真剣で魔王に怯えなさい!! (5/26より、更新停止)   作:volcano

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Side:斎藤帰蝶

 

 

 

「今日はとっても楽しかったです。ありがとうごさいます。」

 

「ム? 何がだ?」

 

 

 

 

お祭りが終わって、私は帰路につきながら彼と会話をしていた。

 

 

 

「お祭りに連れていってくれた事です。今日は…今までで一番す楽しい時間を過ごせましたから。」

 

「『一番』? 何を言っているのだ、お前は。」

 

「?」

 

 

 

 

 

「余(オレ)にとって『あれ』は只の余興に過ぎん。余(オレ)は『あれ』よりもっと面白いものを知っている。余(オレ)といれば、それを味わうことが出来るぞ?」

 

「え……」

 

 

 

 

一瞬、彼が何を言ったのか分からなかった。彼は私の方に体を向け、私の目を見て話した。

 

 

 

 

「……『返事』をまだ聞いておらんだな…帰蝶よ、心は決まったか?」

 

 

「…あ、あの…その……」

 

 

 

 

言葉が出ない。私には既に婚約者がいる、彼とは一緒にいられない。

分かっているのに話せない。彼にその事を話したくない。言ってしまったら、彼が何処かに去ってしまいそうで。

 

離れたくない、そんな気持ちが私の心を揺らがせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰蝶!!」

 

 

突然、私を呼ぶ声が聞こえた。それはよく知っている声、私は声の方へ顔を向ける。そこには、

 

 

「! お父、様…」

 

 

道の先にはお父様がいた。お父様の他にも黒服を来た人達が大勢いた。外灯で照らされたお父様の顔は怒りで顔が赤くなっていた。

 

 

 

「いったい何処をほっつき歩いていた!? 婚約相手が来ているというのに勝手に出歩きおって、よくも私に恥をかかせてくれたな!!」

 

「あ……」

 

 

お父様の側には、私と同い年くらいの男性がいた。あれが私の婚約者なのだろうか、来るのは明日と聞いていた、今日来るなんて思いもしなかった。私が勝手にお祭りに行き、婚約相手を待たせた事にお父様は怒っていた。お父様の怒声が私の体を震えさせる。

 

 

 

 

 

「『婚約相手』?」

 

「!」

 

 

 

隣にいる信長さんが眉をひそめている。

婚約相手がいるとこを知られた。自分から言おうと思っていたのに、よりにもよってこんな形で。

 

 

嫌われた、きっと彼は私を軽蔑している。

 

 

 

「……帰蝶、あれがお前の父親か?」

 

「……はい…」

 

 

 

蚊の鳴くような声で私は返事する。彼の顔が見れない。私は涙が出そうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く似とらんな、よもや『豚』から人間が生まれるとはな。」

 

 

彼が言った言葉は予想外のものだった。

 

 

 

「ん? 帰蝶! 隣の男は誰だ!? まさか、そいつと一緒に出掛けていたのではないだろうな!?」

 

「貴様が帰蝶の父親か。先程から煩く叫びおって、豚なのは外見だけではないらしいな。」

 

 

 

あろう事か彼はお父様を馬鹿にし始めた。さすがにこれは予想してなかった。私は目が点になる。

 

 

 

「な、何だお前は!? 何処のどいつだ、名を名乗れ!」

 

 

「余(オレ)の名は『織田信長』。貴様の娘は余(オレ)が貰うぞ、豚が育てるより遥かに良かろう。」

 

 

 

さらに私は驚かされる。彼はまだ私を好いてくれている…こんな私をまだ……震えていた体が楽になった気がした。

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふざけた事をぬかしおって! この若造がぁああ!!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてください。あまり怒ると体に良くありませんよ。」

 

 

 

怒るお父様を婚約相手と思われる人が落ち着かせる。

 

 

 

「安心して下さい。貴方の御息女は、あの男にたぶらかされただけですよ。彼女に罪はありません。」

 

 

 

婚約相手は私達の方に近づいてきた。よく見えなかった顔も見える距離まで近づいてきた。

 

 

「君かい? 僕の婚約者(フィアンセ)を連れ去ったのは? 確かに彼女は美しく、連れ去りたくもなるだろう。だが、『立場』をわきまえたまえ。彼女に触れていいのは『高貴』な生まれの者だけだ、君のような『庶民』が触れていいものじゃないのだよ。」

 

 

