オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか   作:白籾

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ちょっと章管理しました。


負けは次への布石

 しばらく素振りを続けていると、

 

「お前たちはこのまま訓練を続けておけ。私は晩餐会の準備に行ってくる」

 

 とモルーニェさんが言って、ホームに戻っていった。そう言えば、皆でお喋りしているときに、豪さんがモルーニェさんのことをコックさんって言ってたっけ。

 彼女がホームに入ってしばらくしてから、狼人(ウェアウルフ)のディ君が、

 

「なあ」

 

と声を出す。

 

「皆で戦ってみようぜ!誰が一番強いのか知りてぇし」

「え、めんどうくさいんですが」

 

とルーフィアちゃんが真っ先に反対する。答えるのが早い。

 

「いいじゃん、やろうよ~」

 

 ディ君に賛成するのはメリーちゃんだ。彼女は自分の身の丈よりも大きなハンマーを軽々と振り回して言った。身長がそんなに高くない彼女が、木とはいえ重そうなハンマーを振り回しているのはなんだか違和感がある。僕の短刀は少なくとも鉄より少し軽い程度の重い木を使っているんだけど。

 

「そうだな。人と戦うことで武器を扱う感覚を磨くこともできる。それに、相手から戦い方を学ぶこともできるしな」

 

と、豪さんが賛同する。

 

「それに、もしもの時はクレアの回復魔法を使えばいいだろ」

「豪さん、私の意見を聞いてから言ってくださいよ。まあ、怪我は治しますけど」 

「よっしゃ、決まりだな!」

 

とディ君が言った。彼は一番乗り気だ。自信のあふれた顔で、自分の隣の一番面倒くさそうにしているルーフィアちゃんに言う。

 

「お前、俺様と戦え!」

「え、いやですけど」

 

 ……即答だった。

 

「何でだよ!?」

「めんどうだからですが。それに私、か弱い女の子ですし」

「お前、すごく褒められてたじゃねぇか!強いだろ!?」

「めんどうなのはめんどうなのですよ。わかってくださいよ」

 

 すると、言い合う二人をおいてメリーちゃんが僕に

 

「じゃあ私たちで戦おう!」

 

と誘ってきた。

 

「え、う、うん」

 

 僕は迷いながら頷いた。正直、そのハンマーは怖いんですが。頭でっかちなハンマーだから、木なのにすごく痛そうな感じがする。でも、ここで断るとなんか格好がつかない。ほ、ほら、僕だって一応冒険者志望だし?

 

 

「じゃあルールを言うぞ。武器がしっかり相手に決まったらそこで終了だ。俺が審判をやるから、俺の言うことをよく聞くように!やめって言ったら止めるんだぞ」

 

 と、豪さんが武器を持って向かい合う僕らに言う。久しぶりだな、戦うの。ゴータスさんが相手してくれたのを思い出す。

 

「じゃあいくぞ。……はじめ!」

 

 豪さんの声とともに、メリーちゃんがハンマーを持って近づいて来た。僕も短刀を順手にもって迎え撃って

 

「えい」「ガッ!?」

 

 もの凄い痛みがお腹に走って、僕は(そら)に飛んだ。

 ……あれ?……皆の青くなった顔が見える……空が下にある……地面が上にある……おや、ひっくり返った……世界がくるくる回ってるなあ……あ、違った。僕が回っていたんだっ

 

ドン

「グエ」

 

 …………………………どうしてこうなった。

 

「!?」「ルフレ君!?大丈夫!?」

 

 遠くから聞こえてくるクレアさんに返事を返そうとして、僕は全身を襲った痛みで気絶した。

 

 

 

 

 

 

「………んぁ」

「あ、ルフレ君!気がついた?」

 

 青空の下、草の上に寝ていた僕は、目を開けてクレアさんの顔を見る。どうやらクレアさんに回復魔法で治療を施されて、膝枕をしてもらっていたらしい。全身にあった痛みがなくなっていた。

 

「ごめんね~、なんか、いつもより多めに回っちゃったよ~。大丈夫~?」

 

 メリーちゃんが僕の顔をクレアさんの横から覗き込んで謝ってくれる。なにを言ってるのかは、よく分からないけど。

 

「大丈夫だよ。クレアさんに治してもらったみたいだし。それにしても、メリーちゃんって強いね」

 

 僕は先ほどの一瞬でケリのついた戦いを振り返って、素直に彼女を褒める。

 ハンマーを躱してナイフで反撃するつもりだったのに、躱されたハンマーを体ごと回してもう一回振るってきたんだ。油断していた僕は、下からまた襲ってきた攻撃に対応できず、見事に空を舞う鳥になった。ていうか、本物の武器だったら死んでいた。良かった、木製の武器で。

