--初めに--
諸君は並行世界というものをご存知だろうか。世界の根源は同じなのにほんの些細な事象の果てに本来辿る道筋からほんの少し、或いは原型を留めないほどに大きく外れてしまった世界のことである。
例えば、あの時こうしていればとか、こうしなければというIF(もしも)の可能性が生まれたとき並行世界もそれと同じ数だけ存在することになるのだ。
諸君が今目にしようとしているものもその中の一つに過ぎない。
我々の世界よりも遥か未来、気の遠くなるほどの時の果て……かつて友であり仲間であった伝説と謳われた二人の英雄が激突した。それが本来の世界が辿る道だった。
これは、過去より蘇りし不確定要素(イレギュラー)が世界に介入する物語--
--時は近未来--
人々は高い技術水準を確立し、自らに極めて近い思考能力を有したロボット『レプリロイド』を生み出した。今までに例を見なかった人間と近しい思考を持つロボット、その存在に人々は初めは畏怖や困惑を感じていたがいつしかそんな蟠りも消え共存の道を歩んでいた。
--ヒトと機械が共に生きていく、“理想郷(ユートピア)”がそこにはあった。
だが……人間に近い思考を可能にする高度なプログラムによる弊害か、レプリロイドによる犯罪が急増し、後を絶たなかった。そのようなレプリロイド犯罪者、通称イレギュラーを取り締まるため『イレギュラーハンター』という警察機構が、災害等の緊急に対応するため『レプリフォース』という軍隊組織が設立され、人類は平穏を取り戻したかに見えた。
しかし突如、史上最強のレプリロイドとまで謳われたイレギュラーハンター『Σ(シグマ)』が人類に反旗を翻した。これが世に言うシグマの反乱である。シグマに呼応して複数のハンター部隊までもが離反する事態にまで発展したこの戦いは苛烈を極めたが、蒼と紅の英雄の活躍により事態は収束していった。
そこから幾度となくシグマの脅威が襲いかかったがその度に二人の英雄とその仲間たちによって人類は救われたのだ。
やがて紅き英雄は自らの内にある『悪意』を封じるため長い眠りについた。
残された蒼い英雄は仲間たちと共に、眠りについた友の分も戦い続けた。
シグマの反乱を発端とした『イレギュラー戦争』が集結した後も、大規模な戦争は何度も発生した。やがて地球上の生態系は破壊され、地球そのものが深刻な状態に陥り、人々が生活できる場所も限られてきた。
混沌に迷う人々に蒼き英雄は手を差し伸べ、人々が追い求めし理想郷『ネオ・アルカディア』を建造。生ける伝説は救世主と讃えられネオ・アルカディアの頂点に君臨した。
再び人間に安息が訪れた。しかしそれは、イレギュラー処分という名目で罪のないレプリロイドを大量に粛清して得た仮初めの平和だった。この事に反発し、一部ではレジスタンスが結成されネオ・アルカディア軍と激しい戦闘を繰り広げた。だが、戦力の乏しいレジスタンスは次第に追い込まれ壊滅の危機に晒されていた。
この窮地を乗り越えるべくレジスタンスに身を置く科学者の少女シエルは、遥か昔に眠りについたとされる伝説の紅き英雄『ゼロ』を蘇らせようと彼がいるとされる旧世代の研究所跡を訪れる。
ここに彼女の追い求めるモノ以外のものも眠っているとも知らずに…。
“ロックマンZERO イレギュラー”
月が出ていた。夜の帳が降り一面闇色のカーテンを広げた空の中、散りばめられた星々の中心で一際強い燐光を静かに放っていた。
--樹海。人の手が全く入らず無秩序に樹木同士が絡み合い出来上がった天然の迷宮。一度足を踏み入れれば二度と出ては来れないという死の場所。何人をも寄せ付けないその場所にソレはあった。
--忘却の研究所。
誰がそう呼んだのかは定かではないが、推定百年近く前のこの研究施設は、今では遺跡としてネオ・アルカディアの管理下に置かれている。その存在が確認されたとき、人々の間では様々な憶測が飛び交った。
“曰く、旧世代の遺産が眠っている”“曰く、遥か昔の災厄が封印されている”
幾つもの憶測が流れたがその直ぐ後に立ち入り禁止区域と指定され、軍が警備部隊を配置したため中に何があるのがは誰も知らない。
--いや、知らなかったというべきか--
実は数時間前、立ち入り禁止区域と定められたこの遺跡にある一団が足を踏み入れたのだ。彼らはレジスタンスだった。それを察知した警備部隊の指揮官は、何故こんな遺跡に侵入する必要があるのか疑問に思っていた。仮に旧世代の兵器なり技術があるにしても、危険を冒してまでするものだろうか。
--それほどの価値の物が眠っているというのか?
正直こんな場所に戦力を配置した上層部の意図が分からなかった。
貴重な旧世代の遺跡だからか?
それにしては些かにも大袈裟な戦力配置だ。
本当に危険な代物が内部に存在しているのか?
それなら早急にネオ・アルカディアに搬送して厳重に管理しておけばいいのでは?
