~神魔の後継者~   作:Mr.凸凹

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第06話 『幾千の彼方の記憶に因る涙』

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 夢? また、あの夢を観ているのか。

 

 

「やはり、ここにいらしゃいましたか。夜風は身重のお身体に障りますよ」

 

 俺が声に顔を上げると一人の少女が月を背負う様に佇んでいた。

 

『霞姫か。そうだな。戻るとしよう……』

 

 俺は先に立ち上がり姫達の手を取り立ち上がらせる。

 

「「「ありがとうございます」」」

 

 朧姫達は頬を赤く染めてながら立ち上がり、恥ずかしそうに屋敷へと歩いていった。

 

「私もあなた様のお子が欲しいです……姉上様達が羨ましい」

 

 隣を歩いている霞姫が不意に呟いた。

 

「そのお身体ではまだ無理ですよ。もう少しご療養されないと……」

 

 俺は霞姫の頭を撫でながら心配そうに見つめている。

 

「今直ぐにでも私もあなた様のお子が産めるようになりたいです……」

 

 霞姫は俺の顔を上目遣いに覗き、頬を赤らめる。

 

『焦らずとも良いではありませんか……なに、すぐにお元気になられますよ』

「でも、その時にあなた様が私を娶ってくださるとは限りませんもの……」

 

 霞姫は不安そうに俯いてしまった。

 

『……そうだ!これを約束の印として姫に差し上げましょう』

 

 俺は自分の首飾りを霞姫に手渡した。

 

「宜しいのですか?これは、あなた様が大切にされている物でございましょう?」

 

 霞姫は少し困った様な表情で尋ねてくる。

 

『ええ、貰ってください』

 

 俺は微笑みながら肯いた。

 

「……では、あなた様には私の首飾りを差し上げます」

 

 霞姫は自分の首飾りを代わりに、俺の首に掛けた。

 霞姫ははにかんだ笑顔で俺の顔を見ている。

 俺達は手を繋ぎ、屋敷へと歩いていった。

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 

 俺は目が覚めると、自分が何故か泣いている事に気が付いた。

 

「涙? 何故、俺は泣いているんだ?」

「せいちゃん? どうしたの? 怖い夢でも見たのかしら?」

「いや、違うよ。それにしてもあのお姫さんは昨日の少女だよな……」

「お姫様?」

「ああ……って、お袋? なっ、なんで俺のベットで寝てるんだ?」

 

 俺が今まで気付かなかったが横を見ると、お袋が布団から顔を出して俺の顔を覗き込んでいた。

 

「せいちゃんの寝顔を見に来たら眠くなちゃって……」

 

 お袋は欠伸を噛み殺しながら答えた。

 俺は引きつった表情のまま訊ねる。

 

「何時から?」

「えっと……確か三時頃だったと思うわ。さて、それではおはようのキスを……」

「いらん!! それよりも着替えるから出ていってくれ!!」

 

 俺はお袋の首根っこを捕まえて廊下へと放り出した。

 

「いやーん。意地悪ね。それとも照れてるのかしら……先に食堂に行ってるわよ」

 

 お袋は閉じられた扉越しに声を掛けてから部屋の前から立ち去った。

 

「我が母親ながら理解に苦しむ……」

 

 俺はため息を吐きながら着替え始める。

 そして、枕元のキャビネットに置かれたペンダントに手を伸ばして見つめたまま佇んでいた。

 

「約束の証……そういえば、あの少女もペンダントをしていたな」

 

 俺は少女を思いだしながら夢の中の首飾りと比べてみる。

 

「やっぱり、同じ物だよな……つまり、俺の夢は前世の記憶を見ているのか?」

 

 俺は今まで見た夢を反芻しながら少し考え込んでしまった。

 

「ここで悩んでも仕方ないか……」

 

 俺はペンダントを首に掛け食堂に向かって歩き出した。

 

 

昼休み。俺はシアンと学園の屋上に居た。二人とも口を開かずに空を見上げている。

 

『話って、なに?』

 

 シアンは沈黙に耐えかねたように訊ねてきた。

 

「ああ、話したよな。俺が見る夢のこと……」

『ええ、それがどうしたの?』

 

 シアンは眉を少し顰めて静かに訊ねてくる。

 

