Fate/Insect chalice   作:パンおにぎり

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1話:英霊召喚

 折り重なる水の音。

 はじけ飛ぶ水飛沫。

 海岸で引いては満ちを繰り返す海。

 冷たそうなそれをじーっと見つめる。

 そうでもしないと気が狂う。

 

 今日の様な猛暑日は特にそうだ。

 過酷な肉体労働に加えて、多くの人物からの罵倒。

 

 特に親しいと思っていた少女からの、

 

 「働きなさい。このダメ当主が」

 

 という言葉は心にそれなりに響いた。

 俺はあくまで休もうとしていただけなのに。――――一生。

 弟と姉にも、

 

 「にいちゃんが悪い。謝れそして働け」

 「司、もう少し彩の事考えてやりなさい。そして働け」

 

 と、罵倒され、追いかけ回された。

 

 3人は多くの手管を使い俺をギリギリまで追い詰めた。

 だがそれで終わる俺ではない。

 縄に縛られていた俺は無理矢理に縄抜けを決行し、近くにあった窓ガラスを叩き割り監獄(いえ)の外に脱出したのだ。

 しかし3人はそれでも追いかけてきた。

 俺は多くの罠を掻い潜り何とか逃げ続け―――

 

 そして逃亡劇の末、3人から俺は命からがら逃げきり、今現在掌宮(しょうぐう)海岸という海辺にいる。

 この掌宮海岸は多くの岩が立ち並んでおり、それが原因の事故が多いため現在封鎖中だ。

 つまり3人がまともな良心を持っているのならば、ここには入ってこれないということになる。

 そして彼らはそれを持っている―――はずだ。

 

 俺は不敵な笑みを浮かべ、勝利の余韻に浸りながら木陰で寝そべる。

 

 「ふふふ、今日は働かないぜ。いつもいつも労働ばかりでは人は死んでしまうからな」

 「そうだねー」

 「だろう?本当姉貴も雅人も彩も俺のことをもう少しいたわって欲しい・・・ん!?」

 「司君はもう少し自分の立場を考えて欲しいな」

 

 俺の横に十代後半位の短髪黒髪の少女がいた。

 体から冷や汗が吹きだす。

 少女はその可憐な見た目にとても似合う青色のワンピースを着ていた。

 似合う。とても似合う。が、そんな事を考えている場合ではない。

 俺は顔から汗をダラダラと流す。

 

 「な、なんでここにいるんですか?」

 「司君には傘音さんがマーキングしていますから」

 「姉貴のやろう。いつのまに・・・」

 

 いや今そんなことをぐちゃぐちゃ考えている暇はない。

 今はこの少女―――彩から逃げなければ。

 そうしなければ俺の平穏はない!

 

 「じゃ、じゃあ俺はこの辺で・・・」

 

 俺はそそくさとこの場を立ち去ろうとする。

 が、右肩を掴まれ動きを止められる。

 

 「ぐおー、放せー!」

 「駄目です」

 

 俺が暴れまくってもびくともしない。おかしな位の握力だ。

 というかおかしい。どう考えても彩の様な華奢な女性が、俺の様な屈強ではないがそれなりに肉体を鍛えている者を押さえつけられるはずはない。

 普通(、、)であれば。

 

 「つーか、お前魔術とか使って大丈夫なのかよ!」

 「大丈夫。傘音さんには許可貰ってるから」

 「くそー、姉貴余計なことしやがって!」

 「さあ、観念しなさい!!」

 「あ、あががが、痛い痛い、砕ける!!わかった!!!わかったから!!!」

 

 彩は俺の肩を凄まじき握力で潰しにかかったので、たまらず降参する。

 うんうん、とうなずいてから彩は手を肩から離してくれる。・・・後数秒遅かったら粉砕されていた。冗談でも何でもなく。

 砕けそうになった肩を回し、痛みを何とか緩和しようと試みるが痛みは引かない。

 ・・・どんだけ本気で掴んだんだこいつ。

 

 そんな俺の様子を彩はニコニコと見つめている。

 ただ笑っているという感じではない。

 あれは、次逃げれば知らんぞという顔だ。―――次は死ぬかもしれない。

 

 「うう、痛い・・・」

 「司君が全面的に悪いよ。こんな忙しい時に働かないなんて言うんだから」

 「いやだって――」

 「だっても何もない!もう、早く帰るよ!!召喚の準備は出来てるんだから!」

 

