IS The harlequinade/leading role 作:サヴァヴァヴァ
何が起きたかわからない。
試合は順調に進んでいたはずだった。
少しだけヒヤリとする場面もあったけど、それでも二階堂は途中で落ちて一夏とシャルロット、そしてラウラの二対一になった。
問題はその後、ラウラがVTシステムで暴走し始めてからだった。
確かあれは敵対行動をしたか、武器を持っている人間にだけ襲い掛かるはず。
だけどラウラがいの一番に襲い掛かったのは、武器を持っていない二階堂だった。
奇跡的に二階堂は初撃をかわせたが奇跡はそこまでだった。
一瞬だった、一瞬で、二階堂は泥の剣で磔にされた。
俺はアリーナの最前列に走った、二階堂の一番そばに近づくために。
「二階堂!おい!返事をしろ!」
駄目だ…!返事もないし、腹からの出血が酷すぎるし顔色ももう真っ青だ。
これじゃあもう…
ガッ!
「うぁっ!?」
突然何かに体が包まれる。
それがアリーナのバリアーの切れ目から伸ばされたラウラの手だと気づくのに時間はかからなかった。
そんな馬鹿な。
アリーナのバリアーを破るにはどれだけの威力の武器を使えば破れると思ってるんだ。
そんな武器を使えば必ず何か予兆があったはずなのに、現実じゃ何の音もしないでバリアーが破られている。
だけど、ラウラの持っている剣。あれを見てようやくわかった。
あの輝きを知っている。
あれは―――零落白夜だ。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
そしてラウラにアリーナの吹き抜けの方へと投げられた。
まるで野球ボールのように回転しながら飛び、前後不覚、上も下もわからない。
でも、そんな中でもその輝きを見逃すことはなかった。
黒銃士を纏い、カラドボルグを呼び出し泥の剣を防ぐ。
零落白夜を纏った剣、それは細部が泥によって見えづらいが、まさしく暮桜の唯一の武装である雪片だ。
だが何故あの雪片いや、ラウラが零落白夜を使うことができているんだ。
零落白夜は一夏の単一仕様能力のはずだ。
だったらこの世界で零落白夜を使えるのは一夏だけのはずだ。
なのになぜラウラが使っているんだ。
原作のVTシステムは技や姿形を真似ることができても、単一仕様能力の再現はできていなかったはずだ。
まさか、原作にあったようにどこかの研究所が「あの事故」以降に研究を続けて再現したとでもいうのか。
けたたましく鳴り響く警報、いたるところから聞こえる悲鳴、怒号。
少しだけ周りを見ると、アリーナの出口に生徒達が急いで集まっていた。
だが誰も出ていこうとしない。
いや、出られないのだ。
何故ならアリーナの出口が締まっているのだ。
無人機が襲撃した時と同じように。
一夏は二階堂に近寄り体を揺すっている。
二階堂の安否を確かめているんだろう。
シャルロットは茫然自失していた。
そしてそんな大きな隙を、ラウラは見逃さなかった。
ラウラの狙いは、一夏だった。
高速でラウラは一夏に切りかかる。
「一夏ぁっ!!」
二人がラウラに気を配っていないのは明白だった。
そしてラウラが狙うとしたらおそらく一夏だろうというのは予測がついた。
だからこそ、間に合うことができた。
瞬時加速を無理やり連続して行い、ラウラと一夏の間に割り込みその泥の剣を防ぐ。
「今は二階堂のことを気にしてる暇なんかない!」
「っ!…でも!」
「このままじゃお前も!俺も!シャルルも殺されるぞ!」
「くそ…くそぉぉぉ!」
もう、誰が見たって二階堂は助かる見込みがないのは明白だ。
俺は一夏に檄を飛ばし、一夏の意識を二階堂からラウラに向けさせる。
後はシャルロットをどうしたらいいか…
「みんな!下がってなさい!」
その言葉と共に現れた七人の影。
教師の人達の制圧隊だ。
「シャルルっ!」
「え、あっ優人」
教師の人達が事態の解決に当たっている間にシャルロットがどうなっているかを知らなければ。
「シャルル!しっかりしろ!」
シャルロットの肩を掴んで彼女の目を見ながら話す。
「あれ、勇気が。らう。先生にお腹刺されて。あんなに血が。」
シャルロットの話していることは片言で、目尻に涙が溜まっている。
このままじゃ駄目だ…!
