それでは、どうぞ!
尻尾付近に命中した火球の爆炎と共に、無機質な絶叫を上げるゲネル・セルタス。いつの間にか首をもたげ、口から僅かに煙を吐きながらそちらを睨みつけているリオレイア。そして――爆発の拍子に放り投げられ、逆立ち状態で角が地面にブッ刺さった
……ゴホン。さて、真面目な話、俺とてわざわざ意図的にこんなきりたんぽみたいな状態になっているわけではない。ちょっとカッコ良く死を受け入れようとしたタイミングで予想外に助かってしまったので、反応する暇すら無く槍投げの槍の如く放り投げられて地面にザックリだ。ちなみに飛距離はお察しです。
――いかんいかん、状況が掴めずにいるせいで脳がどうでもいいネタに走ってしまった。ここは冷静に、COOLに行こうじゃないか。冷血動物なだけになぁ!
「ギィッシャ!(よぉっと!)」
少しガサガサと六本の脚を泳がせた後、鎌を地面に押しつける形で地面から角をどうにか引き抜く。ツタだらけの場所なだけに地面は大体腐葉土――しかも大型モンスターに踏み硬められてる――ばかりなので、角に若干粘着質な土が付着した。地中を移動経路にしているモンスター連中っていつもこんな感じなのか? 潔癖性の人なんかが転生したら大変だろうなぁ……。
そんなどうでもいい事を考えながら土を振り落とした後、バッと一気に飛び上がる。大きく旋回しながらやや上昇し、ツタ天井スレスレからゲネルを睨みつけた。
ここまでの一連の流れの中で、自分の置かれている状況が大体把握できた。早い話が、俺を鋏で捕らえてご満悦だったゲネルの尻尾に、満身創痍のレイア姉さんが完全な不意打ちブレス攻撃をブチ込んだ、という事らしい。しかも見た感じ、ブレスが直撃した場所は俺が数度切りつけて甲殻と甲殻の間に隙間ができていた場所。弱点属性な上に直接中の肉を焼かれるというのは、相当なダメージだろう。
チラリとレイア姉さんの方を見る。未だ首のみをもたげた状態だった彼女も攻撃態勢に入った俺に気付いたのか、こちらへ視線を向けてきた――が、その視線が俺に対する敵意では無い事なら、容易に見てとる事ができた。
「キシャアアァァァッ!(うおおぉぉぉっ!)」
気合い入れの声と共に、甲殻同士の間がパックリ開き、さらに黒コゲになっている傷へ向けて正面から突進する。鎌を含めた全ての脚を畳み込んで空気抵抗を減らした上に、やや上方から落下速も乗せる。この状況における俺が放てる最強の一撃を、ここで――っ!
「ギッシャァァァ!(オッルァァァ!)」
俺の長大で高い切れ味を持つ角が、焼かれて脆くなった奴の筋肉組織を穿つ。しかし俺の勢いは尚死なず――。
ズパァン!
そんな効果音が聞こえてきそうな程勢いよく、俺の体が反対側に抜けるのと同時に、奴の尻尾が体から切り離されたのだった。
◆
ゲネル・セルタスにとって、尻尾というのはかなり重要な器官らしい。先端についた巨大な鋏は脅威だし、あの大質量はただ振り回すだけでもかなりの威力を持つ。で、逆に言えばそれだけ強力かつ長大な部位にはそれ相応の量、数の体液や神経があるわけで。
で、俺が一体何が言いたいのかと言うと――。
「ギィィィィィ!? イィィ、ィィィ……」
「……ギッ(……えっ)」
尻尾切ったらアッサリ死にますた☆ うん、尻尾から鉄分配合グレープジュース、もとい体液を大量に吹き出しながらうつ伏せに倒れて、しばらく瀕死のカナブンよろしくもがいた後に動かなくなったよ。これからが本番、スタイリッシュで格好良い戦闘シーンだと意気込んでたのに、全くもって拍子抜けだよね!
