徹甲虫とはこれ如何に。   作:つばリン

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大変お待たせ致しましたぁー!ようやく定期テストが終わったのです……。

今話はあんまりアルセル君の活躍ありませんが、話は進展しますのでよろしくです。
それでは、どうぞ!


第三話~猫ヒロイン説浮上~

「……」

 

 遺跡平原からドンドルマの町へと戻る竜車の屋根の上。ベテランオトモアイルーのネロはそこに寝ころびながら、鈍器にもなりそうな程分厚い本を読んでいた。

 

「久々に勉強熱心ですにゃ、旦那」

 

 前の方から、手綱を持ち竜車の御者をしているアイルーに話しかけられる。丁寧口調ではあるが、雰囲気は大分砕けたものだ。

 

 拠点となる町と狩り場、その間の距離がとても離れているというのはよくある事。その間の移動手段として広く使われるこの竜車だが、牽引しているのはのんびり屋のアプトノスであるためにそこまでスピードがあるわけでもない。よってこの間の移動には数日費やすのが普通となっており、狩りを生業とするが故に必然的に多くそれを利用するハンターやそのオトモと御者のアイルーが仲良くなるというのは実によくある話なのだ。

 

 ネロの主人である少女ハンターも多分に漏れずこの御者とは仲良しなのだが、狩りの疲れと治療のため今は中で眠っている。

 

「ん、ちょっと調べたい事があってにゃ」

 

 体を起こし、不釣り合いな程に大きなその本を下げて顔を出すネロ。その表紙には“モンスター図鑑”の文字が書かれていた。

 

「物知りな旦那にしては珍しいですにゃね」

 

「にゃぁ、その半分はお前から貰った知識にゃ」

 

 掛け合いをしている時の御者アイルーの営業スマイルとは違う楽しげなその顔から、彼がネロを慕っているという事が良く分かる。それもそのはず、彼はネロが旧大陸からこの新大陸へ渡ってきて以来の長い付き合い、己の主人よりも早くに知り合った仲なのである。

 

 兄弟達と別れてこちらの大陸へ渡ってきたばかりの頃のネロはまだ新大陸の情報に疎く、狩りをするのに大変苦労していた。そんな中出会ったのが、この御者アイルー。ハンターを運ぶというその仕事柄様々な情報を持っていた彼は、新大陸初心者であるネロに色々な事を教え、代わりにネロが旧大陸でこれまで体験してきた様々な冒険話を聞かせてもらっていた。そんな仲だから、互いの事を強く信頼しているのである。

 

「良ければ何調べてるのか教えてくれますかにゃ? 力になれるかもしれませんにゃ」

 

 御者アイルーの言葉に、ネロは耳をピクリと動かす。そして少し考え込んだ後に、持っていた図鑑をパタンと閉じてからゆっくりと口を開いた。

 

「――分かったにゃ、お前になら話しても良いにゃ。……くれぐれも、ご主人や他の人には他言無用で頼むにゃよ?」

 

「あい分かってますにゃ。にしても、ご主人殿にもまだ話してない事を言ってもらえるとは、嬉しい限りですにゃぁ」

 

 相変わらず調子のいい事を言う友に苦笑した後にまじめな顔になったネロは、今日あったあの不思議な出来事について話し始めた。まるでゲネルの攻撃から助け出すようにして己の主人をさらっていき、危険なモンスターは侵入できない筈であるエリア1へ彼女を降ろし、肉焼きセットで信じられない程激旨のこんがり肉Gを焼いた挙句に回復薬グレートの材料と共にそっと置いていった、あのアルセルタスの事を――。

 

「これが今日あった全てにゃ」

 

「……旦那、あなた疲れてるんにゃよ……」

 

「それどっかで聞いたようなフレーズだにゃ!?」

 

「にゃはは、知り合いのハンターさんが言ってたんだにゃ」

 

 いたずらに笑う御者アイルーに肩を竦めるネロ。一方の御者アイルーは、笑いながらも今の話をじっくりと吟味し、己の深い知識の森とすり合わせていた。

 

「憶測も含めて今の話を要約すると、“本来外敵であるハンターを助ける、高い知能を持ったアルセルタス”って感じですかにゃ?」

 

「にゃ。ついでにそこに“肉焼きの歌を歌ったり回復薬グレートの原料を知っている等、知識もそれなりに持つ模様”を加えてくれにゃ」

 

 うーん、と考え込む御者アイルー。しかしその手にはしっかりと手綱が掴まれており、彼はノリの良い性格と同時に仕事熱心さも兼ね備えているらしいという事が伺えた。

 

「――そうですにゃぁ。ハンターに限らず、“モンスターに助けられた”っていう話は度々あるんですがにゃ、そのほとんどがマグレなんですにゃ。でも、極たまに明らかな意思と理性を持って人間を助けたり味方しようとするモンスターの話を聞きますにゃ」