「シャルル!早く!ピットの方に!走って!」
「でもっ」
「いいから!急いで!」
俺はシャルロットの背中を無理やり押し出した。
シャルロットはふらふらとだがAピットの方へと歩き出してくれた。
「いやぁっ!」
悲鳴が聞こえた。確かこの声はさっき来た先生の声だ。
振り返るとそこにはすでにラウラに倒された教師がアリーナの地面に横たわっていた。
やっぱりか…
嫌な予感はしていたが、ここまで早いか…!
ああ、わかっていたさ。IS学園の先生だからといって全員が強いというわけではないことは。
整備科の先生だっているし、実技があまり得意じゃない先生がいることもわかっていたさ。
だが、千冬さんの劣化コピーとはいえここまでの実力を有しているとは…!
残りの教師の人達は遠巻きからラウラを狙って銃撃を繰り返している。
下手に近づけば倒された教師の二の舞になるからだ。
だが、ラウラは弾丸をかわし続け、果てには振るった泥の雪片で銃撃を防ぐという技すら披露して見せた。
そして高速で飛び、撃っていた教師の人達に斬撃を叩き込む。
どうしたらいいんだ…!
なぜか原作以上に強化されたVTシステム、戦いに身が入っていない一夏、戦えないシャルロット。
どうすれば一夏がラウラを倒せるんだ!
「優人!」
「!?」
しまった!
「くっ!」
気がつけば目の前にいるラウラ。
その手に握られた雪片の一撃をすんでのところでカラドボルグで防ぐ。
「ぐぁっ!」
しかし、その一撃を防いだ後の蹴りには対応できず、蹴り飛ばされてしまった。
「大丈夫か優人!?」
蹴り飛ばされた俺は一夏にキャッチされ、体勢を立て直した。
「ラウラは!?」
そうだ、もしVTシステムが強くなっているならこんな隙を見逃すはずが…
だがさっきいた場所にラウラはいた。
追撃も何もなし。
なんのつもりだ…?
ラウラが泥の雪片を俺達以外に向けた。
その先にいるのは…シャルロット。
「まずい!」
俺と一夏、そしてラウラはほぼ同時に動き出した。
先生達も、ラウラの意図を察しラウラを止めようとするが止めることはできない。
シャルロットは先生への攻撃音によって振り向き、自身に近づくラウラを見て立ち止まってしまった。
わかっている。わかっているよ。
これが、罠だってことは。
シャルロットを殺すふりをして、俺達をおびき出して攻撃するつもりだってことも。
だけどこの罠にかからないという選択肢はない。
かからなければラウラはシャルロットを何の迷いもなく殺すだろう。
でも、間に合わない。
まずい…まずい…
ラウラの持つ泥の雪片が零落白夜を纏う。
まずいまずいまずい…
そしてラウラが雪片を掲げ―――
まずいまずいまずいまずいまずいまずい!
―――振り下ろした。
ギィンッ!
「……え?」
だが、その一撃が彼女に届くことはなかった。
シャルロットの目に前に立つ人物によって、彼女は救われた。
だがその人物がそこにいるのはあり得ない。あるはずがないのだ。
だってそこにいたのは、二階堂なのだから。
あいつはその手にラウラが持っているものと同じ泥の雪片を握り、ラウラの一撃を微動だにせず受け止めていた。
ラウラから受けた傷は一切癒えておらず、傷口から向こう側の景色、シャルロットの機体の一部が見える。
どう見たって瀕死の重傷どころかほぼ死んでいるはずの状態で、救命領域対応による昏睡にもならずに立っている。
何がどうなっているんだ…?
