オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか 作:白籾
迷子の子猫をご案内
人々の賑やかな喧騒が、遠くに感じられる。
ここは、
その中でもとりわけ賑わいをみせる市場。様々なひとが道を行き交い、数え切れないほどの人声が僕を包む。
耳に入る喧騒が、うるさいくらいだった。
澄み渡った青空の下で、ヒューマンの中年女性が野菜を売り、アマゾネスの少女が何に使うかも分からないガラクタをボロい敷物の上に並べて通行人のヒューマンの少年に売ろうとしていて、少年が露出の多い彼女の服装に顔を赤くして断ろうとあわてている。
道を歩く
少し道をはずれた、薄暗い路地では、暗い色のローブをかぶった男二人が怪しげにひそひそと話し合っているのが見える。うん、なんか危なそうな雰囲気。
「──では、そのように」
「──抜かるなよ」
とりあえず、今の会話は聞かなかったことにした。
ここにきて早3ヶ月。
もう大分慣れてきただろうと、所属するギルドの先輩に頼まれたお使いをしに、ダンジョンに赴く冒険者達の迷宮探索に必須なポーションを買いに来た。
……ハズだったんだけど。
(………ここはどこだろう?)
見事に複雑な都市で迷子となってしまった…
確かに道は言われたとおりに辿って来たはずだった。なのに。
「どうしてこうなった………?」
口からつい言葉が漏れる。自慢の鼻も、こうまで雑多なニオイが入り混じっていると、どうもうまくかぎ分けることはできなかった。
僕は、一体どこで道を間違えたんだろうか?
……………オラリオが複雑すぎるのが悪いんだ。
僕は、つい3ヶ月前まで、片田舎で狩りをして生計をたてる母さんと2人暮らしをしていた。
父さんは僕がまだ小さい頃に、
「ダンジョンで身を立ててくる!」
とかいって、それまでやっていた狩人の仕事と僕達2人を放り出して、ここオラリオに飛び出していっちゃったらしい。
「何の前触れもなくあんなこと言い出すんだから、少し驚いたわぁ」
と話す母さんは、狩ってきた鹿の解体をしながら何でもないことのように淡々と言っていた。
父さんは遠いところからきた
思いつきの放浪の旅をしていた途中で同族の母さんと出会って結婚したらしい。
母さんは、父さんのことを、
「いつも思いつきで行動するところがいい」
とかくらいしか言わず、あっさりとしていて全く怒っていなかった。
思いつきで行動するところって、ようは頭がスッカラカンってことじゃないか、って思っても、口に出さないのが大人の対応だ。
「まあ、私との結婚まで思いつきだったら半殺しにしてやるわ。
万が一、万が一だけど……………………オラリオで女を作っていやがったら、その泥棒雌ネコ諸共ぶち殺すわ」
そう言いながら熊の体を素手で引き裂いて、返り血まみれになった母さんは、僕の心臓に悪かった。
僕は母さんを落ち着かせるために現実的な対応法を教えてあげた。
「止めなよ母さん。冒険者は
母さんは、少しだけ逡巡して、
「……………それもそうね。じゃあ、然るべき所に訴え出てやる」
「うん、そうしなよ」
これで父さんが出会い頭に八つ裂きにされる可能性は減った。そう信じている。
母さんは基本的に、頭じゃなくて拳で物事を考える人だったから、ちょっと心配だったけど。
そう、父さんは冒険者になったんだ。
彼らの仕事は、迷宮都市オラリオの下にあるダンジョンで、大昔から人と争い続けてきたモンスターと戦うこと。
あの人みたいな考えなしが、なにも考えずにダンジョンに突っ込んでいくところを想像してみれば、つらい現実がすぐそこにあることには、子供ながらにも気づいていた。
もう一生会えなくなってしまうかもな、とか思ったりもした。でも、そのことについては悲しくはなかった。
英雄譚に語られるような、人の子とモンスターの壮絶な死闘。その先には、輝かしい勝利の栄光と名誉、あるいは敗北の屈辱と避けられぬ死の二つしかない。
