IS The harlequinade/leading role   作:サヴァヴァヴァ

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おまたせ 一カ月以上かけて2万字ちょっとしかないけどいいかな?


いろんなアニメやらゲームの影響でどんどん変わる話の展開



そしてシールドバリア―や打鉄の盾云々をすっかり忘れていたというガバガバさ


閑話 私と簪ちゃん

私の生まれた家は普通とは言えなかった。

対暗部用の暗部。

日本という国家に対して工作・攻撃を行う存在へのカウンター。

目には目を、歯には歯を、暗部には暗部を。

それを行う暗部。

それが更識家だった。

私はその家を継ぐことが生まれた瞬間から決まっていた。

幼稚園児くらいの頃は家が大きいことや家族以外の人がたくさんいるなくらいにしか思っていなかった。

しかし小学校一年生の時の誕生日の日から私の人生は大きく変化した。

 

 

「誕生日おめでとう」

「おめでとう」

「お姉ちゃんおめでとう!」

「おめでとうございます!お嬢様!」

「「「「「「おめでとうございます!!!」」」」」」

その日私の感情は喜びで埋め尽くされていた。

当たり前といえば当たり前だ。

自分の誕生日パーティーを喜ばない小学生はそうそういないはずだ。

飾り付けられた部屋、たくさんの料理とケーキ、そして誕生日プレゼント。

私は本当に嬉しかった。

お父さんやお母さん、簪ちゃんやお父さんの部下の人達。

こんなことを言うのもあれかもしれないが今までと変わらない誕生日。

今日の誕生日も当たり前に終わるはずだった。

 

「すまないがみんな席をはずしてくれ」

お父さんの一言によって普通の誕生日ではなくなった。

 

お父さんの部下の人たちがぞろぞろと部屋から出て行った。

「誕生日終わっちゃったの…?」

「ちょっとだけお父さんとお姉ちゃんが二人でお話しするだけよ」

お母さんが簪ちゃんを連れて部屋から出て行った。

「お父さんどうかしたの?」

「刀奈…お父さんの話を聞いてくれ…」

お父さんは今まで見たことのない真面目な顔をしながら私へと話しかけてきた。

「刀奈はお父さんがどんな職業…いや、お父さんは何をしている人だと思う?」

「何をしている人…?」

「例えば警察官とか会社員とかさ、お父さんは何だと思う?」

「うーん…」

お父さんは家にいたりどこかに働きに行っていたり…

「わかんない…」

「お父さんはね、暗部なんだ」

「あんぶ?」

「日本に悪いことをしようとしたり、日本で悪いことをしようとしている人を捕まえたりとか他にもいろんなことをする職業だよ」

「それってお巡りさんとかがすることじゃないの?」

「お巡りさんじゃできないこととかやっちゃ駄目なことをかわりにやるんだよ」

「ん―…?」

「まだ難しいか…刀奈、あとで道場に来なさい。そこで今度は別の形で刀奈に教えるよ」

この家はかなりでかく、道場やらよくわからない建物がある。

「わかった」

「よし。もうみんな入っても大丈夫だ!」

お父さんが大きな声でみんなを呼んだ。

みんながぞろぞろと部屋の中に入ってきた。

「お話終わったの?」

「ああ、終わったよ」

そして私の誕生日パーティーは再開した。

 

 

 

 

 

誕生日パーティーが終わって私は部屋にいた。

目覚まし時計を見ると夜の11時を過ぎたころだった。

いつもならとっくのとうに寝ているが、お父さんが道場に来るように言っていた。

でもいつ行っていいのかわからないからこの時間まで部屋にいてしまった。

すると部屋のドアを誰かが四回ノックした。

「お嬢様、楯無様が道場まで来るようにと言っておられます」

お父さんの部下の一人の声だった。

私は部屋を出て道場へと向かった。

 

 

 

 

 

部屋を出て道場までの廊下には明かりは最小限でしか付けられていなかった。

物音一つない夜、私の歩く音だけがやけに響いていた。

そして道場につくとそこにはお父さんがいた。

胴着に袴を着て、道場の奥で正座していた。

明かりは廊下と同じように最小限で窓から月の光が差し込んでいた。

「刀奈、奥の部屋に着替えがある。着替えてきなさい」

お父さんに言われて奥の部屋に行くとそこにはお父さんが来ていた胴着と袴と同じ物があった。

でもサイズは私に合わせたもので着替えると袖も裾もぴったりだった。

私は部屋から出てお父さんの横まで行った。

「お父さんこれからどうする―――」

そこまでしか言えなかった。

 

唐突に感じた浮遊感。

 

そして落下。

 

衝撃。

 

「かはっ…!」

気が付けば私は道場の床の上で寝ていた。

無理やり息と空気を吐き出させられる。

背中の感覚がなくなり遅れて痛みが発生する。

お父さんを見るとお父さんは正座をやめて立っていた。

ようやく私はお父さんに床に叩きつけられたということを理解した。

今にも泣きだしてしまいそうになるのを無理やり我慢して私は立ち上がった。

「お父さん?今のはなんなの…?」

お父さんは何も答えない。

私が瞬きをするとお父さんは目の前まで迫っていた。

お父さんの片手が私の手を掴み、足で私の足を踏んだ。

そして手を掴んでない方の手で私のお腹を殴った。

「う、う゛え゛ぇ゛ぇぇぇ…」

あまりの衝撃に私は吐いてしまった。

お父さんが手を放して私は自分が吐いたものの上に倒れこんだ。

「おと゛うさ゛ん…なん゛で…?」

「……いま刀奈にした技はこの家に伝わる技の一つを応用したものだよ。これから君が覚えなければいけないものの一つだ」

「お…父さん…?」

「立ちなさい刀奈、修行はまだ始まったばかりだ」

「修行…?」

「ああ、この家を継ぐための修行だ」

お父さんは私を無理やり立たせた。

「……いや、今日の修業はここまでだ。シャワーを浴びてきなさい。続きは明日にしよう」

お父さんは道場から出て行った。

お父さんが出た後にこの家の掃除をしてくれている人が道場に入ってきた。

そして私が吐いたものの掃除をし始めた。

「お嬢様、失礼します」

彼女は私の顔についたものを拭きとった。

「胴着と袴は洗濯機の中にいれずに横に置いてある桶の中に入れておいてください」

掃除をし終えると彼女は道場から出て行った。

私も道場から出て風呂場へと向かった。

 

 

風呂場の前の脱衣室にある洗濯機の横には大きな桶が置いてあった。

私は胴着と袴を脱いで桶に入れた。

お腹を見るとお父さんに殴られた場所が赤くなっていた。

風呂場に入って私は蛇口のハンドルをひねった。

頭に熱いお湯がかかる。

お湯が私の全身を濡らしていく。

私は体を洗い始めた。

お湯が私の体温を上げていく。

 

でも…

 

でも私が流した涙が通った後はどうしようもなく冷たく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日から修行が始まった。

それは苛烈を極めるものだった。

他にも人心掌握するための方法、素早く敵を倒すためのいくつもの格闘術、暗殺術、etc.etc.etc.…

本音ちゃんや(うつほ)に会ったのもこのころだった。

だけど私は二人とほとんど話をしなかった。

それどころかお父さんともお母さんともほとんど話さなくなった。

私はこの家のことが大嫌いになった。

みんなが将来ケーキ屋さんになるとか警察官になるとか言っている頃に私は家を継ぐための勉強修行…

私にだってこのころはそんな夢を持っていた。

でもそれは一瞬で崩れ去った。

何度も家出をした。

家出をするたびにお父さんの部下に捕まって家に連れ戻された。

そしてお父さんは私に優しく聞いてくるのだ。

「なんでこんなことをしたんだい?」と。

言ってしまいたかった。

こんな家なんか継ぎたくない、この家なんか大嫌いだって。

でも言えなかった。

言ってしまったら何かが終わってしまうような気がしたから。

なにより私がこの家を継がないことになったら簪ちゃんが今私が受けている修行をかわりに受けることになってしまう。

簪ちゃん。

この家の中でただ一人の味方。

この家のことを知らず、純粋に私を慕ってくれる妹。

このころの私にとって簪ちゃんこそが私の全てだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそあの一言は私の人生を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修行を始めてから一月ちょっと経った頃だ。

突然簪ちゃんが私に聞いてきたのだ。

「お姉ちゃんは暗部になるの?」

私はぎょっとした。

このことは今まで簪ちゃんには一度も話したことがないはずだ。

じゃあ誰が言ったんだろうか?

