神堂家上空約10kmの夜空。満月をバックに異形の物達が蠢いていた。
『
『彼の者は神王と魔王の両名に盟友と認められし者だ。油断はできん』
『如何致しましょうか?』
『ふむ、まずは小手調べといくか……任せたぞ』
『御意に』
一人の妖魔を残し、全ての妖魔が屋敷へと向かっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は屋敷の庭園を一人で散策していた。
暫く歩いていると不意に周りから一切の音と気配が消え失せた。
広大な庭園を満たすほどの妖気が結界内に充満し、空気がまるで凍ったかの様に感じられる。
「急に静かになったな……
俺の言葉に応えるように数え切れないほどの妖魔達が周りを取り囲む様に出現した。
『火狩聖也だな。我らが主の命により汝の命を頂戴する』
リーダー格の妖魔が一歩前に出て言い放ってくる。
「こんな真夜中に熱烈な歓迎だな。俺なんか殺してなんの特になる?」
『残念だが我らも知らぬ。抵抗するなとは言わん。せいぜい足掻いてくれ。
俺が肩を竦めながら両手を上げて訊ねると、リーダー格の妖魔がにやにやと笑いながら答えた。
辺り一面を覆い尽くしている妖魔達はリーダー格の妖魔に同調する様に声を上げて背嘲笑っていた。
「ああ、そうさせて貰うよ……〈我が御霊を映す者達よ。古の盟約に基づき、我が前に顕現せよ!!〉」
俺の
俺の姿を映している筈の鏡にはそれぞれ違う姿が映し出されている。
その姿はまるで神話に出てくる天使と悪魔そのモノである。
それぞれの鏡の中から天使と悪魔の少女達が現れた。
『お呼びですか。マスター』
『やっ~ほぃ♪ ご指名かな? ご主人様』
二人の少女は俺の前に跪きながら微笑んでいる。
「右舞、左舞……そこらの雑魚達を片付けてくれ。俺は彼奴を殺る」
『Yes.My master.』
『はいな♪ ご主人様』
二人の少女は俺に応えると疾風の如く駆け、次々と妖魔を殲滅していく。
『ばかな!? 我らは選りすぐりの者ばかりだぞ!? それを一瞬で消し去るとは……!?』
リーダー格の妖魔が目を疑うように呆然と立ち竦んでいた。
「さて、あんたの番だが……」
俺は冷ややかな眼で、妖魔を見つめながら言い放った。
『嘗めるなよ。人間風情が我に勝てると……』
そう呟いた次の瞬間、妖魔は瀕死の状態で地に伏せていた。
『ごっ、ごふぅ!? おっ、お前……いったい何者だっ!?』
「先程あんたが言っていた通りの
俺は妖魔の頭に足を乗せながら訊ねる。
『誰がお前などに教えるものか……』
「いい度胸だ」
そう呟くと俺は足に霊力を込めて踏み潰そうとする。
『まっ、待て……待てくれ!? 言う!! 言うから……わっ、我らが主の御名は……』
妖魔は慌てて答えようとした瞬間、物凄い殺気が辺りを包んだ。
俺が妖魔の側から飛び退いた瞬間、その妖魔は跡形もなく消滅していた。
『馬鹿が……人間風情に負けるとは恥を知れ』
どこからともなく躰を這い回る様な殺気が含まれた声が響いた。
「誰だ!?」
『お初にお目にかかる。我が名はバレル……我が主の命により、汝の命を貰い請けにやってきた。以後お見知り置きを……』
軽く会釈しながら一体の妖魔は歩み寄ってくる。
『我が部下達を一瞬で倒すとはなかなかの
「お褒めに与り光栄だ。あんたも俺を殺しにわざわざやって来たのか……ご苦労なこった」
先程まで充満していた妖気を一体で遥かに凌駕する
『そうでもないさ。なかなか楽しめそうだ……こんなに充実した気分になったのは久しぶりだよ。今宵は汝の
虚空に融けるように
「バレル? まっ、まさか……あの“深淵のバレル”か!?」
俺は
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
聖也が妖魔に襲撃を受ける数時間前。
『妖魔族の七派の一つ……それも
『なにぃ!? それは本当かっ!!?』
神王は魔王の言葉に眼を丸くしながら身を乗り出して訊ねた。
『ああ、確かなようだ……真の目的はセーヤの
魔王は気難しそうな表情でため息を吐いている。
『そうだろうな……出来ればそっとしておいてやりたいが……』
神王は少し悲しそうに虚空を仰ぎ見ている。
『どちらにしても我々は原則として人間界には不介入だからな……手出しはできない』
