やはり俺は間違っている(凍結)   作:毛利 綾斗

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お気に入り50件超えててとても驚きました。皆様本当にありがとうございます。
これからも精進していきますので応援よろしくお願いします。


第3話

 

早く彼が来ないかしら?

 

そう思いながら私は読書をしている。

彼はこの学校で私を知らない少数の内のひとり。

そして私をみて自分のアピールや質問攻めをしてこなかった人。

恐らく、きっと彼だけだろう、此れから先もずっと。少なくとも今まではそうだった。だからこそ私は彼に興味を持ち、更にはもっと多くを知りたいと思っている。

この気持ちはきっともう味わえない、彼だからこその気持ち。

 

こんな気持ちを胸にしまい彼が来るまで待ち続ける。普通科の授業が終わるまであと20分。私は表情に出さないように読書を続ける。

 

 

 

コンコン

 

 

扉を叩く音が聞こえる。

私は声に感情が乗らないように、平静を装いながら、どうぞと声をかける。

 

扉が開くと、少し驚いた顔の彼とその右腕に絡みつく女の子の姿があった。

あの制服はこの辺の中学校のだったはず。なぜ高校にいるのかしら。というかどうしてそんなに仲よさそうなの。

 

『こんにちは』という言葉はここまで言いづらいものだったっけ。

 

そして私の口は動いてしまう。自分の思ってもいない言葉を発するべく。

 

 

「何も聞いていなかったようね。私は雪ノ下雪乃よ。おそらく私の事を知らないのは貴方ぐらいね。あとこの部活の部長をしているわ。其方の可愛らしい子は誰かしら?ロリ谷君紹介してくれるかしら」

 

 

ダメ、止まって。お願い。

 

 

「ええ。部活で預かる備品だもの。知らないと不便でしょ」

 

 

なんで。そんな事思ってないのに。お願い、止まって。

そしてトドメの言葉

 

 

「かわいそうな人ね。だから私が矯正してあげるわ」

 

 

一体私は何様なのだろうか。

 

ほぼ初対面の相手にでかい口を叩き、罵り罵倒する。

私がした事をそのまま彼がやり返して、言い返してくれたら......。でも彼はそんな事をしない。じゃあ私を誰が罰してくれるのだろう。

そんな時小町さんが私に対して怒ってくれた。それは兄を思う妹を体現している。私はホッとした半面で羨ましいと思う。

 

お互いに謝罪し表面上では、いや彼と彼の妹の事だきっと許してくれるだろう。何処かホッとしてしまった自分がいて、それが隠せずにいた。

 

 

「お前だってあったんじゃないか?自身の事を碌に知らないくせに悪意を向けられた事を。そしてその辛さを知っている、違うか?」

 

 

この言葉を聞いて瞬間、雷が落ちたような感覚に襲われた。今まで私が言っていたのはあの頃の彼らと同じこと。そして彼がとった行動は私がとった手段とは全然似ない方法。

 

 

「今日はここまでよ。鍵は私が返しておくからもう帰って」

 

 

2人は私の顔を見ると黙って出て行ってくれた。

 

 

まだ付近にいるのかしら。でもそろそろ限界。

学校で、幾ら放課後で人が近づかない部活塔だとしても、もしかしたら人が来るかもわからない状況でも、私は涙を堪える事は出来なかった。

 

 

突如、バンッと音がする。

 

 

みっともない姿なんて見せられない。だって私は雪ノ下雪乃だ。学校で泣いている姿を見られるわけにはいかない。

 

私は必死に涙を堪えいつもの様に立ち振る舞っているフリをする。

 

 

「雪ノ下、何があったんだ」

 

 

この声は.........平塚先生?

 

 

「どうして先生が?それより、いつもノックをしてくださいとお願いしているじゃないですか」

 

 

「ノックをしても君は返事をした事が......てそんな事を言いに来たんじゃない。

どうして泣いているんだい?」

 

 

先生には関係のない事です、と言い顔を背けると

 

 

「関係ないかは私が決める事だ。それより早く準備をしたまえ。こんな時間だし家まで送ろう」

 

 

私は時計を見る。長い針が2、短い針が7を少し振れた位置にある。

19時10分.........そうか。私は彼此1時間以上泣いていたんだ。

そして先生が心配してくれた理由を理解した。

それでも私は

 

 

「すみません。少し頭を冷やしたいので、歩いて帰ります。ありがとうございます」

 

 

そう言って一人で部室を後にした。

 

 

 

「おい、雪ノ下。こんな時間に1人で危ないだろ」

 

 

校門の付近で聞こえてくる声。それは私の心を揺さぶるには十分で今にも走って逃げたかった。

 

いつの間にか私は彼と歩いて帰っている。

互いの間に流れるのは楽しい会話ではなく沈黙となんとも言えない空気だった。

 

謝りたい。でも何に対して?私は全部知ってから謝りたい。でも親には頼りたくないし、聞いたところではぐらかされるだけ。かといって彼に聞くことは出来ない。

 

私、雪ノ下雪乃はこの沈黙に耐えられず、考え続けている。沈黙を破るなんてできないわよね、これまでは沈黙を自ら破った事なんてないんですもの。

 

ふと彼が微笑んだ気がした。まるで私の考えを見透かしたように。

 

 

「これは俺の友達の友達の話なんだが聞いてくれるか?」

 

 

頷き目を合わして話を聞こうとする。それを見た彼は近くの喫茶店に入り話を始める。

 

「そいつは中学時代ボッチだったんだ。

そして高校の入学式、きっと楽しみだったんだろうな、そいつは何時もより早く家に出たんだ。

 

そしてそいつは車に撥ねられた。原因は飛び出した犬を助ける為でそいつの自業自得。そしてそいつは3週間の入院と一部の記憶を失い、高校でもボッチ生活を送る事になったらしい。

 

まあ俺に言わせりゃ努力すればできただろうに。他人とコミュニケーション取らなかったそいつが悪い。

そいつは常に読書をしていた。きっと自分からいって省かれたりするのが怖かったんだとおもうぜ。

 

まあこんなところだな」

 

 

努力を怠ったその人が悪い。でも本当にそうなんだろうか?ついさっきまでの私ならそう言っただろう。でも今の私には何が正しいのか分からない。

 

 

「どうして.......どうしてそんな話をしたのかしら?」

 

 

「今のお前は何かを悩んでいたような気がした、だからだ。後は自分で考えろよ。

ってもうこんな時間か。遅いし出るぞ。

 

お前の親も心配してるだろうし、何より小町に早く会いたい」

 

 

「最後に聞かせて。どうして貴方は私を待っていたの?もう会えない事も覚悟してたのに」

 

 

「待ってねぇよ。一回家に帰ってから出てきたんだ。まあ.........あれだ。最後に酷いこと言ってすまなかった」

 

 

彼は顔を真っ赤にしている。

なんで..........なんて優しいんだろう。でも貴方は悪くないのに謝らないで欲しい。でも私は口を開けずにいる。

 

もう行くぞ、彼は席を立ち会計を持っていく。

 

 

 

マンションの玄関ホールで彼と別れる。

その時に彼から、まああれだ、気にすんなよと一言。

私は再び彼に何も言えずに、いう間も無く扉が閉まるのを眺めている。

 

 

その夜雪ノ下雪乃は過去を知って自分の過ちに涙し、生まれかわることを誓うのだった。




今回は雪ノ下目線でお送りいたしました。
次回は由比ヶ浜さんを登場させたいと思います。

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