IS The harlequinade/leading role 作:サヴァヴァヴァ
前回:死ぬかと思った
side海堂優人
あいつが倒れた後、俺達は何も聞かされず、何も言えずに教師の人達に連行されて、全員保健室にいた。
ここにいるのは俺と一夏と箒、セシリアと鈴のいつものメンバー、それと…
「………………」
目の前のベッドに力なく横たわるシャルロットと、奥のカーテンの仕切りで見えないベッドにいるラウラだ。
ここに来たとき少しだけ中を覗いたが、ラウラには病院で見た事のあるモニターが繋がれていた。
規則正しい音が保健室の中に響き、彼女が生きていることを俺達に教えている。
「……俺達はいつまでこのままなんだろうな」
一夏がそう天井を見つめながら呟いた。
何をするわけでもなく、教師の人達から事情聴取をされるわけでもなく、シャルロットとラウラを起こすために何かをできるわけでもない。
そんなどうしようもない無力感や苛立ちがないまぜになった声だった。
「どうしようもありませんわ。私達に今できることはここで、デュノアさんが起きるのを待つこと。それだけですわ」
「…ああ、わかっているさ」
セシリアが一夏を窘めるように、優しく声をかけた。
「ところで…さっきから気になっていたんだけど…セシリア、その格好はどうしたんだ?」
セシリアはさっきの騒動の姿のまま、髪の毛はぼさぼさでいつもの緩く巻かれたカールも今は見る影もなく、制服には埃やら黒い汚れやらがついていてお世辞にも清潔とは言えない。
その格好のせいで俺達は椅子に座っているが、セシリアだけは座らずに立っていたのだ。
「これは…そのぉ…」
「…あー…私が代わりに説明するわ」
セシリアが口ごもっていると、鈴がすっと手を挙げた。
「鈴?何か知っているのか?」
「まあ知っているというか、私が頼んだからこうなったというか…」
鈴はアハハ…と目線を横にずらし、乾いた笑い声を出しながら、何が起きたかを話し始めた。
「事件が起きて、扉に鍵がかかってて、アリーナからみんなが出られなくなったってのは…まあ知らないわよね。で、あたしとセシリアはなんとかアリーナから脱出してISを取りに行こうとしたのよ」
「二人のISは修理中じゃなかったのか?」
だから二人は学年別トーナメントに参加しなかったわけで…
「あの時は非常事態、そんなこと言ってる場合じゃないの。それで唯一扉以外で出られそうだったのが換気口で…」
「無理やりそこを通ったらそうなったと…」
「あの換気口…今度生徒会にしっかり清掃するように嘆願書を出しますわ…!」
でも二人が行こうとしたならなんで鈴だけは綺麗なままだったんだろうか?
「セシリアが行った後に私も行こうとしたんだけど、出られるって気づいた他の奴らが一斉に押し寄せてきて、そのままセシリアだけがあの場に駆け付けれたって訳よ」
「蜘蛛の糸かぁ…」
命の危機が迫っていたとはいえなんとまぁ…
「………ん…」
そんなことを話していると、シャルロットの目が少しづつ開き、天井を見た。
「……ここは…」
「おはよう、シャルロット」
「優人…?僕…何してたんだっけ…っ!勇気は!?勇気は!?どうなったの!?」」
シャルロットは、何が起きたのかを思い出し俺に掴みかかってきた。
「落ち着いてくれ!あいつは無事だ!」
「そっか…よかった…」
シャルロットは安堵の息を吐き、ベッドの端に腰かけた。
「ラウラは…どうなったの?」
「そのことについては私が話そう」
「千冬さん!?いつの間にここに…」
いつの間にか、俺達の後ろに千冬さんがいた…
「織斑先生だ。ボーデヴィッヒは今は気絶しているだけというのが先生の見解だ。直に目を覚ますだろう」
千冬さんはカーテンを少し開け、ラウラを見ながらそう言った。
「とりあえず、お前達は今日は部屋に戻れ。事情聴取の類は明日することに決まった」
「わかりました」
「ちふ…織斑先生、勇気はどうなったんですか?」
「織斑、あいつは…今は別の場所で眠っている。何もなければ、すぐに解放される。だから、お前たちは早く部屋に戻るんだ」
解放…どこかで拘束されているのか?