 俺の腕を掴んで彩は俺を無理やり引きずる。

 正直ここまでされてまで抵抗する気はわかないので、彩に引きずって帰って貰おう、と思っていたのだが、途中で自分の足で歩け!と言われ頭を叩かれ、俺は渋々徒歩で帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 昔冬木という地で全てを体現する願望の杯を奪い合う戦いがあった。

 

 その戦いは多くの人々が命を散らしながら五度も行われる。

 

 杯にくべられるは英傑たちの魂。それを形として扱うは魔導を突き進む者達。

 

 幾多の戦いの中であるものは杯を汚し、あるものは杯を壊し、あるものは杯に呑みそして呑まれた。

 

 五度の戦いの中で杯は一度も正しく聖杯と成らずに解体されることとなる。

 

 これで悲劇は終わった。

 

 ――――この地では。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 「はぁ・・・、何故こうも面倒事というのは起こるのだ」

 

 とある建物の一室で筋肉隆々の巌の様な男が、肉食動物の唸る様な低い声で呟く。

 この一室は高級ホテルの様な落ち着いた雰囲気があるのだが、今はその落ち着きが吹き飛ぶ程にピリピリとしていた。

 

 「本当ですよ。俺たちも暇じゃないんですけどねぇ。

―――――まあそれを対処するのが俺たちの仕事なのでごちゃごちゃ言ってもきりがないんですけど」

 

 心底めんどくさそうに息を吐きながら、カールの目を見ながら修道服を着た男が紅茶の入ったティーカップに口をつける。

 現在この部屋には、この二人だけがテーブルを挟んでソファーにかけ向かい合っていた。

 少し前まではもう少し人が詰めていたのだが、各々の仕事に向かうために出ていったばかりだ。

 

 この世の中にはおとぎ話に出てくるような魔術というものが存在する。

 さすがに物語に出てくるものの様に万能ではないが、まあそれなりに便利で極めがいのあるものだ。

 だがこういう業界では面倒事がつきものであり、今回もその面倒事の一つを話し合っていた。

 

 「ごちゃごちゃ言ってもしかないか・・・そうだな。ふむ、この局面聖堂教会はどう動く?」

 

 巌の様な男―――カール・マドレッサは真面目な顔つきで峰塚弦(みねつか げん)という男に尋ねた。

 カールの質問に対し、峰塚弦は顎に手を当て少し悩んだような顔になる。

 

 「サーヴァントの対処がほぼ人間には不可能ですからね。やはり対処するにはマスターとなる魔術師と監督役を送り込むしかないかと」

 

 彼らの言う面倒事。それは聖杯戦争と呼ばれる万能の願望器である聖杯を巡る戦いの事だ。

 万能というくらいだ。人が考える程度の事ならば大抵は叶えられる。

 それ故に奪い合いも相当に悲惨なことになる。その事後処理やら参戦したい人物の処理やら相当面倒くさいのだ。

 

 今回の戦いの原因となった聖杯の原型は、冬木と呼ばれる地で作られた聖杯だった。

 冬木でも相当に凄惨な戦いを幾度も繰り広げられたが、もうすでにこの聖杯自体はない。解体されたのだ。

 

 しかしその模造品が世界各地に現れたのだ。

 模造品は模造品。性能自体は大したものは殆どない。

 だがほんの少数オリジナルに届き得る可能性を持つものがある。

 今回発生した問題は、そのオリジナルに近い聖杯の一つにある。

 

 「模造品でも聖杯は聖杯だ。オリジナルである冬木の物には少し届かない様ですが、今回発現した聖杯はサーヴァントを7騎呼べるほどの力がある。そして既に3騎は確実に現界済み。どのクラスかは確証は取れていませんが、偵察隊の調査から鑑みるに恐らくライダー、キャスター、ランサーでしょう。」

 

 峰塚はさらさらと今の状況を確認するように口にしていく。

 サーヴァントとは聖杯戦争をする上で、マスターとされる魔術師が召喚し使役する使い魔のようなものだ。だが通常の使い魔とは格が違う。呼び出されるのはいずれもが英雄とされるような人物ばかりであり、その戦いは人間が割り込めるようなものではない。

 調査隊の魔術師もサーヴァントを一方的に監視などできない。彼らは気づいたうえで放置したのだ。

 おそらく彼らはさっさと戦いを始めたいのだろう。もしかすると逆もあるかもしれないが、今それを論じても意味はない。

 

