俺が右舞と左舞を付き従えて校庭に出ると、以前より遙かに多くの妖魔が犇めいていた。
『出てきたか……殺れ、お前達!!』
リーダー格の妖魔が号令を掛けると、一斉に俺達を目掛けて無数の妖魔達が襲いかかってきた。
「右舞、左舞……油断するなよ。以前の妖魔達とレベルはあまり変わらんが数が多い。それに、あいつは桁違いだ……」
俺は奥に控えるリーダー格の妖魔を一瞥した。
『Yes.My master.〈創世の焔よ、世界に仇なす者に鉄槌を下せ!! 来よ、裁きの神焔よ!!〉〈浄魔の焔(メキド)〉!』
右舞の言霊によって生まれた純白の焔が妖魔達を焼き払う。
しかし、その焔の中から数体の妖魔達が躍り出て右舞を襲う。
『〈闇の火柱(ダークネス・フレイア)〉!』
左舞の攻撃が妖魔達を吹き飛ばした。
『大丈夫? 右舞ちゃん』
『ええ、ありがとう。左舞ちゃん』
「気を付けろよ。おまえ達が俺の分御霊で俺が健在ならば再生できるとはいえ、痛みを感じるし限度を越えればしばらく再生できないからな」
『以後、気を付けます……〈聖なる鈴音(ホーリー・ベル)〉!』
迫ってきていた妖魔が右舞の攻撃によって砕け散った。
『〈超重力場(メガグラビトン)〉!』
俺の
『やるな。さすがは、バレル様がお認めになっただけはある……しかし、お代わりはいくらでも有るぞ。果たして、いつまで保つかな?』
その一言を合図に、一斉に妖魔が襲ってくる。
『〈炎の嵐(ファイアーストーム)〉!』
『〈聖なる嵐(テンペスト)〉!』
『〈爆焔(バースト・エンド)〉!』
俺や右舞と左舞のそれぞれの攻撃によって妖魔達は壊滅状態になった。
『ふむ。やはり、私が自らお相手するしかないか……我が名は、アスマ。バレル様直属の四天王が一人“影のアスマ”……では、参る!』
それまで静観していたリーダー格の妖魔が襲い掛かってきた。
『〈裁きの光(ジャジメント・レイ)〉!』
右舞の
しかし、アスマは光の槍を紙一重で避けていく。
『〈影の刃(シャドウ・エッジ)〉!』
『〈焔の鞭(フレイム・ウィップ)〉!』
俺は襲いかかってくる漆黒の刃を焔の鞭で叩き消す。
『〈血咲の薔薇(ブラディー・ローズ)〉!』
透かさずに左舞が攻撃を仕掛ける。
しかし、紙一重でアスマに避けられた。
『〈影の礫(シャドウ・ブラスト)〉!』
『〈重力の壁(グラビティ・ウォール)〉!&〈爆焔の蝶(フレア・バタフライ)〉!』
俺はアスマの攻撃を防ぎつつ、反撃した。
多数の焔で出来た蝶がアスマを取り囲んで、一斉に爆発して辺り一面を吹き飛ばした。
「殺ったか……?」
『危ないっ!! マスター!!!』
訝しげに呟いた俺の背後にあった影の中から無傷のアスマが現れた。
俺は一瞬遅れて気が付いた為に攻撃を避けるタイミングを逃してしまった。
俺より先にアスマに気づいた右舞が俺を庇う様に突き飛ばした。
「たっ、助かった……ありが……うっ、右舞ぃい~~~!!!?」
振り返った俺の眼に映ったのは、右舞の腹を貫いたアスマが佇んでいる光景だった。
『ふん。よけいなことを……まあ、戦力を削れたな……』
アスマは眉一つ動かさず、無造作に右舞を放り投げた。
「右舞!おい、右舞!!」
俺は駆け寄って倒れ伏している右舞に声を掛けた。
左舞は俺達の側でアスマを睨み付けている。
『……まっ、マスター……ご無事ですか……?』
うっすらと眼を開け、右舞が訊ねてくる。
「ああ、おまえのお陰だ……」
『よっ、良かった……もっ、申し訳ございません。マスターがあれほど“気を付けろ”とおしゃっていたのに……』
「気にするな……右舞は俺を守ってくれたんだ……」
俺は右舞の手を握りながら霊力を送り込みながら微笑みかけた。
『茶番はそれまでにしてもらおうか……さて、冥土に行く覚悟はできたかな?』
