オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか   作:白籾

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しばらくは主人公君になるべく重点をおいてやっていきたいです。


男なら、夕日に向かって叫べ

「ここが俺たちの部屋だ」

 

 僕は豪さんにつれられて、僕たちのパーティに割り当てられた男部屋に来ていた。ベッドが四つある。

 

「お前、荷物は?」

「あ、元いたファミリアのホームが焼けてしまって、その時……………」

「ん、そうか。わりぃ」

「いえ、もう大丈夫なので」

「何言ってんだ。男はな、泣きたいときは素直に男泣きすんだよ。ほれ、俺の胸に飛び込んで泣くといい!」

 

 豪さんは腕を広げて、さあ、さあ!と僕を誘う。

 

「あはは、遠慮しておきます」

「そうか?」

「はい」

 

 豪さんの配慮にそっと感謝する。ここに来てから、助けられてばかりだ。

 そう言えば、部屋を飛び出した時に持っていた短刀はどこにいってしまったんだろう。高い武器じゃなかったけど、思い出深いものだったから、惜しいな、と思う。

 

「んじゃ、俺はあの犬っころを探してくっから」

「え?ディ君ですか?そっとしておいてやれって、さっき」

「ふっふっふ。分かってないな」

 

 豪さんは少し気持ちの悪い笑みを浮かべると、僕の方に顔を近づけて、

 

「いいか、男はな、男泣きしたあとでそいつを仲間が慰めてやんのが常識(ルール)なのよ。それが男の友情ってもんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、俺のじいさんがそう言ってたからな!間違いないさ!」

「へえ、豪さんのおじいさんが」

「俺のじいさんはな、ここ迷宮都市(オラリオ)一の魔道具製作者(マジックアイテムメーカー)であり、迷宮都市(オラリオ)一の鍛冶師(スミス)でもあるんだ。神達にもその腕を認められてんだぜ?」

「そうなんですか!?すごいです!」

「ああ。それだけじゃない。じいさんはな、でっかいハーレムを作っていた、男の中の男なんだ!」

「ハーレム……?」

「そう、ハーレム!!全男の夢!究極のロマン!!俺のじいさんは至高のハーレムを求めてオラリオに来たって言ってたぜ!」

「男の夢……究極のロマン……す、すごい……」

「だろ?」

 

 そんなにすごいモノがこの世にあるなんて……!世界って広いなあ!

 僕の新たな夢になるかもしれない……!

 

「そのハーレムって、一体何なんですか!?」 

「ん?お前、ハーレム知らないの!?」

「え、そんなに有名なんですか?」

「言ったろ?ハーレムは、『全』男の夢だ、と。口出しちゃあ、格が下がるっつうもんだ」

「あ……」

 

 そうか、皆がそこを目指しているんだ………………。よくは分からないけど、壮大な夢のために、だなんて、まるで御伽噺の英雄のようだ。

 

「なんか、叶えるのが難しそうですね……」

「ああ。ハーレムってのはそもそも、たくさんのかわいい&美しい美少女・美女と仲良くなって、恋人以上になった状態を指すんだ。そこには、長く険しい道が待っている。男が皆それを夢見るんだから、生易しいもんではない。まさに前途多難だ。遙か昔から、全世界の数え切れないほど多くの男達がその夢に挑み、道半ばにして敗れ去っていった──────」

「……………………(ゴクッ)」

「─────だが!!成就の難しいことはなんの障害にもならない!なぜなら!そこに、夢があるからだ!!」

 

 っ!!

 豪さんの心からの叫びが心に響く。

 な、なんてかっこいいんだ………………。言っていることは、なんだかゲスっぽい気もしたけど、たぶん気のせいだ。

 ここまで自分のやりたいことに全力でひたむきだった人や神を、僕は一人と一柱しか知らない。

 

「叶えたい夢が難しいから諦める?そんな言葉は、冒険者である俺の辞書には存在しないっ!!」

「おぉ!!」

「たくさんの女の子と仲良くなり!笑顔を贈り、幸せにしてあげたい!!他ならぬ、この俺の夢だ!」

「豪さんっ………………」

「無理だ、諦めろ、そんな言葉を何度も掛けられるだろう。現実をみろ、お前には出来ない、多くの人がお前の夢を阻み、否定するかもしれない。

 だが!冒険者である俺は、抑えつけられるほどに俺がますます燃え上がってしまう!!

