オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか 作:白籾
「─────オォラァァァッッ」
「うぐうっっ!?は、腹が、割れるぅ…………グフッ…………」
ここにきてから何度目かも分からないくらいにモルーニェさんに殴られている豪さんが、床に崩れ落ちた。
今のは少しやばくなかっただろうか。グチャッて言う音がした。
「あ、そうだ!モルーニェ、新入りたちの武器を決めてやろうぜ!」
と思ったら、呻いていた豪さんが即復活を果たして、モルーニェさんに僕たちの武器を決めようと提案した。
なんだこの人の生命力。
冒険者見習いとしても、ここまですごい人見たことない。
「そうだな……。よし、お前たち、こっちに来い」
そういうと、モルーニェさんは部屋にある扉のうち、僕が入ってきた方じゃない扉に向かう。
あ、隣で机に突っ伏して寝ているルーフィアちゃん、起こさないと。
それにしても、よく寝る子だなあ。
「ほら、ルーフィアちゃん、起きて」
彼女の体を揺り動かす。……起きない。
「………………ルーフィアちゃん、起きて」
「………………zz」
……。
ゆらゆら。この子、懲りないなあ。
「…………………ルーフィアちゃん」
「…………………zzz」
……反応なし。
なんか、本当に人形みたいだ。
「…………おーい」
「………………………zzzz」
「……………連れてくよー」
一応彼女に許可を取ってから、よいしょ、とルーフィアちゃんを背中に担ぎ上げて、モルーニェさんが開けた扉に向かうほかの二人について行く。
モルーニェさんが入っていった扉の向こうを覗くと、僕たちのいる大きな丸いテーブルのある部屋と同じくらい広い部屋があった。
こちら側の部屋と違うのは、壁一面に武器が並べてあって、他には何もないということだ。広くて何もないなら殺風景だといえるんだけど、占める物騒なたくさんの武器が、部屋を飾ってる感じもする。
武器群のそばに立ったモルーニェさんが剣を指しながら僕たちに説明する。
「この中から武器を選ぶ。新入りたちは、私たちに聞きたいことを聞け。先達のアドバイスを貰えるのはメンバーの多いファミリアの特権だ。遠慮はするなよ」
「はい」「わかりました~」「わかったぜ」「……zz」
モルーニェさんの言葉に返事をして、僕たちは武器選びを始めた。若干一名寝てるけど、気にしない。気にしたら負けな気がしてきた。
ルーフィアちゃんを床におろしてから、僕は色々並んでいるところにむかう。
ロングソード、斧、槍、棍、ナイフ、ハンマー、弓矢、大剣………
………やっぱり、短刀にしよう。
これまで頑張って素振りしてきたのが短刀だったからっていう安直な理由ではあるけど、なんたって一番慣れ親しんだ武器だ。
新しい武器に挑戦してみたりもしたいけど、最初は体に一番しっくり来る気がする短刀だな、って思う。
「ルフレ君は短刀にするの?」
と後ろからクレアさんに声をかけられる。
「あ、はい。やっぱりこれが一番体に馴染んでいるので」
「そっか。……うん、握り方もちゃんとあってるね」
クレアさんが短刀を握る僕の手を見て言う。
あれ?クレアさんって確か
「クレアさんも短刀を使うんですか?」
「うん。って言っても護身用のナイフだけどね。
ダンジョンでは何が起こるか分からないから、
それと、剣とか槍とかを使ってる人も、武器が壊れちゃうと戦いづらくなっちゃうからね。いくつか武器を使えるといいよね。生き残るための努力は怠ってはいけません」
なるほど、ダンジョンに潜るなら、使える武器がいくつかあった方がいいって事か。どんなイレギュラーにも対応できるようにしておくこと、ってゴータスさんによく言われてたっけ。
戦いに使えて、コンパクトな武器のナイフを幾つか持って行くとか、ほかの武器を練習するとか考えてみよう。
「ありがとうございます、クレアさん」
「どういたしまして」
クレアさんはにっこり微笑んだ。
「お前たち、武器は決まったか?これからしばらくの間はホームで訓練をする。自分の選んだ武器と同じものの木製の奴ももったら外の訓練スペースに行くぞ」
とモルーニェさんが指示を出す。
僕は短刀型の木製武器を持ってついて行こうとして、そう言えば、と思い出した。
横に転がって寝ているルーフィアちゃんの武器、どれがいいかな?本人起こすのが極めて困難なのは分かってるから諦めるとして、武器は持ってった方が良いよね。
どれがいいか分からなかったから、とりあえず一番普通な
あ、僕も
彼女の分の武器を二つ背中につける。あ、ルーフィアちゃんどうやって運ぼうかな?……引きずってくか。
ズルズルと重い荷物を引きずって、先に出て行ったみんなの後を追って僕も部屋を出た。
だだっ広いホームを出て、これまた広い庭に出る。これ、迷子にならないかな。
前科のある僕は少し不安になった。
モルーニェさんが振り返って言う。