結局、そのまま千冬さんに叩き出される形で、俺達は保健室を出ることになった。
セシリアは、部屋にシャワーと着替えをするために戻り、鈴と箒も部屋に一度戻ることにした。
俺と一夏はシャルロットを部屋まで連れていき、そのまま部屋にいることにした。
少しすると、一度帰ったみんなはシャルロットの部屋へやってきた。
心配…というよりかは気になるのだろう。
あいつがどうなっているかが。
もし何もなく無事なら、この部屋に帰ってくるだろうから、この部屋にいるのが一番いいと思ったんだろう。
なんとなく会話をするものの、長続きせず気がつけば誰もしゃべらず時間が経過してゆく。
すると、ドアが三回ノックされた。
「…あいつかな?」
「僕が出るよ」
シャルロットがドアを開け、ノックの主を見た。
「や、やあ…ただいま…」
声だけしか聞こえなかったが、あいつだとすぐわかった。
でも、なんていうか…声がそこら辺の男子高生にしか聞こえないというか…
その後は大変だったな…
シャルロットがあいつに抱き着くし、シャルロットが離れたと思ったら今度は一夏が抱き着くし…
しかも事件のことを聞いても分からない、傷は勝手に治ってる、過去のことも何も教えないと来たものだ。
つまるところ、完璧に締め出されたのだ。
事件の真相から、俺達は。
そのまま俺達は解散し、その日はお開きになった。
そういえば、一夏とシャルロットの大浴場イベントはどうなったんだ…?
そして次の日、俺は何も聞けずに教室にいる。
だって、聞けないじゃん。
友達に女子と混浴した?なんて。
そんな、どうしようもないもやもやとしたものを胸に抱えていると、あいつが教室にやってきた。
昨日と同じく、右腕のない状態でどこかぽやぽやーとした眠そうな表情で何も言わずに自分の席に座ると突っ伏した。
さっきまで昨日の事件の話で盛り上がっていた教室は一気に冷め切った。
事件の中心人物が何事もなく、いや片腕を失った状態で普通に来たのだ。
話せるわけなんてない。
すると、女子の一人に電話がかかり、そこからまた教室が騒がしくなった。
その騒ぎから断片的な情報だけは聞き取ることができた。
デュノア社、逮捕、婦人…
原作では今日がシャルロットが自分の性別をクラスのみんなにばらす日だけど…
まさか…二階堂のやつがなにかを…?
「み、みなさん…おはよ…あの…皆さん席についてくれませんか?」
よれよれの山田先生が、教室に入るとみんな静かになった。
そして、彼女がやってきた。
シャルロットだ。
彼女は原作と同じように、女子の制服を着て、原作と同じように山田先生の隣に立った。
なぜこんなことに…
「シャルロット・デュノアです。もう事件のことを知っている人はいるかもしれませんが、私の本当の性別は皆さんと同じ女性です。改めてよろしくお願いします」
そう言って彼女は、笑顔で礼をした。
俺はシャルロットを指差しながら、二階堂を見た。
お前、彼女に何をした?
彼女を救うのは一夏のはずだろ?
知ってるはずだろうお前は。
ならなんで邪魔するんだ。
その後のことはよく覚えていない。
ラウラが一夏にキスをしたような、いつも通り授業が進んだような気がするが、よく覚えていない。
――――と―――ゆう―――優人っ!」
「えっ…」
気がつけば、食堂の生徒の列に並んでいた。
目の前に一夏がいて、手には食券が握られていた。
「お前大丈夫か?さっきからなんか元気がないけど」
「俺は……大丈夫…」
そう返事するのが精一杯だった。
「悪いけど、俺の分は優人が持っていてくれ。俺は勇気の手伝いをしてくる」
一夏はそう言うと、受け取り口にいた二階堂のところに走っていった。
俺は一夏に言われた通り、俺と一夏の分を持って、適当な席に座った。
俺が座っている周りには結局いつものメンバーが座った。
二つだけ違うことがあった。
俺の二人隣に座るやつの腕がないことと、目の前に少し前まで座っていたはずの男子生徒が女子生徒に変わったことだ。
「それで、聞かせてくれるんでしょうね。あんたのこと」
鈴がシャルロットを箸で指した。
事件の事、シャルロット自身のことを言っているのだろう。
「はーいはーい皆の衆待ちたまえ。ここから先は勇気先生が今回の事件についてちょろちょろっと話そうではないか」
二階堂はそういうとスマートフォンを見せてきた。
「レディース&ジェントルメン。ご覧ください。これこそがこの事件の元凶。現代に現れた傾国の女。金と己の為なら何でもする阿婆擦れ。アデリーヌ・バロワンだ」
そこに移されていたのは綺麗な人だった。
小さな顔にパッチリとした目、少しウェーブのかかった金髪に自信に満ちた表情。
十人が十人美人と言うだろう人が、そこには映っていた。
「―――っ」
シャルロットの顔が少し歪んでいるのに気付いた。
この人が…事件の犯人なのか…?