「それでお姉ちゃん修行してるの?」

どうしよう…正直に言うべきかどうか…

「どうかしたの?」

簪ちゃんは小首をかしげた。

……うん、言おう。

「そうよ」

「ほんとうなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんかっこいい!」

 

 

 

簪ちゃんは花のような笑顔を浮かべながら私に言った。

 

 

 

 

 

この時!

 

この時私に電流が走った!

 

それこそ今までに感じたことがないような幸福感と満足感!

 

私がこの家の人間じゃなくて男だったら一目惚れをするレベルの可愛さだった!

 

修行の疲れや今までの暗い感情を吹き飛ばしてくれた!

 

この時私は悟った。

 

「可愛いは正義」だと…

 

この後私は簪ちゃんを三分間にわたって抱きしめてしまった。

その時の顔は見ていたお母さん曰く「凄まじく幸せそうな変質者の顔」とのことだった。

 

 

 

このことを中学生ぐらいになった時に虚や本音ちゃんに語ると二人は「シスコンですね」「シスコンだね~」とうなずきながら言った。

シスコンの何が悪いのかしら…

シスコンだったからこそ私はあの頃を乗り切ることができたのよ。

私は二人にシスコンであることの素晴らしさを三十分にわたって説いた。

二人とも終わった後はうんざりとした顔になったが…

 

 

この出来事があった後私は今までのようにいやいや修行を受けることはなくなった。

何故なら修行が終わった後でご褒美があるからだ。

修行が終わった後に簪ちゃんと話すと「今日も修業があったの?」と聞いてくるのだ。

「そうよ」と私が応えると簪ちゃんは同じような笑顔で私を癒してくれるのだ。

そして少しずつ私はお父さんともお母さんとも昔みたいに話せるようになっていった。

しかし一年後のある日事件が起きた。

 

 

 

 

 

お父さんが大怪我をして病院に運ばれたのだ。

 

 

 

 

 

小学生の頃の私には教えてもらえなかったが、私が楯無の名を継いだ後にお父さんが何が起きたのかを教えてくれた。

更識の情報網に「北海道のとある山の山中に妙な集団が集まっている建物があり、そこに大漁に危険な薬物が運び込まれている」という情報がかかったのだ。

お父さんは部下にこの建物の探索、発見次第建物内に潜入し真偽を確かめるように命じた。

部下の人たちは必死にその建物を探索し、発見したのだ。

しかし守りが固く潜入は不可能、強行突入するしか方法がなかった。

そしてお父さんが現地で指示を出すために車で空港へ向かう途中に何者かが襲撃したのだ。

襲撃してきたのは全部で五人、バイクに乗って車に乗っていたお父さんを追跡した。

そして持っていた銃で車のタイヤをパンクさせお父さんを撃った。

幸い、もしくは狙ってやったのかは知らないがお父さんは右手と右肩を撃たれるだけで済んだ。

お父さんは救急車を呼んで病院まで搬送され大事には至らなかった。

でも誰が襲撃を指示し、実行したのかわからない状態で家に戻るという訳にもいかず、病院に一時的に入院したという訳だったのだ。

しかもこの後に白騎士事件が起きてその時に起きたごたごたの解決に更識家も関わり建物の調査は延期。

ようやく調べようとしたときにはもう建物は跡形もなく消えていた。

それが事の真相だった。

この事件の犯人は私が楯無の名を継いだ時は見つかっていなかった。

しかし私が楯無の名を継いだ時から事件はまた動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が楯無の名を継いでから一週間後、私も襲撃された。

 

 

学校から帰るときにバイクに乗った人物が私に鉄パイプを後頭部へと振るってきたのだ。

後ろにいた人が教えてくれたから避けれたがもしいなかったら…

私は何とかよけて、犯人の顔を見ようとした。

でも犯人はバイクのヘルメットを被っていて顔はわからなかった。

犯人は失敗したとわかるとすぐに逃走した。

私はバイクのナンバープレートの数字を見ようとしたがナンバープレートは跳ね上げられていた。

バイクの車種はよくわからなかったが何とかいくつかの特徴を覚え私は家に連絡した。

こんな時は普通警察に通報するべきだと思うだろうが父の事件で襲った犯人はバイクに乗っていて顔を隠し、私を襲った犯人もバイクに乗って顔を隠している。

関連性がないと考えない方が無理がある

 

これは更識家―――「更識楯無」を狙った犯行だ。

 

ならこの事件は警察には負えない事件である可能性が凄まじく高い。

だから私は家へと連絡したのだ。

連絡し終わった後に私は走って家へと帰った。

 

 

 

 

 

家に着くとそこにはお父さんと更識家の人間、そして更識家の人間に取り押さえられている犯人がいた。

「大丈夫か!?」

お父さんは私を見ると走って私のところまで寄ってきて、私が怪我してないか調べ始めた。

「大丈夫よお父さん」

「…ふう……ならよかった…」

お父さんは安心して息を吐いた。

そして犯人の方を向いて犯人のヘルメットを外した。

「お前は…!」

その男の顔を見て私も驚いた。

 

 

 

そいつはお父さんの部下で、私が生まれるより前から更式に仕えていた人間だからだ。

 

 

 

「何故だ…何故お前が…」

お父さんは悲しそうな顔をしながらその男に聞いた。

「……ずいぶんと衰えたもんだな、十六代目更識楯無」

男は薄気味悪い笑いを浮かべながらお父さんに言った。

「なんだと……?」

「おかしいと思わないか?なんでこんな簡単に俺が捕まったと思う?」

「………」

「お前はもういい。用があるのはお前だ、十七代目更識楯無」

「私……?」

「ああ、お前だ」

男は私を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

「!?」

なんで…なんで簪ちゃんが……?

駄目だ…落ち着け……目的はわからないがこのままじゃ相手のペースに乗せられる…!

「……あなた……いや、あなた達の目的は何?」

「簡単だ。今日から五年間更識家は何もするな」

「何もするな…?」

「ああそうだ。それさえ守れれば五年後には返してやるさ。できなきゃ更識簪の命はない」

「まさか…」

「ああ、俺がお前を襲ったことで更識家は躍起になって俺を追いかけてくれたからな。おかげで更識簪から目をそらすことができた。ありがとうな?」

「簪ちゃんには本音ちゃんが付いてるはずよ?」

「あのガキか?あいつなら今頃どこかで寝てるんじゃないか?」

私は携帯を取りだして本音ちゃんに電話をかけた。

「お願い…つながって…」

1コール……2コール……3コール…4コール…

「も…もしもし~……?」

つながった!

