徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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どうも、お久しぶりです(白目)

投稿ペースの方は本当に申し訳ありません。せめて更新だけは……続けます! 何としても!


第二十話~友好の時へ向けて~

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 雲一つない快晴。じわり、じわりと昇っていく太陽が日差しの強さを増していくその下で、切迫した表情の少女は走っていた。後ろを四足歩行で追随するオトモアイルーの表情にも、余裕はない。

 

 ザッザッザッザッ……。

 

 蹴った地面からは砂埃が舞い、比較的軽装な装備についた装飾がなびく。滴る汗。上がる息。紅潮した顔。そしてその口には――パン。

 

「遅刻するー!」

 

 何処かコミカルな雰囲気が漂う声を聞いた通行人達は一様に微笑み、人によっては茶々を入れたり、激励の声をかける。こうした彼女による寝坊疾走はこの通りでは時々見られる光景であり、また、ちょっとした名物になっていた。

 

「ハッハッハ! 元気がいいなあの子は!」

 

 自らの座る食事所の前を通り過ぎていくそんな光景を見つめながら、赤い帽子を被った一人の男性が腕を組み、豪快に笑う。傍らにとまっている白い鷹が、それに応えるように小さく鳴き声を上げた。

 

「今バルバレのギルドにいる、数少ない女性ハンターさんらしいニャル」

 

「おぉ料理長、知っているのか?」

 

「仕事柄、ハンターさん達の話も耳に入りやすいニャル」

 

 チャーハンを炒める極大サイズの中華鍋を揺らしながら彼へ話しかけたアイルーの口調は、一般的なアイルーのそれより幾分独特だ。

 

「ギルドのハンター達の間ではちょっとしたアイドル扱いで、暗黙の了解で手を出すのは御法度みたいになってるらしいニャル」

 

「ハッハッハ! そりゃあいい、うちのハンターもファンだったりするんだろうかね」

 

 やはり愉快そうに笑う己の所属するキャラバンの団長を見ながら、旦那に関してはそういうのに興味無さそうニャルね、と肩を竦めた料理長であった。

 

 

「セーフ!」

 

「……アウトだにゃ、ご主人」

 

 ぴょーん、と鳥竜種の如きジャンプで集会所へ飛び込み、活発な印象を与える笑顔をぱっと咲かせる。突然飛び込んできた彼女へ視線を集めていた数名のハンターはその表情に見入っていたようだったが、一方でオトモたるネロはいつも通り、背後から至って冷静な口調で突っ込みを入れる。うぐっ、と苦しげな声を上げた少女ハンターのこめかみを、走って流したものとは別の汗が伝った。

 

 ネロはそんな主人を横目に見つつ数歩進み出て、集会所内を見渡す。そこにいるのは、良いものが見られた、と先程の主人の笑顔をネタに乾杯しているハンター数名程度で、普段と比べれば随分と少ない。それもそうだろう。今日来たところで、受注可能なクエストなどほとんど無いのだから。

 

 そう、この間のイビルジョーが近辺の狩り場を荒らし回った事もあり、現在バルバレにて受注可能なクエストは軒並み激減しているのだ。通常、大規模な災害や古龍級生物の襲来等が起こると、生態系の変化による大型モンスター同士の縄張り争いや、そうした争いで追い出されたモンスター、或いは災害の原因そのものから逃げてきたモンスターなどが人の住む地域へ接近したりと討伐依頼が増加するもの。しかしイビルジョーのようなケースでは、その神出鬼没さでもって襲来し周辺の生物を軒並み食らいつくすという性質上、そもそもの問題となる大型モンスターが激減するためにかえって依頼が減る事が多いのである。

 

「来たか」

 

 突然背後から聞こえた声に、やや驚きながら一人と一匹が振り向く。その場所――集会所の入り口の門に、見覚えのある一人の男性が寄りかかっていた。

 

「ギルドナイトさん!」

 

「おう、相変わらず元気そうだな」

 

 整った顔を心底嬉しそうに輝かせる彼女に、やや苦笑気味に応えながら歩み寄る。彼も先の事件で肋骨を折っていたはずだが、そんな様子も見せずに振る舞っていた。

 

「怪我はもういいのかにゃ?」

 

「あぁ、まぁな。だが現地調査なんかの仕事は暫く禁止されているもんで、こうして君達の案内をする事になったってわけさ」

 

 ハンター等の中には、モンスターとの戦闘の末に腕や足などを欠損してしまい、引退する結果となってしまう事も珍しくない。中でも今回の相手は、モンスターの中でも凶悪さではずば抜けたモンスター、イビルジョーだったのだ。そんな状況で彼が軽度の骨折で済んだのは、まさに不幸中の幸いだったのである。

 

「さて、予定時刻も過ぎている、会議室へ案内しよう。客人は既にお待ちだぞ」

 

