待ってくれてる方がいるかは分かりませんが、待っていた方には申し訳なかったです。
現在深夜3時半。空に上った三日月も既に天辺を超え、傾いて久しい。
この時間にもなると都市部も静かなものだ。俺もセイバーもこのしじまを守りながら、とぼとぼと歩く。
帰路である公園と家の中間程の位置にある橋を渡りながら、俺はさっきの戦いを頭の中で反芻していた。
セイバーとジェミニの戦いは、俺が今までの人生の中で味わったことのないものだった。
稲妻の様な苛烈さでぶつかり合い、一瞬の内に数十、数百の攻撃を繰り出して敵を退かせんとする。
何もかもが規格外で、無茶苦茶だ。それも彼らはまだ余力があったように思える。
自分とは生きている次元が違う。
音を超える速度で動くことに無理がない。思考速度や反射速度がぶっ飛んで疾いからだ。
自分と彼らとの絶望的な実力差でめげてしまいそうになる。
これだから聖杯戦争は嫌だったのだ。
これからの修練の邪魔になりそうな
俺は
「ツカサ、どうした?さっきからずっと何を考え込んでいるんだ」
「・・・ん、まあ、なんだ。英雄ってのはぶっ飛んでんだなぁって考えてたんだよ」
「そりゃ当たり前だ。英雄とは人知を超越してる者だからな!そんな深く考えても意味はないぜ」
「・・・そりゃそうだ」
セイバーは俺の横を歩きながら、凄い晴れやかな顔で俺に話しかけてくる。
きっとジェミニとの再戦の約束が嬉しいのだろう。退くのが嫌いの癖に、再戦の約束自体は楽しいってんだからめんどくさい奴だ。
まあ、うじうじと悩んでいる俺よりも、一本筋を通してるこいつの方が見ていて気持ちいいだろう。
少なくともこんなことは聖杯戦争に生き残ってから考えた方がいい。
俺がセイバーの言葉を聞いて少し頬を緩めると、セイバーはうんうん、と頷いた。俺の事を気にして話しかけてくれたのだろう。
――――案外気の利くだ。
「まあ、俺はその中でも超強いからツカサは安心するといい!!俺がこう、聖剣でずばーと倒してやるからな!」
「・・・・」
―――――――――――馬鹿っぽいけど。
「ところでセイバー、ジェミニはどうだった?」
セイバーのおかげで俺のめんどくさい思考も止まったので、次は俺が歩きながらセイバーに話しかける。
どうだったとは、ジェミニは強かったか、後戦いは楽しかったかという事だ。
元々セイバーは聖杯に願うべきことなどないという。強いて言うならば、現代を楽しむために受肉はしてみたいとは言っていたが、そんなものはついでだ。
セイバーが召喚に応じる、というか無理矢理出てきたのは、ひとえに自分を傷つけられるほどの猛者に出会う為だ。そしてジェミニはそれを成せるほどの戦士だった。
――――一々聞くのも野暮なものだが、俺はセイバーの口からその事の感想を聞きたい。
故にわざわざそう聞いたのだ。
「――――最高だった。傷を付けられるのも初めてだったし、何より彼らはまだ本気という感じでもなかったしな。あの2人になら聖剣を全力で使えそうだ」
セイバーは目をキラキラさせながら、俺の問いに答える。
そんなセイバーを見て自然と笑みがこぼれた。
「へっ、あんま熱くなりすぎて俺の魔力を根こそぎ持ってくみたいなことはやめてくれよ。お前燃費すっごい悪いんだから」
「ああ、気をつける。ツカサの魔力は馬鹿みたいに多いみたいだが、それも有限だ。流石の俺もマスターが魔術戦が出来るくらいの魔力は残すさ」
「頼むぜ。俺はあんまり魔力を使う方じゃないけど、ちょっとくらいは使うからな」
「そういやあ、ツカサの戦い方はどんな感じなんだ?そこらへんは特に話してなかったよな?」
「んぁ?そうだなぁ・・・。俺の家は武家だからまあ基本的には格闘戦になるかねえ」
