オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか   作:白籾

7 / 9
時の流れは時として──

 迷宮都市の中心部の一角につくられた、大きな城のような、ファミリアのホーム。

 そのホームのなかで、もっとも高いところにある部屋の窓から夕闇に沈む都市を眺める一柱の神がいた。

 

 白い衣装に包まれた引き締まった体躯に、立派な朱色の象仮面の男は、日暮れとともににぎわいを増していく都市と、溢れる人の子に優しい目を向けている。

 このファミリアの主神、ガネーシャは、珍しいことに、真面目に自分の執務室にいた。

 ………………いや、真面目ぶって不可解なポーズの練習をしているだけだった。

 

「ガネーシャ様、ゼータ様がお見えです。」

 

後ろから男性の声がかかる。

 

「そうか、通せ」

 

と、執務室の扉を開けてかけられた声に答え、自分は執務室に据えられた質実を重視された椅子に腰掛ける。

 

「失礼します」

 

と声をかけ、入室してきたのは、つい先日、Lv.4に【ランクアップ】を果たした冒険者、ゼータ・アルザスだった。

 ゼータは、ガネーシャの座る執務机の少し前に立つ。

 

「苦労をかけるな」

「いえ、それほどのことではありません」

 

 短く言葉を交わす二人。そこには、神とその眷属の間の確かな信頼があった。

 

「ギルドのほうはどうだった?」

「お察しの通り、大混乱も良いところです。全く、神フレイヤも、神ロキも、面倒なことをしてくれた」

「ふん、フレイヤはともかく、ロキの悪巧みがよもやこのようなことだったとはな。ワシはてっきり、闇派閥(イヴィルス)の方かと思っとったが」

 

と、部屋にいたもう一人の男がそういう。

 髪のない頭に、真っ白な髭。年をかなりとったヒューマンの男性だ。

 その見た目の割にはかなり引き締まった体であり、ただの人ではないことがその雰囲気からも分かる。

 

「ワシがこのファミリアの団長になったころに、神ロキがファミリアを立ち上げたんじゃ。あの頃のことはよう憶えとる。神どもが何事かと騒ぎまくっとったわ。【勇者(フィン)】の小僧も、若いながらにまるで弱々しさを感じさせぬいい目をしていた。あれが英雄の資質というものかと痺れたわい」

「あのロキがファミリアを作ると聞いたときは、また何の悪巧みかと疑ったな。あいつは天界一のやらか(しん)だったからな!」

「お前さんが言うそのセリフを聞いたロキの反応が見てみたいわい」

 

 そう、【ガネーシャ・ファミリア】の団長、ガンディオがあきれ声でかえす。神ガネーシャの渾身のギャグはスルーされた模様だ。

 

 

「そう言えばゼータ、【ルー・ファミリア】の所で【フレイヤ・ファミリア】に派手にやらかしてくれたそうではないか」

「あ、その件については本当にすみ」「よくやったぞ!あ奴らに一泡吹かせてやりたかったのじゃ!」

「……………………。それはそうと、ガンディオさん、ギルドの方から我々のファミリアに正式な協力要請があったのですが」

 

 ゼータが現役で物騒な老人をスルーして、ギルドから持ち帰った話を切り出す。どうやら、ここの場でまともなのはゼータのみらしい。

 

「よし、引き受けよう!俺はガネーシャだからな!!」

「ガネーシャ、少し待て。なんの協力かも聞かぬ内に決めるでない。人の話を聞くようにいつも言うておろうが」

 

 ヒューマンの老人が主神をいさめる。

 

「協力というのは、これまでゼウス・ファミリアやヘラ・ファミリアと一緒に受け持ってきた、オラリオの治安維持について、アストレア・ファミリアと共に全面的な協力を、とのことなんです」

「そんなことか!引き受けるに決まっている!これまでもやってきたことだしな!!」

 

と勢いよくしゃべるガネーシャ。

 

「ふむ、確かにワシ等のファミリアは多くの構成員を抱えておるし、治安維持にはうってつけだろうからな。」

「すでに神アストレアはこれを受諾なさったそうです」

「しかし、何故にフレイヤやロキのところもそれをやらない?」

「それが、武力でもって下克上を果たしてしまったファミリアに任せると、混乱を招いてしまう恐れがあり、治安がかえって悪くなってしまうと、ギルドの方が考えているのが一つ」

「なるほど、自分達も力付くで、と暴れるアホ神どももいそうだしな。…………力づく、か」

 

 ガネーシャが、普段は見せない真剣な雰囲気で相づちを打つ。

 