そこまで考えてから自分が詮索することではないなと、疑念を払い部下に鎮圧部隊を出撃させるよう指示を出した。この時点では考えもしなかっただろう。たった一体のアンノウンに部隊が壊滅させられる事態など…。
「パンテオン第一、第三小隊までのシグナルロスト!!」
「周辺警戒に充てた第五、第六、それと第七小隊も増援に回せ!!」
遺跡から数キロ離れた樹海の中に、警備を命じられた部隊の駐屯基地があった。特殊な電磁波の発生する樹海でも、外部とのラインを維持する目的で遺跡から離れた位置に設営された本施設。その基地の一画にある作戦司令室は騒然としていた。侵入したレジスタンスを殲滅していたところ、突如現れた一体のアンノウンにより番兵型メカニロイド『ゴーレム』が撃破された。予想外の事態に指揮官は増援を送るもオペレーターから上がってくる内容は味方の損害報告ばかりだった。
「ゴ、ゴーレム二番機…シグナルロスト…!?」
「バカな…!? 一番機だけでなく二番機もだと!?」
「三番機もロストしました…!!」
「増援部隊が到着! …!? いえ、反応消えました!!」
「何だ!? 何が起きている!?」
もはや指揮官には何が何だか分からなかった。得体の知れない恐怖に思わず冷や汗が流れる。そうこうしている間も眺めている大型モニターのレーダーから自軍を表すアイコンが一つまた一つと消失していく。
「偵察型パンテオンからの映像信号受信!」
「モニターに映せ!」
大型モニターに映像が映し出される。おそらく偵察型の視点だろう。自身のバスターを構えて周囲を警戒している。左右前面にはノーマル仕様のパンテオンが同じように警戒をしていた。
突如画面が揺れる。右側を向くとパンテオンが仰向けに倒れる瞬間だった。左肩から腹部にかけて袈裟懸けに切り裂かれ、傷口からオイルと疑似血液が入り混じったものが噴き出す。勢いよく噴き出したその陰から紅い旋風が飛び出し、左側のパンテオンを通り過ぎたかと思うと鮮血が舞った。一瞬のうちに二体を屠ったソレは今度は此方に迫ってきた。バスターを照準するも間に合わず懐に入られる。画面に相手の顔が大写しになる。赤を基調としたヘッドパーツ、額に光る逆三角形のクリスタル、端正な顔立ち、そして一際目を引く黄金色の流れる長髪。
「…っ!?」
画面の中のアンノウンの目を見たとき、指揮官は全身に悪寒が走るのを感じた。自身が直接目を合わせたわけでもないのに、スクリーン越しに見ているだけなのに、その深く鋭い漆黒の瞳を目にして指揮官は言いようのない威圧感に気圧されていた。
次の瞬間には淡い緑色の閃光が画面全体を塗り潰し、後にはザーという耳障りなノイズと砂嵐が映るばかりだった。
「……全部隊、シグナル…ロスト……。」
あまりの事態に室内は無音になっていた。モニターを見ていた者は皆唖然として声を発することもなく、オペレーターの報告だけが静寂の室内に響き渡る。しかし指揮官は呆然としたまま何かを思案しているようで彼の耳には届いていなかった。
アレは一体…。レジスタンスか? いや、増援なら外部から来る。しかし現れたのは内部からだった。もしや、アレがここに眠っていたものなのか? だとすればあの戦闘力だ、これだけの戦力が警備部隊として置かれるのも頷ける。しかしあの姿…まさか、伝説の……?
指揮官は先程の映像に映し出された敵の姿を思い出し、ある人物の事が頭に浮かんだ。が、馬鹿げていると直ぐにその考えを否定する。彼が脳裏に描いた人物はネオ・アルカディアの住人なら誰もが知っている、救世主の仲間であり友である昔話でも語り継がれている伝説の存在なのだから。
ふと気がつくと周りの視線が指揮官に集まっていた。どうしていいか分からず、指示を待っているのだろう。指揮官は少しの間思案するとオペレーターに声を掛けた。
「……レジスタンスはどうした?」
「先程転送反応を確認。遺跡内のトランスサーバーを使用したものと思われます。転送先は不明。完全に見失いました……。」
再び沈黙が訪れる。もはや皆判断がつかず指揮官の指示をただ待つばかりだった。
「…上層部に現状を報告。それとガネシャリフに出動要請を打電しろ。」
「…!! “ミュートス・レプリロイド”を投入するのですか!?」
「仕方あるまい。我が部隊は戦力に乏しく、またあのようなアンノウンが出てこないとも限らん。調査も兼ねてガネシャリフを向かわせるのにやり過ぎということはない。」
「……了解です。」
指揮官の命令に従い通信回線を開く。結果からいえば、想定外の事態を視野に入れて要請を出したこの指揮官の判断は正しかった。今宵、紅き英雄が目覚めたのを知る者は少ない。しかし、それとは別のモノが目覚めようとしている事を知る者はもっと少ないだろう。
遺跡内のとある一室。鎮圧部隊が紅き英雄と交戦した場所よりも更に深層。その部屋には様々な機材と二つのカプセルが置かれていた。驚くべきことに、ベッドのように仰向けに置かれたそのカプセルは電源が生きているようで、所々にある端末が青白い光を放ちながら明滅している。同じように光るカプセル上部にパラパラと土埃が降り注ぐ。戦闘の影響か、はたまた長い歳月による老朽化か、注視してみると暗い室内の天井には巨大な亀裂が生じていた。
次の瞬間、天井の一部が音を立てて崩れ落ちてきた。その内の小さな破片が端末に当たり、ひしゃげた部分がスパークを迸らせる。それによるシステムダウンか、ロックを示すレッドのランプがグリーンに変わり、カプセル上部が開いていく。中には何者かが寝そべっていた。
何者かの腕がピクリとし、次いで上半身が起こされた。暫く俯いていたが顔を上げると辺りを見回しだした。
そして…
「……ここは……オレは…一体……。」
静かに呟かれたその問いに答える者は当然ながらその場には存在しない。
謎の人物は一体何者なのか。……タグで分かる人は分かるかも知れないな。とあるセリフをいじったものなので。