 少し表情を引き締めて、お願いします、と頭を下げた少女ハンターに頷いた彼が、カウンターの側にある、普段はギルド職員以外立ち入り禁止の扉の奥へと招き入れる。やや緊張しながら一人と一匹がそこへ入ると、再び扉を閉め、付いてこい、と言ってツカツカと歩き始めた。

 

「はぇー、集会所とは全然違う……」

 

「そりゃ、国のお偉いさんなんかを接待する時なんかにも使う場所だからな。贅沢はできないが、恥ずかしくない程度には整ってはいるさ」

 

 キョロキョロと落ち着きなく周囲を見回しながら付いてくる少女ハンターに、振り向きもせず応える。その口から発せられた“国のお偉いさん”という言葉に無駄に緊張した一般ハンターたる彼女は、やや歩幅を広げてピシッと音が鳴りそうな様子で歩き始めた。そんな少し滑稽とも思える主人の行動に肩を竦めたネロは、時々四足で走るのを織り交ぜながら、少し移動速度の上がった二人に追随した。

 

 

 

 やがて廊下に、大きな両開きの扉が現れた。流石にモンスターの素材というわけではなさそうだが、如何にも高級そうな木材が使用されているらしいそんな扉の放つ妙なプレッシャーに少女ハンターがとうとう少し目眩を起こしている中、男の手が数度、小慣れた様子でノックした。

 

「件のハンターをお連れしました」

 

「あぁ、ありがとう。入っていいよ」

 

 中からやや広い空間に響くような、穏和そうな老人の声が聞こえる。その声から一拍置いてその扉は、小気味いい軋み音を立てながら開かれた。

 

 目の前に現れたのは、集会所と大差ない広さを持つ部屋。しかしその雰囲気は、ハンター達が笑い、怒鳴り合うその場所とは全くもって違っていた。

 

 少女ハンターの目に最初に映ったのは、奥の壁にかけられた一枚の大きな絵。何やら抽象的なものを描いたものであるという事は芸術の学が無い彼女にも分かったが、それが何を表したものかという事は、流石に判断しかねた。

 

 床には土足で上っていいものか躊躇うカーペットが敷かれ、その上には円形の会議机が鎮座している。

 

 全体的に落ち着いた、それでいて厳かな雰囲気。無駄を最小限に留めるのも仕事の内であるハンターズギルドという組織の性質上、実のところ言うほど高価なものはあまり置かれてはいないのだが、およそこういう環境に晒された経験がほとんどない少女ハンターにとっては充分すぎるプレッシャーだった。その色白な頬を、一筋の冷や汗が流れる。

 

「やぁ、いらっしゃい」

 

 丁度正面、あの大きな絵を背にするように座っていたギルドマスターが、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべる。座っている椅子はどうやら、小柄な彼専用の物らしい。

 

 そしてもう一人椅子にかけているのは、純白のローブを着た少女だった。どう見ても自分より年下である彼女はこちらを見つめてはいるものの、その小さな顔は至って無表情。そしてその後ろには、どこかで見覚えのある緑の制服を着た職員が、明らかに興奮した様子で佇んでいた。

 

 ぺこり、とぎこちないお辞儀をした後に、ギルドナイトに誘導されて机へ向かう。丁度、あの少女と対面するような位置だった。ご丁寧に、隣には猫人族用の椅子まで用意されている。

 

「さて、聴取を始めようか」

 

 ギルドナイトに椅子を引かれて一人と一匹が座るや否や、ギルドマスターがやや大きな声でそう言いながら、手をパンッと打つ。

 

「君を救った、平原の紳士(アルセルタス)の話の、ね」

 

 

「ギッギッギ……(ここは……)」

 

 己の角をちょくちょくつっかえさせながら、壁面にぽっかり開いた穴をどうにか覗き込む。位置的に雨水なんかが流れ込むのだろう、えらくじめっとしたその穴の中はとても暗かったが、その奥に蠢く多数の陰と甲殻の軋む音が聞こえた。

 

「キシャシャシャシャ、キシャァ(先客あり、か)」

 

 ギー、とため息をつきながら穴から離れる。どうやらここは、クンチュウ達の巣窟になっているようだ。利用は難しいだろう。

 

「ギッギッギッギッギィ……(どうしたもんかなぁ……)」

 

 顎の裏から触角を出して、複眼についた露を払いながら物思いに耽る。可能なことならこのあたりで見つけておきたかったんだが……仕方ない、多少不便になるだろうが、もう少しばかり探索範囲を広げてみるとしようか。

 

「ギャゥ? キュァゥキャゥ(どう? おにーちゃん)」

 

「ギッ、キシャシャシャシャ、ギッギッギッギッギ。ギッギキシャシャシャシャ(ん、どうやらもう、誰か住んでるみたい。別の場所にしよう)」

 