俺にはそれが分からぬ。
だって……
「とりあえず、こいつがシャルロットの親父さんを脅したのが事件の始まり。それでいろいろ悪事を働いてシャルロットをIS学園に送り込みましたが、ばれて今日逮捕されましたとさ。めでたし、めでたし……」
「……いやいやいや!ちょっと待て!また色々端折ってるじゃないか!」
「全部教えてもらえると思ったら大間違い!食事の時間がもったいないからとりあえずテレビでも見ながら食べて、自分で情報を集めろ」
それだけ言うと、あいつは片手だけで何とか食事を食べ始めた。
俺は、あいつに言われるままにテレビを見ながら食べていた。
シャルロットの父さんとアデリーヌという人との因縁、シャルロットの母さんとシャルロットが受けた仕打ち、アデリーヌの陰謀、それらが詳細に、そしてセンセーショナルに語られた。
食事の時間が終わるその時まで、俺はテレビを見ていた。
でもその間に二階堂が漏らした一言が、俺には気にかかった。
「これから、デュノア社とIS学園の立場は悪くなるだろうな…」
あの日から数日、学園は少しずついつもの日常に戻り始めた。
いや、いつもと言うと語弊がある。
ラウラが俺達のメンバーに加わったのだ。
結局ラウラと一夏のイベントはしっかり起こって、ラウラも正式に一夏のヒロインの仲間入りしたのだ。
一夏の布団に裸のラウラが潜り込んだとか、そんなことが起きていることを俺は一夏に聞かされた。
そんな一夏の横にいるラウラはまるで、憑き物が落ちたような晴れ晴れとした表情だったことを、覚えている。
そして一番驚いたことは、ラウラが勇気に謝ったことだった。
ラウラがメンバーに加わってから数日、突然ラウラが二階堂に謝り始めたのだ。
それまでラウラは、二階堂を腫物を扱うように関わろうとしなかったが、意を決したのか、謝ったのだ。
今までの行い、あの日の事件のことを、自身の意志によるものではなかったとはいえ殺しかけてしまったことを。
そのラウラに対して、二階堂は
「ああ、いいよ。そのことなら」
といって、ラウラの謝罪を受け取ったのだ。
俺はそれに、どうしようもない違和感を感じてしまう。
あの二階堂が、何も言わずに、普通に、受け入れたのだ、ラウラの謝罪を!
これだけでどれだけ異常なのかわかるだろう。
あの!二階堂が皮肉も何も言わずに、まるで「俺はわかっていたぞ」と言わんばかりの眼差しをラウラに向けて、受け入れたのだ。
それに俺は恐ろしく感じるのだ。
この男は、俺の知らない何かを知っているのだと感じて…
新しいメンバーが加わった、騒がしい日々が続いていく。
そんな日々の中、俺と一夏は千冬さんの部屋に呼び出されたのだ。
「ああ、よく来たなお前達」
「うっ…」
千冬さんは、すでに缶ビールを三本開けていた。
部屋の片隅にはいろいろなゴミがしっかり分別された状態でゴミ袋に入れられていた。
「座れ座れ、ああそうだ、ほら、これならお前達でも飲めるだろう?」
そう言って千冬さんは俺達に普通のオレンジジュースを手渡してきた。
「千冬姉、なんで俺達をここに呼んだんだ?」
「そうだそうだ。お前たちに言わなきゃいけないことがあるんだ。長くなるがしっかり聞くんだぞ?」
そう言って、千冬さんは語り始めた。
私が第二回モンドグロッソの後に日本代表の座を辞してから、訳があってドイツ軍で教官をすることになったのはおそらくラウラの言葉からわかっているだろうから、そこらへんは省くことにする。
そして、そこで会ったのがラウラだ。
あの頃のあいつは酷かったぞ?とても今のあいつからは想像できないくらいにな。
毎日日が昇ってから沈むまでどころか、下手したら寝ずに訓練し続けるという有様だった。
周りは止めなかったのかだって?それに関してもこの後に話すさ。
あいつと会って私が一番最初にしたことは、あいつを休ませることだった。
だけどな、お前らも予想はついていると思うが、あいつは私に反発してきてな。
まさに狂犬としか言いようがないような荒れぶりだった。
私にはお前なんて必要ない、私が強くなるための邪魔をするなとな。
だから私は、最初の頃は組手という形で、無理やり気絶させるくらいしか休ませることができなかった。
そうやって繰り返していけば、あいつも態度が変わってきた。
なんで自分に構うのかとか、何が目的なんだとか、少しずつ私に歩み寄ってきたんだ。
それから少しずつあいつの訓練が始まったんだ。
訓練が続けば自然と、会話はすることになる。
私は少しづつあいつのことを知っていった。
書類上だけの事じゃなくてな。
なんであいつが荒れていたのか、これに関してはドイツ軍の機密などに触れるからぼやかすが、あいつははな、目が良くなりすぎたんだ。
