オラリオで主神讃歌を唱えるのは間違っているだろうか   作:白籾

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 久しぶりの投稿。




楽しみと幸せと忍び寄る光の影

「どこ行ってたんですか?豪さんっ。男の子達を連れ回して!」

 

 またやっちまったよぉ、夕日に向かって叫ぶなんてどんな狂行だ、ああまた俺の黒歴史がぁ、と呻く豪さんに連れられ、僕達の小隊(パーティー)のルームに戻ると、すでにルーフィアちゃんとメリーちゃん、そしてすごくお(かんむり)なクレアさんが待っていた。

 

「え?い、いや?特にどこにも行ってなかったよ?な、なあ、ディ?」

「え!?あ、ああ、どこにも行ってないぞ!?そうだよなルフレ!」

「そうなのルフレ君?」 

 

 クレアさんに真っ直ぐな瞳に見つめられた僕は、正直に話すことにした。

 

「いえ、夕日に向かってむぐっ!?」

「ゆ、夕日の方に向かって歩いたら西に行けるな~、って話だよ!?な!?」 

「そうだ!俺たちは疚しいことは何もしてねぇ!?」

「ふーん……?」

 

 クレアさんは、二人を疑わしそうな目で見ると、

 

「で、本当の所は?」

 

 と、一転して『純朴そうな』視線を豪さんに向けながら、柔らかく問いかけた。

 

「負けて傷心のディに塩を塗ってやるついでに夕日に向かって愛を叫んでましたってオイイィィ俺の口ぃぃぃぃ!?」

 

 『何故か』口を滑らせた豪さんが、絶望の表情を顔に浮かべながら叫ぶ。

 

「うわぁ……」

「や、やめろ!俺をそんなかわいそうな奴を見ているような目で見つめるんじゃない!?」

 

 クレアさんのどん引きに、豪さんがモルーニェさんに腹パンされたときよりも苦しげで悲痛そうな顔をする。

 

 あれ?嘘は言ってないけど……豪さん、もっとかっこいいこと言ってたのに。なんで言わないんだろう?

 ハーレムを作るんだったら、女の人に好意を持って貰えるようなアピールすればいいのに。さっきもクレアさんをナンパしようとしてたし。

 僕は豪さんを不思議な目でみる。ディ君もそれは同じようで、こちらは変なモノを見ている目だった。

 

「……正直に話してくださりありがとうございます。そしてごめんなさい」

「謝んないで…………俺のガラスハートが粉々に砕けちゃうから…………」

 

 うーん、なんだか豪さんが可哀想になってきたなぁ。

 

「あ、でも楽しかったですよ?またやりたいです!」

 

 僕がそう言うと、

 

「……豪さん、何てこと教えるんですか」

 

 クレアさんが冷たい目で豪さんを見据えた。

 あれ、なんだろう、クレアさん、顔が笑ってるのに、なんか怖い……………!?

 

「その、すいません」

「あなたの痛々しさが移っちゃったらどうするんですか」

「グはァッ!?」

 

「あの、まだ行かないんですか?晩餐会。私、もう覚悟はできてます」

 

 と神妙な顔でみんなを促すルーフィアちゃん。

 クレアさんの言葉の棘で死にかけている豪さんのことは目に入っていないようだった。

 てか覚悟って、玉砕の覚悟だよね?まだ『シスター』なる人の洗脳から抜け出せないのかな。彼女の目は大切なモノと引き換えに自分の目的を達成しようとする人の目だ。

 見たことある。

 

「ううん、一応ここに来るメンバーは皆きたから行くよ。」

「やったぁ。ごっはん、ごっはん、美味っしいごっはん♪」

「メリー、はしゃぎすぎですよ。まあ、私も楽しみですけども」

「よっし、じゃあ行くか!」

「はい!」「おう!」

 

「あなたがそれを言いますか……」

 

 豪さんの一声で皆が動き出す。

 

 部屋の外にでると、クレアさんが話しかけてきた。

 

「ルフレ君、なんか良い顔になったね」

「そうですか?」

「うん、吹っ切れた感じというか、なにか一つのことに真っ直ぐになってる目をしてる」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 クレアさんが笑顔だ。良かった、さっきみたいな怖さはない。

 

「ふふっ。

 ………………でも、豪みたいに悪い遊びを覚えちゃだめだよ?」

「え、あ、はい」

 

 豪さんが血涙を流しているのは見なかったことにする。

 あの人、なんだかいつも血を流している気がするなぁ。

 

「それに、君たち仲良くなったみたいだね」

「あ、はい!やっぱりみんなと笑っていられるのは楽しいです!」

「うん、そう思えるのは良いことだよ」

「はい!……あ」

 

 視界の隅に、嫉妬にムキーッ、となる豪さん……ではなく、どこか別の方向に向かおうとしているメリーちゃんが入った。

 