俺の返答にセイバーが首を傾げる。
「ん?槍は使わないのか?集めているのだろう」
「あーー、ありゃ完全な趣味だ。うちで覚える戦闘術は基本的に素手でのもんだからな。槍なんざ遊び程度しか使えねえさ」
「ほぉー、趣味ねぇ・・・」
セイバーとこう感じで喋っている間に、橋ももうすぐわたり切る。
後は住宅街を抜け、山の麓にある自身の家に帰るのみだ。
やっと寝れる、と思った矢先だった。
「―――――・・・神父?」
橋の先の歩道に神父服を着た男が立っていた。
その男は中々に整った顔立ちをしている。線が細いタイプではなく、少し濃い顔の男前という奴だ。
身長は俺より少し低いくらいだろうか。
そして俺が何よりも気になったのは、彼の立ち方だ。
重心が僅かにずれている。肉体のバランスが悪いから、ではない。
明らかに神父服の中に何かが仕込まれている。
「アンタは誰だ?」
「聖堂教会から派遣された代行者で
セイバーが直球で神父に問い、神父もまた簡潔にそれに答える。
聖堂教会とは”普遍的な意味を持つ一大宗教”に存在する裏の組織。
彼らの目的は全ての異端を狩り尽くし、神秘を管理することだ。そのため魔術の秘匿を旨とする魔術協会とは折り合いが悪く、仲が悪い。一応は停戦している現在でも小競り合いは続いているほどに。
そしてその中でも戦闘に特化した異端審問員が代行者だ。
本来教義の中では人は魔を滅する権限は与えられていない。だから代行者は神に代わり、魔を滅することを主に活動している。所謂エクスキューターだ。
そんなものが聖杯戦争が行われているような街にいるという事は、目的は1つしかないだろう。
「アンタ聖杯戦争の監督役か・・・」
聖杯戦争の監督役。
それは聖杯戦争で不用意に被害をまき散らさないように調整したり、神秘の漏洩などを防いだりする人物だ。
監督役くらい存在せねば、聖杯戦争は行き過ぎるところまで行ってしまう可能性もある。
だが今回の聖杯戦争には監督役はいなかったはずだ。理由は単純。
この聖杯戦争自体が非常に突発的に発生したためだ。
故に聖堂教会も魔術協会も反応が遅れた。一部の魔術師は知っていたそうだが、わざわざ教会や協会に報告する義理もない。だから相当後手に回っている。
そもそもこの聖杯戦争は誰が作ったかも分からない杯を、どれほどの結果を出せるのかを知らずに皆が戦っている。事前に知っていた魔術師も結局何らかの形で、この地の霊脈が変調していたためにそれに気づけたのだ。
言ってしまえば、冬木の聖杯を模倣したとされる杯の中でも安定感がなく何が起こるかわからない。
そんな危険なものを放っておくわけにもいかないだろう。
だから彼は監督役として派遣されたのかと思ったのだが――――
「いかにも、と言いたいところだが、厳密には少し違う」
「違うのか?だったら何で聖堂教会の人間が・・・」
「参加者としてだよ。俺が直接乗り込んで、被害を抑え込んだほうが手っ取り早いだろう?」
「はぁ!?」
この峰塚という男の言に俺は大きな声で反応してしまう。セイバーも不満そうな顔で彼を睨んでいる。
確かに理には叶っているかもしれない。だがそんな簡単な問題ではないだろう。
サーヴァントを召喚して何でも叶えられるという聖杯が手に入る状況だ。最悪任務を放棄して聖杯を取りに行く可能性もあるし、もしそうでなくとも被害を抑えるだけの役目を背負ってくれるサーヴァントなどまずいまい。
彼らは何かを叶えるためにこの世界に現界しているのだから。
そんなこんなで俺とセイバーは男に訝しげに目を向ける。
「ははは、別に聖杯を取らないってわけじゃない。あくまでも監督役としての役割も請け負っているだけだ。流石に被害を抑えるためだけにサーヴァントを召喚するのは彼らに迷惑だしね」
