しかし男はそれでもキーボードを打つ速度を緩めなかった。
男の傍には食べかけのサンドイッチと大量のビタミン剤と水があった。
男が久々に食べた食事はこの食べかけのサンドイッチのみだった。
「たった一回失敗しただけで何だ…!たった一人死んだだけで何だ…!科学の発展にたった一人の犠牲も出なかったと思っているのか…!」
男はそう言いながらもキーボードを打ち続けていた。
すると男の後ろから突然光が差し込んだ。
「もう出来たかしら?」
男は振り向かない、自身に声をかけた女性を知っているからだ。
「はい。あともうちょっ…とでっと!出来ました!これなら『国』と『学園』の検査をスルーできるはずです」
「じゃああとは…」
「あとはこれを『黒ウサギ』に仕込むだけです」
「ご苦労様」
女はそう言うと男の肩に優しく手を置いた。
「たった一年でこれを作るなんて、あなたは本当に天才だわ」
「いいや。あなたが私をあそこから連れてきてくれたからこれができたんです」
「いいえ。これはあなただからこそ作れたのよ。本当に…本当に…
本当に天才と馬鹿って紙一重なのね」
「えっ?」
男は振り返り女を見た。
女の顔は女の背中からさす光がパソコンの画面より明るく、逆光でよくわからなかった。
しかし男には女が笑っているのがわかった。
突然男は胸が苦しくなった。
苦しさは痛みに変わり、男は両の手で押さえるがそれでも痛みは治まらない。
何か熱いものが喉をこみあげてくる。
男は胸を抑えていた手を口の方へと動かそうとした。
だが間に合わなかった。
男の口から大量の血があふれた。
男は今まで座っていた椅子から転がり落ちた。
男は考える。
これは明らかに何らかの毒物によるものだと。
男は思い出す。
自分が口にしたものを。
そして男はたどり着く。
女が差し入れに持ってきたサンドイッチを。
「どうやら気づいたみたいね」
女が男に声をかける。
男は必死に声を絞り出す。
「…な゛んで………」
「だってもう用済みだからよ」
女はそんなことも分からないのと言わんばかりだ。
「わざわざあなたを脱獄させてあげたのもこうやって部屋もデータも与えたのもすべてあなたが作ったものが欲しいからよ。わかる?」
「…………」
男はもう声も出せず弱弱しく息をするだけだ。
「それじゃあね。世界で初めてISの死亡事故を起こした犯罪者さん」
女はそういうと男から離れて行った。
男がいた部屋に何人ものスーツを着た女が入っていく。
男の死体を処理するためだ。
女は歩きながら考える。
必要なものはすべて揃った。
これなら自分達に容疑はかからないはずだ。
女は自分の部屋に着き、椅子に座った。
目の前のパソコンには三人の人間の写真が写されていた。
今この世界でもっとも有名な男達だ。
女はその男達を親の敵と言わんばかりに睨んでいた。
そして女は口を開いた。
「あなた達は存在してはいけないのよ。消えなさい、
次回からようやく二巻だー
次回 優人編 第九話 久々の休日と転校生