「今朝も見たんだよ。それも、昨日に会った少女が出てきたんだ……あの少女はシアンの知り合いだったよな……」

『そうよ。遙か、遠い昔のね……』

 俺の真剣な表情にシアンは観念したように答えた。

 

「遠い昔……それは、俺の前世にも関係あるのか?」

『何故、そう思うの…… 』

 

シアンは俺の顔を直視せずに顔を逸らしながら訊ねてきた。

 

「あの少女は俺の前世の知り合いだと言っていた。それに今朝の夢に出てきたんだよ、このペンダントが……」

 

 俺はペンダントを掲げながら、シアンの表情を窺う。

 

『やっぱり、あの霊薬(・・)の影響かな……』

 

 シアンはため息混じりに呟いた。

 

「どういうことだ?」

 

 俺が訝しげに訊ねると、シアンは少し言い淀んでから答えた。

 

『あの霊薬は確かに霊力の回復を助ける。でも霊力……つまり、魂の力を回復させるということは……』

「魂の記憶……つまり、前世の記憶が回復する事もありうる……って事か?」

 

 シアンは黙って首を縦に振った。

 俺は懐から煙草を取り出して火を点けた。

 

「なあ……俺の前世、ってもしかして……いや、やっぱりいいや。自分で思い出すよ」

『ごめんね。今まで黙っていて……』

 

 シアンは申し訳なさそうに呟いた。

 

「気にしてないよ。寧ろ、感謝しないとな」

『どうして?』

 

 シアンは驚いたように俺の顔を見ながら訊ねてくる。

 

「シアン達が俺のことを思って、黙っていたんだろ? 何故だか今朝、夢から覚めると泣いていたんだ。まだはっきりと思い出せないけど悲しいことがあったんだろう? 俺にとってもおまえ達にとっても……」

『ええ、そうね。特に彼女にとっては……』

俺の言葉にシアンは遠い眼をしながら答えた。

 

「そうか……」

 

 俺は煙草の煙を吐きながら空を眺めた。

『……お腹空いたね。皆が待ってるから、早く行きましょう……』

「ああ、行くか」

 

 俺達は中庭に向かって歩いていった。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「はーい。ホームルームを始めるわよ。席についてね」

 

 ひとみは受け持ちの教室に入ると、開口一番にお決まりの台詞を言いながら教壇に立つ。

 

「さて……いよいよ待ちに待った聖綾祭が行われるわね。そこで、今日はクラスの出し物を決めるわよ。後の進行は任せるわ」

 

 ひとみが窓側に椅子を置いて座った。

 ひとみの言葉に皐月と千歳が教壇に立ち、進行を行う。

 

「では先ずどんな出し物がいいか、皆さんからの希望を聞きます。意見のある人は挙手してください」

 

 皐月の言葉にあちら此方から手が上がる。

 千歳が意見を黒板に書き記していく。

 

「うーん。演劇に、カフェ……それにお化け屋敷等々……もう一捻り欲しいわね」

 

 ひとみは黒板に次々と書かれていく出し物を読み上げながら呟いた。

 

「ひとみ先生は何か意見はないの?」

 

 皐月はひとみにも意見を求める。

 

「私? うーん……みんなとあまり変わらないわね……そうだ!」

 

 ひとみは思いついたように表情を明るくしながら携帯を取り出した。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「失礼します。俺にしか出来ない事って何ですか?」

 

 俺が教室に入ると黄色い悲鳴がわき起こった。

 俺は頬を掻きながら教壇の側に立つ。

 

「わざわざごめんね。せいちゃ……じゃなかった火狩先生。ちょっと意見を聞きたかったのよ。今度の聖綾祭について、男性のあなたの意見をね」

 

 ひとみ姉は窓側に座ったまま微笑んでいる。

 

「聖綾祭? ああ、輝諷院学園と合同の学園祭ね。どれどれ……」

 

 俺は黒板を見てながら考える。

 演劇にカフェにお化け屋敷等々……在り来りだな。

 折角だからもっと羽目を外しても良いのにな。

 

「それで、どれをするんだい?」

 

 俺は隣にいる千歳ちゃんに訊ねた。

 

「実はまだ決まってないんですよ」

「ふーん。俺的にはカフェかな……」

 

 俺は顎に手を当てながら何と無しに言った。

 

「どんな?例えば、コスプレ喫茶とか?」

 