ああ、目だ。ついでに言うと、反応もな。
例えば人間が危機的状況に陥ると、周りがスローモーションに見える事があるというのはテレビなどで聞いたことがあるだろう。
あいつはな、それが常時起こり続けているのに近い状態に陥ってしまったんだ。後天的にな。
それで脳への情報量が出鱈目に増えて、軍人として必要なことどころか、まともに生きていくことさえ難しい状態になってしまったんだ。
その結果、あいつは自分がいた部隊のトップから一番下まで転がり落ちて部隊の人間から色々と馬鹿にされたり、軽いいじめを受けていたんだ。
この前ドイツにいた知り合いに連絡して聞いたが、あいつが部隊長になると同時に全員別の部隊に飛ばされたみたいだがな。
話を戻すが、あいつの問題のことを私は把握できたんだ。
だから私は出来る限りのことをした。
精神的な面での鍛錬もしたし、あいつの手を借りてラウラの為の眼帯も作ったりな。
そうやって少しずつ、あいつは強く、いや、もともとの力を取り戻していったんだ。
それと訓練している間に私達はいろいろ話す仲になってな。
その時にお前らのことを話したりもしたな。
…今思えばあいつが一夏、お前のことを目の敵にしたのはあれが原因の一つかもな。
そしてあいつの訓練は完了、というよりは義理を果たして私は日本に帰ってきたんだ
今話したのが、今までのことで、これから話すのがもう一つのお前達を呼んだ理由なんだ。
お前達に言わなくちゃいけないことがある。
一夏、優人、ありがとう。
お前達のおかげであいつは救われたんだ。
感謝されるようなことはしてないって?
いや、あるさ。
私はな、ずっと後悔していたんだ。
あいつに軍人以外の生き方を示した方がよかったんじゃないのかって。
あいつの身の上話になるんだがな、あいつにはな、家族がいないんだ。
ああそうだ、父親も、母親も、肉親と呼べる存在は誰もいないんだ。
あいつと話をして家族の話になると、あいつが頑なに話さなくてな、いろいろ調べたんだ。
するとあちらのお偉いさんが私に釘を刺してきたんだ。
余計な詮索はするなってな。
そこで私は察したよ、あの子は尋常な生まれじゃないと。
生まれたその瞬間から生き方を定められ、それ以外をまともに知らないまま生きてきたんだと。
私は、悩んだよ。
このままあいつの訓練を続けるべきか、それともやめさせて、別の道を探させるべきだったのか。
だが、あいつは軍人である事を望んだ。
だから私はあいつの願いを叶えたんだ。
……いや、これはただの言い逃れだな。
私は、結論を出せなかったんだ。
結論を出せないまま、答えを先延ばしにして、逃げ出してしまったんだ。
そして、そのままにしてしまった。
でもな、あいつがこの学園に来て、あの事件が終わってあいつは変わったんだ。
あいつは、当たり前の学生のような生活を送れるようになったんだ。
当たり前に勉強を受けて、当たり前に運動をして、当たり前にクラスメートと話して、食事をして、遊んで、恋をして…ああいや、最後はまだだったな。
ともかく、お前たちのお蔭であいつは普通の人間のような生活ができるようになったんだ。
二階堂?あいつにはまた別の機会に話すさ。
あいつは私の部屋に来いと言ったら嫌な顔をするだろうからな。
とにかく!ありがとう二人とも、あの子を、私の後悔を晴らしてくれて、ありがとう。
そう言われて、俺達は自分の部屋に戻った。
「あのさ、優人」
「なんだ、一夏」
「俺さ、最初はこの学園に来た事をあんまりいいことだとは思わなかったんだ」
「知ってる、別の学校に行きたかったもんな」
「でもさ、この学校に来て、箒と鈴にまた会えて、セシリアとか勇気とかいい友達に恵まれてさ。ラウラも、千冬姉のことも助けられてさ。…うん、俺、IS学園に来ることが出来て良かったと思ってる」
「…俺もさ」
ああ、本当にいいことだ。
そして、この平穏はしばらく続くと思っていた。
でも、それはあっさりと終わった。
「逃げろ!勇気いいいいいいいい!」
二階堂に、人間の悪意が、殺意が、狂気が降り注ぐ。
ほんっとうにお待たせしました!
なんどになるかわからない長期休載……
今回の理由はですね…素都のRonでしたり、穆の豁でしたり色々とのっぴきならねぇ今後の人生を左右する年だったんで途中であまりかけない日々が続いたという…
いや、わかってますよ。
なんで言わなかったんだってのは…
あの…ハーメルンすらたまに見るレベルで忙しかったんです。
ごめんなさい。
来年は何とか更新し続けるために頑張ります!
とりあえず、今回は急ぐためにアレな出来になったんで、あとで書きなおします!
ほんっとうに!ほんっとうに!ごめんなさい!