自分からその舞台に上がっていった父さんだ。『どっち』に転んだとして、僕が感じるのは父さんの息子だという誇りだけ。
物語の主人公のような父さんを、僕は遠くから応援し続けていこうと思っていた。
ところが、僕が10歳になる誕生日の日に、父さんが突然帰ってきて、
「おい!オラリオに皆で住むぞ!」
とかいって、そのままここオラリオに僕達を連れてきた。
思いつきで。
そんでもって、
「お前も将来俺みたいにすごい冒険者になるんだ!」
とかいって、僕はここオラリオに拠点を持つ、父さんの所属する中堅ファミリア、【ルー・ファミリア】のサポーター見習いになった。
いやされた。無理矢理。ある日突然の思いつきで。
ファミリアってのは、主神っていわれる偉い神様に仕えて、ダンジョンに行ったり、冒険者が求める武器や薬を売ったりするグループみたいなものだ。
父さんと同じファミリアに入って、今は家族3人で1つの家に住んで暮らしている。
父さんは優秀なLv.5の冒険者で、都市最強と名高い【ゼウス・ファミリア】と深く親交のある【ルー・ファミリア】の団長でもあるらしい。
ここに来たときは人の多さにビビりまくっていたから道を覚えるとか無理だったし、家は【ファミリア】のホームからも近いし、ダンジョンにも大人と行くから、これまでまともに1人で出歩いたことなんぞなかったのだ。
だから、迷子になっても仕方ない。
したがって、迷子になっても仕方ない。仕方ないんだ。
重要なことなので2回言った。いや、三回かな?
…………いつかは父さんの背中を越えて立派な冒険者になりたいと僕も思ってる。けどまあ、とりあえず、オラリオで迷子になってるようではだめだろう。
ダンジョンじゃ間違いなく死亡確定です。
「キミ、迷子なのかな?」
ふと、頭上から降ってきた声に顔を向ける。
そこには、優しそうな表情のアマゾネスのきれいなお姉さんがいた。露出が多い大胆な服装がなんだか妙に気まずくて、僕は目のやり場に困ってしまう。
僕はお姉さんから微妙に視線をはずして、
「あ、えっと……そうなんです…」
「ふふ、私の名前はカシュウっていうの。送っていってあげようか?お家はどこ?」
「あ、だ、大丈夫ですっ」
僕は、なんとなく冒険者の意地みたいなものでカシュウさんの申し出を断ってしまった。いや、冒険らしいことすら、危ないからダメだ、ってファミリアの先輩に言われてるから、今はまだ冒険者ですらないけど。
「そう?じゃあ、人も多いし気をつけてね~」
そう言うと、彼女は人混みの中に消えていった。
(しまった、やっぱ道を聞いときゃよかったな)
後悔してもしょうがない。とりあえず、ファミリアのホームに一旦戻って、先輩に道を教えてもらおう。自分のニオイを辿れば行けるはずだし。
……………ということを思っていた時期が僕にもありました。僕のバカっ。愚か者っ。…………はぁ。
全く知らない道に来てしまい、人波に押し流される。日は夕方の橙色に染まり、空が黄色と群青色の見事なコントラストになってもまだ、複雑な路地で迷っていた。
(か、帰れない……)
ニオイをたどれば余裕だ、と思っていたら、香辛料と言う名の悪魔に襲われて見失った、いや、嗅ぎ失った。うう、まだ鼻が痛い……。
どうしよう、このまま帰れないかもしれない。
一度そんな不安が心の中に浮かぶと、後から後から恐ろしい想像が湧いてきた。
このまま帰れなかったらどうしよう。母さんにも先輩にも暗くなったら外を出歩いちゃいけない、って言われていたのに。言いつけを守れなかったらどうしよう。怒られれるよ……。八つ裂きかもしれない……。
ちょっとまって。もしこのまま夜になっちゃったら、真っ暗闇の中で行われている路地裏の怪しい取引を見てしまったら、口封じに殺されてしまうかもしれない!
