【構成変更のため投稿終了】幼女に転生した俺が獣人に転生した先輩の嫁になるまでの話   作:ハンヴィー

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「……眠ってしまったか」

 

 肩越しに荷台を振り返り、マルメオは呟いた。

 視線の先には、荷箱のひとつに身体を預け、静かな寝息を立てている少女の姿があった。

 数刻前、野盗に追われていたところを保護した東方人の少女だ。

 東方人とは、ここイルベリア大陸の東端から、海を越えた遥か東の果ての島国に住まう異民族のことだ。

 漆黒の美しい黒髪と黒い瞳が特徴的で、その外見的特徴は、この大陸で非常に目立つ。

 近頃では、大陸を横断する交易路が開拓され、東方の品々もある程度流通するようになってはいたが、玄関口となる大陸東端の港町ならともかく、このあたりのような大陸中西部では、東方人の姿を見掛ける事は殆ど無い。

 そんな物珍しさもあってか、彼らを奇異の目で見る者も少なくない。

 それに加え、大陸全土で信仰されてるクルセーナ教の教義で、黒は神の慈悲を拒絶して悪行に耽る悪魔が好む色とされているため、教会の影響力が強い地域や、敬虔な信徒の中には、東方人を異教徒と呼び忌み嫌う者もいる。

 そんな異邦人の少女が、たった一人で馬車の前に飛び出してきたときは肝を冷やした。

歳の頃は10歳ぐらいだろうか。こんな人気の無い所で、いったい何をしていたのだろうか。

 街と近隣の集落を繋ぐ街道とはいえ、碌な整備がされておらず、街道沿いの森には野盗が出没する。

 それもこれも、この辺り一帯を治める領主が、内政を腹心の部下に任せきりにして酒食に耽っているからだ。

 その部下が有能ならばまだしも、そんな盆暗の腹心という時点で高が知れているわけで、街道の治安はすこぶる悪い。

 厄介な連中に絡まれては堪らないと、一刻でも早く通り抜けるために、かなりの速度を出していたところに、年端も行かない少女が、まるで身投げでもするかのように飛び出してきたのだ。

 寸でのところで何とか避けることが出来たが、下手をすれば蹄に引っ掛けて大怪我をさせてしまうところだった。

 大方、どこかで拐かされてこの近辺に連れて来られ、隙を突いて逃げ出したは良いものの、すぐに発覚して追われていたのだろう。

 だとすると、少女を追っていた連中は、ただの野盗ではなく、人買いの仲間たちだったのかもしれない。

 見れば、少女の身に着けている衣服は、随分と上等なものだ。

 清潔感溢れる袖の長い白のシャツと朱色のスカートを穿き、シャツの上からは、おそらくシルク製と思われる、見事な刺繍の施されたベールのような薄手の上着を羽織っている。

 そのシルク製の薄手の上着だけでも、かなりの値打ちものだ。

 もしかしたら、東方の貴族の娘か何かなのではないだろうか。

 マルメオはそう考えた。

ショックを受けているだろう少女の気を紛らわせるため、マルメオは敢えて陽気に話しかけたが、少女からは一切の反応が無い。

 もしや、言葉が通じないのかと思い始めた頃、少女は吸い込まれるような黒い瞳で、じっとマルメオの顔を見つめ、自分の喉を指さした後、ゆっくりと頭を振った。

 それは、口が利けないという意思表示だった。

 幸いなことに言葉そのものを知らないわけでは無かったようで、渡した黒板と白墨に、自分の名前を書いて見せた。

 マヤ・アキヅキ。それが少女の名前だった。

 マルメオはマヤに、あんな場所に居た理由や、保護者の事をそれとなく尋ねてみた。

 マヤは、気が付いたらさっきの場所に居たこと、両親は一緒ではないことなどを、黒板に書いて見せてくれた。

 黒板に書いた文字を示す彼女の目には光が無く、表情もどこか虚ろで、薄ぼんやりとしていた。

 マルメオには、それ以上詳しく聞くことが出来なかった。

 言葉を話すことが出来ない少女が、見も知らぬ連中に拉致されて、遥か遠方の地から連れて来られたのだ。

 あまり考えたくは無いが、想像するのもおぞましい仕打ちを受けていた可能性もある。

 それを考えると、詳しく尋ねる事は憚られた。

 

「まあ、詳しい話は、一座のテントに着いてからにしようか。それまで休んでいると良い」

 

 どう接してよいのか分らず、そう声を掛けた後、暫くは馬を操ることに専念することにした。

 それが、数刻前の出来事だった。

 

「うわっ、と!」

 

 マヤの寝顔に気を取られていたせいで手元が疎かになっていたのか、馬車の車輪が大きめの石を踏んでしまったようだ。

 その拍子にマヤの身体が軽く跳ね上がり、少女はひっという声にならない悲鳴と共に目を覚ました。

 

「ごめんごめん、起こしちゃったかな。この辺は道が悪くてね」

 

 慌てて弁解じみた事を口にするマルメオに、マヤは大丈夫とでも言いたげに首を振った。

 表情は相変わらず虚ろだが、ほんの僅かに、口許には笑みが浮かんでいた。

 顔に出にくいだけで、感情が乏しいというわけではないようだ。

 

「もう少しで、俺の一座が滞在しているシノダという街に着く。それまで辛抱してくれ」

 

 マヤがこくりと頷くのを確認したマルメオは、若干ほっとしたように笑みを浮かべ、馬に鞭を入れた。

 

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