ロックマンZERO イレギュラー   作:気分屋

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5.処理施設での戦い

ピチョン――

 

一滴の滴が落ちてくる。

 

ピチョン――

 

天井に並ぶ円錐の先端から、重力に従って。

 

ピチョン――

 

間隔を置いて同じ軌跡を辿るソレは、

 

ピチョン――

 

少年の目の前を落ち、地面に赤黒い水溜まりを拡げていく。

 

ピチョン――

 

落ちて拡がるソレは、近くに転がるナニカを濡らし同色に染めていく。

 

 

「……ヒッ!?」

 

 

 そこまでが少年の限界だった。いや、よくここまで耐えたというべきか。普通なら発狂しかねない光景の中、ここまで悲鳴の一つも挙げなかったのだから。

 

 そこにあるのは、地獄だった。

 

 天井に等間隔に並ぶ円錐――スクラップ圧砕用の杭には、少年の身体に流れている物と同種の液体が。その下の地面、少年のいる部屋の中には、恐らくその液体の持ち主だったであろう物言わぬ無数の骸達が横たわり、絶望を、苦悶を顔に張り付かせて果てている。生きている者は少年の他には同じように身体を震わせている一人の青年と一人の老人だけだ。

 

 

「……怖いか? 少年。」

 

 

 恐怖を堪えきれず全身が震え出した少年に、話し掛ける静かな声。その主は少年の頭上、杭の並ぶ天井の更に上からこちらを見下ろしている。

 きめ細かい網目状の隙間から見えるその男は、自分達の刑執行人にしてこの施設を任されし責任者。

 

 

「だがその怖さも直ぐに無くなる。安心して逝くがいい、この『アステファルコン』に看取られて逝ける事を名誉に、な。」

 

 

 その言葉が終わると同時に、施設の電源が入る。ゴゥンゴゥンと重厚な音を響かせてゆっくりと下降し始める天井。確実に、しかし遅々とした動作で迫るオイル塗れの杭は、獲物を咀嚼している猛獣の牙の様だ。

 

 

「フフッ、怖がる事はない。――とはいえ、その恐怖に引き攣る表情、絶望に染まっていく貌は見ていて気分がいいぞ。」

 

 

 刑に処されようとしている自分達を、初めは気遣うような言葉を述べていたのとは裏腹に、目を細めて愉しそうに見るアステファルコン。いや、実際このミュートスレプリロイドは愉しんでいるのだ。

 自分達のような下位のレプリロイドが絶望していく様を。恐らくその目には、自分達の死に逝く姿は単なる余興、ショーくらいにしか写っていないだろう。これまで処分されてきた周りの骸達もそうであったに違いない。

 

 ジリジリと近づく杭とアステファルコンの愉しむ視線は、まるで自分達が巨大な猛獣の口の中にいるかのような感覚をすら錯覚させた。わざとゆっくり牙を近づけて、負の感情で歪んでいく獲物の貌を愉しむ残虐な捕食者は、狙い通りに獲物の恐怖心を色濃くしていく。

 

 少年達が絶望に呑まれかけた瞬間、突然上側の出入口が開いた。そこに立っていたのは、一体のパンテオンだった。

 

 薄暗がりの出入口に立つパンテオンを見て、アステファルコンは気分を害した。“ショー”の間は中へ入るなと、部下どもには予め言い含めていた筈だが、この愚か者はそれを失念しているのだろうか。

 

 一先ず下降天井の電源を切る。つまらない事で大事なシーンを見逃したくはないからだ。

 

 

「何の用だ、刑執行中はここに入るのは禁止していた筈だぞ?」

 

 

「……」

 

 

 苛立ちが声に出ていただろうか。畏縮しているのか部下は答えようとしない。その行為が更に苛々を募らせる。

 

――何だというのだ!! 人の任務もとい愉しみを邪魔して!

 

 入室した部下の後ろに目をやると、外に繋がる扉も開いたままなのが見てとれた。外は土砂降りの暴風雨、おまけに雷も鳴っている最悪の天候だ。尤も、その一端は対侵入者用のトラップである局地的暴風発生装置<<コントレイナー>>に起因する物なのだが。

 

 ――これでは下にいる罪人を刑に処したときの、断末魔の叫びやボディの軋み奏でる不協和音も綺麗に聴こえないではないか!!

