徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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大変お待たせいたしました!


題二十一話~遺跡平原・ふしぎ発見!~

「……キシャァン(……うそぉ)」

 

 ガラガラと音を立てて崩れ落ちる岩壁。口を開ける大穴。そして――前脚を振り下ろした姿勢のまま、その大穴を見つめる俺。何も知らずにこの状況を見ればそれなりにかっこ良く見えるかもしれないが、実際は状況についていけず、ただポカーンとしているだけだったりする。俺は複眼だが、漫画やアニメのコミカルな描写なら、目が点になっているんじゃなかろうか。

 

 ……おかしい。確か俺は、鉄鉱石とかが取れればいいなー、とか軽い気持ちで、岩山の側面にあったヒビ割れに前脚の鎌を打ち込んだだけのはずだ。うわぁ、誰の所有物でもない岩山に穴を開けても咎める人などいないというのに、何だか妙な罪悪感が……。

 

「キュァーキャゥ、ギャゥー!(おにーちゃん、すごーい!)」

 

 妙な気分の俺に対し、隣でにが虫をつついていた(ほたる)が、凄い凄いと言いながら飛び跳ねる。そりゃそうだろう、彼女には俺が突然、如何にも堅そうな岩壁を殴り砕いたように見えただろうから。いや、実際は堅いとはいえかなり薄い壁だったし、亀裂も入って脆くなってたからできたんですけどね?

 

 ……まぁ彼女が喜んでいるのなら、それを言うのは野暮というものか。女の子に誉められて嬉しいから、とかいう下衆(げす)な理由と一緒に、心の奥に押し留めておくとしよう。

 

 結果オーライ。想定外とはいえ、思わぬところで拠点に使えるかもしれない洞窟を見つけられ――。

 

「……ギッ?(……えっ?)」

 

 

 

 ――えーっと。壁に妙な亀裂があって、そこをハンマーや爆弾なんかで破壊したら空間があった。ゲームジャンルは違うが、謎解きゲーや一部のホラーゲーム何かではよく見るギミックだ。組織の重要な研究施設へ通じる通路、儀式の祭壇、地下墓地(カタコンペ)といった具合でゲームによって隠されているものは様々だが、全体を見ると、ゲームのシナリオにおいて極めて重要な場所であるケースがかなり多いように思える。で、要するに何が言いたいのかというと……。

 

 その“重要な場所”、掘り当てちゃったっぽいです。

 

「ギシャァキシャシャ……(何だここは……)」

 

 目の前に現れたのは、地下空洞だった。

 

 それも並大抵の広さじゃない、幅だけで数百メートルあるぞ、これ……。それこそ、東京ドーム何個分という単位で示されるレベルの、広大な空間。ところどころに規則的に立ち並んだこれまた巨大な石柱、そしてそれが支える、面積相応に高い天井。穴が開いているようには見えないんだが、何故かそのところどころから目映い光が発せられていて、空洞全体を明るく照らし出している。電灯……ではなさそうだが、遠い上に眩しくてよく見えない。

 

 全体的な構造を例えるなら大聖堂とかそういう感じだが、地下水由来と思われる湖に、草木まで生えている。モンスターの姿こそ見えないが、まるでこの空間が、一つの生態系になっているようにすら思えた。

 

 そんな、あまりにも壮観な風景。だが、そんなものより遙かに目を惹かれる物が、俺が開けた穴の正面、空間の最奥に鎮座していた。

 

「キシャシャ……!(あれは……!)」

 

 それは、一言で言うなら、神殿。天然の岩山をくり貫いて、そのまま岩が剥き出しになっているこの空洞の壁と違い、その建物は赤みを帯びた石材のようなもので構成されていて、外に点在している残骸と同じように造られた物だという事が一目で分かる。映画のスクリーンのように横に長い形状をしたそれは、空洞の壁に沿うように左右が緩やかに湾曲し、その建物そのものがこの空間の壁の一部のようになっている。驚くのはその大きさで、この巨大空間を囲う壁の四分の一ほどは、この建物に覆われていた。

 

 そして、これがかなり重要なのだが……あの建物、目立った劣化とか、倒壊が見当たらない。かなり離れているので細かいところはよく見えないが、細かい装飾なんかもあるようだ。

 

「……キシャシャギッギッギッギ(……古代文明か)」

 