「ふーん、めんどくさい役回りだな」
「本当にね。でも自分で志願したからしょうがないさ」
峰塚は困ったように眉を顰めながら笑う。
こいつからはお人好しのにおいを感じる。
だが安易に信じるわけにもいかない。こいつからは曲者の匂いもするのだ。
その事を頭の片隅で考えながら、峰塚の笑う顔を見る。
「・・・あんたが何をしたいかは分かった。じゃあ何故俺に接触した?手でも貸せという事か?だが、魔術協会から送られてきた魔術師は別にいたはずだ。表面上でもそいつらと手を組んでいるんじゃないのか?それとも――――」
ジャージのズボンに突っ込んでいた手を引っ張り出し、手に少し力を籠める。
セイバーも剣こそ出していないが、いつでも攻撃できるように姿勢を改めた。
そんな俺たちの様子に、峰塚は手を空に上げて思いっきり横に振る。
すごく慌てている様に見えるが・・・。
「ちょ、違う違う!!勝手に敵認定しないでくれ!!!確かに何だかんだで手を貸してくれるのでは?っと思っていた人はいた!でもその人手を貸してくれなかったんだよ!!!!だから君たちに手を貸してほしくて、ね!」
峰塚のその慌てぶりで不信感を募らせながら俺は目を細める。
とりあえずもう少し話を聞いてみよう。
「何で俺らなんだ?別に他にも色々いただろう?白城や鞍月、あとアルカナムもいたはずだ」
「その3家は協会と仲が悪い。当たり前だが聖堂教会と仲がいいわけもない。つまりその3家と手を組むのは無理だ。白城なんかは悪い評判も立っているしな。となると手を組めるのは後2組しかない。だが君ではない方のマスターは誰かもわからないし、消息もつかめていないんだ」
「で、消去法で俺たちというわけか」
「別に消去法というわけだけじゃないさ。君は姫条だろう?魔術師の横暴や
「理に適ってはいるな」
「じゃあ―――――――!」
「いやだよ」
「―――は?」
峰塚は俺の言葉を受けて固まった。
まあ、アイツの気持ちも分かる。俺たちは町を守る一族だし、アイツも代行者であるらしい。
あいつからはセイバーと同じような神聖な何かを感じるから、別に聖堂教会の代行者というのも嘘ではないだろう。
そんな人物と手を組むのは悪いことではない。寧ろ凄く有利になる。
――――しかしだ。
「な、なんで断るのさ!君たちにはメリット一杯じゃないか!もしかして俺が嘘をついていると思ってる?じゃあ証拠を――――」
「ん?別にアンタの身分が嘘だとは思ってないさ。アンタからは神聖な雰囲気も感じるし、人間じゃない何かの血の匂いもする。まあ、十中八九教会関係者だろうさ」
「じゃあなんで!」
俺は指の親指と人差し指をぴんと伸ばし、他の指を折り畳んで所謂ピストルの形にする。
その行為に峰塚は首を傾げるが、そんなものは無視して俺はそれを自分の頭に突きつけた。
そうして峰塚に対して、人を馬鹿にしたような笑みを向ける。
「――――まず信頼してほしけりゃ、人の頭を弓矢で狙うとかやめた方がいいぜ」
その言葉を発した瞬間、
―――――刹那空気が爆ぜた。
次の瞬間には既に1つの動作が終わっている。
ほんの一瞬の間隙の中で、弓兵は数十の矢を放ち、代行者は5本の黒鍵を剣士の主へと投げつけた。
常人であれば反応することも無く、串刺しどころか爆ぜていたであろう攻撃。
だが彼らは常人ではない。まして
セイバーの周りには無数の矢であったと思われるものの残骸がまき散らされている。
こちらは当然だろう。彼はサーヴァントだ。この程度驚くにたり得ない。
だが問題はマスターの方だ。
司の周りには特に何もないが、手には5つの黒鍵が握られていた。それも刃の部分を素手で掴んでいる。それでいて怪我もない。