俺達の様子を傍観していたアスマが、面白くなさそうに訊ねてきた。
『ご主人様、このままじゃ勝てません……封印を解くしかありませんよ……』
左舞はアスマの方を睨みながら進言してきた。
「ああ……だがしかし、右舞がこの状態では……」
左舞の言葉に、俺は頭を振る。
右舞は単なる俺の身に余る神霊力を具現化した分御霊ではないのだ。
左舞と共に俺が幼い頃から苦楽を共にしてきた大事な家族だ。
それに更なる負担を掛ける事が出来る筈がない。
『だっ、大丈夫です。これくらい、平気ですよ……』
右舞はにこりと微笑んで言った。
その表情は直ぐに苦痛に歪んでしまった。
「だっ、だが……この状態で封印を解けば、右舞は……」
『まっ、マスターが死んで……しっ、しまっては……ごほっ……よっ、余計に存在意義がっ……がはっ!……あっ、ありませんよ。でっ、ですから……』
右舞は聖也の唇に人差し指を当てて言葉を遮り、懇願するように進言してきた。
「……分かった。少しの間だが負担を掛ける……右舞、ありがとう…………待たせたな、アスマ!!」
俺は右舞に微笑み掛けてから、アスマと向き合った。
『ようやく、覚悟が出来たか……おまえを倒せば、我らが主もお喜びになられるだろう』
「アスマ、ひとつ聞いて良いか?……おまえ等の主とは、誰だ?」
『ふむ……よかろう。冥土の土産に、教えてやろう。我らが主の御名は、七大妖魔王がお一人“蒼天のカルマ”様だ……』
アスマはまるで酔いしれたように天を仰ぎ、恍惚としている。
「ありがとよ……妖魔族の王の中でも、一二を争う“蒼天のカルマ”が俺の命を狙っているとはな……これで、心おきなくおまえを滅殺できるよ……」
俺は苦笑しながらアスマを一瞥して、そして霊力を練り上げながら真剣な表情に戻り叫んだ。
「ひとみ姉、皐月ちゃん、千歳ちゃん、シアン達に協力して、更に強力な結界を!!」
俺の言葉に生徒達の避難を終えてシアンとセレナちゃんと合流したひとみ姉達が、新たに強力な結界を展開させる。
『ふん。今更、結界を強化してどうする? それに、私を倒すだと? 貴様にできるのか?』
俺の言葉にアスマは可笑しそうに笑いながら見下してくる。
「ああ、できるさ……〈我が御霊を映す物達よ。古の盟約に基づき、我が真の力を解き放つ鍵となれ!!〉」
俺が呪文を唱えると、右舞と左舞が光の粒子となって俺の躰に吸い込まれていく。
『ほぉっ……飛躍的に霊力が上がったか。しかし、人の身でそれほどの能力には長くは保つまい……それに、やっと私と互角になった程度か……それで私を倒そうとは片腹痛いわ!!』
アスマは地を蹴り、霊力を手刀に込めて間合いを詰めてくる。
『〈超々重力場(ギガグラビトン)〉!』
俺の
『ぐぅうっ!! この程度……効かんわ!!!』
アスマは重力場に足を捕られながら吐き捨てるように言い放った。
「足止めが出来れば充分だ……〈我が右腕に神焔、我が左腕に魔焔、我が御霊の導きによりて来たれ! 虚無の焔〉!!」
俺の右手に純白の焔が灯り、左手には漆黒の焔が灯った。
その焔は混じり合い、闇よりも暗い焔が生まれた。
『ばっ、ばかな? 人間ごときが混沌を操るだとっ!? 我らでも混沌を統べることなど、不可能だというのにっ!! ……おっ、お前は何者なんだぁっ!!!?』
アスマは恐怖のあまり、呆然と立ちつくしている。
「さあな……俺自身よく解らないよ……神王様と魔王様なら知っているかもな。〈我が意は天意、我が威を纏い、猛れ!!〉〈混沌の焔(カオス・インフェルノ)〉!」
俺の放った混沌の焔は静かにアスマの魂すら残さず消滅させていった。
アスマの最期を見届けて、俺は疲労のあまり眠るように気を失った。
~ ~ ~ ~ ~
夢? 俺は夢を見ているのか……?