 皐月ちゃんが横から口を挟んできた。

 その表情は悪戯を思いついた猫の様に微笑んでいた。

 

「いいね。さて、どんなコスチュームが……」

 

 俺は少し頬を弛ませて考え込んでしまった。

 暫くすると自分に教室内の生徒全員の視線が集まっている事に気が付いた。

 

「うぉほん。どうせなら、みんなの意見を聞こうか」

 

 俺は咳払いをしながら訊ねた。

 俺の台詞に一斉に手が上がる。皐月ちゃんと千歳ちゃんは一人一人の意見を黒板に書いていった。

 

 

「いっぱい、出たな」

 

 俺は何やら感心した様子で肯いている。

 

「にい……いえ、火狩先生は、どれがお好みですか?」

 

 千歳ちゃんが少し頬を朱に染めながら訊ねてくる。

 

「うーん……そうだな。ケーキとか洋菓子を出すならメイド服だな。和菓子中心にするなら和服……いや巫女服だな。点心を出すならチャイナ服といったところか……カフェでは何を出すつもりだい?」

「ケーキとか洋菓子なら大抵の子は作ったことがあると思うけど、和菓子や点心はあまりないんじゃない?」

 

 俺の台詞にひとみ姉が付け足しながら口を挟んだ。

 

「まあ、そうだろうな。取り敢えずみんなの意見を聞こう。どれにするにしても俺が作り方をレクチャーできるから……」

『「『「ええぇえ!!? 火狩先生ってお菓子作りできるんですか!!!?」』」』

 

 俺の台詞に女生徒達が驚きの声を上げた。

「悔しいけど、火狩先生のお菓子作りの腕はプロ級よ。どんなお店よりも、確実に美味しいわよ」

 

 ひとみ姉はため息混じりに女生徒達の疑問に答えた。

 その後、小一時間ほど話し合ったが決まらなかった。

 何故なら明日からほぼ毎日放課後に“火狩先生のお料理教室”なる物が開催されることになり、みんな挙って参加することとなったからだ。少しでも多く、聖也にお菓子作りを教わりたいと最後には和洋折衷のカフェをする事に決まった。

 その上コスプレも三種類を全てする事になった。

 しかも実行委員会のお墨付きまで貰った背景には生徒の自主性に任せるといった校風を隠れ蓑に、男子校で学園祭を合同開催する輝諷院学園側からの強い要望がでたというエピソードは周知の事実として知れ渡っていた。

 

 

『そういえば、ひとみさんのクラスは聖綾祭でコスプレ喫茶をするそうですね?』

 

 夕食の席でシアンが思い出したように訊ねてきた。

 

「そうなのか? ひとみのクラスって確か皐月ちゃんと千歳ちゃん、それにセレナちゃんが在籍していたよな?」

 

 焔さんがひとみ姉達に確かめる様に訊ねた。

 

「ええそうよ。でもまさか、実行委員会のお墨付きまで貰えるなんて思っても見なかったわ」

 

 ひとみ姉は可笑しそうに微笑みながら問いに答えていた。

 

「コスプレって、なにをするんだい?」

 

 真人さんが皐月ちゃんや千歳ちゃんに興味がある様に訊ねた。

 

「えっ~と……メイド服に巫女服……それにチャイナ服だよ、パパ♪」

 

 皐月ちゃんが向日葵の様な笑顔を浮かべながら疑問に答えた。

 

「ふーん……誰の趣味だい?」

 

 親父が俺の方を意味ありげに見ながら訊ねてきた。

 

「なっ、なんで俺に聞くんだよ。親父!!」

 

 俺は親父を睨む様に見つめながらも後ろめたい気持ちが作用して吃ってしまった。

 

「いや、別に他意は無いさ。でも何でその三種類に決まったんだい?」

 

 親父は苦笑しながら俺から顔を逸らして他の娘達に訊ねた。

 

『お兄ちゃんがお菓子作りを教えてくれることになって……』

「ええ。皆さん、にい様に少しでも多く習いたいみたいで和洋折衷のカフェになったんですよ」

 

 セレナちゃんの言葉に千歳ちゃんが続けるように答えた。

 

「面白そうね。私達も手伝いましょう。やよいお姉様、神音お姉様」

 

 神那さんが千歳ちゃん達の話を聞いて良い事を思いついたみたいな顔をして提案をした。

 