どうしよう……?
根拠のない恐怖から逃げようと必死に足を動かして、キャットピープルならではの目耳鼻を総動員して必死にオラリオの街を突き進む。
そして、考えなしに走り回った末に、走り疲れて行き着いた先はどこかのファミリアのホームらしき建物。
………………カエルの子はカエルということか。
どでかい壁に囲まれている建物の、これまたどでかい門の前で、門番をしてそうな冒険者らしき人が立っている。
昼から夜へと暗くなっていく街の一角で、魔石灯が門番さん二人の姿を浮かび上がらせていた。
門の前には、エルフの特徴である長い耳を持つ若そうな男の人と、ピンク色の髪に鋭い顔をした、おそらくヒューマンの女性が武器をもたずに立っている。
とにかく、ここのあたりのことは見たことも来たこともない。あ、来たことないなら見たことないのは当たり前だ。
どうしようか。そこの門番さん達に道を聞いてみようか、でもすごく怖そう。
怖いのは、エルフの彼の腰に下がっている装飾の多い剣……ではなくて、その隣に立っている女の人の雰囲気というか、表情だ。不機嫌そうすぎる。明らかに殺気立っている。
エルフの男の人の方とか、よく見れば完全に顔ひきつっていらっしゃる。
僕も顔がひきつってしまっている。
2人とも、俺のことを気にとめていない。門番なのに、こっちに視線を向けようともしない。門番なのに。
あの女の人、何にそんなにイライラしてるんだろ?いや聞けないけど。
行き過ぎた好奇心は身を滅ぼします。
でも、道を聞かないと帰れないよ。
動かない体の代わりに、さっきまで使ってなかったアタマを虚しく労働させる。
オラリオの中を探索するには、一日中走ったとしても足らないらしい。
(ああ………さっきの人に道聞いておけばよかったな………)
と、胸の内で先に立たない後悔をしていると、突然女の人の表情が輝いた。
ん?なんだろうな、すごい濃厚な血のにおいがしてきたけど。冒険者か?
キョロキョロしていると、
「おい、お前、俺達の【ファミリア】に何か用か?」
と、突然後ろからぶっきらぼうな声をかけられる。男の人の声だ。声をかけられるまで気づかなかったなんて、普段なら足音で気づくはずなのに。
思ってたより追いつめられていたことを自覚しつつ、後ろを振り返ってみると、そこには、
血で服を真っ赤に染めている白仮面の男の人がいた。
あれは血だ。間違いない。特徴的なその色はまごうことなき血だ。毎日見てきたからな。
だがですがしかし、表情や立ち姿から見て、この殺人鬼(仮)は無傷っぽい。ということは彼自身の血ではない。
つまり、返り血ですねわかります。殺人鬼かな。
ところで、あの白仮面、どこかで、見たことが、あるような、気が、し……
「ギャーー!?」
何々!?なにこの人怖い殺される!?
一仕事終えた後か!白仮面で顔を隠して返り血浴びてるとかどー考えてもソッチの職業の方ですね分かります!冷静に考えてるんじゃないよ僕!あれっ、体が疲れて動かない!?……………はっ!?これはまさに、蛇ににらまれたカエル状態!?
僕は殺しても美味しくないです!?あれ、殺されるだけじゃなくて食べられちゃうの!?
思わず腰を抜かしてしまい、後ずさるも道の反対側の建物にぶつかって下がれなくなる。
「お前、人を見て悲鳴を上げるなんて失礼すぎるよ……?」
血塗れの男の人が、仮面の額の所を触りながら震え声で言う。
いやほんとごめんなさい!