「もう一つは、今回の件について、アストレア・ファミリアがかなりの不満を持っているからです。特に、神アストレアは、武力によって秩序の混乱を招いたことに対し、かなりお怒りだとききました」

「そうだろうな、あの女神(アストレア)はそういう奴だ。まあ、秩序を以て人の子に愛を注ぐ神だからしょうがないところもあるだろうが」

「うーむ、次回の神会(デナトゥス)は荒れそうじゃな」

「いつも騒がしいがな」

「それはあんたじゃろう」

「………………俺がガネーシャだからか!?」

「ようわかっとるではないか」

「…………………それに、勢力図が大きく変わった今、裏で悪さをたくらむ輩もいるとか。あとは、面倒事として、さっそく王国(ラキア)の方も動きを見せ始めてるとか」

 

 一人と一柱のくだらない話をきって、ゼータが話題を変える。

 

「神アレスか。面倒じゃな」

「うむ、あれはとても暇になるから面倒だ」

「はは、あなたは何もしなくて良いというか、何もしないでほしいですね、面倒がもっと面倒になるので」

 

 軽口をたたく3人。ネタにされることすら一瞬だった神アレスが不憫ですらある。

 

「まあとりあえず、都市警備のほうは引き受けるということでよろしいですね?団長」

「そのことなんじゃが」

 

 話の結論を促すゼータに対し、ガンディオは話を切り替える。

 

「もうワシも112のじじいになった。近頃は武器も思うように持てん。これ以上は年寄りの冷や水でしかない。じゃから、団長の座を譲ろうと思うておる」

 

 ゼータの顔に得心の心が浮かぶ。

 

「そうですか………。ガネーシャ様はこのことを?」

「俺はもう少しいてはどうかと言ったのだかな。ガンディオの決心も堅いようだしな。仕方ないさ」

「そうですか。では、次の団長は誰にしますか?」

「うむ、ワシはルーシェか紅葉、ゾドを考えている。Lv.5ではあるが、皆統率力、求心力共に高く、優秀な冒険者じゃからな」

 

と、次の団長候補を並べるガンディオ。

 

「ルーシェなら、ついさっきのステイタス更新でLv.6にランクアップしたぞ」

 

「ほう!そりゃあ好都合じゃ。ちょうどいい、次の団長はルーシェにしようではないか」

 

 ガンディオはファミリアのメンバーの成長を喜んで、嬉しそうに言う。

 

「そう言えば、ルーシェさんはどんな偉業を達成したのですか?」

 

ゼータがそうきくと、

 

「ああ、俺も聞いたんだが、何でも、言うこともはばかられるようなとんでもないことをしたらしい」

 

とガネーシャが答えた。

 

「は?」

 

 言うもはばかられるって何だよ?という顔で、ゼータがききかえす。

 

「いや、俺も詳しく聞こうとしたんだが、とんでもなく怖い目で睨まれて、その、な?」

「必要な所で腰抜けになる愚神めが」

「グハァァッ」

 

 眷属の視線の威圧に耐えられなかったヘタレな主神にガンディオが罵声を投げかける。

 

「…………………ま、まあ良いじゃないか、次の団長も決まったことだ、今夜あたりに幹部たちを集めて宴でもしようじゃないか!」

「…………そうですね」

 

 開き直った主神にジト目を向けながら同意するゼータ。

 

「よおし、新たな子供達がたくさん入ったことだし、ファミリアの者共を集めろ!今日は一年に一度の晩餐会だ!」

 

とガネーシャが叫ぶ。

 

「では、今ホームにいるメンバーに通告してきます」

 

と、ゼータがそれに答え、退室する。

 がチャリと扉を閉め、大理石像の並ぶ廊下を歩き、廊下の端にいる警備兼主神(ガネーシャ)見張り役の団員と挨拶を交わし、ゼータは階下に降りていった。

 

 

 

 

 

「……今まで苦労をかけたな、ガンディオ」

「わはは、なに、過去は思い出すとも振り返ることはせんて。ジジイはボケとるんでな」

 

 すっかり日が沈んで魔石灯の灯りが照らす室内で、古参の冒険者と旧き仲の主神は、静かに笑い合った。

 言葉にしなくても十二分に伝わる。

 有限で、長い人生を送ってきた老人と、悠久の時を人の子と歩もうとしてきた神には、日が沈み、魔石灯が夜景を作る迷宮都市(オラリオ)の街を見ながら、積み上げてきた歴史を共有し合っていた。

 

 




10/1 新たに明らかになった原作の設定を反映して、一部修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。