「本音ちゃん!?無事なの!?」

「なんとかね~…まだ頭から血は出てるけど…それよりかんちゃんが…かんちゃんが変な奴らに連れて行かれちゃった…」

嘘じゃなかった…

「おい、どうした?顔色が悪いぞ?気分が悪いなら横にでもなったらどうだ?」

男はへらへらと笑いながら私に話しかけてきた。

「あなたは黙ってなさいっ!……本音ちゃん、簪ちゃんを連れて行ったのはどんな奴らかしら?」

「全員顔を隠しててよくわからなかった…それにそいつらは車でかんちゃんを連れて行った…でも…」

「でも?何かそいつらに関する情報があるの?」

「でもその車に発信機を何とか仕掛けといたよ~…」

「よくやったわ本音ちゃん…後で好きなものを一つプレゼントしてあげる…」

私はあいつに聞こえないように小声で答えた。

「えへへ~…でも見つけるなら早くしてね…車の中に無理やり投げただけだからいつ見つかってもおかしくないよ…」

「わかったわ。とりあえず怪我を治すことに専念していなさい」

私は電話を切って奴を見た。

「とにかくこの男は別の場所に連れて行って。そして何か持ってないか調べてちょうだい」

そいつを取り押さえていた何人かがそいつを別の部屋に連れて行った。

「みんな聞いてちょうだい。本音ちゃんが簪ちゃんを連れて行った奴らの車に発信機を仕掛けたわ。おそらくその発信機の信号を調べれば簪ちゃんを誘拐した奴らを見つけることができる。今すぐ追ってちょうだい!」

私の言葉で皆が一斉に動き出した。

私も行きたいがどこかで奴の仲間がこの家を監視しているかもしれない。

「まずい…みんなにこのことを伝えておくのを忘れていた!」

私は急いで行動を始めたみんなを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今自分の部屋にいる。

出来ることなら今すぐにも簪ちゃんのところに行きたい、簪ちゃんを助けに行きたい。

でも監視されている可能性がある以上私が動けば簪ちゃんの命はない。

 

私は待った。

何かがあったら携帯電話に連絡するようには言っておいた。

今日はやけに時間が遅く流れているような気がする。

 

私は待った。

日が暮れ始めた。

まだ電話は鳴らない。

 

私は待った。

まだ電話は鳴ら…

 

 

 

その時電話が鳴り始めた。

私はすぐに電話に出た。

「もしもし!?どうなったの!?」

「やりました!簪お嬢様を奪還しましたよ!」

「…!」

私は全身の力が抜けていた。

手から携帯電話が落ちてしまったがそんなことはどうでもいい。

よかった…よかった…!

他にも何か聞こうとしたが電話を落としていたことを思い出し電話を拾った。

「怪我はないかしら?」

「怪我は特にありませんが眠っています。おそらく薬か何かでもかがされたのかもしれません」

「わかったわ。それと犯人達は捕まえたかしら?」

「はい…捕まえたには捕まえたんですが…」

「……何か問題が起きたの?」

「……その…簪お嬢様を誘拐した犯人達も更識家の者でした」

「……」

「とりあえず戻ります…」

電話が切れた。

またか…

今日だけで何人もの人間が更識家を裏切った。

「まさか…」

嫌な予感がして私はあいつがいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

「ようやく俺達の条件を飲む気になったか?」

そいつはちゃんと手と足を椅子にひもで縛られた状態で部屋にいた。

少なくともこいつをこの部屋に連れて行った人間は裏切り者である可能性は低くなった。

「悪いけど更識家はその条件は飲まないわ」

「お?妹を見捨てる気か?お前の大切な妹を「簪ちゃんはもう救出されたわ」……あ?」

さっきまで機嫌が良かった男の表情がみるみる曇っていく。

「……何があった?」

「本音ちゃんが簪ちゃんを連れて行った車に発信機を取り付けたのよ」

「…っち!あいつらあのガキを始末し損ねたのか!」

「聞かせてちょうだい。なんで簪ちゃんだったの?」

「…………十七代目更識楯無の唯一の弱点、それこそお前の大切で大切で仕方がない妹、更識簪だ。お前のことを少し調べれば大体の奴がそれにたどり着くと思うぜ?」

「…そう」

私は部屋から出て行った。

外から車がこの家の敷地内に入った音がする。

「楯無様、簪お嬢様を乗せた車が今到着しました」

その言葉を聞いて私は玄関へと走り出した。

 

 

 

「簪ちゃん…!」

更識家の人間の一人が簪ちゃんを抱えて入ってきた。

「おら!さっさと歩け!」

そして裏切り者たちも。

「お前達もか……」

お父さんは頭を抱えている。

「あなた達は何が目的で更識を裏切ったのかしら?」

「言うと思うか?」

「言わせてあげるわ。あなた達が誰を相手に回してしまったのか思い知らせてあげる…連れて行きなさい」

そいつらはあいつとは別の部屋へと連れて行かせた。

「簪ちゃんはあとどれくらいで起きるかしら?」

「わかりません…とりあえず待つしか…」

「私が簪ちゃんの部屋まで運ぶわ」

「わかりました」

私は簪ちゃんを背におぶった。

簪ちゃん…無事でよかった…

私は簪ちゃんの部屋へと歩きだした。

 

 

 

簪ちゃんの部屋に着くと私は簪ちゃんをベッドに寝かせた。

簪ちゃんはすぅすぅと寝息を立てている。

時間を見るともう七時半を超えていた。

「ん…んん…あれ…お姉ちゃん?」

「簪ちゃん……!」

「私は…確か家の人が家まで送ってくれるって言ってそれで車に乗って…もしかしてずっと寝てた?」

「簪ちゃん…あなたは…」

私は簪ちゃんに何が起きたか伝えようとした、が…

「あなた最近寝不足とかじゃないでしょうね?車に乗ってすぐに寝て家について起こそうとしてもずっと寝てたからベッドまで運んでもらったのよ」

私は真実を伝えるのをやめた。

この子は私が知る限りでは自分のことで誰かに迷惑をかけてしまうのをよく思わない。

それに自分を誘拐したのが更識の者だと知ったら疑心暗鬼に陥ってしまうかもしれない。

だから私はこのことを隠すことにした。

「とりあえず着替えなさい?服にしわが付いちゃうわよ」

「わわっ…それじゃあ着替えるからお姉ちゃん部屋から出て…」

簪ちゃんが顔を赤らめながら私に言った瞬間の表情を写真に収めたい衝動に駆られたが私は部屋を出た。

「簪お嬢様は起きましたか?」

部屋の外には簪ちゃんを抱えていた人間が立っていた。

彼女は見張りだったのだろうか?

「ええ。今は着替えているから入っちゃ駄目よ」

とりあえずお父さんに会いに行こうとしたがそういえば私も制服のままだ。

着替えなくちゃ駄目だな…

私は自分の部屋に行こうとした。

………

「ちょっといいかしら……私といえば何を想像する?」

「何を想像する、ですか……私は簪お嬢様を想像しますね。楯無様は簪お嬢様を本当に大切にしていますから」

「そう…ありがとう」

今度こそ私は自分の部屋へと向かった。

あいつの言葉が私の頭の中で響く。

 

十七代目更識楯無の唯一の弱点、それこそお前の大切で大切で仕方がない妹、更識簪だ。お前のことを少し調べれば大体の奴がそれにたどり着くと思うぜ?