「……おい」
それはまるで、地獄の底から響くような声だった。
二階堂の全身から、異様な気配が放たれている。
そして二階堂の目はあの時と、シャルロットのことについて話し合った時と同じ目をしていた。
「……殺す」
その一言と共に、二階堂の全身からどす黒いオーラが放たれた。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「なんだ!?」
『現在ハッキングを受けています。一時コア・ネットワークを遮断。ハッキングを受けたデータを特定。ファイアウォール及びセキュリティを強化。ハッキングを行った相手の特定を開始。…』
ハッキング!?このタイミングで!?
まさか…目の前の異常事態とこのハッキング。
とてもじゃないけど切り離して考えていい物とは思えない。
あいつが…二階堂がハッキングの犯人なのか?
フッと二階堂から放たれていたオーラが消えた。
そこに立っているのは黒い騎士。
その騎士の手には赤く透き通った剣が握られ。
全身が甲冑に覆われ、フォルムは攻撃的だった。
そして、その騎士から放たれている殺気が恐ろしかった。
瞬きができない。
―――瞬きしたら目の目にあの騎士がいるかもしれないから。
今だけは心臓が鼓動を打つのを止めてほしいと願った。
―――心臓が一回鼓動を打つ間隔が致命的な隙になってしまうから。
カラドボルグを持つ手が震えてしまう。
―――こんなもの投げ捨てて今すぐ逃げ出すべきだと悟ったから。
ああ、駄目だ。俺達全員これからあいつに「優人!」っ!
「一夏…?」
気がつけば一夏は俺の肩を掴みながら俺の目の前にいた。
俺は今何を…あいつ気配に呑まれていたのか…?
「オオオオオオオォォォォォォォ!」
「っ!」
騎士が叫ぶ。
ただ叫んだだけなのに空気がびりびりと振動し、全身が総毛立つ。
無理やりあいつのことを見る。
本当に何が起きたかわからない。
あいつの使っていたISは打鉄だったはずだ。
だったら初期化も最適化も何も起きないはずじゃないのか?
…あり得るとしたら銀の福音みたいに無理やり形態移行が行われた?
だとしたらあの打鉄のスカートアーマーの名残があるのはうなずけるが…
「勇気?勇気なの?」
シャルロットがそう問うが、黒い騎士はまるでシャルロットの存在に気づかないようにその手に握る剣を軽く振るった。
数瞬後、騎士が再び振るった剣がラウラの腕を切り裂いた。
その振るわれた一撃は残像すら残さない一撃だった。
ラウラいや、VTシステムはあまりの出来事に対応できなかったのか、反撃せずに後ろに下がった。
騎士は己の一閃で切り落とした彼女の腕をじっと見つめ、踏み潰した。
「「なっ!?」」
俺と一夏はその行動に驚愕した。
そうだ。あの行動は、もしかしたら切り落としたラウラの腕を粉砕し、この騒動が終わった後のラウラを片腕にしたかもしれないからだ。
でも踏み潰した後に上げられた足の下には何もなかった。
肉も、骨も、血も。
そのことに胸をなで下ろしたが、まだ安心はできない。
その騎士の放つ殺気が恐ろしかった。
まるでタールのようなひどく粘度を帯びた殺気が、暴風雨のように叩き付けられ体に纏わりつく。
動けない。何とかしなければという思いが削がれ、逃げ出したい、死にたくないという思いが顔を出そうとしてくる。
でも。
「…逃げ出してたまるか」
唇を噛みしめて、ギュッとカラドボルグを握りしめる。
だって、仮にこの場から逃げおおせたとしても待っているのは…
一夏も、ラウラも、シャルロットも―――
「っ!」
そんな、そんな未来なんて来させてたまるか。
「一夏…SEはあとどれぐらい残っている?」
「残りは三分の一くらいだ」
それでどこまでできるか…
「一夏、俺が期を見て二階堂の気をそらす。その隙にお前がラウラを倒すんだ」
「優人!?それじゃあお前が…!」
「なあに、死ぬつもりなんてないさ」
そうだ、俺は死なない。
こんなところじゃ死んでいられない。
「いつ間に割り込むべきだ…」
二人の攻防は相当な速度で行われている。
それこそ下手をすれば俺が両者にみじん切りにされかねないレベルで。
そして両者の攻防は少しづつラウラが騎士に押され始めている。
このままじゃあと一分もしないで騎士がラウラを殺すだろう。
ズガンッ!!!