 峰塚の言葉に頷きそれを継ぐようにカールが喋りだす。

 

 「そして今回聖杯が発現した場所が場所だけに、ここに送り込める魔術師は正直あまりいない。ここ―――黒月市に根付く魔術師が多いからだ。昨日送り出したマスター一人とそのサーポート数人が限界だろう。となるとあちらの魔術師連絡をせねばいけないのだが、黒月市は魔術教会と懇意にしてる者が非常に少ないのがネックだな」

 「そこは最悪我らも手を貸しますから数でごり押しましょう。先にサーヴァントを召喚してしまえば、あちらにどれだけ魔術師がいようが関係ありませんから」

 

 峰塚の発言にカールは少し驚き目を開く。

 

 「まさかあなたも・・・?」

 「ええ。仕方ないでしょう。監督役なんて言いますけど、今回のは突発的なものだ。ルールなんて守る人の方が少ないでしょう。俺がサーヴァントを召喚して、無理やりにでも被害と魔術の秘匿をおさえましょう」

 「・・・しかし」

 

 聖堂教会は魔術の秘匿を旨とする魔術教会と対立しており、流石に表立ったものではないが裏では小さな小競り合いが続いている。

 しかし今回の様な下手をすれば、世界が危険に晒されかねない事柄が起きた場合は手を取り合うことも多い。

 だが聖堂教会の監督役がマスターも同時に努めるという話はあまりない。たまにあるにはあるのだが、自分の野望を叶えようという輩が現れ、碌でもない結果に陥っていることが非常に多い。

 峰塚は好青年であるし、要らぬことをする輩には見えない。カールも彼ほど人が出来た人物はそうはいないと思うが、それでも腹に一物抱えているかもしれない。

 カールは険しい顔で峰塚を見つめる。

 峰塚は真摯な目をしている。何か悪いことをしようとする者の目ではない。

 カールは息を吐いて、軽く口元を緩める。

 

 「分かった。貴方の参戦をこちらも了承しよう。だがおかしな行動は起こさぬように頼むぞ」

 「わかっています。自分の故郷でおかしなことなどしませんよ」

 

 峰塚は苦笑しながら答えた。

 カールもそれにつられ笑みを浮かべた後、席を立ち近くにあった机から何かを引っ張り出してくる。

 干からびている何かの実の欠片だ。

 それを峰塚に手渡す。

 

 「これはもしや・・・!」

 「ああ、召喚の触媒だ。君は自分で用意するつもりだったのかもしれないが、もう時間はあまりない。用意していたのならばともかく君は触媒など用意していないだろう?だからこれを君に譲ろう」

 

 サーヴァントの召喚には触媒――つまり呼び出したい英雄に所縁のあるものがあると、狙ったサーヴァントを呼び出しやすくなる。

 狙ったサーヴァントを召喚できれば、自分のスタンスや戦略をすり合わせやすくなるだろう。何より強いサーヴァントを呼び出しやすくなる。だがメリットばかりではない。

 狙ったサーヴァントが出るとは限らないし、性格が致命的に合わない場合もある。

 何より触媒を使わない場合自分に近しい、つまり性格や境遇が似ている者が出やすい。

 どちらかを選ぶかは人それぞれだが、触媒があったに越したことは無い。選択を増やしておくに越したことは無いのだから。

 

 そして峰塚はカールの見立て通り触媒を持っていなかった。

 用意しようとはしたのだが、如何せんコネが少ない。

 彼は有能だったが人間関係の構築はあまり上手くなかった。英雄に所縁のあるものなど探そう思うと金だけではなく人脈も重要だ。

 それだけにカールの申し出は非常に嬉しかった。

 しかし―――

 

 「いいのですか?俺にこんな大切なものを渡してしまって」

 「いいのだよ。私には不要なものだ。これは戦いに赴く君にこそ相応しい」

 

 カールは笑顔でそういってくれる。

 この人の好意を無下には出来まい。峰塚は申し訳思いながらもそれを受け取った。 

 その後カールは触媒の説明などを峰塚に話し、峰塚はそれを真面目に聞き必要なものを頭の中でリストアップしていった。

 

 

 「今日はありがとうございました。それでは俺は失礼します。黒月市に向かってサーヴァントの召喚をせねばなりませんから」

 

 話し合いは30分程で終了した。

 峰塚は立ち上がって少し会釈し、ドアに向かって歩き出す。

 カールもそれを見送り、何かを思い出し立ち上がって口を開く。

 