……ゴメンナサイさっき油断してソイツに殺されかけたの俺です。
まぁ、武器に使うくらいだから相当強度に自信はあったんだろうし、隙間へのピンポイント切りつけ&高火力の弱点属性攻撃食らったら仕方ないか。要するに、俺とレイア姉さんのコンボが奴に対して相性が良かったのだ。というか、レイア姉さんが万全だったら俺無しでも圧勝できたんだろうけどね……。
「ギィー……(むー……)」
ブィィィンとゲネルの傍らに着地した俺は、恐る恐る鎌でつついてみる。ゲリョスじゃあるまいし死んだフリなんてしないだろうけど、地面に落ちてるセミを死んでると思って片付けようと近づいたらいきなり大声量で鳴きながら暴れ出して無茶苦茶ビックリした経験のある俺が慎重になってしまうのは仕方ないと思う。やられた事ある人結構いるんじゃないかな。びっくりするよね、アレ。
「グオォウ……」
頭を鎌の背でバコーンとブン殴っても無反応な事から確かに死んでいると判断して安堵していると、少し離れた場所で苦しげな鳴き声が聞こえた。それにハッとした俺がそちらを向くと、そこにいるのは勿論レイア姉さん……なのだが、丁度糸が切れた操り人形のように倒れこんでしまった所だった。
「キシャシャシャシャ!?(レイア姉さん!?)」
慌ててカサカサと駆け寄り、様子を確認する。脇の打撲痕は……相変わらずか。でも顔はあんまり苦しそうじゃないな。元々傷の回復に回していたであろう体力を、かなりカロリーを燃焼するであろう火球によってさらに更に消費するハメになったからエネルギー切れを起こした、といったところか。あの火球、普段のヤツより相当威力強かったっぽいからなぁ……。
「キシャシャシャシャシャシャシャシャ……(ゲネル食わせるわけにもいかないしなぁ……)」
体液の外見だけなら、テレビ通販で紹介されてそうなくらいには健康に良さそうに見えなくも無いんだが。最も、ゲネルエキスをギュギューッと凝縮されただなんて聞かされたらどんだけ安かろうと俺は買わないがな。体臭酷くなりそう。
さて、真面目な話、俺自身のダメージは何だかんだで大した事は無い。甲殻に鋏の痕がついてるかもしれないけど、その内部の実質的なダメージになるような器官はほぼ無傷なのだ……と思う。念のため体調確認も兼ねてしばらく無茶はしない所存であります。
なので、最優先はレイア姉さんの回復。生憎調合はできないけれど、薬草くらいは持ってこられるだろう。
◆
「なぁー、そろそろ休憩しよーぜー?」
様々な生き物の気配蠢く遺跡平原の一角。背中に巨大なハンマーを背負った男が、相棒へ向けてダルそうな声でそう悪態をついていた。
「あん時の一撃! 俺が胴体に入れてやったあの一撃が相当効いてたみたいだしよ、ノンビリやっても逃げやしねぇだろ?」
字面だけならば疲れての発言のように聞こえるが、隣を歩く相方でなくとも、それがただただ面倒臭いがための発言である事はそのおちゃらけた口調から察しがついただろう。
「馬鹿者、こうして探す事になってんのはお前がペイントボール当て忘れたせいだろう。つべこべ言わずに探せ」
その双剣を腰に挿した男は呆れたような声でそう言い、ハンマー男の一歩前を歩いていく。相変わらずノリの悪い相方にへいへいと言って苦笑したハンマー男は、ペースを上げた双剣男に追いつくべく小走りになったのだった。
「ほい到着っと……って」
「あぁ、やはりここに……っ!?」
エリア2へと入っていった二人は、その光景に驚愕する。彼らの探していたリオレイアは、エリアの端の方で倒れこんでいた――のだが、エリアの中央付近、ツタに大穴が開いた場所の真下あたりに、全くもって予想外の物が横たわっていた。
「おいおい、今狩り場にゲネルなんかいたのか? っつーか、死んでるっぽいし……」
「このエリアで鉢合って争った、といった所か。まぁ、俺らからすれば運が良いとしか言えないが……」
一応警戒しつつ、まずは近くにあるゲネル・セルタスの死体へと近づいて行く。良く見れば周囲には相当暴れた後があり、かなりの死闘が繰り広げられた様子だった。
「!? おい、こっち来てみろ!」
「どうした?」
今は動かなくなったゲネル・セルタスの顔をまじまじと観察していた双剣男は、普段ヘラヘラとしているハンマー男が本気で驚く声に少し驚きつつそちらへ向かった。そこはゲネルの死体の丁度真裏、尻尾側であった。
「こいつは……!」
これまで見たことも無い光景に驚愕する。本来そこで圧倒的な存在感を放っているはずのゲネル・セルタスの尻尾はその場所には無く、何と更にその少し後方に落ちていたのだ。本来尻尾がつながっているはずの所は少し強引に断ち切られたようであり、そこを中心に広がる紫色の血溜まりを未だ広げ続けている流れ出す粘着質な体液が、この尾が切られてそう時間が経っていない事を物語っていた。
「スッパリってわけでもなさそうだが、リオレイアにこんな事できねぇだろ?」
「当然だ。ゲネル・セルタスの尻尾切りなんて、熟練のハンターでもそうそう出来る事じゃない」
