海を渡りし者たち   作:たくみん2(ia・kazu)

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どうも、はりゅーと申す者です。
ご存じない人しかいないと思いますが少しだけ小説を投稿させてもらっています。
表現力がないですがそれはまぁ…他の人が埋めてくれると思いますので(汗
それではどうぞ




はりゅー


第五話 ~欺きし者~

___人類が対抗する術は…

 

「敵影多数!本海域を囲む形で出現!」

CIC内にこれとなく情報が飛び交う。

「駆逐艦と巡洋艦クラス、合わせて100以上!空母クラス50余、戦艦クラス22!」

もちろんじっとしているわけにいくまい。

「味方艦への被害は!?サルベージ作業の進歩の報告急げ!」

「サルベージ作業全艦終了の模様!しかし比叡の艤装を乗せた輸送船の一部が立ち往生!」

「米、アーレイ・バーク級2隻小破!対空護衛艦あきづき、てるづき被弾!」

既に被害が出ていたか、まずい。在日米軍の艦にも被害が出ている。

「あたご、SPY-1レーダー全面に被弾!イージスシステム起動しない模様!」

最悪だ、まさかイージスシステムが使えなくなった艦があるとは…

「艦長に報告しろ!各部武装チェックしておけ!」

 

艦内が騒然とする中、艦長からの命令が下る。

「損害を受けた艦は撤退を開始、我が艦は輸送艦を護衛するとのこと!」

艦の方針は決まった。艦の速度が上がる。

「目標に接近!輸送艦は離脱までおよそ8分!」

8分、いつもならすごく短いかもしれない。だが、こういう時は長く感じるものだ。

「目標視認!敵艦載機多数!」

もうここまで接近されただと…なんという機動性。

「CIWS、AAWオート! 目標、敵艦載機!主砲、撃ち方はじめ!」

自分の胸の鼓動が早くなるのが分かった。生き残るなんて考えない、その場で本気を出し、その結果が吉なのか、はたまた凶なのか。ただそれだけだ___

 

「ッ!ハァ!ハァ!ハァ、ハァ、ハァ…ハァ…」

夢…か。

俺はベッドから体を起こし横に置いてある時計を見る。

「午前4時半…少々早く起きちまったかな」

寝床から起ち上りカーテンを開ける、日の出だ。俺は寝間着からいつもの着慣れた服に着替える。歯を磨き顔も洗う。いつもの日常なのだが…

「もう何年たったか…あの戦いから」

昨日、いや今日見た夢を思い返す。まだ艦娘のいない時に命を懸けて戦っていた。それも有効とは言い難い通常兵器で、小さい目標と。当たればたまに吹っ飛ぶが、当たらない。簡単に迎撃される。百発撃って精々1割、もしくはそれ以下。しかも完全に倒せるとは決まっていない。

そうとわかっていても戦わなければならなかった。艦娘が生まれるまでは。

 

部屋から窓の外を望む。少し水平線から離れた太陽は赤かった。そして水面を波打つ者達がこちらに向かってくる。それは距離が遠くてはっきりとは視認できなかった。

「夜間演習、お疲れ様」

もちろん誰にも聞こえるわけがないのだが。

 

俺は自分の部屋を出て外へ出る階段を下った。扉を開けるとなんとも言い難い心地よい風が全身を通り抜け何処かへ消えてゆく。速くもなく遅くもなく歩を進め海へと近づく。

 

「おーい」

近づく艦娘達一行に手を振りながら己の場所を表す。

一行はこちらに気づいたらしく、話ができるまでの距離に近づいてくる。

旗艦扶桑以下6名の我が艦隊だ。

「お疲れ様!司令官!」

やけに元気がいい彼女は特型駆逐艦4番艦深雪、いつも元気一杯なのはいいがよく空回りしている。

「こっちみんなクソ提督!」

視線を向けるだけでそういうのは駆逐艦 曙、被弾したのか多少ペイント弾が付着している。口ではああいうものの本心では俺の事を嫌ってはないと他の艦娘から聞いている。

「こんなにコキ使いやがって…クソが!」

まさかの起きて1時間もしないうちにクソと面向かって2回も言われた。まあそんな豆腐メンタルではないので気にはしないのだが。

「すいません提督、今回は不調だったようで…」

少々口が悪いのは愛宕型3番艦重巡洋艦 摩耶 頭を下げた方は愛宕型4番艦重巡洋艦 鳥海

姉の摩耶はかなり被弾したらしく体中をペイントが覆っていた。

妹の鳥海は姉の非礼を詫びている。

なんだか少々滑稽に思ったが笑ってしまっては摩耶の機嫌を取り返しがつかなくなってしまう。

「つ、次は全員が危険に晒されないような作戦考えるからさ…」

精一杯の慰めの言葉で摩耶を咎める。

 