 

「ルフレが弱いだけだよ~?」

 

 彼女の単刀直入な指摘に、うぐっ、と声を詰まらせる。

 そんな僕たちに、クレアさんがふふっと笑って言う。

 

「でも、2人ともすごかったよ。10歳にはとても見えない感じの踏み込みだったもん」

「えへへ、そうですか~?」

 

 彼女の褒め言葉に、メリーちゃんが頬を緩ませる。

 

「あそこのポジション俺に変わってくんないかなぁ」

 

 豪さんが変なことを言っていた。

 向こうではディ君がまだルーフィアちゃんを誘っている。

 

「ほら、俺様たちも戦おうぜ!」

「だからいやだっつってんでしょうが。しつこいですね」

「何でだよ」

「あなたとは戦いたくないからです」

「じゃあ私と戦う~?」

「!?さあディ君さっそく始めようか!?楽しみだねっ!」

「お、おう……?」

 

 アハハハハ、と笑いながらディ君に言うルーフィアちゃんは、先ほど僕をぶっ飛ばしたハンマー使いの少女の誘いを即行で回避した。相変わらず自分の命の危機には変わり身が早いね。

 

 

「んじゃあさっきと同じルールでやんぞ。二人とも、準備はいいか?」

 

 豪さんの言葉にうなづく二人。

 

「…………………ハア、めんどうです」

 

 とボヤくルーフィアちゃん。

 

「あ、じゃあ勝った方には今度オラリオでも有名なケーキを買ってあげましょうか」

「ケーキ!?」

 

 そんな彼女を見て、クレアさんがご褒美を提案する。その餌にルーフィアちゃんが飛びついた。

 

「っしゃあ来いやぁ!」

「お、おう………?………もちろん俺様がケーキ買ってもらうぜ!」

 

 がぜんやる気になったルーフィアちゃん。現金なものだった。ディ君は何か腑に落ちねーけど、まあいっか、みたいな顔をした。

 

「私は~?」「メリーにも買ってあげるよ」「わ~い。ところでけーきってなんですか~?」

 

 メリーちゃんが暢気にクレアさんと話している横で、ディ君とルーフィアちゃんはお互いにやる気を高めていた。

 

「よし。……はじめ!」

「おらあ!」

「わぁ」

「ケーキっていうのはね」

 

 豪さんの掛け声と共に駆け出すディ君。ルーフィアちゃんは反応が遅れた。というか、完全に初心者のそれで、ひょっとすると喧嘩すらしたことがないんじゃないか、という感じだ。

 ディ君の繰り出す木製の長剣を同じ木製の長剣で受け止めるけど、ディ君の勢いに押されて後ろに後退する。

 

「おとと」

「おら、次行くぜ!」

「ふわふわな生地の焼き菓子に、クリームとか、果物(フルーツ)を添えてあるお菓子でね」

「へぇ~!」

 

 またも突貫するディ君。ルーフィアちゃんはまた長剣を受けるけど、今度は押されて尻餅をついてしまった。

 そこ、ケーキの話で盛り上がらない!

 

「もらった!」

 

 そんなルーフィアちゃんにディ君がとどめを刺そうと木製の長剣を振り下ろす。

 

「うわあ!」

 

 彼女はそれを、横に転がって避けた。

 

「危ないなぁ、まったく」

「くっそ、まだまだ!」

「とってもおいしいんだよ!特に、モルーニェの作ったケーキはね、色々あるお菓子の中でも一番おいしいんだ!オラリオでお店を開いても良いくらいなんだよ?」

「おお~!」

 

 立ち上がるルーフィアちゃんにディ君がまた突っ込む。だからそこ!ケーキの話はやめなさい!

 それを、ルーフィアちゃんが今度は長剣を重ねた後に、自分の左側に引いた。

 

「うわ!?」

 

 攻撃をいなされてディ君が体勢を崩す。

 

「だんだんわかってきました」

 

 そう呟くルーフィアちゃんは、長剣を一振りして、

 

「今度は私から行きますよ」

「う!?この!」

 

 ディ君に鋭い一撃を見舞う。ディ君はなんとか受け止めるけど、彼女の連撃に無理やり返して後ろに下がる。

 

「調子のんなよ!」

 

 またルーフィアちゃんに突っ込んでいく彼に、

 

「それはもう慣れました」

 

 そう呟くと、彼女は彼の攻撃をまたもいなした。体勢を崩してがら空きになったディ君の背中に長剣をそのまま打ち込んだ。

 

「ギャ!?」

 

 叫び声をあげて地面に倒れるディ君。そして、

 

「私、おかしってまだ食べたことないからわかんないけど、おいしそう!」

「ふふっ、お菓子は美味しいよ~?今度一緒に迷宮都市(オラリオ)で三本の指に入るお菓子屋さんに行こう!」

「うん!」

 

 そんな彼に見向きもしない酷い二人組だった。ちょっとくらい関心を持ってあげてもいいんじゃあ……………?