 

「本当かにゃ!?」

 

 思わず食いついたネロだったが、御者アイルーの『ご主人殿が起きてしまいますにゃ』の声に冷静になり、静かに彼に続きを促した。

 

「自分が聞いたことあるのはイャンクック、イャンガルルガ、ギィギ、ナルガクルガ、リオレウス――。こんなところでしょうかにゃ。中には旦那が言っていたように“料理”をする個体もいたようですしにゃ……。鳥竜種に飛竜種、獣竜種と種族的にも規則性は無いみたいですにゃし、旦那が見たのはその類じゃないですかにゃ?」

 

 甲虫種というのは初めて聞きましたがにゃ、と付け加える御者アイルー。それはそうだ。ゲリョスなんかを見れば元々鳥竜種がある程度賢いのは明白であるし、生態系の上位者である飛竜種がそれなりに賢くても不思議は無いだろう。獣竜種は元々狡猾である事が分かっているのでこれも然りだ。――最も、何故それらが人間を助けたのかというと疑問が残るが。

 

 だがしかし、今回の主題であるアルセルタスは甲虫種であり、そもそもの話そんなモノを考えるだけの大層な知能は持ち合わせていないのだ。

 

「――そういえば今、バルバレに知性体のモンスターについて研究している者が来ていたはずですにゃ。帰ったら訪ねてみると良いかもしれないですにゃ」

 

「にゃ、それは良いことを聞いたにゃ。後で詳しく教えてくれにゃ」

 

 勿論ですにゃ、と手綱を持ったままサムズアップをする御者アイルー。ネロはこの時、本当に良き友を持ったものだと心から痛感したのだった。

 

 知性体のアルセルタス。上記の理由から、普通ならば単なるマグレや勘違いで済まされる話なのだろう。だが、今回は物的証拠まであるのだ。

 

「で、コレがそのアルセルタスが肉焼きに使っていた肉焼きセットだにゃ」

 

 己のアイテムポーチから、一つの古い肉焼きセットを取り出す。使い古されてはいるものの、しっかりと機能するようである。

 

「……ハンターが使っているのと同じヤツですにゃ」

 

「アイテム一杯になって捨てるハンターもたまにいるんにゃし、入手そのものはそんなに難しくは無いと思うからその点の不思議は無いにゃ。で、こっちがそのアルセルタスが焼いたらしき肉だにゃ。食ってみるかにゃ?」

 

「あれっ、ご主人殿に食べさせたんじゃなかったんですかにゃ?」

 

「その前に毒味用に少し失敬させてもらったんだにゃ。まさかアルセルタスが焼いた肉を馬鹿正直にそのまま食わすわけないにゃ」

 

「それもそうですにゃ。じゃ、失礼して……」

 

 御者アイルーはネロからその一口サイズの肉片を受け取ると、ヒョイとその口へ放り込んだ。と同時に、カッと目を見開く。

 

「これはうみゃいにゃー……。旦那の焼いたのとは大違いにゃ」

 

「お前までそれを言うのかにゃ……」

 

 ガクリと肩を落とし、大きなため息をつくネロ。自分に料理の才が無いらしい事は己の主人の発言等から薄々分かってはいたが、やはり誰の口でもそう感じるらしい。美味い物は分かるが不味い物が分からないという己の舌を若干恨み、そしてあのアルセルタスへ料理の弟子入りをしようかと割と本気で考えるネロであった。

 

 

 

 

 

「……でも、この肉焼きセット持ってきたらアルセルタスがもう料理出来ないんじゃにゃいですかにゃ?」

 

「……あ」

 

 

「……ギッシャ?(……行った?)」

 

 崖の上から見下ろし、エリアを確認する。……よし、もういないみたいだな。

 

 ブィィンと羽音を立てながら降下した俺は、ハンターちゃん達が寝ていた場所をくまなく調べ始める。

 

「ギィー……(んー……)」

 

 最大金冠サイズとまでは行かないまでもそれなりに大きいアルセルタスが、遺跡平原のアプトノスも寝ているのどかなエリア1でちまちま地面を這い周りながら何かを探している。尋常ではないくらいにシュールな光景だが、俺はそんな事を気にしている余裕は無かった。

 

「ギッギ、キシャシャシャァ……(やっぱ、無いよねぇ……)」

 

 粗方探した所でギィーとため息をつき、その場にドサリと座り込む。あ、ヤバい、結構ダメージデカいぞこれ……。

 

 お察しの通り、俺が探していたのは先程忘れてきてしまった肉焼きセット。この世界へ来て俺が初めて使った、文明の利器である。見ず知らずとはいえこの地で力尽きたハンターさんの遺品、今後も手入れを欠かさず長く使っていこうと思っていたのにな……。