 「ああ、そういえばあちらに送られた魔術師の名前と連絡先を教えていなかったな。今ここで渡そう」

 「いえ、大丈夫ですよ」

 「ん?知り合いか何かかね?」

 「ええ、俺の姉です」

 

 カールはまたも驚き目を見開く。

 

 「上月君が?」

 「はい。上月の名は母方の旧名で、姉は芸名的なノリで名乗ってますね」

 「そういう事か・・・。まあ手を結ぶこと自体特に禁止されていないからな。マスター同士が親しいなどよくある話だ」

 「ははは、姉が俺が相手だからって容易に手を貸してくれるとは思えません」

 

 口は笑ってはいるが目が笑っていない。

 

 「仲が悪いのかね?君の家は元々一般の家庭で、君たちは所謂隔世遺伝の様なものなのだろう?」

 

 魔術師は目的のためならば家族すら切り捨てるし、自分の子供もあくまで目的を継がせるものでしかない。

 だが峰塚の家は昔は魔術一家だったらしいが、200年以上前に没落している。

 故に唐突に生まれた魔術素養のある姉弟に父と母は驚いた。とはいっても特別何か彼らはやっていない。

 

 「いや別にそういうことは無いです。仲はいいですよ。姉は魔術師とは思えないほどまともですから。でもあの人はやる時はやる人ですからね。そういう性分なんですよ」

 

 峰塚姉弟は5歳までは一般家庭の子供の様に育てられており、思考は随分普通に近い。

 だがそれだけだ。

 魔術師としての道を姉は選んだし、聖堂教会の代行者という道を弟は選んだ。

 決して二人はそれを違えることは無い。仕事はしっかりやる性分なのだ。

 

 

 「ふむ。君たちにも色々あるのだな。

 ――――もう少し話を聞きたかったのだが。話が長くなってしまったな。もういきたまえ。準備もあるだろう」

 「はい。本当にありがとうございました」

 

 今度こそドアを開き部屋の外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「にいちゃんはさあ、もう少し自覚べきと思うんだわ。てめえの立場ってやつをさあ。俺もねえちゃんも困ってるわけですよ。わかる?」

 「本当本当。アンタがグダグダ言ってるうちにめんどくさい状況になってるし、どうするのこれ、ねえ?」

 

 説教が2時間を超えた。

 それもずっと正座でだ。正座には慣れているが、連続で2時間正座は中々しない。

 足がすごく痺れている。きっと今立てないなぁ。

 

 「おい、聞いてんのか?」

 「うん、聞いてるよ」

 「嘘つけ」

 

 姉にすごく足をつつかれる。

 痛いようなこそばい様なよくわからない感じ、すごくシビれて気持ち悪い。

 もう倒れそうだ。やばい。やばいよ。

 

 「助けてくれ!!彩ああああああ!!!!」

 

 姉貴はニヤニヤしながらツンツンと足をつつき続ける。

 

 「彩は来ないよ。だって召喚の準備してるしね」

 

 彩は召喚の準備をしているらしい。

 ・・・・面倒だ。

 

 俺たちがやろうとしているのは、聖杯戦争という昔の英雄達を呼び出しそれを戦わせ、最後に残った者が万能の願望器とされる聖杯を手にする聖杯戦争というものだ。

 過去に幾つか地域で発生したらしいのだが、大抵碌なことにならないという。

 

 こういうと俺が聖杯戦争を否定しているように聞こえるが、別に聖杯戦争そのものを否定する気はない。

 だが正直願う思いも無ければ、戦いたい相手もいない。

 そもそも俺が戦うのも我が家―――姫条家の中で最も魔力量が多いからだ。

 うちは別に魔術師一家ではない。武家だ。

 たまたま魔術を扱うための最低条件である魔術回路を持っていただけに過ぎない。

 

 俺たちの魔術回路はあまり使われていないが割と優秀であるらしく、俺はその中で一番魔力量が多いのだ。

 通常の魔術師よりも量だけ見れば随分多いらしく、本職の奴らから文句を言われたことがあるが俺からするとどうでもいい。俺は武技を極めたいのだ。

 いま聖杯戦争などで英霊の戦いなど目撃すれば俺は確実に魅入られる自信がある。そうなれば自分がそれに到達できない苦しみを味わい続けなければならない。――――それ自体はまだいいが、そうなると他のことをおろそかにしかねない。特に彩を放っておくわけにはいかないのだ。