「お疲れ様です!お帰りが予定より早かったですね!モンスターの血のにおいで先輩が見えるまで判りませんでしたよ~。
あ、そう言えば──」
死の恐怖に怯える僕の存在自体を全く気にしないで、真っ赤な服(染料は返り血)の彼に話しかける門番の怖い女の人。
…………………そうだ、これはモンスターの血のニオイだ!落ち着け僕、相手はただの冒険者だぞ!?
「モルーニェ、お前、ヒューマンだよな?人を臭いで判断するとかヒューマンじゃないよ?」
「あなた様をストーキングするためならば、私は種族も変える所存ですよ」
「オイちょっと待て?それは無理じゃないかな?」
駆け寄ってきた、モルーニェと呼ばれた怖い門番さんを嫌そうな顔で手で押し止めながら突っ込む若い血濡れの男の人。
「なにをおっしゃいますか。ご主人様の『匂い』を嗅ぎ分けるためならば、私は犬にだってなりましょう!」
「それはすごいな、いろんな意味で。まず、ニオイの意味から考え直せ。あとご主人様って言うのやめ」
「はっ!?愛しの旦那様専用の犬、だと?………ハァハァ」
「……………………ちょっと落ち着こう。そして人の話を聞こうな?俺の犬とか一言も言ってない。そしてお前の愛しの旦那様になった憶えは一切ない。」
「ご安心を!不肖モルーニェ、ゼータさんのお話お声お体臭は全て!全て記憶に永久保存しておりますゆえ!」
「うん、お前今すごい気持ち悪いこと言ってるのわかってる?深呼吸しよ?なんだか会話がかみ合ってない気もするし」
マジすごいです。
何がすごいって、そりゃ血まみれなことがさらっと流れていることです一番重要なことですよ男の人はゼータさんと言うらしい。思考がバラバラ死体事件ですなのです。
もしや日常的な光景?なにそれ怖い。殺伐としすぎです。どこかで見たことがあるような気もしなくないけど。あ、ウチの家庭だ。よし、現実と別のことを考えて落ち着かなきゃ。
…………………そう、あれは、女の人のニオイをプンプンさせて父さんが朝帰りを果たした日の話。
「……あなた、お帰りなさい」
「え!?なんで俺の存在に気付いたんだ!?気づかれない自信あったのに!」
こっそりうちに帰ってきた父さんに何故か気付いた母さん。ていうか忍び足しなきゃいけない状況にすんなよ。
「あら、あなたの足音とニオイはちゃんと気づけるわ?
そして繰り広げられるスプラッタ。冒険者ではないはずの母さんがLv.5冒険者の父さんを八つ裂きにしかけたのは記憶に新しかった。
「か、神ゼウスに誘われたんだ、断れないだろ!?」「うるさい」「アギャアァァッ」
……やっぱおもいださなきゃよかったなー。返り血を浴びてる奴はみんなろくでもn
「あ……そこのお前、」
思わず肩をびくつかせる。
男の人が僕に声をかけてきて現実に引き戻された。
「ひ、ひぇ!」
未だ素顔の見えない血濡れの男の人に恐怖する僕。そんな僕に、彼は結構傷ついた顔をした。
「──おいてめぇ。さっきからゼータさんに対して怯えやがって……失礼だろうがぁ!」
「ぅえあ!?」
モルーニェさんと言う人がとてつもない殺気とともにめちゃくちゃ大きい声で叱られて、僕は耳を縮こまらせた。
迷子になって、すごく怖い女の人に怒鳴られて、散々だ。
このまま帰ることもできず、この恐ろしい二人に殺されてしまうんではないだろうか?冒険者っていう職業の人は、優しい人もいるけど、大抵は荒っぽい人がほとんどだ。
後ずさりしようにも後ろは塀。ズリズリ体をすり付けるけど、現状打破には至らない。というかなにしてんだ僕。
目の前の二人からどうにかして逃げようと画策していると、
「──どうしたんですか?」
ふと、足音が近づいてきて、恐喝の現場みたいな僕たちに声をかけてきた。
「あ、た、助けてください!?」
僕は彼らの関心がそちらに向いたスキに、とっさに声の方向へ逃げ出した。
声の聞こえた方には、パンの入った袋を抱えた女の人が立っていた。頭の横からでた巻き角は、彼女が羊の獣人、
白くて長い髪を下ろした彼女の所に駆け寄って、彼女の背に隠れる。この場合は、冒険者の意地とか、男の意地とか言ってる場合ではない。大人の人に大人しく助けてもらうのが最善だ。命あっての何とやらです。
自分の背に隠れた僕を、彼女は困惑した顔で見て、
「これは、一体何をしたんですか?」
「ああ、クレアか」
すると、男の人が、クレアという名前らしい彼女に返事をする。ま、まさかの顔見知り!?
