【構成変更のため投稿終了】幼女に転生した俺が獣人に転生した先輩の嫁になるまでの話   作:ハンヴィー

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「て、手前らああああっ!!」

 

 そんな大絶叫を耳にした俺は、朦朧とする頭を振りながら顔を上げた。

 俺の目に映ったのは、憤怒の形相でこちらに走ってくるテリオの姿だった。

 こんなところで何してんだ、お前。劇団の手伝いはどうしたんだ。

 そんな疑問を抱く間もなく、テリオは赤毛に飛び掛っていった。

 

「な、なんだよ、おま……うがっ!」

 

 戸惑う赤毛の横っ面をグーで殴りつけた後、よろめいたそいつの胸倉を掴んで、地面に押し倒した。

 そのまま馬乗りになって、更に今度は、赤毛の襟元を締め上げている。

 赤毛は涙目。縦ロールお嬢と茶髪は、頭が追いつかないのか、呆然とその光景を眺めているだけだ。

 俺も同様だったが、すぐに我に返った。

 

(ちょ、ちょっと待て! 何してくれてんだ、お前は!)

 

 そんなことしたら、劇団に迷惑がかかるだろう!

 団長の息子のお前がそんなんでどうすんだよ!

 心の中で叫びつつ止めようとするも、軽い脳震盪のせいで、足腰に力が入らない。

 這いずるようにしてテリオの所まで辿り着くと、背後から抱きつくようにして制止しようとする。

 だけど、興奮状態のテリオは、俺をしがみ付かせたまま、赤毛の襟首を掴んでガクガクと揺さぶり続けていた。赤毛はもう、ギャン泣き状態だった。

 少しだけ、ざまぁとか思ってしまったけど、さすがにこれ以上はまずい。

 しかし、非力な俺の力では、頭に血が上っているテリオを止める事が出来ない。

 

「はいはい、そこまでそこまで」

 

 頭上から降ってきたそんな声と共に、誰かの手がテリオの腕を掴んだ。

 大人の手だった。

 顔を上げると、そこには金髪碧眼のハンサム顔があった。

 身に着けているのは、清潔感の漂う白銀色の鎧で、まるで騎士のような出で立ちだった。

 俺と目が合ったその人は、安心させるかのように、口元に笑みを浮かべた。

 どことなく、マルメオさんと同じような、イケメン特有のリア充オーラを感じる。

 

「な、なんだよ! 邪魔すんな!」

 

 テリオはその腕を乱暴に振り払おうとするが、さすがに大人の男の力には叶わない。

 

「落ち着きたまえ、少年。友達が怯えているだろう」

 

 その言葉にはっとしたテリオは、ようやく俺が背中にしがみついていることに気が付いたらしい。

 不安そうにしている俺と目が合うと、ようやく、赤毛の胸倉を掴む手を緩めた。

 その拍子に赤毛は後頭部を地面に打ちつけ、更に悲鳴を上げていたが、無視することにした。

 

「ア、アリアンテ様!」

 

 叫んだのは、テリオの乱入におろおろしていた縦ロールだった。

 それが、このイケメンの名前なんだろう。

 「様」付けで呼んでいることといい、小奇麗な身なりといい、たぶん、身分の高い人みたいだ。

 よくよく見てみると、鎧の左胸のあたりに、クルセーナ教の聖印が刻まれている。

 つまり、教団の関係者ということだ。

 これは、非常にまずい状況かもしれない。

 

「そ、そこの異教徒の仲間が、突然私達に暴力を……!」

 

 危惧したとおり、縦ロールお嬢がここぞとばかりに、こちらを指さして一気に捲し立てた。

 

「なっ! ふ、ふざけんな、てめえ! 先にマーヤに手を出したのはお前らだろうが!」

「はいはい、落ち着いて落ち着いて」

 

 いきり立ってもう一度飛び掛ろうとするテリオを、イケメン騎士がやんわりと制した。

 

「ああ、怖い! 異教徒と付き合いのある連中とは、どうしてかくも暴力的なのでしょう!」

 

 芝居がかった口調で仰け反りながら、縦ロールは騎士に訴えかけた。

 

「こ、この……!」

 

 激高しそうになるテリオに抱きつくようにして必死に抑える。

 腹が立つのはわかるが、ここで暴れたら相手の思う壺だ。

 

「私が見ていた限りでは、先に手を出したのは、君のお友達だったように見えたけど?」

 

 にこやかな笑顔で指摘するアリエンテさんとやらに、縦ロールの顔色がさっと変わった。

 意外なことに、俺を弁護するような言葉を口にしたのだ。

 

