真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止) 作:volcano
2005年 8月17日 岐阜県-岐阜市-斎藤家
Side斎藤帰蝶
「……ハァ、」
私は自室のソファーの上で溜め息を吐く。
今朝、朝食をとっている際 突然お父様が告げてきた。
「帰蝶、お前の『婚約者』が決まった。相手はデカイ会社の御曹司だ。これでお前の、そして私の未来は安泰だ。明日その御曹司が屋敷に来る、くれぐれも機嫌を損なわせるなよ? それと、お前は明日から向こうの家に住むことになる。心配いらん、相手は礼儀正しい少年だ。お前も気に入るだろう。」
私の結婚相手は、私の知らぬ間に勝手に決められていた。既に両家で話が付いているらしく、私の意見など聞いてもらえなかった。
「……ハァ、」
もう何度溜め息をついたのだろう、数えてないけどきっと十回以上はついている。
「……ハァ、」
あれから三日が経った。彼はまだ来ていない。来たとしても、何て言えばいいのだろう。
ドン ドン ドン
窓の外から太鼓の音が聞こえる。窓に顔を向けると、空はもう赤くなっていた。
「あ…今日『お祭り』だったっけ…」
毎年夏、この時期に『夏祭り』が開かれる。行ったことはないが、祭りの最後に打ち上げられる花火を部屋の窓から毎年見ている。とても綺麗な花火で、私は毎年楽しみにしている。
……楽しみにしていたことなのに、何故忘れていたのだろう。それほどまでに、私の心は沈んでいた。
「……花火、もう見れないんだなぁ。」
明日から私は、結婚相手の家に住む。そう思うと、何だか寂しくなってきた。
「相変わらず陰気な顔しているな。」
「!?」
突然後ろで声がした。私はすぐに振り返る。
そこには『彼』が、『織田信長』がいた。
「……どうやって入ってきたんですか?」
「窓からだ。細かいことは気にするな。」
さも当然のように彼は言うが、私の部屋は3階だ。どうやって登ってきたんだろう。
「……本当に来たんですね。」
「言っただろう、『後日来る』と。余(オレ)は嘘は言わん。」
内心冷やかしだったんじゃないかと疑っていた。
彼が来てくれたことに、沈んでいた私の心が浮上する。
しかし、彼が来たということは『返事を聞きに来た』ということだ。
私は言葉が詰まる。結婚相手が決まってしまった今、彼の『誘い』にのることは出来ない。
分かっているのに言葉が出ない。
暫く沈黙が続いた。それを破ったのは彼だった。
「……お前、『楽しいこと』が無いのか?」
「え?」
「いつ見てもお前の顔は『しけている』。お前、『楽しい』と感じた事が一度もないのか?」
突然の質問に私は面喰らう。
『楽しいこと』が無い?
……確かにそうかも知れない。今までの人生、『楽しい』と思えたことなんて片手で数えるぐらいしかないからだ。
「……そうですね、私の人生は『楽しく』はありません。……でも、『充実』はしていると思います。」
「………………」
実際、私の人生は他人から見れば『充実』しているのだろう。
家はお金持ち、結婚相手も決まっていて、家族関係も『良好』。
『充実』はしている。『只 楽しくない』だけ…………
「調度良い。」
グイッ
「え、ちょっと?」
いきなり彼が私の手をつかんできた。そして、
「行くぞ。」
バッ
私を抱えて、窓から『飛び降りた』。
「キャアアアアアアアアアアアアアア!?」
ズッダンッ!
地面に着くまでが、ものすごく長く感じた。
「なななななな何を考えているんですか!?」
「ム? 『コッチ』の方が手っ取り早いだろう。」
さらっと彼は流したが、私の部屋は『3階』だ。そこから飛び降りる衝撃は、60kgの人が時速50kmの車で壁にぶつかるのと同じくらいの衝撃があるというのに、彼は平然としていた。
「よし、行くぞ。」
私が呆気にとられていると、彼はまた私の手を取り歩き出した。
「ま、待ってください! 行くって、何処に?」
「ム? 決まっているだろう。」
「祭りだ。」
ニヤァ
『楽しそう』に彼は『笑っていた』。