 お前も冒険者になったんだろ!?」

「はい……!」

「なら目指せ!足踏みするな!!お前の夢は、お前のもんだ!!自分の命を懸けて叶えて見せろ!それが、冒険者だぁっ!!!」

「はいっ!!」

 

 心が奮い立つ。全身を廻る血が沸騰しているようだ。豪さんの言葉に、僕は大きな勇気をもらった。僕は、皆と笑顔を、皆と幸せを!そして、ハーレムを目指すんだ!!

 ………………何か、大切な│常識《モノ》を失った気がしたけど、たぶん気のせい。

 

「よし!そんじゃあ気合い入れて、あのディっていう大口叩きを弄りに行ってやるか!」

「はい!僕も行きます!ディ君が心配です。大切な仲間ですから!」

「お、お前良い奴だな!」

「最初に言いだしたのは豪さんでしょう?」

「まあな!……で、本当の所はかわいこちゃんに負けて傷心の弱虫君をいじめに行くってとこかね?」

「そんなわけないじゃないですかっ。どこのゲスですか、それ」

 

 僕と豪さんは、部屋を出ながら軽口を叩き合った。本当にこの人エルフなの?ってくらいに豪さんがフレンドリーで熱血で良かったな。さて、ディ君晩餐会までに見つかるかな?早く見つけなきゃ!

 

 

 

 

 と思ってたら案外すぐに見つかった。

 

「よう!負け犬君」

「いや、いきなりそれはひどすぎでしょう!?」

「んな!?何でお前たち、っていうか、どうしてここが!?」

「なに、男が泣くところはここって決まってんのさ。かく言う俺もいつもやらかしたときはよくここにゲフンゲフン」

「あ、豪さんもよく使われてるんですね、ここ」

「ち、違うわい!」

 

 豪さんが、「俺に心当たりがあるぞ!」とか言うのでついてきたのは、城のような【ガネーシャ・ファミリア】のホームの屋上の一つだった。

 何本も塔みたいなのがあるこの建物の中で、壁と塔でうまく区切られたここは、他の塔からはちょうど見えないような死角になっている。砦みたいな形の場所だ。

 西に沈んでいく夕日がこの場所を包んでいた。

 

「ここは高い塔からうまーく見えないようになっている、唯一の屋外だからな。バレないように泣くにはここかオラリオの城壁の上って相場が決まってる……と俺の知り合いが言っていた」

 

 豪さんは目鼻の筋が通ったエルフらしい顔でそう言う。そしてあくまで自分は泣いていないと主張したいらしい。

 

「…………で?ねえ、今どんな気持ち?女の子に無様に負けちゃって泣いている君は今どんな気持ち?」

「う、うるさいっ!俺は泣いてない!!」 

 

 エルフらしからぬゲス顔でディ君に聞いた。ほんとこの人エルフなの?種族詐称ではないの?どうしよう、僕の中のエルフのイメージが、今日盛大な音を立てて崩れていってる。

 エルフが気高いだなんて主張する人は、豪さんのことをみた方がいいかも知れない。

 

「大方、ルーフィアちゃんがクレアに褒められちゃいるけど、見たところ初心者らしかったから簡単に勝てそうだ、とかなんとか思ったんだろ?」

「んな!?」

「え、そうなんですか?」

「そんでもって、『俺はこんなに強いんだぜー褒めてくれー』なんてことを思ってたんじゃないか?」

「な、何故それを!?じゃなくて、うっさい!」

「…………………ゲスの考えはゲス同士にしか分かんないってことか」

「違うって言ってんだろ!?」

「おいルフレ、今の発言は俺もゲスだ、みたいなこと言ってるように聞こえんだけども?」

「さっきの発言を聞いても豪さんがゲスではないと思う人がいたら今すぐ連れてきてください!」

「何言ってんだ、お前の目の前にいるぞ?」

「少しは自分のゲスさを自覚してくださいっ!?」

「ま、それはともかくだ」

 

 強引に僕の突っ込みを切って豪さんが言う。

 

「仲間を踏み台にして自分を高く見せようと言う考えはよくねぇよ。もんのすごいキタねぇ」

「…………」

「んでその結果があれじゃあ、ざまぁないよな」

 