「い、いったい、何を……」

 

 途端に縦ロールはしどろもどろになり、視線を泳がせはじめた。

 

「君のお友達が、東方人のその子を引っ張って転ばせたのが先だよね? その前には、その子に何か色々と言っていなかったかい? どうせ口が利けないのだろうとか、言葉が理解できないのだろうとか」

 

 穏やかな笑みを浮かべたまま、次々と縦ロール達の罪状を指摘していく。

 どうやら、近くでずっと見ていたらしい。

 だったら、その時点で止めてくれと少し思ったが、こちらを弁護してくれているようなので、大人しくしていることにした。

 縦ロールは肩を震わせながら、下唇を噛み締めて俯いていた。

 

「そして、その後こっちの子が」

 

 そう言いながら、テリオに顔を向けた。

 

「君のお友達に掴みかかったんだよね」

 

 次に、俺を転ばせ、テリオにボコられた赤毛を見た。

 赤毛は未だに、顔を手で覆ってしゃくりを上げている。

 

「違うかな?」

「そうだ! そいつらが先にマーヤに手を出したんだ!」

 

 弾劾するように叫ぶテリオに、縦ロールは悔しそうに顔を伏せ、置物のように突っ立っていただけの茶髪は、おろおろとしていた。

 

「で、でも! 相手は異教徒です! 髪の黒い人間なんて、悪魔の手先です!」

 

 猛然と顔を上げた縦ロールは、俺のほうを睨みつけながら叫んだ。

 

「教義を遵守するのも大事だけどね。ただそれだけに凝り固まっては、無用な軋轢を生み出すばかりだよ。今は昔とは違うんだ」

 

 非難するわけでも諭すわけでもなく、世間話のような何気ない口調で、アリエンテさんは縦ロール達に言った。

 

「それから、君もちょっとやりすぎ」

 

 今度はテリオにお鉢が回ってきた。

 当然、大人しく聞くような奴ではないので、言い返そうとするが、後ろから引っ張って何とか黙らせた。

 非難がましい目でこちらを睨んでくるが、俺はゆっくりと首を振った。

 俺は庇ってくれたアリエンテさんに頭を下げると、素早く黒板に感謝と謝罪の言葉を書き込んだ。

 

『助けてくれてありがとうございます。お騒がせしました』

 

 アリエンテさんは、少し意外そうな表情になった後、感心したように笑顔で頷いて、どういたしましてと言った。

 なんにせよ、丸く収まりそうで良かった。

 最悪の場合、騒動を起こしたという理由で、街から追い出される可能性だってあったのだ。

 縦ロールのほうに目をやると、こちらも驚いたように目を丸くしていた。

 たぶん、俺が言葉を理解していると思っていなかったんだろうな。

 そいつと目が合ったので、思いっきり舌を出してやった。大概、俺も大人気ない。

 ついでに中指も立ててやろうかと思ったけど、さすがにそれは思いとどまった。

 

「い、行くわよ……!」

 

 憎々しげに俺をひと睨みした後、縦ロールはそう吐き捨てて歩き去って行った。

 赤毛と茶髪が、肩を怒らせる縦ロールお嬢を慌てて追いかけて行った。

 縦ロールと取り巻きが姿を消すと、何事かと遠巻きに見守っていた通行人達も徐々に散り始めた。

 

「やれやれ……」

 

 歩き去る3人の背を眺めつつ、アリエンテさんは肩を竦め苦笑をもらした。

 

「彼女は、ここの大司教猊下の娘さんなんだけどね。少し、教義を盲信するところがあるんだ」

 

 予想通り、教団のお偉いさんの家族だったわけか。

 それで、たまたま目に付いた異教徒の俺を苛めて遊ぼうとしたわけか。

 宗教組織の階級とか良く分らないけど、大司教って結構偉い人だったよな。

 

「だからなんだ! こいつに乱暴していい理由になるか!」

 

 怒りが収まらないのか、テリオはアリエンテさんに食って掛かった。

 俺もお前と同じ気持ちだけど、ちょっとは抑えてくれ。

 せっかく助けてもらったのだから、あまり波風を立てたくない。

 この人は教団の関係者らしいけど、話が分る人みたいだし。

 しかし、どういう立場の人なんだろうか。

 教団のお偉いさんの娘に堂々と意見を言えるところからして、それなりの地位にいる人なんだろう。

 

「うん、その通り。君の意見が正しいよ。済まなかった」

 