俺が
俺は世界中を旅して、小さな島国の都に腰を落ち着けたいた。
「ここにおられましたか……お探し致しましたよ」
声に顔を上げると、三人の女性が風に髪を靡かせて佇んでいた。
『朧姫か。それに、楓姫に紅葉姫もご一緒か……』
「お隣、よろしいですか?」
楓姫がはにかみながら訊ねてきた。
『ああ、構いませんよ……しかし、宜しいのですか? 姫君達が護衛も付けず、このような場所へ……』
俺は問いかけながら立ち上がろうとする。
「どうぞ、そのままで結構ですので……」
朧姫はそう言うと、俺の頭をそっと持ち上げて膝の上に載せた。
『あっ、あの……朧姫……?』
俺は恥ずかしさのあまり、顔を赤くして訊ねた。
「あなたにお逢いするのに、護衛など必要ございません……」
朧姫はニッコリと微笑みながら顔を覗き込んでくる。
俺は恥ずかしさのあまり顔を逸らした。
「それに、お父君もあなた様を気に入られておられます……」
紅葉姫が俺の手を愛しそうに自分の手に重ねながら言う。
「もちろん、私達もお慕いしております……」
楓姫も残るもう一方の手に自分の手を重ねながら、微笑み掛けてくる。
『……俺は人の血を引いているとはいえ、あなた方とは違う存在ですよ』
俺は少し寂しそうに呟いた。
「そのようなことは気にいたしません……私達は、あなた様のお人柄に惹かれております。私達にとっては、誰よりも愛しいお人でございます。それに……」
朧姫達は少し顔を赤らめて、微笑んでいる。
『それに? なんですか?』
俺は姫達の様子に気が付いて先を促した。
「私達のお腹にはあなた様のお子が宿っております……」
姫達は更に顔を赤くして期待する様な眼で、俺を見つめている。
俺は言われた事を正しく理解するまで眼を見開いて固まってしまっていた。
~ ~ ~ ~ ~
「うぅ……こっ、ここは?」
「あっ、気が付いた?よっ、良かったよ……」
ひとみ姉が俺の顔を覗き込みながら安堵の表情を浮かべていた。
「兄貴、気分は大丈夫?」
皐月ちゃんが俺の顔を覗き込みながら訊ねてきた。
「ああ……ちょっと疲労があるだけで問題ないよ」
俺は一度眼を瞑って躰に異常がないか確かめながら答えた。
「にい様、ご無事で何よりです……」
千歳ちゃんが眼に涙を浮かべながら、俺の顔を覗き込んでくる。
「心配を掛けたね……うん?」
意識がはっきりしてくると、俺は自分の状態に気が付いて顔を赤く染めた。
「あっ、あの……ひとみ姉? もしかして、俺が気を失っている間……ずっと膝枕していたの?」
「ええ、もちろん♪」
俺は更に顔を赤く染めた。そして、気が付いたように呟いた。
「あれ? 夢の姫様達……どことなく、ひとみ姉達に似ていたような……」
俺は軽い既視感を感じていた。
『ただいまー……気が付いたんだ。よかった……』
シアンがセレナちゃんを引き連れて保健室に入ってきた。
『お兄ちゃん、大丈夫?』
『ああ、もう大丈夫だよ……ところで、セレナちゃん達はどこに行っていたんだい?』
『みんなの記憶をちょっと操作しにね……』
シアンが面白くなさそうに肩を竦めながら答えた。
「記憶の操作? なんで、そんなことを……?」
俺は不思議そうに首を傾げてながら訊ねた。
「なんでって……そうしないと、ショックが大きすぎてパニックなっていたわ……それに、いくらこの学園の関係者が能力者ばかりとはいえ、せいちゃんの
「つまり、兄貴の能力はこの学園の関係者でさえ、異質なものでしかないんだよ」
「それは、つまり……にい様自体が異質なものに映る、ということです」
ひとみ姉達は答えながら寂しそうに俯いた。
「多少の違いはあれ、私達の能力も異質なものとして映りかねないの……人は異質なものは排除しようとする……だから私達も極力、自分達の能力は解放しないようにしているのよ」
ひとみ姉の言葉に、皐月と千歳も肯いている。
「ごめんな、俺のせいで迷惑かけちまって……」
「ぼく達は、兄貴のことを迷惑なんて一度も思ったことないからさ……」
「そうですよ。私達は、にい様のことをお慕いしています……」
俺の言葉に双子の姉妹は微笑み合いながら答えた。
「そうよ。悪いのはあの妖魔達なんだから……ところで、どうしてせいちゃんが妖魔族に命を狙われているの? それに“蒼天のカルマ”って、何者なの?」
ひとみ姉は首を傾げながら訊ねてきた。
俺ははシアンとセレナちゃんに眼を向けて確認した。二人とも静かに肯いた。
「神堂家や火狩家と月代家の始祖様が、
「ええ、前にお爺さまがおしゃっていたわね……それが……?」
ひとみ姉の言葉に皐月ちゃんと千歳ちゃんが肯いている。