「いやぁ、それがさ───」
彼がかくかくしかじか、とする説明を聞いて、クレアさんは、なるほど、と頷く。
「……あのですね」
「ん?何だ?」
「まずは仮面を外しなさい」
クレアさんが唐突に男の人の顔の仮面に手をかける。
「ちょ、クレア!?ゼータ先輩に何を」「ギャァァッ!?止め、止めて!?痛い!痛いって!今まだ仮面解除してないから!剥がしたら死んじゃうから!?」
「そうですか。解除では時間掛かりますし、何時もの顔を出してください」
「う、うん、わかったよ……」
「返事はハイ」
「ハイ」
すると、突然ゼータさんの仮面に色がつき始めて、みるみるうちに白い仮面が人の顔になっていった。
「うう、イタタ……クレア、恐ろしい子」
「それから、服が血塗れなのもいけません」
あ、ここに来て一番常識的なことを言ってくれた。クレアさん凄い常識人だ。よかったよ、話の分かる普通の人が来てくれて。なんか家庭環境のせいか血塗れな方が普通なんだっていう新常識が生まれる危機だった。
「あ、そうかっておいぃぃ!?服を脱がせようとするな!せめて着替えは防具だけにさせて!?」
……前言撤回。クレアさんは非常識です。
「ゼ、ゼータ先輩の、着替え………?な、なんて破廉恥な!
「モルーニェお前もか!?」
「当たり前です当然です。ゼータ先輩の着☆替☆え!ああ、なんて甘美な響き!」
「あなたは少し落ち着いてください。というか少し黙っててくださいよ気持ち悪い」「あ、魔法はやめてくださいお願いしま」「【星の瞬き】」「アーッ!?」
……モルーニェさんが地面に倒れた。魔法って言ってたけど、一体何をしたんだろう?
「君、私はモルーニェみたいな変態じゃないからね。勘違いしないように」
「あ、はい」
クレアさんの釘刺しに、一も二もなく頷く。ここで断ったら、恐らく僕も瞬いてしまうのでやめておく。そこに転がってる女の人の二の舞にはなりたくない。
ゼータさんが血塗れの防具を取り外して、真っ黒な服になる。体型が分かりにくいけど、恐らくあの服の下には、命をやりとりするのに必要な筋肉が眠っているんだろう。
モンスターの血の影響なのか、何故か彼のニオイは全く分からなかった。獣人の僕にもわからないニオイだなんて、モルーニェさんは一体何を嗅いでいたんだろう?