そんな時にラウラの持つ雪片の峰が爆ぜた。
おそらく振るう雪片の速度を上げて騎士の攻撃と回避の速度を超えるつもりだったのだろう。
だがその策はうまくいかず、騎士がラウラを蹴り飛ばして…
「今だっ!」
ガキンッ!!
「ぐぅっ!」
一夏とラウラの間に割り込んだようにもう一度連続して瞬時加速をし、両者の間に割り込み騎士の振り下ろした剣を防ぐ。
その剣は重く、腕の芯が痺れるような一撃だった。
そして俺の後ろで一夏とラウラの戦いが始まった。
後は俺がこの騎士を、二階堂を倒せればいいのだが…
目の前の騎士から叩き付けられる殺気がさらに強くなる。
獲物を取られたことへの怒りか、はたまた己の渾身の一撃を俺に受け止められたことへの苛立ちか。
『待たせたわね』
個人間秘匿通信からあの人の声が聞こえた。
「楯無さん!」
ああ、とても心強い助っ人が来てくれた。
いつの間にか二階堂の後ろに楯無さんがいて、そして周りの残った教師の人も何とか体勢を立て直して、二階堂に銃口を向けていた。
これなら…いけるか?
「二階堂…聞こえているかどうかわからないが一応言っておく…これ以上は止めるんだ」
一応勧告はするがこんな言葉じゃこいつが止まることはないだろうという確信が俺の中にあった。
その次に起こるだろう出来事の予測も…
「ウォォォォォォォォォォォ!!!」
そしてそれは起こった。
突然、騎士の背中に水晶の輪が現れ、そこから水晶の塊が飛び、黒い水晶の骸骨が産み落とされた。
それに驚いた俺達は騎士の離脱に対応できなかった。
俺の中にあった予測、それは騎士が俺達を振り切るか攻撃してラウラか一夏に襲い掛かるというものだった。
実際俺の予想はある程度は当たっていた。
でもこんなのは予想外だ。
周りを見ると骸骨達がアリーナを縦横無尽に飛び回っている。
なんなんだこれは、ハロウィンにはまだ早すぎるぞ。
そんな益体もないことを現実逃避のように考えていると骸骨の一体が俺に切りかかってきた。
「くっ!」
何が起きたかわからないが、今はこいつに構っている暇なんてない。
俺は骸骨を袈裟切りにし一夏の方へ…と…
その時切った骸骨と目が合った。
目が合っただけで『それ』が伝わってきた。
お前らが憎い
お前らが妬ましい
お前らがいると憎しみと殺意でどうにかなりそうだ
なんで俺達が死ななくちゃいけない
なんで私達がこんな目に合わなきゃいけない
僕達は当たり前に生きてきたはずだ
我々は何も悪いことはしてないはずだ
だったら何だこの仕打ちは
お前達のせいだ
お前達がいるせいだ
だったら死ね
だったらお前たちもこうなれ
お前達も…死ね…死ね…死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
ッァァァァァアアアアアアア!!」
気がつけば叫びながら目の前の髑髏を、残骸を切り刻んでいた。
恐ろしかった。
声を出さなければどうにかなってしまいそうだった。
俺が切ったのは人間じゃなくてあの水晶から出てきた骸骨のはずだ。
ならなんだったんだ今の感情の…怨嗟と憎悪の濁流は。
っ!しまった!
ラウラと一夏は!?
