ロックマンZERO イレギュラー   作:気分屋

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漸く主人公が判明します。てかもう殆どばれてると思いますが。


3.彼の者の名は

 ガネシャリフの一撃を受けた彼は、水の中に半分浸かった状態で仰向けに倒れていた。暗い、暗い、だだっ広い暗闇の空間の中で。いや、正確に言うと全くの暗闇ではない。遥か上方には針の穴のように小さくなった一点の光がある。恐らくアレが彼の落ちてきた穴だろう、かなり高い所から落ちてきたらしい。そこから流れ込んでくる泥水が彼の少し斜め上でドドドドッと滝のように落ちてきている。細かく分散した雨粒ほどの水滴が彼の顔を濡らすが、それに反応を示す素振りはない。

 

それも当然だ。彼の意識は今そこにはなかったのだから。

 

 彼の視界には、純白の大広間が広がっていた。広間の中心には動力炉だろうか、巨大な機械が鎮座してゴウンゴウンと力強い音を出して稼働し、壁面は洗練されたデザインで作られ、等間隔に設置された装置からは電子的に映し出された幕が垂れ下がっていて、その一つ一つには『Σ』の記号をモチーフにしたマークが見受けられる。

 高度な機械技術が各所に織り込まれた近代的なその大広間はそれでいて、見る者に中世と呼ばれた大昔の時代に存在した『城』を連想させる。

 どこか芸術的な純白の大広間はしかし、彼には正しく見えていなかった。センサー系の異常なのか彼の視界は赤一色の世界を展開し、尚且つノイズ交じりだったり映像がぶれたりと状態が悪い。ふと自身の姿を見ると胸元辺りの装甲が抉られているのに気がついた。激しく迸るスパークが致命傷であることを如実に語っている。

 それを他人事のように呆然と眺めていた彼の集音センサーが、こちらに近づいてくる足音を拾う。足音の主を捜す必要はなかった。相手の方から彼の視界に入ってきたのだから。その人物は大柄だった。身長は2メートル以上あるだろうか。動き易さを追求した割とシンプルなボディアーマーを纏った禿頭の男は、目に狂気を湛え口を一文字に引き結びこちらを見ている。

 

 

『■■■■よ……』

 

 

 名前を呼んだのだろうか、何故か聞き取れない。それには構わず男は彼に問いを投げてきた。『お前は一体どうするつもりだったのだ?』と…。

 

 

『ハッ、ハハハッ…さぁなぁ…今となっては…オレにも…分からん…』

 

 

 それに対しての返答の声、間違いなく自分の声だ。という事はこれはオレの過去なのか? 深手を負っているせいか、その返答は弱弱しく苦しげだ。返答を聞いた男はニヤリと笑うと振り返って来た道を戻っていく。去り際に耳元の通信装置で何処かに連絡を入れていたようだが、別にどうでもよかった。

 

 

『世界がどうなろうと…オレの知ったことではない…。……■■■■を倒し、オレの存在が認められれば良かったのだ…』

 

 

 男は右腕を天井に向けて伸ばす。そこにはただ空虚な天井があるだけだが、何かを掴み取ろうとするように必死に伸ばす。

 

 

『オレの名は…■■■■…。オレは…オ…レ…は…』

 

 

ザザッ…ザザザッ…ブン…!

 

 映像が途切れたかと思うと、次の瞬間には元の暗闇の中だった。

 

 

「今のは…一体…?」

 

 

 奇妙なフラッシュバックに茫然としていると、頭上の光が急に翳りだした。陰りは徐々に大きくなり、やがて光を呑み込み二倍三倍と膨れ上がっていく。

 それが何なのか理解した彼は即座に身体を起こし、その場所から飛び退いた。一瞬後で高速回転する超重量の鉄塊がそこを押し潰した。回転を止めたソレは、各所が変形し見覚えのある姿に変わった。ガネシャリフだ。

 

 

「ふぅ~~、ま~ったく手間を掛けさせるでおじゃるな~。こっちはゼロの情報収集を早く再開したいでおじゃる。とっとと壊れるでおじゃるよ~。」

 

 

ガネシャリフの発した言葉に、正確にはその中の単語の一つに、彼の中で電流が走る。

 

 

「……ゼロ……?」

 

 

「左様。かつて我らが救世主エックス様と共に戦い世界を何度も救った英雄の一人。もっとも、当時の凄まじき戦い方から『古の破壊神』とも呼ばれているでおじゃるが。映像を見てま~さかと思ったけどこんな遺跡に眠ってるとはでおじゃるよ~♪」

 

 

 そこからガネシャリフは上機嫌に自分の知識を披露するが、彼の耳には届いていなかった。

 

 ――ゼロ

 

 ――エックス

 

何度も頭の中で繰り返される二つの名前。その名前は何だ? オレに何の関係がある? 繰り返す度に感じる懐かしく、苦々しく、煮えたぎるような綯い交ぜの感情…それにも勝るとも劣らない嬉しさ、この“歓喜”は何だ? 