 

「そこまで!」

 

と豪さんが制止の声をかけた。

 

「ルーフィアの勝ちだ」

「やりました!ケーキ!ケーキ!」

「うう……クソッ」

 

 喜ぶルーフィアちゃんと悔しげに呻くディ君。

 さっきの僕と違って、ディ君はそんなに強く攻撃を受けなかったから大丈夫だと判断したのか、クレアさんは回復魔法を使わなかった。

 

「ふっふっふ、私のケーキへの情熱にかかれば、君ごときは大したことないのだよ。最強の冒険者君?」 

 

 と、気を大きくしてルーフィアちゃんが言う。

 

「ぐぐ……クッソォォォッ!!」

 

 あ、ディ君が走って行っちゃった。

 豪さんが、

 

「ほっといてやれ。男にはな、一人で泣きたいときがあるんだよ」

 

とか言ってたので追いかけないけど。

 

「まったく、これだから坊やって困ります。もっと強い人と戦いたいですね」

 

 ルーフィアちゃんはすっかり得意顔だ。

 

「あ、じゃあ私と戦います~?」「それは絶対にいやですよ!?」

 

 痛いのはお断りだ、とばかりにメリーちゃんの誘いをルーフィアちゃんが拒否して逃げ始める。

 それにしてもすごかったな。ルーフィアちゃんは。明らかに戦いながら強くなっていた。これが才能っていうものなんだろうなあ。

 

「あ、お前ら。そろそろ戻るぜ。汗かいただろうから、着替えてから晩餐会だ」

 

 豪さんが僕たちに言う。

 

「晩餐会にも美味しいケーキがあるしね!」

「早く食べたいな~」

「あ、そういえば、その晩餐会って、何をするんですか?」

「ふっふっふ、私が教えてあげましょう!」

 

とルーフィアちゃんがまたも得意気に言ってくる。

 

「いいですか。晩餐会とは、神々が愛する幻の世界のことで、この世のモノとは思えないような美味しい食べ物がたくさんあるとか。あまりの美味しさに、人の子がソコに足を踏み入れれば魂が捕らわれ、二度とこの世界に戻ってくることができなくなってしまうとか」

「え!?」

 

 な、な、なんて事だ。

 

「じゃ、じゃあ、死んじゃうの……?」

「──その通りです」

 

 うわ!?僕、今日死んじゃうの!?そんな、せっかく人生の一大決心をしたばっかりなのに!

 

「そんなわけねーだろ。嘘を教えんなよ」

 

 と言って、豪さんがガシッとルーフィアちゃんの頭に手刀をいれる。

 

「えっ、違うんですか!?私のいた教会の孤児院では、『晩餐会』と『ヒモ男』は禁句として扱われていました」

「……」

「シスターにこの言葉を言ってるのを聞かれると、『とても怖いオジサンがきて何もかも持ってってしまうわ。死ぬより恐ろしいことが起きてしまうのよ』って物凄く説得力のある顔で脅されていました」

「………………………どう考えてもヒモ彼氏の借金取りだな、オイ」

「なので、このファミリアに来て、ゼータさんが何でもないことのように言ったのを聞いたときは、生きた心地がしませんでしたよ。

 私、騙されてたんですかねえ」

「………………お前、育てのシスターを間違えたよ、絶対。というか気付けよ」

 

 豪さんが何かを察したような顔でルーフィアちゃんに言う。うーん、結局ルーフィアちゃんが騙されていただけで、晩餐会は安全なんだよね。多分。

 

「いいか、晩餐会ってのはな、ガネーシャが自分の眷族の日頃の頑張りを慰労するために催している【ガネーシャ・ファミリア】内の一大食事会みたいなもんだ。あの神は下界大好き人の子大好きで通ってるからな。ファミリアの結団力を高めることにも一役買ってるってゼータ師匠が言ってたぜ」

「なるほど………………つまり、おいしいものばっかり………………ジュルリ………………………さすがはガネーシャ様ですね!!」

「……お、おう」

 

 豪さんが何故か引き気味だったけど気にしない。

 

「まぁ、うまいもんがたくさんあるってのは本当だ期待していいと思うぞ」

 

 豪さんが疲れた声で言った。

 

「晩餐会楽しみだな~」

「美味しいものたべたいな~」

 

 ………………クレアさんもメリーちゃんも大概だった。

 

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