二人を探し、そして見つけた
一夏は自身に襲い掛かる骸骨達の対応に必死で、ラウラはあの騎士と相対していた。
騎士の剣が握られていたはずの腕には別の武器が握られていた。
その武器は残虐さが形になったような武器だった。
どす黒い杭の周りに釘バットのようにトゲが生えていた。
そしてあの武器が何なのかわかった。
――パイルバンカーだ。
しかも杭に、トゲに零落白夜が纏っている
「させるか!」
そんな凶器をラウラに当てさせるわけにはいかない。
撃って止まるか?否。切って止まるか?おそらく不可能。なら…
ズドンッ!!!!!
「ぐぅっ!!!」
受け止めるしかない。
両腕だけではなく全身を使ってカラドボルグを押さえ、あのパイルバンカーを防ぐ。
防いだはずなのにSEが削れていく。
多分零落白夜のせいだ。
ギシリとカラドボルグが、腕が軋む。
「はぁっ!!」
俺が攻撃を防いで一秒も経たないうちに教師の一人が騎士に切りかかる。
俺が防ぐのを見越して切りかかったのか、それともラウラがやられるのを前提で待っていたのか。
でも騎士はその奇襲をかわして見せた。
そして教師の人の頭を掴むと轟音が連続して聞こえた。
「かはっ…あぁ…!!」
教師の人は白目を剥きながら地面へ落ちていった。
騎士の手を見ると、掌に穴が開いていた。
あの穴が今の音のトリックなのだろうが、今はそんなことを考えている暇はない!
「ちぃっ!」
騎士がその手に再び剣を握ると俺に振るってくる。
俺はその剣をなんとかかわしたり、防いで反撃をする。
しかしかわすのも防ぐのもギリギリのレベルで、反撃なんて掠るかどうかの状態だ。
だって騎士の剣は零落白夜を纏っているから回避に集中しなければいけないし、一回でもまともに当たったらどうなるか…
だがこのままではいずれ騎士の剣が俺を捉えるのも時間の問題だった。
そしてそのいずれがやってきた。
やられた、と思った。
俺の動きが読まれていた。
騎士の剣には零落白夜が纏われている。
この一撃は俺の体を機体ごと輪切りにできる一撃だ。
そしてその斬撃が俺に振るわれ―――
「それをさせるわけにはいかんな」
―――ああ、来てくれた。
俺の目の前にいるのは誰よりも強い人で、誰よりも安心感を与えてくれる人だった。
「千冬さん」
気がつけばその名前を呼んでいた。
「海堂、下がっていろ。ここから先は…私の出番だ」
千冬さんは打鉄を纏い、俺の目の前にいた。
「クク…ヒヒヒ…クヒャハハハハハハハハハァッ!!!」
その騎士の笑い声が響いた瞬間、すべてが止まった。
宙を舞う水晶も骸骨も全てが停止し、この場にいる全ての骸骨が千冬さんを凝視していた。
「ヒヒ、ヒヒヒ」「クヒヒヒ」「アハハハハハハハ」
骸骨達は笑いだす。
「ヒャハハハハ」「フヒヒハハ」「イヒャハハハ」
どの骸骨の笑い声に含まれているものは一つだけ。
「「「「「「「「「「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
歓喜、ただそれだけだった。
そしてぴたりと笑い声がやむと騎士が、騎士の背の水晶から生み出された全てのものが千冬さんに襲い掛かった。
騎士の剣が、水晶から打ち出された破片が、骸骨達の持つ凶器が千冬さんに迫る。
しかし千冬さんには当たらない。
そんな攻撃が千冬さんに届くはずがない。
騎士もそれが分かっていたのか、水晶の輪からまるで蛸の足のようなものを生やして、先程の攻撃に加え触手を振るい、猛攻を加える。
しかしその全てを千冬さんは捌いて見せた。
俺は、こんな事件が起きている場だというのに俺は、その戦いに目を奪われた。
この人のISの戦いを生で見たのは第一回モンドグロッソの時だったか。
あの時は遠目で見ただけだったが、こうして近くで見て思う。
この人はやっぱりとんでもなく強いと。
しかし、見ていられたのはそれだけだった。
こんなことをしている場合ではない。
早く千冬さんの手助けをしなくちゃ!