 

 車に牽かれたカマキリの如く地に伏す俺。アルセルタスのこんな無防備な姿、本来なら寝ている時でもお目にかかれないだろう。ゲームでこんなん見たらバグ疑う。

 

 で、俺をこんな状態にまで落ち込ませた理由は何も料理ができなくなったからだけではない。あの肉焼きセットの存在は、料理以外にも俺にとって非常に有益なものだったのだ。

 

 例えば。もしハンターが肉焼きセットを使って料理をしているアルセルタスに遭遇したとして、すぐに攻撃を開始するだろうか? まぁ間違いなく、ほとんどのハンターは呆気にとられるなり何なりして一瞬でも攻撃を躊躇うだろう。俺の無害性を示せるかどうかは別としても時間稼ぎにはなるだろうから、俺はその隙に逃げるなり何なりすればいい。またその事がハンター達やギルドの間で広まり、“料理好きのアルセルタス”等という少なくともあんまり悪印象では無いであろう称号でも適当に付けてくれれば、人間側の俺に対する風当たりも多少マシになるのではないだろうか? ――最も、甲虫種モンスターであるというとんでもなく厚い壁の前には些細な事かもしれないが……アレがあるのと無いのとでは、大分違ってくるように思える。

 

「……ギィ、キシャシャシャシャ(……まぁ、しゃあないか)」

 

 大きくため息をつき、重い腰(?)を持ち上げる。失った物はとても諦めきれる物では無いが、あんなの普通にアルセルタスやってりゃお目にかかるような代物でもなかった筈。ある意味で、ちょっとしたチートアイテムだったのだ。……うっし、ここはフェアに地道に、気長ーにやっていこうではないかウンウン。――負け惜しみっつった奴出てこい。腐食液ぶっかけんぞゴルァ。

 

 ……ん、腐食液?

 

 そういえば考えてもみなかったが、アルセルタスは普通の人間と同じ食物が摂取できるのだろうか。――嫌な予感がするぞ? ちょっと考察タイム。

 

 同じ甲虫種のブナハブラも腐食液を放つが、確かアレは卵を産みつける死体の腐敗を早め、卵や幼虫の成長を促進するためだったと記憶している。一方で俺、アルセルタスは雄個体であり、セルタス種の生態を考えるに雄が卵や幼虫の世話をするというのはちょっと考え辛い。という事は……。

 

「ギシャァ、キシャシャシャシャシャシャァ……((アルセルタス)、まさか腐肉食かよ……)」

 

 oh……これは由々しき事態だ。納豆にチーズといった発酵食品は決して嫌いではなく寧ろ好きだが、この新たな人(虫)生をそれだけで暮らしていけというのは正直無理な相談。そもそもの話、“発酵”と“腐る”は全くの別物だ。しかもゲネルのフェロモンガスが臭く感じた事から、恐らく嗅覚、味覚の補正はされていない。恐らくは、その感度のみを上げられて……。

 

 腐って異臭を放つ死体を、人間時代より何倍にも底上げされた嗅覚、味覚で味わう……おぉ、想像しただけでも身の毛――そんなもの無いのだが――もよだつぜ全く。郷に行っては郷に従え、住めば都等と頭の中でことわざを並べ立ててみるが、流石に限度という物がある。

 

 ……よし、決めた。俺は絶対に腐肉は食わん。例え腹壊そうが消化不良で腸閉塞起こそうが、人間らしい食生活だけは絶対に失わんぞ俺はぁ!

 

 決意を新たに鎌でガッツポーズをすると、ブィィンと飛び上がる。ひとまずは調理手段、即ち火を探す事が先決だ。アプトノスやガーグァさんがいるので食料そのものには困らないが、それを生でガツガツ貪る気も増してや腐食させて食う気も無い。まぁ刺身って考える手もあるが、やっぱりこの世界一発目の食事はモンハン定番のこんがり肉が良いよねっていうちょっとした拘りである。

 

 ――今はまだ腹減ってきてないからこんな余裕ぶっこいてられるけど、本格的に腹減ってきたらワガママ言ってられないんだろうなぁ……。ここは弱肉強食の世界、自分の腹の心配ばかりしていたら他のモンスターの腹に収まってましたー、なんてザラなんだろう。油断は禁物だ。

 

「ギシャッ、キシャシャシャシャァ!(んじゃっ、早速探しますか!)」

 

 体を捻り、急旋回にて方向を修正する。料理手段である火を入手するべく俺が向かうのはエリア5。そう、かの有名な飛竜夫婦、リオス夫婦の巣だ。




アルセル「俺はケモナーでも男色趣味もねぇ!」

これから夏休み入りますし、多少は更新ペース上げられるかなー、と。最も、他作品もホットになってきているのでそちらの更新もしなければならないのですが。

それではまたいずれ。
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