 

私の唯一の弱点…か…

もしまた更識家―――「私」を狙って何かが起きるときに真っ先に狙われるとしたら…

いや、そうとは限らない。

私は頭に浮かんだ嫌な考えを振り切るように歩くスピードを上げてお父さんのところへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件から一週間が経ったがほとんど情報も得られなかった。

せいぜい得られたのが奴らは更識家以外の組織に所属している可能性、そして全員の所持品の中に入っていた「人誅」という文字が入ったボタンだけだった。

ボタンについて聞いても何も話さず、お手上げなのだ。

何とか情報を得ようと躍起になっているがおそらく無理だろう。

それより私の頭の中には一週間前に思いついたある手段がまだ頭から離れない。

それは簪ちゃんを守る手段、私の弱点をなくす手段、最悪の手段…

これをやってしまえば私はずっと、いや、下手すれば一生後悔するという確信がある。

しかしやらなければまた簪ちゃんが狙われ、今度は助けられず後悔するかもしれない。

前者の後悔と後者の後悔。

 

 

私が選んだのは………前者だった。

 

 

 

 

 

 

 

そこから先はもう二度と思いだしたくもない。

私がやったことは簡単だ。

「簪ちゃんに嫌われる」

あとは私が我慢をするだけだ。

周りから「あの姉妹は仲が悪くなった」「姉が妹に嫌気が差した」そう思われればあの子は私の弱点ではなくなり、あの子は狙われなくなる。

ついに妹離れをする時が来ただけだ。

そう自分に何度も言い聞かせた。

あの子が私と自分を比べてしまうというコンプレックスを抱いているのはうすうす気づいていた。

だからこそ私はそこを突いた。

効果は抜群だった。

本音ちゃんは私からこのことを無理やり聞きだすと簪ちゃんに事実を打ち明けようとしたが私はそれを禁じた。

虚にも意地を張らない方がいいのではと何度も言われたが私はそれを聞き入れなかった。

そしてある日、私は簪ちゃんにとどめを刺した。

 

 

 

 

それはある日家の廊下でばったり簪ちゃんと鉢合わせした時のことだった。

「あ…お姉ちゃん…」

私の顔を見た途端簪ちゃんの表情が暗くなった。

私は簪ちゃんのことになるとすぐ表情に出てしまうからポーカーフェイスであり続けるのは一苦労だ。

「あら?どうかしたのかしら、簪ちゃん?」

「………なんでもない」

簪ちゃんは私の横を通り過ぎようとした。

でもそれは許さない。

「私はどうかしたのかしら、と聞いたんだけど…何か答えたくない事情があるのかしら?」

簪ちゃんの腕を掴み引き留めた。

「放して……」

簪ちゃんは腕を無理やり動かして私の拘束から逃れようとする。

私は力を強くして腕を強くつかんだ。

「……簪ちゃん、あなたは私の手を振りほどけないのかしら?」

私は残念そうに言った。

「………お姉ちゃん?」

「簪ちゃん、あなたは覚えているかしら?『いつか頑張ってお姉ちゃんのことを手伝う』って言ったことを」

「………」

簪ちゃんは黙ったままだがおそらく覚えているだろう。

「残念だけどこんな簡単なことをできないようじゃあなたの手伝いなんていらないわ。むしろ邪魔よ」

「お、おねえちゃん…?」

「たとえ訓練を積んでもどうせたかが知れているわね」

どんどん簪ちゃんが動揺し始めている。

私は覚悟を決めてとどめの言葉を言い放った。

 

 

 

 

 

 

「簪ちゃん、あなたは無能のままでいなさい。あなたなんかいてもいなくても大して変わらないから」

 

 

 

 

 

「っ!?」

簪ちゃんの腕を放すと簪ちゃんは走って私から逃げて行った。

私は何もせずただその背中を見ていた。

その日はもう枕を涙で濡らした。

それからは簪ちゃんと私は何も話さなくなり目が合うとすぐにそらすようになった。

今まであんなにお姉ちゃんお姉ちゃんと言ってきていたのに…

しかしこうすると決めたのは私なのだ。

だから私が折れるわけにはいかない。

私はその日から修行と簪ちゃんを誘拐した奴らの組織を叩きつぶすことに尽力を尽くした。

 

 

 

そして中学二年生の時についにチャンスが訪れた。

 

 

 

それは私が高校をどうするか悩んでいる夏の蒸し暑い日のことだった。

私はその時IS学園に行くか普通の高校に行くか悩んでいたのだ。

何故この二択で悩んでいたかというとこれから先起こりかねない事件のことを考えていたのだ。

 

「ISを用いたテロ事件」

 

ありえない話ではない。

ISコアは世界中の国家に配られ、その国家の特定の企業が配られたコアの中からいくつかを貸りているのだが、とある国の企業からコアが盗まれたという事件が起きたのだ。

犯人は捕まりその事件は秘密裏に処理され表沙汰にはなっていないが世界中の国家が震撼した。

下手をすればISという世界最強の兵器を有したテロリストが誕生したかもしれないからだ。

世界中の国家はISを有したテロリストの対処を考えなければいけない時代へと突入したのだ。

日本も対処の手段を考え、白羽の矢が立ったのが更識家だったのだ。

警察や特殊部隊に持たせるべきでは?と思うかもしれないが警察にISを持たせるのは危険では?という意見が多く警察がISを所有することができなくなったのだ。

それに相手はテロリストか他国の暗部かもしれない。

そこで対暗部用の暗部、更識家の出番だ。

情報を収集し、相手がISを有してないなら今まで通りに、もしISを有しているのならIS操縦者である「私達」の出番になる。

 

そう、()()だ。

 

私以外にもう一人選ばれていたのだ。

簪ちゃんだった。

 

私はどうするか悩んでいたのだ。

国からの提案を受けるべきか受けないべきか。

国からはこう言われてはいるのだ。

「どうするかは君の判断に任せる」と。

「ただもしIS学園に行くなら君は日本の代表候補生になることができる」と。

私はどうするか考えたあげく、断ることに決めたのだ。

正直に言ってしまえば私はISにも代表候補生にも興味を抱いてはいなかったのだ。

ISは小学校から現在までに学校の授業で教えられてはいるが私とは特に縁がない物、代表候補生になると更識としての仕事を行うための時間が削られる。

だから私は断ることにしたのだ。

そして私はこの話を持ってきた政府の役人に断るということを伝えようとした。

しかしこのことを話そうとした役人は「悪いが君とは別の人間があの件のことを受けることになった」と先に言ったのだ。

私は誰が受けるか聞いた。

そして目の前の人間は私の妹の名前を吐いた。

私は驚き、役人にどういうことなのか問い詰めた。

彼は「彼女にはいわないようにと言われているが…」と言い渋ったが本当のことを教えてくれた。

国は私があまり乗り気でないことを察して同じ更識である簪ちゃんにも同じことを言ったのだ。

簪ちゃんも乗り気ではなかったようだが私も乗り気じゃないということを知ると二つ返事で引き受けたのだ。

そして私は理解した。

気づいてはいたがあの子は私と自分を比較してしまうというコンプレックスを抱いていた。

あの子は私が引き受けなかった仕事を引き受け、代表候補生となることで、()()()()()()()()()()()()()

私はあの子の代わりに自分が代表候補生になると言ったがもうあの子がなるということで決定していたのだ。

 

 

私は大いに悩んだ。

あの内向的だった妹の成長を喜ぶべきなのか、そしてどうやってあの子に代表候補生であることをやめさせるか。

本音ちゃんにそれとなく簪ちゃんに代表候補生を自分から辞退させるように誘導させたが効果はなかった。

どうしたらいいのだろうか。

私にはもうどうすることもできないのだろうか?