そう考えガン・オブ・マスケッティアーズを呼び出し騎士を撃ったが騎士の周りに浮いていた水晶から撃ち出された水晶片が全ての弾丸を撃ち落とした。
撃ってもあの水晶が弾丸を撃ち落としてしまうのか…
魔弾の射手は…かわし切れるか?あの水晶片を。
厳しいだろう。
ならばカラドボルグで拘束し電撃をお見舞いする?
駄目だ、最悪千冬さんに当たるかもしれない。
なら残された手段は奴に高速で接近して、切る。
SEの残りも少ない。
瞬時加速は出来て後一回か?
でも十分だ、この一手さえあれば後は…千冬さんがあの騎士を倒してくれる。
そして俺は奴の背中に向かって瞬時加速をし…
突然俺の動きが止まった。
ISのSEはまだ残っているはずなのに、前に進もうとしているのに、前に進まない。
体を確認しようにも、頭が動かない。
だからハイパーセンサーで周りを確認すると、俺と楯無さん、そして教師の人達も俺と同じように停止していた。
俺はこの現象に心当たりが心当たりがある。
AICだ。
AICが使えるのはラウラのはずだが、ハイパーセンサーで確認したラウラは一夏と今も切り結んでいる。
あの状態だからAICが動いてる状態でも使えるのかと思ったが、あの戦いに加勢しようとしてない俺達を止める意味がない。
ならば犯人はただ一人、あの騎士だ。
あの騎士は零落白夜を使いこなし、果てにAICすらこちらを確認せずに行使したのだ。
ここでようやく俺は理解した。
これだけの事態を引き起こせるとしたら転生者のみ。
そしておそらく神に願った転生特典は「原作に出てくる第三世代武装を全て使える機体」だ。
だったらあの水晶にも轟音の連打にも説明がつくのだ。
あの水晶はおそらく楯無さんのナノマシンをモデルにしたものだ。
そして轟音の連打は鈴の衝撃砲だ。
ああ、やっぱり二階堂が転生者だったのだ。
―――だったら早く■■■■■。
『海堂君!海堂君!聞こえてるの!?』
「っ!?はい!聞こえてます!」
いつの間にかまた楯無さんから通信が来ていた。
『あなたはこの拘束をなんとかできる手段があるかしら?』
「……ないです」
『私はいくつか思いつくけど確実性がないわね』
「確実性だったら一夏の零落白夜ですけど…」
『一夏君はあの泥に包まれた彼女と戦っているからねぇ』
このまま…見ていることしかできないのか。
俺達の前で死闘が続く。
騎士が剣を振るえば千冬さんはかわし、千冬さんが剣を振るえば打ち払い切り殺そうとする。
どちらも攻撃が命中せず、数多の攻防が繰り広げられる。
その戦いはいつまでも続くかのように思えた。
だがその均衡を騎士が崩した。
騎士が後退し、千冬さんが追撃しようとするが骸骨達がそれをさせなかった。
骸骨達は其の手に持つ武器を投げ捨て、千冬さんに飛びつく。
その骸骨達の重さか千冬さんが徐々に下に落ちてゆく。
下がった騎士は四足歩行のようなポーズをとると、右腕を横に上げた。
すると、千冬さんの360度を黒い半透明の球体が覆った。
骸骨達は砂のように崩れ、黒い水晶片の濁流が騎士の右腕へと集まる。
そして出来上がったのは一つの槍だった。
形は歪で、持つ場所もなく騎士の腕と融合していた。
時折ギュチギュチと音を立て、鈍い輝きを放っていた。
おそらくあれはあの騎士の必殺の一撃。
かわせなければ、その先にあるのは「死」だけだ。
千冬さんは球体に攻撃を加えるが、いくら攻撃を加えても壊れる気配はない。
そして騎士の背中に翼が生え、キィィィィン……と飛行機が発射するときのような音が聞こえ始めた。
加速している。その音だけで誰もが理解した。
くそ!なんで俺はこんなところで指を咥えて見ているんだ!
このままじゃ千冬さんが…!
