「・・クロノ、今回のコンタクトについてどう思う?」
俺は宛がわれた私室からブリッジへと向かう途中の廊下で先ほど信頼し合える関係へとなったクロノに話しかける
「そうだね。僕らから逃げ切って間もなく僕らにコンタクトを取った理由がわからない現状では不気味だとしかいえないね」
「・・・確かにな。それにさっきの戦闘中に言ってたことも気になる」
「あの『ストーカー気質な猫が教えてくれた』という話のことかい?」
「あぁ、あの話を基に考えるなら俺たちの行動は監視されていることになる。何でなら俺たちの作戦はアースラと翠屋以外では話していない。盗聴系の魔法を使っているにしても、電子関係でスパイウェアなんかを送られてる可能性も考えたけれどこの作戦中に俺は一度アースラのシステムを再構成したときには不自然なものはなかった。・・・俺が協力体制を敷いてからはロストロギア級の規格外スペックを持つアルケミーを定期的に接続してるんだから常時ハッキングなんて真似は不可能だろうし」
「そうだね。君のデバイスのデータ処理能力と君たちの技術と同等の腕前ならまだしも気付かれずに平然と超えられる人間はこの世界でも居るかどうかすら怪しいからね。それに、君も知ってのとおりこの船に居るクルーはみんな優秀だ。あまり長距離からそういった魔法を使えば艦が見付けるだろう」
「・・・あぁ、アルケミーを超えられる存在が居るとは思えない。居るとすればそれこそ本物の電子の化け物だろうな」
「「だとすれば・・・」」
神様特製のハッキング特化型デバイスのアルケミーを超えられる存在なんて居るはずがない。だから犯人は外部ではなく
「犯人は管理局内の人間ってことになるな」
「それも僕たちから報告書を受け取るような上層の人間で君と僕たちの索敵能力を掻い潜る隠密行動のプロだね」
「・・・俺の索敵能力とアースラの索敵能力を超える・・・か。心当たりはあるか?」
「・・・2人だけ。僕の師匠に当たる人物だ」
「なるほどな。クロノ、俺はフェルグラントから情報を可能なだけ引き出す。クロノはその二人と命令を下しただろう上司をを徹底的に調べてくれ」
「わかった。母さんに少し口頭で告げたら彼女たちのいる本局の方に言ってみるよ」
「あ、本局に行くならついでにユーノを無限書庫のほうにまた連れて行ってくれ」
「いいのかい?彼の結界生成からサポートの技術は間違いなく優秀だけど?」
「それはわかってるけど、闇の書の情報が少なすぎる。今の現状では不測の事態が起こった場合の対応が遅れる恐れがある。けれど電子情報にはこれ以上に調べられる情報はない・・・残るは無限書庫。俺は身元不明の餓鬼でこの後のことを考えるとここを離れられないし紙媒体の本を調べるのに適した魔法なんて持ってない。対して俺の苦手な紙媒体の情報の収集能力を持っていて尚且つ電子情報の収集に関しても俺ほどじゃないけれど高い能力を持つユーノ・・・他に適任者がいない。となるとユーノのサポート能力のメリットを差し引いてもユーノに任せるしかない」
「なるほど・・・というよりも君にも出来ない事があったんだね?」
「アホか、神様じゃないんだし俺がそこまで万能なわけないだろ?」
「それもそうだね。だから泣きながら僕に協力を願い出たんだからね?」
「うぐっ!?それは言うな・・・あれは俺にとっても恥ずかしかったんだ」
クロノの唐突な口撃が俺の胸を穿つ
それによって胸を押さえる俺だが
『・・・クソっ・・・事実だけに否定できない。・・・けれど、そっちがそうくるなら』と反撃を試みる
「男の恥らっている姿は気持ち悪いよ?」
「・・・そう言いつつ頬を染めてりゃあ世話ないよ?
「誰がホモだ!!誰が!!」
俺のホモ発言にそれは違うと反論するクロノを見て
俺は『かかった!!』と内心思い、口元をニヤリと吊り上げると
「だよな~。クロノはホモじゃなくて好きな子に告白できない
誰と言わなくてもわかっているのだろう・・・クロノのエイミーに対する態度を見ていればすぐにわかるぜ?