 この世界には、今俺が暮らす遺跡平原は勿論のこと、テロス密林、天空山、そして未知の樹海等に、かつて高度な文明が存在していた事を証明する建造物や、その残骸が残されている。中には塔のような、その建造物そのものがマップになっている物も存在しているが、そのほとんどが大きく損壊し、建造当初の面影はほとんど見られない。一方で俺が発見したこの建物は、完全とはいかないかもしれないが、少なくともゲームで登場する中では最も損壊は少ないだろう。

 

 ……あの。もしかしなくても、俺、この世界における世紀の大発見をしてしまったのではなかろうか。気楽に壁をぶち抜いて遺跡発見とか、世のそういう仕事に携わってる方々に申し訳なくなってくるぞ。

 

「キュァァァ……!(わぁぁぁ……!)」

 

 俺が頭(?)をフル回転させて状況を把握している一方で、目の前に広がる神秘的な光景に、好奇心旺盛な姫君は心を奪われたようだ。あからさまに目を輝かせ、きょろきょろと見回している。ぶっちゃけると俺もそこらじゅうに目が釘付けだったりする。だってめっちゃ神秘的なんですもの。文句なしの絶景だ。

 

「ギャゥァゥ、キュァーキャゥ!(凄いね、おにーちゃん!)」

 

 小さな翼をパタパタさせてはしゃぐ(ほたる)に和みながら、低空でホバリングし中脚で抱えてあげる。何せ、超科学を発展させていたという古代文明の遺跡、セキュリティに関する罠みたいなものが残っている可能性もある。地雷のようなものならこうしていれば問題無いし、危険が迫っても最初から飛んでいれば離脱がしやすい。何より抱えた妹が、より高いところからで景色が見やすいだろうからね。

 

「キュァゥァキャゥキュァ……!(お宝あるかなぁ……!)」

 

 おっと、我が妹はそういうロマンも理解できる子だったか。となれば、ますます探索が楽しくなりそうだ。大岩でも転がってこない事を祈りたいがね。

 

 

〈――センサー反応を検知。サブシステム起動〉

 

 ……。

 

〈スキャンを実行――生体反応を確認〉

 

 ……こ、の……声は……。

 

〈状況をBクラスの異常事態と認識。Cプログラムを実行〉

 

 ……俺は……ここは……。

 

〈メインシステムへ接続――失敗。再試行中――失敗。接続を断念〉

 

 ぁ……。

 

〈Cプログラム実行不能〉

 

〈Dプログラムへ移行〉

 

〈動力炉起動〉

 

〈モータ、筋組織へ供給〉

 

〈充填完了〉

 

 

 

〈――本体(ボディ)、起動。自動迎撃シークエンスを実行します――〉

 

 

 

 

「外見的特徴は特に無し、ですね。では、主に行動が特徴的だった、と――」

 

「驚いたり、慌てたりしていましたにゃ。あとはさっきも言った通り、肉焼きの唄を歌ったり――」

 

 少女の淡々としながらもやや早口の声と、アイルー特有のやや高い声が交互に交わされる。俺も当事者という事にはなっているが、ただ話をそれなりに詳しく聞いただけであって直接会ったわけではないので、割り込む事はないだろう。

 

 そんな気持ちで会議室の壁際に立って話を聞いていた俺は、未だたまにズキズキと痛みだす肋骨に気をとられつつ、無表情ながらも身を乗り出し、オトモアイルーの声に耳を傾ける少女――ルサリィ氏を、ぼんやりと見ていた。

 

 外見を一言で言うなれば、美少女という言葉がふさわしいだろう。身長や顔立ちも10代前半のそれにしか見えず、その小さな口から紡がれる淡々とした早口にやや違和感を覚える程だ。

 

 竜人族のような人々は俺達通常の人間より遙かに永い寿命を持つため、外見が幼くとも精神は成熟している事も珍しくない。だが、耳の形や指の数を見れば、彼女が純粋な人間である事は明白だ。となれば、10代前半という俺の予想もそう大きく外れてはいないだろう。

 

『専門家さんをお呼びしたから、君も立ち会いなさい』

 

 ギルドマスターのいつもの朗らかな声色でそう指示をされこの場所にいる俺だが、今あのハンターと共にこの会議室に入るまで、その人物の事を何も聞かされていなかった。茶目っ気のあるギルマスの事だ、大方彼女の事を見た俺のリアクションでも見る気だったと思われる。

 

 そして彼女の自己紹介で明かされたのは、“王立古生物書士隊 知性体モンスター調査部署長”という肩書きだった。

 