「ああ、俺達の始祖様の御名は……クロスフォード・ウィリアム・ウォーレン・アーク・ルシフェル……神王様と人間の女性との間に生まれた女性と、魔王様との間に生まれのが俺達の始祖様だそうだ……」
「「「…………」」」
ひとみ姉達は驚きのあまり、口を開けて固まってしまっている。
「あっ、あの……シアンちゃん? 本当なの?」
ひとみ姉は首だけをシアンに向けて訊ねた。
シアンはゆっくりと首を縦に振った。
『それから“蒼天のカルマ”とは……妖魔族を統べる七人の王、その内の一人の名です。ちなみにバレルとは神殺しの異名を持つ“深淵のバレル”将軍のことでしょう……』
シアンは身震いしながら答えた。
「やっぱり、そうか……あれほどの威圧感を放てる者は滅多にいないからな……」
『お兄ちゃん、会ったことがあるの?』
「ああ、ご丁寧に挨拶しにやって来たよ……」
俺はため息混じりに答えた。
「……そう言えば、せいちゃん?右舞ちゃんは、大丈夫なの?」
ひとみ姉は重くなった雰囲気を振り払う様に訊ねてきた。
「……あれほどのダメージで封印を解いたから、暫くは具現化するのは無理だろうな……それに……」
「それに、何?」
ひとみ姉は言葉に詰まった俺を促す様に訊ねてきた。
「……それに、混沌の
俺は重い口を開く様にため息を吐きながら答えた。
『ええ、あの能力は、セーヤの霊力を極端に削るから……』
俺の言葉をシアンが補足するように続けた。
「そっか……兄貴の分御霊である右舞は……」
「にい様の霊力を具現化した存在……」
「あの状態の右舞ちゃんには追い打ちを掛けちゃった、ってことね。それは、せいちゃん自身にも深刻なダメージが蓄積されている、ってことになるわね……」
ひとみ姉達は深刻な事態に、息を呑むように考え込む。
『暫くは安静にしていないと……』
セレナちゃんは心配そうに、俺の様子を窺ってきた。
『今のセーヤは、能力の消耗限界を遙かに超えちゃっているの……今の状態で
シアンはどこかか遠い眼をしながら、悲しげな表情を浮かべていた。
「シアン……?」
俺はシアンの様子を見て、訝しげに名前を呼んだ。
『なっ、なんでもないわ。大丈夫よ……今はあなたの回復が先決ね』
シアンは取り繕うように微笑みながら、俺に小瓶を差し出した。
『おっ、お姉ちゃん! そっ、それは……』
何か言いかけたセレナちゃんの唇に、そっと人差し指を当ててながらシアンは首を横に振る。
『これを飲めば霊力の回復も促進されるわ』
シアンは小瓶の蓋を開けて、俺に手渡した。
俺は一気に小瓶の中身を呷って飲み干した。
「ところで、これは?」
「せいちゃん……普通は飲む前に聞くものよ」
ひとみ姉は少し呆れた様子で俺を諭してしてきた。
『“復活の聖水”ってところね……霊力の回復を助けるの』
シアンはにっこりと微笑みながら答えた。
その横でセレナちゃんが小さくため息を吐いていた。
「ふーん。まあ、何でもいいか……」
俺は興味なさそうに呟いた。
「さて、そろそろ帰りましょうか。今日は、早めに休んだ方がいいわ……皐月ちゃん、お願いできるかしら?」
「うん、大丈夫だよ……それじゃ、転移の門を開くね……〈我、彼方から此方への道を指し示さん。開け、彼方への門よ!!〉」
皐月ちゃんが
『へぇー、結界の中から別の結界に道を繋げるなんて凄いわね……』
シアンは感心したように門を眺めている。
「それ程でもないよ」
皐月ちゃんは照れたように頬を掻いて呟いていた。
「さあ、帰りましょう……」
ひとみ姉が俺達を促して揃って門を潜ると扉が閉まり、門が消えて元の景色へと戻っていった。
Mr.凸凹「くそぉ~~前回も文字通り一杯喰わされたな……」
シアン『文句を言わないの!! 女の子の手作り弁当なんて
Mr.凸凹「ぐっ、ぐふっ!? ……的確に人の精神を削ってくるなんて恐ろしいな……って、何でシアンが
セレナ『お姉ちゃんだけじゃないよ……静養している右舞ちゃんを看病している左舞ちゃんに頼まれたの』
シアン『代わりに
Mr.凸凹「チョイ待ち……今、不穏な事言わなかったか?」
セレナ『大丈夫、問題ないの……』
Mr,凸凹「そうだよな……聞き間違いだよな?」
シアン『
Mr.凸凹「ちょ……!?
セレナ『落ち着いて……』
Mr.凸凹「おおっ!? セレナちゃんは優し……」
セレナ『お祈りはすんだ……?』
Mr.凸凹「神は死んだっ!!」
シアン『失礼ね……お爺さまはまだまだ元気よ!!〈祖の犯した罪により汝らは楽園を追放された。今こそ、その原罪を清算せよ!!〉 〈原罪の裁き(ジャッチメント・アーク)〉!!』
Mr.凸凹「……なっ、なんでこうなるのっ!!?」
《チュドォ~~ン!!!》
セレナ『たまや……♪』
シアン『ふぅ……すっきりしたところでお別れの時間ね♪』
シアン&セレナ『『次回もお楽しみに♪』』