しかしここで簪ちゃんの件とあの組織の件の両方をどうにかするチャンスが奇跡的に訪れたのだ。

 

 

GRU――――――ロシアから私にお客さんが来たのだ。

 

 

 

 

 

 

「いやあ突然訪ねて申し訳ありませんね。Ms.楯無」

私がどうするか悩んでいた日曜日の昼過ぎ、突然彼が訪ねてきた。

彼はスーツ姿とかではなく本当に観光客のようなラフな格好とリュックサックというスタイルで我が家のインターホンを鳴らしたのだ。

私は彼が来たことに驚いた。

何故ならGRUの人間が日本に来たという情報は一切更識家には入ってきていなかったからだ。

「それで、一体何の用で訪ねてきたのかしら?」

私達は客間でテーブルを挟んで話している。

「……これを見ていただきたい」

彼はテーブルの上に手を出すと何かを私の前に置いた。

 

 

 

 

 

 

そこには「人誅」の文字が入ったボタンがあった。

 

 

「っ!?…どこでこれを見つけたんですか」

「やはり知ってましたか……」

彼は身を乗り出した。

「聞かせてもらいたい……このボタンは更識家のものじゃないでしょうな?」

「………なぜそうだと?」

「……これを見てもらいたい」

彼はリュックサックの中からノートパソコンを取りだした。

そして開いて画面を私の方に向けた。

どうやら何かの動画を見せたいようだった。

 

 

動画が始まると誰かの息と走る音、そして真夜中のどこかの森が映し出された。

撮影された時刻と時間を見ると二週間前のロシアの時間での深夜だった。

この日付…どこかで見たような…

…そうか!思い出した!

ロシアで起きた爆発事件!

この映像が撮影された日にロシアにある化学工場で謎の爆発があったのだ。

すぐに対策出来たため死者は出なかったが、原因はまだ調査中だったはずだ。

映像を見てると一瞬何かの明かりに照らされて銃が見えた。

拳銃だ。

ということはこの映像を撮影しているのは警察官だろうか?

そういえばロシアの警察では警帽にカメラを付けておいて証拠や現場で起きたことを撮影するように一年ほど前に決定されていたか。

映像の中でどうやら動きがあったようだ。

撮影者が何かを叫んでいる。

ロシア語は習ってないから何を言っているかわからない。

撮影者以外にも誰かが叫んでいる。

すると撮影者の前に誰かが立っていた。

どうやら撮影者達は目の前の誰かを追いかけていたようだ。

だが逃げていた誰かは逃げた先に岩の壁があって追いつめられていた。

おそらくそこは崖の下にあった森だったのだろう。

撮影者が周りを見ると何人かの警察官がいた。

誰かが追いかけていた人物を照らした。

そこに立っていたのは黒髪黒目の黄色人種の男―――日本人だった。

顔立ちを見ても日本人にしか見えない。

整形の可能性もあるが…

撮影者が何かを男に叫ぶ。

「おとなしくしろ!」や「完全に包囲されている!」と言ってるのだろうか?

『ああ…仕方がないか…』

男は何かを呟いた。

すると男はどこかから何かを取りだし自分の首に刺した。

よく見るとそれは注射器だった。

男は注射器を引き抜くと苦しみだして膝をついた。

警察官達が男に近づいた。

普通ならこのまま男は警察官に逮捕される流れだろう。

しかしわざわざ彼が日本に来てまで私に見せたのだ。

何かがあるのだろう。

そしてそれはすぐに起きた。

男の体が爆発的な勢いで()()()()()()

そして男は立ち上がった。

男の体は痩せ型だったが今は筋肉の塊の様になっていた。

腕は丸太のような太さで、身長は50cm以上は伸びていた。

服は筋肉のせいで破けズボンだけがギリギリ破けてはいなかった。

『はぁぁぁぁ……』

男は大きく息を吐きだした。

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

男はまるで獣のような咆哮を上げ、警察官達に襲い掛かった。

そこから始まったのは一方的な暴力だった。

男の振るった腕が警察官の一人の頭をとらえた。

警察官はトラックにはね飛ばされた様に吹き飛ばされた。

次に警察官の一人の頭を掴むと木に体を何度も叩きつけた。

別の警察官が銃を何回か撃ち、男に命中させたが男は痛みを感じてないのか男の動きを止められなかった。

警察官の首が横に百八十度以上曲がると男は警察官を投げ捨てた。

撮影者以外の誰かが叫ぶ。

撮影者は全力で来た道を戻りだした。

別の場所から悲鳴が二回聞こえた。

撮影者が走る音と息以外の音が聞こえだした。

まるで象が木をなぎ倒しながら走るような音だ。

突然、撮影者が足を止めた。

いや、違う。

撮影者が突然浮き上がった。

撮影者が後ろを振り返ると男が片手で撮影者の首を掴んでいた。

男は掴む力を強くし、撮影者の首をへし折った。

首を掴んでいた手を放し、男は撮影者をその場に落とした。

男は撮影者が死亡したのを確認すると森の中へと消えて行った。

そして動画は終わった。

 

 

「……………これはなんですか?」

「…我が国で起きた工場の爆破事件、覚えているだろう?あの日本人の男はこの事件の犯人だと思われる人物だ。現場に駆け付けた警察官数名が発見、この工場があった街には特に観光名所のようなものはなく旅行客があまり来るとは思えない、おそらくそんな理由で男に話を聞こうとしたが逃走、追いかけて…こうなった」

「…ではもう一度聞かせてもらいましょう。なぜ更識家がこれを行ったと思うのですか?」

「…一つ目はあの工場が爆破されたことだ。あの工場の数キロ離れた場所に我が国の兵器、そしてISの研究と製造をしている工場がある。もし対応が遅れようものなら最悪あの土地一帯が化学薬品によって汚染され我が国のISの研究と製造に大打撃を受けるところだった。…日本からすれば他国はようやく手に入れたISという宝を奪った存在といっても過言ではない。そしてその国の一つである我が国への報復の可能性、これが一つ目だ。二つ目はこのボタンに入った文字だ。「人誅」…天が誅するのではなく人が誅する…我が国はそれなりに歴史がある。その歴史の中で他国に恨みを持たれることがあったが日本と我が国には浅からぬ因縁がある…まあ一つ目と似たようなものだが…。三つ目…それがあなた達『更識家』だ。アメリカのCIA…ロシアでの我らのような存在、他国の情報を集め、テロリストを監視し、時には国のために他国に破壊工作を行う……まあ大戦以降破壊工作はほとんどどこの国もやってないしあなた達は暗部への対応のための暗部だが…。……我々はあなた方更識家が日本に命じられやったのではないか?と疑っているのですよ」

「……なるほど。でもあの男があのような姿になったことには触れないのですか?」

「…あれは我々でも分かりかねているんですよ」

「……あの男は更識家の人間でもなければ我々更識家はあのようなことをしろと命じられたことはありません。それにあの男のことは私達でも追っているんですよ」

「………どういうことか説明していただけるかな?」

私は話せる範囲で何があったか、そしてその男が所属している組織が存在しているかもしれないことを話した。

「……なるほど。その拘束されている男は今どこに?」

「ある施設にいますがそこの場所は教えられません」

「……はあ、仕方ない。とりあえず更識家が日本に命じられたわけじゃないということが分かっただけでも収穫か」

彼はパソコンを自分の方に向けてからまた操作し始めた。

そしてまた私に画面を向けた。

そこには男が自分に注射を打つところを拡大した画像だった。

注射の中には緑色の不健康そうな色の液体が入ってる。

そして彼はリュックサックから何枚かの写真を取りだした。

それには何人かの人間が写っていた。

日本人が三人、外国人が七人。

日本人は男性が二人に女性が一人で二十代後半程、外国人は男性が四人に女性が三人で年齢が青年から老人までばらばらだった。

「これは?」

「こっちの写真が我々の局員でこの日本にいた。……まあ今の時代ならどの国でも他国に情報機関の人間を送っている。あなた達だってそうでしょう?…ここに写っている局員全員が日本で失踪した。何があったか調べに行った者も全員が失踪した」