 

何か、何か思い出そうだ。

 

 

「――で遂に二人は当時最強のイレギュラーハンターの異名を持つシグマを倒して…ってもう、人の話はちゃんと聞くでおじゃる! そんな失礼な奴は潰してやるでおじゃるよーー!!」

 

 

 無視された事に憤慨して攻撃を仕掛けるガネシャリフ。巨体に見合わぬ跳躍で中空に躍り出たガネシャリフは、先程のように丸い球状の形体に変形。徐々に回転し勢いをつけて彼に襲い掛かる。

 対する彼は俯いて呆然と立ち尽くしたままその場から動かない。そうしている間にも巨大な鉄塊と化したガネシャリフは迫ってくる。

 

 エックス…

 

 ゼロ…

 

 オレは…

 

 そうだ…オレの名は…

 

ッドドォォォン!!

 

 

「……うおぅっ!?」

 

 

 突如響いた轟音の後に声を上げたのはガネシャリフだ。予期せぬ衝撃に吹き飛ばされたガネシャリフは、変形を解くと自身の姿を見て驚愕した。

 

 

(まろの…まろのボディにへこみが!?)

 

 

 『データサーバー本体が自衛行動を取りつつ、且つ情報を移送可能』というコンセプトの元生み出されたガネシャリフの装甲は、通常のレプリロイドとは比べるべくもない程の堅牢を誇る。ちょっとやそっとの衝撃では傷一つ付く事はない。

 しかしどうだ。自慢の重装甲は破られてこそいないものの、信頼を置かれた堅牢さは早くも崩れ去ろうとしていた。

 何が起きたのか状況を把握しようと、周囲を見回した彼の目に最初映りこんだのは、眼前の謎の男だった。男の右肩から突き出た部分の先端が破損していた。内側から捲れ上がるように抉れたそこからは、鈍く光る大砲が顔を覗かせ、更に砲口からは硝煙が立ち上っている。

 熱を持った砲身がシュウゥゥゥと音を立てている事からも、目の前のこの男が攻撃をしたのは間違いないようだ。ともすれば最早、只の不法侵入者ではなく自身の脅威となる存在だと認めるほかない、とガネシャリフは認識した。

 突然男は同様に装甲が歪んでいた右腕をこちらに向けた。すると腕のアタッチメントが展開し、短い銃身が現れた。そこから連続して弾丸が吐き出され始めた。

 

 

「……フンフンフンフン!!」

 

 

 対するガネシャリフは、片手を素早く何度も突き出し弾丸を弾く。効かないと悟ったのか、男は今度は肩の大砲を撃ち込む。同様に弾いてやろうと腕を繰り出したが、着弾した時のあまりに強い衝撃で腕の方が弾かれてしまった。

 

 

(マニピュレーターも歪んだ!? なんちゅう威力でおじゃるか!? くっ…)

 

 

 体勢を立て直しつつ、近くにあった大き目の瓦礫の陰に隠れて距離を取る。それと同時に相手のデータを収集するのは流石といえよう。外見や戦闘記録から相手の正体や対策を割り出そうとするが、求める情報は中々得ることができない。

 

 

「……自慢の堅さが通じないとみれば今度はかくれんぼか? 最初は自分より小さい相手を見下してたくせして、ナウマンダーといいキサマといい象型はみんなそうなのか?」 

 

 

(ん、ナウマンダー? その名前は確か…)

 

 

 覚えのある名前に直ぐ様データ内の検索を掛ける。開始と同時に隠れている瓦礫の右側に、轟音とともに大穴が空いた。続けざまに空いていく大穴は一発毎にガネシャリフに近づいてくる。咄嗟に瓦礫から離れると顔のあった場所に大穴が穿たれた。攻撃はそれでは止まらず、瓦礫から身体を出したガネシャリフに追い打ちを掛けるように連射された弾丸が襲い掛かる。

 

 

「ぅおうっ!?」

 

 

カンカンカンと何発か被弾しつつも慌てて別の瓦礫に身を隠す。このままではジリ貧でおじゃる、と内心焦り始めた彼は反撃に転じることにした。球状形態に変形し高速回転、一気に加速し瓦礫から出ると瓦礫の合間を縫って移動する。男は大砲を撃ち迎撃しようとするが、放たれた砲弾はガネシャリフには当たらず、数本の水柱を立てるだけだ。

放った一発が瓦礫に命中したのを最後に男はガネシャリフを完全に見失った。周囲を警戒するが視認できるのは暗闇の中静かに佇む瓦礫だけで、相手の姿はない。と、突然男の背後にある瓦礫の陰からガネシャリフが肉迫する。砲身を向けようとするが遅く、体当たりをもろに喰らった男は瓦礫の地面に派手に倒れた。ガネシャリフの攻撃はそれでは終わらず、再び移動するとジャンプ台のように積み重なった瓦礫の上を転がり――宙高く飛んだ。

 

男の頭上に差し掛かったときに回転を止め、装甲の一部を展開、そこから複数のグレネードを投下した。

 

 

「爆ぜるでおじゃる!!」

 

 

数回の爆発音、濛々と立ち込める爆煙、広がる破壊の炎。

 

着地し元の姿に戻ったガネシャリフは、轟々と燃える炎を凝視する。

 

――やったか?