 アリエンテさんは、俺達に向かって頭を下げた。

 子供相手でも、誠実に謝罪してみせたことに、俺は驚いた。

 テリオも予想外の反応に毒気を抜かれていた。

 

「自己紹介が遅れたね。私の名はアリエンテ・ロロネーと言う。格好からも分るとおり、クルセーナ教の聖堂騎士さ」

 

 聖堂騎士。なんか仰々しい名前だ。

 教団の保有する私設の軍隊という認識で合っているんだろうか。

 宗教団体が持つ固有の武力と聞くと、どうしても嫌なイメージしか思い浮かばない。

 助けてもらっておいて何だけど、正直、極力係わり合いになりたくない。

 とはいえ、この人自身に思うところはないし、向こうが名乗ったのだから、こちらも名乗るが礼儀だろう。

 

『俺はマーヤ。こっちの騒々しいのはテリオ』

 

 俺は黒板に自分とテリオの名前を書いてみせた。

 本名は「マヤ」だが、テリオが既に俺をマーヤと呼んでいたし、その理由をいちいち説明するのも面倒なので、普段の呼称のほうを名乗った。

 

「マーヤちゃんとテリオくんだね。よろしく。マーヤちゃんは、女の子……だよね?」

 

 マルメオさんと同じところを見咎められた。俺は頷く。

 

「おい! 騒々しいのってどういう意味だ!?」

 

 テリオの奴が噛み付くように割って入って来た。

 自分で証明してるじゃないか。

 

『言葉通りの意味だ』

 

 素早く黒板を書き換えて、鼻先に突きつけてやった。

 口が利けなくなってから、文字を書くスピードが、やけに早くなった気がする。

 

「フフフ……仲が良いんだね」

 

 少し呆気に取られた後、アリエンテさんは愉快そうに笑っていた。

 

「ところで、マーヤちゃん。黒板をぶつけたところは大丈夫かい? 見せてごらん」

 

 アリエンテさんは心配そうに屈み込むと、俺の顎に手を当てて、上を向かせた。

 顎を擦る指の感触がこそばゆい。

 なんかこれって、端から見ると、童話のお姫様が、王子様からキスしてもらうシーンみたいに見えるんじゃないだろうか。

 これが普通の女の子だったら、格好いい騎士様に優しくしてもらって、胸をときめかせるところなのかもしれないけど、俺の場合、生憎と中身は男だ。

 

「おい、マーヤ! お前、まだ仕事残ってんじゃないのか!?」

 

 おっと、そうだった。

 だけどさ、何もそんな怖い声出さなくても良いだろ。

 何かいらついてるみたいだけど、どうしたんだよ、急に。

 

『俺、まだ仕事が残ってるので行きます。助けてくれて有難うございました』

 

 まだ配達の仕事が残っている俺は、アリエンテさんに黒板を示した。

 

「そ、そうだったのか」

 

 テリオの大声に少し驚いたのか、アリエンテさんはちょっと戸惑い気味だった。

 

「でも、本当に大丈夫なのかい?」

 

 俺はしっかりと頷いて立ち上がった。

 憮然としているテリオを引っ張り、一緒に頭を下げた後、行こう、とテリオの手を引いた。

 

「気をつけて帰るんだよ」

 

 その声に振り返って大きく手を振り返し、俺達はその場を後にした。

 

「おい! いい加減、離せよ!」

 

 アリエンテさんが見えなくなったあたりで、テリオが俺の手を振り払った。

 取っ組み合いをした後で興奮していたのか、顔が妙に赤かった。

 

『どうしてここに?』

「サーラ……じゃない、マルメオさんにお前に付いていけって言われたんだよ」

 

 なるほど。あの二人の差し金だったわけか。

 気に掛けてもらえるのは有り難いけど、俺ってそんなに信用無いんだろうか。

 実際、絡まれてしまったわけだが。

 

「勘違いするなよ。別にお前が心配だったわけじゃない。マルメオさんのお願いだから、仕方なく付いてきてやったんだ」

 

 いかにも渋々やらされたんだという感じで、テリオは言い捨てた。

 まあ、一応、こいつにも礼を言っておいたほうが良いのかな。

 結論から言えば、こいつの行動は無駄というか、危うく状況を悪化させるところではあったんだけど。

 

『ありがとう、テリオ』

「なっ……!」

 

 黒板にそう書いて見せてやったところ、面白いようにうろたえてくれた。

 もしかして、照れてるのかな。

 赤い顔でそっぽを向くテリオが、ちょっと面白かった。

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