「…………」

私達は他国の情報機関の人間は監視しているが、そんな情報は一度たりとも聞いたことはない。

というよりかそれを担当している人間から聞いていない。

……まさかまだ裏切り者がいたのか…

この後担当の人間を呼び出して聞かなければいけないことができたわね…

こんな組織に入るには身元の調査やその他もろもろのチェックは受けることになる。

そして入れるのはすべてが白だった人物のみだ。

つまり更識という組織に入ってから裏切ったか、それとも最初から裏切るために「誰か」が経歴を白にした手下を潜り込ませたかの二択か…

「そして他国の情報機関の人間も消えた……今この日本にはどの国の情報機関の人間も立ち入ることはできないし存在しない」

彼は日本人が写っている写真を指差した。

「この写真に写っている日本人、この二人は夫婦でかのブリュンヒルデの()()である織斑博士夫妻、そして彼が二人の友人である木村武博士。三人とも薬学の研究をしていた」

この二人があの織斑千冬の両親か…

父親はかなりのイケメンでメガネをかけている。目つきは鋭く織斑千冬にどことなく似ている。

母親は身長は低く写真の中で笑顔を浮かべている。その笑顔はやわらかくどこか人を和ませるようにも感じる。

そして木村武博士、彼はどこにでもいそうな顔つきで髪は短髪だった。

「この三人がこの事件と何の関係が?」

「この三人は十年以上前に失踪した…まあ織斑博士夫妻についてはある種の暗黙の了解みたいなものがあって誰も話さないが…三日前に木村博士の友人に会いに行って何か聞いてないかを調べに行きました。そしてその友人に会い、私は聞いた。博士は友人に『織斑博士夫妻はある薬を作ってるがこの薬をちょちょっと作り替えれば世界中の軍需産業から金をかっさらえるスーパーマンを作る薬が作れる』と。その時は酒の席だったから冗談だと思ったが今思えば消されたんじゃないか…と言っていた。おそらくその薬こそがあの男が注射したものだったのだろう」

「なぜその情報…というよりその友人の存在をあなたが知っているのか教えてくれないかしら?」

「その……冗談かと思われるかもしれないが…一週間前に我々が使用していたパソコンの一つに匿名で情報が送られてきたのだ。織斑博士達の存在と木村博士の友人からなら何かの情報が聞きだせるかもしれないと」

「その情報は信頼できるものなの?」

「わからない…しかし情報と一緒にこの画像も添付されていたのだ」

彼はまたパソコンを操作した。

画面に画像が映し出された。

そこには写真よりも年を取った木村博士があの緑色の薬を作っている画像があった。

「おそらく三人とも組織に拉致されその『スーパーマンになる薬』とやらを作らされているのだと思う…」

突然彼は私に土下座をしてきた。

「頼む!あの男がいる組織を発見するために私達に力を貸してくれ!」

「……聞くのを忘れていたけど何故更識家に助けを求めたのかしら?」

「あの凄まじいレベルの排除の仕方からおそらく奴らに関係する何かがこの日本にあると思ったからだ…私達自身の力で何とかしたいが今の日本はあなた達更識家以外の暗部の人間は誰も存在しないし立ち入ることができない」

「……私達がロシアに協力することによるメリットがないわ」

「もし協力してくれるなら日本…というより更識家には資金、必要なもの、情報を提供させてもらう」

「なぜそこまでするの?あなた達の目的は何なのか教えてくれないとあなた達を信用できないわ」

「……その『スーパーマンになる薬』の情報、作るための方法を消すためだ」

「消す?国に持って帰るの間違いではなくて?」

「その情報の最後にはこう書いてあった…『今奴らはあの薬を使ってもっと恐ろしいものを作ろうとしている』と」

「恐ろしいもの……」

「おそらくあのハルクもどきよりもたちが悪いものだとは思うが…」

「…………」

困ったわね…

ある程度情報を得られたということを考えれば彼と会ったことはよかったかもしれないが、彼らの目的が本当かどうかわからない上にわざわざ彼らと協力する必要もない。

「……」

彼は何も言わない。

私の返答を待っているようだ。

申し訳ないが彼の頼みはことわ……いや…待てよ?

「一つ聞いてもいいかしら?もし私達があなた達の頼みを引き受けたらいろいろくれるんでしょうね?」

「ああ、可能な限りのものを用意させてもらう」

「言質は取ったわよ?実はね……」

私は彼に欲しいものを言った。

「………………その二つは私の一存だけでは決めかねる。本国に戻ってから検討させてもらう」

彼は立ち上がって写真をリュックサックに仕舞った。

「そろそろおいとまさせてもらいますかな」

「……そういえば護衛とかはなしでここまで来たのかしら?」

「いませんよ。本当に極秘でここまで来ましたから」

「それはいくら何でも無茶すぎないかしら…」

「無茶は承知の上ですよ。それではMs.楯無、またいつか会いましょう」

彼はドアを開けて部屋から出て行った。

私は椅子にもたれかかり天井を見た。

うまくいくといいのだけれど…

私はため息を一つした。

そして立ち上がりドアの外にいた人間を呼んだ。

「お呼びでしょうか?」

「ええ。他国の情報機関の人間の監視を担当している部署の人間を呼んでちょうだい」

聞かなくちゃいけないことがあるからね…

私は今後の更識の人間の過去の洗い直しのことを考えて大きなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

結局部署の人間にも一人あのボタンを持っていた人間はいた。

それからみんなの反対を押し切り徹底的に更識に所属している人間の過去を洗い直した。

その結果今のところ裏切り者はいないことが分かった。

しかし今後裏切るかスパイが紛れ込む可能性は否定できない。

だからこれ以降更識に所属する、所属しようとする人間にはこれ以上に身元の調査やその他もろもろを一層厳しくするという対策を立てた。

これは一時しのぎということはわかっている。

とにかく全ては組織を見つけなければ始まらない。

彼がロシアに帰ってから二週間後、私の元にロシアから手紙が届いた。

内容は私の要求したものを用意することができたというものだ。

私が要求したもの、それは「私専用のIS」と「ロシアの代表候補生の座」だ。

理由はいくつかある。

一つ目は私がISを使えるようになるということだ。

もともと日本という国家が求めたのは「ISが使える更識の人間」だ。

更識家に仕える女性は何人もいるが、もしかしたら他国にヘッドハンティングされてしまうかもしれない。

だから更識の人間、絶対に日本という国家を裏切らず対テロリスト、対暗部ができる人間を欲したのだ。

そして簪ちゃんが代表候補生になろうとしている今、私ができることは簪ちゃんの役目をかっさらうことだ。

これをやったら簪ちゃんから恨まれるだろうなとは思うがあの子には変に傷つくことはしてほしくない。

二つ目は私自身がロシアに行けるようになることだ。

更識にいた裏切り者や組織がやっていることからかなりの規模、そして力を持っている組織だと思われる。

そんな相手なら盗聴やハッキングなんてお手のものだろう。

なら私にできるのはデジタルな方法ではなくアナログな方法、直接情報を相手に聞いたり渡したりするのだ。

他にもいくつかあるが、こんなところだろう。

私は自分の決めたことを当時の防衛大臣に伝えた。

帰ってきた返事は「とんだ裏切りもあったものだ」という怒りの電話だけだった。

当たり前といえば当たり前だ。

大臣からすれば私は更識の仕事を放棄しようとしているだけでなく他国の重要な戦力の一つになろうとしている大馬鹿者と言われてもおかしくないことをしようとしているのだ。

でもそれでも私はあきらめない。

たとえそれがどんな茨の道だろうと………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう決めてから早数年、私は今IS学園の生徒会室の生徒会長の席である紙とにらめっこをしている。