まるでお金持ち以外は人と思わないような口調だった。私は婚約相手と会うのはこれが初めてだけど、彼が私の嫌いな人間という事が今のでよく分かった。お金を持っているかどうかで人を判別する…最も最低な行為だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、この僕! 『一城雅人』の様な存在じゃないとね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の動きが突然止まった。その視線は私ではなく、隣にいる信長さんに向けられていた。

 

 

 

 

 

アレ、アノカオドコカデ…マテヨ、アレハ…アイツハ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおぉぉオオオオおおおおオオおお織田ノぉブ長ぁあああアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 

 

 

いきなり彼は叫びだした。顔から滝のような汗を出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ貴様は?」

 

「ヘナぶしっ!」

 

 

 

彼はTVで見るお笑い芸人のようにズッコケた。

 

 

 

「きききキキき貴様ぁぁあああ! この僕を覚えていないのかぁああ!?」

 

「知るか。貴様など見たことも無い。」

 

 

 

信長さんはしれっと答えた。あの様子を見ると、向こうは信長さんの事を知っているようだけど。

 

 

 

「んがぁ! ば、馬鹿にしやがってぇ……フフフ、だが強気でいられるのもこれまでだ!」

 

 

彼が指をならすと、控えていた黒服の人達が前に現れた。全員手に武器を持っていた。

 

 

「ハハハ! どうだ、この戦力差は! 今こそあの時の屈辱をはらす時だ!」

 

 

相手の中には銃を持っている人までいた。

 

 

「に、逃げて下さい! あんな武器を持った人達に、勝てる筈ありません!」

 

「……」

 

 

私は信長さんに逃げるよう説得する。彼には傷ついて欲しくなかったから…

 

 

 

 

 

 

「フゥ、面倒な。『場所を変える』ぞ、帰蝶。」

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

彼は突然、私を抱きかかえ走り出した。

 

俗に言う、『お姫様抱っこ』で。

私は顔を真っ赤にする。

 

 

 

 

「えええええええええええええ!?」

 

 

「な、逃げる気か! 追え! 逃がすなぁ!!」

 

 

 

信長さんは私を抱えながらも凄い早さで走るが、向こうも大人数で追いかけてきた。

 

 

「む、無理です! 逃げ切れません!」

 

「誰が逃げると言った。此処は『狭い』、広い場所に行くだけだ。」

 

 

 

彼は『笑い』ながら答えた。

 

 

 

 

 

「帰蝶、お前は余(オレ)の事を何も知らんだろう…お前は知らねばならん、『織田信長(オレ)』が何者なのかをな。」

 

 

 

彼の言葉に私はハッとした。

 

私は彼の事をよく知らない。彼の名前と、彼が少し我の強い人だというくらいしか知らない。

 

走る彼を見て、私は彼の事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く走ると、廃工場を見つけ彼はそこに入っていった。

婚約相手達もついてきて、唯一の出入口を封鎖された。

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、もう逃げられんぞ織田信長ぁ! 」

 

 

武器を持った人達が前に出てくる。よく見ると、婚約相手の近くにお父様もいた。

 

 

 

「やっと、やっと貴様を地に伏せさせる事が出来る! この時を七年待った!」

 

 

先程までとは違い婚約相手は嬉しそうに笑っている。

 

 

「ククク、心優しい僕は君にチャンスをやろう。彼女を此方に渡し、土下座して許しを請えば助けてやるぞ?」

 

 

 

「…信長さん……」

 

 

私は彼を見る。彼は私を下ろして、近くの物陰に隠してくれた。

 

 

 

 

「……帰蝶。初めてお前と会った時、あの時教えた余(オレ)の渾名を覚えているか?」

 

 

唐突に彼が私に聞いてきた。

 

それはよく覚えていた。彼が自己紹介の時に言った渾名…何故自分をそんなふうに言うのか分からなかった。

 

 

 

「帰蝶、見ておくがいい……『織田信長(オレ)』が何者なのかを…」

 

「オイ君、何をゴチャゴチャ言って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見せてやろう。『魔王』の『魔王』たる由縁の力を、『第六天魔王』の力を!」

 

 

 

 

彼の声が廃工場に響き渡る。

 

 

 

 

 

「顕現せよ!」

 

 

 

 

突如、彼から『火』が吹き出す。いや、『火』じゃない。『火』と見間違えたのは、『ソレ』が赤い色をしていたからだ。『赤い何か』は彼の体からどんどん吹き出す。その色は次第に濃くなり、『火』の様に赤かった『ソレ』は『血』の様に赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

……■、■■……

 

 

 

 

 

獣のうなり声のような低く、くぐもった声が聞こえた。

瞬間、彼の体から出ていた『赤い何か』が形を作っていく。最初は何か分からなかった、形が出来ていくにつれ、うなり声はますます大きくなった。そして、

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!