「そ・・それは・・・」
『形勢逆転だ。伊達にお前よりも長く生きてないんだよ』っと思う俺だがタイミングが悪いことにもうブリッジがもう目の前でこれ以上追撃は出来そうにない
なので
「さて、こんな話は終わりにしてこっからは仕事に取り掛かるとしますか♪」
顔を俯かせているクロノそっちのけでそう言ってブリッジへとつながるドアを潜る
その際後方から恨みがましい視線を感じたがとりあえず気にしないことにした
「ようやくお出ましですね」
俺たちがブリッジに入ると数瞬の後、モニター越しに俺を呼び出した人物から声がかけられた
「待たせて悪かったとは思うけれど、こういったことは事前にアポイントメントを取って行うのが礼儀じゃないか?」
彼の背後に移っているのはどこかの民家だろうか?見た限りでは地球・・・それも今俺の住んでいる日本と同様の建築文化系統に属する建築物である事は間違いないだろう
「ハハハ・・・確かにそうだね。それについては君の言うとおりだけどこっちにも事情があってね」
俺の問いかけにフェルは苦笑い気味に応えるがそれを見て何故か俺は
『何かおかしい・・・』と直感的に感じる
けれどその不信感が何からくるのかその正体が断定できない
だからこういった場合の俺の選択肢は
「そう思ってるのならもちろんその
こうして話を続け、相手から可能な限り・・・いや、俺の有利になるように相手の言動、思考を誘導していくことで無意識のうちに俺の望む情報を吐き出させる
「それは勿論そのつもりさ。だから――――――――」
――――――――――僕と決闘してくれないかい?――――――――――
フェルは先ほどの苦笑いとは対称的な自信満々な表情でそう言った
まぁ、可能性のひとつとしては予想していた
フェルにとっては俺は間違いなく彼の属する闇の書の主の立ち位置から見て邪魔な存在だ
けれど、同時に不可解だと感じ、最初に感じた不信感が増大した
その最たる理由は
『何故今になって?』
というものだった
今朝の戦闘でフェルは確か後僅かで闇の書が完成するといっていた
そしてまんまと逃げ
少なくともコイツのあの口ぶりからして残り数頁ほどで完成していたはずだ
いや、もしかしたら完成しているかもしれない
だが、それならこれまでの闇の書事件・・・というよりクロノとリンディ提督から聞いた前回の闇の書事件のことと俺とユーノがそれぞれ調べた内容を統合した限りでは完成と同時に暴走を始めるはずだ
そしてそうなれば小規模でも次元震・・・またはここからでも認識できるほどの強大なロストロギアの反応が異世界であっても観測できるだろう
けれど今現時点にいたるまでそんな反応は
これが何を意味するかなんて考えるまでもない
まだ闇の書は完成していないんだ。
暴走した上位
俺の知る結界の術式、技術のどれをとってもただの発動ならまだしも暴走状態のそれのエネルギーを漏らさないなんてまねは不可能だ
だから同時に確信のある結論に到ることが出来た
「お前がストーカー気質の猫か?」
俺がそう漏らした瞬間周囲で息を飲むような声が聞こえたがモニターに移るフェルには一切同様が見られない。反論すらしない
普通ならその時点でその結論が間違いだったのでは?と思うだろう・・・けれど俺の確信は揺るがない。もう俺が何よりも信頼できる方法で
だから続ける
「お前からは何も感じない。画面越しであることを抜きにしても俺と同等の存在としての雰囲気が
俺が誰かと通信で話すとき、どんな時であろうとアルケミーは俺にとって有利な情報を揃えてくれる。何も意外なことはない
そして俺はその情報を集めやすいように相手を刺激することで俺に意識を向けさせる。
人間は人と話すとき、必ずその相手に対して多少なりとも意識が傾く、そうでない場合は回りにあるもの、少し前の出来事などのエピソードの回想などに意識が向いている場合がほとんどである。
けれど、普通に考えて見えない何かに
それも現存するハッカーの誰よりも凶悪な電脳世界の化け物・・・それが神が自ら造り、転生者に態々渡してくれる
しかし、誰がそんな情報を誰かに流すと思う?・・・流すわけがないじゃないか
だからそんな者がいることを俺と家族以外は知りえず、クロノたちにも片鱗程度しか晒されていない
・・・何よりもマスターである俺自身がアルケミーの限界を知らない
これまでもこうしてアルケミーは俺の期待に応えてくれ、俺はこの最高の相棒に釣り合えるように己の身を磨いてきた。限界を知らない。どこまで鍛えればいいのか果ての見えない目標・・・それが記憶を失って、実験台となった子供を助けられず諦める事が頭に
そんな存在であるアルケミーが出した診断結果
『これはフェルグラントからの通信ではなく、守護騎士からの通信でもない第三者からの通信である。』
ということが断定された。その時点で俺の目には目の前のモニターに移る人物から情報を引き出す必要性を失った