『しかし、このままって訳にもいくまい……そうだ!! 名案を思いついたぞ。耳を貸せ♪』
神王は魔王に嬉しそうに耳打ちをした。
『ふむ、ふむ……なるほど、それは面白い。よし、その案でいくとしよう。ちょうどセレナ達も逢いたがっていたしな♪』
神王の提案に魔王は含み笑いをしながら答えた。
聖也が妖魔達に襲われたその翌日、神堂家に二人の少女が尋ねて来た。
「遠路はるばる、よくぞいらっしゃいました……さあさあ、お二方共お掛け下さいませ」
『はい、ありがとうございます。さあ、セレナちゃんも……』
『うん……』
セレナと呼ばれた少女は恥ずかしそうに俯きながら腰掛けた。
「聖也もそろそろ来る頃だと思いますので……」
火狩家当主の火狩龍牙は額の汗を拭いながらそわそわと落ち着きのない様子である。
『皆さん、そんなに畏まることはないですよ』
シアンが可笑しそうに微笑んだ。
「しっ、しかしですな……やはり、神王様と魔王様のお孫様でありますし……」
月代家当主の月代仁はしどろもどろに答えるしか出来なかった。
『気にしないでください。あたし達はお爺さま達と違いますから』
「はぁ、左様でございますか……」
『ほら、また……』
「すみません。以後気をつけます……」
神堂家宗主の神堂星十郎が申し訳なさそうに答えた。
その時、気まずい雰囲気を拭う様にノックが鳴り響いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「“可及的速やかに来い”……って何事だ? 俺、帰ってきて早々になんかへまやらかしたかな?」
俺は首を傾げながら星爺達のいる応接室へと急ぎ足で向かった。
応接室の扉の前に来て三回ノックをして声を掛けた。
「聖也です」
「どうぞ。入ってきなさい」
「失礼します。爺さん達、俺に何の用……」
俺は扉を開けて、そのまま丸で時が止まったかの様に立ち尽くしていた。
『久しぶりね、セーヤ』
『お久しぶりです、お兄ちゃん……』
「シアン!? セレナちゃん!? なっ、何でここにぃ~~!!?」
俺は驚きのあまり眼を見開いている。
『社会勉強よ。しばらくご厄介になるわね』
セレナちゃんはシアンの言葉に肯いている。
「
俺は額を押さえながらため息を吐いた。
『ごめん、ごめん。驚かそうと思って……びっくりした?』
シアンは小悪魔的な笑みでしてやったりという表情を浮かべている。
「心臓が止まるかと思ったぞ」
『ごめんなさい……大丈夫?』
俺が肩を竦めながら言うと、セレナちゃんが心配そうに俺の顔を覗き見ながら訊ねてきた。
「大丈夫だよ、セレナちゃん……それに、悪いのはシアンなんだから」
俺はセレナちゃんの頭を撫でながら答えた。
セレナちゃんは少し顔を俯かせながら頬を朱色に染めている。
『ちょっと、聞き捨てならないわね……なんで、あたしが悪いのよ!?』
シアンは俺の言葉に詰め寄りながら詰問してきた。
「胸に手を当てて考えてみろよ」
『どれどれ……わぁ、逞し~い♪』
俺がため息混じりに言うと、シアンは俺の胸にそっと手を当てた。
セレナちゃんは羨ましそうに指を銜えて見つめている。
「……なんで俺の胸に触ってるんだ!!?」
『セーヤがそうしろ、って言ったでしょ?』
「違うだろ!! 自分の胸に手を当てるんだろうがぁっ!!?」
『なるほど、こうね♪』
シアンは
「……おい、何をしている?」
『あれ? 以外に冷静だね。面白くないな……』
シアンはつまらなそうに口を尖らせた。
その時、タイミング
三人は目を丸くして、俺達を凝視している。
「あ~の~……えっ~と……これはですね……」
俺は慌てていて
「せぃい~ちゃ~~ん!!!?」
「あ~にぃ~きぃ~~い!!!?」
「にぃ~い~様~~ぁあ!!!?」
三人は額に血管を浮かび上がらせ、にじり寄ってくる。
その形相は並の妖魔なら視線だけで射殺せるほどの殺気が込められていた。
「あのぉ~ですね……これには海よりも深く、空よりも広い訳が……」
必死に
その上、
『言い訳は男らしくないぞ。あたしの胸に触ったくせに……』
『だめ。お兄ちゃんは悪くないの……シアンお姉ちゃんが悪いの』
「「「本当ですか!!!?」」」
ひとみ姉達は般若の形相で訝しげに星爺に訊ねている。
「まっ、まあ……そっ、その……なっ、何と言うかの……」
ちょっ!? せっ、星爺ぃ~い!! 俺を見捨てないでぇ~~!!!