 豪さんがここに来て初めて真面目な話をする。

 

「……勝てると思ったんだ。俺は孤児院にいたときは、誰にも負けたことなかったから」

「ものすごく一般的なガキ大将だな、おい。なんか一つくらいストーリーにひねりを持って来いよ」

 

 豪さんが嘆息する。

 

「いいか、お前のその根性じゃ、この先冒険者として強くなっていくことは絶対にない」

「な!?何で!」

「……なあ、『強さ』って何だと思う?」

 

 と、唐突に豪さんが問う。

 

「強さ?そりゃ、戦って勝てる奴に決まってる」

「そうだな。じゃあ、お前はさっき何で負けた?」

「……俺が、あいつ(ルーフィア)より弱かったから」

「違うね」

「は?」

「え?」

 

 豪さんの返答に僕たちは戸惑う。

 

「豪さん、何が違うんですか?」

「うーん、質問を変えるか。ディ、お前は何に負けた?」

「は?そんなの、ルーフィアのやつに決まって…………」

「そこが違うんだよなぁ」

 

 ディ君の答えを遮って豪さんが言う。

 

「いいか、お前はさ、確かに試合ではルーフィアちゃんに負けた。それは、お前があの子の才能を見誤ったからだろう。でもな、お前は試合に入る前からすでに負けてたんだよ」

「才能がってことですか?」

「いいや?違うね。ルーフィアちゃんの才能は確かにすごいが、それ以前の問題だ」

「それ以前?何だよそれ」

「心だよ、ココロ」

 

 心?

 

「あの子はお前と戦っている最中に成長を続けて、最初はお前に押されてたのが、戦いに慣れてからは余裕をもってお前を下すことができた。ディ、お前はどうだった?最初から相手の出方も見ずに突っ込んでいた。勝てると確信してたからだろ?」

「……うん」

「そういうのをな、油断とか、侮りって言うんだよ」

 

 豪さんは少し前までのふざけた態度を消して、真剣に話していた。その顔は、確かに誇り高きエルフの一族のものだった。

 

「相手を見くびるから足元を掬われる。相手を見下しているからそこを突かれる。戦う相手に対して、同じ土俵に立っている者としての敬意を持たないから、勝つことができないんだよ。自分の心に負けてるんだ。相手に心で負けてるんだよ」

 

 豪さんは続ける。

 

「その点、ルーフィアちゃんはお前を戦う相手として認めて、どうすれば勝てるのか、どうしてはいけないのか、その道筋をキチンと辿っていた。お前の動きをみて、自分がどうすれば有利になるのかを考えていた。最初っからあれが出来るってのは、あの子が天才だってことの証明でもある」

「…………」

「……つまり、考えながら戦わなきゃダメってことですか?」

「うーん、それももちろん重要だ。けど、一番大切なことは、戦う相手を尊重するってことだ」

 

 尊重?それじゃ相手を傷つけたり、攻撃できなくないだろうか。相手を尊重してたら、自分が勝とうとは思えなくはないだろうか。

 第一、僕達は冒険者だ。戦う相手はモンスターなことが殆どなのに、尊重しろって言われてもよく分からない。

 

「相手を尊重するってのは、相手を大切にするってこととは違ぇぞ?自分が勝負で勝つために、相手をまず『自分の勝負の相手』として認識して、警戒して、どうしたら勝てるのかを考える。それが、相手を尊重するってことだ。

 手を抜いたり、相手を侮って負けたりすんのは、戦う相手に失礼なんだよ。その時点で、すでに勝負で負けてんだよ。

 相手が人だろうがモンスターだろうが、関係ねぇ。勝つためには、常に相手を主軸に、どうしたら倒せるのかを真剣になって考えろ」

 

 豪さんの強い言葉に心を打たれる。

 

「……なんか、豪さんって意外にかっこいいですね」

「おい!意外は余計だろ!」

「いえ、余計ではないですよ」

「余計だっ!」

「はは、もちろん冗談です」

「コノヤロォ…………………。まあとにかく、俺が言いたかったのはそれだけだ。

 お前があんまりにもカッコ悪かったからな、あそこで勝とうが負けようが言うつもりではいた。勝ってたら勝ってたで別の言い方もあったけどな」

 

 ……この人は、普段はあれだけど、やっぱりエルフなんだろうな。根本の所で、とてもカッコいい。

 