ここにたどり着くまで大変だった。

まずは専用機の制作、次は組織の探索、その次は国家代表になることになりそれによるその他もろもろ……

そして学園最強の称号を得て生徒会長になる…

正直織斑千冬がいる時点で学園最強は不可能なのだがもう織斑千冬は殿堂入り扱いではずされているのだ。

まあそんなことは今はどうでもいい。

問題は私が見ている紙に書かれている人間だ。

シャルル・デュノア、フランスの代表候補生。

一応この紙は転校手続き関連の書類なのだが…

「お茶を入れました…どうかしたんですか?」

虚が私にお茶を入れてくれたが私の顔を見て何かがあったと察したようだ。

「これ見てちょうだい」

私は書類を渡した。

「……これがどうかしたんですか?書類に不備はないと思いますが」

そう、書類に変なところはない。

問題があるのは()()()だ。

私はもう二つ…いや、二枚持っていたものを虚に渡した。

「これは……写真ですか?」

虚は私が手渡した写真を見た。

それはシャルル・デュノアの顔写真と全身写真だ。

「ねえ虚、一つ聞いていいかしら………この子女の子じゃない?」

「………」

虚は何も言わない。

おそらくまだ思考しているのだろう。

私が初めてシャルル・デュノアの顔写真を見た時の感想は「えらい中性的な顔立ちの子だな」だった。

そして全身写真を見たときに疑問が出てきたのだ。

なんというか…こう…体に柔らかさがありすぎるのだ。

書類に書いてあったがシャルル・デュノアはフランス代表候補生、つまりは軍人と同様の訓練を受けているのだ。

発見されたのは二階堂勇気より一週間後だったらしいが真偽のほどは定かではない。

そしてそれからこの学園に転校するということになるまでずっと訓練を受けていたということになっている。

そこで全身写真が問題になってくるのだ。

ロシアだけだったかどうかはわからないが代表候補生の訓練はなかなかのものだった。

そしてこの子も訓練を受けたならそれなりに筋肉はつくはずだ。

それなのにこの子の体には柔らかさ…というよりかは女性らしさがあるのだ。

筋肉が付きづらい体質といってしまえばそこまでだが…

「どうでしょう…判断材料があまりにもなさすぎます。この段階で何かを言っても憶測にすぎないと思いますが…」

そう、これはまだ憶測の段階でしかない。

「そういえば会長、この子の相部屋の相手は決まっているんですか?」

「決まったわ……今日の朝にね…『二階堂勇気』…彼に決まったわ」

これに関しても一騒動遭った。

教師の中にも私と同じようにあの子を女の子ではないかと疑っている人が何人かいた。

そして職員会議の時にこのことが議題になったのだ。

そうなると次はあの子をどう扱うかということになった。

もし私が女子を男子として送り込むなら最低限でも整形はさせる。

しかしあの子はおそらくなにもしていない。

じゃあ何故彼女はこの学園に来れたのか。

フランス政府の話ではデュノア社から存在を教えられ、政府の人間が精密な検査をし、正真正銘男だということでこの学園に来るということなのだ。

つまりデュノア社とフランスがグルになってあの子をこの学園に送り込んだ。

なら目的は何か?

そんなリスクを冒してまであの子を送り込んだ狙いは何か?

そしてシャルル・デュノアという爆弾をどう扱うか?

会議は踊る、されど進まずとはよくいったものでまったく会議が進まなかった。

そんな時職員の一人が呟いた。

「二階堂勇気と相部屋にさせれば…」

その呟きを聞いた時は誰もが何を言っているんだ?となった。

しかし一人、また一人とその意見を支持しはじめた。

だがその意見に反対する教員もいた。

彼と相部屋にさせる意味が分からないと。

そして呟いた教員の一人は理由を答え始めた。

一つ目はあの子の出方を窺うこと。

呟いた教員、彼女はフランス人だが遠距離恋愛をしている恋人がいてその恋人はデュノア社に勤めていたらしい。

勤めていたということから仕事を辞めたのかと思ったがどうやらリストラされたらしい。

リストラされた理由はデュノア社が経営不振に陥り始めたからだ。

理由は簡単、デュノア社が第三世代機を開発できていないからだ。

デュノア社は量産機のシェアで世界三位に輝いているが開発したのは第二世代機、しかも第二世代機の開発があらかた終わり始めたころだった。

そして始まる第三世代機の開発。

第二世代機を開発し終わったデュノア社はすぐに第三世代機の開発を始めたがあまりにもデータも時間もなさすぎた。

その結果フランスは「イグニッション・プラン」から除名された。

「イグニッション・プラン」とは欧州連合(EU)が立てたISを保有したテロリストへの対処するための手段だ。

欧州連合の他のISの開発をしている国のいくつかがすでに第三世代機を開発した中でフランスだけが開発中なのだ。

フランス政府はこの結果に業を煮やしてデュノア社へのISの開発の資金援助を大幅カット、そしてもし次の「イグニッション・プラン」の計画を立てるときまでに第三世代機を開発できない場合資金を全面カットしISの開発を禁止することにした。

これならあの子がこの学園に来た理由はわかる。

おそらく狙いは男性操縦者(彼ら)だ。

その彼らの中でも目的は織斑一夏だろう。

彼が持つ専用機『白式』は『第三世代機』でありそのうえ『単一使用能力』が使え、それが『零落白夜』なのだ。

デュノア社からすれば喉から手が出るレベルで欲しいものだろう。

そして海堂優人、彼が持つ『黒銃士』も『第三世代機』で『第三世代武装』を積んでいる。

彼らから専用機のデータを盗る、それがあの子―――――デュノア社の狙いだ。

これならなぜ政府があの子を男としてこの学園に来ることを許可したかはなんとなく想像がつく。

おそらくデュノア社が賄賂を渡したのだ。

そしてこんなことを言ったのだろう。

「もし彼女を男性操縦者としてIS学園に行かせればあの二人の専用機のデータを取らせることができる。そしてデュノア社が第三世代を開発してイグニッション・プランで使用する機体に選ばれた暁には今以上に金を渡す」とでも。

だがまだこれはただの状況証拠。

あの子をどうにかできる理由にはならない。

そこで『二階堂勇気』の出番だ。

彼と相部屋にすればあの子は彼の専用機のデータを手に入れようとするだろう。

だがしかし彼の専用機は打鉄、『第二世代機』の『量産機』だ。

あの子からしたらいらないものだ。

ならあの子は次にどうする?

残りの二人と接触を図ろうとするだろう。

そこであの子がどうするか?

怪しい行動はしなかったかを見張るために彼を相部屋にする。

そして二つ目はその彼がどのような人物かを見極めるためだ。

学園内部でも国―――――虹咲IS局局長が彼の情報を渡さなかったことに不満を抱えている教員は多かった。

そしてある噂ができた。

「もしかして彼は人造人間の類なのでは?」というものが。

都市伝説だがどこかの国が自国の軍隊に優秀な人材を入れるために人造人間を作っているというものがある。

その都市伝説の正体が彼なのではないか?