『本当なの!!』
セレナちゃんはは短く、しかし力強く言い放った。
『はい、はい……あたしが悪うございました。ごめんね、セレナ……』
シアンは面白くなさそうに、けれども嬉しそうにセレナちゃんの頭を撫でている。
「あっ、あっはっは……わっ、私は……せいちゃんのことを最初から信じていたよ♪」
「もっ、もちろん……ぼっ、ボクもだよ♪」
「あっ、あの……わっ、私もですよ♪」
ひとみ姉達は何事もなかったよう微笑んでいる。
しかし、その表情はどこかぎこちない。
「
俺はは冷や汗を流しながら呟いた。
「ところでせいちゃん……こちらはどなたなのかしら?」
ひとみ姉が今気づいたかの様に訊ねてきた。
『申し遅れました……あたしは、シンシア・フォンヌ・アーク。シアンとお呼びください……こちらは、セレンシア・リリム・ルシフェル。セレナちゃんと呼んであげてください』
シアンの紹介にセレナちゃんはコクコクと肯いている。
「二人ともそれぞれ神王様と魔王様の孫に当たるんだよ」
俺は話の流れに乗ってそう付け足した。
「そうなんだ、よろしくね。私はせいちゃんの従姉の神堂ひとみ、こちらは従妹の双子の姉妹で月代皐月ちゃんと月代千歳ちゃんです。えっと、神王様と魔王様のお孫さんの……えっ? 神王様と魔王様のお孫様!!?」
「まっ、マジですか!!?」
「ほっ、本当ですの!!?」
三人は驚きのあまり、声を裏返して聞き返している。
『はい、そうですけども気になさらないでください。シアンと呼んでくれてかまいませんので……』
『セレナでいいです……』
二人はにこやかに答えた。
「二人とも特別扱いは嫌がるんだ。だから、普通に友達になってあげてくれないか?」
「……うん、よろしくね。シアンちゃん、セレナちゃん」
「……よろしく。シアン、セレナ」
「……よろしくお願いいたします。シアンさん、セレナさん」
俺の言葉にひとみ姉達はにこやかに手を出して握手を求めた。
『はい。よろしくお願いします』
『よろしく……』
シアンとセレナちゃんも嬉しそうに握手に応えた。
俺は優しい笑顔を浮かべながらその様子を眺めている。
「だけど、せいちゃんは渡さないわよ!」
「兄貴は渡さないよ!」
「にい様は譲りませんよ!」
『セーヤはあたしのモノよ!』
『お兄ちゃんはあげないよ!』
お互いに微笑みあっている五人の乙女達だが、それぞれ背後に揺らめく漆黒の
その視線の間に見える火花は幻だろうか?