 

 尚も喋ろうとせず、薄暗闇から動こうともしないパンテオンをアステ・ファルコンは叱責しかけて、やめた。

 暗がりでぼんやりとしか分からないが、蒼いボディは所々凹みやひび割れが、間接部の外皮素材である強化ゴムは擦り切れ、焼け焦げているように見える。

 これではまるで、激しい戦闘をしてきた後のような――

 

 

「その有り様は一体――」

 

 

何なのだ、と問おうとした瞬間、外で雷が鳴った。轟く雷鳴と共に蒼白い稲光が外を、薄暗がりの中機能停止し佇むパンテオンとその後ろに立つ見知らぬ男の姿を照らした。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「……何者だ?」

 

 

「貴様らの立場、ハンターからすれば差し詰めイレギュラーみたいなものかな。」

 

 

「ハンター……?」

 

 

 永い眠りを経て目覚め、人間を守るエックスとその仲間達を破壊しようとする自分は、正しくイレギュラー(不確定要素)と呼ぶに相応しいだろうとVAVAは心中で小さく笑った。そういった思考もあり先のような返答をしたVAVAだが、相手の反応が怪訝な物だったのに疑問を感じた。

 とぼけている、というよりその言葉自体を知らないような反応だ。

 

 

「何の事かは分からないが、まぁいい。自らイレギュラーと認める貴様は、下にいるスクラップどもの仲間か?」

 

 

「スクラップだと?」

 

 

「そうだ。下にいるこいつらは既に廃棄処分が決定されている。周りにある旧式の機械や鉄屑と同じなのだ。」

 

 

嘲るような目で見つつ少年達を指差すアステファルコン。それに対してVAVAは無言、いや、よく見ると肩が僅かに震えているように見える。

 

 

「貴様の目は節穴だな……。鉄屑だと? ふざけるな、オレには分かる。そいつらはまだ死んじゃいない。まだ動ける、走りたいと言っている。」

 

 

静かに、しかし聞いた者全てに伝わるほどに怒気を孕んだ言葉。

 

 

 その言葉に少年達は胸が篤くなった。人間からは廃棄処分の烙印を押され、自分達より上位であるミュートスレプリロイドからは鉄屑と評され蔑まれた。

 そんな自分達にこいつらは生きているんだ! 鉄屑なんかじゃないと言ってくれた。走りたい、というのはよく分からなかったが。

 

 

「……私の目を節穴、と言うか。――その言葉の責、貴様の命で贖ってもらうぞ。下の屑共々処分してくれる!」

 

 

 激昂したアステファルコンは右腕をVAVAに向けた。アステファルコンの腕は肘から下が二本の長いクロー状のパーツで形成されている。その中心に電流が迸り次の瞬間――

 

ビキュウゥーーン!!

 

 甲高い発射音が響き、VAVAに掴まれていたパンテオンが後ろに大きく吹っ飛んだ。

 倒れたパンテオンの顔には、一本の鉄柱が突き刺さっていた。突き出た鉄柱の後ろの部分からは青いプラズマが溢れ出、揺ら揺らと動くソレは極鳥の抜け落ちた尾羽のように見える。

 少し経つとその青羽は掻き消え、武骨な鉄柱だけが残った。

 

――ナルホド、レールガンか。

 

VAVAは即座に相手の武器を把握した。腕のクロー部分に帯電させて、電磁加速を加えた鉄柱を撃ち出す。加速された鉄柱は弾丸以上の速度と威力を内包する、見かけ以上に恐ろしい武器と化す。

 

 

「そのパンテオンのようにコイツで串刺しにしてくれる。ああ、それと――」

 

 

 グォン、と再び下降天井が動き出す。

 

 

「あああ…!!」

 

 

それに気付いて下の三人が呻く。

 

 

「一人じゃ淋しいだろう? 下の屑共も直ぐに後を追わせるよ。いや、それとも彼らが逝くのが先かな? アハハハッ!」

 

 

 ――時間制限を付けてオレの焦る姿が見たいらしいな、ついでに下の奴等の反応も愉しんでやがる。

 

イイ趣味してやがる、と内心で悪態を吐き、戦闘行動に移るVAVA。

 

連続して吐き出される鉄柱を横走りで避けつつ、腕部兵装武器『チェリーブラスト』で反撃。時折肩部兵装のキャノン砲から通常弾『フロントランナー』を織り混ぜているが、アステファルコンは持ち前の機動性を活かし全てを避けきっている。

 

 

「そらそら、どうした!? 掠りもせんぞ!? 残り時間も少ないぞ? 間に合うか~?」

 

 

壁を走って跳躍したアステファルコンは、振り上げた両腕のクローを180℃展開。蓄電したそれを地面に叩き付け、放出。広範囲に広がる電流をVAVAは壁を駆け上がり、空中に踊り出てやり過ごす。

 

――いちいち癇にさわる奴だ。とはいえ、確かにあまり時間もないようだ。少し不味いな……。

 

 

「そうだ、いい事を教えてやろう。私を倒せば下降天井も止まるぞ。出来ればの話だがなぁっ!!」

 

 

 言い終わりと同時に先程と同じように、いや、今度は右手だけを展開しこちらに突き付けてくる。

 開かれたクローが青い電流を纏うと、急にVAVAの身体に負荷がかかった。引き寄せられそうになるのを両足に力を入れ堪えるVAVA。それを見てアステファルコンは目を細めニヤリとし、空いた左腕を帯電させてVAVAに向ける。

 身動き出来ないようにして致命的な一撃をくれるつもりなのだろう。射速、威力を最大にするためか先程より帯電時間が長い。ついでに相手の焦燥とか恐怖心を高める狙いもあるようだ。