そしてついに騎士の槍が放たれ―――
「駄目!」
その槍が千冬さんを貫くことはなかった。
「シャルル!?」
騎士の前にシャルロットが立ち塞がった。
その両腕を広げ、騎士を真っすぐに見据え立っていた。
「勇気…もうやめよう?」
シャルロットがそう話しかけると、騎士が一歩、二歩と後ろに下がった。
騎士の槍が空気に溶け、その両腕でシャルロットを近づけさせないように前に突き出す。
しかしシャルロットはその腕をつかみ、騎士に近づく。
「お願い…元の勇気に戻って…」
「ウ、ウゥ…」
騎士は頭を抱え膝をつき…
「うわああああAAAAああaaaAAAAああああぁぁぁぁaaaaaaaaaぁぁぁぁぁぁぁぁAAAAAAAAAAああああああAAAああ!?!?!?!?!?!?」
騎士の、二階堂の悲鳴が響き渡った。
そして異変が起きた。
あいつの背中の水晶の輪、そこからまるでカマキリの腕のようなものが生え、あたり一面をめちゃくちゃに攻撃し始めたのだ。
「きゃあ!?」
その攻撃の一つがシャルロットの目の前の地面を切り裂き彼女が攻撃の余波で吹き飛ばされた。
「シャルル!」
気がつけば体は動きだしていた。
いつの間にかAICが解除されていたようだ。
俺は攻撃を何とか回避し、シャルロットを抱きかかえすぐに騎士のそばから離れた。
シャルロットは気絶していたが、体に傷はなくその点については安心できた。
そして彼女をAピットに降ろし、騎士の方を向きなおして気づいた。
騎士の上に大剣があった。
その大剣は巨大でIS二個分はあるだろうか。
そしてその大剣はどこか十字架のように見えた。
「……あっ…」
気づく。
もしあの大剣が真下に落ちたら当たるもの。
それは騎士の頭だ。
もしもあれが真下に落ちたら―――!
そして予感は的中した。
大剣は重力に囚われ落下し、騎士の頭を粉砕しようとした。
だがそのギロチンが届くことはなかった。
上空から降り注ぐレーザー。
それによって大剣は壊れ、そして霧散した。
レーザーが撃たれただろう場所を見ると、そこにはセシリアがいた。
ブルーティアーズは装甲がいくつかなく、ビットも二基しかなかった。
セシリア自身も髪がどこかぼさぼさで、ISスーツではなく制服のままそこにいた。
修理途中のものを無理やり持ってきたのか?
「邪魔を……スルナアアアァァァァァァ!!!」
騎士も、セシリアに気づいたのか飛び立とうとする。
「よくやった。お前達」
騎士がセシリアのところにたどり着くことはない。
千冬さんが騎士の背を一閃したからだ。
ついに騎士は倒れ、動かなくなった。
すると騎士の全身は光に包まれ、そして光が消えるとそこには二階堂がいた。
「大丈夫ですよね…?」
俺は千冬さんに近づきそう聞いた。
また暴れださないかという意味でも、二階堂の腹の傷の意味でも。
「……大丈夫なようだ」
千冬さんは二階堂を抱きかかえ、顔を覗き込みながら俺にそう言った。
ガチャッ
「うん?」
二階堂から何かが落ちたぞ?
見ると、腕だった。
腕?
「腕ぇぇぇぇぇぇ!」
何時!?何時切られたの!?
「いや、海堂…よく見て見ろ」
「よく見て見ろってどう考えても腕じゃ…え?」
落ちた腕から火花が飛んでいる。
さらによく見ると、断面にあるのは肉でも骨でもなく、機械だった。
「義手…?」
「そのようだな…上の奴らは何を考えているんだ…そんな情報は聞いてないぞ…」
俺は、千冬さんが抱きかかえている二階堂を見ながら悪態をついてしまう。
「本当に…お前なんなんだよ…」
今回の戦闘のイメージしたBGMはランス10の魔人戦のBGMとメタルマックスゼノのSoNs戦のBGMでした