俺はは引きつった笑みを浮かべながら後ずさりした。
「もてる男は辛いのぅ……」
星爺は苦笑しながら俺の肩を叩いた。
「そうじゃの。じゃが、流石にここまでくるとのぅ……」
龍爺も呆れながら俺の肩を叩く。
「うむ。いっそ、哀れよのぅ……」
仁爺はため息を吐きながら俺の肩を叩いた。
「……俺って、幸せなのかな? それとも不幸なのか?」
俺の呟きは誰の耳にも入らず、虚空へと消え去った。
シアンとセレナちゃんの歓迎会を兼ねた夕食後、俺は屋敷の地下に造られた道場で座禅を組みながら一人瞑想をしていた。
『入ってもいいかしら?』
「なんだ? 何か用か?」
俺は目を瞑ったまま聞き返した。
『……聞きたいことがあってね』
『お兄ちゃん、妖魔族に襲撃された?』
「ああ……なんでも俺の命が欲しいらしいな」
俺は眼を開けて肩を竦めながらシアンとセレナちゃんを見上げた。
『やっぱりお爺様達のお話どおりね。妖魔族の一派がセーヤの抹殺を企てているらしい、と仰っていたから……』
「まさか? シアン達が来た本当の理由は……」
俺は立ち上がってシアン達の側に歩み寄りながら苦笑を浮かべている。
『ええ、お察しのとおり……あなたの助けになりに来たの』
シアンはにっこりと微笑みながら答えた。
セレナちゃんもコクコクと肯いている。
「でも、よく神王様と魔王様がお許しになったな? 大事な孫娘達を人間界に送り出すなんて……」
『お爺様達が言い出したんですもの。それに、セーヤはあたし達にとって
シアンが頬を朱色に染めて外方を向きながら答えてくれた。
セレナちゃんも同じく頬を朱色に染めながらながら肯いている。
「……そっ、そうか。ありがうな」
俺は照れくさくなり頬を染めつつ、二人の頭を撫でた。
そして思いついた様に訊ねた。
「そういえば、なんで俺の命を妖魔族は狙っているんだろう? おまえ達は、なにか知っているのか?」
『ええ、知っているわよ……』
『うん……』
シアン達は答えにくそうに俺から目を逸らした。
『ごめんね……お爺様達に口止めされてるのよ。でも、ヒントくらいなら教えてあげられるかも……』
「ああ、教えてくれるか?」
『う~ん、どうしようかな……』
シアンは唇に指を当てて思案している
そこにセレナちゃんがそっと耳打ちしている。
『お姉ちゃん……どう?』
『そうだね……セーヤ、あたしから一本でも取れたら教えてあげるよ』
「ああ……見届人はセレナちゃん、お願いできるかい?」
『うん……いいよ』
セレナちゃんが静かに
Mr.凸凹「痛てて……前回は死ぬかと思ったぞ」
左舞『
Mr.凸凹「だから作者だよ!! ……さあ、パパの胸に飛び込んでおいで♪」
右舞『さて、今回はワタシ達の出番があった訳ですが……』
Mr.凸凹「また、
右舞『訊きたいことがあるのですが……』
Mr.凸凹「はっ、はいぃ~~!! なっ、何でございましょうか? (愛らしい笑顔なのに悪寒がっ!?)」
左舞『うっ、右舞ちゃん? (まっ、拙い!? あの笑顔はぁ~~!!?)』
右舞『折角の初登場なのに、何故アレだけなのですか?』
Mr.凸凹「こっ、今回のメインは題名通りシアンとセレナの
右舞『つまり、貴方の表現力不足が原因という訳ですね?』
Mr.凸凹「うぐぅ!? ……そっ、その通りにございます」
右舞『それならば少々
Mr.凸凹「……って、慣用句じゃなくて文字通りの爆発の意味でっ!? しっ、しかも……
左舞『ちょ、ちょい待ちぃや……!? しゃっ、 洒落にならないわよぉ~~~!!?』
右舞『〈神々の黄昏(ラグナレク)〉』
※ 只今、映像と音声が途絶えています。暫く、お待ち下さい。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
右舞『
左舞『うっ、右舞ちゃん……おっ、恐ろしい娘……』
巻き添えを食らい、気絶した左舞。作者は灰すら見当たりません。
右舞『それではまた次回お目に掛かりましょう♪』