「提督、もう起きていらしたのですか」

透き通るような声に呼ばれてそちらに目を向ける。我が艦隊旗艦の航空戦艦、扶桑 そして同型艦の山城である。

「ああ、お前らが初の夜間演習って時に寝坊してられないからな。ちょっとばかし早く起きちまったよ」

それもそう、夜間演習は今回が初めてなのだ。だから4時半くらいには起きられればと寝たのだが、それがあだとなったのかあんな昔の悪夢を見てしまった。だがあれでもまだマシな方だ。あの悪夢にはまだ続きがある。

「あの…提督、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが…」

山城に言われてハッとする。顔に出てしまっていたか。

「いや、何でもない。お前達が心配でな、肩の荷が下りたのかほっとしてしまって少し油断してしまったよ」

咄嗟に考えた台詞で誤魔化す。

「提督は心配しすぎですよ、もうちょっと信じてください」

「はは、大丈夫。信じてるって」

本当のことでもあるのだが、自分の過去を悟られないようにするためでもある。

と言うのも俺の過去を知っている者はこの鎮守府にはいない___

 

自分の乗った艦は唯一深海棲艦と戦えたイージス艦であり、今は呉の港で人目に付くことなく秘密裏に保管されているらしい。

名も無き艦で形式番号だけが与えられていた。いや、番号と言えるのだろうか。

「DDG-X」

番号さえ不思議な艦、装備も特殊なものが多かった。

あたご型護衛艦の発展と思われるが細部がまるで違う。

そんな船で砲雷長をやっていたのだ。上層部からも秘匿しろと厳命される。そのために俺は皆を欺く。年齢を初めとし、過去に関することはすべて嘘を吐く状態だ。

日常生活の中では困らないのが救いだが、やはり心に重いものが引っかかる。

 

と、そんなこと、今はどうでもいい。今はこの娘達を休ませるべきだ。

「とりあえず、扶桑が報告してくれれば後は全部俺が報告書まとめておくからお前達はドッグに行ってきな。今日は休め」

皆、それぞれの反応をすると艤装を外しに鎮守府へ戻って行った。

それを見送りしばらく海を眺めて、考えに耽った。

 

「どうすれば心の重荷から解放されるのか」と…

 

水平線から離れた太陽はかなり昇っていた___

 

 

時間が経ち、起床の時間になった。鎮守府が騒がしくなってくる。

「姉さま、そろそろ朝食の時間ですね」

提督に報告を済ませて部屋に戻り読書をしていると山城が話しかけてくる。

「そうね、山城。行きましょう」

私は本にしおりを挟むと山城とともに食堂へ向かう。

 

食堂へ着くと数人の提督とその指揮下の艦娘達がすでに食事を堪能しているところだった。

御盆に乗った食べ物を受け取るとどことなく静かな端の方に二人で腰を下ろした。

「今日の朝食は鯖の煮つけに人参と大根のスープですか…」

山城は少しがっかりしたような感じで呟く。山城が人参嫌いだということは姉妹だけの秘密。

「ほら山城、ちゃんと苦手な物でも食べないと」

姉として妹の好き嫌いは直してもらいたい。

「わかっています。姉さま」

朝食を食べながら今日の朝の事を思い返す。

 

___提督は何か隠し事をしている。私はそう思えてやまない。

ずっと心の何処かに違和感としか言いようのない何かがある。

羽隆提督は着任した時から心の底を見せてくれなかった。私たちを人として、一人一人女の子として見守ってくれている、それは本心なのだろう。でも、すべてを正直に見せてくれない。

羽隆提督は信頼できる人物だしあちらも信頼してくれていると勝手ながら思っている、でもあの人の行動は時々違和感を覚えずにいられない。今日の朝も違和感を覚えた。艦隊のみんなは私以外気づいてないようだけど___

 

「今日は予定もないし聞き出してみましょうか…」

誰にも聞こえないように囁いたつもりだったのだが

「?何か仰いましたか?」

どうやら隠しきれていなかったらしい。

残っていたスープを飲み干し、食器をまとめる。

「何でもないわ、じゃあ先に部屋に戻っているわよ」

山城に言葉を残すと席を立った。

返却口に御盆と食器をカウンターに返す。

食堂の扉を開け廊下に出ると窓からこれでもかと言うくらいの青空が見えた。

 

空はこんなに青いのに、どうして心が曇っているのだろうか。

 

なんて詩を考え、ちょっとばかり恥ずかしくなって小走りで部屋に戻った___

 

___夕方、水平線は紅く染まり鎮守府もまた少し静かになってくるであろう頃。

俺は今日の書類仕事を終わらせ、暇になっていた。

音楽再生プレイヤーを机の引き出しから取り出しイヤホンを両耳に付ける。

「さてと、今日は何聴こうか…」

リストから適当な物を選ぶ。これかな。

(聞こえるか?聞こえるだろう?遥かなる___)

違う、こんな人類全滅ENDの曲を聴く気分ではない。

(盗まれた過去を探し続けて__)