 驚いたのは、王立古生物書士隊にそんな部署が存在していた、という事。そして次に、あの少女がその署長という役職を任されているという事だ。まさかつい数日前まで俺がデタラメだと思っていた事を、彼の名高き書士隊が部署まで設立して研究していたとは……。

 

 そして、あの少女はそこの署長。無表情ながらも真剣にオトモの話を聞いているその姿から、彼女がそこまでの役職を与えられた所以が理解できた気がするが、あの若さでそれほどの立場を与えられ、かつあれほど仕事に熱心だとすると、彼女ならこれから謳歌する事になったであろう青春を無碍にしてしまうのではないかと心配してしまう。

 

 また、マイナーな部署であったとしても部署は部署なのだから、彼女にも部下や助手が存在しているのだろう。彼女よりも年下の隊員がそうそういるとは思えないので、まず間違いなくその人達は彼女よりも年上。年齢より才能を見てそういう立場を与えるという書士隊のスタンスには関心するが、部下から嘗められたりしていないか、等と思ってしまった。どうやら俺のお節介癖も、まだまだ抜けていないようだ。

 

 ……あぁ、少なくとも、彼女の隣にいるあの人物はそういった立場の人間ではないな。俺もあの人の事はある程度知っている。不可抗力で、だが。興奮して何度も立ち上がりそうになっているが、一体彼女はどういう立場であそこにいるのだろうか。何やら感想らしきものを隣にいるルサリィ氏に言っているようだが、対する署長さんは無反応だ。ますますわけがわからない。ギルドマスターの穏やかに見守る様子からして、放置していいのだろうか。いいんだよな。よし、見ていないフリをするとしよう。

 

「……!」

 

 続いて、オトモアイルーの隣にいるハンターへと視線を移す。何やら力んで真剣な様子で自分のオトモとルサリィ氏のやりとりを見守っているのだが、現状あのアルセルタスの行動を最もよく観察しているのがあのオトモのため、話に入れずにいるようだ。いや、確かに割り込み辛いのはよく分かる。オトモの返答へ食い気味に早口で次の質問を飛ばしていくルサリィ氏、あれではどのタイミングでコメントを入れていいのか分かったものではない。あのオトモもよくついていくものだ。

 

 きちんと成すべき事をしているのが小さな少女とオトモで、ギルドナイトである俺やハンターがほぼ傍観状態、興奮してよく分からない状態になっているキャラバンの受付嬢と、極めてよく分からない状況。ともかく、今の俺にはこの質疑応答が終了するまで待つくらいしか――。

 

 コンコン。

 

 再び俺が一人と一匹の間の話に耳を傾けようとしたその時、会議室の扉からノックの音が響く。が、ルサリィ氏の質問は止まらない。どうやら、ようやく俺も仕事らしい仕事が回ってきたようだ。

 

 扉の方へ歩み寄り、ギィィ、と軋む扉を少し開いてその隙間へ素早く体を滑り込ませる。外には、俺とほぼ同期で就職したギルド職員が一人立っていた。就職当時からよく話していたので、俺が出てきたのを見て相手もやや肩の力が抜けたようだ。

 

「ギルドマスターに伝令があるんだが、いらっしゃるか?」

 

「ギルドマスターは会議にご参加中だ、差し支えなければ用件は俺が預かろう」

 

 果たしてあれを会議と称していいのか、という疑問が脳裏に浮かぶが、そこは問題ではないだろう。

 

「そうか、了解した。いや、俺はそこまで緊急性の高い話ではないと思うんだが、先輩に確認したらすぐに伝えてこいと言われてな」

 

 そう言う彼の表情はやや苦笑している。重要性が低いのに、わざわざ会議中にノックしてまで伝えなければならない事とは何だろうか。

 

「どういう事だ?」

 

「詳しい事は知らないが、何でも今やっている会議の内容と関連があるらしい」

 

 成る程、と納得する。確かに終わってからそれを伝えられても、会議で話すべき内容なのなら遅すぎる。

 

「分かった、早急に伝えよう。それで、その内容は?」

 

「あぁ、それが……」

 

 

 

「遺跡平原付近で、狂竜化したモンスターが複数、発見されたんだ」

 

 

 




説明とかが多すぎてストーリーが進行しない問題。最近の悩みです。

長い事間をあけてしまい、申し訳ありませんでした。これからも投稿が遅くなってしまったりする事が多々あるかと思いますが、必ずや完結させますので、何卒今後もご愛読よろしくお願いします!
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