血界戦線――三分間前奏曲――   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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三分間前奏曲Ⅱ

「ふわぁ……だりぃ」

 

「眠そうっすね、ルーさん。あれの後に呑気に欠伸できるってやっぱ頭おかしいんだろうけどなんか麻痺して一週普通に見えるっす。」

 

「お前遠まわしに失礼なこと言ってない? ねぇ、少年君?」

 

 秘密結社ライブラ、その拠点室。

 レオと共に面倒な手順を超えてオフィスへ入る。少し前に人間違いで入ってきた訳あり(・・・)の新人だったが、今ではこのライブラに随分と慣れていた。

 こいつもこいつでいいキャラしてるし。

 扉を開けば、正面に机がありそこに全身に包帯を巻いた老執事――ギルベルト・F・アルトシュタイン がテレビを眺めていた。

 。

 

「おや、ルー様。ご無事でなによりです」

 

「それは勿論……って情報速いっすね」

 

「今しがたテレビに映っていたので。派手にやられたようですね」

 

 クギルベルトさんが見ていたテレビへと視線を向ければつい先ほど大破させたロボの残骸や俺の店が映っている。ポリスーツやらが作業しているが、あの派手な大剣が消えている。パトリックが既に回収したのだろう。

 

「いや俺はワンパン食らわしただけっすよ。派手にだったのはあの馬ロボの方。あ、珈琲お願いします」

 

「かしこまりました……そういえば、チェインさんは? 一緒に来られたかと思ったんですが」

 

「あぁ、それなら……」

 

「あーれー? ついに別れたんですか!? 雌犬と音楽キチが別れたってことでいいんですか!? ぎゃーはっはなにそれ超受けるんですけど!」

 

「黙れ塵屑猿がぶっ殺すぞてか今すぐ死ね」

 

「待って! 超待って! 落ち着いてルーさん! ザップさんが人間の屑なんて今更だけど、ここは堪えて! 一々構ってたらルーさん大変じゃん!」

 

「待てやレオその言い方はおかしいだろ」

 

 塵屑のような人間の屑であるが確かザップとかそんな名前だった気がする。死ねばいいのに。クラウスにいつも喧嘩売っているし、マジ死んでくれねぇかなこいつ。銀色褐色のイケメンと見てくれは悪くないけれど本当に死んで欲しい。ちょくちょく戦闘中に背後から隙を狙ってるが、無駄に強いことは間違いないので現在失敗続きなわけだが。

 

「やれやれ……すぐにそういうことを言う。全くもって度し難い人間の屑ですね」

 

「な! そう思うよな! そうだろツェッド君! 今度一緒に殺そうぜ! んでもってそのヘッドホン俺にくれない!?」

 

「前者は手伝ってもいいですけど後者は無理です。というかこれヘッドホンではないです」

 

 だとしてもこの半漁人――ツェッドのエアギルス(逆エアポンプ)は超レアもののヘッドホンにマジ同じ作りなのだ。オーディオマニアとしては全くもって見過ごせない。こいつが陸上で生活するには必要不可欠だから強奪はできないが、ただの趣味だったら確実に奪っていた。

 

「んだよ、てめぇら! いつも俺に喧嘩売りやがって! あぁ!? なんか俺に文句あるのかぁ!?」

 

「人として性格に問題があると思います」

 

「存在が塵屑過ぎてどうしようもねぇ」

 

「ははは――それでチェインさんは?」

 

 これを笑って流せるのだからギルベルトさんも懐が広い。

 そして、問題のチェインだけど、

 

「よし俺は怒っていい――ぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 言葉と共に――ザップの顔面が床に強烈なキスをした――というわけではなく。

 突然窓から入ってきた誰かがザップの左頭部に着地したのでそのまま激突したのだ。

 その誰か。

 ダークスーツの豊満バストの女。

 誰かなんて言うまでもない。

 

「よ、さっきぶり。」

 

「やっ、ルー、さっきぶり。これ買ってきた奴です、ギルベルトさん」

 

「おお、ありがとうございます」

 

「ちょっと待てやあああああああああああああああああああああああああ」

 