 はーい! と隣で無邪気に返事をする(ほたる)を中脚でそっと撫でつつ、ちらとその奥へと意識を向ける。数匹のジャギィ達がこちらに威嚇してきてはいるが、攻撃してくるような様子は無い。不安はあったが、俺さえいれば大丈夫そうだ。

 

 さて、どうして俺が、モンスターの闊歩する危険な狩り場へ(ほたる)を連れ出しているのかと思うだろう。だが考えてみてほしい。俺らの拠点は現在、屋根も壁もない、精々焚き火と寝床の藁っぽいものしかそれらしい物のない、目立つ崖の上だ。これまで大型モンスターの襲撃が無かったとはいえ、狩り場のど真ん中にあるそんな環境に、生まれたばかりの彼女を置いていくなんていう選択肢が果たして賢明だろうか?

 

 確かに立地の関係上、あそこに飛行手段を持たないモンスターが辿り着くのは難しいだろう。最も、俺やクンチュウのように垂直な壁をよじ登れるスペックがあればその限りではないが、それよりも俺が懸念しているのはガブラスの存在だ。

 

 そう、ガブラス。何故かいるのだ、この遺跡平原に。俺の知る限り、遺跡平原にガブラスは生息していなかったと思うんだが……まぁそれもゲームで登場していなかっただけで、世界観上では普通にいたのかもしれない。比較的近隣に位置しているはずの大砂漠に生息しているのは4シリーズのチュートリアルで確認しているので、冷静に考えれば不思議ではないか。

 

 閑話休題。とにかくあいつらはその飛行能力でもってして、これまでもちょくちょく俺の拠点へとやってきていた。間違いなく俺が調達してくる食料を目当てにしているんだろうが、俺がいる分にはあいつらも積極的に攻撃はしてこない。だがもし拠点に(ほたる)しかいない状況で、あいつらが拠点を訪れたら? 腐肉食(スカベンジャー)であるあいつらでも恐らく、彼女を獲物として捉えるだろう。最悪の事態だ。

 

 だがかといって、いつもこうして彼女を連れて狩り場を動き回るのは現実的ではない。ならどうするのが最善か? ズバリ、他のモンスターの脅威が及ばない安全な拠点の確保だ。

 

 そんなわけで、初期の頃からちょこちょこやっていた新拠点候補探しに本腰を入れたわけだが――。

 

「キュァゥ、ギャゥキュァキュァゥー(お家、見つからないねー)」

 

「ギー、ギッギッギッギッギッキシャシャシャシャシャシャシャー……(うーん、他にも家が欲しい人は沢山いるからねー……)」

 

 当然、そんな都合のいい場所なんてそう簡単に見つかるわけもなく。そもそもの話、モンスターの中では小柄とはいえ、ミニバスくらいの大きさのある俺が入ってなお余裕があり、他のモンスターが入らないだなんて都合のいい場所がそうあるわけがないのだ。全く、安全がほぼ保証されているベースキャンプを設置できるギルドの有能さが良く分かるというものである。

 

「キシャァギッギギ、ギッギッギ(今日は一回、帰ろっか)」

 

「グ、キャゥ!(ん、うん!)」

 

 せめてもの救いは、このかわいい妹が俺の行動に積極的に協力してくれる事だろうか。その事が如何に重要かは流石に理解できていないだろうが、元々が素直にちゃんと言う事を聞くいい子なんだろう。ぶっちゃけ、ちょっとした癒しです。

 

 俺が中脚でしっかりと(ほたる)を抱きしめて飛び立つと、彼女は楽しそうに鳴き声を上げる。それでも暴れたりはしないので、俺としては楽なものだ。

 

「キュァ……?(うぁ……?)」

 

「……ギッギッギッギッギ?(……どうしたの?)」

 

 突然鳴き声を止めてどこかを凝視しだしたほたるに続いて、同じ方を見る。しかし俺の高性能なはずの複眼には、気になるものは何も写らなかった。

 

「ギャゥァゥ、キュァゥキュァキュァゥキュォゥン……(何だか、黒いもやもやが見えた気がしたの……)」

 

「……ギシャァ、キシャシャシャ?(……黒い、もやもや?)」

 

 どことなく不安そうな声。俺はそんな彼女を安心させようと少し抱きしめる脚の力を強めつつ、再び彼女が見ていたあたりをじっと見つめた。やはり単純な視覚では何も見えなかったがしかし、彼女がそれを見た時に覚えたのであろう不安のようなものを、俺も本能的に感じたような気がした。




どうにかテンポを上げていきたい今日この頃。まだまだ先に展開は考えてありますので、書き始めた頃に懸念していたネタ切れはまだ暫く問題なさそうです。

モンスターハンターの二次創作というとオリジナルのキャラクターが沢山出てくる作品が多い印象がありますが、本作では原作ゲームに登場するキャラクター達を積極的に出していこうと考えています。
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