「そうね。衣装の手配は私達がして上げましょう。いいかしら、ひとみさん?」

「ええ……ありがとうございます、お母様。お願いできますか?」

 

 ひとみ姉は神音さんに感謝しながら嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ええ、任せなさい。腕によりを掛けて作って上げるわ。明日、放課後に採寸しに窺うわ。やよいさん、頑張りましょうね」

「ええ、楽しみだわ。ついでにせいちゃんのお料理教室も覗いていきましょう」

 

 お袋は嬉しそうに俺の顔を見ながら答えた。

 

真剣(マジ)でやめてくれ。恥ずかしいから……」

 

 俺はお袋の顔から視線を外しながらため息を吐いた。

 

『ところで、セーヤ。セレナちゃんにもお菓子作りを教えるの?』

 

シアンが少し表情を青くしながら訊ねてきた。

 

「まあ、いい機会だからね。一からきちんと教えればセレナちゃんも出来る様になるさ。多分……」

 

 俺はセレナちゃんの頭を微笑みながら撫で繰りまわした。

 

『良かったね。セレナちゃん』

 

 シアンはその様子を見て一転して表情を明るくして微笑んだ。

 

『うん!』

 

 セレナちゃんは嬉しそうに微笑み返していた。

 

 

《チュドーン!》

 

 放課後。家庭科室から大きな爆音が校舎に響き渡った。

 

「……大丈夫かい? セレナちゃん」

 

 俺は顔を引きつらせながらも爆心地(・・・)にいたセレナちゃんに声を掛けた。

 

『うん……大丈夫だよ』

 黒煙の中から無傷のセレナちゃんが咽せながら出てきて肯いた。

 

『やっぱり、爆発したわね……』

 

 シアンがため息混じりに呟きながら苦笑していた。

 

「どうして生地を混ぜるだけで爆発するのかな……?」

 

 皐月ちゃんが眼を丸くしながら呟いていた。

 

「話に聞いていたけど実際に眼にしても信じられないわ……」

 

 ひとみ姉が呆けた様子で佇みながら乾いた笑みを浮かべている。

 

「ええ。本当に……」

 

 千歳ちゃんは呆然とした様子で呟いている。

 

「これは最早、才能と呼ぶべきね……」

 

 見学に来ていた神音さんがぽつりと呟いた。

 

「しかし、あの爆発で怪我一つも無いなんて……」

 

 神那さんがどこか関心したように呟いた。

 

「セレナちゃんって、丈夫なのねー」

 

 お袋がにこにこと微笑みながら肯いて答えていた。

 セレナちゃんはこの後何度も挑戦し続けたがその度に原因不明の爆発が起こった。

 幸いにも負傷者は出ずに済んだ。

 

『どうしてなの……』

 

 セレナちゃんの呟きに誰も答える気力は残っていなかった。

 




Mr.凸凹「なあ、仰けから質問で悪いんだが……どうして俺は簀巻きされているのかな?」

右舞『勿論、死食(・・)から逃げない為です♪』

Mr.凸凹「ちょ……!? 今発音が可笑しくなかったかっ!!?」

左舞『ええ~い、男ががたがた騒ぐな! 折角セレナ様が作り上げた死作品(・・・)だぞ!』

Mr.凸凹「また発音が可笑しかったぞっ!!」

セレナ『しくしく……折角頑張って作ったのに……』

シアン『この作者(駄犬)!! セレナちゃんを泣かせるなんて良い度胸ね!!』

Mr.凸凹「何でオイラが悪い者扱い!? 弁護士を呼んでくれ!!」

左舞『煩い!! つべこべ喚くな!! 大人しく喰らいやがれ!!』

Mr.凸凹「もがぁ!!? あれ……美味しい?」

右舞『良かったですね、セレナ様』

セレナ『うん……♪』

シアン『良し♪ 次はこれ行って見ましょう。はい、あ~ん♪』

Mr.凸凹「あ~ん♪ おっ!! これもなかなか美味し……ぐはぁ!!?」

《チュド~ン!!》

セレナ『やっぱり……爆発した……』

左舞『少しは上達したとはいえ……今度は混ぜるな危険!!…… 何ですね』

右舞『さて……オチも付いた事ですし……』

シアン&セレナ『『それでは次回も……』』

左舞&右舞『『お楽しみに~♪』』
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