「あ、ちなみに別のってどんなものですか?」

「俺がボコして現実を教える」

「うわ怖!?」

 

 さすがに第二級冒険者にボコされたら回復魔法の出番だ。ある意味、ディ君は負けて良かったんじゃないだろうか。

 

「……今まで、そんなこと考えたこともなかった」

「は、年が10歳そこいらのガキにそんなこと考える力があるわきゃねぇよ」

「俺は12歳だ!」

「ええ!?」「嘘だろ!?」

 

 ま、まさかの年上発言。

 

「嘘じゃない!来月13歳になるんだよ!」

 

 ……とても、13歳になるとは思えない。体的にも、心の狭さ的にも。

 

「……ははっ。まあお前の年齢詐称の件についてはもういいや」

「よくない!!それに嘘じゃない!」

「ディも元気になったみたいだしな。俺たちも晩餐会に行くとするか!」

「そうですね!」

「おいっ、無視すんなよっ」

「ところで晩餐会ってどこでやるんですか?」

「ん?ああ、一階の大ホールだよ。どっかの主神が無駄に金かけてるからな。

 迷宮都市(オラリオ)一の団員数を誇る俺たち【ガネーシャ・ファミリア】の団員が一度に皆入ることができるくらいだ。

 初見は驚くぞ?まあ、『神の宴』のために作ってある面がなきにしもあらずなわけだが」

 

 そう言うと、あ!と豪さんが声を上げた。

 

「そうだ!お前ら、あの夕日に向かって誓いを叫べ!」

「え?何ですか急に」

「誓いだな!わかった!」

 

 あまりにも唐突すぎて戸惑う僕をよそに、ディ君が宣誓を始めた。

 なんだか、このファミリアの人は、どことなく父さんに似ている気がした。

 いつでも急で、毎度のことながら慣れなくて、でもどこか、それを楽しんでいる僕がいて。

 

「俺はぁーっ、強くてカッコいい冒険者に、なるっぞぉーっ!!」

「そうだ!その意気だ!」

 

「……………ちなみに、何で急にこんな事を?」

「俺のじいさんが、なんかやらかした後とか、これからなんかやらかしてやるとか、そういうときには夕日に向かって叫べっ!って言ってたんだよ」

 

 ほへぇ、また豪さんのおじいさんか。なんか、すごい人ですごい変人なのはよくわかった。

 

「じゃあ俺の番な。

 スゥー……でっかいハーレムを、作ってやるぞぉーっ、今に見てろよーっ!!」

「なんだよそれ、気持ち悪いな」

「アア?気持ち悪いだとぉ?……………………ふん、まあいい。お前には後でハーレムの素晴らしさをその身に叩き込んでやるから覚悟しとけよ。じゃ次、ルフレだ!」

「はい!」

 

 僕の夢、新しい夢。今度こそ、叶えてみせよう。

 

「僕はぁっ、仲間と一緒に楽しく笑ってっ」

 

 今日最後の日の光が、僕の顔を強く照らす。輝くそれは、尽きかけた命の灯火(ともしび)の、最も眩しく輝く瞬間にも思えた。

 

「皆と一緒に幸せになれるっ、冒険者になりたいぃっ」

 

 それが、僕の、なによりガネーシャ様の求めることだ。

 

「よく言った!お前にはハーレムの素質があるぞ!!ハハハハハッ」

 

 豪さんが楽しげに笑い出す。

 

「フフッ、アハハハハハハハッ」

 

 僕もその愉快な笑いにつられて笑ってしまった。

 

「何だよお前ら、馬っ鹿じゃねえの」

 

 そう言うディ君だって、笑ってるじゃないか。うるせぇ!俺はそんな馬鹿じゃねえ!またまたそんなこと言って、さっきノリノリで叫んでたじゃないか。わ、忘れろ!?アハハッ、ムリ!

 

 

 

 黄昏時の空は群青色に染まっていき、迷宮都市(オラリオ)の街を魔石灯の明かりが照らしていく。宵闇に向かって人々が喝采をあげる。【ガネーシャ・ファミリア】の誇る大派閥の一団が、迷宮都市(オラリオ)一と彼らが自負するホームへと向かっていく。

 東の空には、楽しそうに瞬く三番星が輝いていた。

 

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