 窓から飛び込んだチェインは花瓶を手にしていた。

 ついさっき一緒に買いに行った奴だ。といっても、俺はチェインが選ぶのを見ていただけだけど。

 ギルベルトさんがチェインが手渡した花瓶を観察し、

 

「お! 流石ですなナイスチョイス。雑貨はチェインさんにお任せするに限る」

 

「待てやあああああああああああああおかしいだろうがああああああああああああああああああああ!!」

 

「でも私花生けるのてんで駄目だからなー」

 

 花生けるもなにも、チェインは家事何一つできないだろう。同居人である俺がやっていないとあっという間に見るも恐ろしい汚部屋を発生させるのだから。

 

「ダカラナー、じゃ、ねぇよ!」

 

 屑野郎が起き上がった。

 

「テメェ犬女人の顔でサーフィンUSAとはいい発想してんじゃねぇか。態々このために音楽キチと別で入って来たんかよおめぇのその爆乳ロッキー(練習風景)してやってもいいだんぞコラ……!」

 

「――」

 

「……あ?」

 

「うわ……見下げ果てたセクハラですね……引くわー」

 

「ザップさん……そりゃないですわ……」

 

「あぁ!? なんだよお前らマジで引くんじゃねぇよ――どわぁ!?」

 

「死ねよ今すぐ死ねよ死なないなら俺が殺してやるわ」

 

 叩き込んだ拳は間一髪の所で躱された。惜しかった。当たれば左頬を完全に陥没させられれたはずだったのに。

 

「上等だおら! 表出ろぉ!」

 

 互いの胸ぐらを掴みあって額と額を激突させる。

 

「はっ! いいのかぁ!? クラウスにぼこぼこにされる程度の腕で俺に喧嘩売ってよぅ!」

 

「やかましいわ! 斗流血法舐めんなバラバラにしてやるよ!」

 

「ちょっとそこの人類(ヒューマー)屑代表の人。自分が斗流血法の代表みたいな言い方するのやめてくれませんか?」

 

「使えるの俺とお前と爺しかいないですから! カグツチに関しちゃ間違いなく俺が代表だろうが! てか一々屑屑連呼するなお前ら律儀か! とりあえずここで喧嘩して旦那の鉢植え壊したら怖いから早く外に行くぞ!」

 

「うわちっせ……よえぇ……ほんと雑魚だわこいつ……」

 

「そこでそういうこと気にするあたり懐の小ささが現れますね」

 

「マジ引きするんじゃねぇよ!」

 

 特に止める人間もいない。いつも大体がいい所で邪魔が入るから今日こそは――と、思った所でスマホの着信音が響いた。

 

「あ、はい。……次長? ……はい……はい、はい。……今からですか? ……解りました。行きます。では」

 

「人狼局か?」

 

「うん、召集かかった」

 

「送ってくわ。ギルベルトさん、バイク借りるぜ。シルバーシットはそこら辺で野糞でもしとけ」

 

「てめぇ息を吸うように俺を罵倒すんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「BBウィルス弾頭ぉ……?」

 

 人狼局からライブラのオフィスに戻ってきたチェインが口にしたのはそんなよく解らない言葉だった。既にザップはツェッドと一緒に出ているので、会話はスムーズに行われる。

 

「BB……ブラッド・ブリードか?」

 

 血界の眷属(ブラッド・ブリード)

 それは人類にとって、そして俺たちのような牙狩りにとってはまさしく宿敵だ。所謂吸血鬼。最近の研究でDNAに直接術式を書きこまれたとかいう冗談みたいな存在であることが判明したわけだが、連中が人類と理解し合えない存在であることには変わらない。実際、ライブラの多くはヘルサレムズ・ロッドに訪れる前はBBを狩る専門家だった者が多く所属している。 

 俺もその一人。

 隣にいる少年君は一般人なわけだけど。

 

「憶測でものを言うなって次長は言ってたわね。可能性は否定できない、とも。元々人為的に人間を転化させてブラッドブリード兵士作ろうなんてしてた国だから」

 

「……頭おかしいんじゃないっすかね」

 

「同感だ、全くもって冗談じゃない」

 

 抑え込まなければものに八つ当たりしたいくらいだ。

 別に倫理が云々について語るつもりはないが、しかしそれは人としてやってはいけないことだ。

 人間として。

 人間であろうとするならばそんなことを望むべきではない。

 