 俺はこの責め苦に晒されながらも割と真面目なことを考える。が、このサディストはそんなものおかまいなしらしい。

 

 「・・・姉さん」

 「何、司?」

 

 足をつつき続ける作業はまだ継続中の我が姉は非常に楽しそうだった。

 なんだこいつ。我が姉ながらドン引きですわ。

 そして我が弟事翔太も似たような感じで姉を見つめていた。

 割と本気で引いた目で姉を見つめる弟二人の視線に気づき、姉はやっと手を足からどかしてくれた。

 ――――顔は笑ったまま。全く反省していない。

 

 「・・・真面目な話してもいいか、ねえちゃん、にいちゃん?」

 「おう」

 「ええ」

 

 弟のマジトーンの問いかけに対して、俺たちは心底真面目な顔をする。

 いや心底ではないが、顔だけ見ればそう思うほどに二人そろってキリッとした顔をした。

 弟は知ってか知らずか白けた顔で、はぁ・・・と呟き諦めたような顔で話を始める。

 

 「聖杯戦争は既に始まりかけている。これの意味が分かるか」

 

 ・・・サーヴァントの何騎かは既に呼び出されていると聞いている。

 

 聖杯を手に入れるために最低条件は、令呪と呼ばれる代物が肉体のどこかに宿ることだ。

 俺は既に右手に宿っている。だがこれだけでは何の意味もない。

 聖杯戦争に参加するためには、サーヴァントが必要になる。サーヴァントと契約するには幾つか方法はあるが、基本的に自分が召喚してそれを使役するものだ。

 そしてそのサーヴァントの依代になることで、サーヴァントの現界に必要な魔力などを供給することになる。

 

 そしてここで問題になるのが、基本的にサーヴァントは7騎しか召喚できないという事だ。

 つまるところ全て先に召喚されてしまうと、令呪を持っていてもほとんど何もできなくなる。マスターのみが死亡し、サーヴァントと再契約するという手もあるが、これはそんな簡単なことではない。

 サーヴァントはマスターが死んだ時点で急速に存在を散らしていく。よしんば令呪を持つマスター候補(、、、、、、)にたどり着いたところで、そのマスターが気に入らずに殺してしまう、といった話も割とある。つまり再契約はせいぜい出来たらラッキーくらいの気持ちでなくてはならない。

 まあ早い話”早く召喚して契約しないとやばい”という事だ。

 

 「にいちゃんがダラダラしてるせいで召喚が遅れちまったんだ。早くせんとやばいぞ」

 「わかってるよ!!今日は流石に逃げないよ。これ以上逃げたら彩になんていわれるかわからんからな!」

 「よろしい。なら早く奥の座敷に行きなさい。私たちは広間で待機しておくから」

 

 といいつつ姉と翔太は広間の方に退散していく。

 俺も二人がいったことを確認した後、彩が召喚の用意をしたという奥の座敷へと向かった。

 

 足を動かすたびに板の床がぎしぎしと音を立てる。

 うちはそれなりに古い家で、廊下の木の板も相当年季が入っていた。

 奥の座敷に向かうまでに多くの使用人にすれ違う。ここで働いている人たちは聖杯戦争の事を把握していない。故に働いてもらうのは今日までだ。これ以上は危険すぎる。

 しかし俺のサーヴァントとはどんな奴だろう。強いのか、弱いのか、かわいいのか、かっこいいのか、屈強なのか、ひ弱なのか。

 

 「いつッ!?」 

 

 色々と考えながら歩いていていると、唐突な右手に宿った令呪が痛みを伴った。

 反射的に令呪を見るが特に何か変ったようには見えない。

 

 「・・・なんだったんだ?まあ、いっか」

 

 きっと何かにぶつけるとか、虫に刺されたとかそんなのだろう。

 俺はそうと考えを適当に切り上げ奥に向かっていく。

 

 

 自分の召喚するサーヴァントを予想しながら奥に進んでいくと目的の部屋にたどり着いた。

 一度立ち止まって息を吸ってから、意を決して戸ゆっくりとを開ける。

 

 「ッ!?」

 

 そこには何故か鎧を着た騎士の様な青年がいた。

 いや、そんなことは今どうでもいい。彩がいない!!!!

 トイレか?いやこのタイミングでいくことはないだろうし、それにトイレはこの部屋のすぐ近くにあり、誰かが入ると外から照明の光が漏れてくるのだ。そして来る途中にそんな光は見えなかった!