人造人間が彼で、軍隊が自衛隊。

クローンを作ることは禁止されているが人造人間を作ることは禁止じゃない、という法律はどこの国にもない。

それなら虹咲が情報を渡さなかったことも頷ける。

頷ける…が…正直言ってこっちの理由はなかったことにされている。

 

 

そして職員会議の結果二階堂勇気とシャルル・デュノアが相部屋になることになったのだ。

 

 

 

 

「……長……会………会長!聞こえてますか!」

「え、ええ。聞こえてるわ」

私が職員会議の内容を思い出していたら虚が私の目の前まで来て私を呼んでいた。

「もう……せっかく入れたお茶なのに冷めちゃったじゃないですか……」

見るとさっきまで湯気を立てながらいい香りを放っていた紅茶はすっかり冷めていた。

「大丈夫よ。持ったいないからちゃんと飲むわ」

私がお茶を飲み始めた時に生徒会室のドアが開いた。

「ただいま戻りました~!」

本音ちゃんが入ってきた。

「あのね本音…ちゃんと入る時にはドアをノックするようにって何度も…」

虚が本音ちゃんに説教を始めたが、本音ちゃんは無視して話し出した。

「あのね~お客さんだよ~」

本音ちゃんが誰かを生徒会室に入れた。

その人物を見て私はお茶を吹いた。

 

 

 

 

 

簪ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何の用かしら?私はあなたに何の用事もないわよ?」

声が上擦ってしまった。

あの後吹いたお茶を私が拭いている間簪ちゃんはずっと私のことを見ていた。

なんだか恥ずかしくなってとにかく早めに拭き終わった。

しかしあの子は何故ここに来た?

あの子がこの学園に入学してから生徒会室がある辺りはずっと避けていたはずだ。

「………お姉ちゃん一つ聞かせて欲しいことがあるの」

あの子が私のことをお姉ちゃんと呼ぶのはいつ以来だろうか?

「お姉ちゃんは何で私に無能でいなさいって言ったの?」

「その答えはあの時に言ったはずよ?あなたが邪魔だから。それ以外に何もないわ」

彼女は私をずっと見ている。

そして少し目を閉じて、息を整えて目を開けて私にこう言った。

「やっぱり………お姉ちゃん…それ嘘でしょ?」

「………なんでそう思うのかしら?」

「お姉ちゃん、昔から嘘をつくときに鼻の穴が少しだけ広がる癖があるんだよ」

「嘘!?」

私は生徒会室に置いてあった手鏡を持って自分の顔を映した。

「私は更識楯無じゃない…」

鼻の穴は広がらない。

「私は更識楯無だ…」

鼻の穴は広がらない。

「もう!嘘だったじゃ……あ…」

ようやく私は気が付いた。

私…簪ちゃんにひっかけられた。

これじゃ私が言ったあれが嘘だったと言っているようなものじゃないか!

三人とも何とも言えない顔で私のことを見ている。

「ち、違うわよ!これは何となくの気分でわざわざ引っかかってあげただけで…!」

私が言い訳をしようとしたら本音ちゃんと虚が顔を合わせて頷いた。

「お嬢様。そろそろ意地を張るのはやめた方がいいと思います」

「そうだよ~本当のことを言った方がいいと思うよ~」

「二人とも!?」

「本当のこと…?どういうことなの?」

私は腕時計を見た。

「これから先生と会う約束があるからこれにてしつ『本当のこと教えて!!!」……はい」

私が生徒会室から戦略的撤退をしようとしたら簪ちゃんは私の腕を掴んで私の本当のことを言うように命令した。

私は何とか掴まれた腕を振りほどこうとしたが出来ない。

そして私は観念して本当のことを言うことにした。

簪ちゃんが誘拐された事件、私がしたこと、そしてこの世界のどこかに存在する組織のことを…

簪ちゃんを見る。

あの子をまっすぐな目をして私を見ていた。

そういえば簪ちゃんはこんなに大きかっただろうか?

昔はもっと身長差があったと思ったが…

簪ちゃんはこんな目をしている子だったろうか?

昔はこんなにもまっすぐとした覚悟した目をする子じゃなかった。

「お姉ちゃん…お姉ちゃんの話を聞いていろんなことを思ったよ。そして一番思ったことを言うよ……お姉ちゃん、私はね…お姉ちゃんに無能のままでいなさいって言われたときに本当にショックだった。私はお姉ちゃんのことをいつの日か手伝えるようになりたいって思ってたから。それこそ自分という人間のことを否定されたようにも思ったよ。そしていつからかこう思ったよ…いつかお姉ちゃんのことを見返してやる!って…」

「……」

「それは昨日までずっとそうだった…でも今日ある人が言ったの、お姉ちゃんが言ったことは本当なのか?って…それで私は勇気を出してお姉ちゃんに会いに来たの」

「簪ちゃん…」

「お姉ちゃん…今まで私にことを守ってくれてありがとう。でもお姉ちゃん、もうこれからこんなことはもうしなくていいよ。これからは頑張ってお姉ちゃんのことを手伝うから…お姉ちゃん…大好きだよ」

この時になって分かった。

私はあの子を守ると言いながら結局それはあの子を籠の鳥にしていただけだった。

でもあの子はいつまでも籠の中にはいなかった。

あの子は成長して籠の中から自力で抜け出した。

それこそ私の裏をかけるレベルまでに。

私は奴らの影を追い続け、この子の顔すらまっすぐに見ていなかったんだ。

それを理解した時、私は涙を流しながら簪ちゃんに抱き着いていた。

「ご…ごめ゛んなざいいぃぃぃ!わだじも簪ちゃんのこと大好きよおおおおお!!!」

「お姉ちゃん…苦しいよ…」

それからしばらくの間私がわんわん泣きながら抱き着いて簪ちゃんが少し困ったように笑いながらも私の頭を撫でているというどこか変な光景が生徒会室にあった。

 

 

 

 

「本当にごめんなさい簪ちゃん……」

「いいよ。お姉ちゃんの本当の気持ちも聞けたから。それじゃあお姉ちゃん、また明日!」

そう言って笑顔であの子は生徒会室から出て行った。

「よかってね~お嬢様」

「ええ…」

「それじゃあ会長。簪様もあのように成長したのですからあなたも成長してシスコ…簪様にべったりなところを治したらどうですか?」

「今シスコンって言おうとしたわよね?……まあいいわ、私も今回のことでいろいろ分かったわ」

「分かった?」

 

 

 

 

 

「ええ……妹の成長は姉が思っているより何倍も早いものだってことが……あと私はずっとシスコンのままだってことが」

 

 

 

「お嬢様………ん?…結局シスコンを治す気はないってことじゃないですか…」

最後の方は小声で言ったが聞こえていたらしく虚が残念そうに言った。

「そうよ、それこそがあの子の姉である更識楯無という人間なのだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとなくキメ台詞っぽいこと言おうとしてますけど全然キメ台詞になってません。あとやらなくちゃいけない仕事がまだあるんですからしっかりやってくださいよ?」

「ええ~…」

 

 

 

 

 

 

 

 




ほんっっっとうにお待たせしました!


頑張って少しづつ書いてはいたんですけど色々考えながら書いたら遅れてしまいました。









後この話が書き終わったのは4月11日の午前4時ですのでかなりめちゃくちゃなことを書いている気がして心配です…





次回 優人編 第十一話 セシリアに料理を教えよう 俺達はそれを固く誓った 
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