飛竜などを相手にする上で、相手の尻尾を切るという行為はそれほど珍しいものではない。尻尾からは討伐したモンスターとはまた別に素材をはぎ取る事ができ、また尻尾の切断がサブターゲットとなっているクエストも少なくない。何より、尻尾を武器として使用するモンスター相手ならば大きくその攻撃能力を殺ぐ事も可能なので、尻尾を切る事のメリットはそれなりに大きいのだ。
しかし、ゲネル・セルタスというこの巨大な甲虫種モンスターの尾は非常に凶悪な武器であり、また巨大であるためにそうそう簡単に切り落とす事などまず出来るものではない。事実、この二人も狩りにおいてそんな偉業を達成しただなどという話は聞いた事がなかった。
ゲネルの死体を観察した二人は、瀕死ながらも一応まだ生きているらしいリオレイアにも警戒しつつ互いの意見を言い合う。そして最終的に行き着いたのが、また別のモンスターが近くにいる、という意見だった。
◆
「こんな芸当ができるモンスター、相当な力量のはずだ。気を抜くなよ、まだ近くにいるはずだ」
「ギィ、キシャシャシャ……ッ!(はい、隊長……っ!)」
「おう、わかったぜ。最悪撤退だろ?」
「ギッ、ギッギッギッギッギ?(え、逃げちゃうんですか?)」
「あぁ、どうせ俺らは密猟者、ギルドに報告する義務も無い。レイア殺してはぎ取ったらとっとと退くぞ」
「おう」
「ギィー(はーい)」
……
…………
………………
「ギッ、キシャシャシャシャシャシャシャシャ?(え、ハンターさん達密猟者なんですか?)」
「「!?」」
どうも、薬草集めに一瞬エリアを離れてたアルセルタスです。帰ってきたらハンターさん方がいらっしゃったので何となく後ろから忍び寄ってみたら、サラッと会話に混ざれてちょっと嬉しかったです。
だがしかし。密猟者狩るべし、慈悲は無い。
「のおぉ!?」
「アルセルタスっ……!」
おぉ、流石はハンター、あんまし間を置かずに回避してきたか。……こんな近くまで
「っ、武器が……!?」
「あぁーっ! 俺のポーチ!」
「ギッギッギッギッギッギッギッキシャシャシャシャ(武器とポーチ盗られるなんて想定しないよなぁ)」
俺の両の中足には、右に双剣と剥ぎ取り用ナイフ、左には劣化四次元ポケットなハンター御用達ポーチがぶら下げられている。言うまでもなく、二人が回避する直前に失敬した道具達だ。
「一体どういうっ……!?」
「おいどうすんだよぉ!」
おーおー、混乱してらっしゃる。そりゃ当然だ、一部モンスターはアイテムをかすめ盗る事はあるが、武器やアイテム入れそのものを盗られるなんて事まず無いだろうからな。俺としてはあいつらがこんな小さいポーチからよくもまぁアイテムを単品で盗れるもんだと関心する所なんだが……。特にゲリョス、お前はあんなクチバシでどうやってここ漁ってるんだよ。しかも光り物ピンポイントで。
「返せよオラァ!」
「キッシャ(おっと)」
ハンマーの抜刀(?)カチ上げを、バックジャンプからのホバリングで難なく回避する。元々スピードが売りのアルセルタス、さらに元のオツムがあんまり上等じゃない虫だからか反射神経が大変優れているみたいで、元人間である俺の判断能力と相まってモンハンのモンスターにあるまじき回避中心のモンスターへと変貌している。所詮チキン戦法だが、これは要するにハンターの一番ベーシックな戦法なのであって、モンスターの身体スペックと合わさった俺という存在は敵に回すとかなり厄介な相手となるのだ。
しかし、この二人どうしたものか……。双剣男の方はメイン装備である双剣、そして武器として使えるはずである剥ぎ取りナイフを俺が拝借したので攻撃手段は無い――と思う。石ころやらブーメランの一つや二つなんぞ脅威でも何でもないし、打ち上げを含めたタル爆弾系をわざわざ食らってやるつもりなんぞ当然無い。が、相手は密猟者だ。俺の知らない、即ちゲームに登場していない攻撃手段を持っていないとも限らない。ハンマー男にしてもそうだ。ハンマーそのものによる攻撃は要するに近寄らせなきゃいいわけだが、遠距離や広範囲に攻撃できる何かしらの手段を持っている可能性は捨てきれない。
「……ギシャァキシャシャシャシャシャシャ(……んじゃぁもうこれでいっか)」
さっきは密猟者狩るべしとか言ったが、やはり流石に人間へ攻撃するのは抵抗がある。出来る事ならギルドにでも突き出してやりたい所だが、コイツらを拘束する手段を持ち合わせていないし、何より
という訳で。
「ギーシャシャッシャキーシャシャ、ギーシャシャッシャキーシャシャー♪(
「っ、アイツ!」
中足に持った道具をヒラヒラと動かしながら、追いつかれない程度のスピードで低空飛行し別のエリアへ。このまんま俺がトンズラしてもレイアさんがどうなるか分からないし、ある程度この二人を引き離す必要があるだろう。
「待てっつってんだろこの野郎ォォォ!」
「キシャシャーッ、キシャシャシャシャシャシャシャシャシャー(ウフフー、捕まえてごらんなさーい)」
鬼気迫る様子で全力疾走にて追いかけてくる男ハンター二人に、言葉が分からないとはいえなかなかにキモい事をノリで言うアルセルタスという、全く需要の無さそうなカオス空間が繰り広げられたのでした。
ちゃっかり武器と剥ぎ取りナイフをゲットしちゃったアルセル君。これでアプトノスから生肉を二つ剥ぎ取れる!(違