【構成変更のため投稿終了】幼女に転生した俺が獣人に転生した先輩の嫁になるまでの話   作:ハンヴィー

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 テントに向かう途中で、おそらく劇団の団員と思われる人達と、何度かすれ違った。

 挨拶を交わすマルメオさんやサーラさんに倣い、二人の傍らでぺこりとお辞儀をした。

 そういう文化があるかどうかは分らないが、口が利けないのでそうするしかないと考えたからだ。

 

「お、可愛い嬢ちゃんだな。見学かい?」

「マルメオ、お前……ついに、こんな子供に手を出したのか?」

 

 きさくに挨拶を返してくれる人が殆どだったが、そのうちの何人かはマルメオさんに、そんな本気とも冗談ともつかない質問をぶつけてきた。

 そのたびに、マルメオさんは、俺のほうを伺いながら、熱の篭った口調で誤解であることを力説していた。

 まあ、俺にとってのあなたの評価は、もう決定されてしまっているんだけどね。

 感じの良い人達ばかりだったけど、殆どの人が一瞬驚いたような表情になるのは、やっぱり、この格好が目立つせいだろうか。それとも、俺の容姿のせいなのか。

 街中でもそうだったが、ここにいる人達の中にも、東洋人風の風貌の人は一人もいなかった。

 

「……身寄りの無い迷子を拾ってきたから、ここで面倒見ろ……だと?」

 

 二人に連れられて入った一番大きなテントは、舞台公演をする時のものらしく、演劇を行うための舞台と客席に分れたつくりになっていた。

 広々としたそのテントの奥――楽屋部屋みたいなところに、二人の人物がいた。

 縦にも横にも幅のある、熊のような体躯の大男と、それとは対照的な細身で悩ましい身体つきの細身の美女だ。

 ドスの利いた低い声でそうのたまったのは、もちろん前者。目の前で俺を睥睨している身長2メートルはありそうな、髭面の小山のような巨漢だ。

 ドルガンと名乗ったそのマッチョな中年男は、マルメオさん曰く、劇団――幻想楽団の団長だというが、何処からどう見ても、山賊の親分にしか見えない。

 マルメオさんとサーラさんが、聞くも涙語るも涙といった感じで、俺がどれだけ哀れで可哀想かをその人物に力説してくれた。

 それはもう、聞いているこっちが恥ずかしいぐらいに。

 

「記憶をなくしている上に、言葉だって喋れないのよ? こんな子を放って置けないじゃない!」

「サーラの言うとおりですよ、団長。女の子を一人放り出すなんて、いくらなんでも寝覚めが悪いでしょう?」

「……事情は分った」

 

 団長は片手を上げて二人の話を遮ると、俺のほうに目を向けた。

 凄みのある三白眼でギロリとひと睨みされた俺は、雷に打たれたかのように、びくり身を竦ませた。

 

「マヤとか言ったな、嬢ちゃん」

 

 団長はそう言って、身体を折り曲げるようにして俺の顔を覗きこんできた。

 はっきり言って、ちびりそうなぐらい怖い。

 俺は恐怖で緊張しながら、なんとか頷いた。

 

「ここに置いてやるのは構わん。だが、どんな事情があるにせよ、タダ飯食らいを置いておく余裕は無い。お前さんにもしっかりと働いてもらう」

 

 俺はこくこくと何度も頷いた。子供相手にそんな怖い顔で凄まないで欲しい。

 

「ちょっと、お前さん。そんな小さな子を怖がらせてどうするのさ」

 

 咎めるような口調で呟いたのは、俺達のやり取りを黙って眺めていた妙齢の女性だった。

 ゲームに登場する踊り子のような、ヒラヒラした結構きわどい衣装を身に着けている20代半ばぐらいの美女だ。

 衣装がきわどい上に、出るところはしっかり出て引っ込むところはしっかり引っ込んでいる抜群のプロポーションなので、目のやり場に非常に困る。

 

「団長の奥さんよ」

 

 サーラさんが小声で俺に耳打ちした。

 熊みたいな大男には不釣合いの綺麗な女性だ。

 美女と野獣という組み合わせが、若干テンプレっぽい気がしないでもない。

 

「別に怖がらせているわけじゃない」

「お嬢ちゃんは、お前さんの顔面凶器に怯えているよ」

「……顔が怖いのは生まれつきだ」

 

 顔面凶器呼ばわりされ、ちょっと傷ついたのか、団長はふて腐れるように口をへの字に折り曲げた。

 その子供っぽい仕草に、ちょっと和んだ俺は、少しだけ気が楽になった。

 女性は少し屈み込むようにして俺に視線を合わせると、ふっと口許を緩めて微笑みかけてきた。

 

「すまないね、嬢ちゃん。うちの宿六が怖がらせちまってさ」

 

 仕草がいちいち扇情的で、全身からこれでもかというぐらい、女の色気を発散している。

 否が応でも、その豊満な胸に視線が釘付けになってしまう。

 俺はロリコンではあるが、肉感的な女性が嫌いなわけではない。

 

「あたしはサルディーニャっていうんだ。この顔面凶器の女房さね」

 

 おどけるような台詞とは裏腹に、彼女の笑みは、まるで母親のような母性を感じさせる柔らかいものだった。

 そのアンバランスさが、言葉では言い表しづらい魅力を醸し出している。

 それと共に、この劇団の真の支配者が誰であるかも何となく分ってしまった。

 

「大丈夫。何も心配することは無いよ。ここで面倒見てあげるからね」

 

 サルディーニャさんの言葉に、俺は胸を撫で下ろした。

 

「やった! さすが、おかみさん!」

 

 サーラさんが、まるで自分のことのように歓声をあげ、マルメオさんもホッとしたように息を吐いた。

 

「でもね、うちの台所事情が厳しいのは事実なんだ。だから、あんたにもきちんと仕事はやってもらうよ。なに、芸をやれってんじゃない。自分にできる範囲で色々手伝って欲しいんだ。わかるね?」

 

 俺は頷き、マルメオさんから受け取ってそのままだった黒板に「ありがとうございます。よろしくお願いします」と書いて見せた。

 サルディーニャさんは、それを見て「礼儀正しい子だね」と笑みを浮かべた。

 

「まったく、テリオに爪の垢でも飲ませてやりたいくらいじゃないかい、お前さん」

 

 揶揄するようなサルディーニャさんの問いに、ドルガンさんは、無言でフンと鼻を鳴らしただけだった。

 テリオというのは誰か分らないが、おそらく団員の一人なんだろう。

 

「……まあ、いい。今日のところはゆっくり休め。明日から皆と同じように働いてもらう」

 

 俺は神妙な面持ちで頷いた。

 

「サーラ。お前が面倒を見てやれ。いいな?」

「もちろん。任せてよ!」

 

 頼もしい言葉と共に、サーラさんは自分の胸をドンと叩いて見せた。

 なんだか、妙に気合が入っているように思えなくも無い。

 

「さ、行こう。マヤ」

 

 促されて立ち上がった俺は、最後に団長夫妻やマルメオさんに深々と頭を下げると、サーラさんに続いてテントを出た。

 

「とりあえず、みんなに挨拶して回ろっか。大丈夫、緊張すること無いからね?」

 

 緊張を解きほぐすようなサーラさんの笑顔に、俺は素直に頷いた。

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