「よし、ここが訓練用スペースだ。ほかの所にある趣味の悪い像は意外と高いから、壊さないためにここ以外での訓練は控えるように」
……どこかから、「グハァッ」と吐血する神様の嘆きの声が聞こえたような気がする。多分気のせい。
「お前たち、まずは木製の方の武器で素振りをする。握り方、振り方は私たちが教えるからな。では、始めてくれ」
モルーニェさんの指示に従って武器を振る。
あ、その前に。
「ルーフィアちゃん、武器の素振りするよ」
草の上で気持ちよさそうに寝る彼女を短刀でつつく。あ、もちろん木製だけど。もう遠慮しちゃいけない。早くしないとモルーニェさんに僕まで怒られるかもしれない。
「…………うぅ…………何ですか、一体…………」
あ、起きてくれた。
僕の努力のかいあって、ルーフィアちゃんが目を覚ました。寝起きだからか、少々不満げだ。
「これから武器の素振りをするんだよ。君の武器は僕が選んでおいたから。はい、これ」
「えぇ……素振りですか?私、武器に触ったことすらないんですけど」
「うん、だからやるんじゃない?先輩が教えてくれるって」
「はぁ……。まあいいですけど。でも、何で私の武器大きいんですか?私もそのちっちゃいのが良かったです。軽そうだし」
「
「そりゃそうですけど………………」
「ほら、君たちも素振りするよ!冒険者の基本は武器の扱いなんだから」
「あ、はい」「わかりました……はぁ」
クレアさんに返事をして、僕たち二人はさっそく木製の武器を振り始めた。
僕はいつもやっていた通りに基礎を行う。
内側から外側に短刀で斬る動作を数十回繰り返して調整する。
その後は、腕だけじゃなくて体も大きく動かす。
右手に持った木の短刀の刃を左から右に動かし、上から振り下ろす。一回後ろに下がってから逆手に構えて、右から左に斬って右足で踏み込み。また持ち替えて斜め上に斬り上げてからその勢いで短刀を腰に回し、溜めてから前に斬り出す。ここまでやって、もう一度最初の構えに戻る。
うん、忘れてない。先輩に教えてもらって、頑張ってモノにした練習の型の一つだ。
と、僕を見ていたルーフィアちゃんが、おお、と声を出す。
「すごいですねえ。誰かに教えてもらったんですか?」
「うん、そうだよ」
そこで、彼女がまだ素振りを始めてないことに気づく。
「やらないの?」
「やらないというか………………剣なんて、今まで持ったことなかったし」
「そうなの?」
お金のために、って言ってたから、なんか経験があるのかと思ってたけど。
「うーん、とりあえず振ってみたら?先輩にアドバイスもらえるし」
「どうすればいいか分からないから困ってたんですが……。まあいいです。やってみますか」
そういうと、彼女は両手で
「ん……ん……あ、こうかな」
最初は右手が下で、左手が上になっていて、両手がくっついていたけど、それをずらして持ち、持ち方が違うことに気づいたのか右手と左手を入れ替えて、彼女なりに正しい持ち方を見つけたらしい。
「刃を、前に向けて……うーんと、こう?」
次に、横になっていた刃の向きを縦に変えて、剣を上から下へ下ろす。
「なんか違うかな?えーと、こう?」
また振り下ろす。なんだか、近所の子供のモンスターごっこみたいだ。
「あ、違う。こうかな?」
ブン。今度はさっきよりも早くなった。
「あ、わかったかも」
そう呟くと、ルーフィアちゃんが勢いよく剣を振り始めた。
「えい、よっ」
なんだか気の抜けた声とは裏腹に、すごく綺麗な素振りを始めた。ついさっき、初めて剣を握ったとは思えない剣筋だ。【ルー・ファミリア】にいたころのゴータスさんがやっていた素振りと重なるような、初心者には見えない長剣の振り方だった。
剣の重さを腕の振りに乗せて振る。
ゴータスさんが言っていた通りの振り方だ。
「なんだ、
「何言ってるんですか。使ったことどころか、触ったことすらないって言ったじゃないですか」
彼女は剣を振りながら話す。
「私、孤児院出身なんですけど、貧乏だったので剣を買うお金なんて無かったですし。むしろ、ここに来なければ寝てました」
「えー、でも、僕の知ってる冒険者の人の素振りとすごく似てたし、やっぱり経験者じゃないの?」
「だから、違いますって。握り方も知りませんでしたし。むしろこれであってるのか知りたいです」
ルーフィアちゃんがうそを言っている様子はない。でも、初心者には見えないんだけどなあ。
「それで良いと思うよ」
と、クレアさんが話しかけてきてくれた。
「ルーフィア、君の振り方はすごく上手だもん。才能があるんだよ、きっと」
「そうですか?私、
いや、十分だと思うよ。君の眠る才能。
「ルフレ君もすごいよ。たくさん練習してたことがわかったもん」
クレアさんがぼくを、褒めてくれる。
「そうですか?」
「うん。きっと教えてくれた人が良かったんだよ」
そう言われると、僕も嬉しい。忙しい父さんの代わりに僕に武器のことを教えてくれたゴータスさんが褒められるのは、いい気分だった。
ちょっとここまでです。
続きも書いていきます。