「服にも少し血が付いていますが……まあいいでしょう」
クレアさんはそう言うと、
「いいですか?ゼータさん。人と話すときは顔隠さない、服装には気を使う!これは当たり前です」
「はい……」
それからですね、とクレアさんが続ける。
「お互いが名前を紹介し合ってないのがだめなんですよ」
「名前……?」
「そうです。名前です。お互いの存在を認め合うのには、まずは自己紹介が必要ですよ。彼がこんなにも怯えるのは、相手のことが分からないからです」
そういうと、クレアさんが僕に振り返って言った。
「ワタシの名前はクレア。クレア・シムスキーっていうの。キミの名前もおしえてくれるかな?」
その優しい声に包まれる感じが、僕の心を落ち着かせてくれる。ようやく僕は震えが止まった。
「え、えと、ルフレ。ルフレ・アドルフです」
「ん?アドルフ?」
「そう、ルフレ君ね。ほら、ゼータさんも!」
「お、おう」
彼は困惑しながらも名乗ってくれた。
「俺の名前はゼータだ。こう見えて、Lv..3冒険者だ。よろしくな」
そう、自らの名前を告げて、笑いかけてくれた。
緊張がほぐれていくのがわかる。僕も人物自然と頬がゆるんだ。
「ふふっ。いい感じですよゼータさん。
ルフレ君、おうちはどこかわかる?」
クレアさんが微笑みながら聞いてくれた。僕は慌てて自分のファミリアの名前を告げる。
「ル、【ルー・ファミリア】ですっ」
「ん?ああ、あの神ゼウス派のファミリアね」
ゼータさんは少し考えてから、
「あそこなら知っているぞ、連れてってやる」
と言ってくれた。
「本当ですか!?」
「嘘なわきゃねーよ」
「ふふ、良かったね、ルフレ君」
「はいっ。ありがとうございます!」
途方に暮れていた僕の心に、彼らの思いやりはとてもありがたかった。
クレアさんと手を振って別れ、僕は服を替えたゼータさんに、ホームまでつれてってもらった。
「それにしても、いや、まさかとは思ったが本当に迷子とはね。
冒険者で迷子とか致命的すぎるだろお前、くくっ」
「うぐっ……」
全くもってその通りです。反論のしようもない。
僕たちはすっかり打ち解けることができて、色々話をしながらすっかり日が暮れて、賑わう
酒場から漏れるオレンジ色の明かりが眩しい。中からは様々な種族の人の笑い声や歌う声が聞こえてくる。ヒューマンの男性冒険者たちが肩を組んで歌を歌い、少年のような姿のパルゥムが老人のような顔をしたドワーフと酒を酌み交わす。賑やかで明るい光景を、僕は楽しみながらホームへと向かっていった。
その後、ゼータさんに僕の所属する【ルー・ファミリア】まで送ってもらい、無事ファミリアの先輩に拳骨をもらった。
「心配したんだぞ!?」
「ごめんなさい!」
長い時間行方不明立った僕を心配してくれていた先輩ことゴータスさんはとは、ファミリアの門の前で会って、驚かれた後、こっぴどく行っ叱られた。無事に帰ってこれたという思いで、僕は涙がでるほど嬉しかった。
拳骨は、痛かったけど。
彼に心配かけてしまったことが、また肝心のお使いもこなせなかったことが申し訳なく、すんごい反省した。
「ありがとうございます、ゼータさん。ほらルフレ!」
「あ、ありがとうございました!」
「なに、俺も暇だったからな。いいってことよ」
僕達はゼータさんに改めてお礼を言って、ファミリアのホームの前で別れた。
それから、ゴータスさんと2人で改めてポーションを買いに行った。ファミリアの皆に、
「心配したぞ~、大丈夫だったか~?」
とか、
「誘拐されたのかと思ったぞ?」
とか、
「え?無事だったの?何で?」
とか言われた。
ついでに、最後の人のせいで道に迷ったことが判明した。嘘教えないでよ!
皆が楽しく笑って、僕は一人ふくれっ面だった。
日常の光景にもドってこれたことが、今は無性に嬉しかった。
今はオラリオの外にいる父さんも早く帰ってきてくれるといいな、と何のこともなく思った。
──ここが、二度と戻れない場所になるとも知らずに。
大筋はあまり変わっていません。
書いてある分まで投稿します。