 

 

『ソレ』はこの世のものとは思えない叫び声をあげた。

 

『ソレ』は『骸骨』だった。どこか透き通った半透明の『赤い骸骨』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが余(オレ)の力、『魔王』の由縁の力……『須佐能乎(スサノオ)』だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:一城雅人

 

 

「撃てぇ! 撃ち殺せぇ!」

「何なんだよぉ、何なんだよアレはぁ!」

「化物! 化物ぉおおおお!」

 

 

部下の慌てふためく声が聞こえる。当然だろう、『あんなもの』を目の前にしては。僕は不思議と落ち着いていた…いや、動けなかった…体が石のように硬くなって、動けなかった。

 

 

 

バンッ! バンッ! バンッ!

 

 

部下達が持っている銃を『アレ』に目掛けて乱射する。だが、

 

 

 

キンキンキンッ!

 

 

 

弾は全てはじかれていた。向こうは何もしていない。只立っているだけなのに。

 

 

 

そして、『アレ』が手を此方に振りかぶってきた。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!

 

 

 

ブンッ!

 

 

 

 

ズッガァアアアアアアアンッ!

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアア!!」

「足が、足がああああああ!!」

「助けて! 助けて、誰かぁあああああああ!!」

 

 

 

部下達が吹き飛ばされる。たった一振り、それだけで……

 

 

 

「ま、待て! 分かった、娘はやろう。だから私を助け……」

 

 

グチャッ

 

 

僕の隣にいた養父が潰された。

 

僕の顔に生暖かい『ナニカ』がかかる。手に取ると、ソレは赤い色をしていた。

僕の周りを囲むソレと同じ赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤……

 

 

 

気づけば辺りは静かになっていた。

 

 

風の音が廃工場の中に響く。

 

 

 

「…………」

 

「どうした? 後は貴様だけだぞ?」

 

 

声の方へ顔を向ける。

 

 

 

そこには『魔王』がいた。『赤い骸骨』を身に包む『魔王』が……

 

僕は話せなかった。声が出ないんだ、足が動かない、頭が「此処から逃げろ」と通告してくる。

分かっている。逃げなくては、『アレ』から離れなくては。

 

 

 

 

それでも、僕は動けなかった。

ふと目の前に『赤い手』が見えた。

 

それを最後に僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:斎藤帰蝶

 

きっと私は彼に『恋』をしていたのだろう。

 

初めて自分を好いてくれた人、外へ連れ出してくれた人、私を笑顔にしてくれた人、

 

 

私は彼を『白馬の王子様』だと思っていた。

 

 

 

 

だから私は目の前にいるのが誰か分からなかった。

 

 

 

滝のように鮮血を浴び、玩具で遊ぶ子供のように純粋で、歪んだ笑みをしている彼が誰なのか。

 

 

 

 

私の目に映る彼は、『白馬の王子様』などではなかった。

 

 

 

気づけば銃声も叫び声も聞こえなくなっていた。風の音が恐ろしいほど鮮明に聞こえた。

 

 

 

 

 

「これが余(オレ)だ…帰蝶。」

 

 

 

彼はこの惨状を気にもせず、私に話しかけてきた。

 

 

 

「これが余(オレ)だ。破壊を、恐怖を、地獄を生み出すのが余(オレ)だ。幾千もの亡骸が積み重なった血の海に立つのが『第六天魔王(オレ)』だ。」

 

 

 

 

普通ならここで泣き叫ぶのだろうか…それとも気絶するのだろうか……

 

私は何故か、彼に恐怖を感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「改めて問おう、斎藤帰蝶よ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『白馬の王子様』に憧れていた。

 

 

でも、『王子様』は私の前には現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の前に現れたのは、

 

 

 

 

 

 

『真っ赤な骸骨』を携えた『魔王』だった。

 

 

 

 

 

 

そして………

 

 

 

 

 

「余(オレ)のもとへ来るか?」

 

 

 

 

 

 

 

私は『魔王』を『愛』してしまった。

 

 

 

 




というわけで、信長は『須佐能乎(スサノオ)』が使えます。
詳しい設定については、また後日掲載しようと思います。

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