「と、いうわけで。今からステルス超音速機でヘルサレムズ・ロッド出発して五時間後にはそのミサイルある基地に侵入することになったわけよ」

 

「はー……大変っすね。でもどーやって侵入するんすか?」

 

「超々高度からパラシュートなしで落下」

 

「それ侵入っていうんすか!?」

 

「チェインだから……っていうか『不可視の人狼』だからこその行いだよなー。そもそも地面もすり抜けられるんだから高度なんか関係ない」

 

「そういうこと」

 

「何時出るんだ?」

 

「今すぐに」

 

「送ってくか?」

 

「ううん、今度はいいよ。仲間と合流しなきゃいけないし」

 

「そっか、じゃあ行ってらっしゃい」

 

「ん、行ってきます」

 

 軽く頷いて、そのままチェインは窓の外へ飛び出していった。

 その姿が見えなくなるまで――音が聞こえなくなるまで見送っていたら、

 

「なんつーか」

 

 隣のレオが呆けたように言う。

 

「なんだね少年君」

 

「ルーさんとチェインさんって付き合ってるんですよね? 恋人なんすよね」

 

「そうだな。かれこれ三年かな? 大崩落のちょい後ぐらいにまぁそういう関係になったわけだけど」

 

 大崩落が起きて、ヘルサレムズ・ロッドが出来上がって、それから混沌の中で今に至るまでに色々な組織やら機関が出来上がっていく中、まだ糞銀猿もレオもツェッドもいなくてハマーの身体にデルドロが移植されるよりも前のこと。

 ルードヴィヒ・マグダレナはチェイン・皇と出会ったのだ。

 

「それがどうかしたか?」

 

「いやー、いつも思うんすけど、なんか二人ってドライすよね」

 

「はぁ?」

 

「だって、チェインさん仮にもこれから危険なとこに行くわけじゃないっすか。なのに、行ってらっしゃい、行ってきますだけとか。もっとこう、熱いハグとかチッスとか会ってもいいんじゃないかって思うすよ。新聞記者見習い的に」

 

「俺とツェインの熱いハグとかチッスを新聞記者のお前はどうするんだ、あぁ? てかお前ホワイトの嬢ちゃんいるからって自分が恋愛強者だと思ったら大間違いだぞ……!」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い! すいません、茶化してすいませんした!  だからアイアンクロー止めてください! 義眼割れちゃう!」

 

「命拾いしたな貴様ァ!」

 

「ありがとう! 義眼ありがとう!」

 

 まぁ、コントはこれくらいにして、

 

「いいんだよ、俺とチェインはこれで。別に常にいちゃこらしてないといけないわけじゃないだろ? 俺らには俺らには適正距離があるの。ずっとそうしてきたんだから、これからも変わらない」

 

「はー、てか僕二人の馴れ初め聞いたことないんですけど」

 

「そうだったけ? まー……長い話になるんだよな。色々あったし、世界救っちゃったし」

 

「さらりと出ますねー」

 

「ヘルサレムズ・ロッドだからなぁ」

 

 毎日誰かがなんやかんやで世界を救っているのがこの街の一番笑える所だ。俺とチェインの話もそれの一つに過ぎないし、少年とホワイトのお嬢ちゃんだって同じだ。

 

「ま、その話はまたしてやるよ。さて今からどーっすかね。クラウスとスティーブンはいないし、KKはママやってるし、ハマーには簡単には会えないし、糞猿はツェッドに押し付けたしな。……暇だ」

 

「店に戻ります? 僕はホワイトと約束がありますけど」

 

「いいねぇ、少年。俺のことなんて気にするなよ。命短し恋せよ乙女っていうけど、少年だって恋して青春駆け抜けりゃいい。好きになった相手がいれば好きにすればいいさ。俺はそーしたからな。他人なんか知ったこっちゃねぇ精神でいいだろ」

 

「それ大人としてどーなんですか」

 

「はーい! ルードヴィヒくんにじゅうななさいじです!」

 

「威張るなおっさん」

 

「アラサーにその言葉は禁句だぞ……!」

 

 仕方ないのでとりあえずヘッドホンをゼオドラに売りつけに行こう。




恐らくあと二話で終わる予定。

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