 

 

「さて、ここらでお別れだ。己の愚かさを呪いながら死んで逝け!!」

 

 

 アステファルコンはレールガンを作動させた。電子頭脳が射出を命じ、体内の電子回路を廻って左腕を動かそうとする。数瞬後、串刺しにされて絶命する目の前の男の姿を夢想したアステファルコンだったが、その後起こった事象は全く違うモノだった。

 命令信号が左腕に届く。相手の右足のアーマーが展開する。トリガーに力が掛かる。相手の展開した場所から円筒状の物が飛び出し、それを右手で掴む。引き金が完全に絞られ、青白いエネルギー光が砲口から溢れる。相手は掴んだソレを後ろ手で放る。そして、前へ出た。

 

 

「……なっ!?」

 

 

 堪えていた両足から力を抜いたVAVAは、あろうことか正面からアステファルコンに突貫した。地を蹴り、相手の引き寄せる力に身を委ねる。瞬間、背後に投げたグレネード『バンピティブーム』の爆発も利用し、凄まじい加速でアステファルコンに向かう。

 その行動に虚を突かれ動揺したアステファルコンだったが、照準は違わずVAVAに撃ち出した。青き極鳥の尾羽が大気を切り裂き、標的目掛けて一直線に突き進む。対するVAVAも撃ち出された弾丸の如く進む。同一直線上にある鉄柱はこのままだとVAVAの顔面に突き刺さるだろう。

 しかしVAVAはそれを、何でもないかのように避けた。加速が加えられた、それも自身も加速して互いに引き合うように近づく状態の鉄柱を、首を捻らせただけで避けたのだ。人間ならば心臓に毛が生えているのか、というのだろうが、こいつは動力炉にビスでも打ち込んでいるんじゃないだろうか。

 

 必殺の一撃を避けたVAVAはそのままアステファルコンに肉薄。肩のキャノン砲を撃つ。懐に飛び込まれたアステファルコンは、なす術もなく左腕を破壊され、下降天井の上に強かに打ち付けられる。

 

 

「がはッ!!」

 

 

苦悶の声を上げながら、壊れた左腕の落下していく様を視界の端に捉えていたアステファルコンは、更に続いた衝撃に顔を歪ませた。VAVAだ。倒れたアステファルコンの上に着地、馬乗りになる形で砲口を向ける。

 

 

「確かに、もうお別れだな……!」

 

 

「ま、待っ――!」

 

 

その言葉が最後まで続く事はなかった。言い切る前に撃ち出された砲弾が、アステファルコンの頭部を吹き飛ばしたからだ。反射的に挙げられた右腕が、今度は力無く地面に落ちた。それがこの戦いの終わりだった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 少年は高揚とした気分で彼を見ていた。突然現れてアステファルコンと戦い、自分達の命を救った恩人は、停止した下降天井から降りてこちらに歩いてきている。

 胸の中で彼の言った言葉が反芻され、その度に彼への尊崇の念が大きくなる。

 目の前まで来た彼に感謝の言葉を述べる。

 

 

「あ、あの! 助けて頂いてありが「失せろ、屑が。」……えっ!?」

 

 

少年を含めた三人は耳を疑った。屑というのを否定してくれた彼が、今度は面と向かって屑と呼んだのだ。

 

 呆然としている三人を余所に、VAVAは彼らを通り過ぎある物の前で立ち止まった。

 それは三台のライドアーマーだった。所々錆や塗装が剥げた部分があり、それらがみすぼらしさを強調しているが、メンテさえすればまだまだ使えそうな代物だ。

 

 

「よう、感じたぜ。お前達はもっと走りたいんだろ。オレが望みを叶えてやるよ。」

 

 

物言わぬ機体に話し掛ける姿は、端から見たら変人にしか見えないだろうが、何故か少年には長年連れ添った相棒と話しているような、そんな風に見えた。

 

 そんな事を考えていた少年は、ここである事に気づく。感じた? 走りたい? つまり、屑じゃないとか否定してくれたのは……えと、自分達の事じゃなくて……その、アーマー達の事?

 

 

「そうだ。お前ら、こいつらを運べ。助けてやったんだからオレの命令を聞けよな。」

 

 

さも当然だと言わんばかりに、VAVAは三人に言い放つ。彼らの意思は関係ないらしい。

 

 

「「「えぇぇぇーーーー!?」」」

 

 

 三人の驚愕の声が処理場内に響いた。屑呼ばわりして手伝わせるんですかーー!? しかも助けたのはライドアーマーの方で僕達はついでみたいなもんでしょーー!?

 

とまぁ色々と言いたい事はありましたが、とにもかくにもこれが少年こと僕『ルカ』とVAVAさんの出会いでした。




オリキャラ投入。果たして彼らは、重要な役につけるのか? はたまたアッサリ舞台を降りてしまうのか? それは作者の気分次第。

筆が進んだ結果、自分的には結構な文字数になったけど…。

どうでしょう? くどかったり長ったらしかったりしますか?


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