 じゃあ俺を呼びに行った?いやない。ここまでの道は一本道だ。来る途中に鉢合わせないはずがない!

 などと俺がない頭を回していると―――。

 

 「なあ?君が俺のマスター?」

 「待て!!今は彩がゆうせ―――え?」

 「いやぁ、さっきの子は違うって言ってねー。俺の後ろにいるのが彩ちゃん?」

 

 鎧を着た男が後ろを向くとそこに隠れていたかのように彩がいた。

 俺は羞恥で体が一気に熱くなる。

 ここまで取り乱す姿を直に聞かれていたのだ。恥ずかしくもなる。

 

 「えーと、うん。心配してくれてありがとう司君・・・」

 「え、あ、ああ。無事でよかった、はははははは」

 

 彩も顔を赤くしながらお礼を言ってくる。

 俺も変な笑いが出てきた。なんだこれ、ラブコメか!?

 騎士然とした男もそれを見て爽やかな笑みを浮かべ頷いている。

 

 「うんうん、いいね。やっぱり恋はいい」

 「・・・貴方様は?」

 

 どうみても変な格好をしたイケメンコスプレ野郎にしか見えないが、放っている雰囲気は尋常ではない。

 こいつはもしかすると・・・。

 

 「俺はセイバー。聖杯に導かれたサーヴァントだ」

 「やはりか。・・・でもなんでこのタイミングで?俺まだ召喚してないんだけど・・・」

 

 俺はまだサーヴァントを召喚していない。

 なのになぜこいつはここにいるのだろうか。どう考えてもおかしい。

 召喚者がいなければサーヴァントは召喚できないはずなのに。

 セイバーは苦笑いを浮かべ、顎をさする。

 

 「その娘が召喚したのかとおもったんだけど、どうも違う。多分だけど俺無理矢理出てきちゃったんじゃないかなあ・・・」

 「無理矢理!?」

 「君が召喚者なんだろうけど、俺はほぼ出かかってぽいんだ。ここの聖杯はどうもせっかちみたいでね。時間が経つと無理矢理にマスターにサーヴァントを召喚させるらしい。んで、今回一番出やすかったのかここってわけさ」

 「なん、つー・・・」

 「無茶苦茶・・・」

 

 無茶苦茶すぎる。

 これでは聖杯戦争への参加の拒否権がほぼないじゃないか。

 拒否しようと思ったらこの地を離れるしかない。

 俺は頭をかかえる。

 

 「どっちにしろ俺に決定権はなかったのか・・・」

 「そういう事だね」

 

 彩も流石に苦笑を浮かべる。

 本当に今回の聖杯はどうなってるんだ!!

 どうも聞く話によるとこの聖杯は誰かが管理しているわけではなく、唐突にこの地に現れたものらしい。

 故に今回誰もここの聖杯戦争のルールを深く知らないのだ。だからこんなことも起きる。

 

 「あはははは、俺も引くよ流石に。俺は能天気だの、馬鹿だの言われてきたけど、流石に酷いね!」

 

 そんな事を満面の笑みでいわれても困る。

 嬉しそうにしか見えない。

 俺は頭痛のしてきた頭を押さえながらとりあえずセイバーの方に顔を向ける。

 

 「・・・まあいい。とりあえず俺はあんたと契約すればいいんだな?」

 「―――ああ、そうだ。君が俺のマスターである限り、俺は君を命を懸けて守ろう」

 

 今までの馬鹿面が嘘かの様に騎士の顔は真面目なものに変わる。

 こいつこんな顔もできるんだな、なんて思いながら俺は令呪の宿った右手を上げ、契約の言葉を口にする。

 ――――召喚の口上とか言ってみたかったしたかったんだが、仕方ない。

 

 「―――告げる!

  汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」

 「―――我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう!」

 

 「了承した。サーヴァント・セイバー全霊をもって敵を討ち、貴方を守ると約束しよう!!」

 

 ここに契約成った。

 正直気は進まないが仕方ないだろう。出来るだけの事をするとしよう。

 

 

 




取りあえずここにはサーヴァントのステータスを置いときますね。
因みに、セイバーは超ムキムキです。

セイバー

秩序:善

身長192cm 体重121㎏

ステータス
筋力:?
頑丈:?
敏捷:?
魔力:?
幸運:?
宝具:?

クラス別スキル
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
 高い対魔力には理由があるが現在は開示不能。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。
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