「何を言ってるかわからないなぁ~」
「・・・偽者とわかった上でその声と表情で話しかけられるのって思ってた以上に不快な事だったんだな。良いことが知れた、礼を言うよ・・・だから」
この期に及んでとぼける偽フェルに対して俺は感想を述べた『礼を言うよ』という皮肉を告げるとともにアルケミーによりモニターがザザザッっという砂嵐のような乱れとともに切り替わる
そこに映っていたのは
「・・・仮面の二人組みの男?・・いや、変身魔法だな」
「「っ!?」」
―――――――プツッ
モニター越しに移る二人は驚きに肩を震わせると同時に通信を切った
それを見て俺は
「いきなり呼び出したと思えば一方的に通信を切るってよっぽど礼儀を知らないんだな・・・」
とつぶやきを漏らす
「・・・僕には君がそうするように仕向けたように見えたけど?違ったのかい?」
「仕向けたといえば仕向けたけれどあれは基本的に俺の趣味だ。ユーノ」
俺の返事を聴いてユーノは「意地の悪い趣味だね」と小さく漏らすとそのまま言及するのをやめた
「それにしてもなぜ気付けたのかしら?」
リンディ提督が当然の疑問を投げかける
「・・・俺もあいつ等と同じく・・・いや、それ以上に嘘吐きだからな。最初に話した瞬間から同類の匂いっていうこれまでなかった違和感を感じたからとしかいえないな・・・・それに」
そこで俺は言葉を区切る
「「「「「それに?」」」」」
「本物のご到着みたいだ」
そう言った瞬間俺たちのいる目の前に傷だらけのバリアジャケットを着た守護騎士三人を抱えるようにフェルグラントと見覚えのない金髪ショートヘアの女性が現れた・・・それも、どこか今までと違う思いつめたような表情で・・
それに気がついた俺、高町さん、フェイト以外のメンバー・・・クロノ、ユーノ、リンディ提督、レグナー、プレシアの5人はデバイスと攻撃術式を展開して戦闘態勢を整える
それを見てフェルグラントは
「武器を下げてくれないかな?僕は君たちともう矛を交えるつもりはない」
そう言って両腕に抱えた守護騎士を慎重に降ろすと両手を上げて降参の姿勢を見せると膝を着いて
「お願いします!!」
そのまま両手を突いて俺たちに向かって頭を下げた
あまりの突飛な行動にここまで静止して彼の動きに注意を払いつつ武器を構えていた面々も武器を構えた姿勢のまま完全に硬直し、レグナーたちの展開していた術式もその姿を消した
「な、なにを・・「僕に力を貸してください!!もう貴方達に頼る以外に方法がないんです!!お願いです!!」」
リンディ提督が言葉を発しようとしたがフェルは額を擦り付けたまま懇願を続けた
そして俺は気付いた
彼の頭のある位置に小さな水溜りが出来ているのを・・・
その正体は今の状態でなら考えるまでもない。俺たちと親しくもない彼がこれほどまでにプライドも何もかもを捨て去って惨めになる事を恐れずにこんな行動に出る理由を俺は知らない。
けれど、彼から感じる悔しさの感情だけは俺が過去に味わった事のあるものと同じものであると断定できる
『大切な誰かを助けたいのに自分の力不足で助けることの出来ない悔しさ』・・・フェルグラントにも前世の俺にとっての貴久と同じく大切な誰かを自分の手で助けられない・・・今フェルグラントの心中を覆っているのはそう言った感情であることがまだ言われてもいないのに不思議とわかる
こうして頭を下げているフェルグラントの姿が・・・どうしようもなくダブるから・・・前世で何度も貴久を治してくれと涙ながら懇願したこと・・・・転生してから自分に関係ないはずの違法研究所の子供たちを助けるために力をつけるためにユエラたちに頭を下げたこと・・・だからなのかもしれない。フェルグラントがこの後に言った一言を聞いて迷う事も、コイツと会ってこれまでに起こった確執も総て無視したこの一言を出したのは・・・
「僕の大切な家族をっ――――――――――はやてを助けたいんです!!お願いしますッ!!僕に力を貸してください!!」
「いいよ・・・手を貸してやる」
周りは「何故?」という表情をしているか「やっぱりそうなるか・・」と呆れた表情をしているかの二パターンに分かれる反応を示したが不思議と不満の声は挙がらない
俺はこの発言を生涯後悔しないだろう・・・何故ならこれは俺のこれまでの悔しさの決別を果たすための行動であり―――――――――
今日はなんて日だろうか・・・同類だけでなく、同志にも出会えた。
―――――――――俺がこれまで積み上げてきたものを無意味にしないために必要な事だから
―――だから
「(もう目の前で誰かを失う痛みを味わう人間を見るのはたくさんだッ!!俺に関わりのない人間?上等だ!!これだけ誰かに思われている人間を死なせるもんか!!)」
―――――さぁ、人助けを始めよう。もう二度と後悔しないために―――――