 

突然ピッ、という電子音が鳴る。先程検索していたデータが今確認できたようだ。

 

『バーニン・ナウマンダー』 ナウマン象型レプリロイド。元第4陸上部隊隊長として中東で活躍。『シグマの反乱』の折にシグマに賛同し離反。後に当時B級ハンターだった救世主エックス様により粛清。こんな古い時代のレプリロイドの名を、何故あいつは…?

 

 思案にふけっていると、動体センサーに反応があった。揺らめく炎、その中にぐらりと立ち上がる姿。

 

 

「……なっ…!?」

 

 

ガネシャリフは驚愕した。男が再び立ち上がった事にではない。熱に揺らぐ男の姿にだ。

 

 爆発の威力でグニャグニャに歪んだ装甲がズルリと剥がれ落ちる。その下から覗くのは冥府の宝石を思わせるような薄紫の光沢。ライトパープルを基調としたボディアーマーに身を包み、頭部はフルフェイスヘルメットのような形状。目から顎の部分に掛けてT字型のスリットが走っている。そして右肩には漸く全体像が現れた大口径の大砲。その砲身からは弾帯が伸びていて背中のバックパックに続いている。その姿を、ガネシャリフは過去の記録の中に今さっき見ていたのだ。

 

 男は光さえも呑み込んでしまいそうな漆黒の奥にあるだろう双眸で、ガネシャリフを静かに見る。

 

 

「お、お前は…まさか――」

 

 

動揺、驚愕を孕んだ声で言ったガネシャリフの言葉を、男は無言で砲口を向けて遮った。慌てて回避に移ったガネシャリフは、放たれた攻撃に再度驚愕した。

 

 

「な、なんっ…!!」

 

 

 てっきり今までと同じ、実弾系の弾頭が来ると思い弾道コースから離れたのだが、視界に広がったのは鋼鉄の弾丸ではなく、緑色の竜巻だった。竜巻、とはいったがソレが風ではないのをガネシャリフのセンサーは感知していた。それは幾重にも重なるエネルギー波の奔流だった。

 何重にも重なったソレはガネシャリフの外部装甲、それだけでは飽き足らず太い四肢を徐々にズタズタにしていく。とうとう耐え切れなくなった両足が溶け千切れ、その場に盛大な音を立てて倒れる。

 

 

「……グ…ゥ…」

 

 

 薄れゆく意識の中、今にも消えてしまいそうなカメラアイの映像は、こちらに悠然と近づいてくる男の姿が映っていた。最後の力を振り絞ってガネシャリフが行った事は、自らの内にある機密データの削除だった。ネオ・アルカディアの施設構造、各軍の戦力及び所属する個人の各種データ…救世主エックス様の、ひいてはネオ・アルカディアに危害の及ぶ危険性のある物は全て削除しなければ! 目の前の男が危険な存在だと思い至った彼は“生存”ではなく“責務”に執着した。

 

 直ぐ側まで来た男の右腕が、おもむろに上げられる。それが勢いよく振り下ろされ、顔面を貫かれる直前、データ削除が完了した。

 

――もっと、色々知りたかったでおじゃるなぁ…。

 

最期の瞬間、ガネシャリフの思った事はそんな事だった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 物言わぬ鉄屑と化したガネシャリフを見下ろし、男はそこにいた。ふと見ると、その肩は小刻みに震えている。

 

 

「……ク、クククッ…」

 

 

小さな笑いが漏れる。それは徐々に大きく、大きくなっていく。

 

 

「クククッ、クハハハハハハハ!!」

 

 

動く物のない暗闇の空間の中、男の狂ったような嗤い声が木霊する。もはや聞く者もいないその場所で、男は構わず虚空に向かい叫ぶ。

 

 

「エックスぅ!! ゼロぉ!! 待っているがいい! 今度こそ貴様らを倒し、真に優れた者が誰なのか、このオレが証明してやる!」

 

 

「貴様らの息の根を止めるのはこのオレ、VAVAだ!! フハハハハハッ!!」

 

 

ここに今、ネオ・アルカディア勢でもない、レジスタンス勢でもない、過去より規格外の不確定要素(イレギュラー)が蘇った。この男が今の時代で何を見、何を成すのか、それは現時点では分かる者はいない。

 




湧き起る妄想のままに書いている本作品、自分ではある程度練ってから投稿していますが、正直出来栄えが良いのか悪いのか判断できません。もしよろしければ、ご指摘等感想欄に頂ければありがたいです。その際は参考にさせていただきます。では。
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