これも違う、最低野郎ホイホイじゃないか。むせる。

となると歌詞がない方がいいだろうか。

ジャンルを変えて曲を探すがこれと言ったものが見つからない。

すると最後の方に一つだけ見慣れない曲名があった。

「みらい」

それとなく聴く曲もないので再生を開始する。

人からよく聞いている曲がおっさん臭いなどと言われるが気にはしない、音楽に集中していると気がつけばまぶたが閉じている。

どうやら夢の世界へ行ってしまうのだろう___

 

 

___CICに悲痛な叫びが飛び交う。

「艦橋に敵機残骸衝突!連絡付きません!」

「艦首付近に至近弾!バウ・ソナー改破損!機能停止!」

状況は悪化する一方だ。

「救急班と艦橋補充員を送れ!どうせ潜水艦はいない、浸水していた場合のみダメージコントロール!」

一息つく暇もない。艦長以下数名が不足しているとなると尚更だ。

 

「報告!重傷者一名!艦長、副長、航海長軽傷!しかし安静が必要だと!」

死人が出なかっただけ不幸中の幸いか。

マイクを取り艦内放送を流す。

「総員に次ぐ!艦長以下数名が負傷したため指揮権は私に委譲された!だが各員はそのまま支障なくできると私は信じている。頼んだぞ!」

 

艦内放送を終えると砲雷科の一人が訊ねてくる。

「砲雷長、このままでは…」

「そんなことわかっている。各兵装残弾数報告しろ!」

「は!主砲残弾数79!CIWS.フルオートで1分!シースパロー残弾0!トマホーク残弾2!対艦無反動誘導弾残り16!前部VLSアスロック対潜ミサイル30!」

対艦無反動誘導弾とはこの艦にのみ搭載された兵器であり深海棲艦に対して一番有効だった。

再びマイクを取り艦内放送を流す。

「どうせこのままじゃやられる。陸には陸自の90式やら74式、米国のM1A1エイブラムスも少数ながら配備されているらしい。だったらこのまま全速力で揚陸し、座礁させる。ダメコン作業員の退避を始めさせろ!各員揚陸後離脱の準備を!」

一部将兵が驚きの顔をしている。

「このまま死にたいか?死にたくないだろ?じゃあ生き残る事を最優先にしろ。戦果なんて二の次だ!」

総員納得してくれたのだろうか、視線を元に戻す。

「最後の戦いだ、出し惜しみはしなくていい!全弾撃ち尽くせ!」

俺の叫びと共にモーター音が強くなっていく。どうせ死んでも悲しんでくれるのは海自の奴らだけだ。だがこの船の乗員はそうではない。

だが、もし生き残れたとしたら。

 

大切だと思える人を作ってみるかな。

 

それは生き残るための俺の決意なのだろうか、自分でもわからない___

 

 

__...いとく…ていとく…提督…提督!

誰かが呼んでいる事がわかった。

「提督…あ、やっと起きられましたか…大丈夫ですか?うなされていたようですけど…」

充電が切れ再生が止まっていたプレイヤーのイヤホンを外すと目を開かせる。

声の主は秘書艦の扶桑だった。

「揚陸とか…座礁とか…一体何の夢を見ていたのですか?」

また悪夢を見てしまった。と言うかこの「みらい」って曲ジパ〇グじゃないか。そりゃあイージス艦やら第二次の軍艦やらと関係している過去を思い返す訳だ。

そういえば以前、友人に貸したとき数曲入れといたと言っていたがまさかこれとは。

あまりにも不幸すぎて恨む気にもなれない。

「はぁ…悪夢を見たんだよ…」

疲れた体を休ませるように椅子からソファーに移動し寝転がる。

「悪夢…ですか」

扶桑は心配そうな顔でまなざしを向ける。

「ああ、今日の朝も同じような夢を見た。思い返したくもないがな」

今度こそ休めるように楽な体制で目を閉じる。

「お休みになられるのですか?夕食は…」

「ああ、明日は新人提督が来るんだろ?じゃ、今日みたいに早起きしなきゃならないが生憎この服の予備が全部洗濯中なんでね。朝食で多めに食えば倒れたりはしないさ」

そう、明日は新しい提督がくる。

しかし、ここから突然眠気が俺を襲う。もう長くは持たない。

「二回も悪夢を見て疲れちまったよ…じゃあ…明日…な」

明日にまるで転校生が来るかのような気持ちを抱き俺の意識は途切れた___

 

もう、提督はいつもマイペースなんだから…

ソファーで寝息を立てる提督に箪笥から毛布を取り出し掛ける。

言いたいことも言いそびれたし…

でも、そんなマイペースな提督だからこそ。不幸戦艦と揶揄された私たちを少しでも信頼してくれるから。

「好きですよ…提督…」

電気を消すと窓から月の光が眩しくなる。

その月は憎たらしいぐらいに真ん丸だった。

 


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