「メリーちゃん、行くのはそっちじゃないよ?」

「ん?でもルフレー、あっちからいい匂いがするんだけど」

「え?……あ、本当だ」

 

 彼女の言葉に従って鼻を動かすと、敏感な僕の鼻に花の香のような匂いが感じられた。

 

「メリーちゃん、これ、食べ物じゃなくて、花のニオイだよ?」

「へー、『はな』ってなにー?」

「え?」

 

 僕はつい彼女に聞き返す。メリーちゃんは本当に花のことを知らないようだった。

 

「花っていうのはですね、赤とか青とか黄色とか、綺麗な色をしていて、いい匂いのする、特別な草みたいなもんですよ」

 

とルーフィアちゃんが僕の代わりに答える。

 

「草って、なんか違わない?」

「草ですよ。だって花の下についてるじゃないですか、草」

「うーん、そうかもしれないけど……」

「へぇ!きれいな草なんだ~、見てみたいなぁ」

 

 メリーちゃんは、キラキラした目でそう言う。

 

「そうですね。今度見に行きましょう。花はいろんな所に生えてますからね」

「うん!」

 

 メリーちゃんがこちらに戻ってきて、ルーフィアちゃんと話し始める。

 

「ねえねえ、ケーキ楽しみだねぇ!」

「また急な話題転換ですね……」

「ルーフィアは楽しみじゃないの?」

「いやまぁ、死ぬほど楽しみですけども」

 

 二人とも、結構仲良くなっていた。

 なんか、さっきまで武器を片手に追いかけ回していた側と追いかけ回されていた側には見えない。

 あ、そう言えば、と僕は思い出す。

 

「豪さん」

 

と小声で話しかける。

 

「……ん?なんだ……?」

 

 ……豪さんは、まだクレアさんの毒舌のショックから抜け出せていなかった。

 

「なんでさっき、あんなこと言ったんですか?」

「あんなこと?」

「いえ、豪さんすごくかっこいいこと言ってたのに、なんでそう言うこと言わなかったのかな?って思って」

「俺もそれ気になってたぞ」

 

とディ君も話に加わる。

 

「は?何でってお前ら、そんなのカッコ悪いからに決まってんじゃん」

「「?」」

「あのなぁ」

 

 豪さんは呆れたように肩をすくめて説明してくれた。

 

「想像してみ?自分から『俺こんなにいいこと言ってやったぜーすげーだろー』って言ってる奴」

「……あ」「……うぜぇな」

「おい、俺を見ながらうざいとか言うんじゃない。俺はそんなこと言ってないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ………ハッ…………」

 

 オラリオのどこかにある、人気のない寂れた路地裏で、1人の男が必死の形相で走っていた。

 走りながら後ろを(うかが)うその視線は、多分に畏れの色を含んでいる。

 

 と、男が何かに気づいて足を止め、後ろに向いていた顔を、ゆっくりと前に向けた。

 

 

「────────」

 

 

 ゆらり。

 

 オラリオの隅を包む夜の暗闇に、取り残されてしまった太陽の残滓のような、白い女。

 どこからも光が射し込んでいないのに、不思議とその姿ははっきりと、闇からぼうっと浮かび上がっている。

 

 白目と黒目(・・・・・)が入れ替わったような相貌は、男のことをじっと見つめている。

 

 ぐらり。

 

 神の恩恵を受けた冒険者の中でも上位に入るその早い脚を止め、薄汚れた路地裏の地面に膝を突く。

 

 

「───────」

 

 

 無言の彼女に対して男が浮かべる表情は、絶望。

 あるいは、自分の救済に対する歓喜。

 

 男は、自分の命が風前の灯火であることに、まともな感覚が麻痺してしまっていた。

 それは、捕食者と被捕食者というような、自然の法則に従った関係ではなく、

 

 圧倒的な、蹂躙する者の前に立ってしまったことに、贖罪をする男がいて。

 

 その贖罪に、まるで気づくことのない、傲慢で絶対の勝者がいるだけ。

 戦わずして勝ちを得ていた女は、男と対峙してから初めて口を開く。

 

 

「─────なにか、言い残すことは?」

 

 

 男は、その不動の口から漏れ出た音を、最初は認識できなかったようで、びくびくと浜に打ち上げられた死にかけの魚のように息のない痙攣をしていたが、それが自身に対する問いかけだと分かると、まず驚愕に表情を彩り、次に口の端を震わせながら、こう答えた。

 

 

「お、お前なんか、早く死ねばいいん」

 

 

 まるで下界をあざ笑うかのような形をした三日月の光は、下界を柔らかく包む太陽とは違い、陰影の隅々までを照らすことはない。

 月明かりの届かぬどこか暗い場所で、首を失った冒険者は、血溜まりの中に倒れ伏した。

 

 





 受験終わるまで不定期更新。

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