「はは、無茶するね」
「アンタもな。俺が並の人間だったら死んでたぜ」
「君は別に並の人間じゃないから平気だろう?」
神父のへらへらした顔に司は殺意を抱く。
人に刃物を投げておいて、この態度はないだろう。
そんなことを心に思いながら、黒鍵を弦へと投げ返す。―――――銃弾より速い速度で。
「おっと、返してくれてありがとう」
そして弦はそれを当たり前の様にキャッチし、カソックの中にしまう。
司はそれを見て舌打ちをする。本気で殺す気で投げたのだが、あっさりと止められてしまった。
「はぁ~、アンタは結局俺をどうしたいんだ?仲間にしたいのか?それとも殺したいのか?」
もう司はめんどくさくなってきたため、弦に対して直球で話を聴くことにした。
これで話さなかったり、攻撃してきた時は戦おうと決めたのだ。
―――――因みにさっきのは彼にとっては攻撃というほどのものではなく、じゃれ合い程度の認識だ。
「どっちも本当さ。君たちは厄介そうだし、さっさと倒しちゃいたいのも事実。君たちと共に戦い敵を討っていきたいのも事実さ」
「・・・・じゃあ、どうすんだよ。俺はあんまり気が長くない。さっきの遊び程度なら兎も角、これ以上何かされるようなら信頼なんざ出来ねえぞ。どっちかにしろよ、めんどくせえ」
「いや、さっきの一撃を当たり前の様に受け止めた時点で、君と手を組むことを決めたからもういいんだけどね」
「・・・・・・」
弦はニコニコした顔でしれっという。
―――――こいつ俺がさっきの一撃で敵対を決めたらどうするつもりだったんだよ・・・。
司はそんなことを心の中で思いながら、弦を睨む。
「つーかお前が同盟を組むことを決めても俺は認めてねえぞ。弓兵を遠方に設置して、同盟組もうって相手を狙ってる奴なんかと手は組みたくねえよ!」
「ああ、それなら大丈夫。アーチャーは狙撃をやめて、そろそろこっちに来るから――――お、来た来た」
「何が大丈夫なんだろな・・・」
どうやら非常にめんどくさい相手に捕まってしまったらしい。
セイバーがそんなため息を吐く司に寄ってくる。
何かセイバーも言いたいことがあるのだろうか。実際この同盟申し入れはいくら何でも無茶苦茶だ。
セイバーも文句の一つでもいいに来たのだろう―――――――と思ったが。
「さっき俺を狙った狙撃は凄かったぜ!いやー、そんな奴と手を組めるのはいいな!」
セイバーは俺の横を通り過ぎ、弦の後ろから今来たアーチャーに言葉をかけていた。
アーチャーの接近に俺は気づいていなかったが、セイバーは気づいていたらしい。
そのアーチャーは薄い鎧を纏い、腰に刀を差し、弓を背に背負う美丈夫――――いや、美少女だった。
美しい黒髪に桃色の瞳やアジア系の顔立ち、瞳の色を除くと完全に日本人の特徴を持った少女だ。恐らく日本の英雄なのだろう。
その少女はセイバーと俺の前に立つと一礼した。そこまで格式ばったものではないが、それには確かな気品を感じる。
俺とセイバーもそれにつられて一礼してしまう。
そして少女は顔を上げるとともに弦の頭を思いっきり掴み、コンクリートに叩き付ける。
え、という声が俺たちから漏れ、少女もコンクリートに膝と頭を付けた。
そう所謂土下座である。
「サーヴァントのアーチャーです。うちの馬鹿マスターと私の行った無礼申し訳ありませんでした!―――ほら!マスターも頭下げて!!」
「いた!いた、たたたたた!!わかったわかったから、頭思いっきり掴まないで!!!頭がつぶれるううう!!」
これがマスター・峰塚弦とそのサーヴァント・アーチャーとの出会いであった。
シリアスかと思ったらギャグ!
基本彼らはあんな感じでいきます。
アーチャーの能力はまた次回です。